◎ mamiya (マミヤ光機) AUTO mamiya/sekor 50mm/f2 (black)《後期型》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、マミヤ製
標準レンズ・・・・・・、
AUTO mamiya/sekor 50mm/f2 (black)《後期型》(M42)』です。


今回初めての扱いになりますが、ネット上ではこのモデルも富岡光学製である事から、巷では同じ富岡光学製OEMモデルのRICOH製「XR RIKENON 50mm/f2《前期型/後期型》(PK)」と似た画造りの印象を持つ方が多いようです。俗に「和製ズミクロン」或いは「プアマンズズミクロン (貧者ズミクロン)」などと揶揄されている廉価版モデルですね(笑)

確かに同じ富岡光学製の同一焦点距離/開放f値となれば近似した描写をしていても文句は言えないように思いますが、実はXR RIKENONが発売されたのは1978年であり、RICOHの一眼 レフ (フィルム) カメラ「XR500」用セットレンズとして登場しました。ところが今回扱うmamiyaのモデルは1968年の登場なので、凡そ10年の開きがありますからはたして似たような写りになるのか興味が湧きますね (ちなみに共にモノコーティングのモデル)。

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1966年にマミヤ光機から初めて発売された「M42マウント」の一眼レフ (フィルム) カメラが「1000TL/500TL」になり、セット用標準レンズとして「AUTO MAMIYA-SEKORシリーズ」が用意されました (左写真は1000TL)。

パッと見で見落としがちですが、実はレンズ銘板のモデル銘が一般的に現在市場で流通しているタイプとは異なります。つまり「MAMIYA-SEKOR」表記であり「mamiya/sekor」ではありません。これがこの当時のマミヤ製オプション交換レンズ群の中で「初期型/後期型」の最も見分けやすい特徴です。「後期型」が「mamiya/
sekor
」ですね。

この時の取扱説明書をチェックすると、用意されていたセット用標準レンズ群は「f1.4/f1.8/f2.0」の3種類で「f1.2」が存在しないことになります。

この時の標準レンズ群は全てマミヤ製モデルとしては「初期型」になります。

カタログに記載されている図からトレースした構成図が右図で、4群6枚の典型的なダブルガウス型です。前述のRICOH製標準レンズ「XR RIKENON 50mm/f2《前期型/後期型》(PK)」と同じ光学系構成ですが、XR RIKENONの第1群 (前玉) 外径サイズは「⌀27.5mm」です。

一方今回扱うmamiya製のほうは「⌀32.2mm」ですから、約5mm近くもmamiyaのほうが大口径と言えます。

今回扱った「後期型」モデルの構成図が右図になり、同じ4群6枚ダブルガウス型構成ながらも第1群 (前玉) から厚みも曲率も設計が変わって
おり、再設計していたことが分かります。

するとXR RIKENONとは同一焦点距離/開放f値となれば、大口径である分入射光制御に余裕があり、それが描写性の違いとして現れるとも考えられますから、そのような一面もチェックしてみるのも同じ富岡光学製となればまたオモシロイかも知れません。はたして10年の開きはどのような結果として現れているのか。

なお、当方が「富岡光学製」と判定している基準の内部構造と構成パーツの要素が3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

今回扱う『AUTO mamiya/sekor 50mm/f2 (black)《後期型》(M42)』では、これら判定
基準が当てはまります。




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、光学系がダブルガウス型なので、そもそも真円で明確なエッジを維持したままキレイなシャボン玉ボケの表出が苦手です。特に赤色の発色性に「富岡光学の紅色」を見ることができるでしょうか (色飽和ギリギリの素晴らしい美しさです)。

二段目
背景の収差ボケを集めてみましたが、この乱れたある意味汚いボケ味を被写体との兼ね合いで「効果」として使うのか、単に汚いままなのかが撮影スキルの問題かも知れません。

三段目
ピント面の印象をピックアップしましたが (左側2枚)、被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力に優れ、コントラストも高くメリハリ感もありインパクトのある写真を残せます。

四段目
ダイナミックレンジが相応に広いので明暗部がギリギリまで堪え凌いでくれます。廉価版もでこれだけリアルで生々しい人物撮影ができるのはさすがです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみれば一目瞭然で、この当時の他の富岡光学製OEMモデルと同一の設計概念がみられ、一部の構成
パーツは同一だったりします。

今回初めてこのモデルを扱ったワケですが、また富岡光学製オールドレンズに対する新たな
発見が一つありました。

冒頭の判定基準」富岡光学独自の特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている解説が左の写真になりますが (別モデルから転載)、ご覧のように鏡筒に用意されている「絞り羽根開閉幅微調整キー」をいちいち操作して絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を調整する方式を指します。
富岡光学製のオールドレンズはこの方式を採っているモデルが多く
存在するのですが、今回のモデルは違っていました。

この当時の他社光学メーカーと同じ「締め付けネジで鏡筒の固定位置を微調整できる方式」を採っていたのです。

すると絞り羽根の開閉幅を調整するのに、より簡素化した (製産時の工程数を減じられる) 合理的な方式がある事をちゃんと分かっていながら、敢えて工程数を増やしてまで (人件費を食ってまで) 拘った何かしらの理由があったのだと結論しました。

しかしこのモデルが発売された1968年という年は、富岡光学にとって特別に意味を持っています。長く経営難に苦しめられた富岡光学は1968年に取引先の一つであったヤシカに吸収合併したからです。

この背景を考えると、相当な拘りを以て敢えてコストを掛けても「冒頭の判定基準」を採用し続けたと言えるワケですが、いったい何のメリットを期待して拘ったのか「」です(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。

すると先ほどの話はこの鏡筒の固定方式を指すワケですが、上の写真のように6箇所用意されている「ネジ穴」のうち、3箇所を締付ネジで締め付け固定することで鏡筒がセットされます。そしてその時「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」の微調整は「ネジ穴のマチ部分」を使って微調整 (約2mm) が可能になります。鏡筒を固定する位置をズラす事で絞り羽根を小さく閉じるようにしたり、逆に広げたりして絞り値との整合性を確保します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (後玉側) 方向から撮影しました。鏡筒からはたったの一つだけ「開閉アーム」が飛び出ており、スプリングが1本附随します。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。基台の側面にはご覧のように「無限遠位置微調整用のネジ穴」が用意されています。

↑真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

するとヘリコイド (メス側) に用意されている「制限壁」と言う壁部分が、前述の「無限遠位置微調整キー」の端部分にカツンカツンと突き当たることで、無限遠位置で停止したり最短撮影距離位置で停止する仕組みです (ブルーの矢印)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれたチカラの分だけ「カム」が押されて () 先端にある「操作爪」が移動します ()。そして「操作爪」は前述の鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」をガシッと掴んでいるので、ヘリコイドが回って鏡筒を繰り出しても絞り羽根の開閉操作ができるワケですね。

すると「制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分に「操作爪」アーム部分が突き当たることで、その勾配 (坂) に従い設定絞り値まで絞り羽根が閉じる概念です。「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、坂を登り切った頂上が開放側です (ブルーの矢印)。

↑完成したマウント部を基台にセットします。

↑ひっくり返して「絞り環」を組み込んだところです。絞り環には裏側に「絞り値キー」と言う「」が用意されていて、そこに鋼球ボールがカチカチと填ることでクリック感を実現しています。ところがこの当時の富岡光学製OEMモデルではその鋼球ボールを「スイッチ環側」に用意してしまった為に、この「スイッチ環の固定位置」をミスると、途端に「絞り環のクリック感と絞り値がチグハグでどの絞り値に閉じているのか分からない」などと言う不具合に見舞われます。

例えば絞り環を設定絞り値「f8」にセットしたいと回した時、もしも「スイッチ環」の固定位置をミスっていれば「f8のクリック感なのかf11のクリック感なのかが分からない」と言う現象にブチ当たります(笑)いちいち絞り羽根の閉じ具合をチェックして「f8/f11」を判断したりしている始末です。

従って、この方式の設計を採った場合「スイッチ環」側の固定位置に神経を遣う必要が発生します。鋼球ボールとスプリングは「スイッチ環」のグリーンの矢印の麓箇所にセットされますが製産時の工程として考えれば非常にムダな人件費を食っているだけの富岡光学らしい「意味不明な設計」の一つですね(笑)

実際この当時の他社光学メーカーでは既に簡素なクリック方式を採っており、鋼球ボール (或いはスプリング) は上の写真オレンジ色矢印の位置に組み込んでしまい、鋼球ボールの位置とクリック感の位置がズレないように考慮されていました。

↑このように「スイッチ環」がマウント面にセットされますが、その際「横方向からイモネジ3本による均等締め付け固定」なのが富岡光学製である「」であり (グリーンの矢印)、同時に唯一外部から判定できる基準でもあり、冒頭の「判定基準の」になります (但し一部のM42マウントモデルは別の設計を採っている)。

↑指標値環を、やはりイモネジ (3本) で締め付け固定します。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。モデルとしては廉価版の格付ですが、内部構造もその描写性も決して侮れないポテンシャルを秘めた、なかなか使い出のある標準レンズです。

↑光学系内の透明度が高い状態を維持した個体ですが、残念ながら前後玉の表面側に経年相応なカビ除去痕が複数残っています。特に後玉側のカビ除去痕が半分〜2/3ほどの領域で残っており、一部は順光目視で視認できます。但し、光学系内はスカッとクリアです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑パッと見ではキレイな後玉ですがジックリ見るとカビ除去痕が分かります (但し透明度は高い状態)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:6点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズ有り)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・前後玉表面側に経年相応なカビ除去痕が残っておりLED光照射で極薄いクモリを伴い浮かび上がります (特に後玉側が多い)。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
(但しカビ除去痕としての薄いクモリはあり)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑とても精悍な印象を受ける筐体意匠です。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。これだけ絞り羽根が閉じてもまだ「回折現象」の影響が見えないので、たいした光学系のポテンシャルです。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。