◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Helioplan 40mm/f4.5 V《中期型》(exakta)

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今回初めて調達し完璧なオーバーホールが完了して出品するMeyer-Optik Görlitz製『Helioplan 40mm/f4.5 V (exakta)』です。その描写性に惹かれて6年間探し続けていましたが、なかなかタイミング良く状態の良い個体に出会えませんでした・・さすがにこの当時のモデルになるとほとんどの場合市場に出回っている個体には光学系内にクモリが発生していることが多いようです。

Helioplanの遍歴は戦前の1920年代から登場していたようですが民生一眼レフカメラ用のモデルは「M42マウント」と「exaktaマウント」の2種類が生産されていたようです。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

前期型ーⅠ

絞り値:f4.5〜f32
コーティング:ノンコーティング
基準マーカー:
絞り環:ローレット (滑り止め) 無し

前期型ーⅡ

絞り値:f4.5〜f16
コーティング:ノンコーティング
基準マーカー:
絞り環:ローレット (滑り止め) 無し

中期型

絞り値:f4.5〜f22
コーティング:モノコーティング V
基準マーカー:
絞り環:ローレット (滑り止め) 無し

後期型

絞り値:f4.5〜f22
コーティング:モノコーティング V
基準マーカー:
絞り環:ローレット (滑り止め) 有り

・・こんな感じです。前期型は最小絞り値が「f32」や「f16」とバラバラなので、どちらが先に登場したのか分かりませんが一応製造番号から判断しました。今回オーバーホール済で出品する個体は製造番号から1949年に生産された個体のようです。

光学系は4群4枚のアナスチグマート型になります。ネット上の解説では4群4枚のダイアリート型と言う解説もあるのですが今回出品するモデル『Helioplan 40mm/f4.5 V (exakta)』はエンラージング (引き延ばし用) レンズではないので同じ4群4枚でも光学系の設計が異なっているようです。実際にバラして光学系の清掃を施したので第1群 (前玉) と第4群 (後玉) の裏面側が平坦であることを確認しています・・つまり両凸レンズではなく平凸レンズだったのです。

そしてその原型モデルが戦前〜戦中に於いて存在していました・・レンズ銘板を見ると「Meyer Görlitz Weitwinkel Doppel Anastigmat 1:4.5 f=4cm」の刻印があり同じ平凸レンズによる4群4枚構成アナスチグマート型です。ちなみにレンズ銘板の「Wietwinkel」はドイツ語で「ヴァイトヴィンケル」と発音し英語表記にすると「Wide Angle」つまり広角レンズと言うことになります。しかし、本格的な広角レンズ域の商品としては1950年にフランスのP.Angenieux Paris (アンジェニュー) 社から世界で初めて発売されたレトロフォーカス型広角レンズ「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」の登場を待ちますから、この当時はあくまでも「準広角レンズ域」と言う捉え方のほうが正しいのかも知れません。さらに言えば当時は人間の目で見た現実的て自然な画角である焦点距離40mm〜45mm辺りのレンズを標準レンズ域としていましたから、その辺の流れも考慮してレンズ銘板から「Weitwinkel」を省いたのかも知れません (現在の焦点距離50mmを標準レンズ域としたのはライカ判フォーマット/実焦点距離:51.6mmが業界標準として採り入れられてからです)。

このように見ていくと意外にもモデルバリエーションの展開があり同時に光学系の設計に対する当時の技師の思惑などが垣間見えるのですが、その描写性には非常に大きな魅力がありカリカリと鋭いピント面を構成しているだけで終わらない、しかし画全体的なリアルさがとても感じられる、決して発色性やコントラストに偏りすぎたインパクトの追求ではない画造りを感じます・・つまりそれは「自然な描写」であり「違和感の無い人間の目で見たままの世界」を如何に描写するのかと言う表現が最も適確に表しているように感じるワケであり結果として「リアル」な画造りと言いたくなるのです。

Flickriverにてこのモデルの実写を検索しましたので興味がある方はご覧下さいませ。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。製品サイズは全高:29.3mm/全幅:48mmしかないとてもコンパクトなパンケーキレンズですから内部の構成パーツ点数も極端に少なめです。

↑筐体や内部の構成パーツのほとんど、或いは (なんと) マウント部までがアルミ材削り出しなのに対して、どう言うワケか鏡筒 (ヘリコイド:オス側) だけが唯一真鍮製 (真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル) になっています。

↑12枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。2枚の絞り羽根に歪みが生じているのでキレイな真円状態のカタチになっていません。

↑この状態で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました。

↑絞り環をネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと絞り環が動かなくなってしまいます。

↑ヘリコイドの下側から距離環用のベース環を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑次にマウント部のベース環をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で3箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑マウント部を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定します。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑距離環を被せてイモネジ3本で締め付け固定します。この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑とても小さくて薄いパンケーキレンズです。しかし4群4枚のアナスチグマート型構成から吐き出される画はシッカリしたピント面を維持しながらも階調幅の豊かな穏やかなボケ味を演出してくれます。市場では滅多に出回らない1949年生産の個体でレンズ銘板に「V」刻印があるモノコーティングのタイプです。完璧なオーバーホールが完了していますのでお探しの方はこの機会に是非ご検討下さいませ。

↑光学系内はカビが相応に発生していましたが透明度はこの当時のオールドレンズとして考えれば非常に高い個体です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。極微細な点キズはほとんど無いのですが写真のようにコーティング層のハガレやスポットなどが経年劣化に拠り生じています (写真には影響しないレベルです)。

↑光学系後群も直径が1cmにも満たない大変小さな光学系です・・後玉の突出があるのですが珍しく当てキズが一切ありません。

↑上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を角田隊撮影しています。カビが発生していた部分が清掃により除去できていますが (一部は目視できないレベルのカビ除去痕になっています) その領域のコーティング層は剥がれています・・貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) が存在しないのでバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) ではありません。

やはり極微細な点キズが大変少なく、しかも当てキズがありませんからフィルムカメラに装着されたまま長期間に渡って保管され続けていた個体だと推測できます。後玉の経年劣化に拠るコーティング層のハガレから光源を含むシーンや逆光撮影時にはハロの出現率が高くなる懸念がありますのでご留意下さいませ。元々この当時のモデルは逆光耐性がそれほど良くはありませんし (アナスチグマート型ですし) 前期型の「ノンコーティング」タイプと同じとお考え頂ければ良いと思います (こーが残っている分むしろ良いくらい)。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:6点、目立つ点キズ:4点
後群内:5点、目立つ点キズ:3点
コーティング層の経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ無し)
光学系内LED光照射時の汚れ/クモリ:皆無
光学系内LED光照射時の極微細なキズ:あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際は清掃時除去できなかった極微細な点キズなので塵や埃ではありません。
光学系内の透明度は非常に高い個体です
・光学系内は前後玉にカビ除去痕が複数あります。特に後群にはカビ除去痕によるコーティング層のハガレが生じているので光源を含むシーンや逆光撮影時にはハロの出現率が上がる懸念があります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑12枚の絞り羽根も当初赤サビが生じていましたがとてもキレイになり確実に駆動しています。絞り羽根2枚のカタチが僅かに歪なのでキレイな真円状態のカタチになりませんがボケのカタチには影響しないレベルです。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな個体ですが当方による「光沢研磨」を施したので当初真っ白だった筐体も生産当時を思わせるほどの眩い輝きが戻り艶めかしく光彩を放っています・・触ると指紋がクッキリ残るくらいなので気になるほどです(笑)

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:重め+中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑市場では滅多に出回らないレンズ銘板に「V」刻印があるモノコーティングの『Helioplan 40mm/f4.5 V (exakta)』で、これだけ美しくキレイな状態を維持して光学系内も透明度が高い個体は大変貴重です。

上の写真では後玉に僅かな突出があるので当てキズを付けないよう附属の非純正後キャップを取り付けて撮影しています (前キャップはありません)。絞り値との整合性も確認済ですので、まだまだ現役で使える「自然な描写性」に拘ったAngenieuxライクな画造りを是非ともお楽しみ下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値をF値「f5.6」にセットして撮影しました。

↑F値は「f8」になります。

↑F値「f11」になりました。

↑F値「f16」になります。

↑最小絞り値「f22」の撮影です。