◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Planar 50mm/f1.4 T*《AEJ》(C/Y)

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この掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内です (ヤフオク! 出品商品ではありません)。
写真付解説のほうが分かり易い事もありますが、今回は記録として無料掲載しています (オーバーホール/修理の行程写真掲載/解説は有料です)。
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


戦前の旧ドイツで1932年にZeiss Ikonから発売されたレンジファインダーカメラ「CONTAX I」が最初のCONTAXブランドになりますが、当初は単にCONTAXと呼称されていたようです (後の1936年発売のCONTAX II登場時点でCONTAX Iに変わった)。

今回扱うモデルは1975年にヤシカから発売された「CONTAX RTS」から始まる一眼レフ (フィルム) カメラ用交換レンズ群として登場した標準レンズの中の一つですが、モデル銘「Planar (プラナー)」としてみていくと戦前は存在せず、標準レンズの座はCarl Zeiss Jenaの「Sonnar 5cm/f1.5 T」が一手に引き受けていたようです。

一方戦後になると、旧西ドイツのZeiss Optonが一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAREX」を1959年に発売し、ここで初めてCarl Zeissの「Planar 50mm/f2 (CRX)」が登場します (1959年発売)。

さらに同じ旧西ドイツのRolleiから1970年に発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「SL35 (QBM)」の交換レンズ群も供給し、その中に標準レンズ「Planar 50mm/f1.4」がCarl Zeiss銘で登場しています。

そして1971年にZeiss Ikonがフィルムカメラ事業から撤退してしまうと、旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場をRolleiに売却しますが、後にRolleiはシンガポールに自社工場を移管しています。

さらにレンズ協業先を模索していたZeiss Ikonは日本に目を付け、旭光学工業にコンタクトしますが協業契約に至らず1975年にコシナとの技術提携に至っています。ここで再び「CONTAX」ブランドが復活し一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAX RTS」の発売に漕ぎ着けます。

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このような当時の時代背景を踏まえて「Planar 50mm/f1.4」を追っていくと、CONTAREX版は開放f値「f2.0」が4群6枚のダブルガウス型構成で異なりますし、1961年に発売された「Planar 55mm/f1.4 (CRX)」は同じ5群7枚のウルトロン型ながらも焦点距離が違います。

従って「Planar 50mm/f1.4」とした時、同じ5群7枚のウルトロン型構成はQBM (Quick Bayonet Mount) マウントのRollei製一眼レフ (フィルム) カメラ「SL35」用標準レンズが当てはまることになります。

【Planar 50mm/f1.4の製造番号にみる変遷】
※ネット上写真サンプル数130本を基に製造番号別に仕様を調査

製造番号:312xxxx (一部に450xxxx)
ブランド銘:Made by Rollei
コーティング:Rollei-HFT
マウント:QBM
製産工場:シンガポール工場

製造番号:558xxxx〜568xxxx
ブランド銘:Carl Zeiss
コーティング:HFT
マウント:QBM
製産工場:ブラウンシュヴァイク工場

製造番号:581xxxx〜687xxxx
ブランド銘:Carl Zeiss
コーティング:T*
マウント:C/Y
f16刻印ホワイト (AEJ)
製産工場:YASHICA (富岡光学製)

製造番号:719xxxx〜1517xxxx
ブランド銘:Carl Zeiss
コーティング:T*
マウント:C/Y
f16刻印グリーン (MMJ)
製産工場:YASHICA (富岡光学製)

製造番号:1556xxxx〜/5156xxxx〜
ブランド銘:Carl Zeiss
コーティング:T*
マウント:ZE/ZF
製産工場:COSINA

ここで絞り環刻印絞り値の最小絞り値「f16」がホワイト色刻印なら「AE」になりグリーン色刻印なら「MM」そして、製造国別に日本製なら「J」でドイツ製は「G」なので、AEJ/AEG、或いはMMJ/MMGなどの呼び方になるようですが、今回のサンプル数130本中にはAEG/MMGがありませんでした。

また、旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で製産されていた個体の付番製造番号が、後のシンガポール工場の付番より高い番号なのは理由が不明ですし、そもそも最初にフィルムカメラ「SL35」にセットされていたのもブラウンシュヴァイク工場製 (旧西ドイツ) のモデルですから逆転しています (製造番号が逆転の意味)。

そして光学系構成はいずれも同じ5群7枚ウルトロン型ですが、厳密に曲率や厚み/カタチなどが各モデルでビミョ〜に異なっていますし、もちろんコーティング層が放つ光彩にも同一モデル内でも相違点が顕在しているので一概にコーティング銘だけで捉えられません。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
5群7枚のウルトロン型光学系構成の特徴から、円形ボケはすぐに輪郭のエッジ部分が破綻して滲んでいくので、せいぜい頑張っても円形ボケにしかなりません (シャボン玉ボケは表出しにくい)。

二段目
ピント面のエッジが崩れていく際も、汚く滲むのではなくス〜ッと消えていくような独特な滲み方なので二線ボケのような煩い印象になりにくいと思います。これが巷で褒め称えられているPlanarの特徴なのでしょうか。「標準レンズの帝王」と呼ばれているらしいですが、これは当時のコシナのキャッチだったようですね(笑) しかし、残念ながら当方には被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力がさほど高いようには見えません (右端の鉄瓶の質感が足りない/もっと質感表現能力が高いオールドレンズもあると思う)。

三段目
ところが他の実写を観ていてもハッとする写真が多かったのは「空間表現/リアルな距離感」です。左端の写真の空間表現性の素晴らしさは相当だと思いますし、2枚目の空気感も出ているように見えます。ダイナミックレンジがそれほど高いようには見えないのですが、このグラデーションを出してしまう要素がどうもよく分かりません。何ともシ〜ンによって化けるとでも言うのでしょうか、不思議な感覚です。

上でピックアップした実写は全て「AEJ」モデルなので富岡光学製と言えるのですが、多くの富岡光学製オールドレンズに共通する癖が封じ込められていて、如何にもCarl Zeissの趣向をキッチリ出し切っているように感じられます。しかし、コシナ製モデルの写真を観てしまうとすぐにコシナ製と分かってしまうので(笑)、そこは少々異なる趣向に至ったのかも知れません (或いは純然たるコシナレンズでしかないのか)。

光学系は5群7枚のウルトロン型構成です。右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)。ネット上で出回っている構成図とほぼ近い結果になったのではないでしょうか?

一方右図はコシナ製「Planar 50mm/f1.4 T* ZE/ZF」のトレース図ですが、明らかに曲率もカタチも変わっています。良く言えば現在のデジタルな環境下に適した変更なのかも知れませんが、ここまで違うとはたして構成だけ似せただけで純然たるコシナレンズの一環のようにも見えてしまいます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ヤシカ製 (富岡光学製) Planarをバラそうとした時、まず一番最初に突き当たる壁が「固着」です。ハッキリ言ってこのモデルは光学系はもとより各構成パーツの締付ネジが相当硬く締め付けられているので、それが外せるかどうかが問題になります。

今回もいきなし「加熱処置」からスタートして5回試みてようやくバラすことができました。それもそのハズで、今までに扱ったこのモデルのシリーズは全て締付ネジに固着剤がビッチリ塗られており、まず人力で回せませんし、光学系の格納筒も全周に渡って粘着剤 (赤色) が塗られており相当硬いです (純正なら固着剤ではないので溶剤流し込みで緩んでくる)。むしろ過去メンテナンス時に固着剤を塗られてしまっている場合のほうが厄介です。上の写真は完全解体できた状態を撮っています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。非常にシンプルな絞りユニットですが、鏡筒側面からイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で「位置決め環」を締め付けることで、実は絞り羽根の開閉幅が変わってしまいます (!上の写真で見えている環/リング/輪っか)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

すると「位置決め環」の位置調整をミスると途端に絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) が変化してしまうので、それは必然的に最小絞り値「f16」の時の入射光量にまで大きく影響してきますから、意外と神経質な調整箇所 (工程) です。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しましたが (写真上側が前玉側)、鏡筒には1箇所「絞り羽根開閉幅調整キー」なるパーツがネジ止めされており、このキーの位置を調整することで鏡筒自体が左右に格納位置をズラすことになり、それが絞り羽根の開閉幅を調整していることになります。

つまり「鏡筒の位置調整で絞り羽根の入射光量微調整をする」と言うこの当時の富岡光学製オールドレンズに多く採用されている設計概念を、そのまま踏襲している原理です (絞りユニットの位置調整だけでなくダブルで調整させている方式を採るのが富岡光学)。

↑鏡筒の裏側はこんなにシンプルです。単に「開閉アーム」が1本だけ飛び出ているだけで、アームがグリーンの矢印のように移動することで絞り羽根が閉じたり開いたりしています。

従って、このモデルの入射光量調節は鏡筒の組み立て工程で決まってしまうので、少々高い技術スキルを要するモデルとも言えます。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。大口径モデルなので少々深さのある基台です。内部の構成パーツを全て取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施してからセットします。簡単なパーツだけですが、実は捻りバネが2本介在するので、ここの連動も絞り羽根の開閉に大きく影響します (要調整箇所)。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑同じくヘリコイド (オス側) を、無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

直進キー」と言うパーツを既にセットしてあるので、もちろんこの段階でヘリコイドのトルク調整まで終わっています。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑ベアリングを組み込んでから絞り環と指標値環をセットします。この時に基台内部のパーツと絞り環との連係を執り、具体的な絞り羽根の開閉制御をキッチリ調整します (そう言う機構部に設計されているから/要調整箇所)。

↑さて、出てきました(笑) 当初バラす際に何度も「加熱処置」してバラすハメに陥った理由です。赤色矢印のように4本の締め付けネジでマウント部が固定されていますが、この締付ネジは「マウントの爪」の下に隠れている為、爪を外さない限りマウント部を外せません。この締付ネジがネジ長分全て固着剤で埋め尽くされているので、そう簡単に回りません (手が痛くなります)(笑)

↑そして、そもそもこの「マウントの爪」を締め付けているネジ (3本) が外れませんし、横付けされているキーもネジと共にキーまで固着剤で固定されています (ネジが外れてもキー本体が外れない)。

↑距離環を仮止めします。

↑この工程が、多くの富岡光学製オールドレンズにも共通している設計の要素です。ヘリコイド (オス側) の内側に鏡筒をストンと落とし込んでから前玉側方向より「締付環」を締め付けて固定する方式です (グリーンの矢印)。従って鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) が微調整できるワケですが、もちろん光学系前後群を組み込んでからの検査になりますし、その都度バラしては簡易検査具でチェックするので非常に面倒な方式です。

↑こんな感じで鏡筒が「締付環」で締め付け固定されます。

この後は光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了したCarl Zeiss銘のヤシカ製 (富岡光学製) 標準レンズ『Planar 50mm/f1.4 T*《AEJ》(C/Y)』です。製造番号先頭3桁が「581xxxx」なのでキチョ〜な最初の製産個体です。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体ですが、ご依頼指示内容になかったものの、当初バラす前のチェックでLED光照射すると光学系内に極薄いクモリを視認しました。各硝子レンズをバラして清掃すると、第3群と第4群 (つまり絞りユニットを挟んだ前後) に極薄いクモリを確認しましたが、第3群は経年の揮発油成分だったのでキレイに除去できましたが第4群が除去できません。

残念ながらバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行しつつあります。現在完成した状態で光学系内を覗き込むと、LED光照射或いは角度によって順光目視でも極薄いクモリと共に拭き残しのように数本の筋 (直線) が見えますが、貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) の内部なので清掃のしようがありません。

申し訳御座いません・・。

↑第4群が貼り合わせレンズなのでこの後群側の話になります。バルサム切れの進行度合いは非常に軽微なので写真には影響が無いレベルです。また点キズなどもパッと見で「塵/埃」に見えましたが、同様たいして除去できませんでした (4回ほど清掃作業しています)。申し訳御座いません・・。

↑6枚の絞り羽根も絞り環の駆動も共に確実で適正な調整に仕上がっています。

ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感をほとんど感じない大変キレイな個体ですが、当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています (エイジング処理済)。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリースの「粘性中程度軽め」を使い分けて塗りました。当初バラす前のトルク感を参考にしつつ粘性を決めたので軽く変わってはいません (もともと正常品とのご指摘なので敢えてトルク変更していません)。

但し、当初の実写チェック時にこのモデルにしてはピント面が極僅かに甘い印象だった点と、ピント合わせ時に僅かな「スリップ現象」を感じたので、それは解消させています。距離環を回すトルク感は「重め」で「全域に渡り完璧に均一なトルク感」に仕上がっており、且つピント面合わせ時に「極軽いチカラで微動できる」シットリした操作性も実現しています。

この「シットリした操作性」と言うのは複数の当方ファンの方々から頂いた感想で、皆さん同じ表現をされたのにオドロキましたが(笑)、簡単に説明すると、距離環ローレット (滑り止め) を掴んでいる時「指の腹で押す程度の微動」でククッとピント面が軽く動く感じを指した表現ですから、距離環ローレット (滑り止め) を回す時のトルク感が「重め」だとしてもピント合わせが楽にできるワケです。

それから絞り環操作時のクリック感も、このモデルにしては何となくグリースの劣化を感じたので適切な印象に仕上げています。

↑当初バラす前の実写チェック時に比べると、極僅かですがピント面の鋭さ、及びピントの山の掴み易さが改善されています (たぶんご返却後にご確認頂けると思います)。また無限遠位置はお送り頂きましたマウントアダプタに装着状態で適正位置にセットしました (ほぼピタリの位置です)。

無限遠位置 (マウントアダプタ装着状態で適正化/ほぼピタリ)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

お送り頂いた現物にラバー製フードが付いていたので装着して撮影しています。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。