◎ TAYLOR OPTICAL (藤田光学工業) TAYLOR. F.C 135mm/f3.5 C.(M42)

TAYLOR_logo藤田光学工業のレンズの描写性に好感が持てるので、ついつい手を出してしまいます。ネット上の英語圏で調べてみると「TAYLOR and Hobson (テーラー・ホブソン)」と勘違いしてこのモデルのシリーズを落札してしまったと言う海外オークション「ebay」のユーザーも居ました・・笑い話ですが「TAYLOR」と書かれると確かにそのように勘違いしても納得できます。

「TAYLOR OPTICAL」と言うアメリカの写真機材商社が発売していたモデルになり、この他にも「TAYLOR. P.C 35mm/f3.5 C.」なる広角レンズもあるようです。藤田光学工業では他の焦点距離のモデルも自社ブランドとして開発し生産していましたから、まだ他にもあるかも知れません・・。

当レンズが「藤田光学工業」のOEMレンズであると判るのは、その意匠だけに限らずレンズ銘板の「製造番号」で明白になります。「NoFTxxxxx」と「FT」が附随しているので「藤田光学工業」製になります。

藤田光学工業から欧米の商社に供給されていたその他のブランド銘は多岐に渡ります・・当方にてバラしてオーバーホールしたモデルだけでも「FUJITA」「JUPLEN」「Accura」「Gamma Terragon」「Kalimar」「Kaligar」「UNEEDA」「TAYLOR.」ですが、OEMの供給先自体はまだ他にもあるようです。

当レンズはそのOEMモデルの中でも珍しく光学系前群の鏡筒部分はワザと「オリーブ色」に着色されており、敢えて「イエローライン」を2本入れた意匠です。いかにもアメリカ人好みのバタ臭いカラーリングですね・・。


オーバーホールのためにバラした後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

TL13535(0904)11光学系が3群5枚の変形Sonnar型構成ですから、第2群に大きな「ガラスの塊」が位置しており3枚のレンズの「貼り合わせレンズ」になっています。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。

まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。

TL13535(0904)12バックフォーカスが長いので鏡筒自体が大変深く、絞り羽根を組み付ける絞りユニットは一番奥に位置しています。12枚の絞り羽根を組み付けます。

TL13535(0904)13この個体では既に絞り羽根には金属製の「キー」が表裏打ち込まれていましたので、初期の生産品ではないことが伺えます。しかし絞り羽根はまだ「カーボン仕上げ」のままですから経年で既に表層面のカーボンが剥がれています。12枚の絞り羽根は「真円に近い円形絞り」を構成する形状で造られています。美しい「リングボケ (玉ボケ)」が期待できうれしいですね・・。

TL13535(0904)14この状態で鏡筒を立てて撮影しました。ここから絞り環とプリセット絞り機構部の組み付けに入ります。

TL13535(0904)15まずは絞り環をセットしました。既に当方にて「光沢研磨」を施してあるので「梨地仕上げ」の美しい輝きが戻っています。ローレットのジャギーにも手垢や汚れなど残っていません・・キレイです。

TL13535(0904)16独特な「ツマミ」とプリセット絞り環を組み込みます。鏡筒に「基準マーカー」があるので、ツマミを押し込みながらプリセット絞り環のマーカー「Ι」を回して希望する絞り値に合わせ (カチッと填ります)、ツマミから指を離せばその絞り値と開放「f3.5」との間で絞り羽根の開閉幅が変わる・・プリセット絞り機構になります。

TL13535(0904)17外部からは見えませんが、ここで「制限環」(上の写真で金色の環) を組み付けます。この環がプリセット絞り環の移動範囲を制限しています。

これで鏡胴の「前部」は完成しました。このモデルでは鏡胴は「前部」と「後部」に2分割されます・・次は光学系前後群を組み付けてしまいます。

まずは光学系前群からです。

TL13535(0904)18とても美しい「ブルー」の輝きを放つモノコーティングです。

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TL13535(0904)20第2群の「貼り合わせレンズ」は3枚のレンズを貼り合わせています。しかしバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も全く進行しておらず、非常にクリアな状態を維持しています。たいしたカビ除去痕も無く、前玉の状態も非常にいいですね・・。

光学系の状況:順光目視にて様々な角度から確認。カビ除去痕としての極微細な点キズ:前群内6点、目立つ点キズ3点、後群内:8点、目立つ点キズ3点。コーティング経年劣化:後群あり、カビ除去痕:あり、カビ:なし。ヘアラインキズ:前後玉共に光に翳して何とか視認できるレベルの極微細な薄いヘアラインキズが各1本程度。その他:非常にクリアです。後玉外周附近に経年によるコーティング劣化が見られます。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

次は後群です。

TL13535(0904)21後群もとてもクリアな状態をキープしていますが、後玉の外周附近にコーティングの劣化が多少進んでいる箇所がありました。

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TL13535(0904)23上の写真 (2枚) は1枚目が光に反射させないと浮かび上がらない極微細な薄いヘアラインキズを拡大撮影しています。2枚目の写真は後玉の外周附近にあるコーティングの劣化部分を拡大撮影しました。円形状に劣化が進んでいます。

TL13535(0904)24これで光学系前後群も組み付けられ鏡胴「前部」が完成しました。次は鏡胴「後部」の組み上げに進みます。

TL13535(0904)25鏡胴「後部」と言っても結局はマウント部と距離環しかありませんから構造は簡単です。距離環 (ヘリコイド雄雌) は上の写真のような順番で組み付けていけば完成です。

距離環を組み付けるベース環 (上の写真の左端) はヘリコイド (メス側:写真右から2番目) に固定される構造になっているので、距離環の回転と同時にヘリコイド (オス側) を直進動させるための構造 (左端から2番目) を採っています。少々面倒な「内筒」の構造化をさせていますね・・。

TL13535(0904)26これがヘリコイド (メス側) です。基台の役目も兼ねていますね・・。

TL13535(0904)27距離環用のベース環を組み付け、同時にヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で18箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻ることになります。

TL13535(0904)28取り敢えず距離環を仮止めしておきます。この当時のモデルには「無限遠位置調整機能」は備わっていないモデルが多いので、イモネジ (ネジの頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みが入っているネジ種) の締め付け箇所は決まっています (受けの穴が用意されている)。従ってヘリコイドのネジ込み位置が違っていると既にこの時点で距離環の指標値は合っていないことになります。

TL13535(0904)29指標値環を差し込みます・・単にストンと入れただけで、まだ固定できません。

TL13535(0904)30マウント部を組み付けました。これで指標値環が固定でき、赤色の「基準マーカーΙ」が確定します・・同時に距離環を回してみれば指標値が適合しているかの確認もできますね。このマウント部もイモネジによる固定なので、位置調整はできません。従ってヘリコイドの組み付け①が間違っているとすべてに影響していきます。

これで鏡胴「後部」も完成しました。後は「前部」をセットして無限遠位置確認、光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ行えば完成間近です。

この個体には専用の「純正の金属製フード」「純正ステップアップリング」「純正の金属製前キャップ」に中古フィルターが附属しておりありがたいです・・しかも純正の革製ケースもあります。

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ここからは組み上げか完成した出品商品の写真になります。純正の金属製フード一式が附属しているのでありがたいです・・この当時のモデルはハロが出やすいので助かりますね。

TL13535(0904)1やはりネット上に出回っているのを見た記憶がない「珍品」です。

TL13535(0904)2なにしろ光学系内は非常にクリアです。3枚ものレンズを貼り合わせていながらバルサム切れも進んでおらず本当にラッキーでした・・。

TL13535(0904)312枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。カーボン仕上げの絞り羽根は非常に負荷に弱いので「油染み」などの固着化が進行すると、その負荷に耐えられずに「キー」が容易に外れてしまい絞り羽根の脱落、或いは絞り羽根開閉幅の異常を来します。「キー」が脱落すると通常はどうしようもありません・・。

ここからは鏡胴の写真になります。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は僅かにトルクムラがあり∞〜10フィートが僅かに重めで10〜5フィートが軽めのトルクです。距離環駆動時は極僅かなヘリコイドが擦れる感触を感じる箇所がありますが、ヘリコイドグリスを多量に塗布していないためで将来的に問題はありません。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所あります)。

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TL13535(0904)7藤田光学工業モデルのファンの方には嬉しい「M42」マウントの個体で大変貴重です。光学系や鏡胴の状態も良い状態を維持しており、万全の整備を施しましたので、是非とも如何でしょうか・・?

TL13535(0904)8距離環のローレット (アルミ材削り出し部分) も光沢研磨を施していますので、艶めかしい輝きを放っています。解像度が高く緻密ながらも画全体に漂う「マイルド感」に好感が持て、とても軟らかで階調豊かなボケ味が被写体を惹き立てて距離感や空気感と言った立体感のある描写をしてくれます。

TL13535(0904)9光学系後群もキレイになりクリアです。後玉の外周附近にコーティング劣化がありますが写真への影響はありません。

TL13535(0904)10当レンズによる最短撮影距離1.5m附近での開放実写です。画全体的に艶のある立体的な描写性です・・素晴らしいですね。