解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認について

オーバーホール/修理のご依頼をお受けしていると、時々オーバーホール工程の調整に関するご質問を承ります。

  • 無限遠位置確認は機械を使って確認/調整しているのですか?
  • 光軸確認はオートコリメーター (専用の検査機械) で確認/調整しているのですか?
  • 絞り羽根の開閉幅はどうやって確認/調整しているのですか?

・・と言う内容が多いでしょうか。残念ながら、当方は個人なので (法人格ではありません) それら専用の機械設備を所有していません。

(1) 無限遠位置の確認/調整について
プロのカメラ店様や修理専門会社様であれば、無限遠位置を確認するための専用の機械設備を有しており「0.1mm単位」でキッチリと無限遠位置を検査できますが、当方にはそのような機械設備がありません。従って、お恥ずかしい限りですが、実際に遠景を実写して (遠景のピント合わせをして) の確認/調整しかできません・・当方のレベルはその程度ですので、買い被らないようお願い申し上げます(笑)。

実際のオーバーホール工程では「遠景確認 (つまり無限遠位置の確認)」と「実距離2.5m位置」さらに「最短撮影距離」の3箇所について実写によるピント合わせを行い距離環指標値との整合性を執っていますが、その際に当然ながら (ピント合わせの操作をしているので) 距離環を回すトルク感のチェックも行っています。必然的に違和感を感じれば、再びバラしてヘリコイドのトルク調整作業に戻っている次第です。
また、基準としているのは (当たり前のことですが)「無限遠位置 (∞)」を最優先に確認/調整しています。実際にはマウントアダプタとの相性問題もあり、同時に例えフィルムカメラに装着するのだとしても、カメラのボディ側の相違もあるので「僅かなオーバーインフ」設定で仕上げています。
無限遠位置と最短撮影距離位置の確認/調整以外に実距離「2.5m」位置での実写確認/調整を行っている理由は、焦点距離がマチマチだからです。特に広角レンズになるとピント合わせをしていても老眼が酷いので見えません・・(笑) なお、これらの確認作業はすべてミラーレス一眼にて執り行っているので、フィルムカメラに装着しての確認/調整は実施していません (老眼が酷く現実的に見えないのでリクエストもお受けしていません)。

(2) 光軸確認について
プロのカメラ店様や修理専門会社様であれば、光軸の確認をするための専用の機械設備 (電子式オートコリメーター) を有しており「10倍」の精度でキッチリと光軸線を検査できますが、当方にはそのような機械設備がありません。従って、お恥ずかしい限りですが「簡易版の検査具」を使っての光軸確認/調整しかできませんし、光軸線ズレのチェックは実写による簡易版検査具によるピント面のズレを確認する方法になりますから、10倍どころのお話ではありません(笑)

実際のオーバーホール工程では、無限遠位置の確認/調整が終わった時点で既に光軸ズレの懸念に気がつくので (ピント面に違和感を抱くので)、光軸確認せずとも光軸ズレが判明するのですが、最終的な光学硝子レンズの光軸ズレは未確認のままです。従って、必ず最後の工程として「簡易検査具による光軸確認」を実施しています。

具体的には、当方が使っている簡易版検査具 (左上写真) の光軸確認チャートにて中心部の「」が円形窓の中心に位置していれば光軸ズレは発生していません (チャートの中心に丸穴が空いています)。万一、光軸ズレが生じていた場合には「」が左右いずれかの方向に「半円」として結像しますから、すぐに判明します。
残念ながら、光軸ズレと判定したオールドレンズは、光学硝子レンズの格納筒への固定を再チェックするくらいしか方策がありません (再度光学硝子レンズを格納固定し直す作業)。従って、改善が不可能だったオールドレンズに関しては、当方が調達した個体の場合には「ジャンク品」としてヤフオク! に出品することになりますし、オーバーホール/修理のご依頼分についてはその旨ご報告することしかできません。あくまでも「光軸確認」を実施しているだけであり、光軸ズレを修正できる機械設備などは一切ありませんが、本来生産時のチェックを経て出荷されたオールドレンズならば、光軸ズレが生じる可能性は「光学硝子レンズの格納筒への収納/固定の問題」を除いては、非常に少ないと思います。
なお、希に「色収差 (画の中心部から周辺域に於いて生ずる色ズレの収差)」に対して光軸ズレがあるとのご指摘をお受けしますが、光学設計上で踏まえた「色収差」ですので「光軸ズレ」とは異なります(笑)・・当然ながら、設定絞り値との兼ね合いで変化しますし、被写界深度に拠っても異なりますからご留意下さいませ。

(3) 絞り羽根開閉幅の確認/調整について
「絞り羽根開閉幅」とは、絞り環に刻印されている「絞り値」に対する絞り羽根の開閉度合い (開口部/入射光量) を指しています。オールドレンズの多くは「開放」時には絞り羽根が顔出ししていない完全開放の状態が多いですが (一部のモデルは絞り羽根が顔出ししているのが正常な場合もあります)、絞り環を回して最小絞り値へと設定を変えていくに従い、絞り羽根は角度を変えて次第に閉じていきます。この時の各絞り値と実際の実写時に於ける「ボケ量のチェック」を簡易版検査具のチャートにて確認/調整しています。
実写してチェックすると「前ボケ」や「後ボケ」などが確認できるワケで、絞り羽根の開閉度合いが適正ではないことが確認できます。この工程も無限遠位置によってピント面が変化します・・つまり無限遠位置にて適正化させている以上、∞〜最短撮影距離位置までの距離環距離指標値と実距離との整合性は非常に低く、必ずズレが生じます。もちろん光軸ズレが生じていれば具体的なボケ量すら把握できませんから、必然的に最後の確認/調整になります。
各絞り値に於ける「ボケ量」の範疇は、厳密な検査機械による検査値ではなく、あくまでも当方の目視によるチェックですから、アバウトと言われれば何も反論はできません (つまりその程度のレベルです)(笑)

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いずれも、当方では対象となるオールドレンズを、当方所有のミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着しての「実写確認」しかできず、さらにそれは「簡易版検査具」による確認/調整ですから、専用の機械設備による厳密な確認/調整を希望される方は、ゼッタイに当方にはオーバーホール/修理のご依頼をされぬよう、或いは当方がヤフオク! に出品しているオールドレンズも、ご入札/ご落札頂かぬよう、切に切にお願い申し上げます
オーバーホール/修理ご依頼者様ご所有のマウントアダプタ、或いはフィルムカメラに装着時の無限遠位置や絞り羽根開閉幅の整合性を保証するものではありません。キッチリと厳密な確認/調整を望まれる方は、是非とも技術スキルが非常に高く、納期も短いプロのカメラ店様や修理専門会社様宛にオーバーホール/修理のご依頼をお願い申し上げます。また、ヤフオク! に出品しているオールドレンズでも、本場ドイツにて検査機械を使って整備されたオールドレンズを専門に扱っていらっしゃる方 (ドイツ在住の方) や、日本国内でも50本以上のオールドレンズの中からご自分で試して厳密に描写性能を選りすぐって出品していらっしゃる方も居ますから、そちらの出品商品を選ばれるほうが安心面や信頼性が高いと思います。

当方はあくまでも当方自身でオーバーホールしており、且つ簡易版検査具による確認/調整しかできないので、一日に一本しか整備できない (最低8時間かかります) と言う技術スキル面の低さも相まり、厳密な精度を要求されてもご期待に添えません・・まさしく前述のヤフオク! 出品者の方々が仰っている「目視による曖昧な整備」の範疇ですから、プロのカメラ店様や修理専門会社様と同格レベルにお考え頂かぬよう、くれぐれもお願い申し上げます。何度も言いますが、当方の技術スキルは低く個人レベル止まりです・・。