オーバーホールすることの意義

昨年2019年の10月から体調が悪くなり、日々の作業量が激減してしまい生活もままならない厳しい状況が続いています (一応これで稼いでいるので)(笑)

こんな年末年始を迎えてしまいなんとも心許ない限りですが、そんな頼り甲斐のない当方にも拘わらず、大切にお使いの大事なお気にのオールドレンズを何本もオーバーホール/修理として当方にご依頼頂ける方々が、ほんの僅かですが世の中にはいらっしゃいます・・。

日本国内のみならず、遙々海外にお住まいの国からもご依頼が届きます・・。

当方は、このオーバーホールを始めて8年が経過し、まもなく9年目が過ぎようとしています。しかし当方が社会人になって属していた畑は「小売業」であり、今やっているこのオーバー ホール作業とは何ら関係のない (繋がりさえ無い) 全くの畑違いです。

リストラされる直前数年前に仕事一筋で何も趣味と言えるようなモノが無かったことに初めて気がつき(笑)、ボチボチと写真撮影を始めましたがどうも気に入らない。その頃は、今ドキのデジタルなレンズを使っていたので、当然ながら吐き出される写真は緻密で素晴らしいのですが、しかし何かが気に入らない・・(笑)

結局、自分には写真センスと言うモノが全く無いと結論し多少なりとも揃えたデジタルレンズを売り捌き、暫く写真撮影から遠のいていました。

そんなある日、職場の同僚からオールドレンズが曇っていてコントラストが低いので掃除してもらえないかと相談を受けました。当方がデジタルなレンズで写真撮影している趣味に暫く没頭していた話を、何処かから聞いたのかも知れません(笑) もともとバラして直すのが好きだったと言うか、職場で使っている機器や古い事務機などをバラしては掃除している姿を見ていたのかも知れません。

とにかく壊したり組み戻せなくても良いからとダメもとで見てほしいと手渡されたオールド レンズは、旭光学工業のタクマーシリーズ標準レンズでした (50mm/f1.4)。イザッ受けてしまったものの、オールドレンズをバラした事などもちろんありません(笑) しかし好奇心旺盛な性格からバラしてみたい欲望に駆られ、とうとう精密ドライバーを手にしてしまいました。

今思えばあの時精密ドライバーを手にしたのがこの8年間の始まりだったのかも知れません。

気がつけばバラすのに必要な治具を片っ端に用意し、カビの専用除去薬やグリースはもちろん簡易型ながらも検査器具をアメリカから調達し、イッパシにバラして各部位をキッチリ調整し適切に組み戻すことができるようになりました。

つまり、当方は全くの独学でありプロに師事したことがありません!(笑)
頼っていたのはたったの一つ「自分が納得できるのか」だけです・・(笑)

逆に言えば、正しく伝統的な匠の技術を全く伝授されておらず、自ら教えを請うこともせず、ひたすらに自分の「勘と手の感触」だけに頼って作業してきました。

オールドレンズをバラした時、外観からだけでは一切分からない経年の状況が内部に「相当な現実」として残っています。それは過去メンテナンス時の所為との因果関係があるかも知れませんし (グリースなどの問題)、もちろん光学系のカビや汚れなどもあります。

しかし、例え手にしているオールドレンズが初めて扱う内部構造が全く不明なモデルだとしても・・当方はバラしてしまいます (たいていの場合ネット上で分解手順などの事前情報を探すことはまずありません/ぶっつけ本番です)。

その「勘と手の感触」に頼っている部分が、そもそもみなさんが想像していらっしゃる内容とは次元が違うのです。初めて扱うモデルでも確実に適切な調整を施して組み上げられるのは、偏に「設計者の意図を感じ取るために勘と手の感触に頼る」からです。

当方がこのブログでよく使っているコトバ「観察と考察」がまさにそれを表しているのですがどうしてそのネジがそこで使われているのか、どうしてこのようなカタチのパーツで設計したのか、何故このように動くのか・・。

凡そ数多くの構成パーツと内部構造に「声を掛け設計者の意図を汲み取ろう」としています。それ故「自分が納得できないのは設計者が納得していない事と全く同じ話」との認識に至り「自分が納得できるのか」だけが問題になるワケです。

つまり、初めて扱うモデルだとしても設計者の意図が見えてくるなら、それは自ずと「本来の組み立て手順」が目前に現れ「適切な微調整の範囲」を手に感じ取り「逐一納得ずくで組み上げていく」からこそ、完璧なオーバーホールが完了します。
(だから改善できなかった箇所の説明が100%必ず逐一できるワケです)

世の中には、そんな当方でも文句も言わずにオールドレンズを託して頂けるとても奇特な方々がいらっしゃり、自分では高価すぎて手に入れられないモデルでもご依頼を承り、いつのまにか内部構造を把握して問題なくオーバーホールを完了することができるようになりました。

当方が2,000本以上のオールドレンズを捌けるようになったのは、まさにそれら皆様方のおかげであり、その機会を与えて頂いた方々に今も日々感謝の気持ちが絶えません。

そしてそれら2,000本を越えるオールドレンズを捌いてきたことで「原理原則」が蓄えられ、確実なモノとなりました。逆に言えば「原理原則」に反する動きをするオールドレンズは存在しませんし、内部構造も構成パーツも何から何まで全てが「原理原則」に則っています。だからこそ初めて扱うモデルも平気でバラしてしまいますし、さらに初めてだとしても過去メンテナンス時に施されてしまった「ごまかし」までバレてしまい白日の下に曝されます(笑)

当方にとっては「オールドレンズを整備する」のではなく「オールドレンズが望む姿に今一度戻してあげる作業」がオーバーホールであり、自ら納得することで設計者の意図を反映しつつ本来あるべき姿に戻せるとの考え方に則っているからに過ぎません

オーバーホールすることの意義」は・・まさにそのオールドレンズにとっての活躍の場を
再び用意する「儀式」なのかも知れません。

本年も、さらに精進して1本でも多くのオールドレンズに活躍の場を提供していきたいと
願っています・・。