◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Distagon 35mm/f2.8 T*《AEJ》(C/Y)

今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分に関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、ご依頼者様のご要望により有料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


【当時の背景】

旧西ドイツのCarl Zeiss (Zeiss Ikon) は当時日本製光学製品の台頭など影響を受け収益が悪化し、1970年にブラウンシュヴァイク工場の操業を停止し翌年1971年にはフィルムカメラから撤退してしまいました。戦後1945年に始まったCarl Zeissの歴史の中で空白期間が訪れますが1975年にヤシカとの提携にてフィルムカメラ「RTS」を発売し「CONTAX YASHICAマウント (C/Y)」が策定され当初17本の交換レンズ群が用意されました。

その後ヤシカも経営難から1983年に京セラに吸収されますが京セラは2005年にカメラ事業から撤退しています。一方低迷していた民生向けオールドレンズの製産供給も2004年にコシナとの提携が成立しCarl Zeissブランド (商標権) と共に様々な光学製品の技術提携が成されました (コシナ製品群)。

また商標権を含む技術提携とパートナーシップは1996年以来SONYとも協業が続き様々なSONY製品に採用されています。

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背景からCarl Zeissがオールドレンズの製産を止めてしまう直前までの源流の存在が見えます。今回扱うモデル『Carl Zeiss Distagon 35mm/f2.8 T* (C/Y)』はCarl ZeissブランドのDistagon銘として
モノコーティングのモデルが存在しますし (右写真)、当方での扱いは別件でVOIGTLÄNDER製「COLOR-SKOPAREX 35mm/f2.8 (M42)」を扱っています (同型OEMモデル)。

そして今回の扱いモデルはレンズ銘板に「T*」刻印があるのでマルチコーティングになりますが (ティー・スターと呼称する)、幾つかモデルバリエーションがあります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

1975年発売

プログラムAE/シャッター速度優先AE:非対応
見分け方 (最小絞り値f22刻印):白色
呼称:AEG (西ドイツ製)/AEJ (日本製)


1985年発売

プログラムAE/シャッター速度優先AE:対応
見分け方 (最小絞り値f22刻印):緑色
呼称:MMG (西ドイツ製)/MMJ (日本製)

プログラムAE/シャッター速度優先AEの対応有無に従い「AEMM」に分かれ、且つ生産国の相違からドイツ製と日本製に分かれています。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・玉ボケ・赤色発色性・人物」で、下段左端に移って「被写界深度・パースペクティブ①・パースペクティブ②・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

Flickriverの実写が偏った写真ばかりで撮影者の嗜好が限定されていますが、最短撮影距離が40cmなので近寄れますし円形ボケもキレイな表出ができるハズなのに見つかりません(笑)

このモデルの描写性を一言で言うなら「鋭く緻密っぽく表現するのが上手い」と感じました (あくまでもオールドレンズの範疇に留まる話)。当然ながら今ドキのデジタルなレンズ (特に
コシナ製など) とは比較にもなりませんが、単にピント面のエッジが鋭いだけでは決して成し得ない描写性が隠れていると感じました。

上のピックアップ写真を順を追って見ていきますが、上段左端1枚目は円形ボケのニュアンスとして挙げましたが実は花の赤色は色飽和しています。2枚目も花は色飽和ギリギリですが少々誇張気味です。ところが3枚目の2階建てバスに到っては見事に赤色を表現しきっていますし、上段最後の4枚目女性の写真はお尻の処にある赤色クッション (皮革製) をご覧頂くと、これもまた大変正確に革製品の赤色を表現しきっています。当方は昔家具屋に勤めていたので皮革製品の赤色を知っているのですが、このクッションはイタリア製ナツジソファ用にオプションされているイタリアンレッドの牛革製クッションです。

つまり何を言いたいのか?

このモデルの発色性は決して色乗りの良いコッテリ系に留まらないのですが、ナチュラル派と括られるほど無個性の発色性でもありません。その中で「赤色にだけ反応する」のが素晴らしいのです。例えば下段中央の2枚パースペクティブとしてピックアップした写真ではグリーンですが特に誇張されていませんし他のブル〜イエローなど原色系でも同じです。ではそれが結果的に何に結びついているかと言えばまさに上段右端の「女性」の写真であり「人物写真」やポートレート撮影に非常にリアルな表現性を残してくれると感じました。

パースペクティブ (下段中央2枚) では少々タル型歪みが出ていますが許容範囲内でしょうか。何よりも自然な発色性の中での (赤色に反応する好き嫌いはありますが) この緻密感は相当な 光学性能の賜物ではないかと感じました。

光学系は6群6枚のレトロフォーカス型ですが開放f値「f2.8」の準広角レンズとして捉えるとそれほど大口径ではありません (もっと大口径なモデルがたくさんある)。ところが光学系構成を見るとパワー配分が相当厳しい設計で (技術力が必要な設計で) 明らかに絞り羽根の左右で屈折率が大きく違っていますから相当拘った設計なのが分かります。

ちなみに源流たるC/Yマウント以前のモデルでは右図のように5群5枚の
レトロフォーカス型でした。前回ヤフオク! 出品したVOIGTLÄNDER製「COLOR-SKOPAREX 35mm/f2.8 (M42)」の光学系になります (同型OEMモデル)。

そもそもSKOPAREXのコーティング層光彩が放つ色合いとも異なりますが、実写した写真を見ると発色性の違いも如実に表れているので (緻密感ももちろん違う) この2本は是非とも抑えておきたいモデルだと感じています。

なお、今回のモデルの光学系を清掃していて気がついたことがあります。全部で6つの光学
セクションに分かれていますが、第1群 (極薄いパープル)、第2群 (濃いグリーン)、第3群
(薄いグリーン)、第4群 (明るいブル〜)、第5群 (極薄いシアン)、第6群 (極薄いパープル) と
各群のコーティング層光彩が違っていました。これだけ各群でコーティング層蒸着を変更してきているモデルもあまり見ないので、確かに当時の価格帯からすればCarl Zeiss製C/Yモデルの中にあって廉価版とも言えそうですが、なかなかどうして拘っていると思いますョ(笑)

↑こちらは当初バラし始めた時に撮影した絞りユニットの写真です。絞り環を回して開放状態にセットしていますが、ご覧のように絞り羽根が極僅かに顔出ししています。特に6枚の絞り羽根のうち2枚の開閉幅がズレているようで6枚すべてが同じように均等に顔出ししていません。このような状態に陥っている場合必然的に絞り羽根を閉じていった時の開口部 (六角形) のカタチは歪になってきますね。

 

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルの完全解体写真やオーバーホール工程などの解説はネット上を探してもなかなかヒットしませんが基本的に当方は「ホントに全部バラしたの?」と言う疑いを晴らすために(笑)、完全解体した全景写真を必ず掲載しています。

はたしてそんな疑いを持つ人が多いのかとどうかは知りませんが(笑)、ネット上で案内されている整備会社の工程写真を見ても本当に完全解体したのか疑わしかったりします (完全解体の写真を掲載している会社は何とゼロぉ〜!)。酷い場合には顧客からの整備依頼で「課題:オーバーホール」としながらも掲載文を読んでいくと「整備点検」に留まっているのがあからさまだったりしますし(笑)、掲載写真を見ても「オーバーホールしたと言うけどヘリコイドの締め付け環外した痕跡無しでどうやってオーバーホールするのョ?」と疑ってしまうこともあります (いえ完全解体していないのが一目瞭然)。

締め付け環のカニ目溝を見ると溝自体が経年で腐食したままなのでカニ目レンチを差し込んで回していないことになりますし、締め付け環とヘリコイドとの極僅かな隙間に入っている経年のカスが残ったままと言うのは「???」ですョねぇ〜(笑)

結局、組み上げてしまえば外から見ただけでは完全解体したか否かなど判断できませんから、修理明細でそのように言ってしまえばそれでOKになります (それでお金が貰える)(笑)

当方が解体した全景写真をワザワザ載せているのは、そのような疑い/疑念を払拭するためなのですが、それは詰まるところ当方の技術スキルが低いがために「えッ? こんな仕上がりで本当にバラしたの?」と疑われるからです。このブログをご覧頂いている皆様も是非ともこの点ご留意下さいませ。決して当方はプロではなくあくまでも個人レベルに留まった技術スキルしか持ち合わせていません。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。

前出の完全解体 (全景) 写真に続きこの鏡筒と、あたかもすんなりと進んでいるように見えますが実は上の写真を撮ったのは2時間後でした(笑)

今回のモデル『Carl Zeiss Distagon 35mm/f2.8 T* (C/Y)』は初めて扱うのですが、どうせ製産したのは『富岡光学』だと分かっています。冒頭でこの点に触れなかったのは、何でもかんでも富岡光学製と言い切っている「富岡狂」と思われるのを避ける為だったのですが(笑)、バラせば自明の理で富岡光学製であり以下オーバーホール工程の中で解説しながら進めていきます。

しかし2時間もかかってバラしていた理由があり、どう言うワケか富岡光学製Carl Zeiss製品に限って締め付けネジの固着が酷くそう簡単には外れないのです。他の富岡光学製OEMモデルではそんなことが無いのに、このC/YマウントのCarl Zeissモデルだけプラスネジなのに外れません。実際にネジを外してみると固着剤がネジ長全体にまで渡るほど製産時に流し込まれていたことが判明するので当たり前なのですが、正直言って肩を痛める懸念が強いので怖くて仕方ありません (当方は過去に肩を痛めているので再発すると仕事になりません)。

実際過去に扱ったCarl Zeiss製C/Yマウントモデル (富岡光学製) もネジ山が既に潰れている個体があったりするので、何処で整備しても同じ状況なのだと考えます。今回の個体はマウント部の「爪」を締め付けているネジが容易に回せたので過去にメンテナンスされていることは間違いないのですが、それで気を良くしたところ爪を外した後のネジは全て完全固着でした(笑)

仕方なく「加熱処置」を施し解体していったワケですが、上の写真の鏡筒に関してはイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が関わっています。イモネジ3本を外さないとご覧のように中味 (絞りユニット) がキレイサッパリ外れないのですが、これがまた1回の加熱でも全く回らないと言う酷さです。イモネジは下手すればマイナスの溝が割れてしまうので「7:3」くらいの割合でチカラを目一杯込めて押し込みつつ回さなければダメです。チンチンに加熱しているので素手で触っても火傷しそうなのですが精密ドライバーの柄が当たっている手が赤くなってきて「豆が・・」と言う寸前でやっと外れました(笑)

そんなワケで2時間悪戦苦闘してから撮った写真です・・。

↑さて「富岡光学製」たる「」のひとつですが、先日オーバーホールしてヤフオク! に出品したYASHICA製「MLシリーズ」に使われていた絞り羽根と全く同一仕様 (設計概念) です。

絞り羽根は必ず表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれていますが (オールドレンズの中には穴で代用している場合もある)、通常は単なる垂直状の金属棒をプレッシングしています。富岡光学製のC/Yマウントモデルではご覧のように「一段分の段差を付けたキー」を打ち込んでいます。よ〜く観察すると表裏のキーでその段差がビミョ〜に違っています。

このような段差が付いたキーをワザワザ用意して設計していたのも富岡光学製の特徴のひとつです (絞りユニット内の構成パーツの影響から段差が必要)。他社光学メーカー品ではそんな 厄介な特徴を付けずに平坦に設計していることが多いです(笑)

位置決めキー
位置決め環」に刺さって絞り羽根の格納位置を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

絞り環を回すとことで「開閉環」が連動して回り、刺さっている「開閉キー」が移動するので「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させたところです。先ずここで覚えて頂きたいのは「絞りユニットが鏡筒側面からイモネジ (3本) で締め付け固定される」ことです。この問題が最後のほうの工程でとんでもないループにハマった原因になります(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。鏡筒側面には「開閉アーム」が飛び出ており、左右に操作することで内部の絞り羽根がダイレクトに開閉する仕組みです (ブルーの矢印)。アームの右横にポチッと見えているのがイモネジです (均等配置で3本ある)。このイモネジで締め付けているので鏡筒最深部にある絞りユニットが固定されています (これ重要です)。

↑さて出てきました! この写真が『富岡光学製の証』です。他社光学メーカーで同じ方式で設計していた会社が「ゼロ」だから富岡光学製と言い切れます。この変なパーツは絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を調整する役目で用意されています。つまりこの当時の富岡光学製オールドレンズでは必ず「鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を微調整していた」ワケです。

外観からは一切掴めない要素ですが紛れもなくどの富岡光学製オールドレンズをバラしても 鏡筒に同じ役目のパーツが何かしら附随します。

なお、鏡筒側面のイモネジ付近についている引っ掻きキズは当方が付けたのではありません。何故ならマイナスドライバーを入れて鏡筒自体を回す必要が一切無いからで (イモネジだから) このようなキズを付ける行為を当方は行いません(笑)

↑こちらは距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

このモデルを既に使っている方はご存知ですが、距離環を回した時無限遠位置「∞」〜最短 撮影距離位置「0.4m」までの駆動域はたいして長くありません。ちょっと回していくとすぐに突き当たってカチンと音がして止まってしまいます。

にも拘わらずご覧のように「え? 何周回るのョ?」と言うほどに深いネジ山が用意されています(笑) この半分の長さのネジ山でも充分なくらいですが、このように長いネジ山として設計してきた理由があります。距離環の駆動域が短距離であるにもかかわらず撮影時のピントの山はアッと言う間なのでジックリ合わせようとした時に相応の抵抗が距離環のトルクに架かっていないと操作性として使い辛く感じるからです。

実はこの点に全く気が付かずに整備している人が非常に多く(笑)、距離環を回すトルク感は
何でもかんでも「軽い方が良い」と結論している人が居ます (結構多く居ます)(笑)

オールドレンズの操作性の良さとは、単に軽く動かせるのかどうかだけではなく、必然的に「ピント合わせがし易く感じるトルク」なのか否かが重要なのではないかと考えます。その時、モデル別に距離環を回すトルクは自ずとバラバラの調整になってくるワケで、当然ながら開発設計していた光学メーカーでもご覧のように長いネジ山を用意することで相応なトルクが予め架かるように考えられていた「」なのです。

オールドレンズは「観察と考察」がとても重要だと煩いほど言っているのが当方ですが(笑)、距離環を回すトルクと「軽さ/重さ」との関係、ご理解頂けたでしょうか? 必然的にオーバーホール工程で使うべきヘリコイドグリースの種別と粘性もこれで決まってくるワケです。どんだけの整備者がこの点に配慮してグリースの粘性を選択しているのでしょうか・・?(笑)

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑今度はアルミ材削り出しのヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

アルミ合金材削り出しのネジ山の間に「真鍮製のヘリコイドを介在させている」のは同質材による金属のカジリ付 (ネジ山が咬んでしまい固着してしまう現象) を防ぐ意味ですが、この当時の他社光学メーカーでは既に同じ材 (アルミ合金材削り出し) によるヘリコイド (オスメス) で製産が進んでいたので、富岡光学では工場設備の更新が適わなかった「現実 (つまり母体であるヤシカ共々経営難に喘いでいた)」がこんな処にも見え隠れしています(笑)

工場設備を最新の産業機械に改めることもできずに、ひたすらに作らされ続けていた当時の
皆様の苦役を労いたいと想ってやみません。

↑ここで完成した基台内部を撮影しました。既にマウント部側に「絞り連動アーム」をセット済です。このアーム先端に用意されている「」が鏡筒側面から飛び出ている「開閉アーム」を掴んで左右に振るから絞り羽根が開閉しているワケです (ブルーの矢印)。

なお「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツなので距離環を回す時のトルクに非常に影響するパーツの一つです。この「直進キー」が適正ではないと距離環を回した時にトルクムラが発生しますし、ひいてはず〜ッと「開閉アームを爪が掴んだまま」なので、それはイコール距離環を回す抵抗/負荷/ 摩擦にも繋がりますね?

距離環を回す時のトルク感に影響するのはグリースだけだと思い込んでいる人が非常に多いですが、とんでもないワケです(笑)

↑ようやく指標値環をセットできます。なんでワザワザ指標値環を別パーツにするんですかね?(笑) 基台の側面に指標値を刻印してしまえば工程数が減るのに意味分かりません。

↑直径2mmの特大ベアリングを組み付けてから絞り環をセットします。大型のベアリングなのでこのモデルでの絞り環操作時 (つまりクリック感) はガチガチした印象になりません (逆に 言えばガチガチしていたら過去メンテナンスが悪い)。

マウント面に顔を出してくる「絞り連動レバー」や「絞り値伝達レバー」が飛び出てきます。

↑マウント部をセットしますが、まだマウントの「」は組み付けしません。この後鏡筒を 組み込んでから絞り環を実際に回して適正な絞り羽根の開閉になるかチェックするからです。

ところが・・適正な絞り羽根の開閉になりません(笑)

オーバーホール工程の最初の処を思い出して下さいませ。「鏡筒側面にイモネジ (3本) 」が
ありました。あのイモネジは鏡筒内の絞りユニットを固定しています。富岡光学製オールド
レンズ (特に今回のモデル) は以下の点について絞り羽根の開閉不具合を疑う必要があります。

絞りユニットの位置調整が適正ではない
鏡筒の位置調整が適正ではない
絞り環との連係調整が適正ではない
絞り連動レバーの調整が適正ではない
絞り羽根の「キー」の変形

ザッと挙げただけでもこんだけ調整箇所を見直す必要が出てきます(笑)
いったいどれだけの整備者がこんな調整に拘ってキッチリメンテナンスしているのでしょうか?(笑)

実は冒頭でご案内したとおり、バラす前のチェック時に「絞り羽根がチョロッと顔出ししている」のがどうしても気になって、その調整をするつもりで工程を進めてしまったのが仇になりました(笑)

結局、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を適正っぽく改善させるだけで2時間かかり、さらに光学系前後群を組み付けて (つまり仕上げて) 実際に検査具を使って絞り環絞り値との整合性をチェックしつつ、再びバラしては上記5点を再調整して・・の作業を繰り返し実に絞り羽根の開閉だけで4時間に及ぶ調整作業 (アッチが良ければこっちがダメみたいな) をする同道巡りのループにハマりました!(笑)

どんだけ自らの技術スキルが低いのかを思い知らされた次第であり、ホントに恥ずかしいですョねぇ〜(涙)
自分の技術スキルを過信して余計なことに気を廻すからこんなことになります・・(笑)
当初の位置で各パーツを締め付けてしまえば「チョロッと顔出ししたまま」で仕上がるのに・・それが納得できません(笑)
だって、開放の時絞り羽根ってフツ〜顔出ししないもん!

・・アホですね。そんなワケで「いや、オレはチョロッと顔出ししてても気にしないから」と言うことであればご請求額より必要額分「減額申請」して下さいませ (スミマセン)。

↑4時間経過後にやっとのことで光学系前後群を完全締め付けして組み上げました(笑)

↑動揺していて(笑)、ちょっと撮影を忘れてしまいましたが鏡筒をヘリコイド (オス側) の中にストンと落とし込んでから「締め付け環」で締め付け固定する「富岡光学の独自方式」を解説しています。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ちゃんと開放時に絞り羽根が顔出ししなくなりました(笑) 「T*」がレンズ銘板に居ると何だかそれだけで嬉しいですね、不思議です(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。ご覧のとおり開放時の絞り羽根顔出しは解消しました(笑)

↑光学系後群側も透明度が高いのですが、残念ながら第5群のコーティング層が経年劣化しています。

↑上の写真 (2枚) は、その第5群の非常に微細な点キズを拡大撮影しました。一見すると後玉の表面のように見えますが、後玉のほうが外径サイズが大きいのでコーティング層が経年劣化しているのはその直下第5群の表面と言うことになります (2枚目の写真解説)。

当初バラす前に光学系内を覗き込んだ時、テッキリ経年の塵/埃の類に見えたのですがどうにもこうにも清掃しても除去できません。それもそのハズで第5群をLED光照射で反射させて透かして見るとヒジョ〜に薄いクモリとして浮かび上がります。ところが組み上げて光学系内にLED光照射しても見えませんから、本当に薄いのだと思います。但し、この下の実写を見る限り写真への影響には全く至りませんから問題無いレベルだと思います (塵/埃が残っているワケではないのでスミマセン)。

↑当初バラす前のチェック時に簡易検査具で調べたところ絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) がギリギリの範疇でしたが、それも適正値内に収まりました (ほんの僅かにズレていただけ)。もちろん絞り環操作 (クリック感) もバッチリの感触で (思わず遊んでしまいました)(笑)、確実に駆動しています。

結局、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の調整を1箇所で (絞りユニットだけで) 行わずにアッチもコッチもイジるように設計した富岡光学の「意味不明な設計」の最たるものと言えます。何故なら、鏡筒の側面イモネジ (3本) で絞りユニットを調整させておいて最後鏡筒を入れる時にまた位置調整させるって何ョ? 鏡筒の位置調整機能だけで充分じゃない?! しかもマウント部内部の「絞り連動レバー」の調整までさせて、意味分かんない!(怒)

・・とブツブツ文句垂れながら4時間作業していたワケで、ちょっと病的ですョねぇ〜。

ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感をほとんど感じない大変キレイな状態を維持した 個体です。当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりです。

↑冒頭で解説したとおり、このモデルのピントの山がアッと言う間で、且つ非常に鋭いピント面を構成するので (つまりエッジが細い) ワザと距離環を回す時のトルクを「普通」人によっては「重め」と感じるように仕上げました。逆に言うと当初バラす前のトルク感が軽すぎるように感じた (実写確認していて使い辛かった) からです。もちろん当方が得意な「シットリした
操作感
」で「ピント合わせは極軽いチカラで微動」は外せませんので(笑)、キッチリ調整してあります。

書き忘れましたが塗布したヘリコイドグリースはもちろん「黄褐色系グリース」であり「粘性重め軽め」を使い分けて塗っています。

↑今回初めてこのモデルを扱いましたが、正直に言えば富岡光学製Carl Zeissモデル (ヤシカ発売モデル) は関わりたくないなぁ〜と言うのが現状の当方技術スキルから捉えた感想であり (過信は禁物) 反省材料ですが(笑)、如何せんこの描写性能にはちょっとオドロキましたね。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズの最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

如何ですか? 開放からイキナシこのピント面の鋭さです・・スゴイと思いませんか?

この被写体のミニカーは金属製ではなくプラスティック製なのですが、その感じが本当に良く写り込んでいると感じました。確かに富岡光学製オールドレンズは被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に長けているのですが、その中にあってこのリアル感の凄さはオドロキです。

ウ〜ン・・関わりたくないのにこのモデル、なかなかいいですョねぇ〜(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。ここら辺から極僅かですが「回折現象」が視認できます。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。最小絞り値でこれだけ「回折現象が少ない」のはやはり 光学系性能のポテンシャルがそのまま現れているのではないでしょうか?
素晴らしいモデルです!

大変長い期間に渡りお待たせしてしまい誠に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼ありがとう御座いました。