◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON 55mm/f1.2 TOMIOKA(M42)

発売メーカーは「YASHICA (ヤシカ)」ですが、レンズ銘板に「TOMIOKA」銘の刻印がある正真正銘「富岡光学製」OEMモデルです。当時のM42マウントのレンズでは世界で唯一開放F値「f1.2」を達成したモデルで、その特異な光学系は後玉を切削加工してまで生産したと言う「拘り」を持った、ある意味日本の光学メーカーの意地を見せつけたようなモデルでもあります。過去に様々な解説本でも紹介された銘玉のひとつですね。

開放F値からもとても大きな光学系を装備した大玉の標準レンズです。古いレンズなどでは国産外国産を問わず、その筐体の材質に「砲金 (ガンメタル)」を採用していたオールドレンズが存在しますから、重量だけでは光学系のガラスの質量とは一致しないこともあります。しかし、当レンズには砲金が全く使用されておらず、重量はまさしく「ガラスの塊」故であることが分かります (このページの最後のほうでご紹介しています)。

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オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

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ここからは解体したパーツを使って実際に組み上げていく組立工程の写真になります。

まずは絞りユニットと光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド(オス側)は鏡筒と独立したパーツ構成になっています。

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実際に絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

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次の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

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この当時のレンズでは多く採用されていた仕様ですが、真鍮材によるヘリコイド(メス側)を無限遠位置のアタリを付けてネジ込みます。このモデルでは組み上げ完成後の「無限遠位置調整機能」を装備していないので、ネジ込み位置をミスると組み上げ完成後に再びバラしての組み直しに陥ります。

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ヘリコイド(オス側)を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションにてネジ込みます。

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材質面でいまだに納得できていない疑問なのですが・・日本製レンズの中には「アルミ材削り出し」によるヘリコイドのオス・メスの組み合わせがある一方、逆にこのような「真鍮材」のヘリコイド(メス側)を間に挟んだ方式でのパーツ構成も、当時は多かったようです。わざわざ「真鍮材」を間に挟むのは、どうしてなのでしょうか? 合金生成時の添加する鋼の相違によって、合金材に備わる展延性の違いから仕様諸元を維持させる目的もあるのでしょうか?

ヘリコイド(オス側)に鏡筒カバーをセットします。富岡光学製の場合、鏡筒自体はネジなどによる固定をせずに単にこの中に差し込むだけです。最後に絞りユニットカバーを被せて、それをイモネジで固定します。

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鏡胴「前部」はほぼこれで完成ですので鏡胴「後部」にあたるマウント部を組み上げます。絞り連動アームやカム、或いは絞り環連係機構部や「自動/手動スイッチ」などを組み付けます。

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絞り環をセットして絞り環の固定環をマウント側からハメ込み、イモネジで固定します。この方式の絞り環固定方法も富岡光学製の「証」です。従って富岡光学製のモデルの場合には、必ずマウント部に絞り環用の固定環が「イモネジ」で固定 (3箇所の固定) されています。

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上の写真で写真左端の「自動/手動スイッチ」の位置にある黒色の細い「環」が絞り環用の固定環 (絞り環の下側) です。丁度「自動/手動スイッチ」の直ぐ右隣に小さな丸い穴があり、イモネジで締め付けられています。筐体のデザインがどうであれ、また距離環の回転方向が右回り、左回りの相違があっても、最終的にはこの部分を確認すればすぐに「富岡光学製」なのかどうかが分かりますね。意外と簡単な判別の方法です(笑)

基台にマウント部を組み付けます。この状態で光学系前後群を組み付けて距離環をセットした後に無限遠の確認と光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認を行えば完成間近ですね。

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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

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光学系の内部はとても良い状態を維持しているのですが、残念ながら当レンズは前後玉の状態が良くありません。発売が1970年ですから、1960年前後のレンズなどと比較してもそれほど古くはないのですが、富岡光学製のレンズは既にカビが生じている個体が非常に多くなっています。特にヤシカのモデルでは大抵の場合カビが発生しています。

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絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。やはり油染みの影響を受けて絞り羽根の開閉が緩慢になっている個体も多いですね。特にこのモデルの場合、絞り羽根に負荷が掛かる設計ですので、油染みの放置は危険です。

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ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かにある個体ですが、概ねキレイな部類でしょうか。当方の状態表示では「美品」としています。

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残念なことにフィルター枠の変形があり修復しています。上の鏡胴写真では1枚目のフィルター枠部分に修復箇所が写っていますが、ほぼ判別がつきにくいレベルまで修復できました。もちろんフィルターの着脱には支障を来しません。

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光学系後群、特に後玉の状態はそれほど良くありません。カビ除去痕が複数ありコーティング劣化やコーティング剥がれも起きています。

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光学系は前玉にもカビ除去痕が複数あり、やはりコーティング劣化やコーティングのハガレが生じています。そのため、各絞り値での実写確認を行いましたので掲載します。

まずは開放F値の「f1.2」です。絞り環は「半段」ずつの絞り値設定になりますが、以下の写真では一段ずつ絞り値を変えて撮影しています。

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被写界深度が大変浅いのでピンボケのようにも見えますが、実はヘッドライトにピントを合わせています。実際の撮影時でも手前側のヘッドライトのその部分にしかピントが合いませんでした。その直ぐ横のフロントグリルは既にボケが始まっています。

次はF値「f1.4」です。

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ピント位置は変えていませんので、そのまま手前側のヘッドライド部分です。僅かにハッキリしてきたでしょうか?

F値「f2.0」になります。

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このくらいになるとピント位置も明確化してきます。しかし背景のボケ味はまだトロトロ状態ですね。

次はF値「2.8」です。

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シッカリしたピント面を構成するようになりました。

F値「f4.0」になります。

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富岡光学製レンズらしい、非常に繊細で細いエッジの描写です。それでいて被写体の材質感や素材感をキッチリ写し込む質感表現能力に優れていますね。被写体のミニカーは金属製ではなく、実は樹脂製 (プラスティック製) なのですが、シルバーメタリック部分の光沢感が、背後のライターの金属部分と比較すると、その輝きレベルの相違がシッカリと写し込まれています・・さすがです。

F値は「f5.6」ですね。

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だいぶ端正な写りになってきました。金属に塗装した場合と樹脂への塗装とでは、微妙にその質感の違いがちゃんと現れます。ミニカーの赤色部分を見ても、そのように感じますね。

次の写真はF値「f8.0」になります。

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そろそろ限界値に来ているでしょうか・・。

F値「f11」です。

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最後のF値「f16」になります。

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シーンによっては当レンズでは光学系 (特に後玉) の状態が影響し、1枚ペール越しの写りのようになる可能性があります。光の入射具合により影響も変わるかと思いますので、ご留意下さいませ。

次の写真は前玉のカビ除去痕の状態を拡大撮影しています。

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本来は複数箇所のカビが菌糸状に生じていましたが、カビ取りを行い写真のレベルになっています。しかしLED光照射にて確認すると菌糸状の除去痕が明確に浮かび上がります。

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次の写真は順光目視にて唯一視認できる菌糸状のカビ除去痕 (写真中央) です。但し、非常に微細ではあります。

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こちらは後玉の状態を写しています。無数の点状のカビ除去痕があります。一部はコーティングのハガレになり、コーティング劣化部分もありますね。

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ここからはフィルター枠変形箇所の修復部分の写真です。

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上の写真ではフィルター枠の中央辺り (写真中央付近) が変形を修復した箇所になります。外側はこのように、ほとんど分からないレベルに修復できています。しかし内側のネジ山部分については明確に分かります。

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ここからは「富岡光学製」を示す「証」を幾つかご紹介しますが、以前に出品した個体による撮影写真です。

まずは絞りユニット内部の写真です。絞り羽根を組み付けるためのパーツのひとつに「突起」がある環 (真鍮製) を採用しているのが富岡光学製では多いです。逆に言うと「絞り羽根」の絞り羽根の動きを制御する「金属の突起」が打ち込まれているのですが、富岡光学製の場合は「穴」になっています。結果下の写真のように「突起」が必要になってきます。

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次の写真も「富岡光学製」の大きな「証」です。絞り操作での「自動/手動スイッチ」切り替えに伴い、絞り羽根の制御方法を切り替える部位です。このような「針金状」のパーツを使っているのも富岡光学のみです。最近はこの「針金状」のパーツが変形してしまい、絞り羽根開閉異常を来した個体が増えてきていますね。ヤシカレンズに特に多いでしょうか・・。

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当レンズでは下の写真のように光学系後群が「レンズの塊」のようになっています。さらに切削加工を施して生産しており、拘りを感じます。驚いたことに経年の使用に於いて「レンズの狂い」が生じないよう「ガラスのクサビ」を打ち込んでいます。さすがにこのような考え方は日本人しか思い付きません。当方が昔に家具関係の仕事をしていた経験があるので、その意味が理解できます。家具は木製品ですから「木」特に「無垢材」などは材料として使い製品化されても尚「生きて」います。その成長や狂いを打ち消すために「クサビ」を打つ技術がありました。日本国内の家具職人ではよく使われていた方法でも、海外特に英国などではこのようなクサビを打つ技術がありました。しかし、木製品ではない「硝子材」でこのクサビを考えつくのはせいぜい日本人だけでしょう。

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上の写真では横方向から硝子材を打ち込んで、経年使用、或いは使用時の温度差によるレンズの狂い (ひいては破壊) を防ぐ目的からこのような「クサビ」を入れています。どの位置に最も「狂い」が生じるかを知らなければ、それを防ぐ箇所も分からず「クサビ」を打ち込む位置は判明しません (くさびを打ち込んだ位置に狂いが多く生じているワケではありません)。まさしく「職人技」たる「匠」の仕業ですね・・すごい拘りです! このようなレンズは日本にしか存在しないのではないでしょうか???

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