◎ Made by Rollei (ローライ) Planar 50mm/f1.4 Rollei-HFT(QBM)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。
ご依頼者様のご要望により有料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


今回オーバーホール/修理を承ったモデルは旧西ドイツのRollei社から1970年に発売されたフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」用の交換 レンズ群として用意された標準レンズ『Made by Rollei Planar
50mm/f1.4 Rollei-HFT
(QBM)』で1972年に発売されています。

このモデルがCarl Zeiss銘を冠していながらRolleiのフィルムカメラにセットされていた当時の背景は少々複雑です。

【当時の背景について】
● Voigtländer (フォクトレンダー):

1756年にオーストリアのウィーンで創業したVoigtländer社は、その後1849年にドイツのニーダーザクセン州Braunschweig (ブラウンシュバイク) に移転し工場を拡張しています。戦後イギリス統治領となった旧西ドイツのブラウンシュバイク市でフィルムカメラなど光学製品の生産を始めますが、日本製光学製品の台頭により業績は振るわず1969年にはZeiss Ikon (ツァイスイコン) に吸収されています。しかし、1971年にはZeiss Ikonもフィルムカメラから撤退したため1972年にはブラウンシュバイク工場の操業が停止しました。その後、商標権はRolleiに譲渡されています。

● Rollei (ローライ):

1920年にドイツのハンブルクで創業したRollei社はフィルムカメラの生産を主として、旧西ドイツのCarl ZeissやSchneider Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社からレンズの供給を受けていました。1970年にフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」を発売しCarl Zeiss製標準レンズの「Planar 50mm/f1.8 (QBM)」などをセット用レンズとしていましたが、1972年に生産工場が操業停止したため、Voigtländer社の商標権譲渡も含め自社のシンガポール工場へと生産を移管しています。その結果、1974年に発売されたのがVoigtländer製フィルムカメラ「VSL1」から始まるシリーズ (〜VSL3) で「QBM」の他「M42」マウントのタイプも併売されていました。

時代背景と共に各光学メーカーのポジショニングを踏まえるとこのような流れになります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Planar 50mm/f1.4」からの展開として掲載しています。

前期型

レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
コーティング:グリーンアンバー

後期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー

他にマウント種別が「CONTAX/YASHICAマウント (C/Y)」のモデルとして・・、

ヤシカ製 (富岡光学製)
Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 T*
光学系構成:6群7枚ウルトロン型
絞り羽根枚数:8枚
コーティング:マルチコーティング
フィルター枠:⌀ 55mm

コシナ製
Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 ZS T*
光学系構成:6群7枚ウルトロン型
絞り羽根枚数:9枚
コーティング:マルチコーティング
フィルター枠:⌀ 58mm

・・などがありますがコシナ製に関しては興味関心が無いので詳しいことはよく知りません。

光学系は6群7枚のウルトロン型ですが右構成図のモデルはあくまでも旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場から引き継いでいたMade by Rolleiまでの話であり、後に日本で製産されたヤシカ製 (富岡光学製) やコシナ製は全くの別モノです (光学系がそれぞれの会社で独自設計されているため/
フィルター枠径や光学系サイズ自体が異なることからも相違は歴然)。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ①・円形ボケ②・円形ボケ③・背景ボケ」で、下段左端に移って「エッジ・人肌・発色性・ゴースト」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

ウルトロン型光学系らしい描写性ですが円形ボケは口径食の影響なども受け真円を維持できないので単なる円形ボケにしか至りません。ピント面のエッジが非常に繊細でその鋭さからも被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力に優れ距離感や空気感までも表現する立体的な画造りに長けています。

今回のオーバーホール/修理は「正常品」として承ったのですが、届いた固体をバラす前に チェックすると以下のような問題点が出てきました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すと非常に重いトルク感。
 絞り環を開放から回す際にf1.4〜f2間が非常に固い。
 フィルムカメラ/マウントアダプタ装着の相違で絞り羽根の動きが不安定。
 無限遠位置〜最短撮影距離位置の違いによっても絞り羽根開閉異常が発生。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に白色系グリース塗布し既に経年劣化で粘着性を帯びている。
 直進キーの固定用ネジ1本が空転している。
 絞り値伝達キーが無効化されている。
距離環固定用下穴が1個追加されている。

・・こんな感じです。これらの問題点の中でご依頼者様からご案内頂いたのはだけで、他は当方のチェックで判明しています。その結果、今回も丸2日半という時間を要するハメに陥りました。

↑解体を始めてからヘリコイド (オスメス) を取り出し並べて撮影しました。過去メンテナンス時に塗られていたのは白色系グリースで、おそらくその後に一度「潤滑油」を注入されており既に粘着性を帯びた経年劣化に至っていました (これがで距離環のトルクを重くしていた原因の主因です)。もちろんヘリコイドのネジ山はご覧のとおり「濃いグレー状」にアルミ合金材が摩耗しています。

↑鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」を撮影しました (赤色矢印)。極僅かですが付け根が「くの字型」に曲げられており上部の板状部分にも僅かですが捻りが入っています。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。生産工場はRolleiのシンガポール工場ですが旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で生産されていた「前期型」の設計を踏襲した構造なのがこれを見ただけで判ります (改善すべき箇所を改善させている設計なので再設計したことが判る)。

↑その際たる証拠が上の写真で絞りユニット内部で使われている絞り羽根を開閉させる役目の「開閉環」です。1枚の板金から単なるプレッシングだけで2本のアームを用意した拙い設計をそのまま受け継いでいます(笑)

もちろんここを最設計して変更してしまったら光学系の設計からして再設計が必要になるのでそのような時間的な猶予は無かったと考えられますから仕方ないことでもあります (光学系の格納方法まで変更する必要が生じるから)。2本のアームのうち長いほうが「開閉アーム」で、短いほうが「制御アーム」です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑絞りユニットの「位置決め環」側をひっくり返して撮影しました。絞り羽根は必ず「キー」と言う金属製の突起棒が表裏に1本ずつ打ち込まれており、片方が「位置決めキー」に対して一方が「開閉キー」になります。

 位置決めキー
絞り羽根が刺さる固定箇所を決めているキー
 開閉キー
絞り環操作で設定した絞り値まで絞り羽根を動かして角度を変更するキー

位置決め環」は二重構造になっておりご覧のとおり「ガラス布基材エポキシ樹脂積層板」をパンチングで留めてしまう方式を採っているので解体できません。バラしたところ絞り羽根には経年相応の油染みが生じていたので本来ならば解体して清掃したいのですが仕方ありません (溶剤漬けしました)。

↑6枚の絞り羽根を1枚ずつ清掃してから組み付け絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。赤色矢印の「開閉アーム」は既に真っ直ぐの状態に 正して組み込んでいます (付け根のくの字と捻りを正している)。

↑さらに鏡筒裏側に各種制御系パーツをセットして組み上げます。

 直進キーガイド
直進キー (板状) がスライドして行く溝部分

 開閉アーム
マウント面絞り連動ピン押し込みに連動して操作されダイレクトに絞り羽根を開閉するアーム

 絞り環連係爪
絞り環と連結して絞り環の設定絞り値を伝達する役目

 制御環
絞り羽根の開閉角度を決める「なだらかなカーブ」を備えた環

 カム
絞り連動ピン押し込み動作に連動してカムが動き具体的な絞り羽根の開閉角度を伝達する

 制御アーム
カムから伝達される開閉角度まで絞り羽根を動かし停止位置を決めているアーム

このシンガポール製モデルの段階で設計変更された要素は「スプリングの長さ/強さとチカラの伝達方法」ですから基本的な概念は旧西ドイツ製のままと言うことになりますね。

↑距離環やマウント部を組み付けてるための基台でヘリコイド (メス側) 用の微細なネジ部を 備えています。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。このモデルは ヘリコイド (メス側) が基台を貫通しない設計です (開放f値f1.8モデルは貫通する設計)。

↑逆に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) がヘリコイド (メス側) をどんどんネジ込んでいくと貫通してしまう設計なので開放f値「f1.8」モデルとは逆の発想です。

無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して鏡筒の裏側を撮影しました。鏡筒 (ヘリコイド:オス側) はグル グルと何処までも回転するので最後は基台を抜けて外れてしまいます。

つまりこのモデルで最初の難関になるのは「いったい何処が無限遠位置なのかの判定」になります。ヘリコイド (オス側) がメス側を貫通してしまうのですからそのアタリ付けが (見極め) が非常に重要になってきます。このアタリ付けをミスると無限遠が出ない (合焦しない) ワケですが、このモデルで心配する必要があるのはそんな生易しい話ではなく「具体的な絞り羽根開閉異常」に最終的に繋がるので非常に重要な工程になります。

↑絞り環をセットしますが単に置くだけです。

↑マウント部内部を撮影しましたが図手に当方による「磨き研磨」を終わらせており経年で 生じていた「赤サビ」を取り除いています。

↑さて、このマウント部にも「前期型」から受け継がれた要素がそのまま残っています。上の写真赤色矢印のとおり「直進キー固定用の穴」があるのですが、この「後期型」では使われない穴です。「前期型」はこの位置に直進キーを締め付け固定するネジをネジ込んでました。

↑マウント部に「絞り連動ピン」をセットします。絞り連動ピンはマウント部内部に「受け」が用意され、一方マウントの爪のほうにも刺さる穴があることで絞り連動ピンの上下2箇所が確定し垂直状態を維持しています。と言うことは、この「マウントの爪」の固定位置が僅かでもズレると途端に絞り連動ピンの動きが固くなります。

実際「マウントの爪」には凡そ0.3mm程のマチが用意されているので固定ネジ (3本) を順番に締め付けていくと絞り連動ピンが固くなってしまいます。

↑この状態でひっくり返してマウント部内部を撮影しました。マウントの爪に備わっている絞り連動ピンは内部で「絞り連動ピン連係機構部」と連結して絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ「チカラを伝達」しています。

ここで重要なのは「絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけしかチカラが伝達されない」点でまさしく「M42マウント」などと同じ考え方になるので、よくスクリューマウントではない バヨネット型マウントだからなどと安心材料 (信用/信頼性が高い) として言われますが・・ トンでもないお話です(笑)

そもそも絞り羽根の開閉を「ピンの押し込み動作で行う」発想をした時点でアバウトだとしか言いようがありません(笑) 上の解説 (ブルーの矢印) のとおり絞り連動ピンが押し込まれると () その分だけ機構部の「爪」が左右に頭を振ります ()。必然的に絞り連動ピンの押し込み量が足りなければ絞り羽根は最後まで閉じてくれませんョね?(笑)

そう言う思い込みが結果として当方に対する整備クレームとして返ってくるワケで、フィルムカメラ側の絞り連動ピン押し込み板には「適度なチカラが架かるようクッション性がある」のに対しマウントアダプタに装着した場合は「最後まで強制的に押し込まれ続ける」ことの違いが存在します。この説明を何度しつこく言ってもいまだにクレームが来る始末で、本当に困りモノですね(笑)

疑うならフィルムカメラ「SL35」をバルブ撮影にセットしてシャッターボタンを押し下げて「絞り連動ピン押し込み板」を指で押してみるといいです。ちゃんとクッション性があるのをご確認頂けますが、プレビューボタンで撮影前に押す時はボタンを押したチカラがそのまま「絞り連動ピン押し込み板」に架かりますから違う結果に至ります。もっと言えばもちろん マウントアダプタ装着時は最後まで押し込まれてしまいます。これが理解できていない方が 非常に多いですね・・。

この当時の (フィルムカメラ時代の) オールドレンズは「絞り連動ピンが最後まで常時押し込まれたまま」になることを一切想定していない設計であることをどうかご理解頂きたい。シャッターボタン押し下げで絞り連動ピンが押し込まれる時のカメラボディ側「絞り連動ピン押し込み板」の強さは瞬間的なチカラの伝達であり (必然的に勢いも影響します)、一方絞り連動ピン側にも軸の先端部 (頭) には「丸み」が備わっていて最後まで押し込まれないよう配慮されています (チカラを受ける面積の問題)。マウントアダプタ装着時に最後まで絞り連動ピンが押し込まれることとフィルムカメラによるシャッターボタン押し下げ行為とは「例えマウント規格が同一でもイコールの話にならない」ことを認識する必要があります。それ故、仮にマウント部内部に必要以上に架かったチカラを逃がす設計 (例:スプリングの活用) が施されていたとしても、それはシャッターボタン押し下げ時の瞬時のチカラの逃がしに対応しているだけであり「常時架かっているチカラを逃がすことは想定外」なのです。

つまりフィルムカメラに装着しているのかどうか、或いはマウントアダプタ装着なのか、シャッターボタン押し下げなのかプレビューボタンなのか。このような相違で絞り連動ピンに架かるチカラは全て異なるのに当方整備の問題としてクレームになります。そこで出てくる次なる言い回しが「マウントの規格上同じQBMなのだからチカラ云々の話は関係無い」と来ます(笑)

マウントアダプタは規格上爪の形状を同一にして疑似的に装着使用できるようにした製品であり、フィルムカメラ時代のオールドレンズのマウント規格 (設計や概念など) まで厳密に考慮して (シミュレートして) 現代に出回っている製品ではないことを是非ともご理解下さいませ

面倒くさいので「はい、申し訳御座いません」と謝ってしまったほうが早いです(笑) なので当方の技術スキルは凄く低いですョと何度もこのブログで告知しているのですが、いまだに クレームが後を絶ちません。内部のパーツが既に経年劣化しているのに「規格が同じなのだからフィルムカメラでもマウントアダプタでも同じように使えるのが当たり前だろ!」と平気で言ってきます(笑) どうか本当にプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に整備依頼して頂きたいと思いますね・・当方にはオーバーホール/修理をご依頼頂かぬようお願い申し上げます。
(これは一般論であり今回のご依頼者様の話ではありません)

↑今回の「後期型」では直進キーの固定方法が変更されマウント部の横側から締め付け固定になりました (必然的に直進キーのカタチも変更)。

↑後からセットできないので先に光学系前後群を組み込んでしまいます。

↑さて、この次の工程では本来はマウント部を被せてほぼ完成状態になるのですが、上の写真を撮ったのは次の日でした(笑) つまりこの間で1日が過ぎています・・マウント部をセット
すると絞り羽根が正しく開閉してくれません。その原因を調べるのに丸一日かかりました。

先ず冒頭の問題点「 絞り環を開放から回す際にf1.4〜f2間が非常に固い」についてです。

絞り環の内側に「絞り値キー」と言うベアリングがカチカチとハマる「穴」が各絞り値に見合う位置で用意されており、開放f値「f1.4」は上の赤色矢印の箇所です。ここを隣の「f2」の穴と比較しましたが何ら問題無く平坦であり削れ箇所もありません (つまり正常)。

この「絞り値キー」の位置は2本の固定ネジで変更できるのですが、それは単に「Ι」マーカー位置との整合性だけの意味合いです。そこで当初バラす前の段階で開放f値「f1.4〜f2」が重い理由に気がつきました。

当初の無限遠位置が相当にオーバーインフ状態だったのを思い出しました。つまり鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が必要以上にネジ込まれていました。ヘリコイド (オス側) は前述のとおり メス側を貫通しますから必要以上にネジ込まれると次に接触するのはこの絞り環なのです。
結果、適正なネジ込み量で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込めば絞り環が重くなるのが改善できました。

↑ところが絞り羽根の開閉異常はまだ改善できません。フィルムカメラ/マウントアダプタ装着時の相違、或いはプレビューボタン/シャッターボタン押し下げ時の相違で絞り羽根の開閉に異常が出ます。そこで今度は絞り連動ピンに関係する箇所のチェックに入りました。

上の写真はマウント部内部の「絞り連動ピン連係機構部」の真横に位置する「絞り連動ピンの受け側 ()」です。ブルーの矢印のとおり絞り連動ピンが押し込まれると穴から軸が飛び出てくるのですが、ここに引っ掛かりを感じました (絞り連動ピンが滑らかに上下しない)。

既に絞り連動ピン自体は当方にて「磨き研磨」済なので問題は「穴のほう」と言うことになります。それで試しに千枚通しで穴の内部を滑らせると抵抗/負荷/摩擦を感じました。つまり穴の内側が錆びついていたのです。

↑前の工程で絞り連動ピンがスムーズに上下するよう改善させて組み上げましたが、それでも絞り羽根の開閉異常は収まりません。そこで次に臭うのは「絞り連動ピン連係機構部」その モノです。ブルー矢印解説のとおり絞り連動ピンの上限に従い () 絞りユニットから飛び出ている「開閉アーム」を掴んでいる「」が左右に頭を振ります ()。絞り連動ピンの押し込み量に比例して爪が左右に首振り動作する仕組みですね。一方絞り羽根を閉じようとするチカラ (開閉アームを動かそうとするチカラ) を架けているのがスプリングであり、絞り連動ピンとは連結箇所で繋がります。

この機構部を単独で動かしても大変滑らかなのですがマウント部内部にセットすると、やはり絞り連動ピンの動きが引っ掛かるようになりました。

・・???

前の工程で絞り連動ピンがスムーズに動くよう改善したのに、しかも機構部も滑らかなのに どうして「???」

そこで考えたところ、絞り連動ピンが連結して機構部も組み付けられると引っ掛かる為、絞り連動ピンからチカラが伝達された瞬間に「引っ掛かりが起きている」ことに気がつきました。チェックしたのは上の写真「爪」と機構部との「隙間」です。何とビッチリと隙間にサビが 生じていました(笑)

つまりチカラが機構部に架かると爪の動きがぎこちなくなっていたのです (そんなの見えないから分かんないし!)(怒)

仕方なく留め具を外して僅か1.3cm四方しかない機構部を解体してチマチマとサビを除去しました(笑)

この時にさらに気がつきました! この「爪」が何だかいつも整備している同型モデルと比較して「軟らかい」のです。残念ながら爪部分が既に弱まっているようです (おそらく過去メンテナンス時にさんざん角度を変更したのではないか)。そう考えたのはいつも整備している同型モデルに比べて爪の曲がり角度が甘い印象を受けたからです (もっと鋭角に曲がっていないと正しく開閉アームを操作できないハズ)。

↑さらにフィルムカメラ側に設定絞り値を伝達する役目の「伝達環」に備わっている爪も故意に溝を潰されて機能しないよう無効化されていました。上の写真はムリに引っ張り上げて撮っていますが、正しいのはスコンと爪が倒れてしまうくらい (真っ直ぐに立たないくらい) 軽く動くのが正しい状態です。何故ならスプリングが左横の穴に入りスプリングの反発力で爪が常時押し上げられているからフィルムカメラ側に伝達される仕組みなのです。

つまり爪の溝部分をペンチか何かで摘んで潰したのだと推測します。今回のオーバーホールでは逆に溝を広げて軽く動くよう戻しました。

↑全て組み付けたマウント部を横方向から撮影しました。マウント面に飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると () その押し込み量の分だけ機構部の「爪」が左右に首振りします ()。爪の角度も鋭角に戻しましたが既に軟らかい状態です。

↑マウント部には1箇所「固定孔」が空いておりマウント部が刺さる (固定される) 場所が決まっている方式ですから、必然的に固定用ネジの位置まで確実に決まります (つまりマウント部の向きや位置を調整できない設計)。

↑前の解説が何を意味するのか???

「直進キー」がスライドする位置調整は直進キーを固定するネジ止め位置で決まると言うことです (マウント部の位置調整で直進キーの固定位置を調整できないから)。

ところが今回の個体は直進キーを締め付け固定するネジ2本のうち左側が既に空転しています (つまりネジ山がバカになっている)。「直進キー」とは距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツなので直進キーの位置調整が適正ではない限り距離環を回す時のトルク感が重くなります (トルクムラの原因)。

今回の個体は右側の1本の固定ネジだけで直進キーが固定されていました (左側のネジ頭プラスが既に潰れている)。しかし、片側の固定ネジだけでは何度組み上げても距離環を回して鏡筒を直進動させているうちに絞り羽根の開閉がズレ始めます。仕方ないので代用ネジを2本調達して入れ替えました。そもそも内部で使われている他のネジ種が全て「マイナスネジ」ばかりなのに何故にここだけプラスネジを使っているのか意味が分かりません(笑)

そこで導き出される推論は過去メンテナンス時に代用されているネジと言うことになります。

↑ようやくマウント部をセットできて撮影できたのが上の写真です。

このマウント部を被せる作業時に位置調整するのは以下になります。

(1) 直進キーと直進キーガイドの咬み合わせ
(2) 機構部の爪と開閉アームの咬み合わせ
(3) なだらかなカーブとカムの位置合わせ
(4) マウント部組み付け箇所 (固定孔) の位置合わせ
(5) もちろん無限遠位置合わせ (ヘリコイドオスメスの位置合わせ)

結局、これだけの位置調整をすべてクリアできずに絞り羽根の開閉異常に至っていたワケで、その改善に丸2日半の時間を要したと言う次第です。

修理広告 DOHヘッダー 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑残念ながら完璧な改善を諦めました。当方の技術スキルではこれ以上の改善はムリなので、必要があればプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に再度整備をご依頼下さいませ。以下の 問題点が残ったままです・・。

 距離環を回す時のトルク感が重い
当初バラす前の重さに比べるとだいぶ軽い印象ですが、一般的には「重め」です。

 絞り環操作でf1.4〜f2で鳴きが出る
当初の固い操作性は改善しましたが既に擦れが裏側にあるのか「キッ」と言う鳴きが出ます。

 マウントアダプタ装着時のみ絞り羽根開閉正常
フィルムカメラ装着時はシャッターボタン押し下げのみ適正な設定絞り値まで閉じます。

 無限遠位置∞〜10m間で絞り羽根が不安定
フィルムカメラ/マウントアダプタ装着の別なくこの位置で絞り羽根開閉が不安定です。

 距離環固定位置は当初位置にした
オーバーインフ量を減らしつつネジ込み位置を変更して適正な状態に戻しました。

今回の個体は過去メンテナンス時に以下のような問題点や所為が成されていると推測します。

(1) 白色系グリースを塗布した後に潤滑油を注入
結果ヘリコイド (オスメス) ネジ山摩耗が進行しトルクムラの一因に至っています (の結果)。

(2) 絞り環操作のチカラがそのまま他所に影響
固かったf1.4〜f2のチカラがそのまま他部位に伝達され変形や摩耗 (軟らか) に至っている。

(3) 絞り連動ピン押し込み量のチカラに対して機構部爪が軟らかすぎる
フィルムカメラ装着まで考慮して調整するとまた爪が変形するので見切りました。

(4) 機構部爪に最も影響が出ないよう距離環固定位置を変更
過去メンテナンス時に用意された下穴をそのまま使い機構部爪の影響を低減させました。

距離環の固定位置は距離環をご覧頂くと1本だけ異なる位置にイモネジが入っています (4本のうち1本)。その位置が異なるイモネジが下穴が必要なのですが製産時の下穴は「1箇所のみ」です。それが今回の個体にはもう1箇所 (合計2箇所) 備わっていたので過去メンテナンス時に ドリルで下穴を開けています。おそらく理由は絞りユニットから飛び出ている「開閉アーム」の変形を防ぐためだったと推測できるので今回も同じ下穴を使いました。

但し、そうすると再びオーバーインフ量が増大してしまい「機構部爪」に負担を掛けるので ヘリコイドのネジ込み位置を変更してオーバーインフ量を減らしたまま下穴を流用し、且つ「機構部爪」への負担を低減させました。

これ以上の改善は当方の技術スキルでは全く以てムリなので、申し訳御座いませんが今回の個体の再整備はご辞退申し上げます (この個体はスミマセンがもう二度とバラしたくないです)。

↑光学系内にも問題点がありました (ご依頼内容には無し)。第1群 (前玉) の理論側に薄いグリーン色のコーティング層が蒸着されていますが、おそらく過去に清掃した時塗ってはイケナイ洗浄液を塗布したのではないかと考えます。その理由は、普通清掃できる人 (整備者/プロ) は小さく円を描きながら清掃していくのですが、裏面側に薄く残っているクモリを見ると横方向に清掃しています。

つまりLED光照射で確認すると土星のような横縞が極薄いクモリとなってほぼ全面に渡り視認できます。コーティング層の劣化なのですがそれを促したのは過去メンテナンス時の洗浄液が一因ではないかと推測します。当然ながら当方では除去できないので一旦硝子研磨してコーティング層を剥がして再蒸着しない限り透明に戻りません。

↑後群側は透明度も高くキレイな状態を維持しているので前玉裏面の問題点は写真には影響しないと考えます。

↑絞り羽根の開閉には前述の問題点が残ったままです。申し訳御座いません・・。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース粘性:軽め」ですがヘリコイドのネジ山が細かく切削距離が長いのでこの程度のトルク感「重め」に仕上がってしまいます。当方ではこれ以上軽くできません。ピントの山がアッと言う間なので当方としてはこの程度のトルク環の方がピント合わせはし易く感じます (軽めがお好きな方には重く感じます)。

距離環を本来製産時の「下穴」位置で固定すれば違和感なく回せるのですが、そうすると絞り羽根の開閉異常が酷くなり、結果的に機構部爪に負担となり最悪「製品寿命」を迎えますから敢えて過去メンテナンス時に電気ドリルで空けられたであろう下穴を代用しました。従って 距離環を回す時の違和感はこれも改善できません。申し訳御座いません・・。

↑総じて改善できているとは言い難い仕上がりですが、これ以上は当方ではムリですし再整備もできません。スミマセンが宜しくお願い申し上げます。なおマウントアダプタ装着時を優先したのではなく「全ては機構部爪への負担軽減策」と言うたったそれだけを最優先した結果の仕上がりです。距離環の操作性や絞り環操作、或いは絞り羽根の開閉などはすべて二の次で、それほど弱っているので強いて言えば「限りなく製品寿命に近づいている個体」です (開閉 アーム以前に機構部爪の弱りが酷い)。おそらく過去メンテナンス時も同じことで悩んであ〜だこ〜だいろいろやったのではないでしょうか?

本会員様なのでご納得頂けない要素に関しては「減額申請」が可能ですが、そうは言っても 当方の責ではない要素が多いようにも感じています。申し訳御座いません・・。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カルラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」です。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」で撮りました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。このような不本意なる仕上がりになりお詫び申し上げます。