◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Tessar 50mm/f2.8 Gutta Percha (皮革風)(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・、
 『Tessar 50mm/f2.8 Gutta Percha (皮革風) (M42)』です。


Tessar (テッサー) と言うモデル銘のクラシックレンズは、戦前ドイツで1902年に登場して いますから相当な歴史の古さです。さらに何と今現在も様々な機器で光学系構成の一つとして採用され続けている「不滅のテッサー」です(笑)

テッサーの構成は3群4枚と非常に簡素ですが、そうは言っても戦前に主流だった3群3枚のトリプレット型構成の欠点を上手く補って、カリ カリの鋭いピント面を実現した、ある意味3枚玉の収差改善モデルの ような概念の位置付けになります。

右図は同じく旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ「Trioplan 50mm/f2.9 V」の3群3枚トリプレット型構成のトレース図です。

するとそれら3群3枚のトリプレット型構成のオールドレンズとこの3群4枚テッサー型構成のモデルを比較した時、その描写性の違いを一言で表すと「マイルドなピント面 (トリプレット型)」に対して「カリカリのピント面 (テッサー型)」と言うポジションなのがテッサーとも言えますが、確かに今現在でも採用され続けている光学系の基礎的な概念だとすれば、それはカリカリの鋭さも納得できると思います。
(右図は今回のモデルのトレース図)

その中でこの当時のCarl Zeiss Jena製テッサーモデルの描写性能をみる時、戦前から存在していたシルバー鏡胴モデルから、今回扱う「Gutta Perchaモデル」までを一括りとして「中庸的な鋭さのピント面」と捉える事ができます。

もちろんこの後に登場するゼブラ柄モデルから黒色鏡胴までのテッサーは「カリカリの鋭い ピント面」に至り、まさに至上に到達し得たテッサー光学系の集大成とも言い替えられる性能を誇ります。

そのように3群3枚のトリプレット型構成から3群4枚のテッサー型構成への発展/変遷を捉えた時、その描写性を3つの分類に分ける事ができると考えます。

マイルドなピント面 :3群3枚トリプレット型
中庸的な鋭さのピント面:3群4枚テッサー型 (シルバー〜Gutta Percha)
カリカリの鋭さのピント面:3群4枚テッサー型 (ゼブラ柄〜黒色鏡胴)

すると3枚玉トリプレット型はピント面にマイルド感が憑き纏うので、且つピント面のエッジからのアウトフォーカス部の滲み方が極端なので、パッと見の印象として「カリカリにまでなり切っていない (そのように見えない) 鋭さ」こその「マイルド感」とも言い替えられ、特に 立体的な表現性が苦手な光学系構成とも受け取れます (階調幅が狭いので平面的な写りになりやすい)。

一方戦前〜戦後のシルバー鏡胴から今回扱うモデルまでの描写性能は「鋭いピント面ながらも (カリカリの) 誇張感を伴わない鋭さ」と言う印象として位置付けられると思います。それは逆の言い方をすれば最後のゼブラ柄〜黒色鏡胴モデルでは「シ〜ンによっては違和感さえ感じるほどの鋭いピント面」とも言い替えられますから、立体的な表現性を手に入れていながらも、相変わらずマイルド感漂う写り方なのが、まさに今回のモデルの描写性です (ある意味ピント面の鋭さの強調に対してはちょっと消化不良的なニュアンス)。

つまり同じ3群4枚のテッサー型本家Carl Zeiss Jena製テッサーだとしても、その製産時期の モデルバリエーションにより「中庸的 vs カリカリ」の2つに大きくその写りが分けられると 当方では捉えています。その意味でカリカリの鋭さが欲しいなら今回のモデルよりも、むしろゼブラ柄か黒色鏡胴のテッサーを手に入れた方が期待に適う話になりますし、そうではなくて植物の写真など「美しくキレイに撮りたい」ならば、むしろシルバー鏡胴モデルからこのGutta Perchaモデルまでが適している話になります。

それは今ドキの表現で言うなら「インスタ映えオールドレンズ」はむしろこちらのシルバー鏡胴〜Gutta Perchaモデルまでが当てはまるとも考えられそうですね(笑)

そのようにこの時代のテッサーモデルを区分けすると、3枚玉トリプレットとの立ち位置の 違いが分かりやすいかも知れません。

それを裏付ける写真ではありませんが、左写真はまさに光学系の仕様の違いを撮影した証拠写真です。シルバー鏡胴時代のテッサーから取り出した第1群と第3群に対し、黒色鏡胴の同じ光学硝子レンズを並べて撮影しています。

すると前玉の厚みも曲率も異なり、貼り合わせレンズの2枚のガラスレンズの厚みも違っているのが分かります。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしています。ご覧のようにキレイな真円を維持した明確なエッジを伴う美しいシャボン玉ボケを表出させる事ができるのですが、実はこれらシャボン玉ボケの表出は同じ旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズと比較すると「遙かに表出させる難しさがある」と言えます。つまり相当な撮影スキルが無いとなかなかキレイなシャボン玉ボケを写す事ができないかも知れません (一応撮ることもできると言うスタンス止まり)。

二段目
ここからがこの頃のシルバー鏡胴モデル〜Gutta Perchaモデルまでのテッサーの特徴になりますが、ピント面の鋭さのエッジを相応に確保しながらも「マイルド感を感じる写り方」と言えます。逆に言うなら、もしも撮影しているピント合わせの際に「ピタッと鋭いピント面に合焦」を期待するなら (ピント面のピークが高い) むしろゼブラ柄〜黒色鏡胴を手に入れたほうが良いと言えます。

ところがそれらカリカリの鋭さのテッサーモデルでは「絵画風」や「水彩画風」の美しい背景ボケ表現が苦手なので (コントラストが高くメリハリ感が強いので煩い写真に仕上がってしまうから)、そのような「ある意味芸術性的な感覚」を狙うなら、シルバー鏡胴〜Gutta Perchaモデルまでが適しています。

三段目
ダイナミックレンジも相応に広く、特にその傾向はカラー成分をグレイスケールの256階調成分に割り振る白黒写真には最大限に効果があります。おそらく白黒写真ならもぅこれで十分なレベルまで到達しているのではないでしょうか (これ以上カリカリ感の必要性が無い)。やはり製産されていた時代としてカラーフィルムがまだ主流になる前の光学系なので、当然と言えば当然の結果です。

四段目
それはこの段の写り方を観ると納得できるでしょう。ダイナミックレンジの広さから来るグラデーションの対応能力は高く、淡泊なコントラストでも負けることが少ないです。しかし人物の人肌表現となると苦手なのがテッサーです。開放f値「f2.8」ながらも相応に被写界深度も狭い印象ですね。

ちなみにヤフオク! やネット上の解説サイトを観ていると「鷹の目テッサー」を謳っている事が多いですが、カリカリの鋭さの例えとして「」を持ってくるのはどちらかと言うと日本人的な感覚です。海外では鋭さで言えば「鷹ではなく鷲」なので、鷹をチョイスする国は少ないですね(笑) また実際にこれらオールドレンズが売られていた当時に「鷹の目の鋭さ」をまさにキャッチコピーとして使っていたオールドレンズは、MINOLTA製「MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2」なので、この当時の旧東ドイツ側Carl Zeiss Jena製テッサーではありません。

実際に「鷹なのか鷲なのか」の答えは、左のように当時のCarl Zeiss Jenaの広告からも間違いなく「」です(笑)

ドイツ語で『Das Adlerauge Ihrer Kamera』と「カメラの鷲の目」と記載がある為「」だった事が明白ですし、そもそも右上に「」をキャッチコピーにしたアイコンまでちゃんと用意しています。

そもそも海外特にヨーロッパでは「権威や威勢の象徴として使うのは鷲」であり、様々な貴族や王族の紋章にも、或いはまさに国旗にまで使われているのは「 (hawk)」ではなくて「 (eagle)」ですョね(笑) これは外国人には特に異様に写る話のようなので(笑)、彼らにはどうして鷹が登場するのか全く理解できないらしいです(笑)

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

1936年〜:シルバー鏡胴時代「戦前型」
コーティング層:シングルコーティング/モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し/有り混在
開放f値:f3.5/f2.8混在、絞り羽根枚数:14枚
筐体材質:真鍮製/アルミ合金製混在
絞り制御:手動絞り (実絞り)

1948年〜:シルバー鏡胴時代「初期型」
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し/有り混在、絞り環にライン刻印有り
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:14枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:プリセット絞り

1950年〜:シルバー鏡胴時代「前期型」
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し/有り混在、絞り環にライン刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:14枚→12枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:プリセット絞り

1955年〜:シルバー鏡胴時代「後期型」
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:10枚8枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:半自動絞り

1958年〜:グッタペルカ巻時代
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:6枚5枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:自動絞り

1958年〜:グッタペルカ巻時代
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:6枚5枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:自動絞り

1966年〜:ゼブラ柄鏡胴時代
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:5枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:自動絞り

1978年1989年黒色鏡胴時代
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:5枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:自動絞り

【番外編】
※様々なフィルムカメラ用に供給されたモデルが他にも複数あります (以下一例)。

番外編:1952年〜:シルバー鏡胴時代
コーティング層:モノコーティング
レンズ銘板:T刻印無し
開放f値:f2.8のみ、絞り羽根枚数:8枚
筐体材質:アルミ合金製のみ
絞り制御:プリセット絞り

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部の構造はこの後に登場するゼブラ柄や黒色鏡胴モデルのほうがより簡素で初心者向けです。今回のこのモデルは少々微調整が難しいので初心者の整備レベルには向いていません (キッチリ微調整せずに単に組み上げるだけなら関係無し)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が 独立しており別に存在します。

当方のオーバーホールでは必ずヘリコイド (オス側) の配置をチェックしていますが、どうしてオス側だけ重要なのかはちゃんと理由があります。たいていのこの当時のオールドレンズの場合、ヘリコイド (オス側) の内部に鏡筒がセットされる設計が多いからであり、鏡筒の繰り出し/収納方法はそのままヘリコイド (オスメス) の繰り出し/収納方法と一致しているからです。

例えばこの当時の旧西ドイツ側光学メーカーが多用していた「懸垂式ヘリコイド駆動方式」と今回の駆動方式とでは「チカラの伝達経路が変わる (伝わり方が違う)」からです (つまり距離環のトルク調整の方法が全く異なる)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑上の写真は絞りユニット内部で使っている「開閉環」の機構部をバラした写真です。右下の「ベアリング環」の四角い箇所にベアリングが1個ずつセットされて、全部で3個のベアリングによってスルスルと無抵抗で「開閉環が回る」設計です。

すると絞り羽根の開閉の俊敏性を決定づけるのがこの「開閉環」なので、必然的に完全解体して経年の酸化/腐食/錆びを除去する必要があります。今回の個体で言えばベアリングまでちゃんとサビをチェックしています。

特にグリーンの矢印で指し示したように「開閉環」が入る「外枠」の内径が「開閉環よりも 大きい」ので、そのまま単純に中に入れても「外枠を持ち上げたらストンと開閉環が落下する (抜け落ちる)」と言えます。

つまり「開閉環を保持しているのはベアリング (の半径分)」だからです。この点に整備者が気が付いて、ちゃんと解体してチェックしたのかどうかが実は最後組み上がってからの絞り羽根の開閉に大きく影響してきます。

↑こんな感じで絞りユニットが鏡筒最深部にセットされます。

↑上の写真は前述の「開閉環」にダイレクトに刺さって「開閉環を回す機構部」であり「開閉アーム」です。

↑こんな感じで鏡筒の横に組み付けられてスプリング (1本) のチカラが働き「常に絞り羽根を完全開放したまま」を維持します。つまりマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれたり、或いは鏡胴横から飛び出ている「プレビューボタン」が押されたりした時だけ「瞬時にシャコッと絞り羽根が設定絞り値まで勢い良く閉じる」のは、このスプリングが居るからです。

ところがこのスプリングはそこそこ線径が太いながらも材の問題で耐用年数が短く、既に限界に到達しています。またさらに「開閉アーム」を形成しているパーツ自体が真鍮 (黄鋼) 製なので、とてもやわらかく簡単に変形します。

要は前述の写真で絞り連動ピン内部に刺さる「アームそのモノ」が簡単に変形するので、先に説明した「開閉環の滑らかさ」がとても重要になってくるワケです。何故なら、過去メンテナンス時にこのスプリングを短く切ってしまい「強制的にチカラを強めた常套手段」が処置されている事が多く、その場合残念ながら「絞り羽根の開閉異常」が再び発生したら「製品寿命」です(涙)

従って当方のオーバーホールでは必ず「開閉環を完全解体してサビを除去」し可能な限り「開閉アームへの影響を低減する」ワケです (本来ここの工程で正しいカタチに形状も戻している)。

要は一つ一つの工程にちゃんと理由/ワケがあると言うお話です(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑無限遠位置のアタリを付けた場所まで距離環 (ヘリコイド:メス側) をネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑やはりヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

するとヘリコイド (オス側) には途中に「直進キーガイド」と言う「」が用意されているのが分かります (グリーンの矢印)。その「」の中央辺りにネジが顔を見せています。つまり「平滑/平坦ではない」のが一目瞭然ですね。

ここがポイントです。

↑このモデルではフィルター枠にヘリコイド (オス側) のネジ山が切削されているので、こんなふうにセットされます。

↑ここでひっくり返して裏側を撮影しました。すると鏡筒横に「開閉アーム」が組み付けられていて「直進キー」も刺さっているのが分かります。距離環を指で保持して回そうとすると、その掛けたチカラはこの「直進キー」のところで方向が変換されて「鏡筒の繰り出し/収納」するチカラに変わっている仕組みですね。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

このモデルでは絞り環を回した時にカチカチとクリック感を伴うのですが、そのクリック感を実現しているのはベアリングではなくて、左写真のような「板バネ金属棒」と言う設計です。

従ってこの「板バネ」が経年劣化進行に伴い弱ってしまうと、もうどうにもクリック感を強くすることができません。

↑こんな感じで絞り環がセットされますが、既に前述の「板バネ金属棒」も組み付けられており、確実なクリック感を伴っています。

すると絞り環から刺さっている「連係棒 (金属棒)」が「制御ガイド」と言う、やはり「」にささるので、最終的に絞り環を回して設定した絞り値が伝達されて「絞り羽根が設定絞り値まで閉じる」仕組みです。「制御ガイド」のみぞが相応に長いのは「鏡筒の繰り出し量/収納量」に一致しているからです。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方により「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。たいていの整備では、このマウント部内部のチェックはスル〜されてしまいます(笑)

↑しかし実はやはり「絞り羽根の開閉に影響する部位」である「絞り連動ピン」の機構部がここにセットされます。するとこの「絞り連動ピン」もやはり無抵抗で動かない限り「絞り羽根の開閉異常」に繋がるので、もっと言うなら前述の「スプリングを弱める原因の一つ」なのが、この「絞り連動ピン機構部の抵抗/負荷/摩擦」とも言い替えられます。

それほど重要な部位なのに、たいていの整備で無視されたまま組み上げられるので、相応に赤サビが出ていることが多いのがこの「絞り連動ピン機構部」だったりします(笑) 特に「カム」の動きが重要になってきますね。

↑こんな感じでマウント部が基台にセットされます。するとマウント目から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれても、或いは鏡胴横から飛び出ている「プレビューボタン」が押し込まれても、いずれも「同じようにチカラが働き絞り羽根が設定絞り値まで瞬時に勢い良く閉じる」と言う設計です。

従って「単に絞り環操作で絞り羽根の閉じ具合を決めている」と単純な思考回路で把握している整備種に限って「絞り羽根の開閉異常を改善できない」結末だったりしますね(笑) 実際にはこのように「プレビューボタン」の機構部まで関係しているワケですから、何か不具合が発生していた時に何処を疑いどのような処置を講ずるのかは「原理原則」をどれだけ深く理解しているのかが問われる話になります。

↑マウントカバーをセットしてこの後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑当方ではそれほど頻繁に扱わない旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズTessar 50mm/f2.8 Gutta Percha (皮革風) (M42)』です。

よくこのモデルの距離環ローレット (滑り止め) を刺して「革巻き」と案内されることが多いですが、この距離環に巻かれているのは「天然皮革」ではなくて「合皮」であり「Gutta Percha (グッタペルカ)」です。

マレーシア原産のアカテツ科の樹木から採った樹液によるいわゆるラバー材の一種ですが、今ドキのラバーのような弾性が低く「固形化」するので、今現在多用されているプラスティック材に非常に近い樹脂材です。

今ドキのプラスティック材との大きな違いは「硬度が低いのでボロボロになる」と言えます。従って「皮革風」にエンボス上に凹凸を与えて固めただけのGutta Percha巻です。

それこそ今大問題になっている「マイクロプラスティック」問題を考えたら、むしろこのGutta Perchaを再び活用したほうが、何か自然に戻る再循環能力が期待できそうな気がしますが、どうなんでしょうか?

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体で、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。レンズ銘板に「zeissのT」刻印がありませんが、ちゃんとモノコーティングが全ての群に蒸着されています。

ちなみにコーティング層について当時のパテントをチェックすると・・、

【Carl Zeiss Jena (戦前〜戦後) コーティング技術の発展】
1934年ノンコーティング (反射防止塗膜の蒸着無し)
1935年〜:シングルコーティング (反射防止単層膜の蒸着)
1939年〜:モノコーティング (反射防止複層膜の蒸着:T)
1972年〜:マルチコーティング (反射防止多層膜の蒸着:T*)
※ 世界初の複層膜蒸着技術 (世界初の薄膜複層膜蒸着技術開発は1958年のMINOLTAによる
アクロマチックコーティング)

なので、例えば戦前〜戦中のオールドレンズを指して必ずしもノンコーティングとは言い切れませんし、実際当方でバラして光学硝子レンズを清掃してみるとシングルコーティングが蒸着されていることを確認したりします。

また「zeissのT」をシングルコーティングと案内しているサイトが非常に多いですが、だとすると光学系を覗き込んだり光に反射させた時に「パープルアンバー」の2色に光彩を放つ理由が説明できません (単層なら1色ハズだから)。

従って当方での表現は「モノコーティング」であり、且つ「複層膜コーティング層 (反射防止塗膜) 蒸着」と言っています。シングルコーティングなら「単層膜」であり、マルチコーティングは「多層膜」ですね。

なおここで言うところの「複層膜」の中に、当時のMINOLTAが「世界初」とカタログに印刷し謳っていた「アクロマチックコーティング (AC) 」は単なる複層膜の蒸着技術を指すのではなく「薄膜層の蒸着技術」を意味するので、この点を履き違えると何も見えなくなってきます。

つまり純粋なコーティング層の蒸着数としてのカウントは「シングルモノマルチコーティング」と単層膜〜多層膜へと変遷していくワケですが、シングルコーティングの上にモノコーティングを蒸着できませんし、同様にシングルコーティングの上にマルチコーティングも蒸着できません。

つまりそれぞれのコーティング層蒸着だけで完結してしまうのですが、1958年にMINOLTAが開発したアクロマチックコーティング (AC) は、シングルマルチコーティングの別なくいずれのコーティング層にもさらにその上に追加蒸着できる「薄膜蒸着技術」なので、既にモノコーティングの複層膜蒸着技術が1939年にCarl Zeiss Jenaによりパテント登録されていながら「世界初」を謳っていたのは、そういう理由からです。

この点を履き違えると、例えば後の時代に登場する「グリーン色の光彩の意味」が掴めなくなりますし、もっと言うなら今現在もなおこの「薄膜蒸着技術」は多用され続けているのでコーティング層の認識として重要です。

シングルモノコーティングの違い、或いはアクロマチックコーティング (AC) の認識がポイントになってきます。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑この当時のでッサーで非常に多い「光学系第3群の貼り合わせレンズのバルサム切れ」問題も全く無く、後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。

当方が皆無と言えば本当に皆無です(笑)

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは剥離してしまい反射が生じている状態を指す

ここでのポイントは、最近の特にヤフオク! でのオールドレンズ出品を観ていると「極薄いクモリやバルサム切れがありますが写真には影響しません/キレイに写真が撮れます」などと謳って出品していることがとても多くなりましたが、これは「全くのウソ」です!

例えば「極薄いクモリ」の場合は、そのクモリの度合いやクモリが生じている領域/面積により異なるので一概に明言できませんが、少なくとも「バルサム切れ」が写真に影響しないことは一切あり得ません(笑)

たいていの場合で反射面が増大してしまうので「フレアの増大/フレアの増大」或いは「収差/色ズレの増大」に繋がり「必ず撮った写真に影響が現れる」ので、写真に影響が無いなどと明言しているのは「出品者のウソ」です(笑)

バルサム切れは個人の感覚とは一切関係ない
個人の主観/感覚の相違なので、バルサム切れしていたとしても撮った写真に 影響しないと感じたのでクレームにならないと言う言い回しは一切通用しない
原理からして通用しないから個人レベルの感覚の相違ではない

これはクモリの度合いの多少は確かに個人の主観/感覚により異なる要素と言えるので「そう見えた/感じた」と出品者に言われてしまえばどうにもその先にクレームを進められませんが逆に「バルサム切れ」だけは事実として「反射面が増えているので影響が必ず出る」と言えるワケです。

逆に言うなら「バルサム剤/接着剤」で2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着することで「反射面数を減じている」のであって、それが剥離したら反斜面が増える原理は誰が何と言おうとも「道理」なのです。

従って光学系内の「クモリの度合い/面積」を把握することは非常に重要ですし、光学系構成を知って「バルサム切れ」をチェックする事も非常に重要です。何故なら、それらクモリはまず間違いなく清掃で除去できません

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:9点
後群内:18点、目立つ点キズ:13点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い6ミリ長が1本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環やプレビューボタン共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・特にマウント部周辺の擦りキズなどが多めで既に着色しています。

↑このGutta Perchaモデルのテッサーは前回の扱いが4年前なので、意外と時間が開いてしまいました。下手するとこの距離環のローレット (滑り止め) が欠けて欠落していたりするので、要注意です (何故ならその欠けた箇所からさらに欠落が広がるから敬遠したほうが無難)。

今回の個体はマウント部のカバーに少々経年並みの擦れやハガレがありますが、他はとんでもなくキレイです(笑) 「中庸的な鋭さのピント面」を是非とも味わってみて下さいませ。

ちなみに今回の出品個体は、その製造番号から1964年に生産された個体と推測できます。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」て撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」の撮影です。「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。