◎ OLYMPUS (オリンパス光学工業) M-SYSTEM G.ZUJIKO AUTO-S 50mm/f1.4《初期型》(OM)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いためもありますが、このモデルのことをご存知ない方のことも考え今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、1972年にオリンパス光学工業から発売されたフィルムカメラ「M-1」のセット用レンズとして用意された標準レンズ『M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm/f1.4』です。ちょっと詳しい方がご覧になればすぐに「おッ!」と気がつかれるのですがレンズ銘板のモデル銘を見ると「OM-SYSTEM」ではなく「M-SYSTEM」です。発売して2カ月後にドイツのケルンで開催されたフォトキナでライカよりクレームが入りシステム名の変更を余儀なくされ翌年1973年5月にフィルムカメラ「OM-1」としてシステム名称を改めて交換レンズ群も同時に発売されため、現在の市場に出回っている個体で圧倒的に多いのは「OM-SYSTEM」のほうと言うことになります。

この発売当初に既に生産済みの個体に関しては「M-SYSTEM」の呼称を使用しても良いと言う許しをライカから得たのでフィルムカメラ「M-1」は5,000台ほどが出荷されたようです。しかし、今回のモデル「M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm/f1.4」の製造番号は5,000番台を優に超えた符番になっていますから交換レンズ群に関してはさらに多かったようです・・今回のご依頼者はいつもオーバーホール/修理でお声掛け頂くリピーターの方になりますが、このような貴重な個体のオーバーホール/修理をご依頼頂き、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう御座います!

なお、この当時のオリンパス光学工業製オールドレンズは距離環のラバー製ローレット (滑り止め) の下に「暗号」が書かれており、今回の個体はそれによると「1972年11月オリンパス光学工業伊那事業所生産分」であることが判明しています・・まさに発売当初の初期ロット分であり前述の話が正しいことの「証」とも言えますね・・。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

初期型:1972年発売

レンズ銘板:M-SYSTEM G.ZUIKO
マウント部固定ネジ:マイナスネジ
銀枠飾り環:有り (フィルター枠/絞り環)
コーティング:モノコーティング

前期型:1973年発売

レンズ銘板:OM-SYSTEM G.ZUIKO
マウント部固定ネジ:プラスネジ
銀枠飾り環:有り (フィルター枠/絞り環)
コーティング:モノコーティング

後期型−I:?年発売

レンズ銘板:OM-SYSTEM G.ZUIKO
マウント部固定ネジ:プラスネジ
銀枠飾り環:無し
コーティング:モノコーティング / マルチコーティング

後期型−II:1983年発売

レンズ銘板:OM-SYSTEM ZUIKO
マウント部固定ネジ:プラスネジ
銀枠飾り環:無し
コーティング:マルチコーティング

・・こんな感じですが、レンズ銘板のモデル銘で「G.ZUIKO」の部分は「後期型−I」のタイミングでも先に「G」を省いて「ZUIKO」になっている個体が存在するようです。ちなみに製造番号は発売当初の1972年時点で「10x,xxx」から符番スタートしているようです。また「G.ZUIKO」の「G」は実装している光学硝子レンズ枚数を示しており「E:5枚、F:6枚、G:7枚、H:8枚」となっています。

従って今回のモデル「M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm/f1.4」も光学系は6群7枚の拡張ダブルガウス型になり前群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を独立させ後群には1枚追加と言う構成になっています。Flickriverでこのモデルの実写を検察しましたので興味がある方はご覧下さいませ。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。オリンパスのオールドレンズは筐体がコンパクトなワリには構成パーツ点数がとても多いです。昔から「小さく作る」工夫をいろいろと真剣にやっていたんですねぇ〜。 そう言えば、自分が社会人駆け出しの頃「OM-1」を何度も見にカメラ屋さんに通っていたのを思い出しました。1カ月分の給料でも買えなかったような・・(笑)

絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。このモデルでは第4群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を絞りユニットよりも先に組み付けなければイケマセン・・後付けできない設計です。そうチェックしていたハズなのですがシッカリ後の工程で忘れてしまい組み上げてから再びバラすことになりました。最近モノ忘れが激しいですね・・(笑)

今回の個体は光学系前群の格納筒が完全固着しており溶剤を4回流しても一切回らず5回目が最後 (つまり諦めて返却) と覚悟しつつ注入してチカラ任せに回したらやっと動きました! 何しろ肩を痛めているのでカニ目レンチでチカラ任せに回す作業が一番怖いです・・今回は肩がダメになるギリギリのタイミングでした (チカラ任せに回すのは5回が限度です)。一旦肩に痛みが走ると一晩寝なければ回復しません (つまり仕事になりません)。

この当時のオリンパス光学工業製オールドレンズは前玉側に絞り環を実装している関係から「光学系前群と絞りユニットの間」に制御系の構成パーツが一極集中している構造です。他社光学メーカーでは絞り環がマウント側に位置しているのが一般的ですから制御系の構成パーツは「鏡筒の裏側 (つまり絞りユニットの後側)」に配置されている設計が多いです・・オリンパスは逆パターンなので上の写真のように絞りユニットのベース環に複数のネジ穴が用意されています。絞りユニットよりも光学系前群側に制御系を配置している一風変わった設計と言うことになります。

前述のネジ穴が多数空いている絞りユニットのベース環裏側に上の写真のように8枚の絞り羽根を組み付けます。写真右側にあるメクラを被せてからネジ止め固定すると絞りユニットが完成します。

外していた制御系の構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し表層面の平滑性を確保します・・今回の個体はこれら金属製パーツが相当錆びており一部は本格的な赤サビも出ていました。過去のメンテナンス時にはこの制御系構成パーツにもグリースが塗られていたようです (それゆえに錆びてしまったワケですが)。上の写真のように様々な連動系・連係系パーツを順番に従って組み付けて絞りユニット (表側) も完成させます。

逆に言うとマウント部内部が非常にシンプルな構造になっているので絞り羽根の駆動から絞り連動ピンとの連係動作、或いは絞り環の操作性なども含め、この絞りユニットの連動系・連係系パーツ調整如何ですべてが決まってしまいます。

絞りユニットが完成したら次は制御系の構成パーツを組み付けていきます・・つまり鏡筒内部は「絞り羽根→連動系・連係系→制御系」の3層構造 (3階建て) になっているワケで、最後はこの上に光学系前群が入りますから相当密集した構造です。絞り環との「連係アーム」を取り付け、同時に絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を決定する機構部と連係させます。さらに「絞り連動ピン連係アーム」も組み付けてマウント部との接続ができるようにします。

この「絞り連動ピン連係アーム」は固定ネジを2本使うのですが中心部にもう1本ネジがあります・・実はこの中心のネジをほんの僅かに回すことでアームが左右にブレるような構造になっておりアームを固定している2本の固定ネジの穴もマチ (調整用の隙間) が用意されているワケです。逆に言えばマウント部にある絞り連動ピンとの接続に於いて「調整が必要」と言うことになるのですが、一方「絞り環連係アーム」側の固定ネジには調整用のマチ (隙間) が用意されていません。

たったそれだけの違いにピンと来ないと後で再びバラすハメに陥ります・・常に「観察と考察」ですね。絞り環にはクリック感を実現する目的としてマイクロ・スプリングが入っているだけなので単純に「接続」させればOKと言うことになりますが、片やマウント部にある絞り連動ピンに関してはフィルムカメラから加わるチカラとの兼ね合いで絞り連動ピンが戻るチカラが必要です (そうしないと絞り羽根が自動開閉しない)・・そうなると架かってくるチカラの調整が必要になってくるので「絞り連動ピン連係アーム」自体の調整も必要になるワケです。

つまりオールドレンズの整備をする際に「デジカメ一眼やミラーレス一眼での使用」と限定しているならばマウントアダプタに装着してしまうので必然的に「手動絞り」なワケですが、オールドレンズ単体の整備レベルとして考えた時にはフィルムカメラでも使えるよう (生産された時と同じ状態) になって然るべきと考えます。すると絞り連動ピンの動きに伴う連動系・連係系の正しい駆動が「本来あるべき姿」として考えられるワケでここの調整が重要になってくる (と気がつく) ワケですね。後はその調整を行うのか行わないのか (妥協する/無視するのか) だと思います。

何を言いたいのか・・オーバーホールをする以上、完璧に正常な状態で仕上げられたのか、或いは内部構成パーツの経年劣化に拠り何かしらの制限が生じてしまったのかを明確にしてご依頼者様に返却するのが「本来の整備する姿勢」ではないかと言う考え方です。何が原因で結果的にこうなってしまったのか・・と言う説明ができなければダメだと言うことです。もちろんその説明をしたところで全くご納得頂けないご依頼者様もいらっしゃるのが現実なのですが、少なくとも「原因と結果」を結びつけた説明と合わせてご返却するべきと言うのが当方の方針です。

その意味で当方では一般的な整備作業内容書に見られる「整備点検済」と言うコトバは・・おかしいと考えています。これは当方が過去に電気量販店に勤務していた頃に修理に出されたお客様の反応を見ていて常々疑問に感じていた部分です。何処に異常が発生していて何を処置したのか・・修理代金を支払う側に対してひと言「整備点検済」は無いでしょう?・・と言う考えです。

距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この状態でひっくり返して撮影しました。直進キーと言う「距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ」を両サイドに組み付けます。

距離環を回す際のトルク感 (重いとか硬いとか軽いとかetc.) に最も影響してくるのは当然ながらヘリコイドのネジ山の状態とヘリコイド・グリースなのですが距離環を回すチカラが鏡筒が繰り出されるチカラに何処かで変換されているワケですから、この「直進キー」の調整も重要であることに整備していて気がつかなければダメです。それをたいていの過去のメンテナンス時にはグリースを塗ったくって終わらせている整備がほぼ90%以上です。もちろん今回の個体もグッチョリと (ちょっと多量な) グリースが塗られていましたが、一切効果が無い (つまり塗った時のまま経年劣化して残っている) 状態でした。

絞り連動ピン (の環/リング/輪っか) を組み付けてから固定環をネジ止めします。この状態で絞り連動ピンがスルスルと軽く動かないとダメなのですが、既に鏡筒から飛び出ている「絞り連動ピン連係アーム」と接続しているので前述の鏡筒内部の調整が拙ければ、再びここで鏡筒内部をバラして調整しなければイケマセン。

こちらはマウント部内部を撮影していますが既に内部の構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせて撮影しています。やはりグリースが塗られていたので内部の構成パーツには一部に赤サビが出ていました。

外していた構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し赤サビも取り除き組み付けます。各構成パーツは滑らかに駆動するようになっているので当方ではグリースなどは一切塗りません・・何故ならば、このマウント部内部には光学系後群が入ってきますし当然ながら絞りユニットも位置してきます。すると経年の揮発油成分がオールドレンズ内部に廻ってしまい最終的には光学系のコーティング層に影響を来してしまいます。

実際も今回の個体は絞りユニットを挟んだ第4群と第5群に本格的なカビが多数発生していました。もちろん第1群である前玉から最後の第6群 (後玉) まですべての光学硝子レンズにカビが生じていました・・特に酷いのが絞りユニットを挟んだ表裏と後玉です。

全部で6群もあるのに、どうしてその3箇所だけに集中してカビが発生しているのでしょうか・・??? 答えは過去のメンテナンス時に必要以上に塗ったくったグリースが経年劣化により揮発油成分が発生し、それに反応して結果的にカビが生えてしまったのです。従って「必要以上のグリースは塗らない」ほうが安心して今後も使えると言うことになりますね・・そのために内部の構成パーツに「磨き研磨」を施しています。

マウント部を基台にセットします。

ようやく絞り環を組み付けられます。

距離環を仮止めしてから光学系前群を組み付けて、この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

完璧なオーバーホールが完了した貴重な (個体数の大変少ない) 初期型の『M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm/f1.4』です。

光学系内は前述のとおりすべての群にカビが発生していました。特に酷かった第4群 (裏面) 〜第5群 (表面) のカビはキレイに除去できましたが2点だけ微細なカビ除去痕が残っています (写真には一切影響ありません)。また透明度はピカイチのレベルです。

残念ながら光学系後群の「後玉 (表面)」には無数のカビ除去痕が残ってしまいました。順光目視ではほとんど見えないのですがLED光照射では全面に渡って点状のカビ除去痕が視認できます。当方にて「硝子研磨」を施し順光目視で視認できない程度までは除去できましたがコーティング層を浸食してしまったカビのカビ除去痕はどうしても除去できません。コーティング層を一旦剥がしてコーティング層の再蒸着をしない限りキレイになりませんが当方にはそのような設備機械がありませんので対応できません・・申し訳御座いません。

8枚の絞り羽根も当初異常が無いレベルでしたがバラしてみると過去に一度相当量の油染みが生じてスッカリ乾いてしまったのが確認できました。今回キレイに清掃し確実に駆動するよう仕上げています。

ここからは鏡胴の写真になります。元々が経年の使用感がそれほど感じないキレイな個体でしたが経年の汚れは相当量ありました。筐体は当方による「磨き」をいれたので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度+軽め」を最終的に使いました・・理由はこのモデルのピントの山が掴みづらいので距離環を回すトルク感として「普通〜軽め」になるよう配慮している次第です (そうしないとピントの山を行ったり来たりが辛くなる)。距離環を回すトルクは全域にたって「完璧に均一」に仕上げてあります。

距離環のラバー製ローレット (滑り止め) や絞り環などのジャギー部分にも経年の汚れ (手垢) などが附着していましたので完全清掃しすべて除去できていますから大変清潔です。もちろんオールドレンズ単体として「完璧に正常」でありフィルムカメラに装着しても正常駆動するよう調整済です。その意味では光学系の「後玉」のカビ除去痕だけが悔しいですね・・申し訳御座いません。但し、相当な逆光撮影でなければ影響しないレベルだと判断しています (一応仕上がり後に逆光で試写して確認はしました)。

当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。

絞り環を回して絞り値をF値「f2」にセットして撮影しています。

絞り値はF値「f2.8」になりました。

F値「f4」になります。

F値「f5.6」で撮影しています。

F値「f8」になりました。

「f11」です。

最小絞り値「f16」になります。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。