◎ ISCO – GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン) EDIXA − ISCOTAR 50mm/f2.8《後期型》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツのISCO-GÖTTINGEN社製標準レンズ『EDIXA-ISCOTAR 50mm/f2.8《後期型》(M42)』です。

このモデルの扱いは今回が初めてなので当然ながらオーバーホールするのも初めてです。当方がオーバーホールを始めて7年が経過しましたが、その間目に止めていたことが無いワケではなく、いつも気にはなっていました・・。

しかし、市場の評価は低く「駄目玉」「癒し玉」などと揶揄され日本国内でもあまり人気のないモデルですが、Ernst Ludwig (エルンスト・ルードヴィッヒ) 社製標準レンズ「Meritar 50mm/f2.9 V silver《中期型》(exakta)(クリックすると別ページで開きます) をオーバーホールし出品した際に注目した「癖玉」的な要素と同様の魅力を感じ得たので今回扱ってみる気持ちになりました。

ISCO-GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン) 社は旧西ドイツの光学メーカーですが、同じ旧西ドイツの老舗光学メーカーSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社の100%出資による完全子会社として、戦前のドイツにて1936年に創業した会社です。民生用光学製品の設計や生産を目的として創設されたのではなく、当時のドイツ軍部の要請から政府指示で分社化された経緯があります。会社創設の真の狙いは、第二次世界大戦中のドイツ空軍爆撃機に装備する高性能な爆撃照準器 (光学式射爆照準機) や航空撮影器に使用する高性能なレンズの生産が当初の目的だったようですから意外な出発点ですね・・戦後はSchneider-Kreuznachが高級品路線だったのに対し、ISCO-GÖTTINGENは廉価版の格付で始終したようです。
Schneider-Kreuznach同様近年まで現存し続けていましたが経営難から紆余曲折を経て2004年には倒産してしまいます。その後再生を来たし2014年には再び親会社のSchneider-Kreuznachに再統合され現存しています。

今回オーバーホール済で出品するモデルは「後期型」にあたりますが「前期型」では総金属製のゼブラ柄でした。この「前期型」ゼブラ柄は過去にオーバーホール/修理した経験がありますが、ハッキリ言ってSchneider-Kreuznach製オールドレンズと同様、内部の構造化から構成パーツの調整に至るまで「超難度」モデルばかりであり、正直関わりたくないのがホンネです。

しかし、当方のせいでこのゼブラ柄の魅力に憑かれてしまった (?) 当方のファンの方がいらっしゃり、毎月のようにオーバーホール/修理のご依頼を賜っており、せめてもの罪滅ぼしとして一生懸命オーバーホールしている次第です (遅れててすみません!)。

この標準レンズは当時旧西ドイツのカメラメーカーであるWirgin (ヴァーギン) 社から1970年に発売された「Edixa-MAT-REFLEX」と言うフィルムカメラのセット用レンズとして開発/生産され、このフィルムカメラにはM42マウントのモデルも存在していた為に今回の標準レンズが登場することになります。ちなみにドイツ語なので「w」はラテン語/英語での「v」になり「ヴァー」と言う発音ですね。

なお「後期型」では完全なフルモデルチェンジが成され筐体外装がエンジニアリング・プラスティック製に変わってしまいました。逆円錐状のカタチ (ハス型) をしており全高:47mm/全幅:58mmと言う意外とコンパクトな筐体サイズです。今までに触ったことがなかったので筐体がエンジニアリング・プラスティック製だとすれば、バラした後の組み上げには相応に難儀すると多少敬遠していたキライもありますが、実際にエンジニアリング・プラスティック製なのは「レンズ銘板・距離環・絞り環・スイッチ環」だけであり、肝心な基台部分とマウント部は総金属製でした (マウント部以外がエンジニアリング・プラスティック製だとばかり思い込んでいた)。

そして、今回バラしてみたところ当時のドイツ製オールドレンズの中でも希にみる独創的な設計が成されていた事実が判明しました。

光学系は3群3枚の典型的なトリプレット型ですが、旧東ドイツMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズでも多く採用されている当時としては人気だった光学系設計です。後にはトリプレット型から発展する3群4枚のテッサー型が主流になりつつさらに派生していくことになります。


上の写真はFlickriverにてこのモデルの実写を検索した中から特徴的な写真をピックアップしてみました。クリックすると別ページで撮影者の投稿ページが表示されます。

左上から「ソフトフォーカス」「玉ボケ」「水彩画風」「油絵風」「逆光耐性」「発色性」の例として掲載しています。

本来3枚玉のトリプレット型光学系を採用しているのでピント面のエッジは鋭く出てくるのですが、開放時には左上の写真の如く「ソフトフォーカス」な写りになってしまいます。また、アウトフォーカス部がすぐに破綻してしまうのでキレイな輪郭を伴うシャボン玉ボケはもちろんリングボケさえも苦手です。結果、玉ボケが表出できるだけになるのですがその甲斐あって背景のボケ味は充分な距離があれば次の「水彩画風」や多少背景のエッジを強調した「油絵風」などにもなります。逆光耐性は良さそうに見えて実はヒックリ返ってしまうので悪かったりします(笑)

そして、当方が最もこのモデルで注目した描写性の特徴が最後の写真「発色性」です。そもそも親会社であるSchneider-Kreuznach製やISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズも共に「シアンに振れるブルーが掛かった色合いに発色するので、画全体の印象としては「スッキリ」「鮮やか」などになるのですが意外にも「レッド (赤色)」の色合いが魅力的だったりします。結果的に人物写真にはその効果が如実に表れており人肌の美しさは特質モノだと感じました。これを以てして開放時のソフトフォーカスを逆手に活用すれば人物描写にはうってつけだと撮影スキルが無い当方は簡単に考えてしまいますが(笑)、実は「癖玉」なのでまさしく撮影スキルを試されるモデルの一つと言えましょう・・。

なお、今回出品する個体は「後期型」なのでエンジニアリング・プラスティック製筐体なのですが、製造番号から追跡しても一概に明確な切り分けができない「刻印指標値のカラーリング」が異なっている、市場では少々珍しいほうのモデルになります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみると内部の構成パーツ数が少ないので「初心者向け」にも見えますが、実は相当難度が高いモデルだったりします。

もちろん最近のヤフオク! でも流行っている「完全解体しない整備」ならば簡単に組み上げられるかも知れませんね(笑) 当方はオールドレンズとしての延命処置を最優先している (DOHなので) のでバラせるのであれば100%必ず「完全解体」です。
例えば、絞りユニットをバラすと調整が大変だからと言って、丸ごと溶剤漬けするのも手ですが(笑)、実は絞り羽根のキーが打ち込まれている箇所の経年の揮発油成分やサビなどは完全除去できません (必ず絞り羽根1枚ずつブラッシング洗浄して、且つサビ取りも実施しなければ残っています)。そもそも絞りユニットを溶剤漬けして揮発油成分/サビが完全除去できていると思い込んでいるほうが甘いですね・・何十年も時間が経過したオールドレンズはそんな生易しいモノではありません(笑) 特に金属加工関係のお仕事をされていらっしゃる方はご存知でしょう。

その意味で「ストレス無く使えれば良い」と言うメンテナンス方針は、当方からすれば「その場限りの売りッ放し整備」にしか見えませんが、もちろんご自分でメンテナンスされるならばきっと最後まで使い倒して頂けるでしょうから、それでも良いと思います (飽きたからと言って市場に流さないで頂きたい)。市場に流す際には、是非とも正直な使用感を書き添えて頂きたいものです・・隠して出品されたオールドレンズを落札された方がガッカリするお気持ちや、さらに当方にオーバーホール/修理をご依頼され割高な整備料金を請求されるハメに陥るのは何とも忍びない限りです。ヤフオク! に出品されているオールドレンズを見ていても、不具合が既に発生しているジャンク品にも拘わらず、相応な市場価格で出ている意味不明な出品もあるので笑ってしまいますが・・。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。赤色矢印部分には絞り羽根が5枚刺さるので絞りユニットとしての「位置決め環」の役目を兼ねています。

↑絞り羽根には必ず「キー」が存在し、モデルによっては金属製の突起棒が生産時にプレッシング (打ち込みプレス) されていたり、或いは単なる「穴」が空いているだけの設計もあります。いずれにしても、必ず2つの「キー」が必要であり、片方は絞り羽根が刺さる位置を確定する「位置決めキー」であり、もう一方は絞り羽根の角度を変えて開閉させるための「開閉キー」になります。

今回のモデルでは、鏡筒の深部に既に「位置決めキー」が刺さる「穴」が用意されているので絞りユニットとしての構成パーツ「位置決め環」は存在しません (基台が兼ねている)。

この当時の (ゼブラ柄モデルも含めて) ISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズの最大の特徴が上の写真解説で、絞り羽根の1枚に「カム」が組み付けられている構造です。このカムは絞り羽根にプレッシングされているので取り外すことができません。つまりカム付絞り羽根を強制的に動かすことで他の絞り羽根まで含めて「開閉操作」を伝えている考え方なので、絞りユニット内部に用意されているカムの駆動域が経年劣化で腐食/酸化していると、このモデルはアウトです。

上の写真をご覧頂くと分かりますが、カム付絞り羽根の「位置決めキー」だけが異常に長くなっています。これはカムが駆動して他の全ての絞り羽根を強制制御させている為に、そのチカラが加わるのでワザと長くしている設計です。つまり、この長い「位置決めキー」の経年腐食/酸化が解消されて滑らかな駆動をするのが大前提になりますから、必然的にバラさなければ意味が無いことになりますね。他の絞り羽根 (4枚) はフツ〜のカタチをしています。

↑鏡筒を立てて撮影しましたが、実はこのモデルでは鏡筒自体が距離環やマウント部を組み付けるための「基台」の役目も担っています。つまりここに「コンパクトに造りたかった設計意図」が見えてくるワケですね。しかも、それは同時にコスト削減 (生産工程の削減による人件費削減) にも繋がるワケで、当時のISCO-GÖTTINGEN社の内情からすれば必然的な設計とも言えます。

↑さて、登場しました。このモデルが当時のドイツ製オールドレンズの中でも非常に希な設計を採っているのが上の写真です。何と光学系第1群 (つまり前玉) 自体をヘリコイド (オス側) にしてしまっているのです。

このモデルでは3群3枚のトリプレット型光学系を採っていますが、他の当時の同型光学系を採用したオールドレンズとは全く趣を異にした「光路長可変型」の光学系を設計しています。右の構成図で「ピンク色」の第2群〜第3群を基準として「ブルー色」の第1群が距離環を回すことでダイレクトに光路長を変化させていく設計です。

通常一般的な単焦点オールドレンズは、鏡筒の位置 (つまり光学系前後群) を丸ごと直進動させることで合焦点を可変させていますが、このモデルは第2群〜第3群が一切動きません。距離環の回転と共に直進動しているのは第1群 (前玉) だけです。しかも、前玉はヘリコイドですから回転しながら直進動しているワケですね。

ネット上ではこのことに触れて解説しているページがほとんどヒットしないのですが、そもそもこのような設計を採ってきた理由が見えていないから (つまりな〜んにも考察せずに単純にメンテナンスしているだけだから) 解説できていないのだと思います。何故ならば、このような光路長可変型の設計は当時の単焦点レンズ (しかも廉価版) では珍しいからです。

さらに今回のモデルが特徴的なのは、第1群 (前玉) の外回りに第2群との「突き当て」と言う考え方まで附加しています。これは数多くのオールドレンズをバラしている当方が見ると一目瞭然なのですが、前玉の外回りは切削後に「平滑処理」が施されています。通常前玉の外回りは単に前玉をカシメ固定しているだけの処置しか施されないので、当然平滑には至っていませんし、第2群の硝子レンズ外回りも「平滑処理」が施されており、絞りユニットの開閉環が回る際の抵抗/負荷/摩擦を極力与えないよう配慮されています。

↑こちらは光学系後群である第3群 (つまり後玉) です。やはり外回りに「平滑処理」が施され絞りユニットを締め付ける役目を担っています。つまりこのモデルでは第2群と第3群で絞りユニットをサンドイッチしている設計を採っていることが判明します (逆に言うと絞りユニットは完全固定されていない)。

このような「光路長可変型光学系」や「絞りユニットの未固定」と言う独創的な発想を伴って設計してきた最大の目的は「コンパクト化に拘った」ことが窺えます。それはセットされる先である「Edixa-MAT-REFLEX」の筐体サイズを基に考えれば自ずと明確になってくるでしょうか・・。コスト削減策と共にコンパクト化に拘った徹底的に独創的な設計がこのモデルの特徴なので「単なる3枚玉」とバカにするとちょっと可哀想な気がしますね(笑)

↑第3群 (後玉) を組み付けて絞りユニットを締め付け固定したところです。絞り羽根の「位置決め (穴)」に対する「開閉環」がちゃんと組み込まれていますが、この段階でスルスルと滑らかに駆動しなければ組み上げ後の「絞り羽根開閉異常」に至ります。

つまり「完全解体」することで、組み上げ時の留意点、或いは注意点などが明確になるワケで、単にバラす時にマーキングだけして元通り組み戻せば良いと言う「安直な整備方針」とは全く異なるまさしく「本来の性能機能を発揮させるが為の完全解体」と言えます。その意味で、完全解体せずにストレス無く使えれば良いと言うメンテナンスは、当方からすれば「嘘ばかり (偽り/ごまかし/言い訳)」に見えますが、如何でしょうか?(笑)

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させたところです。この時点で完璧にスルスルの平滑な回転ができていないと、このモデルは「絞り羽根開閉異常」を来しますが、実は絞りユニットはまだ完全固定されていません (このまま逆さにすると絞り羽根がバラけます)。
普通一般的なオールドレンズには、絞りユニットを固定する何かしらのパーツが附随していますが、このモデルには一切ありません。

↑光学系第2群を締め付け固定してようやく絞りユニットが完全固定されました。さすがに光学系で絞りユニットをサンドイッチして固定しているオールドレンズは、そんなに多くはありませんね(笑)

↑この状態で基台 (鏡筒兼ねる) をひっくり返しました。絞り環と連結する「絞り羽根開閉幅制御アーム」が飛び出ておりグリーンの矢印のように動くことで絞り羽根が設定絞り値まで開閉します。

↑この時基台の反対側を撮影しました。「絞り羽根開閉アーム」と言う、マウント面に配置されている「絞り連動ピン」の押し込み動作、或いはスイッチ環の「A/M」切替動作に従い絞り羽根を瞬時に勢いよく開閉しているのがこのアームです。また、前述の絞り羽根1枚に附随する「カム」も上の写真グリーンの矢印のように出てきたり引っ込んだり動いています。

↑当方がこのモデルで一番関わりたくない箇所がこの部位です。「絞り連動ピン連係機構部」になりますが、写真中央に垂直に立っているのが「絞り連動ピン」であり、グリーンの矢印のとおり絞り連動ピンが押し込まれると ()、同時に機構部が反応して絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ「絞り羽根開閉アーム」を爪で左右に駆動します (ブルー矢印)。

ここでのポイントは絞り連動ピンが押し込まれた量の分」しかチカラが伝達しない点です。このことを非常に多くの方々が正しく認識しておらず間違って理解しています。フィルムカメラの時代のオールドレンズでM42マウントのモデルは、マウント面の「絞り連動ピン」の押し込み量に比例してチカラが伝達される設計を採っていることがほとんどです。従って、最近のデジカメ一眼やミラーレス一眼に「M42マウントアダプタ」経由装着使用する時に問題が出てきます。

つまり「絞り連動ピン」の押し込み量が適正ではないと「絞り羽根の開閉異常」に至るワケですね。ところがそれに気がつかず (理解していないから) ムリな操作をしてしまい壊してしまう、或いは不具合をさらに悪化させてしまうパターンが非常に多いと言わざるを得ません。もっと言えば、整備者自身もこれを正しく理解しないままに平気でメンテナンスしています (専業の方々のこと)。

今回のモデルの難度が高い理由は、偏にこの部位の調整と言えます。絞り連動ピンの押し込み量に対する絞り羽根の開閉域の調整が相当に厄介ですから、このモデルで絞り羽根が適正な開閉幅 (開口部/入射光量) で開閉している個体は少ないと言えるのではないでしょうか・・。

なお、この部位には2種類のバネが附随しており、一方は「棒バネ」で片方は「捻りバネ」です。2本のバネの種別が異なるのですが、互いに「絞り羽根を開こうとするチカラ」と「絞り羽根を閉じようとするチカラ」が及んでおり、それらのチカラのバランスの中で絞り羽根の開閉が適正に行われますから、どちらか一方のバネのチカラが弱くなっただけで「絞り羽根開閉異常」に至ります。

↑問題の部位の調整が完了したら「ベアリング+コイルばね」を組み込んで絞り環をセットします。

↑やはり「ベアリング+コイルばね」を仕込んでから自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) であるスイッチ環をセットします。

上の写真は撮影のためだけに撮ったのですが (ベアリングを組み込んでいない)、実際はスイッチ環から指を放すとベアリングがコイルばねのチカラで浮き上がるので、適正な場所にセットされなくなります。つまり、絞り環〜スイッチ環〜マウント部までは瞬時に同時進行で一気に組み付けなければイケマセン。

↑再び絞り環〜スイッチ環〜マウント部の被せまでを一気に実施して無事にマウント部が組み付けられた写真です。マウント部を組み付ける時には以下の要素を同時進行で瞬時に組み付けていきます・・。

  1. 絞り環のベアリングを押し込んだままセットする
  2. スイッチ環のベアリングも押し込んだままセット
  3. マウント部を被せる際に絞り連動ピンをマウント部の「穴」に貫通
  4. その際スイッチ環に用意されている「絞り連動ピン操作壁」に絞り連動ピンを噛ませる
  5. マウント部を被せる瞬間に「絞り連動ピン機構部」のパーツを避ける
  6. これらを一気に行いつつカチッと言う音がして初めて適正な組み付けになる
  7. 当然ながらマウント部以外のプラスティックが割れないように注意!!!
  8. マウント部を被せたら、すかさず (指を放さず残りの指で) 固定する

・・とまぁ、こんな感じでマウント部を被せますが、正直手がもう2本欲しいです(笑) おそらく生産時には専用の治具が用意されていて、手は2つあれば足りていたのだと推測しますからそのような専用具が無いままに薬指や小指まで活用して作業している当方がアホだと言わざるを得ませんね・・指使いが病的すぎて第三者に見せたくない作業風景です(笑) この工程での当方専用のポイントとして、ちゃんと事前にイメージトレーニングして、どの指で何を処置するのかまで考えるのに、ちょっと時間を要したりしています (歳が歳なので指が動くことと脳の反応は既に別モノだから)。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

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DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑実は、当初バラす前に「まぁISCO-GÖTTINGENだとしてもそんなに難しくはないだろう」と高を括っていたので、バラして後悔しきりです。エンジニアリング・プラスティック製の筐体だからと (廉価版の格付だからと) バカにしてるとロクなことになりません(笑)

完璧なオーバーホールが完了しました。ヤルだけやってみると、なかなかオモシロイモデルだと気に入りましたが、次回オーバーホールする気持ちはとうに失せてます(笑)

↑今回の個体は光学系内の透明度が非常に高く、LED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎてすべて写りませんでした。

↑光学系後群も大変透明度が高くキレイなのですが、最初バラすまえに「微細な塵や埃」に見えていたのは「非常に微細な気泡」であることが分かりました。従って、一見すると「何だョ、塵/埃いっぱいじゃん!」と思われるでしょうが、実は「とッてもとても微細な気泡です」と言いワケしておきます。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて微細な点キズを撮っていますが微細すぎてすべて写りませんでした。一部にはカビ除去痕が写っていますし (後玉外周附近) 見る角度によっては「微細な気泡」が塵や埃のように見えます。

↑実際の「非常に微細な気泡」を撮ろうと撮影しましたが、当方の撮影スキルがド下手なので写りませんでした・・。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:9点、目立つ点キズ:8点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・後群は微細な塵や埃に見える複数の「非常に微細な気泡」がありますが当時は正常品としてそのまま出荷されていました。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動しています。前述のとおり、絞り羽根の1枚にカムが附随しているため、チカラの伝達がそのカムに一番最初に伝わることから絞り羽根の開口部のカタチはキレイな「正五角形」にはなりません。これは設計上の仕様なのでクレーム対象としません。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感があまり感じられないとてもキレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。特にエンジニアリング・プラスティック製の筐体パーツは本来の「プライトフィニッシュ (つまり光沢ブラック)」が残っており見ていて美しいですね。このようなエンジニアリング・プラスティック製外装の光沢感を戻す方法がありますが、もちろんプラスティック材専用の光沢剤などを塗ったりしません (成分に薬剤が含まれているので劣化してくると余計に表層面を傷める)(笑) 元々家具屋に勤めていたのでそのような事柄にも詳しいワケです。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:重め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していると擦れる感触を感じる箇所がありますがこのモデルの構造上ヘリコイドのネジ山が擦れている感触ですので改善はできません。
(クレーム対象としません)

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑製造番号から判定すると、筐体指標値のカラーリングがこの時期の「後期型」モデルとしては珍しい刻印で少々希少です (通常はホワイトとレッドの2色使い)。

また塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を塗りましたが仕上がりは「軽すぎ」的なトルク感に至っています。しかし、このモデルのピントの山が掴みにくいこともあり (特に開放時) むしろ「軽すぎ」のトルク感は操作性を良くしていると判断しています。当方にはこれ以上「重い」粘性のグリースが無いのでクレーム対象としません (改善できません)。

レリーズソケットを装備しているので、ちゃんとフィルムカメラでもご使用頂けるよう問題の部位「絞り連動ピン機構部」を調整済です。つまりレンズ単体でも、フィルムカメラでも、マウントアダプタ経由でもすべてに於いて「正常使用できるよう仕上がっている」個体と言えますから、このエンジニアリング・プラスティック製モデルでは、それだけでも貴重かも知れませんね。然し「癖玉」ですから、あまり人気が無いのは承知です。
まぁ、気長に落札を待ちますョ・・(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離80cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」になっています。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。