◎ MINOLTA (ミノルタ) MC W・ROKKOR 24mm/f2.8(MD)

minolta-logo(old2)今回も引き続き出品用としてではなく「オーバーホールのご依頼」を承ったオールドレンズの掲載 (有料にて承り) を致します。

このモデルは1971年に光学系構成8群10枚のレトロフォーカス型としてプロトタイプが開発されたようです。実際に発売されたのは1973年5月ですが、同じレトロフォーカス型ながらも7群9枚に仕様を変更しています。当レンズはその発売当初のモデルで、その後1977年にはMDタイプにモデルチェンジして、さらに翌年1978年にマイナーチェンジしています。最後の発売は1981年のようで、光学系を1枚減らした8群9枚の仕様に変更したレトロフォーカス型になっていますね。なお、初期のMDタイプ (1977年発売) のモデルの中には「MC W・ROKKOR-SI 24mm/f2.8」のレンズ銘板を装着した個体が存在するようです。

当時のカタログによると「55mm径のフィルターが使える中では最も超広角なレンズで、画角も84°と広く、広範囲の被写体を写し込むことができます」と記載されています。内部には「フローティング機構」を装備しており、最短撮影距離30cmながらもコンパクトな筐体を実現しています。

このモデルはネット上では「LEICA ELMARIT-R 24mm/f2.8」の原型との解説が多く見受けられます。1973年発売の初期モデル〜1977年発売の初期型MDモデルまでが、光学系の仕様として7群9枚で「ELMARIT-R 24mm/f2.8」とは前玉 (第1群) を除いて酷似しています。しかしELMARIT-Rの前玉の仕様は開口部をミノルタよりも広く採っているので僅かに異なっていますし、ミノルタの「アクロマチックコーティング (AC) 」の位置とELMARIT-Rのコーティングの位置が微妙に異なっているようです。また内部の構成パーツの仕上げ方は、ELMARIT-RのほうはやはりLEICAの仕上げ方に準拠した造りになっており、全くの原型と考えてしまうと相違点のほうが多いようです・・特にフローティング機構部の造りは全く別モノですので、原型と考えられるのは強いて言えば「光学系」のみと言うことになります。例えば、絞り羽根ひとつにしても作り込みがLEICAは全く違うので、それは相応の価格差に落ち着いている理由のひとつとも考えられますね。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

MCR2428(1104)11構成パーツの点数としては、ミノルタのレンズ群の中では少な目のほうでしょうか・・。

構成パーツの 中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、 同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて 経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

ここからは、解体したパーツを実際に使って組み上げしていく工程に入ります。

MCR2428(1104)12まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルでは「フローティング機構」を装備しているので、鏡筒は大きく「内筒」と「外筒」の2つに分かれています。「外筒」はヘリコイド (オス側) も兼ねており、この2つの内外筒のセットにて「フローティング機構」と呼ばれている「内筒」を単独に内部で「前後動」させる「エレベーター方式」を装備しています。

MCR2428(1104)13絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

MCR2428(1104)14絞りユニットを組み込んだ「内筒」を斜めから撮影してみました。シルバー色の箇所は「外筒」と接触する箇所なので平滑性を保つ意味からクロームメッキ加工が施されており、同時にグリースを塗布する箇所にもなっています。

MCR2428(1104)15こちらは「外筒」のほうの写真で、この中に「内筒」が入り込み単独で「前後動」します。内筒は単にこの中にスライドさせて入れ込むだけ (内外筒共にグリース塗布した上で) の状態です・・どのように前後動をするのか?

MCR2428(1104)16「内筒」を入れ込んだ状態の写真です。内筒の上部に用意されている3個 (大) と1個 (小) のネジ穴は上の写真のような使われ方をします。左端のプラスネジ (ネジ穴:小) は内筒裏側の固定パーツを止めるためのネジです。右側の大きめのマイナスネジが「エレベーターキー」です。

MCR2428(1104)17「エレベーター方式」はこのような感じで「内筒」を極僅かですが「前後動」させる仕組みです。写真中央の「キー (マイナスネジ)」が右側から左側まで移動すると、鏡筒は繰り出され最短撮影距離の方向になります。右端は「無限遠位置」と言うことになります。
「キー」がネジ込まれるネジ穴 (大) が3つ用意されているのは (このモデルでは中央のネジ穴を使います)、この内筒が他のモデルとの共通パーツであることを意味しています。この「キー」の動く範囲がそのまま「距離環の駆動域」になっているので、このモデルでの調整範囲ではありません。焦点距離と共に距離環の駆動域の相違に合わせた「キー」のネジ込み位置を用意していることになりますね・・。

この「エレベーター方式」は、例えば東京光学の「RE GN Topcor M 50mm/f1.4」も酷似した内外筒の方式を採っており、「キー」の締め付け方まで似ていますね・・。

MCR2428(1104)18「エレベーター方式」の部分をすべて囲うように銅板で塞ぎます。これには理由があり、内筒と外筒の間にはグリースが塗布されていますから、そのグリースが出てこないようにする目的です。しかし、揮発した油成分は内筒の裏側パーツのネジ穴から容易に光学系のほうに移動して附着し易い構造なので、今ひとつ作り込みが足りなかったようにも考えられます・・。

MCR2428(1104)19ヘリコイド (メス側) になります。距離環の駆動域がそれ程長くはないので薄いですね・・。

MCR2428(1104)20ヘリコイド (オス側) を兼ねた「外筒」を無限遠位置のアタリを付けた正しいネジ込み位置までネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、大凡のアタリで構いません。

MCR2428(1104)21鏡筒 (内筒) の裏側です。この個体には「60」と、ホワイトマジック書きがされていました・・。今まで扱ったミノルタのオールドレンズの中では、このような書き込みは今回が初めてです。この書き込みは日本人によることだけは判明しています。海外では「6」の書き方が異なりますから・・。

MCR2428(1104)22ヘリコイド (メス側) の側面にも同じ「60」の刻み込みがされていました・・何の意味なのでしょうか? また光学系の収納筒にも何カ所か「169」の刻み込みがしてありました。ミノルタではこのような書き込みや刻み込みをしていないでしょうし、既にマーキングの刻み込みも複数ありましたので、過去にメンテナンスされているようです・・。

MCR2428(1104)23ひっくり返した状態の写真です。ここからは基台やマウント部の組み付け工程に移っていきます。

順調に組み立て作業が進んでいるように見えますが、実はここまでの間に6回の組み直しを行いました。理由は距離環 (この状態では外筒) を回した際に、内筒が内部で「擦れている音」が微かに聞こえていました。しかし、ヘリコイド (メス側) をネジ込むとその音は少し大きくなり、さらに距離環や基台を組み付けるともっと大きい音になりました。
単独で内筒と外筒だけの状態では「擦れている音かな?」と判断が付かない程度だったのが、ヘリコイド (メス側)・基台・距離環を装着するに従って、だんだんと大きな音になっていくのです・・「共鳴」と言うかそれらパーツの組付けと共に「鳴き」が大きくなっているような感じです。

それがあり、バラしてそもそも当初の単独の状態「内外筒」だけのところまで戻り、鳴っている箇所 (つまり擦れている箇所) を特定しようとするのですが、今度はそれが小さい音なので特定できません・・。

当初の内外筒の間に入っていたグリースは、経年劣化で液状になっていましたから当然除去し清掃しています。内筒の外装面にあるクロームメッキが施された部分には、一部に「腐食」が生じており、古いグリース除去後清掃してから内筒を外筒に試しに入れた際、腐食部位が擦れて負荷が掛かり駆動が重かったために研磨し腐食を除去しました。

この問題が分かってから、敢えて塗布するグリースを液性の強い「軽め」に変更してみましたが改善されません。その他「中程度」も「重め」も音の大きさには変化がありません・・。

3回のグリースを変更しながらの組み直しの中で、ようやく原因らしき箇所が判明しましたが「キー」の締め付け具合 (角度) などによっても音の大きさが変わるので、内筒と外筒の腐食していた部分での擦れのようです。4〜6回目で最終的に最も「音 (擦れ)」が小さい状態になりましたが、皆無ではありません。原因が分かってから塗布したグリースは「重め」が最も音が小さい状態でしたので、そのまま組み上げしております。誠に申し訳御座いません・・。

作業に戻ります。

MCR2428(1104)24マウント部の内部です。連係パーツが接する部分 (底面) は、当初バラした時点では古いグリースの油成分なのか、固着していた箇所が一部あったので磨き研磨し平滑性を取り戻しています。

MCR2428(1104)25このモデルもマウントを固定する固定ネジは「隠しネジ」になっているので、ここで先にマウントをセットします。

MCR2428(1104)26この状態で再びマウント部の内部を撮影しました。マウントの固定ネジ (4個) が写っています。

MCR2428(1104)27連係パーツを組み付けた状態の写真です。マウント固定用の「隠しネジ」はほぼ見えなくなっています。

MCR2428(1104)28光学系前群を組み付けます。第2群〜第4群にかけてコーティングの劣化が極僅かに見受けられます (LED光照射で視認できるレベル)。大きなキズは見受けられません。MCタイプなので「アクロマチックコーティング (AC) 」の清掃も行っています。

MCR2428(1104)29光学系後群も極僅かなコーティング劣化はありますが (やはりLED光照射で視認できるレベル) 前群共にいずれも写真への影響は全くありません。また後群内の「アクロマチックコーティング (AC) 」も清掃済です。

MCR2428(1104)30距離環を仮止めして基台をセットします。

MCR2428(1104)31絞り環を組み付け、基台の固定ネジ (4個) も隠しネジなので同様に締め付けて基台を固定します。

MCR2428(1104)32絞り環用の固定環を組み付けて、光軸確認、無限遠位置確認、絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成間近です。

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ここからは組み上げが完成したオールドレンズの写真になります。

MCR2428(1104)1この初期型MCタイプから、この後の初期型MDタイプまでのモデルだけがLEICA ELMARIT-R 24mm/f2.8の光学系に酷似した構成です。

MCR2428(1104)2光学系内部は当初の埃や汚れなどが排除され、とてもクリアになりました。コーティングの劣化自体は経年を考えれば低いレベルであり気にする必要はありません。

MCR2428(1104)3絞り羽根も桐井になり確実に駆動しています。当初絞り羽根の開閉幅 (閉じる際の形状) が歪 (正六角形ではない) でしたので、絞りユニット内部で調整しています。

ここからは鏡胴の写真になります。今回も特に褪色も無く着色はしておりません。表層面の光沢研磨のみ実施しています。

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MCR2428(1104)7ヘリコイドグリースは基準の「重め」を使用しています。今までと同じトルク感になっています。

MCR2428(1104)8内筒と外筒との「鳴き」が無ければ、完璧な仕上がりだったのですが・・誠に申し訳御座いません。

MCR2428(1104)9絞り環用の固定環に数箇所ある「腐食」は、表層面が「梨地仕上げ」なので除去していません。

MCR2428(1104)10当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。LEICA ELMARIT-Rと比べて、どうなのでしょうか・・?