◎ Olympus (オリンパス光学) E.Zuiko Auto-W 25mm/f4(PEN-F/FT)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、Olympus製広角
レンズ『E.Zuiko Auto-W 25mm/f4 (PEN)』です。
今回オーバーホール済でヤフオク! に出品するモデルは、1963年にオリンパスから発売された当時世界初だった唯一無二なハーフサイズ・システム一眼フィルムカメラ「OLYMPUS-PEN F」の交換レンズ群として用意されました。
後の1966年に発売されたTTLナンバーシステムを装備してきたフィルムカメラ「PEN-FT」の登場により、従来のf値のみの絞り環に追加で「TTLナンバー (0〜4)」を装備したモデルも追加発売されます。従って、市場に流通する個体は「f値のみ」と「f値/TTL値」の2つのタイプが流通しています。
ハーフサイズとは、フィルム (135mmフィルム) のいわゆるライカ判フォーマット36mm x 24mmの半分のサイズで使ってしまう発想で、OLYMPUSでは「18mm x 24mm」としました (Canon/Konica同様、RICOHは17mm)。
ちなみに、現在ライカ判フォーマットであるフィルムサイズは「フルサイズ」とも呼称していますね。
従って、フィルムカメラ側の発想としてフランジバックを短縮化するためにミラーを縦長位置で開閉する機構を開発し、同時にペンタプリズムからポロプリズムへと変更することで装着する交換レンズを中央から右側にオフセットした、当時としては斬新なフォルムのフィルムカメラが誕生したようです (右写真はPEN-FT)。
なおデジカメ一眼/ミラーレス一眼などで撮像素子が「APS-C」サイズのカメラボディに装着した場合35mm判換算で「1.4倍」になるので「焦点距離:35mm」になりますが、勘違いをしている方が時々居ますが、あくまでも画角は本来の焦点距離25mmのままで、その内側の (中心から) 焦点距離35mm分の領域が撮影時に記録されるので歪曲やパースペクティブなどはそのまま切り取られます (つまり35mmの画角に変化するワケではない/このモデルは1.5倍ではなく1.4倍です)。
上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・玉ボケ・背景ボケ①・背景ボケ②」で、下段左端に移って「リアル感①・リアル感②・発色性・質感」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
このモデルの魅力は何といっても大変リアルに現場の雰囲気や臨場感を写し込んでしまう独特な描写性にあります。決して甘い画に堕ちずピント面の鋭さは相当なものですが、アウトフォーカス部の滲み方に独特なクセがあるのか、ミョ〜なリアル感や立体感を伴う写真に溜息が出ます。
欲を言えば、被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力がもう少し出ていれば文句の付けようがない画造りだったと思いますが、それでもこのコンパクトな筐体からは想像できない素晴らしい画を吐き出してくれます。しかも最短撮影距離25cmと寄ることができるので、後の時代に流行った擬似的なマクロブーム (マクロレンズではないが最短撮影距離が短いのでMACRO表記していた頃のモデル) の先取りにも実はなっていたと考えます。
円形ボケはエッジがすぐに破綻していくので、明確な輪郭を維持できずに口径食の影響も伴い真円にもなりにくくシャボン玉ボケは難しそうです。ボケ味としても背景に気を遣うシ〜ンがあったりしますが、それでも有り余る魅力が下段の写真で、立体感やリアル感はこのモデルで撮影された写真だとは想像もできない素晴らしい描写性を持っています。
下段右端の大型ホッチキスの写真などは、この小さな筐体サイズのモデルからは想像もし得ない質感表現タップリな描写を現していると思います。
光学系は5群5枚の典型的なレトロフォーカス型ですが、レトロフォーカス型光学系を最も簡素に仕上げるならば3群3枚のトリプレット型構成の前に焦点位置を後退させる目的で凹メニスカスを1枚配置させれば簡易型ながらも4群4枚構成のレトロフォーカス型が完成します。
今回のモデルはプラスして前玉とトリプレット型の間にさらに収差改善と解像度向上を狙った両凸レンズを1枚介在させる (右構成図の第2群) ことで描写性能を上げています。
(ネット上の解説では第2群の裏面が平坦な平凸レンズとして案内されていますが、今回バラして清掃時にチェックしたところ裏面側は極僅かに突出していたので両凸レンズでした)
ハッキリ言って、このような本当に小っちゃな筐体サイズにここまで拘った光学系を設計してきたOLYMPUSにエールを贈りたいと思いますね。素晴らしいです・・。
ちなみに「レトロフォーカス」とは「フォーカス (焦点)」を「レトロ (後退)」させることを 狙った光学設計なので「レトロ」と言うコトバの連想として「古めかしい/クラシックレンズっぽい」などと巷では認識されることも多いようですが、それは思い違いですね(笑)
特にネット上の解説や描写傾向の感想として、そのように「甘い描写/眠い写り」などと案内されていることが多いですが、本来3群3枚トリプレット型構成の成分を併せ持つので、ちゃんと適正な整備が施されている個体ならば大変鋭いピント面を構成します。
《ヤフオク! 即決価格の目安》
今回のヤフオク! 出品個体をオーバーホール/修理として当方で整備した場合のご請求金額は
以下のようになります。
※「オーバーホール/修理受付の概要と料金」掲載の料金表を基に実施作業で加算した金額。
- 単会員様の場合
(2) 着手料:2,000円+ (3) オーバーホール:13,000円+ (10) 硝子研磨:5,000円
=ご請求額:20,000円 - 本会員様の場合
(3) オーバーホール:10,000円+ (10) 硝子研磨:4,000円
=ご請求額:14,000円
なので今回のヤフオク! 即決価格「24,500円」は実質10,500円が個体単価になります (本会員様の場合)。
ヤフオク! に於ける 過去3カ月間の同型モデル単体落札価格は平均単価:8,440円 (25本)
なので、如何でしょうか?
まぁ安くはないけれど、そんなに高くもないと言うレベルでしょうか。
そうは言っても、やはり当方の整備となると敬遠される方が多いのも仕方ありません(笑)
※ヤフオク! 即決価格は一般的なカメラ店様の価格 (未整備品) を参考にしています。
取り敢えずの目安でした・・。
↑上の写真は今回出品する個体をバラした後の洗浄後にヘリコイド (オスメス) と「絞り環連係環」(右端) を並べて撮りました。
実は、今回の個体はバラす前の時点で以下の問題点が確認できました。
● 光学系内に全面に渡るクモリが生じておりコントラスト低下を招いている。
● フィルムカメラPEN-FTに装着すると撮影後の絞り羽根の戻りが緩慢。
● ピント面の鋭さが極僅かに足りない印象 (甘いピント面)。
上の写真で黄褐色化しているパーツは真鍮製なので、本来キラキラと黄金色に光り輝いているのが生産時の状態です。1960年代後半に製産されたと仮定すると半世紀近く経っているワケですから、こんなふうに腐食してしまうのですね・・と受け取ったら大きな間違いです!(笑)
このように腐食/酸化を進行させてしまった「悪因」は、すべて過去のメンテナンスの所為が問題なのです。いえ、もっと言えば現在に於いてもなお平気で同じメンテナンスをし続けている整備業者が非常に多いのが現実ですから、いったい何のためにメンテナンスを施すのか?
つまり「メンテナンスして製品寿命を縮めている」のでは意味が無いではないか・・と当方は言いたいのですョ。あくまでもその時の状態が許されればそれでOKと言う考え方自体に当方は強い憤りを感じますね。そう言う低俗的な整備業者が多すぎます。もっとプロならプロらしく本質を見極めたメンテナンスをして欲しいものですョ。当方のようなプロどころかマニアの足元にも及ばない技術スキルの単なる個人でさえも(笑)、ちゃんと本質を見抜いた作業をしています (作業の詳細はDOHのページで詳しく解説しています)。
↑ヘリコイド (オス側) をドアップで撮影しました。写真スキルがド下手なので見にくくてスミマセン!
赤色矢印の箇所 (つまりネジ山の谷部分) が白っぽく変色しています。このパーツはアルミ合金材の削り出しですから本来はネジ山の「山部分」のように光り輝いていなければイケマセン。
ではどうして白っぽくなってしまったのでしょうか (もちろん洗浄後の話です)?
答えは過去メンテナンス時に「白色系グリース」を塗布したからです。日本の光学メーカーの品質管理レベルや製産加工技術は今現在に限らず当時でさえも世界のトップクラスでした。
当時業界に存在していたグリースは「黄褐色系グリース」です (白色系グリースは近年に登場したグリース)。必然的にアルミ合金材や真鍮製のパーツは黄褐色系グリースを塗布する前提で設計諸元を考慮していたと推察できます。それを平気で白色系グリースを塗ってメンテナンスしてしまうのが今も続く整備業者の所業です。
【グリース種別の長所短所】
● 黄褐色系グリース
・メリット:ヘリコイドのネジ山を摩耗せず成分が金属に浸透しにくい
・デメリット:ヘリコイドネジ山の摩耗状態に神経質
● 白色系グリース
・メリット:ヘリコイドのネジ山の状態に左右されず均質なトルクを実現
・デメリット:ヘリコイドネジ山を摩耗し成分が金属に浸透しやすい
この中で白色系グリースは特にアルミ合金材の摩耗を促すので、当初塗布した時は白色でも すぐにアルミ合金材の摩耗粉が混じり「グレー色状」に変色します。それでも均質なトルク感を維持し続けますが経年劣化に拠る液化が早いので成分がアルミ合金材に浸透します。
するとその浸透した成分によりアルミ合金材の酸化が促されるので腐食が進行します。つまり上の写真の白っぽい部分はアルミ合金材の「腐食/錆」であり「谷部分」なのでどうにも処置できません (磨き研磨できない)。
結果、次のメンテナンス時にさらに白色系グリースを塗り続けますから(笑)、ヘリコイド (オス側) のネジ山はどんどん錆びついて距離環を回す際のトルクに影響が出てきます (最悪1年足らずでトルクムラや重くなってきます)。実際、オールドレンズでヘリコイドが硬くなってしまいピント合わせに難儀する個体を経験することがあるでしょう・・。
↑上の写真は当方による「磨き研磨」を施した後の撮影です。当方の技術スキルは低いので 生産時点の状態まで戻すことができません(笑)
しかし「磨き研磨」することでヘリコイド (オスメス) は生産時と同種の「黄褐色系グリース」を塗布でき、大変シットリしたトルク感が戻ってきます。もちろん真鍮製パーツにはグリースを一切塗らずとも大変滑らかな駆動が約束されるワケですね。
当初バラした時は、真鍮製パーツにも白色系グリースがドップリ塗られていたので過去メンテナンス時には「グリースに頼った整備」だったことが一目瞭然です(笑)
但しそうは言ってもこのようなグリース種別の相違に拘っているのはあくまでも「当方だけ」ですから信用/信頼性は非常に低いことをご留意下さいませ。何度もしつこく言いますが、当方の技術スキルは独学に頼っているので大変低いです (プロに師事したことがありません)。
↑上の写真 (2枚) は、絞りユニットの中で絞り羽根が外れないように押さえ込んでいる真鍮製のメクラ環です。ここの平滑性が担保されないと絞り羽根の開閉に抵抗/負荷/摩擦が増大し 好ましくありません。当初は黒色かと思うほどに経年に拠る酸化が進行していました(笑)
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。大変小っちゃな筐体サイズながらも内部の構成パーツは相応に点数が多いです。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が 独立しているので別に存在します。
↑こちらの写真は絞りユニットのベース環で、ここに絞り羽根や一部の制御系パーツがセットされます。
↑こんな感じで絞りユニットを組み立てていきます。「開閉環」と言う絞り羽根を絞り環操作で設定された絞り値に見合う角度で開閉させるために回る (ブルーの矢印) 環 (リング/輪っか) を5個の固定ネジでセットします。
絞り羽根には必ず「位置決めキー」と「開閉キー」の2つの「キー」と言う部位があります。
- 位置決めキー
絞り羽根が刺さり「軸」となる場所を確定させている役目のキー - 開閉キー
軸を基点として絞り値に見合う角度で絞り羽根を開閉させる役目のキー
上の写真をご覧頂くと「開閉環」が5個のネジで均等に締め付け固定されているのがお分かり頂けると思います。絞り羽根のキーは一方は「金属製の突起棒」で「開閉キー」ですが、もう一方は単なる「穴」になっており「位置決めキー」の役目です。
ここがこのモデルでの「製品としての性格を表す」最大のポイントです。
本来当時のOLYMPUS製オールドレンズは筐体サイズが他社光学メーカー品と比較しても最もコンパクト化が進んでいますが、その中にあって今回のモデルは「さらにコンパクト化する」ことに拘った設計だったことが、ここで判明します。
絞り羽根の「位置決めキー」を単なる「穴」にしてしまい、何と開閉環をとめたネジ頭に被せることで代用してしまうと言う発想です (グリーンの矢印と赤色矢印)。こんなオールドレンズは初めて見ました・・と言うか「固定ネジ=キーの受け」と言う発想が凄いです。
何が凄いのかと言えば「絞り羽根の開閉が一切狂わない」と言う自信の表れだからです。開閉環を固定している固定ネジがほんの僅かでもズレたら、絞り羽根はその抵抗の影響を受けて 正しく開閉しなくなります。つまり固定ネジのネジ穴にはマチが一切無くキッチリと締め付けでき、さらに絞り羽根の「穴」は必要最低限のマチしか存在せず、必ず規定の動き (開閉角度) になると言う「確証/保証」があるからできる設計であり、これは当時は日本人にしか発想し得ない設計だったのではないでしょうか・・。
結果としてこのモデルは従来モデル同様の絞りユニット「厚み」を維持しており、それは即ち「光学系空間を最大限に有効活用 (設計) できる」ことになります。つまり筐体サイズの更なるコンパクト化と同時に光学系の性能諸元値を追求してしまった一挙両得の設計思想ですね。
↑実際に絞り羽根を組み付けるとこんな感じになります。右横の真鍮製のカバー (メクラ環) を被せて絞りユニットが完成です (グリーンの矢印)。従ってメクラ環の裏側は絞り羽根とダイレクトに接触し続けるので、この部分の平滑性が結果的に絞り羽根の開閉操作に影響しますし、ひいては絞り羽根の寿命にも強く関わってきますから、こんなシンプルなパーツが実はとっても重要だったりします(笑)
↑真鍮製の「絞り環用連係環」を組み付けます。この環に備わっている「なだらかなカーブ」部分を「カム」が突き当たることで設定絞り値に見合う角度で絞り羽根を開閉させています。
さて、ここで冒頭に掲載した腐食/錆ていた写真を思い出して下さい。この真鍮製の「絞り環用連係環」外周にもドップリと過去メンテナンス時には白色系グリースが塗られてしまい、結果相当に腐食が進行していました。
この塗られたグリースが経年劣化した時の揮発油成分はいったい何処へ行ったのでしょうか?
そうですね、経年の揮発油成分はすべてが光学系内へと入っていきます。つまり「光学系内を曇らせていた原因はグリース」だったワケです。ネット上でこのモデルの解説などを読んでいると、OLYMPUSのPEN用オールドレンズの中で特に広角レンズが曇っている率が非常に高いことを案内しているサイトが意外と多いです。
そのまま読んでしまうと、あたかもOLYMPUSの設計上の問題なのかとも受け取れますが(笑)、そんなことは一切ありません。この「絞り環用開閉環」には一切グリースを塗りません。塗らずとも今回のオーバーホールでもちゃ〜んと大変滑らかに駆動しています。
何故「アルミ合金材」ばかりの鏡筒内に「真鍮製」のパーツを組み合わせたのでしょうか?
鏡筒内でグリースを塗りたくないから (光学系が近接しているから) ワザと故意に材質の異なる金属製パーツを使ったのですね (材質を変えることでカジリ付を防ぐため)。ちょっと考えればすぐに分かることなのですが、面倒くさいのか安直に「白色系グリース」を塗ってくれます。ロクなことをしません・・。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑この状態でひっくり返して撮影しました。「直進キー」と言うパーツが両サイドに1本ずつ固定されます (赤色矢印:合計2本)。
筐体サイズが小っちゃいのに本格的な直進キーを2本も使っています。1本で済ませると距離環を回す際のトルクムラが経年で出やすいことを配慮して2本に設計しています (∞〜25cm迄の回す距離が広角レンズで短いから)。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各連動系・連係系パーツを取り外して撮影しています。
理由は、ここにも白色系グリースが塗られており一部パーツに錆が出ていたからです。つまり冒頭の問題点「絞り羽根の戻りが緩慢」だった原因も、結局過去メンテナンス時に塗ってしまった「白色系グリース」経年劣化からアルミ合金材パーツの錆び付きが影響していたのです。
↑外した各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し可能な限り経年の腐食/錆を除去して、今回は当然ながらグリースなど一切塗らずに組み上げました。
ご覧のように「捻りバネ」や「特殊コイルばね (右写真)」を使って絞り羽根の開閉動作を制御しているので、この連動系・連係系パーツの一部が腐食/錆ついただけでそれらのバネ類のチカラが適正になりません。つまり絞り羽根の動きが緩慢だったワケですね(笑)
特に右写真の特殊コイルばねなどは僅か5mmにも満たない大きさですから劣化が進行すれば絞り羽根の動作を元に戻すことはもう適いません (つまり製品寿命に至る)。
↑光学系前後群を組み付けます。冒頭の問題点のとおり当初バラす前の時点で光学系内には全面に渡るクモリが生じていました。経年の揮発油成分が附着しているだけなら清掃でキレイに除去できますが、今回の個体は残念ながら清掃だけで除去できませんでした。仕方ないので 当方の手による「硝子研磨」を施しました (今回は大変キレイになりました)。
オールドレンズは内部に塗布されたグリースが経年劣化の進行に伴い「揮発油成分」として 内部に廻ります。するとその一部が光学系内に侵入し水分を引き寄せ「カビ菌」を留める因果関係となり、代謝により有機化合物を排泄し具体的なカビとして繁殖します。一方揮発油成分の一部はコーティング層に附着して同様に水分を引き寄せCO2溶解に拠るコーティング層境界面の腐食/酸化を促して具体的な「クモリ」に至ります。
この「カビ菌の繁殖」と「CO2溶解」の相違が理解できない方が非常に多いのが現実です。 どちらもその因果関係を作っているもとは「揮発油成分」です。揮発油成分に引き寄せられる水分がカビ菌を留めるのか、或いは水分に含まれるCO2が直接溶解してコーティング層を犯し硝子材へと浸食を始めるのかの相違だけです。結果的にカビ菌の繁殖は具体的な繁殖のカタチとなって残りますし (例:菌糸状など)、一方CO2溶解も点状キズやその集合体としての微細なクモリになって残ります。
従って、これらカビ除去痕やクモリなどは清掃だけでは一切除去できないことも多くなるワケで、それを可能な限り除去して、しかしコーティング層はできるだけ活かしたいとすれば手による「硝子研磨」しか方法はありません。それ以上を期待するならコーティング層を剥がして硝子研磨後に再びコーティング層を再蒸着する大がかりな処置が必要になります。
但しコーティング層の経年劣化は見ただけでは一切判断できません。実際に作業して初めて 判明するので硝子研磨によってコーティング層まで剥がれてしまうことも時々あります。
オールドレンズにはそのようなリスクが付きものであることを覚悟する必要がありますね。
この後は絞り環機構部を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。距離環を回すトルクは滑らかで軽くなり、もちろん絞り羽根の動作もフィルムカメラ「PEN-FT」に装着しても確実に動いてくれます。附属する オリジナルな前後キャップと合皮製ケースが嬉しいですね・・。
↑一番重要な光学系内も「驚異的な透明度」を誇っています。このモデル (特に広角レンズ) はクモリが多いなどと言うのは、設計の問題ではなく過去メンテナンス時の所為が「悪因」だったワケで、そしてそれは今現在も限りなく続けられています・・。
但し設計の問題で唯一指摘するならば、このモデルは「レンズ銘板」部分で光学系前群を締め付け固定しています。そしてOLYMPUS製オールドレンズの主だったモデルで絞り環が前玉側に配置された構造なので、必然的にレンズ銘板はそれら「絞り機構部」の固定も兼ねています。
つまり「レンズ銘板」が「蓋」のような役目になっており、光学系前群と絞り機構部をまとめて蓋して固定している設計です。ところが今回のモデルには前玉固定環が存在しません。前玉の固定すらもレンズ銘板に兼ねさせてしまったワケです。
結果、内部に塗布された必要以上のグリースは経年劣化で生じる経年の揮発油成分が「鏡筒〜レンズ銘板の中で対流する」ことになります。このことがPEN用の広角レンズに於いて光学系内にクモリが生じた個体が多い本当の理由です。広角レンズ以外のモデル (例えば標準レンズなど) では、前玉に固定環が存在するので対流した揮発油成分がダイレクトに光学系内に侵入しませんが、広角レンズではそれだけのスペースを確保できなかったのでレンズ銘板に前玉固定を代用させたのだと推察します。すべてには必ず「原理原則」があり、それをちゃんと把握した上でメンテナンスすれば、自ずと適正な整備レベルに仕上がると言うものですね(笑)
ちなみに光学系内は光学硝子を固定している固定環 (リング/輪っか) で完全密閉されていると思い違いしている方が時々居ますが(笑)、完全密閉してしまうと外気との温度差や気圧変化により光学系内の気圧が変わり硝子材に対して悪影響を及ぼします。従って光学系内は固定環で締め付け固定されていても通気性が確保されており、それは裏を返せば「カビ菌」も自由に 光学系内を行き来していると言えます (だからカビが生える)。
逆に考えれば、仮に生産時に光学系内を完全密閉できるとすれば、経年使用でカビが内部に発生することも曇ることも起きませんね。当時でさえそのような技術は既にあったハズですからそれを敢えて行っていない理由があるのだと気がつかなければイケマセンね(笑)
なお、今回の出品個体は冒頭のとおり「光学系内に全面に渡るクモリ」が生じていたので当方による「硝子研磨」を施しています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
当初バラす前の確認でピント面の描写が極僅かに甘い印象を受けたのは、光学系後群 (後玉) を過去メンテナンス時に手締めして、しかもそのまま固着剤を塗布していたために光路長が適正ではなかったからでした。今回のオーバーホールではちゃんとカニ目レンチでキッチリ締め付け固定しています。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:8点、目立つ点キズ:4点
後群内:5点、目立つ点キズ:3点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ無し)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環 (TTLナンバー) を
回す時の操作性は内部にグリースを一切塗布していないので「軽め」の設定です。
ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感をほとんど感じない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は人によっては「普通」或いは「軽め」に感じ、滑らかでトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回すと一部にヘリコイドネジ山が擦れる感触を感じる箇所があります。
・絞り環の操作は少々ガタつきを感じることがありますが光学系内に将来的な揮発油成分が廻ることを防ぐ意味から絞りユニット内部にグリースを塗布していないためです (クレーム対象としません)。詳細は当方ブログで解説しています。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑距離環を回す駆動範囲は「∞〜25cm」なのですが、1/4周ほどしか回らないのでピントの山がアッと言う間です。しかもピントの山は掴み易いとは言えないので、今回のオーバーホールは「軽い操作性」のトルク感に仕上げています。
過去に当方がオーバーホールしたオールドレンズをヤフオク! でご落札頂いている方はご存知ですが、光学系内の驚異的な透明度と併せて距離環のとても滑らかで軽い操作性を考えたら、オーバーホール済であることがとても有難く感じられる (むしろお得な) ハズです。是非ご検討下さいませ。
今回の個体は光学系の透明度が素晴らしく (極微細な点キズはある)、距離環を回すトルク感も当方にしては上出来な仕上がりで組み上がっています。もちろん無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かな オーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。もちろん、梨地仕上げやアルミ合金材アルマイト処理部分の「光沢研磨」は研磨後に「エイジング」工程を経ていますから、数年で再び輝きが失せたりポツポツと錆が浮き出たりすることもありません (昔家具屋に勤めていたので職人から磨きについて直伝されており多少なりとも詳しいです)。
当方がヤフオク! に出品するオールドレンズで特にシルバー鏡胴の場合に「光沢研磨」により自然で美しい仕上がりになっているのは、この「エイジング処理」を施しているからであり「光沢剤」などの化学薬品を塗布したり (却って将来的に問題を起こす)、金属質が剥き出しになるまで磨ききったり (1年で再び酸化してしまう) していません。同じことは黒色鏡胴や今回のような光沢ブラツクにも通用する話で、すべてに於いて必ず「磨きいれ」工程の最後には「エイジング」処理を経ています (エイジングにより酸化被膜で再び保護され耐食性を得る)。
なお、黒色鏡胴のオールドレンズを光に翳すと塗膜面に「斑模様」が見えたりしますが、これは汚れ/手垢などではなく経年で「カビ」が塗膜面に根を下ろしている状態であり、必然的にカビの代謝からいずれ腐食が進行します。つまり筐体外装の「磨きいれ」は最終的に製品寿命の延命に僅かながらも貢献しています。
しかしそうは言っても、描写性には一切関係ない話なので何の価値もありませんね(笑)
↑今回出品個体は絞り環に「TTLナンバー」刻印が用意されているので、もしもそちらを基準「Ι」マーカー側にセットする必要があるならば (つまりフィルムカメラPEN-FTでのご使用ならば) ご落札後の一番最初のメッセージでその旨ご申告下さいませ。別途作業料「2,000円」を頂きますが (送料欄に加算) 絞り環を一旦解体後再セットして発送致します (作業のために数日発送が遅延します)。
↑当方で作業時に使用している八仙堂の「PEN-F → SONY Eマウントアダプタ」です。
マウント部の装着感も適正でガタつきも無く指標値がちゃんと真上に来ます。何よりもPEN-F用オールドレンズの「筐体サイズ径」に併せて設計されていることが嬉しいですね。一体感がありこれだけでもコンパクト感がさらに強調されます。
以下の写真をクリックするとamazonの販売ページが別ページで表示されます。マウントアダプタをお持ちでない方はご検討下さいませ (今回のヤフオク! 出品内容には含まれません/附属していません)。
↑当レンズによる最短撮影距離25cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。