◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) CONTAX Tessar 5cm/f3.5《沈胴式》(CTX-RF)
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当方はカメラ音痴なので(笑)、この当時のフィルムカメラの事を全く理解していません。
それにも拘わらずこのような貴重なオールドレンズをオーバーホール/修理ご依頼頂き、まずはこの場を借りてご依頼者様にお礼申し上げます。ありがとう御座います!
戦前の1932年にZeiss-Ikonから発売され世界規模で一世風靡した
レンジファインダーカメラ『CONTAX I』のオプション交換レンズ群の中から、今回扱うのは標準レンズ『Tessar 5cm/f3.5《沈胴式》(CONTAX C)』で、巷で「Black & Nickel Tessar」と呼ばれている
タイプのほうです (右写真はネット上より拝借)。
カメラ音痴のクセに、何を間違ったか最近このような完成度の高いフィルムカメラを手元に置きたい欲望に駆られていて困っています(笑) と言うのも当方は写真センスが全く無くてダメなので、先ず以て撮影で使うことが無く単なる「置物」としての価値しかなり得ないのですが、それでも「CONTAX I/II」或いは「CONTAREX」や日本製では「MIRANDA SENSOREX」などなど、いいなぁ〜といつもネット上の写真で目の保養をしてます(笑)
さらに先日オーバーホール/修理のご依頼で、やはり戦前の同じ時期に登場した「Olympia Sonnar 180mm/f2.8」などのオーバーホールをしてしまったから大変で(笑)、その完成度の高い描写性にひたすら惚れ込んでしまいました。確かにプロパガンダ撮影やオリンピック記録撮影などに使ったので、開発/製産の意気込みは相当なものだったのでしょうが、先ず以てこのような緻密でリアル感タップリな画造りが、既に戦前の時点で完成の域に到達していた事に驚きを隠せません。
当時の戦前〜戦後すぐの辺りまでは専らレンジファインダーカメラが中心的に使われており、ミラーボックスを搭載した一眼レフ (フィルム) カメラが登場して流行ったのはその後になりますから、先に発売されていたのは必然的にレンジファインダーカメラ用のオプション
交換レンズ群と言うことになります。
また今回の「CONTAX I」も発売された1932年3月時点では単に「CONTAX」として命名され商標登録されていましたが、後の1936年に登場した「CONTAX II」発売以降、初期型モデルは「CONTAX I」と呼ばれるようになったらしいですね。
当時の広告を見ても、当時のドイツの光学技術の最たるモノとして
何とも誇らしげに見えてしまうから不思議です(笑)
今回扱う「Black & Nickel Tessar」の「ブラック/ニッケル」と呼ばれているのは絞り環部分の表記の話で、全体がクロームメッキのままのモデルが存在するので区分けして呼んでいるようです (左写真は
クロームメッキのタイプ)。
また開放f値「f2.8」のモデルも存在しますが、こちらはクローム
メッキのタイプだけなのでしょうか。
何しろこの当時のフィルムカメラに相当なレベルで疎いので(笑)、
これらの事柄を調べるだけでも相当苦痛だったりします。
いずれも「沈胴式」なのがまた魅力的で、それだけでも持っていて
(触っていて) 楽しめてしまいます(笑)
この当時の「CONTAX I」の取扱説明書を見るとちゃんとこのモデルの事が載っていて、読むと引き伸ばしレンズとしてもお勧めであると記載されていますから、ここを見ただけでも相当なポテンシャルを秘めた標準レンズである事が明白です。
「たかがテッサー然れどテッサー」と言うワケですが(笑)、1932年時点でこれだけの完成度の高さを誇るテッサー型光学系をちゃんと設計できていた事が、やはり当方にとってはオドロキです。
開放f値は「f2.8」と一つ明るいモデルも用意されていたようで、特に30〜40cm辺りでも高い
描写能力であるとも載っています。
ちなみにネット上を見ていると「鷹の目テッサー」と案内されている事が多いですが、正しくは「鷲の目テッサー」であり鷹ではありませんね (鷲はイーグルで鷹はホークです)(笑)
左写真は1954年当時の旧東ドイツ国内でのCarl Zeiss Jena広告ですがこれを見ると「ZEISS-TESSAR Das Adlerauge Ihrer Kamera」とドイツ語で記載があり英訳すると「The eagle eye of your camera」になるので、ちゃんと「eagle eye (鷲の目)」とドイツ語で書いてあったことになります。
旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaが「鷲の目テッサー」の異名を (ワザワザ鷲を意味するアイキャッチまで用意して) Tessarモデルに与えて広告していたことが分かりますね。オールドレンズというのは、このようにロマンが広がるので本当に楽しいです!(笑)
当然ながら光学系は3群4枚のテッサー型なのですが、第1群 (前玉) 径「僅か⌀16.55mm」しかありませんから、相当小っちゃなテッサー
です。
右図はネット上で調べた構成図を基本にしてトレースしましたが、今回バラしてデジタルノギスで計測したところバッチリ適合していたので正確な構成図ですね。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して単なる円形ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、ご覧のようにキレイな真円のシャボン玉ボケが表出できてしまうとこが凄いです。しかもちゃんとエッジが明確に出てくるので相当な光学系の設計ではないでしょうか。素晴らしいレベルです。
◉ 二段目
ピント面の解像度も、これが1932年時点でちゃんと確保できていたと言うのがまさにオドロキにしかなりません(笑) それこそ溜息モノです(笑) またこのようなオールドレンズを知るハメに陥り、全く以て所有欲が枯渇する事がありませんね(笑)
さすがにダイナミックレンジが狭いので逆光耐性も悪く明暗部の粘りも無いのですが、それでもこれだけ暗部の表現がちゃんとできていれば違和感になりません (唸ってしまいます)。それよりもやはりピント面のインパクトが自然に強調されて出てくる傾向があるので、いわゆる戦後に登場したギラギラ描写のテッサーとは趣を異にする表現性ではないかと、まさに当方の 琴線に触れてしまった一瞬でした(笑)
歳を取ると安心して観られる写真にしか反応しなくなってしまいます・・(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部を解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入りますが、今回は鏡筒の固着が酷く「加熱処置」しようが何をしようがビクともせず、完全解体を諦めました。
従って絞り羽根の油染みが相当進んでいたので、鏡筒丸ごとを溶剤漬けして十分に洗浄した後、丁寧に時間を掛けて何度も何度も拭いて乾燥させました。現状絞り羽根の油染みは完全に消えて (除去できて) キレイになっています。
距離環などがカメラ本体側にあるので構造的には「沈胴式」もあり簡単ですね(笑)
↑組み立て工程と言っても、単に鏡筒をハメ込むだけなので今回は省きました。オーバーホールが終わった状態を撮っています。
↑光学系内は当初クモリが生じていましたが相応に除去できて透明になりました。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが僅かです。残念ながら第1群 (前玉) の表面側に極僅かなコーティング層経年劣化に伴う非常に薄いクモリがLED光照射で浮かび上がります (順光目視では視認できず)。
一つ前の写真をご覧頂くと写っているのですが、前玉表面に斑模様状に点々が見えています。この事からノンコーティングではなく「シングルコーティング」ではないかと踏んでいますがどうでしょうか?
「zeissのT」のモノコーティング (複層膜) が開発されたのがこのすぐ後の1939年であり、1932年時点では既にシングルコーティング (単層膜) は開発済でした。
一つ前の写真に拡大撮影で斑模様が浮かび上がらなければノンコーティングだと言い切れるのですが、斑模様が浮かび上がってしまうとコーティングされていないならその説明ができません。従ってシングルコーティングではないかとの判定になりますが、よく分かりません。
(斑模様の説明ができてしまえばノンコーティングかも知れません)
↑第3群 (後玉) も同様で、やはり斑模様になっていますからノンコーティングではないとの判定です。
↑13枚の絞り羽根はご覧のとおりキレイになり真円の円形絞りで美しく閉じていきます。
ご依頼内容であった「絞り環を軽く」は、残念ながら解体できていないので完璧に軽く仕上げる手立てがありませんが、それでも当初と比べるとだいぶ楽に絞り環操作できるようになりました。構造的に最小絞り値側に向かうに従って絞り羽根の重なり具合が増すので、必然的に重いトルクに変わっていきますから開放f値「f3.5」〜「f8」くらいまでは楽に絞り環操作できます (f11〜f22は重くなる)。
仮に完全解体できていても構造的な要素なので改善できないほうが強いですね。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑鏡胴の光沢感が増しているので (磨いたから) 微細な経年のキズが多少は目立たなくなっています (但し消えたワケではない)。ローレット (滑り止め) に入っていた経年の手垢や汚れ等もキレイに除去が終わっています。
↑マウント部に「爪」が3枚用意されているので、それが解除されるとご覧のように「沈胴状態」になります。「沈胴式」は反時計方向に筐体を回すとマウントの「爪」が解除されて「沈胴」できるようになりますし、時計方向に回すと「爪」がロックされて鏡筒が飛び出た状態に固定されますね。
↑こちらは同梱頂いたマウントアダプタですが、Kievマウントを取り外して製作した自作マウントアダプタのようです (ライカ判L39マウントアダプタを転用しているようです)。
↑ロックピンが外されているので、ご覧のようにグルグルと何処までも繰り出していき、最後は「ヘリコイドが脱落」して抜けてしまいます(笑)
ヘリコイドのネジ込み位置は調べたところ「2箇所」しか無いので、もしも脱落してしまったら慌てずに当たりを付けながら (ネジ込みが入る箇所を探しながら) 慎重にネジ込んで下さい。
ネジ込みの際にネジ山が入ったと思って勢い良くネジ込んでしまうと、実はネジ山が入っておらず咬んでしまったりしますから(怖)、とにかく慎重にちゃんと回っていくのを確かめるまではゆっくりゆっくり回しつつネジ込んでいって下さい。
「ヘリコイド脱落」しなければ、別に慎重にゆっくりゆっくり操作しなくても大丈夫です(笑)
塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:重め」を塗りましたが、それほど重いトルクにはなりません。
↑上の写真は距離計の「∞」刻印位置を赤色矢印で指し示していますが、少しだけ超過してネジ込みが停止します。ご覧のようにロックツマミのノブ部分に位置に基準「●」マーカーが来ますから、最後まで回しきってしまって構いません (グリーンの矢印)。
そもそもオーバーインフ量が相当多く執ってあるので(笑)、この「∞」刻印位置が全く無限遠位置として意味を成していません (つまり無限遠位置を飛び越して再びピンボケにしかならない)(笑)
↑そこで「無限遠位置」が分からずに面倒くさくて仕方ないので (当方は面倒くさがり屋なので)(笑)、オレンジ色矢印の箇所にドリルで穴を切削して「●」を用意しました。基準「●」マーカーと合致すると「ちょうど無限遠合焦する位置」になるよう穴開けしていますから「無限遠位置の目安」にして下さいませ (グリーンの矢印)。
従って距離計の「17ft→∞」方向に向かって再びボケしまうオーバーインフ量が多い状態のマウントアダプタと言えます。おそらくブルーの矢印で指し示した分の高さがさらに飛び出ていないのでオーバーインフなのだと思いますが、自作マウントアダプタのようなので当方にはよく分かりません。
すると、ちゃんと合焦する「無限遠位置」はオレンジ色矢印の「●」で目安にして頂き、ヘリコイドが何処まで繰り出して良いのかは本来なら「ロックピン」が備わるのでしょうが、このマウントアダプタには付けようがないので感覚で判断するしか手がありません。
そこで実測したところ以下の距離を目安にしてご使用下さいませ。
① 被写体〜フィルター枠端迄の距離:27cm (最短撮影距離)
② 被写体〜撮像面までの距離:34cm (最短撮影距離)
結局、鏡胴の繰り出し分が7cm弱あるので、上の①〜②はいずれも被写体からの距離は同じことになる説明をしています。この自作マウントアダプタはSONY Eマウント用なので、その撮像面までの距離として実測した数値です。
撮影時にはこの数値 (距離) を目安として被写体との間隔を取って頂ければ「ヘリコイド脱落」になる手前で停止します。
これで無限遠位置と最短撮影距離の両端の目安が掴めたので、少しは楽にご使用頂けるでしょうか・・。
↑なお、ネット上で同型モデルの個体サンプルを20本程調べたのですが、赤色矢印で指し示した基準「|」マーカーが刻印されている個体を発見できませんでした。この刻印は後から刻まれたモノではなく、ちゃんと製産時点で切削されている正真正銘の基準「|」マーカーですから、ちょっと貴重な個体なのかも知れません。
なお、前述の「無限遠位置の合焦位置」の目安を示す為に当方がドリルで穴開けした分は、当方が勝手に判断して処置してしまった為、もしもご納得頂けないようであればご請求額よりご納得頂ける分の代金分を「減額申請」にてお手数ですがご申告の上、減額下さいませ。減額の最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」までとし、当方による弁償などは対応できません。
勝手に処置してしまい、大変申し訳御座いません・・。
お詫び申し上げます。
↑上の写真は、今回のオーバーホールを行う前の時点で撮影した開放実写です。
↑こちらは当レンズによるオーバーホール後の最短撮影距離34cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
当初に比べると多少はコントラストが上がっているでしょうか。絞り環操作でピント位置がズレてしまうので(笑)、ちょっとピント面が合っていないかも知れません。
フードがあればもっとコントラストが明確になって出てくると思います・・。
↑f値は「f8」に変わっています。このように絞り環操作して絞り値をイジっていても距離環側の位置が微動してピント面がズレにくいようにヘリコイドグリースの「粘性調整」をして塗布しています (つまり絞り環側のトルクよりマウントアダプタ側を多少重くしている)。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。これでも極僅かに「回折現象」の影響が出ているだけなので、相当なポテンシャルの光学系ではないでしょうか。素晴らしいです!
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。