◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Trioplan 100mm/f2.8《後期型−II》(exakta)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

この掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内です (ヤフオク! 出品商品ではありません)。
写真付解説のほうが分かり易い事もありますが、今回は新たな発見があったので記録として無料掲載しています。
(オーバーホール/修理の行程写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


当方がオーバーホールを始めて8年が経過しましたが、当モデルの扱いは今回が累計で11本目にあたります。このモデルを解体する際に下手すれば破断してしまうパーツがある為に、そのリスクからヤフオク! への出品を取りやめてしまったモデルの一つです (オーバーホール/修理ご依頼のみ受付を継続)。

一番最初に扱った2012年当時は海外オークションebayでも1万円前後で頻繁に出回っていましたが、2014年頃には3万円前後まで高騰し近年は5万円以上は当たり前で、下手すれば10万円以上でも落札されています。

前述のリスクにプラスして高額すぎて手が出せない理由から普段敬遠しています。市場で極度の品薄になっているワケでもないのに、どうして僅か数年で市場価格が高騰してしまったのでしょうか?

答えは『BOKEH』と言うコトバに隠されています・・。

  ●                

実写サイトのflickriver.comを見ていると、真円の繊細なエッジを伴う美しいシャボン玉ボケが表出している写真に「Great BOKEH」などの標題が附随しています。確かに「シャボン玉ボケ」もボケ味の一つなのですが、どうも近年外国人が「円形ボケBOKEH」と認識してしまったように感じており、非常に危惧しています。

BOKEH」は近年英語辞書に登録された英製和語みたいなニュアンスですが、もちろん原語は日本語の「ボケ (味)」です。そのままローマ字表記すれば「BOKE」なのですが、このコトバを外国人が発音すると「ボーク」と発音し易いので、より原語に近い発音として末尾に「H」を附随させたと言う発想が、実は1997年にMike Johnston氏による写真雑誌の記事にみることができます。この時世界で初めて「bokeh」と言う英語が登場します。それまでの写真に於ける滲んだ部分の捉え方は「out of forcus (アウトフォーカス)」だけでしたから、ここに外国人のピント面に対する拘りが垣間見えます (ピントが合焦しているか否かしか問題にしていない証)。それ故海外では長らく (白黒写真の時代に於いて) パンフォーカスでの撮影が常識だったと言う考察が検証されます。

Mike Johnston氏による記事では間違いなく「Blur (滲み)」に対する日本人の感覚的な評価として「ボケ (味)」を「boke (aji)」と紹介し、その上で「BOKEH」としていたのですが、それがいつの間にか「円形ボケ」に対してのみ「BOKEH」と言う外国人が増えてしまったように思います。

【当方で表現してる円形ボケ】
 シャボン玉ボケ
真円で且つエッジが非常に繊細で明確な輪郭を伴うまさにシャボン玉のような美しいボケ方
 リングボケ
ほぼ真円に近い円形状でエッジが明確ながらもキレイではない (骨太だったり角張っていたりの) ボケ方
 玉ボケ
円形状のボケが均等に中心部まで滲んでしまいノッペリした (イルミネーションの円形ボケのようなイメージ) ボケ方
円形ボケ
その他歪んだりエッジが均一ではない、或いは一部が消えていく途中のボケ方 (円形状ボケの総称の意味もある)





上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケだけに限定して真円で繊細なエッジが少しずつ滲んで破綻して消えていく様を集めてみました。

二段目
さらに背景が円形ボケへと変わりますが、その途中でワサワサとまるで二線ボケの如く煩いボケ方にもなります。これを逆手に上手く活用した写真が右端で、まるで屏風のような印象画的な雰囲気がステキです。

三段目
さらに背景ボケが破綻して滲んでいくとトロトロボケへと変わりますが、やはりその際に背景をワザと利用することで水彩画風や油絵風に撮ることもできます。

四段目
左端写真を当方は「炎ボケ」と呼んでいます (燃え上がるような方向性を持つ背景ボケ)。玉ボケもキレイに表出しますしピント面のエッジに附随するハロを活用してしまうのも独特な印象になります。そして右端の写真など背景をそのまま写していたら何でもない鳥の写真だったのでしょうが、円形ボケをワサワサと入れることでインパクトのある写真に仕上がっています。

五段目
左端写真のように当モデルは意外にもダイナミックレンジがそれほど広くなく、特に暗部が突然ストンと堕ちて激しい黒潰れに至ります (明部の白飛びも酷い)。ところがそれを上手く活用してしまったのが2枚目の写真で撮影センスの良さが光ります。何でもかんでも明暗潰れがダイナミックレンジの狭さでありダメだと決めつけるのではなく、逆に明暗の効果としてむしろメリット側に活用してしまうと言うのが、まさにオールドレンズ使いの醍醐味だと思います。
当方も植物を撮影するのが大好きなので、ファインダー越しに (目で見えている世界とは異なる) 想定外の世界が展開した時の心踊る躍動感が堪りませんね(笑) それがまさにオールドレンズ一つ一つの「」であり「個性」にも感じられるのではないでしょうか。

光学系は3群3枚のトリプレット型です。巷では「シャボン玉ボケ3枚玉」の如く語られていますが(笑)、Meyer-Optik Görlitz製標準レンズの「Primotar E 50mm/f3.5」でも標準レンズ域並みのキレイなシャボン玉ボケが表出しています。ところがこのモデルの光学系は3群4枚のテッサー型ですから、何も3枚玉トリプレット型だけがシャボン玉ボケに特化した光学系の前提ではありませんね(笑)

おそらくMeyer-Optik Görlitzは、何か別の特徴を目的として設計していた光学系としてトリプレットを活用していたのでしょうが、その「副産物」としてシャボン玉ボケが表出しているだけのように思います。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)。ネット上でよく掲載されている構成図とはカタチも硝子の厚みも現物は異なっていました。何故なら、第1群 (前玉) は平凸レンズですが第3群 (後玉) は両凸レンズでした (裏面側の凸が非常に平坦に近い曲率)。それは洗浄液を垂らした時に外周附近に表面張力したので分かります (前玉裏面は中心にも外周にも洗浄液が集まらずに均一だから平坦)。

【モデルバリエーション】

初期型

筐体のほとんどが真鍮 (黄鋼) で作られているのでズッシリと重みがあります。


前期型

絞り環の刻印絞り値の真上にだけ「●」ドット刻印があるタイプですが、市場に出回る率が相当少ないモデルです。

中期型

市場に出回る率が高いのがこちらのタイプで、絞り環の刻印絞り値は上部に「●」ドット刻印を伴い、且つ絞り値の間にも「●」が入っています。

後期型−I

絞りユニット環の刻印絞り値に伴う上側の「●」ドット刻印が消えて間の刻印だけに変わっています。また基準「」マーカーの左右に囲みラインが無くなっています。

後期型−II

外見上は全く分かりませんが、光学系後群の固定がイモネジ (3本) による締め付け固定に変わりました。逆に言うと「後期型−I」までは後玉は締付環による締め付け固定なので、光路長確保が楽だと言えます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体は製造番号から1965年製産品と推測できますが、マウント部内部にセットされていた「シム環」と言う無限遠位置調整の環 (リング/輪っか) の仕様が変更されており、キッチリ無限遠位置が合致していました。

同じexaktaマウントのタイプでも、以前オーバーホールした個体では無限遠位置がズレていたので、ヘリコイドのネジ込み位置を調整しても無限遠合焦しませんでした (つまりアンダーインフ状態)。その時のシム環とは厚みも仕様も違っていました。

例えばネジ込み式マウントである「M42」もフランジバックが2種類存在し「45.74mm (旧)
/45.46mm (新)」ですから、exaktaにも仕様の相違があるのかも知れません。

ちなみに、1965年製産品と言うことはMeyer-Optik GörlitzがPENTACONに吸収されて消滅する僅か3年前なので、最後期の個体とも言えますね。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割式なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」側に独立しています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

当モデルの絞り環操作は無段階式 (実絞り) なので、クリック感もありませんし単に絞り環を回して絞り羽根を開閉させるだけになります。

↑15枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて上から「開閉環」を被せて絞りユニットを完成させます。この「開閉環」が絞り環と連結することから、絞り環を回して絞り羽根をダイレクトに開閉させている仕組みですね。

↑ここからは当方がウソを案内していないことを解説していきます。当モデルを解体する際に内部のパーツを折ってしまう危険がある点を指摘したところ、一部の方がSNSで「上手く整備できなかった言い訳を言っている」と載せられてしまったので解説したいと思います。

前述のように「開閉環」が回ることで絞り羽根が開閉するワケですが「絞り環」と連結する役目の「開閉キー」と言うパーツが存在しており、そのネジ穴が開閉環側に用意されています (赤色矢印)。

↑当レンズは「プリセット絞り機構」を装備しているので「プリセット絞り環」が存在しますが、実際は「絞り環と兼務」の設計です。

最初にプリセット絞り環を回してプリセット絞り値をセットする。
開放位置まで絞り環を回して開放状態でピント合わせする。
シャッターボタン押し込み前に絞り環を回して設定絞り値まで絞り羽根を閉じる。

このような動作で撮影するワケですが、その時の「プリセット絞り環」も「絞り環」も共に一緒に回ってしまうので兼務していると言う話になります。

上の写真ではその「プリセット絞り環」と「開閉環」との連結の役目で用意されている「開閉キー (赤色矢印)」がグリーンの矢印でそれぞれに刺さることを指し示しています (プリセット絞り環の切り欠きに開閉キーが刺さる)。

↑この「開閉キー」は長さ6mm、ネジ部の軸径僅か1mmと言う非常に細いシリンダーネジ (円柱にネジ部が用意されているネジ種) です。

↑一方、鏡筒の外周には「制限板」と言う弧を描いた板がネジ止めされます (グリーンの矢印)。

↑こんな感じでピタリと鏡筒の周りを囲んでいます。

↑この「制限板」の役目は、プリセット絞り環の内側にある「制限キー」と言うネジが板に突き当たることで「プリセット絞り値の範囲を決める」目的で用意されています。

プリセット絞り環」を回した時、開放位置〜最小絞り値までの間だけで駆動するよう「駆動範囲を制限する」構造ですね。

↑さて、ここから前述の「開閉キー」が折れてしまう問題点の解説に入ります。まず先に「開放位置」を赤色矢印で指し示しました (開閉キーを連結した状態で開放位置までプリセット絞り環を回した時の写真)。

↑この状態のままプリセット絞り環を取り外すと、ご覧のように「開閉環の開閉キー用の穴」の位置 (赤色矢印) は、開放時にはグリーンのライン分の余裕があります。つまり何処にも「開閉キー」が当たっていない状態なので「折れる危険が無い」と言えます。

↑次にまたプリセット絞り環をセットしてから、今度は最小絞り値「f22」まで絞り羽根を閉じます (赤色矢印)。

↑再びプリセット絞り環を取り外して、この時の「開閉環の開閉キー用穴の位置 (赤色矢印)」を指し示しましたが、鏡筒の端っこに当たっている状態なので (グリーンの矢印) シリンダーネジである「開閉キー」が突き当たっている状態と言えます。

ここで一つ気がつくことがあります。ここまでの解説で「開放側には余裕があるが最小絞り値側はピッタリの位置」に開閉環がセットされている点 (設計) です。つまり「絞り環が最小絞り値f22の先まで回るハズがない」ことがご理解頂けるでしょうか?

何を言いたいのか?

もしも仮に最小絞り値の先まで絞り環が回っている個体が存在したら、それは内部の (特に絞りユニットの) 組付けが適正ではない可能性が高いことになります。オールドレンズをバラして「観察と考察」を進めることで、このような「原理原則」まで導き出されるので、自ずと適切な調整が判明するワケですね。

↑ようやく解説が出てきました。これが「開閉キー (シリンダーネジ)」が折れてしまう理由です。プリセット絞り環をセットして絞りユニットから「開閉キー」で既に連結している状態のまま、前玉側方向から撮影した写真です。

鏡筒の周囲を囲んだ「制限板 (赤色矢印)」が「制限キー (赤色矢印)」に対してどのように駆動範囲を制限しているのかを説明しています。

開放位置の時に制限キーが突き当たる場所
最小絞り値の時の制限キーの位置 (90度)
開閉キーが折れた場合制限キーが突き当たる場所 (180度)

上の写真では最小絞り値「f22」まで絞り羽根を閉じた時の状態を撮っていますから、前述のとおり「開閉キー」は突き当たって停止しています。ところがこの鏡筒部分を解体しようとしてブルーの矢印の方向 (時計の針の反対方向) に思いっきり回すと「パンッ」と言う音がしてシリンダーネジが軸部分で折れてしまいます。何故なら、最小絞り値「f22」の時は「開閉キー (シリンダーネジ)」だけで停止しているに過ぎないからで、それ以上チカラを加えて無理矢理回そうとすると、そのチカラ全てがシリンダーネジの僅か1mmの軸に集中するので破断してしまうワケです。

すると、もちろん絞り羽根は一切開閉しなくなります (つまりジャンク品に堕ちる)。実際、今までにオーバーホール/修理を承った中の個体で2本が「開閉キー破断」によって絞り羽根が開閉しないと言う症状でした。それ故、解体時に非常にリスクが高いと言っている次第で、決してウソを (言い訳を) 言っているワケではありません。鏡筒部分を回す必要があるのは解体したいからであり、絞り羽根まで外して清掃したいからです。

ではどうして「制限板」の長さをキッチリ開放値〜最小絞り値分に一致させて設計しなかったのでしょうか (そうすれば開閉キーに対する負荷も低減できる)?「制限板」の長さを180度ではなく270度まで伸ばして設計していれば良かったハズです。

答えは「絞り環」がこの「プリセット絞り環」の上から被さり、プリセット絞り値をセットする時に移動する範囲がプラス90度分必要だからです。つまり絞り環側内部のキーの位置が90度分ズレているので (だからf2.8〜f22の幅でセット変更できる) その分を加味して「制限板」の展開範囲が180度の設計なのです。

従ってプリセット絞り機構部の動き方 (概念) を理解していれば、解体する際にチカラを加えて回そうとしたら「開閉キーが折れる」と事前に予測できるワケで(笑)、それを知っているので当方は今まで折ってしまったことがありません。オールドレンズは単にバラすだけではなく、その際同時に内部構造の見当を付けながら「原理原則」を確認しつつ解体していかなければ、次に組み戻す時の「調整度合い」が見当つきません。或いは過去メンテナンス時に施されてしまった不適切な調整にも気がつくことができませんね(笑)

↑こんな感じで絞りユニットの「開閉環」から飛び出てきた「開閉キー」がプリセット絞り環に刺さります (赤色矢印)。それでプリセット絞り環 (或いは絞り環) を回すと絞り羽根が開閉する仕組みですね。

↑後からセットできないので、ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。

↑ここからが今回新たに発見した内容になります。今までに扱ってきた10本の個体は光学系前後群を先にセットする必要がありませんでした。

つまり設計自体が異なります・・。

何と後群 (後玉) 側の固定方法が変更されており「イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本」による締め付け固定に変わったのです。

何を言いたいのか?

今までの個体はネジ込み式の後玉だったので基本的に光軸ズレの原因がありませんでしたが、当モデルでは他のMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズと同じように後玉の固定位置をミスると「光軸ズレ (偏心含む)」の懸念が出てきます。上の写真では3本目のイモネジが反対側に位置しています。

従って、後から光学系後群だけをセットすることができません (何故なら鏡筒ごと「後部」に組み付けてしまうから)。しかし、無限遠位置や光軸ズレのチェックなどは最後まで組み上げなければできません。そこで考えるに、おそらくMeyer-Optik Görlitzの工場では専用治具が用意されていて、この状態のままハメ込んで無限遠位置/光軸/光路長その他光学系諸元値をチェックできるようになっていたのではないでしょうか (そうでなければ非効率的です)。

この光学系後群側をイモネジ固定するのが今回の新たな発見でした。

↑延長筒をセットします。この時、今までの工程が適切ならば、もちろん基準「」マーカーがピタリとプリセット絞り環の刻印絞り値と合致しているハズですね (当たり前ですが)(笑)

↑本当はこちらのローレット (滑り止め) がある環 (リング/輪っか) のほうが「絞り環」であり、最初に引っ張り上げてプリセット絞り値をセットする役目です。しかし下の絞り値が刻印されているほうと一緒に回るのでどちらでも同じですね。

↑「円形ばね」をレンズ銘板部分 (内側) にセットします。

↑こんな感じでレンズ銘板がハマるので「絞り環」にクッション性があるワケです (引っ張り上げてプリセット絞り値をセットできる)。

↑鏡胴「前部」が完成しました。もちろん「絞り環」の基準「」マーカーも「」マーカーも両方ともピタリと位置が合致しています。

↑距離が長い (繰り出し量が多い) ヘリコイド (オス側) をセットします。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。距離環やマウント部を組み付ける基台です。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

この基台の両サイドには「丸穴」が空いており、そこに「直進キー」がスプリングに押さえ込まれたまま刺さります (グリーンの矢印)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズに数多く採用されている「尖頭筒」の直進キーです。この中にスプリングが入ることで、尖頭筒の「直進キー」はスプリングによるチカラでヘリコイド (オス側) に刺さることになりますから、Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズの距離環を回す時 (ヘリコイドオスメスの) トルク感を決めている要素でもあります。

↑ヘリコイド (オス側) の両サイドに用意されている「V字型溝 (直進キーガイド)」に尖頭筒が入ったままヘリコイドが直進動するので繰り出したり収納したりする原理です。

↑「直進キースプリング」を組み込んでからマウント部をセットしたところです。もちろんこの状態で既にヘリコイド (オスメス) のトルク調整が完了しています。

↑ここで一例を示しますが、上の写真 (グリーンのライン) のようにプリセット絞り環側の基準「」マーカーと距離環側の基準「」マーカー位置が合致していない個体があったりします (或いは多少ズレている)。これは鏡胴「前部」がネジ込み式なので個体によってはズレが生じる可能性が確かにあるのですが、実は「ニコイチ (2つの個体からパーツを転用し合って合体させて1つに組み上げる)」していなければ設計上、ズレが発生するハズがありません。

「経年のメンテナンスで徐々にネジ込みのネジ山が擦り減って位置がズレていくので仕方ない現象」などと理由を述べる整備者が居ますが、実際に設計段階でそれほどズレが生じるほど経年摩耗する (擦り減る) とは考えていないハズですし、人力でネジ込む以上ネジ山を擦り減らせる程度はたかが知れてます (数センチもズレが生じるほど人力でネジ山を摩耗させることはできない)。

従って、ズレが生じるのは基本的に「ヘリコイドのネジ込み位置ミス」であり、それをごまかす (何故なら光路長が変化してしまうので無理矢理ピント面の鋭さを調整しているハズだから) ために何かしら処置を講じている個体だったりします。そのようなオールドレンズを数多く今までバラして尻ぬぐいさせられています(笑)

この後は完成した鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑これでもかと言うほどに完璧なオーバーホールが完了しています。気持ち良いくらいに完全解体できたので良かったです(笑) もちろんパラす際は「開閉キー (シリンダーネジ)」を折りそうで怖いので「加熱処置」を3回ほど施して解体しています。一応、当方で折ってしまったことは今までに無いのですが、そうは言っても内部を知っている以上、恐怖心を拭えないまま作業しているワケで毎回冷や汗モノです。

↑光学系内の透明度が驚異的にクリアな個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。残念ながらコーティング層に極薄い微細なヘアラインキズが数本残っていますが、これはLED光照射で一切視認できないので硝子面のキズではありません。その意味ではヘアラインキズとは言えないのですが、光学系内を覗き込むと角度によっては線状に視認できます (写真には一切影響しない)。

よくキズが付いたとクレームする人が居ますが、当方ではLED光照射時に視認できないモノは光学硝子面に付いたキズとは認識していません (それはあくまでもコーティング層の話です)。

↑光学系後群側 (つまり後玉) も大変クリアですが、そもそも光学系内に数点の「気泡」があります。パッと見で「/」に見えてしまいますがカメラで拡大撮影すれば一目瞭然です。

この当時の光学メーカーは、光学硝子材精製時に一定の時間規定の高温を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

↑「プリセット絞り環/絞り環」を回す操作をしている時に、時々微かな金属音を伴うことがありますが、絞りユニットの何処が鳴っているのか、或いはプリセット絞り環や絞り環側なのか調べる手立てが無いので処置を施すことができません。申し訳御座いません・・。

プリセット絞り環/絞り環」ともに確実に適切な操作が可能ですし、プリセット絞り環の引き上げ操作も硬くなく、また絞り環の回転もスカスカではありません (多少粘性をもたせています)。もちろん15枚の絞り羽根もご覧のように非常にキレイです (真円の円形絞り)。

筐体外装は経年の使用感が相応に感じられる個体でしたが、当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんアルミ合金材の「光沢研磨」も処置したので、保持した時の指の指紋が残るのが気になるくらいにピッカピカです(笑) 「エイジング処理済」なのですぐに酸化してホワイトシルバーに戻ったりしませんし、ポツポツとサビが出てきたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは、黄褐色系グリースの「粘性中程度軽め」を使い分けて塗りました。このモデルはピントの山がアッと言う間なので、距離環を回すトルク感は「全域に渡って完璧に均一」で極軽いチカラだけでピント合わせできるよう仕上げています。もちろん当方オーバーホールの特徴たる「シットリ感漂うトルク感」もちゃんと実現してあります。

ヘリコイドが擦れる感触を感じる箇所がありますが (再現性は無い)、まだグリースが新しいので馴染んでくればそのうち感じなくなります。

↑ご覧のように当然ながら上下で基準「」マーカー位置がピタリと合っています(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。なお、筐体外装の刻印指標値は一部が褪色した為に当方で「着色」しています。

↑上の写真は、ワザと左写真と同じ角度で撮影しました。

左写真はこの個体を調達された時の出品写真のようですが、確かに現物をチェックした時は相応に経年の使用感があると感じた次第です。

どうでしょうか・・?
少しはピカピカに綺麗に仕上がっているでしょうか?

当方が筐体外装に「磨きいれ」していることを指して「そんなムダことよりもっとキッチリ整備してくれ」と仰っている人が居ますが(笑)、確かにピッカピカに仕上げても何ら価値にはなりませんし、適切に仕上がったのかどうかのほうが問題です。しかし、中には「所有欲」が満たせると喜ぶ方もほんの僅かですがいらっしゃいます。キッチリ仕上げられないのは、まさに当方の技術スキルが低いが故なので何とも弁明できません。

↑当レンズによる最短撮影距離1.1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

今回の「後期型−II」の存在を知って初めて「開放時にピントが甘い」と言われる個体が存在する理由が分かりました。光学系後群 (後玉) をイモネジ (3本) で固定している為であり、おそらくそのようなピントの甘い個体は光路長が不適切に仕上がっているのでしょう。

3枚玉トリプレット型光学系だとしても、ご覧のように鋭いピント面をちゃんと開放状態でも出してくれます。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。そろそろ「回折現象」が顕著に表れてコントラストと解像度低下を招いています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間お待たせし続けてしまい申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。