◎ Steinheil – München (シュタインハイル・ミュンヘン) Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra(M42)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、旧西ドイツのSteinheil-München社から1962年に発売された広角レンズ『Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra (M42)』です。
当時のフィルム一眼レフカメラ用の交換レンズ群には、まだ本格的な光学設計による広角レンズが存在せず、1950年にフランスのP.Angenieux Paris社より世界初の広角レンズとして「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」が発売されます。そして旧東ドイツでは1953年にCarl Zeiss Jenaより、同じレトロフォーカス型光学系を採用した広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8 (silver)」が発売されますが、Steinheil-München社からレトロフォーカス型光学系を採用した広角レンズが発売されるのは、さらに遅れて1956年になります。
ちなみに、日本では1957年に藤田光学工業から発売された「H.C FUJITA 35mm/f2.5」がレトロフォーカス型光学系を採用した日本初の広角レンズになります。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
前期型-I:1956年発売
光学系:5群7枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:23cm
絞り機構:自動絞り
筐体外装:真鍮製
前期型-II:1956年発売
光学系:5群7枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:23cm
絞り機構:自動絞り
筐体外装:アルミ合金製
前期型-III:1958年発売
光学系:5群7枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:23cm
絞り機構:自動絞り
筐体外装:アルミ合金製
その他:フラッシュ光のガイドナンバーを示す指標値環が附随
後期型:1962年発売
光学系:5群7枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:20cm
絞り機構:自動絞り
筐体外装:アルミ合金製
その他:ゼブラ柄
今回のモデル『Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra (M42)』の「D」はドイツ語「Automatische Druckblende (自動絞り)」の英語表記「Auto Diaphragm」の頭文字ですが、刻印が赤色になっているのでモノコーティングを現す意味合いも含まれています。このシリーズには他の焦点距離のモデルが存在しており、標準レンズ「Auto-D-Quinon 55mm/f1.9」或いは中望遠レンズの「Auto-D-Quinar 100mm/f3.5」があります。
光学系は5群7枚のレトロフォーカス型を一貫して採用し続けているモデルですが、1963年には最短撮影距離を0.5cm (5mm) と言うマクロレンズ「Macro-Quinaron 35mm/f2.8」を発売しています。今回のモデル『Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra (M42)』の最短撮影距離は20cmですが、実測したところ被写体〜フィルター枠端「約9cm」ですから、相当近寄れます。Flickriverにてこのモデルの実写を検索してみましたので興味がある方はご覧下さいませ。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。同じ旧西ドイツのSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) やISCO-GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン) などが異常に複雑でパーツ点数が細かく多いのに対し、このモデルは簡素化された合理的な設計を狙っていたことが分かります。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在しています。
↑5枚のフッ素加工 (フッ素加工の質はあまり良くない) が施されているシッカリした造りの絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。
↑この状態で鏡筒を立てて撮影しました。「絞り羽根開閉幅制御アーム」と言う絞り羽根が開いたり閉じたりする際の制御用アームが鏡筒外側に露出していますが、ここだけ樹脂製 (プラスティック製) であり、しかもあまり品質が良くありません。このアームが長い「溝 (ガイド)」になっている理由は、この鏡筒自体が繰り出されたり収納したりするので、その移動量の長さ分必要になるからです。
↑ヘリコイド (オス側) を組み付けるとこんな感じになります・・鏡筒の繰り出し量が多いので (最短撮影距離:20cmなので) ヘリコイドのネジ山が大変長い (深い) です。例えば、当時のライバルモデルである、先行していた旧東ドイツ製広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8」のシルバーモデルが最短撮影距離が35cmでしたから、相当意地を架けた設計で送り出してきたことが伺えます・・但し、Flektogonのゼブラ柄モデルでは最短撮影距離:18cmまで短縮化。
ところが、最短撮影距離の相違はあっても、Flektogonも似たようなヘリコイドのネジ山数 (鏡筒繰り出し量が多く長い/深いネジ山) なのですが、ヘリコイドを距離環から独立させているところが今回のモデルのポイントです。Flektogonでは後期型の黒色鏡胴に至っても、相変わらず距離環の裏側がダイレクトにヘリコイド (メス側) のネジ切りが成されている設計を踏襲していました。従って、距離環を回す際のトルクに関して、落下やぶつけたりなどで距離環に僅かでも変形が生じると、途端にトルクムラ (或いは重いトルク) に至ってしまう大きな欠点がありました。この辺の欠点を知ってか知らずか、このモデルではヘリコイド (オスメス) を距離環から独立させてきたので、トルクムラが生じる原因を少なからず排除できます。
↑距離環やマウント部を組み付けるための基台 (指標値環を兼ねる) です。距離環の回転域が長いので必然的にネジ山も長く (深く) なっています。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。これだけの長さ (深さ) のヘリコイドですから、必然的にヘリコイド・グリースの粘性を考慮しなければ重いトルク感で仕上がってしまいます。かと言って「軽め」のグリースを何でもかんでも塗れば良いと言うワケでもありません・・下手すればスリップ現象が生じてしまい、ピント合わせがし辛くなってしまいます (ピント合わせの微同時にククッと動くのでなかなか一発で合焦できない面倒くささ)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
実は、今回の個体は当初バラす前のチェック時に無限遠が出ていませんでした (つまり無限遠合焦していない)。さらに、無限遠位置である距離環指標値の「∞」位置で詰まった感じで停止していました (まッたく余裕無く僅かに足りていない印象)。これは明らかに過去のメンテナンス時に於ける調整ミスです。
↑この状態でひっくり返して「鋼球ボール+スプリング」を組み込んでから絞り環をセットしてしまいます。筐体の外径が大きめのワリには、絞り環の絞り値指標値の範囲が短い (狭い) 印象のモデルです。
↑こちらはマウント部ですが、内部の連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。当初バラした直後は、この内部に過去のメンテナンス時に塗られていた白色系グリースが経年劣化で液化が進行してしまいビッチリと濃いグレー状になって附着していました・・おそらくマウント面にある「絞り連動ピン」からの動きが滑らかではなかったようで、絞り羽根の開閉に問題を抱えていた個体だったのかも知れません。
↑上の写真は、その問題となる連動系・連係系パーツをバラした状態で撮影しています。一番手前にマウント面に飛び出てくる「絞り連動ピン」を置いていますが、そこからの連動・連係動作として他のパーツが密接に関係して駆動する機構部です。設計の発想は至って簡単な原理なのですが、各連動系・連係系パーツの「動き」と「役目」が理解できていなければ、この機構部はイジらないほうが無難でしょう。一度バラしてしまったら、どんなにメモっていても (正しく組み上げたとしても) 本来の適正な駆動に戻ってくれません (調整が必要な箇所だからです)。そして、その調整は何のためにイジるのかが明確に理解できていないと、時間ばかり過ぎて何ら改善できません(笑)
↑ハッキリ言って、このモデルの他の部位が合理的に考えられた設計なのに、この連動系・連係系パーツの機構部だけは「???」の印象です。あまりにも単純な発想で設計してしまったのか、或いはメンテナンス性まで一切考慮していなかったのか・・当方の見解としては後者のほうで、一切メンテナンス性が考慮されていない設計と言わざるを得ません。非常に神経質な機構部です。
マウント面に飛び出している「絞り連動ピン」が押し込まれると (①)、「絞り羽根開閉アーム」が勢いよく左側に振られ (②)、逆に押し込まれていた「絞り連動ピン」が解除されると (フリーになると:③)、今度はやはり勢いよく右側に「絞り羽根開閉アーム」が戻ります (④)。この「絞り羽根開閉アーム」の振り幅 (振幅幅) は、何と2cm弱もありますから、まるで旗振り棒のように元気いっぱいに動きます・・いえ、元気よく振ってくれないとマジッで困ります。
この連動系・連係系パーツの機構部は、最終的に「絞り連動ピン」の動きと「自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 」或いは、レリーズソケットが備わっているので、レリーズピンによる駆動まで含めて「3つの動きに対応」している必要があります。そのすべてをこの1箇所の連動系・連係系パーツ機構部で賄っているワケで、各パーツの「平滑性」がまさしく重要です。特に今回の場合は「絞り連動ピン」まで磨き研磨して平滑性を確保しています・・逆に言うと、そのくらい調整が神経質なので可能な限り「抵抗 (負荷)」を低減しておく必要があります。
当初バラした直後は、これらの各連動系・連係系パーツは腐食やサビが生じており、実際バラす前のチェックでも絞り連動ピンの押し込み動作で絞り羽根の動き (開閉動作) が緩慢でした。当然ながら当方のオーバーホール工程に於いて「磨き研磨」を施すことで主だった構成パーツは平滑性を確保できましたが、今回の個体はさらに「絞り連動ピン」やまるでゼムクリップのようなカタチをしたクッション環、或いは「絞り羽根開閉アーム」の軸部分などなど・・様々な細かい部分まで念入りに「磨き研磨」を施し最終的な滑らかさを担保できた次第です。
特に、真鍮製とアルミ製の環 (リング/輪っか) に関しては「磨き研磨」し過ぎると、逆効果で必要外の極僅かな隙間が生じてしまい、却って引っ掛かりを起こしてしまう原因にもなり兼ねません。もちろん、この箇所にグリースや潤滑油を塗布するのは「禁じ手」なのですが、過去のメンテナンス時にはシッカリとグリースが塗られていました(笑)・・いわゆる当方が「グリースに頼った整備」と呼んでいる常套手段です。
↑実際に連動系・連係系パーツの機構部をマウント部内部にセットした状態で横方向から撮った写真です。マウント面に飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込み動作に従って「絞り羽根開閉アーム」がグリーンの矢印の移動幅で勢いよく動きます。当初バラした際の「絞り羽根開閉アーム」の動きは、2/3程で緩い動き方に変わっていたために、結果的に絞り羽根の開閉 (特に戻り) が緩慢に至っていたワケです・・従って、旗振り棒は元気いっぱいに振ってくれないと困るのです(笑)
↑マウント部内部を覗いて撮っている状態です。一見すると簡単な構造のように見えますが、各連動系・連係系パーツの調整はヒジョ〜に神経質ですから、この機構部の「原理原則」をシッカリと理解していて (パーツの向きや固定角度まで理由が明確に説明できる人)、且つ慣れている人でないとバラさないほうが無難です。もしも、絞り羽根の開閉が緩慢な個体の場合には・・残念ながら諦めるしかないでしょう。つまり何を言いたいのか・・ハッキリ言って旧西ドイツ製オールドレンズは、単なる絞り羽根の油染みが原因で絞り羽根の開閉が緩慢なのだと考えたら大間違いだと言うことです (それは単なる思い込みであり関係する複数箇所の調整が必須です)。
↑ここで先に、距離環を適正な固定位置でキッチリと締め付け固定して (このモデルの場合、仮止めは厳禁です)、光学系前後群を組み付けて、さらにレンズ銘板までセットしなければイケマセンが・・何とこれらの作業は「同時進行」です(笑) つまり、マウント部がセットされて初めて各部の位置が確定手するような構造なので、一気に工程を進めなければイケマセン (従って、工程途中の写真を撮る余裕がありません)。チマチマと個別に組み付け作業していたら、いつまで経っても正しい位置で固定できません(笑)
この後にマウント部を組み付けて、鏡筒から露出しているプラスティック製の「絞り羽根開閉幅制御アーム」に、前述の「絞り羽根開閉アーム (旗振り棒)」を噛み合わせて、初めて絞り羽根の開閉が適正なのか否か確認できます。何を言っているのか??? つまり、このモデルは完全に組み上げるまで絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の整合性チェックが全くできません。従って、今回のオーバーホールでも、最終的に3回バラしては組み直しを行い、やっとのことで絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の整合性を確保できました・・当初バラす前のチェックでは、絞り羽根が開きすぎていたために最小絞り値「f22」の光量が多すぎていたようです (つまり適正に絞られていない状態)。
無限遠位置はあっていないし、絞り羽根の開閉は緩慢ですし、さらに絞り値との整合性も取れていない個体だった (ついでに距離環のトルクはスカスカ状態) と言うのが・・当初バラす前のチェック時に於ける状況です。この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行って適正であることをチェックしたらいよいよ完了です。
ここからはオーバーホールが終わったオールドレンズの写真になります。
↑オーバーホール/修理のご依頼を承ってから1カ月以上もお待たせしてしまい本当に申し訳御座いません。しかし、完璧なオーバーホールが完了しました。大変貴重なSteinheil-München製広角レンズ『Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra (M42)』です。市場にはあまり出回りませんが、お高いワリには状態の良い個体 (内部状況と連動系・連係系駆動のお話) が非常に少なく、且つ光学系のレベルまで考えるとおいそれと手を出すワケにはいきません。
↑ご依頼内容の一つであった光学系内のカビ除去は完璧に終わっていますが、さらに前玉表面の「極薄いクモリ」が生じていたために、当初バラす前の実写チェックで極僅かながらもコントラストの低下を招いていました。前玉表面のモノコーティング層を「硝子研磨」しましたので、現状大変クリアな状態に戻りました (一部外周附近に極僅かですが除去できずに残っている箇所があります)。コントラストの低下も改善できました (このページの最後のほうに実写を掲載しています) ので、大変透明度の高いレベルに仕上がっています。LED光照射でも、コーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら「皆無」です (カビ除去痕に拠る汚れ状は僅かにあります)。
↑光学系後群のコーティング層も経年劣化が進行していますが「極薄いクモリ」は生じていないので、敢えてコーティング層をイジっていません。このままお使い頂いても一切写真に支障ありません。但し、カビ除去痕は複数残っています (写真に影響なし)。
↑当初最小絞り値「f22」まで閉じきっていなかった絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) も整合性をチェックして (そのためだけに3回もバラして組み直しましたが)(笑)、キッチリ絞り羽根が開閉してくれます。絞り環のクリック感は少々軽めですが (内部のスプリングがもうヘタっています)、操作性に違和感を抱くほどスカスカではありません (僅かにクリック感を感じます)。また自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) との連係動作による絞り羽根の瞬時切替動作も確実であり、シャコッと気持ち良く切り替わってくれるので、面白くて遊んでしまいます・・当方は、内部で例の「旗振り棒」が元気いっぱいに振り切ってくれているのを妄想しているので、オモシロイと感じる次第です(笑)
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。特にブライトブラックの光沢感にイエローとシルバーの刻印指標値、レッドの「△」マーカーなど、そしてもちろんピッカピカに光彩を放つゼブラ柄など・・西ドイツ臭さを充分に堪能できる素晴らしいデザイン性です。
↑塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重めと中程度」を使い分けて塗り、距離環を回す際は「全域に渡り均一」なトルク感で、且つ大変滑らかな駆動で仕上げています。
↑無限遠位置も極僅かにオーバーインフになるよう設定しています。この後にご案内しますが、「ピン押し底面」を有する「M42マウントアダプタ」に装着される場合は必ず「自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 」の設定を「手動絞り (M)」にセットしてご使用下さいませ。マウント面の「絞り連動ピン」が収納されている状態にすることが望ましいです。逆にフィルムカメラでご使用頂く際は、いずれの設定でも正しく適正駆動するよう調整済です。
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ここから、ご依頼の内容には含まれていませんが、このモデルご使用にあたっての『注意事項』をご案内申し上げます。今回の個体に限らず、このモデル『Auto-D-Quinaron 35mm/f2.8 zebra (M42)』すべてに当てはまるご案内ですので必ずご留意下さいませ (他焦点距離でも同じ)。
↑上の写真は、当レンズのマウント面を横方向から撮影しています。マウント面には極僅かな出っ張り (約0.5mm) があり、そこからマウントのネジ切りが用意されています。その突出量はピタリ「8mm」ありますから、もしも当レンズを「M42マウントアダプタ」に装着されるなら、以下の事柄にご留意頂く必要があります (厳守です!)。
↑当方の手元にある代表的な3種類の「M42マウントアダプタ」を用意して解説していきます。
- ①:中国製K&F CONCEPT、M42マウントアダプタ (ピン押しタイプ)
- ②:日本製M42マウントアダプタ (ピン押しタイプ)
- ③:中国製FOTGA、M42マウントアダプタ (非ピン押しタイプ)
・・これらのマウントアダプタに装着した場合に、どのような不具合 (トラブル) が発生するのかを解説していきます。
↑上の写真は①の「K&F CONCEPT製」M42マウントアダプタです。オールドレンズのマウント面にある「絞り連動ピン」を強制的に押し込んでしまう「ピン押し底面」を有する、いわゆる「ピン押しタイプ」と呼ばれているM42マウントアダプタです。ピン押し底面の深さは「5.5mm」です。
↑このマウントアダプタに当レンズを装着すると上の写真のように最後までネジ込めないので「1mm」の隙間が空いてしまいます・・結果、無限遠が出ない (合焦しない) ことになります。
↑さらに、当レンズのマウント面に備わっている「絞り連動ピン」にマウントアダプタに用意されている「ピン押し底面」の縁が接触してしまい (擦っている状態) 絞り連動ピンは停止状態に陥ってしまいます。結果、自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を操作するとマウント部内部の連動系・連係系パーツが下手すると壊れます (調整がズレてしまいます)。従って、この場合は必ず一番先に自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の設定を「手動絞り (M)」にセットしてからマウントアダプタにネジ込んで下さいませ。そうすれば内部の機構部は壊れませんが、無限遠はズレているので合焦しません。
↑こちらは②の日本製 (有名処の高額な) マウントアダプタです。やはり「ピン押し底面」を備えており「深さ:6mm」です。
↑当レンズをネジ込むと、やはり隙間が空いてしまいますが「0.7mm」程度なのでギリギリ無限遠合焦するかどうかと言った感じです (僅かに足りないか?)。
↑この時の「絞り連動ピン」は、やはり接触して擦っている状態になります (絞り連動ピンは停止状態になり機能していません)。従って、① と同様に必ず一番先に自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の設定を「手動絞り (M)」にセットしてからマウントアダプタにネジ込んで下さいませ。そうすれば内部の機構部は壊れません。
↑最後が、③の「非ピン押しタイプ」のマウントアダプタであり (中国製)、絞り連動ピンが強制的に押し込まれないタイプです。
↑当レンズをネジ込んでも当然ながら最後までキッチリとネジ込めます (つまりフィルムカメラに装着した状態と同一)。
↑当然ながらマウント面の「絞り連動ピン」も干渉しないので、自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の切り替え操作で絞り羽根の駆動をチェンジできます・・実際は、絞り羽根の開閉をするために、やはり「手動絞り (M)」にセットしますが内部が壊れる心配からは開放されますし、何よりも無限遠合焦します。
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以上、M42マウントアダプタに関する注意事項をご案内しましたが、この問題は、この当時のSteinheil-München製オールドレンズが、やはり当時のフィルムカメラ「EDIXA」シリーズの交換レンズ群として用意されていたことから発生している不具合です。今回の個体に関しては、鏡胴に「EDIXA-MAT」の刻印があるのでEDIXAカメラ用の交換レンズとして出荷されていた個体であることが分かります。
つまり、マウント面に備わっている「絞り連動ピン」の位置が、そもそも僅かにズレた位置で設計されていること。さらに、当然ながらフィルムカメラに装着することしか想定していないので、マウント面のネジ山突出量が「8mm」で作られていること。そして、内部の連動系・連係系パーツ機構部が常時絞り連動ピンが押し込まれていることを想定していない (チカラを逃がしきれない) 設計であることも壊れる (調整がズレる) 原因の一つになっています。
これらを当方では総じて「マウントアダプタとの相性問題」として結論づけていますが、同時にこの当時のSteinheil-München製オールドレンズが厄介なモデルであることも意味します。同じように、例えば旧西ドイツのSchneider Kreuznach製やA.Schacht Ulm製、ISCO-GÖTTINGEN製などでも似たようなことが起こりますから、手に入れる際はマウント面の「絞り連動ピン」とネジ切り突出量をチェックしたほうが良いでしょう。
ちなみに、ご依頼者様お手持ちのマウントアダプタに適合した調整をご依頼される方も居ますが、必ずキッチリ適合できるとは限りません・・絞り連動ピンが押し込まれたままになるワケですから、オールドレンズのモデルに拠っては適合できない場合もあり得ます。
↑当レンズによる最短撮影距離20cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。当初バラす前の段階では、この開放時撮影で僅かながらもコントラストの低下を招いていました。
↑絞り環を回して設定絞り値を「f4」にセットして撮影しています。
↑こちらは、本当に最短撮影距離 (開放f2.8) で撮っている時の写真です・・被写体 (手前側ヘッドライトの電球部分) から当レンズのフィルター枠先端部分までの距離「僅か9cm」での撮影です (上の各絞り値での実写はワザと引いて撮っていました)。
なお、当初バラす前のチェック時に、僅かに鏡胴にガタつきが発生していたり、光学系内の固定環が緩んでいたりなど、キッチリ組み上げたので心持ちピント面も鋭くなったように感じます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。