◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Tessar 50mm/f2.8 王 silver《前期型》(exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズ『Tessar 50mm/f2.8 silver《前期型》(exakta)』です。

当方は、このテッサーを “The King of Tessar!” と呼んでいます。それは、レンズ銘板に「」刻印があるからなのですが、そうは言っても、当時の旧東ドイツ製オールドレンズですから、レンズ銘板に「漢字」が刻印されているワケがありません(笑) 今回出品する個体は、製造番号から1953年に生産された個体だと推測できますが、その当時のオールドレンズに刻印されているのは「T」であり、いわゆる「zeissのT」と呼ばれているモノコーティングを表します (マルチコーティングは「T*」)。ネット上では、真しやかに「Tのミスタイプ」などと解説されていることがありますが、そうではありません(笑)・・万一、ミスタイプならば生産時にレンズ銘板を別の正しいモノと交換して出荷すれば済んだハズです。

ヒントは当然ながら「赤色刻印」と言うことになりますから、モノコーティングを表しているのだと推測できますね・・正しくは「アポクロマートレンズ」であることを示している刻印が『』なのです。アポクロマートレンズとは、厳密に色収差などの補正を行ったレンズを指しており、当時生産数自体が大変少なかったことからも希少価値は、現在の市場に於いても必然的に高くなっています。

総天然色 (色彩) を表すのに現在のデジタル技術では『色の三原色』として「RGB」() を使いますが、当時は「RBY」() を使っていました (最近ではデジタル技術がさらに発展してRGBYの4原色を使い、輝度を極端に上げることなく画全体を明るく表示し、それでもなおより明確な色再現性を狙っていることも多くなっています)。
光学硝子レンズに「光」が入射する時、その三原色の要素に対して厳格に色収差の補正を施したレンズを「アポクロマートレンズ」と呼んでおり、当時は各光学メーカーに於いても非常に高価で且つ生産数自体が少なかったオールドレンズになります。「」の意味合いは光学硝子レンズを縦線「Ι」に見立てて、左側から光 (3本) が入射し、色収差の補正が成された光が右側から射出していることを表したロゴです。世代がさらに古いオールドレンズには「王」の縦線が上下に僅かに飛び出ている刻印もあったりします (三本線が縦方向に串刺しのような)。従ってコーティングの種別を表すモノではなく (コーティングとしてはあくまでもモノコーティングですから赤色刻印) 色収差を厳密に補正し、色ズレを極力解消させていることを意味しています・・結果、よりキッチリカッチリ写ると言うワケですね (このページの一番下に今回出品するオールドレンズによる実写を掲載しているので、如何に色ズレが低減されているのかご確認頂けます)。

さて、今回出品する個体は、製造番号から1953年の生産個体だと推測しているワケですが、実は当時、同じシルバー鏡胴の「Tessar 50mm/f2.8 T silver」が数多く生産され同じタイミングで出荷されていました。従って、当方のデータベースを調べてみても、今回出品する個体の製造番号に前後して「T」付のシルバー鏡胴テッサーが混在しています (今回出品個体の製造番号の前にも後にも存在します)。
如何に生産数自体が少なかったのかがお分かり頂けるのではないでしょうか・・。

【シルバー鏡胴Tessar 50mm/f2.8のモデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型:1948年発売
絞り環:ライン有/無一部で混在
レンズ銘板:Tまたは刻印有り
絞り羽根枚数:14枚
最短撮影距離:50cm
絞り動作:手動絞り (実絞り)
製造番号:30xxxxx 〜 39xxxxx

中期型
絞り環:ライン
レンズ銘板:Tのみ有り (王刻印無し)
絞り羽根枚数:12枚
最短撮影距離:50cm
絞り動作:手動絞り (実絞り)
製造番号:37xxxxx 〜 49xxxxx

後期型:(筐体サイズが大型化)
絞り環:プリセット絞り機構なし
レンズ銘板:T刻印無し
絞り羽根枚数:10枚→8枚/一部に混在
最短撮影距離:50cm
絞り動作:半自動絞り
製造番号:47xxxxx 〜 60xxxxx

他にも途中に以下のバリエーションが存在しています。

絞り環:プリセット絞り機構なし
レンズ銘板:T刻印無し
絞り羽根枚数:12
最短撮影距離:60cm
絞り動作:手動絞り (実絞り)
製造番号:60xxxxx〜

絞り環:プリセット絞り機構なし
レンズ銘板:T刻印無し
絞り羽根枚数:8枚
最短撮影距離:50cm
絞り動作:半自動絞り
製造番号:43xxxxx〜

光学系は当然ながら3群4枚のテッサー型なのですが、この後に登場するゼブラ柄〜黒色鏡胴のモデルでは最短撮影距離が35cmまで短縮化されます (テッサーは一部を除いて最短撮影距離50cm)。従って光学系の設計を一度再設計しているようです。
特に「アポクロマートレンズ」である今回のモデルは、その描写性がまさに「鷲の目テッサー」たる所以でしょうか・・かと言ってギラギラした誇張感は無く大人しめのコントラストで発色性も違和感を感じません。

左の写真は、今回出品する個体と黒色鏡胴の光学硝子レンズ (第1群と第3群) を並べて撮影した写真です。同じテッサーでも「初期型」のほうが、極僅かに光学硝子レンズの外径が大きく厚みのある設計 (つまり曲率が異なる) だったことが分かります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。シルバー鏡胴のテッサーでは貴重な「14枚絞り」を装備している「初期型」です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在しています。標準レンズの焦点距離50mmですが、光路長の関係から鏡筒が長く深くなっています。

↑14枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットをセットします。実は、このシルバー鏡胴のテッサーでは、絞りユニットの固定に「C型環」と言う留め具が使われており、その関係から光路長が長いために最短撮影距離が50cmになっています。逆に言うと、この後に登場するゼブラ柄〜黒色鏡胴のテッサーでは、絞りユニットの固定を「光学系前群」が兼ねているので (つまりC型環が無い)、結果的に光学系も新たに設計し直されて最短撮影距離が35cmまで短縮化されたワケです (最短撮影距離の短縮化が狙いだったか)・・バラすと内部の構造が判明するので、必然的に設計の意図が伺えオモシロイですね(笑)

↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。ここからはプリセット絞り環や絞り環の組み付けに入っていきます。

↑まずは絞り環を鏡筒の下側からネジ込んでいきます。最後までネジ込んでしまうと適正な絞り羽根の開閉ができません。上の写真で縦方向に複数ある「溝」は「プリセット絞り値キー」と言って、設定絞り値の「キー (溝)」に絞り環の内側に用意されている突起棒がカチカチと填ることで開放「f2.8」と設定絞り値との間で絞り羽根の開閉ができるようになります (つまりプリセット絞りの仕組み)。

↑さらにプリセット絞り環を組み付けます。プリセット絞り環をマウント方向に引き戻しながら「」マークを希望する絞り値に合わせて指を離すとカチッと音がして填ります (停止する)。すると、開放F値「f2.8」との間で絞り環全体が丸ごと回るようになるので、絞り羽根の開閉が制御できるワケです。

↑こちらは指標値が刻まれているマウント部になります (exaktaの爪を外してある状態)。

↑距離環であるヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。さらに、ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この後は、完成している鏡筒をセットして光学系前後群を組み付け、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすればいよいよ完成です。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが終わった出品商品の写真になります。

↑レンズ銘板に誇らしげに刻印されている「」マークが目を引きます・・滅多に出回らない (海外オークションのebayでも1年に数本レベル) 大変希少な『Tessar 50mm/f2.8 silver《前期型》(exakta)』です。

↑光学系内の透明度が大変高い個体ですが、残念ながら前後玉の表側はコーティング層の経年劣化が進行しており、LED光照射では非常に薄いクモリとして視認できる状態です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。アポクロマートレンズなので、のこの当時の「T」付銀鏡胴テッサーと比べてもコーティング層の光彩が異なります。前玉表面はコーティング層の経年劣化が進行しているとは言え、上の写真のとおり酷い状態ではありません。

↑光学系後群も貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) ですが、透明度が高い状態を維持しています。後玉の表側はコーティング層の経年劣化からほんの微かにLED光照射では薄いクモリが視認できます。

↑上の写真 (4枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜3枚目までは極微細な点キズやコーティング層の経年劣化の状態 (極微細なコーティング剥がれ) などを撮っていますが、最後の4枚目は後玉方向から見た「気泡」を撮影しています。この当時の光学メーカーでは、光学硝子材が規定の高温を一定時間維持した「証」として「気泡」を捉えており、正常品としてそのまま出荷していました (従って写真への影響には至りません)。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:18点、目立つ点キズ:14点
後群内:10点、目立つ点キズ:7点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ有り)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・LED光での汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):有り
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度は非常に高い個体です
・前後玉はコーティング層の経年劣化に拠りLED光照射では非常に薄いクモリを視認できます。一般的な撮影には影響しないレベルですが光源を含むシ〜ンや逆光撮影時にはハロの出現率が上がる等、多少の影響が懸念されるのでご留意下さいませ。
・光学系内に複数の極微細な「気泡」が混在していますが写真には一切影響しません。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑14枚の絞り羽根もキレイになって、ほぼ真円に近いキレイな「円形絞り」であり、プリセット絞り環や絞り環も確実に滑らかに駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方による「光沢研磨」を筐体外装に施したので、当時のような眩いほどの艶めかしい光彩を放っています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑貴重なアポクロマートレンズの『Tessar 50mm/f2.8 silver《前期型》(exakta)』です・・シルバー鏡胴のテッサーをお探しの方は、この機会に是非ご検討下さいませ。以下の当レンズによる実写をご覧頂ければ、色ズレがほとんと生じていないのをご確認頂けると思います。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値を「f4」にセットして撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f5.6」で撮りました。

↑F値「f8」で撮影しています。

↑F値「f11」になりました。

↑F値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。