解説:オーバーホールとは・・。
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先日オーバーホール済でヤフオク! に出品したCarl Zeiss Jena製準広角レンズ『Flektogon 35mm/f2.8 zebra (M42)』は『解体新書』として企画しました。
『解体新書』はヤフオク! 内で「オーバーホール済/整備済」などを謳って出品されている
オールドレンズをゲットし、当方で再び解体して内部の状況を調査していく企画です。
(当方の技術スキル向上のために参考にさせて頂くことを目的としています)
その際当方のファンの方お二人からお問い合わせ頂きました。ありがとう御座います。この場でご案内させて頂きます。
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『オーバーホール』と言うコトバを調べるとWikiでは以下のように案内されています。
オーバーホール(英語: Overhaul)とは機械製品を部品単位まで分解して
清掃・再組み立てを行い、新品時の性能状態に戻す作業のことである。
まさしく当方が狙っている仕上がり状態は「新品同様品」まで戻すことなのですが、オールドレンズの世界で一般的に通用している概念にはこの「新品時の性能状態に戻す」ことを含んでいないことが多いように感じます。
実際にオールドレンズをバラすとまず間違いなく過去にメンテナンスが施されているワケですが、その際に様々な「常套手段」を講じてムリヤリ改善させていることが多いからです。
それもそのハズで現在市場に流通しているオールドレンズのほぼ99%は製産時点から既に数十年〜半世紀以上の時間が経過しており、内部構成パーツの経年劣化が進み腐食や酸化、或いは金属疲労や摩耗が生じています。つまりその時間の経過からすれば内部構成パーツが製産時点の状態を既に維持できていないのは当然であり、製産メーカーさえも既に存在していないことが多いとなれば交換部品さえ手に入りません。
そのような状況の中で可能な限りオールドレンズ個体の現状を改善させようとすると、必然的に何かしら手を加えなければ改善できないことがあります。それを手を加えずに問題の部品だけを交換して適正な状態に仕上げようとするならば、自ずと必要パーツを転用する為の代用品 (同型品) の入手が必須になり俗に言う「ニコイチ/サンコイチ」に至ります。
ところが、ここで考えて頂きたい事柄があります。「ニコイチ/サンコイチ」である以上全く 同一のパーツを摘出できるワケですが、肝心なその個体の経年劣化状態は個別に個体それぞれで千差万別です。つまり同一部品を転用できたとしても、それだけで問題無く完璧な仕上がり状態まで改善できる保証がありません (転用先の個体も既に経年劣化が進行しているから)。
その結果当方が見出した結論は「先ずは経年劣化を可能な限り減じること」が重要だと考えた次第です。その次に転用部品が必要なのか、或いは手を加える必要があるのかを考えるべきであって、何ら経年劣化を解消せずにそれら「常套手段」に安直に頼るのはナンセンスと言うのが当方の基本方針です。何故なら「常套手段」が施されてしまった構成パーツはさらにそこから経年劣化がより進行することになる為、結果的に製品寿命を短くしていると言わざるを得ません。
従って当方が実施している『オーバーホール』は当方が拘る『DOH』として既にこのブログで告知しています。それ故、当方が最終的に目指しているのはWiki記載のとおり「新品時の性能状態に戻す」ことを命題としており、実際に作業し何処までその命題を克服できたのかが問われるのだと考えています。
しかし現実は厳しく、なかなか「新品時の性能状態に戻す」ことは適いません。その結果導き出されたシステムが「減額申請 (本会員様限定のオプション)」であり、究極的には「言ってることとやってることが伴っていないじゃないか?!」と叱責を受けるが如くの仕上がりなので当方は決してプロではないと結論している由縁です。
なお当方の会員制システムの中で「単会員」と「本会員」の相違を考える時「どちらがお得 なのか」で踏まえてしまうと全く違った結果に至りますからご注意下さいませ。当方の会員制システムはあくまでも「作業内容の相違」であってご請求金額の相違を根底として導き出したシステムではありません。
つまり「本会員」の場合は可能な限りの処置を講じて仕上げていくので必然的にご請求金額はアップしていきますが「単会員」は「作業 vs 単価 (ご請求額)」を見合いながら作業の可否を考慮している為に結果的なご請求額はむしろ下がることになります。従って作業工数が減じられることを前提としている以上、返却する納期は短縮化されるべきと言う考え方から1〜2カ月の返却として優先的に処置している次第です。
要はご依頼頂くオールドレンズを徹底的に改善して仕上げたいのか (本会員)、或いは納期と 金額を見合いながら依頼したいのか (単会員) で異なるのが当方の会員制システムです。実際に会員制システムを導入してからのデータを見ると、むしろ「本会員」様のほうがご請求金額の平均は高くなっているので「お得感」で捉えてしまうと違う結果に至ります(笑)
(会員制システムはオーバーホール/修理ご依頼に係るシステムです)
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当方のオーバーホールに対する方針を前述しましたが、では実際にオールドレンズに施されている過去のメンテナンスにはどのような相違があるのでしょうか?
左写真は先日ヤフオク! に出品した『解体新書』企画の個体ですが、過去メンテナンス (と言っても4カ月前のこと) の際に施された「常套手段」の一つで「直進キーガイドに削りを入れている」対処方法です (ブルー矢印)。
構成パーツの一部を削ったり切断してしまうことで問題の状況改善を狙った処置ですから、当方でオーバーホールする際は既に削られたり切断されているワケであり (切削された金属は二度と元に戻せない)、その範疇でさらなる改善処置を施さなければイケマセン。
つまり当方が過去メンテナンス時の尻ぬぐいをするハメに陥っているワケですね(笑)
右写真は内部構成パーツの一部がプラスティック製であるために経年使用で摩耗してしまい擦り減ったりしている場合です (カム上下)。
もちろん附随するスプリング (コイルばね) なども相応に弱っており 適正な引張力 (引き戻すチカラ) を発揮しない場合があります。
金属同様にプラスティック製パーツも一度経年摩耗で擦り減ってしまうと元に戻せませんから本来の性能や役目を発揮してくれません。
つまり摩耗してしまった金属製パーツやプラスティック製パーツはもうその時点でどうにもなりません。それはヘリコイドのネジ山も全く同じで過去メンテナンス時に塗られてしまった「白色系グリース」の影響から摩耗しているネジ山は必然的にトルクムラに至ります。
左写真は内部に経年で腐食やサビが発生している場合です。このまま放置プレイでも知らないフリをしても外からは分からないのでバレませんが(笑)、当方では必ず処置してしまいます。
結局は何処まで真面目に正直に現状のオールドレンズ個体の状況に対処していくのか、その『心構え』が重要なのではないかと考えます。
何故なら「常套手段を講じない」ならば自ずと何処か別の部位で調整を施して改善させない 限り狙った仕上がりには到達しません。抵抗/負荷/摩擦が多くなってしまったのなら別のセクションでそれら増大してしまった抵抗/負荷/摩擦を低減すれば相殺できますし「オールドレンズに備わっている要素」として考えれば自ずと限られた機能しか存在しませんから、距離環を回すトルク感調整なのか絞り環操作なのか、或いは絞り羽根の開閉なのか絞り連動機構部なのか・・調整する箇所はいくらでもあります。
よくオーバーホール/修理が完了してお届けすると「このグリースのトルク感すごく気に入っています」と感想を頂くことがありますが、それは塗布したヘリコイドグリースだけの仕上がりでは決してありません(笑) 思い違いしていらっしゃる方が非常に多いですが、距離環/絞り環を回す時のトルクを決めている要素はヘリコイドグリースだけではなく様々な部位から受けている影響のほうが多く、それをちゃんとキッチリ調整できているのかが問われるのです。
それは使っているグリースにも大きく影響する話であり、安易にグリースに頼った整備を施すなら流行りの「白色系グリース」を使えば簡単ですが(笑)、当方が拘る「製産時点で使われていたであろうグリース:黄褐色系グリース」を使うならば、各部位からの抵抗/負荷/摩擦に対してより神経質にならざるを得ないワケで必然的に調整箇所が増え工程数/時間も増大します。
その結果が皆様が喜んでいらっしゃる「シットリした操作性のトルク感」に仕上がっている ワケで、決してグリースだけの問題ではないのですね(笑)
従って当方の真似をして「黄褐色系グリース」を使ったとしても、その種別はもとより粘性に至るまではたして適合しているのか否かは別問題であり、もっと言えば他の部位からの抵抗/負荷/摩擦などをどのように調整して仕上げているのかは当然ながら当方ブログのオーバーホール工程でも (企業秘密なので) 明かしていません(笑)
前述の『解体新書』企画に倣えば、該当のヤフオク! 出品者は以前使っていた白色系グリースから黄褐色系グリースに替えたのですが、如何せん「オールドレンズの原理原則」を理解していないので肝心な黄褐色系グリースの性質と粘性を見誤っています (その結果トルクムラが 出ていた)。黄褐色系グリースを使うならばさらにハイレベルな仕上げ/調整を要求されるので相応に高い技術スキルが求められます。単に真似しただけでは本当の黄褐色系グリースの良さを仕上がりに反映できませんね(笑)
その違いや拘りが皆様が仰る「シットリした操作性が素晴らしい」と言う表現になってきたのだと感じています (この表現は当方ではなくユーザーの方々から教えて頂きました)。もちろん筐体外装もシルバー/黒色鏡胴の違いに関係なくピッカピカですから「限りなく新品に近づいている状態」の仕上がりとも言えます (単会員/定額会員を除く)。
先日もピッカピカに磨いてオーバーホール/修理ご依頼分 (シルバー鏡胴) の作業が終わって お届けしたところ、自分が送ったオールドレンズと別の個体が返ってきたと勘違いされ驚きのあまり手が滑り落下させてしまうところだったと感想を頂きました (ありがとう御座います)。
そのくらい筐体外装は滑らかに仕上がっているので金属質剥き出しの研磨ではありません。
(当方は昔家具屋に勤めていた頃職人から磨きについて直伝されているので磨いたことが明らかに分かるような下手な仕上げにはなりません)(笑)
【グリース種別によるメリット/デメリット】
◉ 白色系グリース
・メリット :ヘリコイドのネジ山の状態に左右されず均質なトルク感で仕上げられる。
・デメリット:液化の進行が早くヘリコイドのネジ山の摩耗を伴う。ザラザラ感がある。
◉ 黄褐色系グリース
・メリット :ヘリコイドのネジ山摩耗が少なく液化の耐性も高い。シットリ感を伴う。
・デメリット:ヘリコイドのネジ山の状態に左右されトルクムラが生じ易い。
※詳細は「解説:グリースについて」で詳説しています。
つまりオールドレンズの「原理原則」を理解しているのか否かが重要なのであり、当方のオーバーホールが一般的な整備やメンテナンスと大きく異なるのはまさにその点です。「原理原則に則った本来あるべき適正な状態まで改善させる」ことが当方にとっての命題だからです。
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可能な限り対策を講じトライしたものの、どうしても改善できない場合も当然あります。その時は最後の手段として当方でも「常套手段」を講じますが、それはオーバーホール/修理の ご依頼者様にちゃんと告知していますし、ヤフオク! 出品でも出品ページに可能な限り細かく告知しています。
隠したまま知らん顔して「整備完了」などとはしていませんし(笑)、整備会社やヤフオク! 出品者の「逃げ口上」である経年だから仕方ないと言う言い回しでも済ませていません。バカ正直にも程がありますが信用/信頼が高い有名な整備会社やヤフオク! 出品者が居る以上、転売屋/転売ヤーたる当方はそれに拘るしか生き残る道があり得ません。
このブログの何処かのアップで書きましたが、まさしく単にその場凌ぎで仕上げる整備なのか或いは製品寿命を長らえる「延命処置」たるオーバーホールなのか・・それが分かれ目なのだと考えます。それをご理解頂き既に知っていらっしゃるからこそオーバーホール/修理ご依頼でもヤフオク! 落札でも「リピーターの方々」がいらっしゃるワケで、それを蔑ろにすることは決してできませんね。
そうは言っても、現在の低い当方の技術スキルではまだまだ皆様にご不快な思いやご不満ばかり与えており誠に申し訳ない限りです (しょっちゅう反省しているのですが反省ばかりで立ち止まっているような無いような)。
当方のオーバーホール方針は・・これからも変わりませんし、むしろ研鑽を積みいつの日か
きっと皆様にも感動を伴いご満足頂ける日が来るよう精進を重ねるしかありません。