◎ LZOS (リトカリノ光学硝子工場) MC VOLNA-9 50mm/f2.8(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回は久しぶりにロシアンレンズのオーバーホールになりますが、当方が「ロシアンレンズ」と呼んでいるのは、第二次世界大戦後の旧ソビエト連邦 (ソ連) 時代から現在に至るまでに生産されていたオールドレンズの総称として使っています。

ソ連 (現ロシア) は社会主義体制国家でしたから、戦後1949年のCOMECONを基に旧東ドイツを初めとする東欧圏の技術と市場を手に入れ、中央集権型の計画経済 (統制型経済体制/ソ連型社会主義とも呼ぶ) を推し進めていました。私企業の概念を廃した国営企業 (旧東ドイツでは
人民所有企業/VEB) の体系として、5カ年計画に則り全ての産業工業を国家一元管理していたようです。

よくネット上で頻繁に「人民公社」というコトバが使われていますが、同じ社会主義体制でも国によって企業の呼称や概念が違うので「人民公社」は、どちらかと言うと中国のほうが当てはまるようです (専門に研究している方の論文を読んで勉強しました)。

従ってオールドレンズに於いては、ひとつのモデルを複数工場で並行生産しており、どの工場で生産されたモデルなのかを表すためにレンズ銘板に「生産工場を表すロゴマーク」を刻印しています。実際には光学系の設計だけが同一で、それ以外は各工場の設計に任されていたようなので、同じモデル銘でも異なるカタチのタイプが混在していますし、マウント別に違う工場で生産している場合もあるようです。

【MCとMSの呪縛:マルチコーティングの表記】
さらにロシアンレンズを取り巻く環境の解釈を難しくしているのが、ロシア語のキリル文字です。例えば今回扱うモデルのレンズ銘板には『MC ВОЛНА−9 50mm/f2.8』と刻印されていますが、マルチコーティングを示す「MC」部分だけがどう言うワケかラテン語/英語表記です(笑) その次の「ВОЛНА−9」はキリル文字刻印なので、ラテン語/英語で「VOLNA−9」になりますね (そのように解釈しているサイトが非常に多い)。

何故なら、ロシア語/キリル文字で「C」はラテン語/英語の「S」ですから、もしも仮にマルチコーティングを示す「MC」がキリル文字でレンズ銘板に刻印されているなら、そのままラテン語/英語表記した時に「MS VOLNA−9」になってしまい辻褄が合いません(笑)

但しこの件については現在まだ検証中で、本当に「MS VOLNA-9」刻印なのかも知れません。ロシア語/キリル文字で「Mного Слойный」とするとラテン語/英語で「Multilayer」になり和訳で「多層」なのでマルチコーティングを表しているのかも知れません。この場合レンズ銘板に「MC」と刻印されていても、そのままロシア語/キリル文字だと言うことになります。
(つまりロシアではマルチコーティングと呼称せずシングルレイヤー/マルチレイヤーなのか?)

ちなみにロシアのZENIT関連サイトでは「コーティング種別:多層」を「Тип просветления
многослойное」とロシア語/キリル文字で記載しているので「многослойное」がマルチコーティングを意味する「多層」になっています (☞:ZENIT CAMERA ページ下のほう)。

だとするとロシアンレンズでレンズ銘板の刻印がロシア語/キリル文字刻印の場合「MS」表記なのかも知れません。すると今回のモデルはMS VOLNA-9になり、例えばMC JUPITER-9などもロシア語/キリル文字でレンズ銘板刻印されている固体の場合「МС ЮПИТЕР-9」はそのままラテン語/英語表記で「MS JUPITER-9」との解釈が正しいことになります (Multi Coating/
マルチコーティングと解釈しようとするから見誤ってしまう)。ところが輸出用の個体だった
場合は、ちゃんとラテン語/英語表記で刻印しているレンズ銘板を装着しているハズなので「MC JUPITER-9」になっていますね (何を言っているのか分かりますか?)(笑)

同様にインスタ映えモデルの代表格「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8」もラテン語/英語ならこのレンズ銘板でOKですが、東欧圏向け輸出品 (或いはロシア国内流通品) だった場合は
ロシア語/キリル文字で刻印されたレンズ銘板を装着しているので「ИНДУСТАР-61 Л/З-МС 50mm/f2.8」になり、やはり「MC」部分だけはラテン語/英語でもロシア語/キリル文字でも同じ表記のままになりますね (つまりMCだけがラテン語/英語表記なのではない)(笑)

また今回扱うモデルの製産工場は、ネット上やオークションなどの案内では「LZOS」としています。冒頭解説のとおりロシアに於ける製産工場は、資本主義圏で言うところの製産メーカーに似た位置付けですから「LZOS」表記で一生懸命ネット上を探すとよく分からないと言う質問を受けます(笑)

それもそのハズで「LZOS」はラテン語/英語表記なのです。本来のロシア語/キリル文字表記の略記は「ЛЗОСЛыткаринский Завод Оптического Стекла」であり、この工場名称をラテン語/英語翻訳にすると「Lytkarinsky Optical Glass Factory」和訳すると「リトカリノ光学硝子工場」です。

どうでしょうか、相当分かりにくいと思います(笑)

つまり一般的によく使われている「LZOS」表記は、実はロシア語/キリル文字「ЛЗОС」をそのまま純粋にラテン語/英語表記に変換しただけであり、本来の (ロシア語/キリル文字の) 工場名称を翻訳した頭文字表記ではないから複雑になってしまいます (もしも工場名称を翻訳した頭文字ならLOGFになってしまう)。 ちなみにロゴマークは「△や〇など様々なカタチの光学硝子レンズ専業工場」を表しているらしいです。

今回扱うモデル『MC ВОЛНА−9 50mm/f2.8 (M42)』は、1984年にLZOSから発売された
マクロレンズであり、ロシアンレンズの中で希少なマクロレンズ専用設計のモデルとも言えます。発売年度はネット上をどう探しても載っていないので、190本ほどサンブルの製造番号を調べたところ1984年以前が存在しなかった為、製産年度と捉えています (ロシアンレンズは
多くのモデルで製造番号の先頭二桁を西暦表記している/一部モデルはシリアル値なので当てはまらない)。現時点で市場に流通している個体の製造番号は、1984年〜1991年まで多数流通していますが、その中で1987年と1990年だけが極端に品薄です (理由は不明)。

なお、ロシアンレンズの中で製造番号を見た時「00xxxxx」など「00」でスタートしている場合がありますが、これは生産ロットの中で当時の共産党幹部向け頒布用として用意された出荷品に対する割り当て製造番号です (製産年度を表していない)。従って製造番号「00xxxxx」は2000年の製産品ではありませんし、もっと言えばプロトタイプでもありません。

何故なら、旧ソ連は1991年で崩壊しているので1992年以降に生産されたオールドレンズが存在しません (旧ソ連時代を表すCCCPは1991年までの使用/1992年以降は現ロシア体制でまた別の工場組織などに変わっている場合がある)。
この「CCCP」はロシア語/キリル文字ですから正式名称は「Союз Советских Социалистических Республик」であり、そのままラテン語/英語に変換すると「SSSR」ですが、連邦を意味するので正式にはラテン語/英語表記で「USSR」ですね。そしてさらに和訳すると「ソビエト社会主義共和国連邦」と言うワケです(笑)
ちなみにこのロゴマークは当時のソビエト連邦品質保証マークのような位置付けになり、様々な製品で表記していました。

如何ですか、相当複雑ではないでしょうか・・(笑)

真贋の目で捉えようとした時、海外オークションebayなどでロシアンレンズを見ていて、希に「CCCP」マークを鏡胴に伴いながらもレンズ銘板の製造番号が例えば「94xxxxx」だったりします。すると鏡胴「前部」と「後部」を入れ替えた「ニコイチ品」なのがバレバレだったりしますね(笑) それでマウント種別が「M39」だったりするともう相当大変です(笑)

何でもあり」なのがロシアンレンズの世界なので (創作レンズが罷り通っている世界なので)(笑)、リスクを避ける意味からも真贋の眼で見る知識の導入も必要になると思います。

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製産工場である「LZOS」製となれば、ヤフオク! などでも有名なインスタ映えオールドレンズの代表格的な存在「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8 (M42)」があります。このモデルの最短撮影距離が「30cm」なので、このモデルをマクロレンズなどと謳っている場合もあったりしますが(笑)、正しくは3群4枚テッサー型構成の光学系を実装している、単なる普通の標準レンズですね (せいぜい言っても疑似マクロレンズ:1/3倍撮影)。

今回扱う『MC ВОЛНА−9 50mm/f2.8 (M42)』は5群6枚のウルトロン型構成で、1/2倍撮影が可能な最短撮影距離:24cmの本格的なマクロ
レンズです。

ネット上で光学系構成図を調べると「VOLNA-1 50mm/f1.8」の構成図ばかりがヒットしますが、右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確に
トレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から円形ボケをピックアップしようと試みましたが、残念ながら「円形ボケ」と言えるほど明確なエッジを伴いません(笑)これは例えば疑似マクロレンズたる「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8」ならば3群4枚テッサー型光学系を実装しているので、真円のシャボン玉ボケを表出させることができます。ところが今回のモデルは5群6枚のウルトロン型光学系なのでエッジがすぐに破綻してトロトロに溶けていってしまうので、円形ボケとして残してくれません (つまり円形ボケが苦手)。また絞り羽根のカタチから (f5.6〜f8辺りで) ご覧のような「星ボケ」が表出します。

二段目
左端から収差ボケをピックアップしています。二線ボケのように見えがちですが、ちゃんとトロトロに溶けていくのでむしろ貴重な収差ボケではないでしょうか(笑) また右側2枚のとおりインスタ映えする淡い印象ながら明確にエッジを残す写真やハロを伴う写真なども特異です。

三段目
一般的なマクロレンズ同様トロトロに溶けた背景を伴うピント面や、逆にカリカリのピント面も自在です。逆に言うと、相当被写体との間合いをとらないとすぐにトロトロになってしまうので、ピント面以外のアウトフォーカス部とのバランスに苦労するかも知れません(笑) マクロレンズなのですが、何かが足りないのか被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力が高く見えません。

四段目
ダイナミックレンジは相応に広いので (左端) 人物写真もキレイにこなしてくれますが、やはり生々しさが足りないような印象を受けます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造の基本概念は有名処の「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8 (M42)」と同じですが、ご覧のように光学系の光学硝子がバラバラと格納筒の中に落とし込み方式なので、実はこのモデルのピント面を鋭く仕上げようとすると少々厄介です。

・・と言うか、今回のオーバーホール/修理ご依頼で当初バラす前の実写チェック時に「マクロレンズにしてはピント面が甘い印象 (カリカリ感が足りないような気がする)」と感じました。バラしてみるとやはりこの落とし込み方式の光学系が原因でした。

前述の「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8」でも同じ現象でしたが (やはりピント面が甘かった)、整備済を謳っていてもピント面の鋭さが足りなかったりします(笑) その原因の多くはこの「落とし込み方式」の光学系設計に一因があったりします (要は整備者がそれに気を配っていない証)。

光学系の「落とし込み方式」とは、上の写真で横一列に並べているとおり、光学系の各硝子レンズがカシメ止めされたアルミ合金材の枠で一体成形されています。

すると、光学系の格納筒の中に (鏡筒の中に) ストンと落とし込んで重ね合わせていくだけの簡単な格納方法であり、一般的なオールドレンズのように光学硝子レンズを「締付環」で都度締め付け固定していきません。この方式のロシアンレンズは、前玉側に1個と後玉側に1個の「合計2個の締付環しか存在しない」設計です。

ロシアンレンズの設計諸元書の図面を見ると「許容誤差±0.02mm」になっていますから、仮に各光学硝子レンズを重ねていった時にトータルで「±0.02mm」の範囲内のズレに収まるかと言うと、アッと言う間に許容値を超えていたりします。従って最終的に実写確認すると「甘いピント面」と言う結果に至りますね(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」に配置されています。

するとご覧のように相当深い鏡筒なので、この中に光学系前群の3つの光学硝子レンズがバラバラと落とし込まれた後、最後に前玉側から1個の「締付環」だけで締め付け固定になります。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。ここから「プリセット絞り機構」を組み付けていきます (上の写真下側が前玉側方向で上側が後玉側方向)。縦方向に溝が切ってあるのは「絞り値キー」と言って各絞り値でカチカチとハマるようにスリット (溝/切り欠き) が用意されています。

↑このモデルは「INDUSTAR-61 L/Z-MC 50mm/f2.8」と同様ですが「プリセット絞り機構」を備えています。しかしその「プリセット絞り環」は「絞り環」も兼ねているので操作方法が分からないと戸惑うかも知れません(笑)

上の写真は「プリセット絞り環」をひっくり返して撮影していますが「絞り環」でもあります (兼用)。

↑「プリセット絞り機構」を備えるので内側にスプリング (4本) をセットします。

↑鏡筒に「プリセット絞り環/絞り環」をセットしたところです。この状態ではまだ「プリセット絞り機能」が働きません。

↑絞り羽根を開いたり閉じたりする「開閉環」を組み込んで初めて「プリセット絞り機構」が完成します。

↑鏡胴「前部」は残すところ光学系前後群の組み込みだけになるので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた刃所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルでは全部で3箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

線状のマーキングがしてありますが、当方が刻んだのではなく過去メンテナンス者がマーキングしたようです。

↑やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションで、ヘリコイド (オス側) をネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

つまりマクロレンズなので、相当な領域で繰り出し/収納をする為にヘリコイドはオスメスの両方でネジ込み位置を備えています (一般的なオールドレンズはヘリコイド:メス側にはネジ込み位置が1箇所しか無い)。

↑この状態で完成したヘリコイド (オスメス) をひっくり返してマウント部側方向から撮影しました。すると「直進キー」が両サイドに1個ずつセットされますが、よ〜く見るとその「直進キー」を締め付け固定している「締付ネジ」のネジ頭が互いに違います。

片側は「皿ネジ頭」であり (赤色矢印)、もう一方は「鍋ネジ頭」です (グリーンの矢印)。当然ながら「直進キー」側のネジ穴自体も仕様が異なるので、この締付ネジをチグハグにするとマウント部がセットできなくなります。今までにオーバーホール/修理した個体の中で結構このミスがあったりしますね (つまりごまかして無限遠位置を合わせている)(笑)

今回の個体では距離環がセットされるべき箇所の下穴 (イモネジ用の下穴) が、ちゃんと3箇所しか無いので、過去メンテナンス時にムリヤリ無限遠位置を合わせる為にドリル切削していたりしませんでした。そのような個体が今までに何本もあるワケですが、バラせば一目瞭然ですね(笑)

↑指標値環をセットします。

↑マウント部を組み付けました。

↑距離環を本締めで組み付けます。距離環側には「無限遠位置調整機能」が備わっていないので (単にイモネジで締め付け固定するだけだから)、本締めする設計なのですが、ここで前述の「直進キー」の締付ネジでミスっていると無限遠位置が適合しない為に、ムリヤリこの距離環の固定箇所をズラしたりして微調整している個体があったりします(笑)

この後は完成している鏡胴「前部」をセットして光学系前後群を組み付け無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。

実は今回のご依頼者様は、以前当方でロシアンレンズのZENIT製「HELIOS-40-2 85mm/f1.5」と言う巨大な筐体サイズのオールドレンズをオーバーホール/修理したところ、その仕上がりの完成度の高さに感激されたとのことで、今回はロシアンレンズ3本のオーバーホール/修理を承りました(笑)

喜んで頂きまさにオーバーホールした甲斐があったと言うもので本当に嬉しく思います。また今回は3本もロシアンレンズをご依頼頂き、何ともお礼の言いようがありません。本当にありがとう御座います!

今回のモデル「VOLNA-9」の他2本は、また最後のほうで簡単にオーバーホールの状況を解説させて頂きます。

↑光学系は非常に透明度が高い状態を維持した個体で、LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。過去メンテナンス時に付いたと思しきコーティング層の微細な線状ハガレ (覗き込む角度によっては拭きキズに見える) が数本残っています。

↑光学系後群側ももちろんLED光照射で極薄いクモリが皆無です。当初バラす前の実写チェックで「甘いピント面」の印象に至った原因は、やはり「光学硝子レンズの落とし込み」が原因であり、過去メンテナンス時に何ら処置が施されていなかった為に「アルミ合金材の枠部分に経年の酸化/腐食/錆びが発生しており抵抗/負荷/摩擦が生じていた」のが根本原因でした。

つまり各光学硝子レンズがシッカリ積み重ならず、曖昧に落とし込まれたまま前玉と後玉で「締付環」にて締め付け固定させていただけでした。従って今回のオーバーホールでは、当方による「磨き研磨」によって経年の酸化/腐食/錆びを完全除去し抵抗/負荷/摩擦を解消したので、適切な落とし込みでセットできました (一番最後の各絞り値での実写をご覧頂ければ分かります)。

↑当初バラす前のチェック時点で「プリセット絞り環/絞り環」両方の操作性が非常に固く重い印象でした。今回のオーバーホールでは軽い操作性で「プリセット絞り値の設定」或いは「絞り環操作」して頂けるよう仕上げています。

6枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

↑ハッキリ言って、当初バラす前の状態ではマクロレンズとしてとても使えるトルクではありませんでした (非常に重いトルクだった)。もちろんオーバーホール完了後は「こんなに軽いのか」と言うくらい当初から比べると軽い操作性に仕上げていますが、そうは言っても「普通」人により「重め」程度のトルク感です。また距離環は「全域に渡ってほぼ均一なトルク」で一部にトルクムラが残っています。

ヘリコイド (オスメス) の一部ネジ山にキズが残っているので、過去メンテナンス時に何かやったのかも知れませんが、そのネジ山のキズが影響しているのかどうかまで確認できません (組み上げてしまうと繰り出し/収納時のネジ山を見ることができないから)。

↑正直なところ「ロシアンレンズの臭さはこの臭いだったのか」と思い知らされたほど強烈なグリースの臭いでした(笑) 当初バラす前の状態で非常に重いトルクに至っていた原因は「潤滑油」を注入されてしまい、それが揮発して粘性を帯びていたことが影響していました。

ロシアンレンズは国土に氷点下マイナス40度以下まで下げる極寒地帯を含むので「金属凍結」を防ぐ目的から非常に油成分の濃い専用グリースを純正グリースとして使っています。且つ
鏡筒内部や絞りユニットにまで、或いは光学硝子レンズ格納筒の内部にまで光学硝子材の破壊を防ぐ意味からグリースを塗っているのが「オリジナルの製産時点の状態」です (決して過去メンテナンスによるシロウト整備ではない)。

従って、絞り羽根に経年で油染みが生ずるのは、ロシアンレンズに於いては宿命でもありますし、もっと言えばとても普通に使えるようなグリースの臭いでもありません(笑) ハッキリ言って、当方も (特に今回の個体では) 気持ち悪くなってくるくらいの強烈な臭い (ある意味異臭) ですが、バラせば純正グリースだったことが分かっています (その後の過去メンテナンス時に潤滑油を注入したのが拙かった/相当揮発性の高い潤滑油だったようで化学反応したのかも知れません)。

いずれにしても、最初バラして見た時に樹脂製のリングか何かがネジ山に巻いてあると思ったほどのシッカリと硬化した状態でグリースが固まっていました (ヘリコイドのネジ山は相当
長いのでマイナスドライバーで削り落としていくのにだいぶ楽しませて頂きました)(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑ここからはご存知ない方の為に、このモデルの「プリセット絞り機構」の説明をします。基準「」マーカーの位置に来ている絞り値が現状設定されている絞り値になる設計です。

すると先ずは赤色矢印の基準「」マーカーに開放f値「f2.8」が来ています (グリーンの矢印) から、現状絞り羽根は完全開放している状態です。

説明では設定絞り値を「f5.6」にセットする方法を解説します。このモデルは「プリセット絞り環/絞り環」が兼用なので (1列しかないので) 「プリセット絞り環/絞り環」を指で掴んだままマウント側方向に引き下げ (ブルーの矢印①)、そのまま指を離さずに「f5.6」位置まで回します ()。設定絞り値「f5.6」のところでカチッとハマるので指を離します ()。

↑すると基準「」マーカー (赤色矢印) の位置には設定絞り値「f5.6」が来ていますから (グリーンの矢印)、これは絞り羽根が「f5.6まで閉じている状態」ことを意味します。実際に覗き込めば絞り羽根が「f5.6迄閉じている」のが確認できます。

開放状態にしてピント合わせをしたいので絞り羽根を開放まで開きます。この時「プリセット絞り環/絞り環」をブルーの矢印④方向に回すと絞り羽根が開きます。

つまり前述のブルーの矢印①の操作をしない限り (指で掴んだままマウント側方向に引き下げない限り)「絞り環の機能になっている」ことを覚えて下さいませ。

従ってブルーの矢印④方向に回せば「絞り羽根が開く」逆に上の写真右側方向に回すと「絞り羽根が閉じる」駆動になります。これが「プリセット絞り環/絞り環」兼用の操作概念です

↑開放位置に戻ったので距離環を回してピント合わせをしたらシャッターボタンを押し込んで撮影しますが、その前に設定絞り値「f5.6」まで絞り羽根を閉じなければイケマセン。

従ってブルーの矢印⑤のように回すと「絞り羽根が閉じる」ワケですね。ちゃんと設定絞り値「f5.6」まで閉じて停止するかどうかは確認する必要がありません。何故なら一番最初の操作で「プリセット絞り値f5.6」にカチッとハメ込んでいるので、純粋に絞り羽根を閉じれば良いだけです (最後まで回せば良いだけ)。

↑撮影が終わったら逆の手順で開放f値に設定を戻します。「プリセット絞り環/絞り環」を指で掴んだままマウント側方向に引き下げ (ブルーの矢印⑥) そのままブルーの矢印⑦方向に回します。

↑基準「」マーカーの位置に開放f値「f2.8」が来て停止しますから (グリーンの矢印)、そこで指を離すとカチッと音がして填ります ()。

するとプリセット絞り値を「f2.8」に設定したことになるので「プリセット絞り環/絞り環」は「f2.8」の位置から動かなくなっています。つまり「プリセット絞り値〜開放」との間だけで絞り羽根が開閉するのが「プリセット絞り機構」なので、プリセット絞り値を「f16」にセットすれば開放〜最小絞り値:f16まで絞り羽根が開閉するワケですね。

シャッターボタン押し込みの前に「都度イチイチ絞り羽根を閉じる操作をする」一手間が必要なのが「プリセット絞り機構」と言うワケです。

↑当レンズによる最短撮影距離24cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

このモデルは、フードを装着しないとコントラスト低下するので代用フードを装着して撮影しています。ピンボケのように見えてしまいますが、実はちゃんとヘッドライトの本当に電球の部分だけにピントが合っていますから、如何にアウトフォーカスがトロトロにボケていくのかお分かり頂けると思います。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かですが「回折現象」の影響が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑今回同時にオーバーホール/修理ご依頼を承った他の2本のロシアンレンズと一緒に並べて撮影しました。

LZOS製MC JUPITER-9 85mm/f2
KMZ製JUPITER-8 50mm/f2
LZOS製MC VOLNA-9 50mm/f2.8

LZOS製MC JUPITER-9 85mm/f2について
ご依頼内容は「絞り環が異常に重い」とのことですが、その症状を確認しました。また距離環を回すトルクも多少「重め」の印象です。

まず「絞り環の重い原因」は、「プリセット絞り機構」に塗られていた古いグリースが固形化して固まっていたのが原因でした。溶剤で一切溶けないくらい固形化していたので(笑)、仕方なくマイナスドライバーでネジ山を擦って処置したほどです (この分追加料金になります)。

現状軽い操作性に仕上げていますし「プリセット絞り環」のクリック感もガチガチした印象だったので軽く調整しています。もちろん「絞り環」の操作も軽く回るよう改善しました。

また距離環側のトルクも「普通」人により「重め」程度まで軽く調整して仕上げています。距離環を回すトルクは「全域に渡り完璧に均一」で、当方の特徴たる「シットリ感漂うトルク感」に仕上がっています。

光学系内の透明度が非常に高くLED光照射で極薄いクモリが皆無ですが、当初バラした際は光学硝子レンズに「頑固な油膜」が附着していたくらいです。

KMZ製JUPITER-8 50mm/f2について
ご依頼内容「絞り羽根の油染みと光学系内の清掃」含め、オーバーホールが完了しています。絞り環側のイモネジ3本中1本が破断していた為、解体できずに仕方なくドリルで切削しています (この分追加料金になります)。過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗られており、且つその後「潤滑油」が注入され揮発が進行している状況です。当初バラす前の時点で少々重めのトルク感でしたが、このモデルは絞り環操作で距離環まで一緒に回ってしまうので、敢えて「重めのトルク感」に距離環を仕上げています。

逆に「絞り環」側はスルスル状態に調整していますが、これでも「絞り環操作で距離環が極僅かに微動」します。当初に比べると距離環のトルクが僅かに「軽め」に仕上がっています。

また光路長をキッチリ合わせたので当初バラす前よりもピントが鋭く改善しています。

以上、大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。