◎ 解説:光学系内のクモリについて (バルサム切れ含む)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Украине!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

7月から8月にかけてたまたまオールドレンズの光学系内のクモリについて当方のファンの方々5人から順にお問い合わせ頂きながら、スッカリ失念しており解説が遅くなってしまい ました (このブログで解説するとご返事していながらスミマセン!)。

希にこう言う事が起きるのですが、集団心理なのか何なのか全く分かりませんが(笑)、偶然にも頂いた5人の方の問合せの中には光学系のクモリに関するご質問や疑念、或いは認識/捉え方に困っていらっしゃる事が伺えました (意外にもまとまって同じような内容の問い合わせを頂く事があるので何とも不思議です)。

光学系内の「クモリ」と一言に言ってもなかなかその状況/状態を適確に示す、或いは伝える事が難しいですね。当然ながらその受け取り方には人の感覚が大きく影響するのでそれこそ千差万別とも言えそうなくらいの気持ちになります。

例えばヤフオク! など (のオールドレンズのカテゴリを) 見ていても、中には落札者に配慮して出品している個体の光学系内をLED光照射などして明示している出品者も居たりします。

確かに光学系内を照らしてくれれば確実にキズやクモリ、或いはカビの発生状況まで掴める為多くの方々にはそのように受け取られてありがたいと認識していると考えます。

・・しかし残念ながら当方はそのように受け取っていません

そもそも市場流通している多くのオールドレンズ達が既に製産後数十年〜半世紀以上を経ており、光学系内に相応の経年劣化やキズ/カビ/コーティング剥がれなどなど生じているのは誰が考えても納得できます。

となればそのような状況を鑑みた時、(同じ価格で手に入れるなら) できるだけ光学系内の状態が良い個体を手に入れたいと思うのが人情と言うものです。

しかしその一方で当方の受け取り方は違っていて、それぞれのオールドレンズのモデルにより異なる光学系の構成から捉えた時に「それら齟齬が何処の群のどの光学硝子 (表裏) に生じて いるのか?」が最大の光学系内の状況把握に対する認知になります。

当然ながらその対象となるオールドレンズの光学系構成を調べて (或いはすぐに思い当たり)、その掲載して頂いたLED光照射の写真を見て判断を下す事が適います (詰まるところ当方にとってもありがたいのは間違いありません)。が然し、それはあくまでも「光学系構成と今までの3,000本を優に超える整備作業からの知見」から判定を下している話しです。

大変申し訳御座いませんが、その点に於いて一般的にLED光を照射して写した光学系内の写真によりその状況を明確に落札者に伝えられるのかと問われれば、当方の答えは「多くの場合でそれはムリでしょう」になります。

つまり大多数の方々が光学系内の何処の群のどの光学硝子レンズに生じている齟齬なのかなど一切関係無く「光学系内を全て一緒くたにしてキズが多い/少ない、クモリが多い/少ない」などなど、いわゆる「パッと見での判断」しか適っておらず、現実的にそれら齟齬がどのように写真に影響するのか、或いはどのような撮影シ〜ンの時に影響を受け易いのかなど、凡そ認識できていないと考えます。

例えば光学系の第1群 (前玉) に薄いクモリが生じていた場合と、前玉に細かな拭きキズやカビ除去痕が多い場合と、或いは前玉にクモリも拭きキズも少ないながらも菌糸状のカビ除去痕にクモリが附随する場合と、この前玉に対する3つの状況がいったいどのように撮影した写真に影響を来すのか判断を下せるのか否かが問われていると言う意味合いの話しです。

もっと言うなら前玉には特に齟齬が見当たらないが内部の貼り合わせレンズにバルサム切れが起きていた場合、仮に薄いクモリが全面に渡る場合、或いはバルサム切れに伴う薄いクモリが外周部分だけの場合、完全に剥離してしまっている場合、これら3つのパターンでその貼り 合わせレンズを透過する入射光により写真はどのような影響を受けるのでしょうか?

こう言う事柄についてスパスパと答えられるなら、おそらく相当にオールドレンズ沼にドップリ浸かっていて通な方ではないかと受け取れます。

ところがそれでもなお「バルサム切れ」と「クモリ」との関係性は残念ながら適確に応えられないと考えます。少なくともまさにそれこそが「整備者でなければ答えられないリアルな話」だからです。

多くの場合でバルサム切れしている貼り合わせレンズは一旦バルサム剤を剥がして再接着すればキレイに透明に戻ると認識されがちですが、実は現実のリアルは違うのです(笑)

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態

フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く

コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない

ハレーション
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す

フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す

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そんなワケで皆様のオールドレンズ光学系内に対する状況認識に於いて、残念ながら (申し訳御 座いませんが) 相応な偏重があると受け取るしかないのが現実です。その意味で当方がオーバーホール/修理した個体についてその作業代金ご請求時に齟齬が発生し、且つ当方の説明にご納得頂けない場合が少なからず顕在するのも事実です (だいぶ少ないですが10年間で決してゼロではありません)。もちろんそのような場合はご請求金額を「無償扱い」にするのでご納得頂けると思います (逆に言えばクレームすると整備がタダになる)。

  

↑上の写真 (3枚) は、この解説の為に用意したネット上からの写真です。分かりにくいので 敢えて写真を用意しましたが、基本的にここで解説している内容を適確に100%当てはめる事が適うのかと言われれば、残念ながら個体別にバラバラなので何はともあれ整備してみなければどのような結果に辿り着けるのか事前にお答えできません (申し訳御座いません!)。

・・その意味でもこの解説は単なる参考程度にしか成り得ません

上の写真 (3枚) は、左端から順に広角レンズ、標準レンズ、再び広角レンズの順番ですが敢えてモデル銘や型番などは伏せます。

また同じ広角レンズでも左端のタイプは光学系内に貼り合わせレンズがありません。その一方で右端の広角レンズは真ん中に貼り合わせレンズが1つ介在する光学系構成です (いずれも広角レンズはレトロフォーカス型構成)。また中央の標準レンズは典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。

左端:広角レンズ (貼り合わせレンズなし)
光学系の構成はレトロフォーカス型ですが貼り合わせレンズが内部にありません。写真では まず最初に第1群の前玉裏面側に相当量のクモリが生じているのが分かります。このような クモリの生じ方は意外に広角レンズの前玉に多く、多くの個体の場合で清掃しても除去でき ません。つまり前玉裏面側のコーティング層経年劣化に伴う薄いクモリである事が多く、それは清掃しても除去できません。

また第2群以降にも同様にクモリが生じていますがおそらくコーティング層経年劣化で同様に清掃で除去できません。広角レンズはその意味でクモリの状況には相応な覚悟が必要です。

従ってこのような状況の広角レンズは清掃してもほとんど改善が期待できず、残念ながら低いコントラストな写真撮影しかできない懸念が高くなります。

中央:標準レンズ (貼り合わせレンズあり)
光学系の構成は4群6枚のダブルガウス型構成なので、第1群 (前玉) と第4群 (後玉) だけが 単体でその間に位置する (絞りユニットを挟んだ) 両側がそれぞれ貼り合わせレンズになるので4群6枚と言う構成の表現になります。

するとこの写真の個体は第1群 (前玉) の裏面側に薄いクモリがあるものの清掃で除去できる 可能性が高いですが、残念ながら第2群の貼り合わせレンズにバルサム切れが起きており、 既に白濁が始まっています (つまりクモリがある)。これは一旦バルサム剤を剥がして再接着しない限り清掃でも一切改善できません。

上の写真ではパッと見で第2群の貼り合わせレンズ外周が透明なように写っていますが、これは撮影時の角度の関係でそのように写っているだけで、おそらく現物は「全面に渡ってのクモリ」と推測できますから、間違いなくバルサム切れ状態です。

ではバルサム切れで一旦剥がして再接着する事によってキレイに無色透明に戻るのかと問われれば「バルサム剤の浮き具合によってはコーティング層の経年劣化が進むのでコーティング層自体がクモリを帯びている場合も多い」と指摘できます。

つまり貼り合わせレンズでバルサム切れが生じている時、想定しなければイケナイ状況は大きく2つに分かれると言う話です。

コーティング層の経年劣化が進行しておらずバルサム剤だけが剥離し始めている場合
コーティング層経年劣化進行と共にバルサム剤も剥離が進み互いにクモリが生じている場合

従って貼り合わせレンズのバルサム切れを一旦剥がして再接着すれば必ず無色透明に改善できるとは期待できないリスクがある事を知るべきですね(笑)

例えば光学系内の単独の光学硝子レンズは製産時点からして常に光学系内で空気に曝され続ける前提なので「コーティング層もそれを含み配慮して蒸着する」一方、実は貼り合わせレンズの場合貼り合わせ面のコーティング層は「経年で空気に曝されない前提」であるために、一旦バルサム剤が剥離し始めて浮き上がると「その剥離部分の領域でコーティング層の経年劣化がより早期に極端に進んでしまう」為に、残念ながらバルサム剤を一旦剥がして再接着しても「当初の剥離領域だけが薄いクモリを帯びたまま」だったりするのです。

このような点が単独の光学硝子レンズなのか貼り合わせレンズなのかで大きな違いが現れるので、単純に光学系内をLED光照射しただけでは適切な判定を下せません。

右端:広角レンズ (貼り合わせレンズあり)
光学系はレトロフォーカス型構成ですが、このタイプには内部に貼り合わせレンズが一つ介在する為にそのバルサム切れにより集光時に影響が大きく、多くの場合でバルサム切れを改善しないバラす前の時点で既に低コントラストな写真しか撮影できません。

また上の写真ではその貼り合わせレンズのバルサム切れは既に剥離してしまっているようにも見えるので、この場合前述のとおりバルサム剤を再接着しても剥離領域のコーティング層が既に経年劣化で薄くクモリを生じている懸念が高くなります。

そのような場合、バルサム剤の再接着で透明になるとしても、実はその仕上がりは「当初に 比べるとクモリの程度が半減したくらいにしか改善できない」場合が多いです。

以上から、そのクモリが生じている因果関係は実は光学系構成ととても関わりが強く、或いはコーティング層の経年劣化に伴う薄いクモリの初制覇まず以て清掃で一切改善できません。

同様にバルサム切れとしても再接着で必ずしも無色透明かできるとは限らず、多くの場合で 貼り合わせ面のコーティング層が弱いからこそ、経年劣化に伴う薄いクモリは多くの場合で 剥離領域で残る事が多くなります。

従ってクモリの因果関係を掴む事と合わせて光学系の構成を知り、且つそこから写真にどのように影響を残すのか考察を進めなければその仕上がりで整備してもなお「何だョ! やっぱりまだ曇ってるじゃないか!」みたいな結末に至る事も多いと知るべきですね。

但しそれは光学硝子レンズを光学系の構成の中で個別にチェックしていった時の話しで、実際は構成によっては単独で見た時は薄く曇っていても光学系内にセットしてしまうと「LED光の照射でもまず視認できない」と言う事もあるので、一概にクモリの有無だけで最終的な判定には到達しないのが現実のリアルだったりします。

・・そう言う要素からもなかなか難しい話しですね