◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Trioplan 50mm/f2.9《初期型》(exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの老舗
光学メーカーMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ『Trioplan 50mm/f2.9
《初期型》
(exakta)』です。


Meyer-Optik Görlitz製標準レンズ『Trioplan 50mm/f2.9』はマウント種別の相違に限らず今まで「M42/exakta/Altix」と全て扱っていますが、モデルバリエーションの中で今回の「初期型」は初めてです。

この「初期型」が実際に出品されているのを目にしたのは4年前の海外オークションebayが初めてでしたが (それ以来目にした記憶が無い)、その時出品されていた個体は光学系の状態が酷く (全面に渡るクモリ/ヘアラインキズ) 且つ絞り環が変形している個体だったので見送ってしまいました。

ハッキリ言って「初期型」でフツ〜に使えそうな個体を手に入れることは非常に難しいと言えます。今回パラしてオーバーホールしてみて、さらにその考えが強くなりました。まともに整備できるシロモノではないことが理解できたので、次回扱うかどうか悩んでしまいました。

当方は同じTrioplanの中望遠モデル「Trioplan 100mm/f2.8」も扱いをやめてしまいました (解体する際のリスクが高すぎて怖いので)。その意味で、今回の「初期型」もバラすのは簡単ですが、その調整たるやハンパないので、オーバーホール済でのヤフオク! 出品は下手すれば最初で最後かも知れません (悩み中)。

  ●                 

Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) は1896年にドイツで創業した老舗光学メーカーの一つで、当初は前身であるHugo Meyer & Co., (フーゴ・マイヤー) として活動し戦前は大判サイズの光学製品で当時のCarl Zeiss Jenaに肩を並べるポジションまで登りつめました。しかし敗戦後に旧東ドイツに含まれ悲劇の運命を辿ることになります。

敗戦で旧ドイツは東西に分断され旧東ドイツは当時のソ連による占領統治により共産主義体制国家として再建をスタートしますが「私企業」の概念が存在せず全ての企業は国に従属した「人民所有企業 (VEB)」になりました。
敗戦時にCarl Zeiss Jenaも含め主だった残存光学メーカーが「光学精密機械VEB」に編入されたのに対し、運の悪いことにMeyer-Optik Görlitzは「軍用機械工業VEB」に組織されてしまいました。この時点で他社光学メーカーから遅れをとったワケですが1948年に自社工場をCarl Zeiss Jenaに売却してしまうと言う最終手段で念願の「光学精密機械VEB」に編入を果たしています。

しかし自社工場をCarl Zeiss Jenaの管理下に置いてしまったことが後の命運を違える結果に繋がります。1947年に今回出品するモデルである『Trioplan 50mm/f2.9』の初期型 (総アルミ合金製) を発売しその後多くのモデルを順次発売していきますが経営難が続き、ついに1968年Carl Zeiss Jenaの配下にあったPENTACONに吸収合併され消滅します。

Meyer-Optik Görlitzの主要モデルの光学系はそのままPENTACONに引き継がれますが、そのPENTACONも1980年にはCarl Zeiss Jenaに併合されました。1989年ベルリンの壁崩壊事件の勃発で東西ドイツの分断は終わりを告げ1990年に現在のドイツに再統一されます。この時Meyer-Optik Görlitzは新たな投資家を募り会社再建を試みますが失敗し潰えました。

2014年にGlobell Deutschlandが存命していた1人の設計技師を伴い、新生Meyer-Optik Görlitzとして再起し同年新型モデル『Trioplan 50mm/f2.9』が発売されています (その他のモデルも順次複数発売)。

なお、ネット上の解説などを見ると当時の旧東ドイツの企業を指して「人民公社」と案内していることが多いですが「VEB」はドイツ語の略なので、そのまま解釈すると最小単位の企業を指して「人民所有企業」と言う表現が最も適切だと考えます。例えば当時のソ連 (旧ソビエト連邦) は「国営企業」の呼称になりますから、同じ共産主義体制でも国によって概念や呼称は異なると考えます。従って「人民公社」はどちらかと言うと当時の中国に当てはまる概念なので旧東ドイツには適当ではありません (ソ連も中国も国営ですが旧東西ドイツは一つの国が分断されていたに過ぎないので国営の概念自体が成り立ちません/国際法上も国際輸出法上も旧東西ドイツは共に国ではない)。

  ●                 

当時、Meyer-Optik Görlitzでは同じ旧東ドイツのIhagee Dresden製フィルムカメラ「Kine EXAKTA」用交換レンズ群標準レンズ域のモデルとして・・、

・Primoplan 5.8cm/f1.9 :4群5枚プリモプラン型光学系構成
・Makro Plasmat 5cm/f2.7:5群6枚マクロプラズマート型光学系構成
・Primotar 5.4cm/f3.5:3群4枚テッサー型光学系構成
・Weitwinkel Doppel Anastigmat 4cm/f4.5:4群4枚アナスチグマート型光学系構成

・・などが存在します。

一方Trioplanのほうの歴史はさらに遡り、1893年にHarold Dennis Taylor (ハロルド・デニス・テイラー) 氏によって設計された、Cooke社の3群3枚Triplet (トリプレット) 型光学系構成のパテントに基づいて設計された「Anastigmat Trioplan 10cm/f6.8」が1916年に初めて登場したのがスタート地点になります。この中で標準レンズ域の焦点距離50mmとして捉えると光学系を再設計して組み込んだ「Trioplan 5cm/f2.8」がシネレンズのCマウントとして登場したのが最初になります

何と、一番最初の標準レンズ域のTrioplanはCマウントながらも開放f値が「f2.8」だったのですね。その後に登場する一眼レフ用の標準レンズは開放f値が「f2.9」に再設計されています。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型−I (1942年発売)/初期型-II (1946年発売:左写真)
絞り羽根枚数:14枚
絞り環駆動方式:手動絞り (実絞り)
最短撮影距離:75cm
筐体/構成パーツ:総アルミ合金製
コーティング:シングルコーティング/モノコーティング
フィルター径:⌀ 29.5mm (?)

前期型 (1952年発売)
絞り羽根枚数:12枚
絞り環駆動方式:手動絞り (実絞り)
最短撮影距離:60cm
筐体/構成パーツ:総アルミ合金製
コーティング:モノコーティング V
フィルター径:⌀ 30.5mm

中期型 (1957年発売)
絞り羽根枚数:12枚
絞り環駆動方式:クリック式
最短撮影距離:60cm
筐体/構成パーツ:総アルミ合金製
コーティング:モノコーティング V
フィルター径:⌀ 35.5mm

後期型 (1963年発売)
絞り羽根枚数:12枚
絞り環駆動方式:クリック式
最短撮影距離:60cm
筐体/構成パーツ:総アルミ合金製
コーティング:モノコーティング V無し
フィルター径:⌀ 35.5mm

モデルバリエーションで今回出品する個体は「初期型II」にあたり、本来は絞り環/距離環/マウント部の筐体仕様が異なる「初期型I」が存在しますが掲載できる写真がネット上で見つかりません (基本設計は同一)。こうやって見ると、Trioplan 50mmで唯一「14枚絞り」なのが「初期型」であることが分かります。

なお、某有名サイトも含めネット上の解説では総てのページでこの「初期型」がノンコーティングのモデル (光学系にコーティング層を蒸着していない) と案内していますが、それは間違っています。

今回バラしてみると3群3枚のトリプレット型光学系ですが、第1群の前玉表裏にはパープルのコーティング層が蒸着されていました (つまりシングルコーティング)。また第2群はノンコーティングですが第3群は裏面側ブルーコーティング、表面側パープルアンバーのモノコーティングが施されています (右が後玉のコーティング層光彩を撮影した写真)。

今回の個体は残念ながら第1群の前玉表裏に経年のコーティング層劣化に伴う全面に渡る酷いクモリが生じており (経年相応の拭きキズやヘアラインキズも多い)、当初バラす前の実写確認では極端なコントラスト低下と共に解像度不足も生じていました。従って、下記のオーバーホール工程で前玉のコーティング層を硝子研磨して剥がしノンコーティングの状態にすることでコントラストと解像度を改善させていますから、その写真をご覧頂くと前玉外周附近にコーティング層が僅かに残っています (つまり本来はノンコーティングではない)。

ちなみに1952年から登場するモノコーティング「V」は、自社工場を1948年にCarl Zeiss Jenaに売却してしまったことから工場機械設備を更新するチャンスを得て、1952年にCarl Zeiss Jenaより導入したコーティング層蒸着設備を基に開発したモノコーティング (複層膜コーティング) です。「V」はドイツ語のVergütung (ファギュートン) の頭文字を採っており日本語訳で「報酬」と言われていますが、英語のcoatingから翻訳するとヒットしてきます。

一部ネット上解説でCarl Zeiss Jena「T」コーティングのMeyer-Optik Görlitzバージョンと案内されていますが、少々間違い易いニュアンスになります。Carl Zeiss Jena「T」コーティングはあくまでもパテント権がCarl Zeiss Jenaにあるので同じモノをMeyer-Optik Görlitzが使うことはできません。あくまでもコーティング蒸着設備をCarl Zeiss Jenaから導入しただけの話であり、コーティング層の成分や/配合率などはMeyer-Optik Görlitz独自の設計であり (Carl Zeiss Jenaパテントを侵すことはできない) 同一、或いは模倣したモノコーティングではないと考えています (PENTACONに吸収合併されるまではCarl Zeiss Jenaと競合する立場だったハズだから)。

なお、PENTACONがまだCarl Zeiss Jenaの直下で従属位置にポジショニングしていた頃の従業員数は8,300人ですが、ベルリンの壁崩壊事件直前のCarl Zeiss Jenaは1953年から始めた競合各社の光学メーカー吸収がほぼ完了しており、光学精密機械VEB (実際はVVBのコンビナート) の中で唯一残っていた光学機器メーカーです。その従業員数たるや4万4千人規模ですから超巨大企業だったことが伺えます。

逆に考えるとMeyer-Optik Görlitzは自社工場をCarl Zeiss Jenaに売却したことが結果的に1968年PENTACONに吸収されるまで生き存えられた一つの因果だったかも知れません。
Carl Zeiss Jenaに競合する立場を維持したいにも拘わらず製産設備は押さえられたままでありPENTACONへの供給も続けなければならない境遇の中、企業経営の舵取りは相当な困難を伴ったのではないでしょうか・・ロマンが広がりますね。

   
   
   

↑上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
Trioplan 100mm譲りの繊細で大変美しいキレイな真円のシャボン玉ボケ (左端) から玉ボケへと変わっていく様を集めてみました。

二段目
また同時に3群3枚のトリプレット型光学系では改善しきれない収差の影響が如実に表れ、却ってご覧のような幻想的な世界を撮ることもできます。

三段目
しかしこの3枚玉に架けた設計の意地はダイナミックレンジでちゃんと確認できます。ビミョ〜なト〜ンの違い (桜の写真) や色飽和しにくいことから来るインパクトの出し方が容易である扱い易さ、或いは光源/逆光耐性の面白さなどで存分に愉しめる標準レンズではないでしょうか。

光学系は典型的な3群3枚のトリプレット型ですが、その後にモデルチェンジする「前期型〜後期型」の光学系とは設計が違います (最短撮影距離が長い為)。また筐体自体も「Makro Plasmat」やその他のモデルに継承される設計でしたが、後には一新されてしまいます。

なお、今回出品する個体は製造番号から1947年春に生産された個体と推測しています。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は至って簡素ですが、ハッキリ言ってこのモデルの「各部位の調整」は相当なレベルです。当方が今までに扱ったオールドレンズで言うと、アメリカのKodak製フィルムカメラEKTRA用Ektarシリーズに匹敵するくらいの超難度レベルでした。つまり当方のオーバーホール/修理料金設定で言えば、ご請求上限額の「35,000円 (単会員様)」レベルです。

それが冒頭で書いた「今後の扱いをどうするか」と言う悩みに至った理由です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは総ての構成パーツがアルミ合金材の削り出しですが、さすがに戦後すぐの製産品ですから切削レベルは日本製オールドレンズと比べものにはなりません (非常に粗い)。

↑今回の個体は絞り羽根の油染みから距離環の極度なトルクムラ、或いはコントラストの低下や非常に甘いピント面 (カメラのヒーキングに一切反応せず) など、ハッキリ言って使える状態ではありませんでした。14枚の絞り羽根は相当な赤サビが生じていたので可能な限り落としてキレイに戻しました。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。このモデルが超難度レベルであることを解説している写真です。

絞り環用ネジ山
赤色矢印部分が絞り環をネジ込み、同時に絞り羽根開閉で駆動域にもなる箇所です。

ヘリコイド (オス側) ネジ山
ブルーの矢印部分がヘリコイド (オス側) がネジ込まれます。

光学系前群用ネジ山
グリーンの矢印部分が光学系前群 (第1群〜第2群) がネジ込まれます。

例えばロシアンレンズでも、似たように鏡筒自体がネジ山になっているモデルが存在しますが、他のオールドレンズでも一般的にこのような場合はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) で締め付け固定することでネジ込み位置を確定させています (経年で緩まないようにしている)。

ところが今回のモデルにはそのイモネジが存在しません (締め付け固定していない)。唯一存在するイモネジは、この鏡筒をヘリコイド (オス側) に固定する箇所のイモネジだけです。絞り環も光学系もイモネジが無く固定位置はフリーです。

これが何を意味するのかすぐにピ〜ンと来た人は相当な整備スキルをお持ちです。

このモデルは光学系前群と後群の格納位置が決まっておらず、且つそれは絞り環の固定位置と距離環 (或いはマウント部) のセット位置で左右されるので、総ての部位がフリーの状態になってしまうことを意味します。つまり無限遠位置はおろかピント合焦も含めて絞り羽根の開閉や鏡筒の繰り出し/収納に至るまで、何もかも基点/基準がありません。

これはどう言うことかと言えば、このモデルはMeyer-Optik Görlitzの製産工場でしか適切な固定箇所が分からないと言うレベルのお話です(笑) それが冒頭の「超難度」と申し上げた理由です。似たような設計のモデルが前述のアメリカはKodak製EKTRA用Ektarシリーズなので既に何本もオーバーホールしている経験から、この方式の難しさはよ〜く理解しています。

↑鏡筒に絞り環をセットしたところです。ネット上でこのモデルの写真を検索してヒットした個体の写真を見ると、全てで絞り環が変形しているように見えます。しかも、今回の個体も赤色矢印箇所が迫り上がっていました (叩き込みで平坦に近づけていますが完璧に平坦には戻せません)。

この絞り環を深くネジ込みすぎるとヘリコイド (オス側) に影響してしまうので無限遠位置がズレますし、下手すればマウント部の組付けにも影響が出ます。逆にネジ込み位置が浅すぎると、今度は光学系前群が最後までネジ込めずフィルター枠までセットできなくなります。

つまり絞り環の位置を決めるのにヘリコイド (オス側) を先にネジ込みたくなりますが、その為には絞り環操作の駆動範囲が確定していないとセットできないので、やはり絞り環の組付けが先になります。アッチもコッチもダメみたいな・・俄に焦りが出てきます(笑)

↑一般的なオールドレンズとは設計概念が真逆で、ヘリコイド (オス側) と鏡筒の間が空間になっている変わった設計です。それがこのモデルの組み上げを非常に難しくしています。鏡筒をヘリコイド (オス側) 内部にネジ込みますが、イモネジで鏡筒を固定して経年使用でズレが生じないようにするものの、肝心な固定位置が何処なら適正なのかが全く分かりません(笑) もちろんバラす前に締め付けされていたイモネジの痕跡は残っていますが、そもそもバラす前の実写確認でピント面が甘かったので当てにできません。

つまりピント面を鋭く戻す為には鏡筒の固定位置からしてゼロから調べ直さなければ意味がありません (何故なら鏡筒に光学系前後群がセットされるから)。

結局、何ひとつ基点/基準が存在しないので (製産工場でしか分からない話だから) 、1時間ほどあ〜だこ〜だ考えた挙げ句、執った対策は何とネット上の光学系構成図から具体的な第1群〜第3群までの距離を逆算してアタリ付けすると言うアホみたいな話です(笑) それ故、冒頭の光学系構成図も前回同様デジタルノギスで計測しまくって導き出したほぼ正確なトレース図になっています(笑)

↑距離環側がヘリコイド (メス側) になっているので無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

もちろん前述のように鏡筒の位置が正しいことが前提でこの工程を進めていますが、実際は間違っていました(笑) 上の写真は2日目に撮影している為その間に8回組み直しをしています(笑) それも単に無限遠位置のアタリ付けだけで組み直しているだけですから、この後最後にピント面の解像度改善で再びバラすハメに陥ります(笑)

何でもあり・・ですね(笑)

↑こんな感じで距離環の指標値環がセットされます。もちろん指標値環の固定箇所からしてミスっていれば「∞」刻印の位置でさえ疑わしくなります(笑)

↑2日目にしてようやくここまで組み上がりました。こんなに小っちゃな筐体なのに、何とも恨めしいことか・・!

当初バラす前は過去メンテナンス時にミスッて基準「」マーカーと絞り環絞り指標値がズレている (マーカー位置にf5.6が来ている) とばかり信じ込んでいたのですが、浅はかでした(笑) これが正しい位置であることを2日掛かりで割り出しています。

一般的なオールドレンズでは開放f値の位置が基準「」マーカー位置と合致するのが常識ですが、一部の古いオールドレンズに今回のような「絞り値範囲の中心で基準にしている」モデルがあったりします。今回のモデルで言えば「f5.6」がちょうどド真ん中と言うことになりますね(笑)

この後は光学系前後群を格納して無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑途中で何度も挫けそうになって「え〜ぃ!もぉ〜ジャンクだ!」と放り投げたくなる気持ちをグッと堪えて、ひたすらに2日間励みました(笑) もしかしたら絞り環の一部が変形して曲がっていたのは、過去メンテナンスした整備者が既に1回放り投げているのかも知れません (いえジョークです)。

結局2日掛かりで鏡筒の固定位置割り出しで5回、距離環のネジ込み位置アタリ付けで3回、光学系前後群を入れ込んでピント面の解像度確認/再調整で何と10回の合計18回に及ぶ組み直しを経て完成しています(笑) それ故、もぅ見たくないワケです(笑) 今までオーバーホールしたオールドレンズで最高の組み直し回数は16回ですから、とうとう記録更新してしまいました。

まるで新品同様品のような操作性・・とまでは決して言えませんが(笑)、それでも当初の「オールドレンズにはならないでしょ?!」みたいな使い道が無い状況からすれば天と地の差の仕上がりです。その意味で「ゴミ同然」から起死回生したような印象に見えてしまいます(笑)

ハッキリ言って3〜4年に1本レベルのマジッで希少な「初期型II」タイプ『Trioplan 50mm/f2.9 (exakta)』です。コイツをオーバーホール済で出品することに意義がある (おそらくこれが最後だから) ことしか当方の頭には想い浮かびません・・。

↑光学系内の透明度は冒頭の解説のとおり、第1群 (前玉) に全面に渡るコーティング層経年劣化に伴う除去できないクモリが生じていた為に「硝子研磨」してシングルコーティング層を剥がしてしまいました (そうしないと霧の中の写真ばかりで使いモノにならないから)。つまり「製品寿命と復活との天秤」なワケです。

なお、コーティング層が残っている外周附近はクモリが生じていない部分だったので、そのままコーティング層を残しています。

第2群の全面に渡るクモリは経年の揮発油成分が原因だったので、これでもかと言わんばかりに透明です (硝子の存在が分からないくらいのレベル)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

写真をご覧頂ければ分かるとおり、第1群 (前玉) 表裏のパープル色コーティング層は、中心部分をほぼ全面に渡って「硝子研磨」で剥がしてしまいました。外周附近に僅かに残っている程度です。拡大撮影でも撮れませんでしたがLED光照射で無数に見える経年相応な拭きキズやヘアラインキズがあります。

↑光学系後群 (つまり第3群の後玉) にも経年相応な拭きキズやヘアラインキズが複数あります (無数レベルではない)。組み上げた際は光学系内はキレイだったのですが、撮影しているうちに「塵」が何処かから出てきてしまいました。2mm長くらいの塵が後群側にありますが、スミマセンもぅ光学系をバラして除去する気力が残っていません (また調整のやり直しなので)。

事前告知していますし写真にも写っているのでクレーム対象としませんし、再整備はこのモデルに関しては一切受け付けません (もう手にしたくない)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:9点
後群内:17点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり (前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり(コーティングハガレ)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が数点ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・前後玉に経年相応の拭きキズやヘアラインキズが複数あります。
・第1群(前玉)はコーティング層の経年劣化により全面に渡る除去できないクモリが生じていた為に当初バラす前の実写確認ではコントラスト低下や解像度不足が生じていました。コーティング層のを一部を剥がしたので、現状コントラスト低下が解消し解像度も向上しています。
・第1群(前玉)表面の経年相応な拭きキズやヘアラインキズの影響からシ〜ンによっては僅かにコントラスト低下を招く懸念があるのでご留意下さいませ。
・光学系内に2mm長ほどの塵が侵入しています。

↑14枚の絞り羽根は当初の油染みがキレイになりましたが、赤サビが生じていたことから表層面のカーボンが取れている箇所が多くあります (汚れのように見える)。サビが取れている箇所なので汚れではないのですがこれ以上キレイにはなりません。

絞り環操作はネジ山が摩耗して擦り減っている影響から、これ以上軽いトルク感に調整できません。正直言って少々「重め」の操作性ですが、そのまま回して頂いて問題は起きません。

ここからは鏡胴の写真になりますが経年の使用感が相応に感じられる筐体ながらも当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。同時にアルミ合金材の「光沢研磨」も施しているので当時のような艶めかしい眩いほどの光彩を放っています。もちろん「エイジング処理済」なのですぐに1年足らずで白っぽくなったり酸化してしまうことはありません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります (僅かなゴリゴリ感)。
・絞り環は無段階式(実絞り)操作ですが経年劣化によりネジ山が摩耗しており少々重いトルク感に至っていますがそのまま操作頂いても問題ありません。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・マウント部を含め一部を着色しています。

赤色矢印の箇所に過去メンテナンス時にマーキングされた「IIx」みたいな刻み込みが隙間から見えます (消せません)。

↑絞り環の縁部分にもマーキングがされていますが何が刻まれているのか良く見えません (赤色矢印)。

↑マウント部にもマーキングがあります (赤色矢印)。

↑絞り環操作は前述のとおり「重め」のトルク感ですが、ご覧のとおりこのモデルは開放f値「f2.9」の遙か先まで絞り環が回ってしまいます (設計上の仕様なので改善不可)。絞り環裏側に刻まれている「 (赤色ドット)」が基準マーカーなのですが (赤色矢印)、絞り環を回して「」を絞り値に合わせれば適正な絞り羽根開閉幅 (開口部/入射光量) になるよう調整済です。

↑マウント種別が「exakta」ですが、当方所有日本製マウントアダプタ (Rayqual製) に装着すると少々キツメの印象です (時々着脱が引っ掛かる)。逆に中国製のK&F CONCEPT製マウントアダプタだとちょうど良い印象です。

絞り環は一部が変形していますがこれ以上修復できません。また距離環を回すトルク感も「重め」ですが当方にはちょうど良い使い勝手のトルクです。このモデルはピントの山が掴みにくく、しかもアッと言う間なのであまり軽すぎるのも却って使い辛くなります。絞り環操作はとても重いですが苦になるような重さではありません。擦れている感触も伴いますがそのままご使用頂いて将来的に問題はありません。絞り環操作は距離環とは完璧に独立しているので、ピント合わせ後に絞り環操作してもピント位置がズレることはありません。

距離環を回すと一部に抵抗/負荷/摩擦を感じますが回していると改善されてしまいます。ヘリコイドネジ山の極微細な摩耗が影響していますが、それは過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗られていた為 (絞り環側も同じ) なので、ネジ山が摩耗してしまい擦り減ってしまった以上、元に戻すことはできませんから改善できません。

なおヘリコイド (オスメス) には「直進キー」と言うパーツ (2本) が関わりますが、今回の個体はその1本のネジ山がバカになっていて空転していました。それが影響して距離環を回す際のトルクムラに至っていたので外しています (1本だけで機能させています)。

またフィルター枠部分はネジ込み式ですが固着剤だけで固定させています。従ってフィルター着脱すると外れる懸念が高いので「被せ式のフィルター」を使うか何か工夫して下さいませ。フィルター枠が外れても前玉が外れることはありませんが見てくれは悪くなります。

大変希少価値の高い「初期型II」ですが、Trioplan 50mmとしての描写性能は折紙付きですので、お探しの方は是非ともご検討下さいませ。特に当方でこの「初期型」をオーバーホール済で出品することはおそらく今回が最初で最後になると思います。

↑当レンズによる最短撮影距離75cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

絞り環は刻印絞り値「f2.9」に基準「」マーカーを合わせるまで絞り羽根が顔を出しません。つまり絞り環が開放f値「f2.9」の先まで回るからと言って、決して「f2.9」よりも明るい (より多くの入射光が差し込んでいる) ワケではありません。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。