◎ CHIYODA-KOGAKU (千代田光学精工) SUPER ROKKOR 45mm/f2.8 ©《初期型》(L39)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産の
千代田光学精工製標準レンズ・・・・、
SUPER ROKKOR 45mm/f2.8 ©《初期型》(L39)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Украине!  Героям слава!  

当方に於けるこの「Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8 (L39)」シリーズの扱いは今回のオーバーホール済でヤフオク! 出品する個体が累計で16本目にあたりますが、今回扱った個体の『初期型』は当方がオーバーホール作業を始めた10年間で今回が初めてです。

さらに前回の扱いが2017年だったので5年が経ってしまいました。完全解体した場合に 組み立て工程での微調整に苦労することから普段敬遠していたオールドレンズの一つでもあります。

また今回この『初期型』を初めて完全解体しその光学系を調べたところ今までネット上で解説されていなかった異なる光学設計だった点が判明し、合わせてその根拠を調べていったところセットレンズ対象だった当時のバルナックライカ版コピーたるレンジファインダーカメラ「Minolta−35シリーズ」の取扱説明書にそもそもちゃんと掲載されていたことに気づき納得 できました。

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MINOLTAの前身は相当古く昭和3年 (1928年) に創業者の田嶋一雄 (たしまかずお) 氏が 来日したドイツ人カメラ技術者のビリー・ノイマン氏と共同で「日独写真機商店」を創設したのが始まりになります (もう1人工場責任者のドイツ人が別に居た)。1931年に「モルタ 合資会社」に組織改編し1933年から「Minoltaブランド」を採用し始めて1937年に「千代田光学精工」としたようです (wikiより)。

戦後間もない1947年に発売された「Minolta−35 A」から始まるシリーズは1958年までシリーズの展開/発売が続きますがライカ判「24x36mm」のフルサイズに至ったのは最後のモデルだけで当初は「24x32mm」のサイズを採っていたようです。

セットレンズは当初から「Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm/
f2.8
(L39)
」を標準レンズとして扱い組み合わせて発売しています。

1948年には「Minolta−35 B」を発売しシャッタースピードの ダイアルから低速域のロックボタンを除去し、さらに合わせてフォーマットは「24x33mm」としています。

また低速域は1/5と1/10から1/4と1/8と設計を変更しています。

1950年には「Minolta−35 C」を発売しています。この時の
フォーマットは「24x34mm」へと再び細かく改変しています。

カメラボデイの両サイドに初めてストラップ用の吊り具ノブを備えた「Minolta−35 D」を発売します。

ところが1951年には何故かフォーマットを「24x33mm」に 戻したモデル「Minolta−35 E」を発売しています。
(右写真はEタイプ)

1952年にはフォーマットを「24x33mm」としたままで「Minolta−35 F」を発売しています。セルフタイマーの箇所に赤色刻印で「1 2 3」を附加させています。

いずれのモデルも輸出モデルではなかったようです。

1953年には「Minolta−35 MODEL II」が発売されファインダー枠の仕上げが梨地仕上げに変更され、且つ極僅かに開口部が小さく
なった印象が在ります。

その後1958年に最終モデルの「Minolta−35 MODEL IIB」を発売し、この時ようやくフォーマットがライカ判と同じ「24x36mm」を採用しました (右写真はMODEL II)。

レンジファインダーカメラとしての「Minolta−35シリーズ」だけで捉えると主だった機種は上述になりますが、セットされていた標準レンズたる「Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm
/f2.8
(L39)
」シリーズをチェックするとそもそも今までこの『初期型』の存在を全く知りま せんでした(笑)

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

【初期型】1947年発売
セット対象:Minolta−35 A
距離環操作用ツマミ:無し
前玉固定環:ネジ切り無し
筐体刻印の向き:カメラと反対向
絞り値窓:あり
光学系:3群5枚初期型設計

【前期型】1948年発売 (?)
セット対象:Minolta−35 B〜C (一部にD含む) (?)
距離環操作用ツマミ:無し
前玉固定環:ネジ切り無し
筐体刻印の向き:カメラと正対向
絞り値窓:あり
光学系:3群5枚初期型設計

【中期型】1951年発売 (?)
セット対象:Minolta−35 E〜F (?)
距離環操作用ツマミ:あり
前玉固定環:ネジ切りあり
筐体刻印の向き:カメラと正対向
絞り値窓:あり
光学系:3群5枚後期型設計 (?)

【後期型−I】1953年発売 (?)
セット対象:Minolta−35 II〜IIB (?)
距離環操作用ツマミ:あり
前玉固定環:ネジ切り無し
筐体刻印の向き:カメラと正対向
絞り値窓:無し
光学系:3群5枚後期型設計

【後期型−II】1955年発売 (?)
セット対象:Minolta−35 II〜IIB (?)
距離環操作用ツマミ:あり
前玉固定環:遮光環を使用
筐体刻印の向き:カメラと正対向
絞り値窓:無し
光学系:3群5枚後期型設計

そもそもフィルムカメラ側の取扱説明書を全てのモデルバリエーションでチェックできないので、発売時期やセット対象のモデルタイプをなかなか特定できていません (つまりあくまでも推測の域を出ません/(?)表記のタイプ)。

然しながら筐体の刻印文字が「カメラ側から見た時に逆向きだったタイプ」はまさに今回の 個体『初期型』だけなのでその後刻印が「正対向き」で発売されたのが「前期型」と考えられますし、もちろん完全解体すると内部構造はこの両者について相違なく同一でした。

さらにこのモデルの内部構造とその実装している光学系の相違点から分けるなら「大きく前期型と後期型」に考察できますが「中期型」だけはまだ入手できておらず不明です。

一方「後期型」については前玉固定環をチェックすると明白で1つの固定環 (ネジ切り無し) だけなら「後期型−I」になりプラスして「遮光環」をネジ込んでいるなら「後期型−II」になります (つまり2つの環/リング/輪っかをダブルでセットしている)。

つまりこのような点に着目して「観察と考察」する事で「中期型」の前玉固定環に上から下までネジ切りが成され、且つ二重ではない単独である点からしてその後の「後期型-II」との共通性が排除され、然し距離環にはツマミが存在しつつも (後期型の判定要素の一つ) どういうワケかレンズ銘板には前期型の判定要素たる「丸窓 (絞り値確認窓)」が存在するという「異端児」なのが明白です。

何故なら・・100%間違いなくレンズ銘板に丸窓を備えるには内部構造の設計が「前期型を踏襲しないと不可能」であり、然し鏡筒の設計が異なるので「後期型の要素も兼ね備える」となってしまい、当然ながら距離環に附随するツマミの存在も距離環の固定方法自体が「後期型のそれ」と断言でき全く以て「異端児」なのです。

ここで裏を考えるならいわゆる「ニコイチ」手法で「前期型と後期型のパーツの組み合わせ」が思い浮かびますが、すると前玉の固定環の説明が成らずそれを根拠として「ユニークな独自設計と判定した中期型の存在」の結論に到達しています。

上のモデルバリエーションに掲載した写真の一部は2017年時点に海外オークションebayをチェックして見つけた個体の写真ですが、試しに今回確認すると「中期型」だけは発見できませんでした。その意味で今回扱った『初期型』同様に当方にとっては希少価値が高いバリエーションでもあります。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て背景に収差ボケと混じりながら変化していく様を順にピックアップしています。後で解説しますがこのモデルの光学系はおそらく3群3枚トリプレット型から派生した前玉のさらに前方に2枚プラスさせる事で焦点距離と画角を辻褄合わせさせた設計とみているのですが、この段の左から見たシャボン玉ボケの収差によるカタチの乱れからまるで4群6枚ダブルガウス型構成のような描写性を感じました。

さらに右側の2枚の実写はそれこそパッと見でグルグルボケにみえるのでヘタするとそのダブルガウス型のオールドレンズの写りと思い込んでしまいそうです。グルグルボケとして捉えるならなかなか大人しいグルグルボケで好感が持てます。

実はこれが後に登場した「後期型」バリエーションのタイプになるとだいぶ収差が改善されて大人しくなるようで、この「Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8 (L39)」の描写性として捉えるなら「光学系の設計の相違でも初期型前期型と中期型後期型に二分される」との受け取り方をしています。

逆に言うならそれほど吐き出す写りが違う印象に至るのでハッキリ言って「梅鉢の描写性を持ちながらも収差の影響が多く残って暴れるボケ味を期待するなら初期型前期型」狙いが楽しめると思いますし、収差が改善されて大人しく端正な写りを期待するなら「中期型後期型」狙いとも言い替えられます。

ちなみに「梅鉢」と表記したのはこのモデル「Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8 (L39)」の俗称であり家紋の梅鉢に近似している印象の受け取り方からそのように呼ばれているようですが、植物の梅の花弁も当然ながら家紋も「5葉」なのでこのモデルのローレットの 6つの突出は梅のカタチ/花弁枚数には一致しないと思うのですがどうして昔からそのように 呼ばれてきたのか「???」です(笑)

ちなみに「梅をあしらった家紋」を「梅紋」と呼ぶようですが一番認知度が高いのは天神様の社紋でとても多くの梅紋が使われています。紋の解説によると菅原道真が梅をこよなく愛したことから奉られている天神様に多く使われているようですが、そのカタチの特徴からみていくと天平時代から使われているらしく紋としては100種類以上顕在するそうです。
(左の梅紋は加賀梅鉢で前田利家由来の家紋)

二段目
この段では一段目のシャボン玉ボケ〜円形ボケ〜グルグルボケを経ていく中で特に収差の影響を受けて乱れているボケ味を左側2枚でピックアップしています。ところが3枚目の白黒写真になるとガラッと性格が変わって「相当な空気感や距離感を留める立体的な表現性」になるのがオドロキで溜息混じりです(笑) これは一つにはカラー成分がグレースケールに変化するには (デジタルの場合) 256階調に振り分ける必要があるのでそのグラデーションが変化してこのように写真としての質感まで変わってしまいます。

従って何でもかんでもカラー写真とこだわらずにたまには白黒写真でトライしてみるのもまた変化を楽しめて面白いと思います。

三段目
ここでは左側2枚が発色性のチェックでピックアップし右側2枚は明暗部の写り方をみています。すると発色性に関してはカラー成分で捉えた時にとてもシックで大人しめな (ある意味鮮やかさを狙っていない) 印象を受けますし、それは2枚目の雨降りの街中風景で路面に反射しているネオンカラーの表現性からして「観ていて目が痛くなる/辛くなる要素を感じない」からこそこの撮影者の「芸術的な表現性として捉えたこだわり」がちゃんと伝わってきます (つまり撮影スキルが高い)。また右側2枚の明暗部の印象もとても素直で特に暗部側にボケ味から来る立体感を留めつつ相応に粘っているのが好感持てます。右端のピーカン撮影もギリギリ耐え凌いでいますがカラー成分にムリがかかります。

四段目
ところがやはり白黒写真で撮ってみるとご覧のとおり明暗部の表現性はガラッと変化して相当なダイナミックレンジの広さに振り分けられるので特に「初期型前期型」までのバリエーションならカラー撮影にこだわらずむしろ白黒撮影で使い切るくらいの気持ちがあると相当楽しめると思います・・素晴らしいです! 特にカラーで弱めな印象を受けるピーカンでの素材表現はちゃんとグラデーションを維持できている部分が素晴らしいと思いました。

また3枚目はディストーション (画の歪み) チェックとしてピックアップしましたが収差の影響と言いつつも相当なレベルを維持していると感心です。逆光耐性はそれほど良くないですがコントラストが抜けない分さすがといいたいところです。

↑上の写真は当時の取扱説明書から抜粋したものですが、今回のこの『初期型』を扱うまで 全く気づけなかった「光学系設計の違い」の根拠としてピックアップしました。この掲載されている構成図はおそらく特許出願時の構成図と推測できますが「後期型の光学系設計と違う」点が明白になりました。

Chiyoko SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8 (L39)」シリーズの実装光学系は全てのモデルバリエーションで同一で3群5枚の変形トリプレット型と言えます。

右図は「後期型」タイプを扱った際に完全解体し光学系の清掃時当方の手でデジタルノギスを使い逐一計測した実測値に基づくトレース図です。パッと見で前出の取扱説明書の構成図そのモノに見えますが 次の構成図で違いが判明します。

こちらは今回扱った個体『初期型』で同様完全解体し光学系清掃時に当方の手でデジタルノギスを使い逐一計測した実測値を基にトレースしています。

そもそも前玉の曲率からして異なりさらに第2群の両凹レンズの曲率が「後期型」構成図と異なりました。この第2群両凹レンズのレンズ端部分はモールドされているのでそのカタチを正確に計測できていませんが表裏での曲率の相違は確実です。

さらにもっと正確に伝えるなら「初期型前期型」と「後期型」とではコーティング層の蒸着レベルが全く別モノで下手すると前後玉のコーティングは「シングルコーティング」かも知れません。扱い個体数が少ないので何とも判定できていません。

そんなワケで「初期型前期型」と「後期型」とで吐き出す写りが異なるのに以前から「???」だったのですが今頃になって理解している始末です (凡そ当方のこのブログ掲載の中で2016年辺りまでは考察ができていない/正確ではない)(泣)

その意味で間違った捉え方をしたままの掲載はご指摘頂けると助かります・・。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は「後期型」同様に簡素ですが、実は設計が異なるのでその組み立て工程の中で行う微調整に関して言うなら「相当厄介です」と明記しておきます(笑) ある意味それで懲りていたので2017年以来敬遠し続けていたのも一因です(笑)

↑全ての構成パーツが真鍮 (黄銅) 製なので相応の重みがあります。この金属材の場合ネジを締め付ける時に硬締めしすぎるとアッと言う間に応力が伝わるので微調整が狂い適切な仕上がりに至りませんから、構造が簡素だからと食ってかかると痛い目に遭います (技術スキルが低いので当方もその一人です)(笑) 上の写真は絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

↑鏡筒の最深部には上の写真解説のとおり絞りユニットを構成する「位置決め環と開閉環」が組み込まれ「開閉環だけが回る」ので絞り環操作で絞り羽根の開閉動作が適います。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑絞りユニットをセットしたところを前玉側方向から撮影しました。このモデルは『初期型』なので戦後間もない1947年の発売ですがご覧のように絞り羽根には「カーボン仕上げ」 すら施されていないので光の反射によっては鮮やかなブル〜に輝きます。

従ってこのようなオールドレンズこそが多くの方々が気にされる「迷光」の影響が現れるのであって、純粋に光学系の設計やコバ端処理だけ因果関係が及びません。シ〜ンによってはこの絞り羽根に反射した迷光の影響も現れると推測できます。

仮にもしも絞り羽根にメッキ加工を施して組み込んだらOKなのかと言うと、実はそうなりません(笑) 絞りユニットがセットされる空間は限られているのでいくらメッキ加工としても 絞り羽根の表裏で施すとおそらく絞り環操作が不可能に陥ります。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側方向が前玉側方向になります。すると鏡筒外周にネジ切りが長い距離で施されているのが厄介な話で実は「光路長調整」が必要になりチョ〜面倒くさいのです(笑)

↑光学系前後群を鏡筒にセットしたところです。同様写真上側が前玉側方向です。まだ「遮光環」と言うまるでネジ切りされているように見える環/リング/輪っかを組み込んでいない状態です。

当初バラす前の時点でその実写チェックで今までに扱った「後期型の描写性と明らかに違う」点に思い至り、さらにオーバーホール工程の中でこの前玉の曲率を見た時にピ〜ンときてしまったのです。「これは光学設計が違う!」そして実測するとまさにそのとおりだったのです。

それで以前扱った「前期型」の時の写りに「???」だったのが納得できました。

↑このモデルは鏡胴が「前部/後部の二分割式」なので鏡胴「後部」側の組み立てに移行します。上の写真はマウント部ですがヘリコイド (メス側) のネジ山が切られていて合わせて「制限壁」と言う壁状の突出もあります。

この「制限壁」の片方が無限遠位置側にあたりもう一方が最短撮影距離位置側で互いに距離環がカチンカチンと突き当て停止する仕組みです。従って「制限壁」位置は微調整機能が存在しないので「無限遠位置の大幅なズレはヘリコイドのネジ込み位置で工夫する」概念です。

然しだからと言って組み上げてから無限遠位置を実写確認してまた完全解体していたら本当にイヤになります(笑) だいたい2016年辺りまではそんな事を繰り返しつつオーバーホールしていたので堪ったものではありませんでした(笑)

今はそんな難儀をせず「原理原則」からほぼ一発で (どんなオールドレンズでも) ヘリコイドのネジ込み位置を確定できるようになったのでだいぶ楽チンです・・10年も経てばこの悪い頭でも少しは学習するみたいですがハッキリ言って犬の学習能力よりも相当劣っている人間です (いまだに同じミスを繰り返すから)!(笑)

きッと当方がパブロフの実験台に座らせられると仮説を導き出した道理に至らず大変な迷惑を掛けていた事でしょう・・(笑)

↑何しろいきなりマウント部にヘリコイド (メス側) のネジ山が切削されているので早々にヘリコイド (オス側) がセットされる工程手順です (一般的には逆で痕のほうに入る)。

このモデルは全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑ひっくり返して今度はマウント部側方向から撮りました。「距離計連動ヘリコイド」がセットされたところです。この「距離計連動ヘリコイド」には両サイドに「直進キーガイド」と言う溝が備わるので、そこに「直進キー環」と言うリング/輪っかをハメ込んでねじ止めします。

もちろん既にこの時点で前の工程でネジ込んだヘリコイド (オス側) と連携した動きをするようにセットしてあるので「距離環が回ると連動してこの距離計連動ヘリコイドが繰り出されたり格納したりする原理」です。

逆に言うならどんなにヘリコイド (オスメス) 側で「軽めのグリース」を塗布してもこの「距離計連動ヘリコイドまで引っ提げて/引率して動かす必要がある」ので単純に工程を進められませんね(笑)

こういうところに単にばらして組み戻すだけの「グリースに頼った整備」の落とし穴があったりします(笑)

↑再びひっくり返して今度は「指標値環」をセットします。

↑またひっくり返してマウント部側方向から撮影していますがご覧のように距離環のローレット (滑り止め) が入りここで初めて指標値環を固定できます。

↑こんな感じで距離環のローレット (滑り止め) 部分がセットされますが、冒頭解説のとおりレンズ銘板に「設定絞り値が見える丸窓を有する」設計なのが「初期型前期型」の特徴なので、そもそもこの後に登場した「後期型」とは内部構造も各構成パーツの設計も全く別モノなのです。従って「ニコイチ」が不可能ですね(笑)

ちなみに上の写真でトップに写っている絞り値は「丸窓の中に見える設定絞り値の刻印」です。

↑完成していた鏡筒がセットされます。この後に無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。何しろ微調整と光路長確保が厄介なのでそう頻繁には扱う気持ちになれないモデルなので、またほとぼりが冷めたあたり (5年後) くらいになったら考えてみますかというレベルです(笑)

レンズ銘板に備わる「丸窓」が特徴的でそれだけで嬉しくなってしまうこのギミック感が大好きです!(笑)

ちなみに製造番号は画像編集ソフトで削除していますが実際は「4桁の数値」での刻印なのでまさに1947年に生産された「初期型」でないかと推測しています。

↑光学系内の透明度が非常に高くLED光照射してもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。上の写真のとおりこの当時の日本製オールドレンズは (戦後間もない事もあり)「気泡」が複数残っています。

写真には直接影響しませんが例えば「円形ボケ」などを表出させた時にその内部にこれら気泡の影が写り込む懸念は当然ながら残ります。但し逆に指摘するなら「気泡が残る時代のオールドレンズは相応に収差も多い」のでそもそも円形ボケが真円でキレイに表出し内側まで確実に視認できる写真は相当難しいと考えられます。そもそも焦点距離が45mmなので円形ボケ自体の大きさが小さめですから気にしても仕方ないようには思います(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑後群側も透明度が高く同様にLED光照射で極薄いクモリが皆無です。但し後玉含め一部に12mm長前後の極薄いヘアラインキズが複数あります (写真には一切影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:18点、目立つ点キズ:12点
後群内:15点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
(前玉外周に菌糸状のカビ除去痕残っています)
・ヘアラインキズ:あり(前群内僅か)
(前後群内極微細な薄い11mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(ヘアラインキズ複数あり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり、一部は一見すると極微細な塵/埃に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷されていた為クレーム対象としません)。「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
・なお経年からコーティング層劣化も進んでいますが当初からのコーティング層相違から多少コントラストが下がり気味の写り方です。

↑9枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります
・距離環を回してピント合わせしていく時にピントの山が非常に不明瞭な特徴があるため本来なら距離環のトルクは軽めが好ましいですが「絞り環操作が無段階式(実絞り)なのでその点を考慮して敢えて距離環のトルクを僅かに重く設定しています。
(そうしないとボケ具合を調整しただけでピントがズレてしまうから)。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・筐体の材質が真鍮(黄銅)なのでメッキ加工が薄い分経年で一部にハガレがあります。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
marumi製UVフィルター (新品)
本体『SUPER ROKKOR ©《初期型》(L39)』
純正Minolta銘樹脂製ネジ込み式後キャップ (中古品)
 純正フード+前キャップ専用収納本革ケース (中古品)
純正Minolta銘刻印金属製ネジ込み式フード (中古品)
純正Minolta銘刻印金属製被せ式前キャップ (中古品)
但し被せ式前キャップは少々カパカパ状態です

冒頭解説のとおりコーティング層の蒸着が後に登場した「後期型」と比べて蒸着層が少ないような印象なので「できるだけフード装着」して撮影されるのが良いと思います。

ちなみにこの純正金属製フードは「外寸高さ/長さ19.19mm」でありフード内側の遮光部分の深さを実測すると「内寸深さ18.57mm」なので、もちろんフィルター枠のネジ込み径は「⌀ 34mm」ですからそれを目安に市販品を装着する手もありますね(笑)

↑完成した個体に附属品の一部を装着して撮影しました。解説のとおり「筐体の刻印文字の向きが逆でカメラに対して正対していない」のでカメラに装着して (フィルムカメラもマウントアダプタ経由でも) 見た時に文字が逆向きです(笑)

これこそが『初期型』の最大の外見から分かる特徴ですし、そもそも製産個体数が非常に少なく今現在ネット上でチェックできる個体写真を調べた限りではサンプル数120本あたりでチェックしても「製造番号5xxx以降は正対向きに変わっている」いわゆる「前期型」にチェンジしている為その個体数は5,000本以下とみています。

ちなみに某有名処サイトの調査データを見ると出荷された『初期型』の製造番号は「0101〜」スタートのような話なので実際はもう少し少なそうです。

↑附属の純正金属製ネジ込み式フードを装着するとこんな感じです(笑) ちゃんと設定絞り値が確認できるよう丸窓の位置が配慮されているのが何ともこだわりに思えてしまい・・これだけで一晩酒の肴に繋げそうです(笑)

↑こんな感じで設定絞り値が確認できるように丸窓が備わります。たったこれだけなのにこのギミック感だけで何だか満足してしまうからどうしようもないです(笑)

なおここでの掲載写真の中で特に光学系の硝子レンズに黒っぽい影部分があるのは「ミニスタジオでの撮影時に写り込んだ当方の手やカメラの影」なので現物にはこんな明暗を分けた影は一切存在しません (コーティング層の劣化みたいな話ではありません)(笑)

また今回のオーバーホールではこの絞り環操作が無段階式 (実絞り) である為に、且つ距離環操作と独立していない為に故意にワザと「距離環側のトルクを僅かに重めに設定して仕上げている」点をご留意下さいませ。

その理由は「できるだけ距離環でピント合わせした後にボケ味をいじれるようにしたいから」と言う配慮ですが、そうは言っても絞り環操作すると距離環が微動するのでギリギリのところで距離環側トルクを収めています。

従って人に拠りその感覚として「重い」と感じると考えそのように出品ページで明記して出品しています。

さらに「距離計連動ヘリコイド」の微調整は当初バラす前の位置で設定してあります (当方にはライカ判フィルムカメラ本体が無いので確認できていません)。

さらに当初バラす前の実写チェックではミラーレス一眼のピーキングに反応しないくらい「ピント面の山が薄い」印象でしたがオーバーホールにて光路長を合わせたので多少はピントの山が明確になりました (やはり光学系の設計上の仕様と考えます)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード装着状態で撮影していますが蒸着コーティング層の影響からはフレア気味だったりします (設計上の仕様)。

特に背景の乱れ方が「初期型前期型」特有の写り具合なのでこれがまた堪りません!(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑設定絞り値は「f8」に上がっていますが、この時点で既に極僅かな「回折現象」の影響を受け始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑f値「f11」に変わっています。特に写真中央部分に「回折現象」が出ています。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。ここまで絞ると明確に解像度まで低下しています。