◎ Ernst Leitz Wetzlar GmbH (エルンスト・ライツ) Elmar 50mm/f2.8《第1世代:1960年製》(LM)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、旧西ドイツは
Ernst Leitz Wetzlar製標準レンズ・・・・、
Elmar 50mm/f2.8《第1世代:196年製》(LM)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた14年前からの累計で、当時のLetz製標準レンズ「50㎜/f2.8」だけで捉えると初めての扱いです (他にELMAR-Mはありますが)。

先ずは冒頭で、このような大変希少なオールドレンズのオーバーホール/修理ご依頼を賜り、
ご依頼者様に感謝とお礼を申し上げたいと思います・・ありがとう御座います

今回扱うモデルも実装光学系は巷では「3群4枚テッサー型光学系」と呼ばれていますが、やはりどうしても当方は納得できていません・・違うと思うのです(汗) そこでその違うと考える理由を以下で説明していきたいと思います。

  ●               

ドイツ東部のベルリン直下に位置するザクセン州Leipzig (ライプツィヒ) 市で1925年春に開催された見本市「Leipziger Messe」期間内、フランクフルト門に隣接する体育館を貸し切り3月1日〜11日の期間「Messe Ausstellung Kino, Foto, Optik und Feinmechanik (映画、写真、光学及び精密機械の見本市)」が開催されました (右写真はLeica Iaをネットオークションから引用)。

その会場の一角にライツのブースが設けられ、初めて「Leica Ia」がひっそりと大人しくお披露目されました (何故なら、当時Leitzは光学顕微鏡や天体望遠鏡などの光学製品製造メーカーの一つでしかなかったから/フィルムカメラやレンズを製産する立場のメーカーではなかった)
・・その時、装着していた標準レンズが「Leitz Anastigmat 50mm/f3.5」です。

この初期の頃の標準レンズは当然ながら「collapsible (沈胴式)」ですが、モデル銘に「Anastigmat (アナスティグマート)」と刻印している点に先ずは着目する必要があります。
(どうしても最初からElmar銘にこだわりたくなりますが)

実はこれは光学設計上の専門用語の一つで「ガラスレンズの状態を明示しているコトバ」と捉えるべきです (純粋なモデル銘に非ず)。すなわち「球面収差、非点収差、コマ収差、像面収差の全てを解消している状態を指すコトバ」であり、任意の特定のオールドレンズだけを指すコトバではありません (だからモデル銘にあたらない)。

このような光学ガラスレンズの状態を指して「アナスティグマートである (アナスティグマートになっている)」と表現します。

従って当時、固定式/交換式の別に関係なくとても多くの国と多くの光学メーカーで、まるで熱を帯びたように同じ名称を使ったオールドレンズ達が挙って発売されました・・それ故にこのライツの写真機カメラ業界参入を決定づける意思表示である歴史的な第一歩は「ライプツィヒの簡素で控えめなブースから始まった」と受け取れるのです(涙)

実はここに当時のライツ経営陣が背水の陣で写真機カメラ業界参入を試みた時の真実が隠されており、今回扱うElmar 50mm/f2.8《第1世代:196年製》(LM)』の光学設計者たる『Max Berek (マックス・べレク)』博士のインタヒュー記事がそれを裏打ちしてくれます。
すると博士がインタビューで述べていたのは・・・・、

開放f値「f2」の高速レンズを一番先にセットしてきても、世間のアマチュアは高速すぎて使いこなせない (高速レンズの経験値がまだ蓄積されていない時代だったから) のでf3.5に決めました。さらに多くの撮影シ~ンで残される写真の多くは「f5.6f8」辺りであり、開放f値「f3.5」は十分に余裕を持ち、且つ被写界深度が深い為に目測で適当に被写体距離を合わせても常に良い写真が残せます。

・・ここに当時からして (確かに開放f値:f3.5は今ドキ特に求められる高速レンズに含まれませんが) 写真撮影時の真実に目を向けて「その時取りたかった写真がちゃんと残せている」ことに主眼を置いて製品開発していたことが窺えました(驚)

普段からオーバーホール整備後の個体を使い、このブログページの最後でミニスタジオを使い「各絞り値での被写界深度の描写状況」に着目して掲載し続けている当方には、驚くほどに
ストンと腑に落ちた発言内容でした!(驚)

これはいくら当方の写真スキルが皆無でも(笑)、十分に理解でき、それこそスナップ撮影を念頭に置けばサクッと撮影できる (記録に残せる) 意味合いは相当に効力を持つと考えられるのです (感動シ~ンを感動したままに残すのとはまた別次元の話)(汗) その意味で一般大衆向けに大衆向けの価格帯で十分に高品質な標準レンズをセットした上で、レンジファインダーカメラを提供することをスタート位置に据えたのは非常に説得力があると受け取れました(汗)

さらにインタビュー記事を読み進むと「30年〜50年前の古いアナスティグマートレンズは可視光スペクトルの主に緑、に敏感なフィルムを想定して補正して造られていたため、カラーフィルムでの撮影にあまり向かない」と述べ、さらに「パンクロでニーズを満たすレンズは、カラーフィルムでの撮影でも対応でき、これは白黒フィルムではグレースケールの濃淡表現に限定される一方、カラーフィルムの場合は入射光スペクトルの青色成分に対して、黄色成分に最も敏感な目の感度に比例してのみ記録を目指します。つまりレンズの球面収差は中央部分に対して特に優れている必要があり、ライツは既にこれを克服しています」とコメントしています。

・・なかなか専門家のコトバはそれだけで説得力があり、涙腺が緩みます(涙)

さらに記事を読み進めると「重要なのは前玉から覗き込んだ時の絞り羽根の開口瞳径」でありその結果レンズ中心の相対的に求められれる開口面積よりも、さらに大きな前面要素が求められるとしています。まるで当たり前な話を説明しているのでしょうが(笑)、光学知識皆無な当方には、そのままこのコメントが「大開口径時代 (大航海時代を掛けています)」の到来を意味する本質と受け取られてしまいます(汗)

さらに興味深い話は「ライツのf/0.85レンズはX線写真撮影用であり写真撮影には価値がありません。一般的に被写界深度が狭すぎても立体物の撮影は難しく、最終的にf/1.2まで絞ることが多くなります」そして博士のとても好意的な提言がその後に続きます。

欠陥のない光学システムは平面鏡の組み合わせ以外存在しません (記録できない画像が生成される)。完璧なレンズは存在せず、レンズの用途を考慮して完璧であるとみなせるよう修正を試みることです」そして当方がまるで目から鱗が落ちるに至った記述が続きます(涙)

時々質問を受けますが、非常に特徴的な光学特性が規定されている特別に溶解する必要がある高品質なライカ製光学硝子レンズには、その内部の小さな気泡を完全に除去できない場合があります。アナスティグマートが最初に登場した頃は、そのような気泡は良質なレンズの証とさえ考えられていました。これは現在でもある程度当てはまります。これらの気泡は補正に何の影響も与えず、無条件で受け入れることができます

・・これには涙が出そうになりました!(涙) 普段からこの点についていつもヤフオク!出品ページなどに記載し続けていましたが、批判されることも多く『転売屋/転売ヤー』ゆえに問題が無いよう見せかけているにすぎないとまで貶されました(涙)

・・この博士の一言に、本当に救われた思いです!(涙)

最後に光学技術では、上手く撮影できる写真は光学的な問題よりもカメラ側の精度、撮影素材の特性、そして特に撮影者の写真スキルの問題になります。良い写真の感覚は写真を大きく拡大または投影することで最も養われます。そうして初めて自分の写真を作品として十分に楽しめるのでしょう」この最後の一筋が語っていることは、決して等倍拡大して画の隅々までを精査して批評することではなく「皆んなの感性を養うべき/伝えるべき」と述べており、それが意味するのは「人の瞳で観ているがままに拡大して、まるで現場に自身が居るように疑似体験できる写真品質に耐えられることこそが、感動の伝達手段なのだと言っている」ように受け取れますが、如何でしょうか(汗)

これら記事は全てAN INTERVIEW WITH MAX BEREKのページでご確認頂けます。

  ●               

ここからは冒頭の言説のとおり「同じ3群4枚でもテッサー型光学系エルマー型光学系は狙っている趣旨が全く違う」ことを解説していきます。

↑上に挙げた特許出願申請書抜粋は、いずれも当時Carl Zeissに在籍していた「Paul Rudolph (パウル・ルドルフ)」氏による発明案件であり、出願申請日を基にした時系列で並べています (のみ除く)。

先ずは遡ること1890年まで戻り、3群4枚テッサー型光学系の礎に功を奏した案件からその記述を探っていきます。

CH2305 (1890-04-19)』スイス特許庁宛て出願

もちろん「Paul Rudolph (パウル・ルドルフ)」氏による発明案件です。本来「アナスティグマートの光学系」として開発されますが、後に他社競合との差別化の必要性から光学系としてのモデル銘を与え「2群4枚プロター型光学系」としています。

その特許出願記述を読むと、多くの場合、非点収差改善による解像度の向上とともに、中心から外れた斜め非点収差の問題を課題としていると述べています。その課題解消に2組の非対称型光学系を用意し、且つ2枚貼り合わせレンズの一方は屈折率が低い正パワーである必要があり、ダブレット化するもう一方は負のパワーを持つ高い屈折率が要求されます。

これは屈折率が低い正パワーのレンズは逆に相対分散率が低く抑えられる利点があり、その限定条件に着目して次に接着される屈折率か高い負のパワーにより強制的に非点収差改善に対する期待値を上げることができると受け取れます。

さらにこの2つの塊を適切な距離で配置することで大幅に色収差改善と非点収差の改善を期待できるとしています。合わせて反証事列も明示していますが、詰まるところ記述の多くの部分で「色消し効果を狙ってダブレット化してきた」との解説に始終している点で、当方はそのように受け取りましたが、実は斜め非点収差の課題が残ったままだと考えます (単に光学知識が皆無な当方の妄想範疇にとどまります)(汗)

GB189627635 (1896-12-04)』英国内務省宛て出願

この特許出願申請書は光学史に於いてその足跡を残すに十分値し、且つその後の光学レンズの設計に光明を得た発明案件たる位置づけではないかと思います「4群6枚プラナー型光学系」です。

この特許出願申請書の記述内容に関しては以前扱った旧東ドイツはCarl Zeiss Jena製標準レンズBiotar 58mm/f2《中期型−II》(M42)』で詳説しています。

前出 2群4枚プロター型光学系の発明案件を出願の後、すぐにゲルツ社に在籍するEmil von Hoegh (エミール=フォン・フーフ) 氏による「対称型による2群6枚ダブル・アナスティグマート型光学系」の特許出願申請書を出願されてしまい、且つその対称型であるがゆえに製産コストを抑えられるメリットがが市場のウケを誘引しアッと言う間に拡販が促されてしまいました (つまり低価格により販路拡大が見込めた)。

一方Paul Rudolph (パウル・ルドルフ) 氏開発のレンズは非対称である点と合わせて、その曲がり率ゆえに硝子研磨は難しく製造コストが嵩み、その結果必然的に高額な価格帯に頼らざるを得ず予想値を大きく下回る販売台数しか残せなかったようです。これが非対称型に傾倒していたRudolphCarl Zeiss経営陣との軋轢の原因になり、後の時代までその因縁が憑き纏う因果を招いてしまいます(涙)

GB189812859 (1898-06-08)』英国内務省宛て出願

ゲルツ社創業者たる「Carl Paul Goerz (カール・ポール・ゲルツ)」氏による発明案件です。やはりこの発明案件も「色収差改善の過程」を発明の主眼に置いているように受け取れますが、ハッキリ言って難しい話が多すぎてよく分かりません(汗)

GB189924089 (1899-12-04)』英国内務省宛て出願

Paul Rudolph (パウル・ルドルフ)」氏による発明案件「2群4枚ウナー型光学系」になります。ここで再び非対称型に戻っているワケですが、その記述を読み進めると立て続けにゲルツ社にヤラれまくってしまった分 (それほどゲルツ社は市場を当時席巻していた)、Carl Zeiss経営陣からの至上命令には逆らえず、仕方なく製産コストまで勘案した対称型の要素も汲み入れつつ、その一方で自身が主張する非対称型の良さとの融合をまるで模索していたかのように受け取れる発明案件に感じました(汗)

その意味でこのような解説手法が一つ前のブラナー型の記述内で示されていれば「やむなく対称型に変更した」ように受け取れますが、どうしても「非対称型」への相当な執着が残っていて自分を制御できていないように思います(汗)

・・つまり当方にはまるで「2群4枚ウナー型光学系」が折衷案のように見えるのです(汗)

それはまるで特許出願申請書内記述の中に自身が主張する「非対称型 (への固執)」とプラナーまで引き合いに出してまで「対称型の課題」を比較しつつ、それこそ弁明しているが如く一生懸命説明している様子に、何か他の一般的な特許出願時の記述とは一種違う雰囲気さえ感じ取ってしまったほどです(汗)

↑いよいよクライマックスに入ります(汗)

GB190213061 (1902-06-09)』英国内務省宛て出願

3群4枚テッサー型光学系」の完成に到達しますが、前群側にウナー型光学系を配置し、後群側にプロター型光学系をセットすることで、非点収差の改善と共に平坦化まで同時に成し得る発明だと述べており、そこにプラナーを意識している匂いを感じ取れます(汗)

要はコストコストと煩いので(笑)、ならば徹底的に簡素化できる光学設計で非点収差と斜め非点収差にコマ収差、像面歪曲までの改善を狙った究極的な光学設計として送り出した「Rudolphのギリギリの気合」が込められた発明案件に見えました(汗)

これらを総合するとその出発点が3群3枚トリプレット型だったのは明白であるものの、今一つも二つも解像度の向上を期待できない3枚玉に対しての非点収差改善と、何よりもその平坦性へのこだわりは「色収差改善」が本質だったのではないかと見えます。それは詰まるところ結像点での収束に各波長成分を合致させなければ解像度の向上は期待できず、合わせて像面収差まで見据えて完結される発明にまで「結果的にRudolphはやはり相当追い詰められていた」が故のテッサー発明だったのではないか、これら幾つか記述を読み進めて感じ入りました(涙)

・・皆様は如何でしょうか。

特許出願申請書の記述を読むとは、そこは発明案件に対する説明に終始一貫して記されているものの、その一方で反証材料を挙げて弁明している様子まで述べられるなら、それはまさに (自身も他人も関係なく) 直近の既知発明案件との対比の中で何に意義を見出すべきかを問うてさえいるように見え、なかなか苦しい世界観なのだと改めて感じ取った次第です(涙)

・・自分で発明すればするほど日々追われていく発明者の宿命を感じたところです(汗)

そのような観点に立った時、実はAlbrecht Wilhelm Tronnier (アルブレヒト・ヴィルヘルム・トロニエ) 氏の「自身は大袈裟な発明を目指さず、むしろ既知の発明案件のさらなる改善向上に時間を賭していた」考え方と言うのは、或る意味非常に賢かったのではないかとさえ思えてくる経緯を、今回のRudolph氏の記述の中から透けて見えたような印象です(涙)・・トロニエ氏の『計算魔』との俗称号はむしろ理に適っていたのかも知れません(笑)

時の流れの中で、何十年も経ってから初めて認められ、光学史の中に自身の名前を刻んだとしても、自分が生きていたその時代にはたして自身の研究心や気概、野心そしてそれらに見合う待遇は、必ずしも一致していなかったことが窺えなかなか心苦しく思うところで御座います。

それはトロニエがとても裕福な晩年を過ごせたのに対し、哀しいことにRudolphは教授職まで死の直前まで剥奪されてしまい、まるで年金だけに頼らざるを得ない生活だったことからも窺えてきます(涙)・・テッサー発明後、RudolphCarl Zeissを去りMeyer Görlitzへと転身し最後の栄華を望んだのかも知れません(涙)

DE343086 (1920-10-09)』ドイツ特許省宛て出願

いよいよライツのエルマーまで到達しました(笑) まさにこの特許出願申請書の記述を読んでいて前述してきた「悲劇のRudolph」に感じ入った次第ですが(涙)、この記述こそがまるで簡潔にまとめられていて、Rudolph氏の葛藤がス~ッと消えてしまっているように見えたのです。
(当方が一番最初抱いた感想です)(汗)

それはこうです・・「3つの部材から成る非点収差と平坦性を求めた非対称型レンズは、最初の部材が収束であり、第2の部材が発散であり、最後の部材が接合された2つのレンズで構成されるが故に、比較的強制的に歪曲した曲がり率の接合面を強要される (テッサー型光学系のことを指していると推測できます)。これは一つのレンズ設計として勘案すると開口面積の自由度に制限を自ら設けていると指摘できる」さらに「本発明により従来設計と異なり子午面や球欠断面の基本光線が最初の部材の透過で軸と交差する。結果開口部 (絞りユニットのこと) は第1部材と第2部材との間に位置するのが好ましい。また第3の部材の曲がり率を弱くでき、それはそのまま開口部の自由度を増すことになる。その観点に立てば第2の部材の位置は自在に調整する猶予が残され、全く新しい構造の光学設計としての本質を本発明は明示している」と続きます。

これはまさにオドロキの概念です。或る意味Rudolphの既得概念に邪魔されず俯瞰的に捉えられる事で、このように非常にシンプル且つ真髄を突いた発明を成したように見えました!(驚)

確かにテッサー型光学系の唯一の欠点は「開口面積を広げられない」であり、そこをスルッと超越してしまう答えが「前群は一つでいいのョ」と言う、あまりにも呆気ない結末に至り、まさに基本光線がすぐさま軸を交差していく様は、これら記述を読んだだけで頭の中にイメージできてしまいます(驚)

前玉一つ」これは鼻から完全に意表を突く記述でした(汗) そしてそれが意味するのは大口径への誘いであり、もうその時点でテッサー型光学系との畑を違えています (確かにテッサー型光学系でも中望遠レンズクラスまでは対処できるが)(汗)

これが明示するのは「前玉からの入射光を何でもかんでも取り込もうと考えない」との発想に立っており、透過してくる入射光だけを相手に非点収差改善と色収差改善に平坦性を担保してあげれば良いだけと、まるで本質だけでまとめているような光学設計概念です!(驚)

実際この初期の頃のエルマーで撮影した写真を眺めれば、確かに周辺域の収差は極端に残るものの、レンズ中央の解像感の凄さは未だに息を呑みます(汗)・・これは至極理に適った発明概念を捉えており、光学知識皆無な当方でさえまるで唸ってしまいます(笑)

しかもオドロキはそれだけで終わらず、何と特許出願申請書内記述がそれだけで終わっているのです(笑)・・まるで言い訳がましくあ~だこ~だ述べまくっていたRudolph氏の記述とは対極的な印象です(汗)

DE1784450 (1958-09-25)』ドイツ特許省宛て出願

いよいよクライマックスです (相変わらず話が長いッて!)(涙) 1958年出願なので前年の「L39マウント規格品」には間に合わなかったのでしょうか???

まさに今回扱うモデルの特許出願申請書と推定できます。このように明確に発明案件が発売モデルと合致すると、本当に「心の健康上ヨロシイ」と思います(笑)・・はたしてその記述は?

・・無し! 何も無し! ただただ数値の羅列だけ(驚)

さすがにこれにはオドロキを隠せませんでした(笑) もう1920年時点で語り尽くしているが如く振る舞いに見えてしまいます(恐)・・それが意味するのは38年経っても基本概念は変わっていないことを明示しているように見え、逆に言えば「それだけ真髄を突いたシンプルな光学設計だった」ことの現れなのかも知れず、必要なのは採用した硝子材の種別と、それに伴う細かい設計変更だけで、ヤッていることは変わらない普遍的な概念の強さに改めて感じ入り「おぉ〜さすがのライツだわぁ〜」と、それだけで新鮮に感動しました (それ故、前説明が長くなった)(笑)

・・それだけに余計にRudolph、可哀想(涙)

思えば、とても優しいオジサンのように見えてしまうから、既に感情移入してます(笑) 同じ時代に飛んで、是非とも人生を語り合いたかった気持ちがフツフツと湧いてきました(涙) Rudolphも辛い人生を頑張ったのだから、当方も頑張らなければ・・ですです!(笑)

最後、一番右端に掲載したのが今回のオーバーホールで完全解体した際、光学系の清掃時当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測したトレース図です。

ここに来てやはり光学系に於ける「前群と後群のパワーバランス/配分」の違いに、その光学系の性格がとても強く現れるのだなと、改めて納得できた印象です。その意味で「第3群の2枚貼り合わせレンズで色消し効果を最大限に執っているテッサー型光学系に対し (第2群は入射光発散の役目であり、そこからさらに絞りユニットを通過していくから)、第2群と協力し合いながら、絞りユニットを通過してきた入射光だけを相手に色消し効果に非点収差、像面歪曲、コマ収差改善と、まるで余裕を以て対処できているエルマー型光学系との相違」が歴然であり
それが意味するのは「入射光のどの部分を、どの成分を優先的に制御するのかのスタート地点からしてこの2つの光学設計はまるで異である」と、ようやく光学知識皆無な当方なりの結論エルマーはテッサーに非ず」を宣うところで御座いまする(涙)

おかげで当方の次元がヒックリ返り(笑)、エルマーがテッサーをアッと言う間に超越してしまいました(汗)・・恐るべし特許出願申請書の記述ョ!(怖)

或る意味、光学レンズ設計者の人格や遍歴が窺えるのが発明時の記述であり、そこに当時の背景や流れを汲みすれば、自ずと今ドキのデジタルなレンズには真似し得ない (写す描写だけではない) 魅力とロマンが隠れているものだと、今回の探索で今一度肝に銘じた次第です。

それが明示するのは「光学系構成図だけの楽しみだけに終わらない、まるで深淵を感じられる重きの在る書類」なのだと、今後の特許出願申請書漁りは、果てしなく続きそうです(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。そもそもオールドレンズの鏡胴タイプとして「collapsible (沈胴式)」なので、構成するパーツ点数は少ないです。しかし特にライカ製モデルの沈胴式で必ず整備の際に問題になるのは「沈胴筒/スライド筒の操作時に抵抗/負荷/摩擦を与えている不織布の問題」を避けて通れず、これは貼り付いている不織布の経年劣化進行がどの程度進んでいるのか否かで大きく仕上がりが変化します。

これは或る意味「ライカ製沈胴タイプの宿命」みたいな話なので、もしもこの要素についてキッチリ製産時点に近づけた仕上がりを望むなら、残念ながらライカサービスに依頼する以外方法はありません (一般流通品の不織布とはまた繊維密度や硬さがまるで異なるから)・・そして整備に際し沈胴筒/スライド筒を一度でも抜くと、その瞬間で「不織布の繊維がはだける」ので、整備が終わって沈胴筒/スライド筒を差し込む時にそのはだけている分の繊維が邪魔して差し込めなくなるのです(怖)

その「貼り付いている不織布がはだける現象」の過程を調べたところ、そもそも純正不織布は決して硬質タイプではなく「中庸の繊維密度と硬さ」ではないかと考えました。それ故、沈胴筒/スライド筒を差し込むと本当にピタリと気持ち良いくらいに操作性が合致するよう考慮して用意されている不織布ではないかとみています (ライカサービスに確認したワケではないので分かりませんが)。

従って、当初貼り付いていた不織布が使えなくなり市販品を貼り付けると、沈胴筒/スライド筒の操作性は緩めに仕上がります。その一方で今回のモデル用に「沈胴筒/スライド筒の駆動を限定するガイド (溝) が刻まれていないタイプ」の場合、緩めに仕上がると不織布とヘリコイド部との境界限界が非常に近いので、そのグラつき/ブレ具合によっては「沈胴筒/スライド筒に傷がつく」懸念が高くなります(怖)

それを勘案するなら、この方式の場合は「キツメ/硬めの操作性で動く」のが将来的な傷つきへの安心度は高くなります。

残念ながら、今回の個体も貼り付いていた不織布の経年劣化進行は相応だったので、再接着に際し均質、且つ一番薄い「両面テープ厚0.02㎜」を使い、敢えて接着剤の類を使いませんでしたが (均質に接着できないから) 、その分キツメ/硬めに仕上がっています・・申し訳ございません。

ライカ製オールドレンズのモデルで「沈胴式」モデルを整備する場合、そういうリスクが必ず伴うので覚悟の上、ご依頼頂く必要があります (今回のご依頼も概算見積り時にこの件、解説しています)。

↑上の写真は当初バラし始めた時の撮影で、抜き出した鏡胴「前部」です。このモデルは鏡胴「前部/後部」二分割方式なので、このように抜き出すことが可能です。

するとご覧のように既に「鏡筒」周辺部に、経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びが相当レベルで進行していたのが分かります(汗) グリーン色の矢印で指し示している箇所にその酸化/腐食/錆びの痕跡が残りますが、一部はカビ菌糸を広げて繁殖したままの状態です(汗)

これは上の写真下部が絞り環になりますが、そこからはみ出てきたグリースの揮発油成分に対して界面原理から引き留められてしまった水分を糧にして、カビ菌糸が繁殖を始めたのだと推測できますし、この痕跡の残り方から、もしかしたら過去に結露を繰り返していたのかも知れません(汗)

↑例によって光学系前群後群を左から順に並べて撮影しました。光学系前群を赤色文字で表記し、後群側をブルー色文字で表しています。グリーン色の矢印が指し示す方向は前玉の露出面側方向を意味しています。

↑同様ヒックリ返して今度は裏面側を撮影しています (いずれもバラした直後なのでまだ光学清掃など未実施状態です)。

↑上の写真は光学系第2群の黄銅材モールド一体成型を拡大撮影しています。すると赤色矢印で指し示している箇所の黄銅材は経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進行しているのが分かります。

実は当初バラしている最中に、これら光学系の各群 (前玉/第2群/後玉) 全てが取り出せずキッチリとハマっている状態でした。「加熱処置」するギリギリの状態だったと言え、おそらく製産後過去一度も平滑性を戻さないまま組み込まれ続けてきたのだと推察できます(汗)

↑こちらは光学系第3群後玉ですが、同様黄銅材モールド一体成型ですが、やはり赤色矢印で指し示している箇所など経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びが酷い状況です。

一般的な整備作業では、このような酸化/腐食/錆びが進行した光学系のモールド一体成型格納筒は、そのままでは最後までキッチリ格納できないので「加熱処置」して鏡胴を暖めて熱膨張させつつ格納します(汗)

しかしはたして製産時点にそのような「加熱処置」を施して格納していたでしょうか??? 当然ながら当方は自分の目で見たことなどありませんが(笑)「原理原則」に照らして考えれば自ずと歴然で、そんな「加熱処置」など執らずに格納できていたハズです。

従って当方のスタンスでは「経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びは、必ず逐一可能な限り除去する」としています(汗)

ちなみにグリーン色の矢印で指し示している箇所箇所に一つ前の光学系第2群が接触して格納されるので、この箇所の「平滑性」も求められます (何故なら、前後方向は光路長にモロ影響するから)。

↑取り外した鏡筒です。黄銅材の削り出しですが、ご覧のようにすっかり経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進んでいます(汗) 特に赤色矢印で指し示している箇所には酸化/腐食/錆びが残り、一部には「緑青」も確認できます(汗)

↑ここからは完全解体した各構成パーツ全てを当方の手により『磨き研磨』の後、組み立てていく工程に入ります。絞りユニットや光学系前後群が格納される「鏡筒」です。赤色矢印で指し示している箇所に光学系第1群前玉が格納されます。またグリーン色の矢印で指し示している箇所には光学系後群側の第2群〜後玉が入ります。

↑同じ「鏡筒」ですが、ヒックリ返して反対側の後玉側方向から覗き込んでいる写真です。前述のとおりグリーン色の矢印の箇所に光学系後群側各群が格納されますが、その奥ブルー色の矢印で指し示している箇所には「絞りユニット」が先にセットされます。さらに赤色矢印で指し示しているのは「位置決め環」であり、一体で切削されて用意されているのが分かります(汗)

↑こちらはやはり絞りユニットの構成パーツの一つですが「開閉環」です。赤色矢印で指し示している箇所に絞り環との連結用ネジ穴が備わります (両サイドに在る)。

一方、グリーン色の矢印で指し示している箇所を見ると分かりますが、経年の中でさんざん鏡筒内壁と擦れ合っていたのが判明します(汗) どうして「擦れ合っていた」と明言できるのかと言えば、擦れ痕が残っているものの「それは決して水平ではなく斜め状に擦れているから」と指摘でき、その根拠は「絞り羽根は開放時が最も水平位置を維持でき、そこから最小絞り値側に向かうにつれて、互いの密着面積が増す為に膨れ上がる現象が起きる」原理だからです。

従って鏡筒内に侵入していた塵/埃の中で相応に硬質なモノが互いに挟まれて擦れ合い、このように斜め状の痕跡を残していきます。結果この影響が何処に現れるのかと言えば「それは絞り羽根が水平を維持できていないことになる」ワケで、実際今回バラしたところ各絞り羽根は「僅かにヘの字型に変形していた」次第です(汗)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

左の写真は既に当方の手により15枚全てを水平に戻してある状態で撮影しています。

↑絞り羽根を組み込む段階になってフッと「開閉環」を見たら、何と内側にも酸化/腐食/錆びが起きているではありませんか (赤色矢印)(汗) しかも一部にやはり「緑青」まで生じている為、相当水分が残る因果に陥っていたことが推察でき、単なる「絞り羽根の油染み」だけではない「頻繁に結露していた」との懸念すら浮上してきます(汗)

ヤフオク!で「分解整備済」を謳う整備者が出品しているオールドレンズがありますが、その出品ページ記述を読むと「水没しない限り錆びない」と明言していますが、ではどうしてこの個体はこんなに酸化/腐食/錆びが進行しているのでしょうか???(笑) この個体も水没していたのでしょうか???(笑)

・・まるで笑ってしまいます!(笑)

↑15枚全ての絞り羽根を組み込み終わったところを撮影していますが、この絞り羽根組み込み作業だけで1時間半要しています(笑)

一旦水平に戻す前段階で2回ほど組み込みにトライしましたが、まるでダメで半分ほど組み込んだところで引っかかって入らなくなります(汗) 仕方ないので15枚全ての形をチェックしたところ「ヘの字型に変形している」事実を掴みました。その変形を水平に正す作業で30分はかかっています(汗)

結果1時間で15枚を組み込んでいったような話になりますが、水平に戻っても「必ず最後の3枚で絞り羽根の厚み分で引っかかって入らなくなる」のを上の写真で説明しています(笑)

赤色矢印で指し示している箇所が僅かに突出していますが、これは「光学系後群が格納される限界位置」として突出した設計です。ところが15枚の絞り羽根は「その突出した箇所の奥に入っいく (入ってから位置決めキー用の穴に刺さる)」ワケで、要はこの突出している箇所の空間の厚み分が「絞り羽根が重なった時の許容量」と指摘でき、最後の3枚を組み込む段になると必ず既に差し込み終わっている (位置決めキーに刺さっている) 絞り羽根の厚み分で引っかかって入らなくなり、且つ下手すると「刺さっていた位置決めキーが外れてしまいバラけていく」ために、その同道巡りを繰り返すので1時間かかっていると言う為体です(笑)

・・如何に当方の技術スキルが低いのか、ご理解いただけると思います(恥)

たかが15枚の絞り羽根の組み込み作業でどうしてそんなに大騒ぎするのだと言われることがありますが(汗)、実際に自分でヤッてみれば分かります(笑) いったいどうやって最後まで絞り羽根を入れ込んでいくのか、位置決めキー用の穴に挿していくのか、はたしてその「穴に挿す時に一瞬絞り羽根が浮き上がる (何故なら位置決めキーの長さ分は穴に刺さる前にかならず浮き上がるから) 時、いったいどうやって先に入れ込んだ絞り羽根が外れないようにできるのか」試してみれば良いのです(笑)

・・そんなに皆さんが言うほど簡単な作業ではありません!(泣)

↑「開閉環」を被せて最小絞り値まで絞り羽根を閉じた状態を撮影していますが、実はこの状態では「開閉環は何処にも保持されていないまま」であり、ひっくり返せば再び15枚の絞り羽根がバラけます(怖)

要はこの上に光学系第2群の黄銅材モールド一体成型格納筒が入るワケで、詰まるところ「光学系第2群は絞りユニット固定の役目も兼ねている」が故に、裏面側の黄銅材を「平滑研磨」する必要があったのです・・何故なら、このように「開閉環」が回転する時に互いに擦れ合っているからです(汗)

・・これが「観察と考察」であり「原理原則」に則るなら「平滑研磨」が必要なワケです(笑)

↑再び光学系後群の各群を並べて撮影していますが、グリーン色の矢印で指し示している箇所の「平滑研磨」が既に終わっています(笑)

↑各群はこんな感じで互いが重なり合いつつ「鏡筒の後部にストンと落とし込みで格納される」方式なので、必然的にグリーン色の矢印で指し示している箇所の外周部分の平滑性を担保しない限り「適正な光路長も担保されない」のに、過去メンテナンス時に一度も処置されていません(涙)

従って当初バラす際に光学系を取り出せなかったのは「過去メンテナンス時に鏡筒を加熱して格納していた」ことが窺える次第です(笑)

↑「加熱処置」など一切執らずに光学系前後群をセットしたところです。赤色矢印で指し示しているのは「前玉の締付環」ですが、ちゃんと製産時点に黒色メッキ加工が施されており、溶剤などで一切溶けません(笑)・・これは光学設計者「Max Berek」氏が必要と認め製品設計者に指示していたことが窺えます。

↑光学系後群も何の抵抗/負荷/摩擦も無くストンと鏡筒内に落とし込みできて格納完了しました。

↑「鋼球ボール反発式スプリング」を組み込んでから絞り環をセットしたところです。

↑フィルター枠をセットして絞り環がようやく固定されます(汗)

↑鏡胴「前部」が完成したので、今度は鏡胴「後部」のヘリコイド群の組立工程に移ります。

沈胴筒/スライド筒 (真鍮材/ブラス材)
距離指標環 (真鍮材/ブラス材)
マウント部 (真鍮材/ブラス材)
ロック用ツマミ (真鍮材/ブラス材)
鏡胴前部締付環 (黄銅材)
スリーブ環 (黄銅材)
遮光環 (アルミ合金材)
距離計連動ヘリコイド (黄銅材)

ヘリコイド群が真鍮材/ブラス材同士でネジ込まれないので、それが意味するのは「トルク制御が適う」道理に至ります。

ちなみに スリーブ環 を一部整備者が「無限遠位置の微調整の為に挟み込んでいシム環」とネット上で述べていますが・・まるで違います(笑) ライカ製オールドレンズに限って、特にこのモデルの場合「シム環などを使って無限遠位置を微調整して合致させる概念を、そもそも有していない設計」と指摘でき、そのことを全く分かっていない整備者です (ハッキリ言って恥ずかしいレベル)(笑)

ではこのパーツは何の為に入っているのかと言えば「鏡胴前部と後部との間に必要となる空間/隙間を確保する目的」であり、要はヘリコイド群との格納位置合わせみたいな話です (無限遠位置とはまるで関係ない)。

↑当初バラした際に気になっていたのですが、過去メンテナンス時に 距離指標値環 (左) を 距離計連動ヘリコイド (右) に硬締めしていた為に、撓ってしまいグリーン色の矢印で指し示している箇所にサビが出ていました(汗)・・撓ると極僅かな隙間が空くので、そこに酸化/腐食/錆びが生じます(涙)

実はこれかせ黄銅材や真鍮材/ブラス材パーツの唯一の欠点であり、熱伝導率の問題よりもむしろ「チカラに対して弱い/撓ってしまう」が故に、それをちゃんと勘案した製品設計が必要なのだと、何度も何度もこのブログで述べています。

それが意味するのは「整備者が金属材のことを理解しようとしないまま整備するから、間違った不適切な組み立て方で仕上げていく」と言っているのであって、まるで上の写真の解説も「撓ってしまったから相応の領域/空間にサビが出ていた」ワケで、それは製品設計者の落ち度ではなく「そもそも皿頭ネジを硬締めしないのが本質」だからです・・つまりライカ設計陣が悪いのではない・・と言っているのです!(怒)

・・不適切な整備をするのは過去メンテナンス時の整備者ばかりです!(怒)

↑マウント部ですが、無限遠位置と最短撮影距離位置の両端でツマミが突き当たるので、その距離環駆動域を確定する役目で「制限壁」が垂直状に立ちます。

↑その突き当て停止するロック用ツマミですが、赤色矢印で指し示している箇所が無限遠位置側を意味し、反対側のグリーン色の矢印で指し示している箇所が最短撮影距離位置です。

↑今回の個体でグリーン色の矢印で指し示している箇所に貼り付いていた不織布を一度剥がして再接着したことにより (厚さ0.02厚の両面テープ使用) その影響が赤色矢印で指し示している箇所の「沈胴筒/スライド筒ロック用爪の終端ロック機構」に応力分として現れます。

不織布の接着を接着剤にすれば沈胴筒/スライド筒の操作性は当初状態に戻ると推測できますが
接着剤は均質に塗布できず (受け側の不織布自体の接着面が均質ではないから) いずれ剥がれてきます/浮いてきます。

・・実際、当初バラした時、今回の個体は不織布が1/3の領域で既に浮いていました(汗)

沈胴筒/スライド筒を抜いた時に勝手に1/3の長さで貼り付けられていた不織布が浮いてきた為、既に剥がれていたと推測できます(汗) するとその剥がれていた箇所での沈胴筒/スライド筒の傾き/グラつき/ブレ幅が最も不安定材料になっていく為、いずれはブレ幅が増大して沈胴筒/スライド筒を傷つけていくことに至ると推測できます(涙)

結果、今回のオーバーホール工程では両面テープを使い可能な限り均質性を求めましたが、沈胴筒/スライド筒の操作性はキツメ/硬めに仕上がっていますし、爪ロックの操作も赤色矢印で指し示している箇所の機構部が応力を受ける為、やはり硬めの印象に仕上がっています。

経年の中で再び不織布も馴染んでいき、結果、応力の影響も減じられるため、いずれは従来の操作性まで軽く落ち着いてきますが、剥がれる懸念は最低限に防げていると思います。

↑ロック用ツマミを締め付け固定する締付ネジを赤色矢印で指し示していますが、この締付ネジも硬締めされており、トルクに影響を来していました(汗)

皿頭ネジ」なので、どうしてそのネジを製品設計者がチョイスしたのか、どうして「皿頭」なのか、過去メンテナンス時の整備者は理解していなかったようですが、実は今ドキの国内の大手整備会社ですら「ネジ種の違いによるネジ締めのヤリ方をマスターできていない」と言う、とんでもない恥ずかしいリアルな現実があったりします(汗)

この件についての話は、以前金属加工会社社長さんとの取材時に話をしていて、まともにネジ締めできない整備会社ばかりなのに、あなたは本当によく研究されているね・・とお褒め頂いたのが、いまだに涙もので思い出されます!(涙)

いきなり目の前に3つのネジを並べられ、それぞれのネジ締めについて説明してほしいと言われました(汗) 当方の経験値からその3種類のネジ締めについてお話すると、何一つ訂正なく完全回答していたとのことで、何とか合格になったようです (後でご褒美に鰻屋さんに連れて行ってもらいました)(怖)

丸頭ネジ、鍋頭ネジ、皿ねじ、そしてもちろんイモネジ含め、凡そオールドレンズ内部に使われるネジ種はほぼ決まっていますが、それらネジ種別の締め付け方法に違いがあること、さらには「どの程度硬締めすれば良いのかの違いまで存在する」ことまで、まるで知らない整備者が今の世の中横行していたりします(笑)

そういう人に限ってたかがネジ締めの話と鼻で笑いますが(笑)、実はそのネジ締め付けの違いによって対象となる金属材の応力反応が変化するワケで、その影響がやがて「チカラの伝達」としてオールドレンズ内部で「適正なのか不適切なのか」として現れるのを・・知りません(笑)

そもそもたった1箇所の距離環を回しただけでピント合わせを行う「そのチカラの伝達」で、全ての部位に影響を及ぼす必要がある内部構造なのがオールドレンズなのに、誰一人それを真正面から真摯な気持ちで見つめ直そうとしません!(怒)

当方が執拗にこだわり続ける「チカラの伝達」は、このようにネジ一つから始まっている話なのであり、ヘリコイドオスメスや絞りユニットなど、大袈裟な部位別の問題だけではないのです。それこそトーションバネ (捻りバネ) や引張式スプリングの長さやカタチにまでこだわりを貫くからこそ「限りなく製産時点に近似させたい」が為に、ひたすらに『DOH』にこだわり続けるのです(涙)

・・それを大袈裟に煽って請求金額を上げる詐欺行為と貶められるとは、悲しすぎます(涙)

そういう人達が、毎年数人居ますね(涙)

↑沈胴筒/スライド筒がすんなり差し込めて、いよいよ完成間近です。

DOHヘッダー

ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホール/修理が終わりました。ご報告すべき瑕疵内容は「沈胴筒/スライド筒の操作性がキツメ/硬め」である点と「そのロック用爪のロックもやはりキツメ/硬め」です・・申し訳ございません。

正し前述のとおり「経年と共に緩く変化してくる」道理なので (不織布の繊維のせいです) いずれは軽めの操作性 (従来の操作性) にやがて戻っていきます。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

残念ながら光学系第1群前玉の「露出面側に経年劣化進行に伴う酸化/腐食/錆びとして微細な点状キズと一部のカビ除去痕か残る」状況です。これも残る瑕疵内容と言えばそのとおりですが、当初と何ら変化していません (当方のせいで残った瑕疵内容ではありません)。

これをキレイに除去するには、一旦蒸着コーティング層をガラス研磨して剥がすしかなく、その後に再蒸着する必要性が起きます。

当方の整備では「できるだけギリギリまでオリジナルな製産時点の蒸着コーティング層は残すべき」とのスタンスなので、特に撮影写真に影響を来さない分、お気になさらないほうが良いと思います(汗)

↑光学系後群側もスカッとクリアで、極薄いクモリすら皆無です。そもそも光学系の全ての群でその格納を確実に処置できたので、最終的にピント面の解像感が増しているように受け取れます。特に当初バラす前時点の無限遠位置実写確認では「ピント面の解像度が甘く、極僅かにアンダーインフ状態」だったのを視認した為、現状改善できピーキング反応が当初より増しています (ピント面のピーク/山も確実に視認できるようになりました)。

↑少々悪戦苦闘しましたが(笑)15枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。当初バラす前のチェック時点では絞り環操作の特にクリック感が強すぎて「違和感ギリギリの印象」でした(汗)・・現状軽い操作性に戻っていますが、もしかしたら内部の反発式スプリングが切削されているのかも知れません (スプリング両端の一方がカットされていた)(涙)

上の写真は最小絞り値「f16」の絞り羽根閉じ具合ですが、ポツポツと前玉に塵/埃のように浮かび上がっているのが前述した点キズとカビ除去痕の一部 () です。


↑上の写真は絞り環を回して各絞り値でどのように絞り羽根が閉じていくのかを撮影しました
・・ご覧のように「完璧な真円の円形絞り (彩虹絞り)」であり、本当に気持ちいいです!(笑)

絞り羽根の開閉幅 (開口部の面積/カタチ/入射光量) は円形ボケのボケ具合やカタチを確定するモノではないので、例えば6枚の絞り羽根で正六角形の閉じ具合でもちゃんと円形ボケを表出できますが、どの絞り値でどのような質の円形ボケを表出できるのかは「絞り羽根のカタチではなく光学設計に係る問題」になるのに、リアルな現実には非常に多くの方々が間違えて認識しています(汗)

その意味で「真円の円形絞り (虹彩絞り) だけが正義」では決してありませんが(笑)、それにこだわるのかどうかは個人のまるで自由です。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独自のヌメヌメッとしたシットリ感漂う軽めのトルク感で、掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝えるだけでピント面の前後微動が適うトルクに仕上げられており、抜群の操作性を実現しています(笑)

但し前述のとおり「沈胴筒/スライド筒の操作性はキツメ/硬め」ですし「そのロック用爪のロック時も硬め」です・・申し訳ございません。

↑ご報告すべき瑕疵内容は、他に前述した前玉の点キズやカビ除去痕だけです。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

↑当方所有RICOH製GXRにLMマウント規格のA12レンズユニットを装着し、ライブビューで無限遠位置の確認等行い、微調整の上仕上げています。無限遠位置は「∞」刻印ピタリの位置でセットしています (当初バラす前の位置に合致)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

被写界深度から捉えた時のこのモデルの無限遠位置を計算すると「焦点距離50㎜開放F値f2.8被写体までの距離35m許容錯乱円径0.026㎜」とした時、その計算結果は「前方被写界深度17m後方被写界深度∞m被写界深度∞m」の為、20m辺りのピント面を確認しつつ、以降後方の∞の状況 (特に計算値想定被写体の40m付近) をチェックしながら微調整し仕上げています。

・・一言に無限遠位置と述べてもいったいどの距離で検査したのかが不明瞭ですね(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFで。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。もう絞り羽根が閉じきっているので「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

今回のオーバーホール/修理ご依頼、真にありがとう御座いました。既にお届け済ですが、また機会がありましたら是非宜しくお願い致します。