◎ MINOLTA (ミノルタ) MC ROKKOR-PF 58mm/f1.4《後期型》(MD)

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RO5814(0702)レンズ銘板

minolta-logo(old2)1966年に発売されたフィルムカメラ「SRT-101」用セットレンズとして用意された標準レンズ群の中のひとつですが、このモデルの原型は1961年に発売されている「AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4」になります。毎月このモデルの整備になると心穏やかになり癒やされます・・その描写性からも当方が一番気に入っているモデルです。

モデル・バリエーションは「前期型」と「後期型」の2種類のみで、その後は開放f値「f1.4」としては焦点距離50mmの標準レンズに集約されたためこの焦点距離58mmはラインナップから消えていきます。

RO5814(0702)26「前期型」

距離環ローレット:水平型
発売:1966年

RO5814(0702)8「後期型」

距離環ローレット:アーチ型
発売:1968年

ネット上の解説では、前期型と後期型とでは単に距離環ローレットの滑り止め意匠 (ジャギー) が異なるだけのように解説されていることが多いですが、実は光学系の設計も再設計して発売されたのが「後期型」になります。

RO5814構成(前期型)「前期型」

5群6枚拡張ダブルガウス型

RO5814構成(後期型)「後期型」

5群6枚拡張ダブルガウス型

このような感じで「後期型」では当時のドイツ製レンズを意識した収差の改善とピント面のさらなる先鋭化のために各群の曲率をビミョ〜にいじっています。

また1961年に発売された先代の「AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4」から継承していた「緑のロッコール」たる由縁の「アクロマチックコーティング (AC)」も前期型・後期型共に受け継がれていますが、先代では光学系の前玉裏面と後玉裏面の2箇所にACコーティング層を蒸着していました。「MC ROKKOR」モデルからは前玉裏面のみへのアクロマチックコーティング (AC) 蒸着とし後玉裏面はマルチコーティング化に変更しています。

このことから分かるのは「ふんわり感」の強い描写性を狙うならば先代の「AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4」のほうが期待を裏切らないことになりますし、逆にピント面の先鋭化と収差を改善させたこのモデルの良さだけを堪能したいならば「MC ROKKOR-PF 58mm/f1.4」と言う選択肢が考えられます。そしてこの「MC ROKKOR」モデルの中で強いて選ぶなら「前期型」でふんわり感を多少なりとも汲んだ画造りを楽しみたいのか、或いは「後期型」でより鋭いピント面を構成しながらも後の「MD ROKKOR」シリーズではさらに消えていく画全体の「マイルド感」をも両立させた画造りに挑みたいのか・・オールドレンズは楽しいですね(笑)気がつけばこの焦点距離58mmのモデルをゴロゴロと何本も揃えてしまい撮影した写真を眺めてはあ〜だこ〜だとこじつけている始末です。

RO5814(0702)仕様

RO5814(0702)レンズ銘板

 オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

RO5814(0702)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

RO5814(0702)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

RO5814(0702)13先代「AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4」では8枚の絞り羽根を使っていましたがこの「MC ROKKOR」シリーズからは6枚の絞り羽根に仕様変更しています。当然ながら光学系の設計も変えているので絞り羽根の枚数が減ったからと言って「玉ボケ」に不利に働く結果にはなり得ません。まぁ、心の健康として8枚絞り羽根を選びたいというのもアリかも知れませんが・・(笑)

RO5814(0702)14ここで鏡筒をひっくり返して裏側を撮影しました。先代モデル「AUTO ROKKOR」シリーズではマウント部の内部に各連動系・連係系パーツを組み付ける設計でしたがこの「MC ROKKOR」シリーズからは鏡筒の裏側に制御系を集約させています。

「絞り羽根開閉幅制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分をカムの金属突起棒が沿って移動していくことで絞り羽根の開閉幅 (開いたり閉じたりの開口部の大きさ/入射光量) を制御させています。カーブの坂を登り切った場所 (上の写真では右端) が開放側になり、逆に左端が最小絞り値側になります。このモデルは焦点距離58mmながらも開放f値を「f1.4」と明るく設計しているので光学系も大口径になり絞り羽根が開放側に向かうに従って劇的に開かなければならならず、用意したなだらかなカーブだけでは足りずに「強制的に絞り羽根を開かせる方式」を採り入れています・・開放側に用意されている金属板がその役目を担っています。

RO5814(0702)15こちらはヘリコイド (メス側) がネジ込まれるために用意されている距離環用のペース環です。

RO5814(0702)16真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

RO5814(0702)17ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

RO5814(0702)18こちらが距離環やマウント部を組み付けるための基台です。MINOLTAでは生産時の工程数削減や効率化/合理化の追求と合わせてメンテナンス性の良さも考慮した設計をしていたようで、この基台と距離環の機構部を独立させることでメンテナンス性が格段に改善されています。

一般的なオールドレンズではこの基台にヘリコイドのネジ山が用意されているのですがMINOLTAではヘリコイド部分を完全に独立させた構造化としているのでヘリコイド・グリースの入れ替えなどメンテナンス時にはすべてを解体せずとも作業できるよう配慮が成されています・・このようなメンテナンス性まで考慮した構造化、素晴らしいですね。

RO5814(0702)19ヘリコイド部を基台にセットします。たったのネジ4本だけでこのヘリコイド部分がゴソッと外せるのでメンテナンス性は非常に良いです。

RO5814(0702)20基台をひっくり返して絞り環を組み付けます。この時に絞り環の内側には「マイクロ・ベアリング+マイクロ・スプリング」を入れ込みますが僅かØ1mm径のマイクロ・ベアリングとマイクロ・スプリングであり、一般市場では入手するのが大変難しい径になります。MINOLTAのオールドレンズを整備していると過去のメンテナンス時にこのØ1mm径のベアリングを飛ばしてしまい紛失してしまった個体によく出くわします・・絞り環の操作にクリック感が無い無段階絞り (実絞り) 状態に陥っておりスルスルと回ってしまいます。

同様にLeicaのオールドレンズにも同じØ1mm径のマイクロ・ベアリング+マイクロ・スプリングが使われており、紛失するとなかなか発見できないのでバラす際は要注意です。

RO5814(0702)21絞り環用の固定環をセットしますがこの時点ではまだネジ止めができません・・固定するためのネジは何とマウント部側からマウント用の固定ネジと共に締め付ける方式を採っています。その理由がすぐ後に出てきます。

RO5814(0702)22こちらは絞り環用の固定環内側に組み付けた「絞り連動ピン」の機構部を拡大撮影しています。ご覧のように「弧を描いた金属棒 (5本)」と「Ø1mm径のマイクロ・ベアリング (5個)」が順番に組み付けられている構造です。これによって絞り連動ピンがスルスルと滑らかに動くようになっています。

RO5814(0702)23マウント部をセットしてようやくネジ止め固定ができます。使われているネジは全部で8本になりますが内訳は長ネジが4本に短ネジが4本です・・短ネジが前述の絞り環用固定環の部分 (内部に絞り連動ピンの機構部を内蔵) を固定しており、長いネジ4本がマウント部固定の役目になっています。

つまり何を意味するのか・・「基台+絞り環の部分」と「絞り連動ピン機構部+マウント部」とを完全に独立させて取り外すことができるように配慮されており、このモデルは鏡胴が三分割できる方式を採っていることが判ります。これはメンテナンス性を考慮した設計であり非常に考え尽くされた構造化をさせているワケで、当方がMINOLTAのオールドレンズが好きな理由のひとつでもあります。

従ってマウント部のネジを8本すべて外してしまうと前述の絞り連動ピンの機構部がバラッと外れてしまいますが、ちゃんと長ネジのほうだけ外せばゴッソリとマウント部を丸ごと外せるワケで、容易にヘリコイドにアクセスできると言うワケです。もしもメンテナンスでヘリコイド・グリースの入れ替えをしたいのなら長ネジを外せばOKですし、絞り連動ピンの調整をしたいのなら短ネジを外せば良いことになります。むろん絞りユニットの調整 (絞り羽根の開口部の大きさ調整) などがしたいのなら光学系前群を外すだけでゴッソリと鏡筒だけを取り外すことができます。

この非常に優れたメンテナンス性の良さはなかなか他の光学メーカーには見られません。プラスαで人間の目で見たままの違和感が無い自然な描写性と「マイルド感」で写るとなれば (Leicaのオールドレンズにも通ずる画造りなワケで) 惚れ込んでしまうのも当方の場合にはいた仕方ありません。

RO5814(0702)24完成している鏡筒を入れ込みます。この時に絞り羽根開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) も絞り環の指標値との整合性をシッカリ調整します。

RO5814(0702)25距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付け無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオールドレンズが完了した出品商品の写真になります。

RO5814(0702)1エメラルドグリーンの光彩を放つ「緑のロッコール」たる「MC ROKKOR-PF 58mm/f1.4《後期型》」です。

正直な話、海外オークション「ebay」や国内オークションでもいつでもゴロゴロと安値で出回っているモデルですので、ハッキリ言って割高な当方の出品レンズをワザワザ落札する魅力は薄いと思います(笑) しかし、オークションで手に入れたことがある方ならば光学系内の状態が明示されていることやオーバーホール済であることなどを考慮すれば自ずと答えが出てくる方もいらっしゃるのではないでしょうか・・今回の個体はそのような方に是非ともお譲りしたいと思います。

RO5814(0702)2光学系内の透明度はとても高い部類に入ります。残念ながら前玉裏面「アクロマチックコーティング (AC)」層の外周附近に複数の微細な薄いヘアラインキズが見受けられます。前オーナーによるメンテナンスなのか弱いコーティング層をそのまま拭いてしまったようです。これはコーティング層のヘアラインキズなのでLED光照射でも視認はほとんどできません。光に反射させて初めてコーティング層のヘアラインキズが見えるレベルですので写真への影響は皆無です。但し見た目を気にされる方はパスしたほうが良いと思います。

RO5814(0702)2-1

RO5814(0702)2-2

RO5814(0702)2-3上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜2枚目は極微細な点キズを撮っています。3枚目は前玉裏面の「アクロマチックコーティング (AC)」層に極微細な薄いヘアラインキズを反射させて撮りましたが微細すぎてなかなかすべては写りません。

RO5814(0702)9光学系後群もキレイな部類ですがカビ除去痕があります。

RO5814(0702)9-1

RO5814(0702)9-2上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目が極微細な点キズを撮っていますが微細すぎてすべて写っていません。2枚目がカビ除去痕なのですが既にカビを除去しているので見た目ではコーティングムラ状に見えると思います。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:19点、目立つ点キズ:15点
後群内:10点、目立つ点キズ:6点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:微かにあり
・その他:バルサム切れなし。光学系前玉裏面のアクロマチックコーティング層外周附近に複数の極微細な薄いヘアラインキズがあります (ガラス面のキズではなくコーティング層のキズです)。また光学系後群後玉には複数のカビ除去痕があり一部はコーティングムラ状に見えています。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

RO5814(0702)36枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年相応の使用感を感じる個体ですがキズやハガレの一部を当方で着色しています。

RO5814(0702)4

RO5814(0702)5

RO5814(0702)6

RO5814(0702)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

RO5814(0702)8整備済で出回ることはほとんど無いと思いますので光学系の透明度が高い個体として、且つオーバーホール済でシットリとした滑らかなトルク感で使えるオールドレンズとして是非ともご検討下さいませ。

RO5814(0702)10当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。