◎ MINOLTA (ミノルタ) MD ROKKOR 50mm/f1.4《前期型-Ⅲ》(MD)
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1973年に発売されたフィルムカメラ「SR-T SUPER」用に用意された標準レンズ群の中のひとつに「MC ROKKOR-PG 50mm/f1.4」がありましたが、その後継モデルとして「MD」シリーズが1977年にフルモデルチェンジして発売されました。今回出品するモデルはこの「MD」シリーズの第3世代にあたり1979年に発売されています。
「MD」シリーズにモデルチェンジしてからのバリエーションは全部で4種類あります。人によっては「前期型」と「後期型」の区分けを光学系の構成だけで分けている方も居ますが当方はあくまでも描写性として「アクロマチックコーティング (AC)」の効果を狙った製品化の結実として区分けしているので「前期型」を3つのバリエーションに分けています。その意味では描写性は大きく2種類に分かれ、光学系の設計では3種類に分かれることになります。
※オレンジ色の部分は最初に変更になった仕様を表しています。
フィルター枠:Ø55mm、光学系:5群7枚
コーティング:ブルーパープル系
レンズ銘板のフィルター径刻印:無
発売:1977年
フィルター枠:Ø55mm、光学系:5群7枚
コーティング:アンバーパープル系
レンズ銘板のフィルター径刻印:有
発売:1978年
フィルター枠:Ø49mm、光学系:6群7枚
コーティング:アンバーパープル系
レンズ銘板のフィルター径刻印:有
発売:1979年
フィルター枠:Ø49mm、光学系:6群7枚 (再設計)
コーティング:パープル系
レンズ銘板のフィルター径刻印:有
発売:1981年
※指標値環に最小絞り値ロック機構を装備、開放f値伝達ピン装備、
レンズ銘板のモデル銘が「MD」のみになる (ROKKOR銘無し)
今回出品するモデルは上記3世代目の「前期-Ⅲ型」です。光学系は当初の5群7枚変形ダブルガウス型から再設計し第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を分割させた6群7枚の拡張ダブルガウス型に仕様変更しています。第1群 (前玉) 裏面に「アクロマチックコーティング (AC)」(俗に緑のロッコールと呼ばれる由縁のコーティング層) を施した最後のモデルになり、この後の1981年に発売されたモデル「後期型」には同じ第1群裏面のアクロマチックコーティングが省かれ通常のマルチコーティングに替わっています (従って後期型は緑のロッコールとは呼ばない)。この後期型を指して「New MD」と呼ばれています。
「アクロマチックコーティング (AC)」は当時MINOLTAが世界に先駆けて開発した複層コーティング技術を指し、特にLeicaとの技術提携によりLeicaレンズにも採用されている独特なコーティング技術ですが、MINOLTAのアクロマチックコーティング (AC) 層は緑色 (当初は深い緑色で後に淡い緑色に変遷) だったので「緑のロッコール」と俗に呼ばれました。LeicaのACコーティング層はアンバー系の色合いで蒸着しています (過去のオーバーホールにて目視確認済)。共に非常に柔らかく弱い蒸着レベルのコーティング層なので経年劣化に拠り洗浄剤を垂らしただけでも変化してしまう個体が多くなっています (清掃によるコーティング層のヘアラインキズが付き易い)・・仮にアクロマチックコーティング (AC) 層にヘアラインキズが付いてしまったとしてもコーティング層なのでLED光照射では視認できず、光を反射させて初めて目視できるので分かりますが写真への影響はほぼありません (目視で違いが分かるレベルには陥らない)。
それ故にピント面の鋭い描写性を維持しつつも画全体的な「マイルド感」があり人間の目で見たままの違和感が無い自然な写りを楽しむことができ、MINOLTAとLeicaのオールドレンズに共通して見られる特徴のひとつでしょうか。但し「後期型」のモデルでは描写性がガラッと変わり当時のドイツ製レンズ並の色乗りのよい発色性と少々誇張気味なコントラストの画造りに変えています。従って従前の「アクロマチックコーティング (AC)」はついに施されなくなり戦略的な描写性の変更をしたのが伺えます。
今回出品の第3世代モデルでは光学系の仕様を再設計し諸収差の改善を狙いつつも「アクロマチックコーティング (AC)」が施されていた「50mm/f1.4」としては最後のモデルになります。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
こちらの写真はドアップで撮影していますがバラした直後の光学系前群になります (第1群/前玉〜第3群)。写真では材質感が伝わりにくいですが光学硝子レンズを格納しているレンズ格納筒は「エンジニアリング・プラスティック」と言う素材で成形されており、ひと言で言えば硬質樹脂製 (硬質プラスティック製) にあたります。光学硝子レンズを含めた一体型のモールド成形で作られているため光学硝子レンズの各群を取り外すことがこのままではできず当方でもこの光学系前群に対しては内部の清掃が施せません。
プラスティック製なので恐らく高熱の環境下で光学硝子レンズを取り外すのだと推測できますが加える高熱の「加熱温度」と「加熱時間」の正確値が不明なので手を出せません。下手に加熱して許容値を超えてしまうと光学レンズ格納筒が膨張したまま元に収縮しなくなり光軸ズレの原因になるばかりか下手すれば外した光学硝子レンズを固定できなくなり使いモノにならなくなります・・当方でも昔に別のメーカー製オールドレンズで加熱を失敗して (膨張しすぎてしまった) 光学硝子レンズが正しく填らなくなった失敗があります。
従ってこの「MD ROKKOR 50mm/f1.4」を入手する際は光学系前群の状態が問題になってきます (内部の清掃ができないので)。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。
6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。上の写真で針金のような英語の文字「Cの字」型の環が入っていますが、このC型座金で絞りユニットを固定しています。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
ここで基台をひっくり返してプラスティック製の絞り環をセットします。この絞り環はクリック感を伴う操作性になっているので、この段階で「マイクロ・鋼球ボール+マイクロ・スプリング」を絞り環内部に組み付けます。MINOLTAで使われている「マイクロ・鋼球ボール+マイクロ・スプリング」は僅か直径1mmの一番小径タイプを使っており、同じようにLeicaのオールドレンズでもØ1mm径の鋼球ボールとマイクロ・スプリングが使われています。ちなみに一般市場ではこのØ1mm径のマイクロ・鋼球ボールは容易には入手できません。
こちらはマウント部内部を撮影しています。既に当方にて内部の各連動系・連係系パーツを取り外していますが、当初はこのマウント部内部にまでグリースが多目に塗られており、既に経年劣化で液化が進行してしまい一部には腐食や錆が出ていました (上の写真は当方による「磨き研磨」が終わっている状態で撮っています)。
外していた各連動系・連係系パーツも個別にすべて「磨き研磨」を施したので、今回の整備ではグリースは一切塗布せずにそのまま組み上げます・・磨き研磨により各パーツの表層面は「平滑性」が確保できているのでグリースを塗る必要性がありません。もちろん組み付けられている捻りバネなども既に錆が出ていたりして経年劣化で弱まっていましたから適正なチカラで反発するようここで調整しておきます。
鏡筒の裏側から飛び出ているアームと噛み合わせた上でマウント部を基台にセットします。これで絞り環操作による正しい絞り羽根の開閉が行われることになります。
距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付け無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
市場にはそこそこ頻繁に出回っているモデルですがバリエーションを調べてみると前期型のタイプは少なめでしょうか・・。収差が多いオールドレンズらしさを狙うなら「前期-Ⅰ〜Ⅱ型」辺りが狙い目ですし、ある程度の収差改善を望むならこの「前期-Ⅲ型」そしてコントラストや色乗りの良い (ドイツ製レンズ並の) 発色性を期待するなら「後期型」と言う選択があります。MINOLTAの「緑のロッコール」と呼ばれているのはこのモデルまでになります。
光学系は6群7枚の拡張ダブルガウス型で今回の個体は光学系内の透明度がとても高い部類に入ります。LED光照射ではほんの微かに中玉に薄いクモリが何とか見えるかどうかと言うレベルです。
上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は前玉〜第2群の極微細な点キズを撮っており、2枚目は第2群の外周附近に1箇所あるカビを撮っています。前述のように一体型モールド成形なのでカビ除去ができません (写真への影響にはなりませんが)。またレンズ銘板にある長めの引っ掻きキズも露出オーバーにしてワザと明確に見えるように撮っています。実際の現物を順光目視した場合はこの「カビ」はなかなか容易には見つけられないレベルですしレンズ銘板の引っ掻きキズもまぁどうにか視認できるかなと言うレベルでありそんなに目立つキズではありません。
カビ除去痕と言ってもコーティングスポットのようにコーティング層の点キズ状になっているだけなので後玉でも写真への影響には至りませんでした。光学系後群は全群を清掃していますしバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も生じていません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:12点、目立つ点キズ:6点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:あり
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:微かにあり
・その他:バルサム切れなし。第2群外周に1箇所カビがありますが光学系前群がプラスティック製モールド一体成形なので除去できません。
・光学系内の透明度は非常に高い部類ですが点キズは多目です。上記極微細な点キズの数は後玉中央付近のコーティング・スポットの集まり部分を数えていますので実際の極微細な点キズ数はそれほど多くはありません。詳細は当方ブログの拡大写真をご覧下さいませ。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
ここからは鏡胴の写真になります。経年相応の使用感が感じられる個体ですがハガレなどは当方にて一部着色しています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じほぼ均一です。
・一部に擦れる感触を感じる箇所がありますが将来的な懸念は一切はありません。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「実用品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・レンズ銘板に3箇所キズがあります (長さ5cm弱と2cm弱のヘアラインキズと点キズ) が着色しています。その他に鏡胴や指標値環等に経年相応のハガレなどがあり着色しています。
このモデルで整備済で出回ることは少ないと思いますのでお探しの方は是非ご検討下さいませ・・特に光学系の状態は透明度が高いので安心だと思います。
当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。被写界深度が浅いのでピント面 (ミニカーの手前側ベッドライト) はほんの少ししか合っていません。