解説:グリースについて
オーバーホール/修理を受けていると時々当方が使用しているグリースについてお問い合わせ頂きます。いつもご依頼頂いている方には丁寧にご案内できない旨返信していますが、中にはイキナシ短文で問い合わせてくる怪しい方もチラホラ (同業者か?)(笑)
当方も決して詳しくなく、今年になって初めて業界の方に詳しくお話しを伺ったり、金属加工会社の社長さんに金属材からの知見としてご教授頂いたりしました (お忙しい中本当にありがとう御座いました!)。然しいまだに確かなことは理解できておらず自前で調べたり数回お話を伺っただけではなかなか知識として蓄えられていません (そもそも脳細胞が拒絶反応を示しているし)。
当方がオーバーホール/修理を始めて既に7年が経過しているにも拘わらず、今頃そのような事をしている始末で当方の技術スキルがどんだけ低いのかをまさに表している一つの事実ではないでしょうか・・。
① グリースとは
そもそもグリースとは潤滑剤の一つです。
◉ 液体潤滑剤 :潤滑油
◉ 半固体潤滑剤:グリース、コンパウンド
◉ 固体潤滑剤 :二酸化モリブデン、グラファイトなど
液体の潤滑油 (基油) の中に粘性を与える増ちょう剤や何某かの特性/特徴を付加する添加剤等が加えられて精製されたのが半固体状のグリースです。
潤滑油は液体ですが前述の「液体潤滑剤 (潤滑油)」をそのまま使っているワケではありません。基油なので金属由来の純粋な鉱物油が多いでしょうか。しかしそうは言っても対象とする材質 (ラバー材や樹脂材) によっては攻撃性のデメリットが増大してしまう為、化学合成油や植物由来の合成油も基油として活用されます。要は平滑性/潤滑性を左右するのが基油であり対象に対するメリット/デメリットを最大限に考慮して選択する必要があります。
② 増ちょう剤とは
簡単に言うと基油を半固体状にする役目で使われ微粒子として基油内に分散し様々なグリースの性能諸元を満たします。
◉ 石けん系増ちょう剤:金属系
「石けん」と言っても手を洗う石けんではありません。鉱油と脂肪酸、水酸化カルシウム (消石灰) と水を加え水分調整後に精製されます。牛脂系の脂肪酸を用いたグリースなので水分が含まれる為80度以上になると水分分離が始まり構造破壊により基油と石鹸基が分離してしまいます。逆にひまし油系脂肪酸を用いたグリースは水分を含まず100度まで耐えられます。
◉ リチウム石けん系増ちょう剤:金属系
最も万能なグリースとして広範囲に使われている種別で、鉱油または合成油にステアリン酸リチウム (或いはひまし油の硬化脂肪酸のリチウム石けん) を増ちょう剤にして耐水性・せん断安定性に優れた諸元として使われています。
◉ 複合石けん系増ちょう剤:複合金属系
石けん系の耐熱性の欠点を補う目的から開発されたグリース種別で、脂肪酸と有機酸とを組み合わせて複合石けんとしており、これをコンプレックスと言います。アルミニウムコンプレックス、或いはリチウムコンプレックスなどがあり200度以上まで耐熱性 (滴点) が向上しています。
◉ 非石けん系ウレア増ちょう剤:非金属系
ウレア基 (-NH-CO-NH-) を2個以上有する有機化合物を増ちょう剤として使っているグリース種別 (ジウレアグリース) で、酸化を促す金属成分を含まないため耐熱性の強さも大きなメリットとして使われています。
◉ 非石けん系有機/無機系増ちょう剤:非金属系
石けん系よりも耐熱性を高めた有機系増ちょう剤のNaテレフタラメート、銅フタロシアニン、テフロン (PTFE)、或いは無機系のベントナイト、シリカゲルなどがあります。
③ 添加剤とは
簡単に言うと使用目的や対象/環境に即した利用を考慮して添加されるのが添加剤で、モリブデン (固体状/粉末状) やグラファイトなどが多く使われています。モリブデンは有名ですが基油では対応できない極圧時や状況に拠りモリブデン特有の潤滑性で補うような意味合いで使われており意外と万能だったりします。
④ ちょう度とは
簡単に言うとグリースの粘性 (硬さ) を表す物性値になり「軟 (少) ←増ちょう剤→硬 (多)」のように増ちょう剤の量で調整します。JISやNLGI規格で数値として粘性を表しています。
一般的に市場で入手可能なちょう度は「1号〜2号」がほとんどで希に「0号」或いは「3号」を何とか見つけられますが、増ちょう剤や基油の問題、或いはそもそも対象とする材質などまで考慮するとほとんどは「2号」しか手に入らないのが現状です。
⑤ 当方で用意しているグリース種別
当方ではこのブログ解説でも頻繁に「白色系グリース/黄褐色系グリース」と色合いで表していますが、基本的に色合いは後から付加して精製しているだけで必ずしも成分の特徴を示すものではありません。
従って白色系グリースのつもりが黄褐色系グリースだったりその逆もあり得ます。
しかしそうは言っても成分や増ちょう剤の種別を事細かに明言してもほとんどの方々には何を言っているのか不明瞭だったりします。それでグリースの色合いで区別しているのであって、あくまでも当方独自の表現方法です (業界では一切通用しません)。
当方で用意しているグリースは・・、
◉ 白色系グリース :ちょう度 0号〜2号 (4種類)
◉ 黄褐色系グリース:ちょう度 00号〜3号 (9種類)
・・です。非石けん系の増ちょう剤を使ったグリース種別がメインでPTFE (テフロン) 系もありますしモリブデン系もあります。ヘリコイドのネジ山種別や状態に従って使い分けていますからヤフオク! の出品などでも「粘性:中程度+軽めを使い分け」などと明記していても、実際に使っているグリース種別は個体別にバラバラの種類です (粘性だけが同じと言う意味)。
【グリース種別によるメリット/デメリット】
◉ 白色系グリース
・メリット :ヘリコイドのネジ山の状態に左右されず均質なトルク感で仕上げられる。
・デメリット:液化の進行が早くヘリコイドのネジ山の摩耗を伴う。ザラザラ感がある。
◉ 黄褐色系グリース
・メリット :ヘリコイドのネジ山摩耗が少なく液化の耐性も高い。シットリ感を伴う。
・デメリット:ヘリコイドのネジ山の状態に左右されトルクムラが生じ易い。
特に白色系グリースのヘリコイドネジ山の摩耗に関する実験 (単純な実験です) を過去に行っているので「検証:白色系グリースはヘリコイドのネジ山を摩耗しているか」でご案内しています。興味がある方はご覧下さいませ。また、そもそもグリースに対する考察をしているのは 当方の拘りの一つ「DOH」が根本的な理由ですから、宜しければ合わせてご覧下さいませ。
もちろん潤滑油も用意していますが滅多に使いませんし、使うとしてもヘリコイド (空転ヘリコイドも含む) ではありません(笑) 申し訳御座いませんが塗布したグリースの種別や成分/ちょう度などを逐一ご案内することはできません (一部グリースは非公開を誓約して入手している為)。お問い合わせ頂いても、例えそれがご質問でも一切ご案内できません。
なお、当方のオーバーホール/修理で使っている様々なグリースはすべて最低限の量しか塗布しません。「解体新書」のような多量のグリースを (故意に) 塗ることでトルクムラを解消したり滑らかさをキープするような低俗な整備は実施しません。ヘリコイドネジ山が摩耗していてトルクムラが顕在するならその旨告知し、或いは当方の技術スキルの低さ故に改善できなければ正直にそのまま明記しています (何処かの出品者のように逃げ口上並べません)。必要以上に塗ったくった多量のグリースは全てが経年の揮発油成分となって再び光学系への悪影響を促し余計に製品寿命を短縮化してしまう一因になると言う概念が当方の根本的な方針です (これは変わりません)。
それこそ「グリース塗ったくって下さい!」とご指示頂かない限り(笑)、最低限の量でしか塗布しません。また光学系の清掃も今年からは経年劣化で弱まったコーティング層の清掃もほぼ問題無く処置できるようになり (特にグリーン色/淡いブル〜色などのコーティング層)、光学系の洗浄スキルは格段に向上しています (薬剤と溶剤の種類変更/清掃手順を見直した為)。残るは純粋に当方の技術スキルの向上のみでありイバラの道の如く修行鍛錬の日々が続きます・・。