◎ PORST (ポルスト) COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.2《後期型》(PK)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
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(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


当初オーバーホール/修理のご依頼を頂いた際は当方が勘違いしていて、てっきり富岡光学製OEMモデルのPORST製品だとばかり思い込んでいました。

しかし届いた現物を手にすると「最短撮影距離が60cmになっている」事に気がつきました。本来富岡光学製OEMモデルの「55mm/f1.2」シリーズは、すべて「最短撮影距離50cm」ですから、今回のモデルは「コシナ製」と言うことになります。

ところが「コシナ製」ならば「最短撮影距離60cm」であると同時にフィルター枠のサイズが「⌀58mm」のはずなのですが、今回の個体は「⌀55mm」です (ちなみに富岡光学製のOEMモデルが⌀55mm)。

「・・・???」

もちろんマウントは「PKマウント」ですから「コシナ製」である可能性が非常に高いのですがフィルター枠径が違うと必然的に光学系の設計が変わってくるので辻褄が合いません。

「・・・・・・???」

とにかくバラしてみれば富岡光学製なのかコシナ製なのかは、その内部構造や構成パーツからみて明白になりますが、このブログでの解説としては一応当時の富岡光学とPORST、或いはコシナを取り巻く背景をチェックしていきます。

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1960年代後半になると、海外輸出モデルまで含めたこの当時富岡光学が供給していたOEM
モデルは数多く存在し、特に焦点距離:55mm/開放f値:f1.2モデルならばレンズ銘板に
TOMIOKA」銘を伴うダブルネームモデルがあります。
(但しM42マウントモデル)

上に列挙したモデルは全てレンズ銘板に「TOMIOKA」銘を伴うダブルネームのモデルですが、その仕様は一様に同じになり (右記参照)、最後のヤシカ製「DS-M (右下)」モデルだけが
マルチコーティングで他はモノコーティングです。

ダブルネームモデル
レンズ銘板に発売元メーカー名の他に製造元メーカー名まで附随して表記したモデル

富岡光学は経営難から1968年にヤシカに吸収合併し、この後1970年代に入ると富岡光学はヤシカ傘下で数多くのOEMモデルの製産を主体としていきます。特に旧東ドイツのZeiss-Ikonが1971年にカメラ業界から撤退してしまうとヤシカは商機と見なしカメラ事業の提携に漕ぎ着け、1975年には一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAX RTS」の
発売に至ります。

同時にオプション交換レンズ群も全て富岡光学による設計/製産のもと、CARL ZEISSブランドの製品を数多く手掛けていますし、もちろんヤシカ製品の一眼レフ (フィルム) カメラ用としてオプション交換レンズ群も富岡光学製になります (YASHICA LENS MLシリーズなどのC/Yマウントモデル)。

まずは日本国内の状況として1960年代〜1970年代あたりの富岡光学とヤシカを取り巻く環境をチェックしておきます。

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一方「PORST (ポルスト)」はレンズやフィルムカメラなど光学製品に対するブランド銘で、会社は1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって旧ドイツのバイエルン州ニュルンベルク市で創業した「PHOTO PORST」になり光学製品専門の通信販売会社です。

PORSTは旧東ドイツの会社だとよく間違われますが、そもそもバイエルン州は東西ドイツ分断時期に於いてアメリカ統治領だったので旧西ドイツになり、別に存在する「Porst市」とは違います。

ブランド銘としては当初1930年〜1950年代にかけては、自身の名前の頭文字を採って「HAPO」ブランドを展開していました。
その後「PORST」になりますが、自社での開発や製造を一切せずにすべての商品を光学メーカーのOEM供給に頼っていた通販専門商社になります(最後期にはcarenaはブランドも追加されている)。
(左写真は1960年当時の500世帯分の従業員社宅も含めた本社屋)

大戦により社屋も含め全て破壊されましたが、幸運なことに13万人もの顧客台帳が焼け跡から回収でき、それを基に戦後PORSTの再建をします。1960年には長男のHannsheinz Porst氏に会社を譲渡し最盛期を迎えます。

この時に「carena (カリーナ)」ブランドが商標登録されています (carenaはHanns Porst氏の末娘の名前/会計事務所を創設)。しかしHannsheinz Porst氏は1964年に脱税容疑で逮捕され1,860万円の追徴課税と共に罰金490万円を払い釈放されました。さらに1968年にはスパイ容疑をかけられ有罪になり実刑となりました。2年9カ月服役し釈放されましたが既に会社の勢いは失せており、1978年に社長を退任します。その後従業員の為に用意した500世帯分の社宅も含め、1981年から会社の売却を試みますが失敗します (翌年1982年に社長復帰)。

なお、carenaブランド銘についてはドイツ語サイトの「こちらのページ」にモデル一覧があるので信憑性が高いです。

1996年にはベルギーの投資会社に買収されますが2002年に倒産しPixelnetを経てRingfotoに商標権が移譲されました。

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すると特に1970年代後半辺りから、PORSTと富岡光学の関係は希薄になっていく事が予測できます (おそらく富岡光学はOEM生産に余裕が無くなっている時期ではないかと推察)。つまり1970年代後半〜ヤシカが倒産して京セラに吸収合併する1983年までの間、富岡光学は単発で造りきりの海外向けOEM製品よりも、国内で継続的にOEM生産が続けられる方向へとシフト
していた事が覗えます。

従ってこの間隙を縫ってすかさず海外向けOEMモデルの契約を取ったのがコシナだったのではないでしょうか。それはコシナの沿革を調べていくと見えてきます。1960年代はまだフィルムカメラの製産工場設備が主体であり、一眼レフ (フィルム) カメラ用オプション交換レンズ群の光学設計/開発、及びその光学硝子の精製/製産設備は一切整っていませんでした。それは1970年代に入ってもCCTV/TVカメラ用レンズ群の製産にシフトしていたので、本格的にオールドレンズ用の光学系を製産できる体制が整ったのは富岡光学に比べると遙かに遅い1970年代後半辺りからだと推察します。

どうしてそのような考察に至るのかと言えば、実は今回のモデルの描写を見ていて、別のあるモデルを思い浮かべたからです。右写真は「AUTO-ALPA 50mm/f1.7 MULTI-COATED」ですが、この写り方に近いと感じたからに他なりません。

まだこのモデルをバラしていないので何とも結論できませんが、ピント面の被写界深度が異常に薄く (狭く)、さらにアウトフォーカス部の滲み方が極端なので「独特な滲み方をする」特徴がありますが、この描写性は富岡光学製OEMモデルの写り方とは相容れません。それは富岡光学製OEMモデルのほうは、まだアウトフォーカス部の滲み方に均整が摂れた「意図的に制御している兆候」を感じ取れるからです。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て単なる背景ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、光学系が拡張ウルトロン型にも拘わらず (本来円形ボケは苦手なハズなのに) そこそこ頑張って表出できているところが凄いです。

二段目
左側2枚の収差ボケの酷さ (汚さ) と右側2枚のトロトロボケとを対比させているワケですが、いきなりトロトロにボケる前のこの間の実写がほとんど見つからなかったことから、おそらくアウトフォーカス部の滲み方が極端なのではないかと考えています。これは光学系の収差改善度合いに於いて制御し切れていないように感じます。

三段目
ここでもその兆候を感じ取ってしまうのですが、左側2枚のとてもリアルな現場写真に反して被写界深度が異常に浅い (狭い) のでリアルさを維持できていません。おそらくこの間の滲み方で写真を撮るには相当な撮影スキルが必要なのではないかと推測します (だから実写が少ない)。

光学系はネット上を検索するとヒットするのは右の構成図ばかりですが
5群7枚の後群側をバラして1枚増やしてしまった拡張ウルトロン型構成です。

ヤシカ製の「MLシリーズ」などがこの構成図に当てはまります。

一方、今回のモデルも同じく5群7枚の拡張ウルトロン型構成ですが、
もちろん第1群 (前玉) からしてその厚みも曲率もすべてが異なります。

特徴的なのは第2群〜第3群の格納方法で、光学硝子レンズ格納筒に
セットする際、第3群の突き上げにより第2群が固定されています。

また同様に後群側の第5群も落とし込みだけなので、これら2箇所には「締付環」が存在しません。

実は今回バラす前の実写チェックで、このモデルの扱いが初めてだとしても「ちょっと甘くない?」と感じる印象でしたが、バラしてみると過去メンテナンス時に第3群の締付環と第6群 (後玉) の締付環の締め付けが甘かった事が因果関係になっていました。

別の言い方をすれば、富岡光学製オールドレンズの多くのモデルの中で、このような (似たような) 光学硝子レンズ格納方法を採っているモデルが一つもありません。突き上げや落とし込みなどの格納方法は光路長誤差を生みやすいので、例えば1950年代〜1960年代に於ける多くの光学メーカーで見られる設計諸元図での誤差許容値「±0.02mm」などは、アッと言う間に狂ってしまいます (ロシアンレンズに多い格納方法とも言える)。

そのような印象があったので注意深くバラしていった次第です。

なお、このモデルのバリエーションとしてはフィルター枠径が異なりますが2つのモデルが有名です (左写真)。

いずれも「フィルター枠径⌀58mm」で (互いにOEMモデル)、光学系の設計が今回のモデルとは違うと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

バラしてみれば一目瞭然で、富岡光学製ではない「コシナ製」である事が明白です。

実は当方は「コシナ製」のオールドレンズを一切扱わない事に決めているのですが、今回は
自らのミスで勘違いしてオーバーホール/修理をお受けしたので自業自得です(笑)

今回オーバーホールしてみて「やはりコシナ製はやらない」と決意を新たにしました(笑)

例えば、富岡光学製オールドレンズに多く見られる一つの傾向として「意味不明な設計」というのがあります。これは内部のある部位の構造 (構成パーツ) として、ワザワザ微調整が必要になるような設計にしてしまったので、結果的に工程数が増えてしまいムダな人件費と時間を浪費していた事から、当方がそのように表現している一例です。

ところが「コシナ製」の場合は、それを通り越して「不条理な設計」と当方では捉えています。富岡光学の場合は、意味を成さない必要が無い設計だとしても、その部位の構造的な問題から設計者が拘っていたのが分かる話なのですが、コシナの場合は設計の意図が全く以て汲み取れません。

後先考えずに「ただそのように設計してしまっただけ」のような設計なので、コシナ製オールドレンズは必ず「組み立て手順を熟考する」必要があります。逆に言うなら、富岡光学製オールドレンズは組み立て手順を間違えてチグハグになったとしても、少々微調整が面倒になるもののちゃんと最後まで組み立てられますが、コシナ製オールドレンズは組み立て手順をミスると全く組み上げられません。

以前コシナサービスにどうしてそのような設計を採っているのか確認したことがあるのですがフィルムカメラ側の設計の問題一点張りで聞く耳を持ちません(笑) フィルムカメラ側の設計が問題だったとしても、オールドレンズ側の設計はどうにでもイジれるハズですから道理に適いません。

何故にオールドレンズ側の設計の拙さまでフィルムカメラ側の設計の問題にするのか、当方としては全く以て納得できませんね。

今回のモデルも組み立て手順をミスると何度もバラして戻らなければならず、誠に腹立たしい限りです(笑)

・・と言うか、以前コシナ製モデルをいろいろやっていて大変な目にあったので、今回は最初から「組み立て手順を考えながらバラしていった」のでまだ楽なほうでした(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、ヘリコイド (オス側) を兼ねています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。何ら問題なく簡単にセットできているように見えてしまいますが、実は一般的な普通のオールドレンズと同じようにセットしようとすると、後で飛んでもないハメに陥ります (おそらくここの工程が原因だとは気がつかずに不具合に陥る)。

その不具合とは「絞り羽根の開閉異常」です。同時に今回の個体で言えば、当初バラす前のチェック時点で「開放時に一部の絞り羽根が極僅かに顔出ししている」状況でした。おそらく過去メンテナンス時の整備者が、このモデルの絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整の方法を気がつかなかったのだと思います。

ちゃんと「観察と考察」をすれば気がつくのですが、単にバラした時の手順のまま組み立てていこうとすると気がつくことができません(笑) まッ過去メンテナンス時の整備者はそんなレベルです(笑)

・・という事で、ここの工程を正しい微調整でクリアできるか否かが一つ目のポイントです。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側、つまり後玉側方向から撮影しています。

開閉アーム
この板状パーツが操作されることで絞り羽根が瞬時に勢い良く開く

制御環
途中に「なだらかなカーブ」を附随する絞り羽根の開閉角度を制御する環 (リング/輪っか)

連係ガイド
絞り環との連係をする「連係環」からのアームが入るガイド

カム
なだらかなカーブ」に突き当たることでその時の勾配により絞り羽根の開閉角度が決まる

制御環の途中には「なだらかなカーブ」が用意されていて、その麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登りつめた頂上部分が開放側になります (ブルーの矢印)。

するとこのモデルはマウント種別が「PKマウント」ですから、絞り羽根はスプリングによって「常に閉じようとするチカラ」が及んでいます。逆に言えばマウント面から飛び出ている「絞り連動レバー」の操作によって勢い良く絞り羽根が開く動作をする必要があるワケですね。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

この基台が「コシナ製」を示す「」なのですが、鋳型方式で鋳造された後に必要な切削を施す方式を採っています (富岡光学製オールドレンズには一切存在しない方式)。

↑ヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑前の工程でいとも簡単に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込んだように見えていますが(笑)実はこの工程も飛んでもないトリックが隠されているので、それに気がつかないとなかなか上手くセットできません。

上の写真はそれを解説していますが「制御環」が填ってしまっていると、その直下に「直進キー」をセットする必要があるので、必然的に「組み立て手順」が重要になってきます。ブルーの矢印で前述の「なだらかなカーブ」を指し示していますが、そこにカムが突き当たることで絞り羽根の開閉角度が決まっています。

すると「制御環」を外してしまったらどうなるのか・・???

これをちゃんと知っていないと絞り羽根にキズが付きます。何故ならスプリングのチカラで相応に強くガシッと絞り羽根を閉じようとしますから、互いが咬み合ってしまいキズになります (噛んだ箇所が凹む)。

つまり「直進キーのセット」それに「制御環のセット」最終的にはヘリコイド (オス側) の組み込み位置との関係まで含めて「整合性が取れた設計をしていない」のが問題なのです。もっと言えばここでセットする「制御環」の位置を確定させる目的の「締付環」さえ用意されていません(笑) 富岡光学製オールドレンズには必ず薄い真鍮 (黄鋼) 製の「C型環」が備わっていますが、何とこの「コシナ製」モデルでは締付環が無いのです。

すると「制御環」は絞り環と連係して動くのでフリーのままでは位置がズレてしまいます。結局締め付け固定の役目を代用しているのが実は光学系後群だったワケです(笑) それ故先にここの工程で光学系後群をセットする必要が発生します。

例えば「サービスマニュアル」が手元にあって組み立て手順を知っているなら何ら問題になりませんが、何も知らない中で組み立てていこうとすると「原理原則」に則っているかどうかがポイントになってきますが、残念ながら「コシナ製」オールドレンズは「原理原則」が通用しません(笑)

それほど行き当たりばったりの設計をしているので、組み立て手順を知らないと何度もバラすハメに陥りますし、正しい微調整もできません。

↑後からセットすると硬締めできなくなるので、ここで先に光学系後群をセットします。過去メンテナンス時には、そのことに気がつかずにおそらく最後になって光学系後群側を組み付けたのだと思います (だから指だけで簡単に回せてしまった)。

と言うのも、この後群側に前述のとおり「締付環」が後玉用の1個しか無いので、硬締めがキッチリできない問題を含んでいます (だから先にここで硬締めしてしまう)。前述の「制御環」の締め付け固定の役目も代用していますね。

↑マウント面から飛び出てくる「絞り連動レバー」が附随する「絞り連動開閉環」や絞り環との連係を行う「連係環」を並べて撮影しています。グリーンの矢印で指し示した箇所に1本だけ「捻りバネ」が附随しますが、この「捻りバネ」が非常に弱いので、ここが経年劣化で弱ってしまうとやはり「絞り羽根の開閉異常」に繋がります。

↑2つの環 (リング/輪っか) を組み込みます。

↑基台の側面に金属製の「棒状ピン」が刺さり、それが絞り環の内側に用意されている「絞り値キー」と言う「」をカチカチとハマるのでクリック感が実現される仕組みです (グリーンの矢印)。

このようにこの当時の多くの光学メーカーが簡単にクリック感を実現する設計を採っていましたが、富岡光学はワザワザ微調整が必要になる「意味不明な設計」に拘り続けていました(笑)

↑絞り環をセットします。当初バラす前のチェック時点で「絞り環に僅かな上下方向のガタつきがある」状況でしたが、その因果関係も前述の「制御環」の締め付け方法が影響しており、おそらく過去メンテナンス時に「制御環」の位置が極僅かにズレていたのだと思います。それに気がつかずに光学系後群をセットしたので、経年で後群側が甘くなってしまったのではないでしょうか (最後まで硬締めされていなかったから)。

普通光学メーカーの設計として考えると、このような位置が極僅かにズレる要素は可能な限り排除した設計を執るのが常識だと当方は考えるので、ましてや光学系後群内の一部の光学硝子レンズに締付環が存在しないとなれば、なおさら光学系後群側の硬締めは重要になってきます。その時にワザワザ「制御環」の締め付け固定まで代用させる設計を執ってきたのは、はたしてそこまで合理化したかったのか考えてしまいます。

と言うのも、前述の「直進キー」のセットが後からできない問題があるので、もしも仮に合理化したかったのだとすればその話のせいで辻褄が合いません。

これらの問題点を上手く回避しつつ設計しようとするなら、むしろ鏡筒にヘリコイド (オス側) のネジ込みを用意せずに、ヘリコイド (オス側) を単独で分離させて、その中に鏡筒を後から落とし込む方法にすれば「直進キー」のセットと鏡筒との関係がスマートになりますし、この時同時に光学系後群側の硬締めもちゃんとできるようになります。

今までに何本もコシナ製オールドレンズをバラしてオーバーホールしましたが、凡そほとんどのモデルで「不条理な設計」に頭を悩ませる結果になりました (つまり組み立て手順が非常に重要)。

例えば旧西ドイツ製オールドレンズも多くのモデルで組み立て手順が重要になってきますが、それでも決して不条理な要素は存在せず、単に慣例や細かく微調整したかっただけの話で設計していただけですから、数多くのオールドレンズをバラしてきた当方としては、どうしても「コシナ製」モデルだけはその設計が今でも納得できませんね(笑)

以前、コンタックスSマウントのコシナ製品をオーバーホールしましたが、その際にヘリコイド (オスメス) のネジ山が「たったの3列」しか用意されておらず、ご依頼者様が「トルクを重くしてほしい/トルクを与えてほしい」とのご希望でした。裏を返せばそれほどスルスル/スカスカのトルクでしか組み上げられないのだと言う話です。他の整備会社に依頼しても状況が変わらないまま戻ってきたとの事で、当方宛ご依頼が来たワケです。

その時にもコシナサービスに電話しましたが (重くするのに必要なグリースの粘性を教えてほしかった)、やはりフィルムカメラ側の設計の問題を理由にしていたので、頭に来て「では何で3列しかネジ山を用意しなかったのか」を問い正したことがあります (もちろん理由を述べる
わけがありませんが)。当方がネジ山数をズバリ言い切った事にコシナサービスの電話口の人はさすがに動揺を隠せない感じでしたが(笑)、例えばネジ山のネジ切りピッチを細かくしてネジ山数を増やしてあげれば必然的にトルクが重くなってきます。何故にフィルムカメラ側の問題点と結びつけて返答するのかキレたことがありますね(笑)

↑マウント部を組み付けたところです。ここでまた一つ問題が起きますが、ヘリコイド (オスメス) も絞り環も、ともに軽い操作性でスムーズに駆動しているのですが、このマウント部を締付ネジで締め付け固定すると、途端にヘリコイドのトルクが重くなります。

↑距離環を仮止めしている状態ですが、前述のとおりマウント部をキッチリ締め付けるとこの距離環を回すトルクが重くなります。かと言ってマウント部の締付ネジを半締めにするなど以ての外です。キッチリ最後まで締め付けて、且つヘリコイドのトルクも相応に軽めに仕上げなければイケマセン。

過去メンテナンス時には「白色系グリース」で相当軽めの粘性を塗布されていたようなので、当初バラす前の時点でスカスカのトルク感に陥っていました。

この後は光学系前群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑まさか「コシナ製」オールドレンズをオーバーホールするとは思いもしませんでしたが(笑)、良い勉強になりました。バラす前の段階から「コシナ製」と疑って掛かったので、むしろ注意深く組み立て工程を考察しながらバラせたのが功を奏した感じです。おそらくこのモデルとしては最大限に良い状態で微調整も完了して仕上がっていると思います。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体ですが、極微細な点キズが各群にそのまま数点残っています。但しLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑こちらの光学系後群側が問題で、おそらく過去メンテナンス時に整備した人はこの後群側を完全解体できていないと思います。その為第4群貼り合わせレンズの表面側と、第5群の裏側に経年の揮発油成分が相当量頑固に附着していました。結果、その分微細な点キズも多く残っています。

↑当初バラす前の段階で「絞り羽根が極僅かに閉じすぎていた」ので、適正な開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) に微調整済です。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ正八角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性軽め超軽め」を使い分けて塗布していますが、前述のとおりマウント部をキッチリ締め付けると距離環を回すトルクが急に重くなります。それを見越して粘性をチョイスしましたが、それでも「重め」の印象です。一応全域に渡って均一なトルクで操作でき、且つピント合わせの際は極軽いチカラだけでピント合わせできるよう配慮しています。

申し訳御座いませんがこれ以上当方で用意しているグリースでは軽くできません。

この件、もしもご納得頂けないようであればご請求額より「減額申請」にてご納得頂ける分の代金を減額下さいませ。申し訳御座いません・・。

↑当初バラす前の実写チェックで「甘い印象」だったピント面も十分に納得できる鋭さに改善できています。敢えて言うなら、このモデルのピントの山は「スパッ」と瞬時に合致するので逆に言うと距離環を回すトルクが軽すぎると使い辛く感じます。それが当初バラす前の実写
チェックで「甘い印象」となれば、単に甘いだけの話ではなく「アウトフォーカス部が何だか変な滲み方をする」状況だったので、既にバラす前の時点で光学系内の何処かの光路長がズレていると察知していました。

コシナ製」なので当方ではこのモデルのオーバーホールは今回が最初で最後になります(笑) 仮にもしもまた別の方からオーバーホール/修理のご依頼が来ても、大変申し訳御座いませんがご辞退申し上げます。

発売元メーカーは「PORST」ですが、内部は「コシナ製」なので当方では扱いません。従って冒頭のフィルター枠径:⌀58mmのコシナ製やREVUENONも当方では扱いませんし、もっと
言えばALPA-MACROもやりません。コシナ製は完全にシャットアウトです(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

ピンボケ写真にしか見えませんが(笑)、実は撮影時にはちゃんとヘッドライト内部の電球の球にはちゃんとピントが合っています (それほど開放時の被写界深度が浅い/狭い)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮っています。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」に変わっています。極僅かですが「回折現象」の影響が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。