◎ PORST (ポルスト) COLOR REFLEX MCM 55mm/f1.7 F《富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはPORST製標準レンズ『COLOR REFLEX MCM 55mm/f1.7 F  MULTI COATED LENS  MACRO
《富岡光学製》
(M42)』です。


2016年に初めてこのモデルのオーバーホール/修理を承ってから探し始め、ついに2年掛かりで調達が適いました!

CHINON製モデルのほうは2017年に初めてオーバーホール済でヤフオク! 出品していますがPORST製の出品は今回が初めてになります。4年前からこのモデルの原型たる富岡光学製OEMモデル「55mm/f1.7」を扱っていますが光学性能の素性の良さに改めて感心した次第です。

原型モデルの標準レンズ「55mm/f1.7」は様々な海外ブランド銘で複数OEMモデル化されて当時旧西ドイツやアメリカ向けに輸出されていましたが、いずれも光学設計は同一で最短撮影距離50cmの5群6枚ウルトロン型構成です (筐体意匠の相違だけで内部構造や構成パーツは100%同一)。

仮に純粋にこの原型モデルを今回の出品モデルと同じ「最短撮影距離28cm」までエクステンションチューブなどを駆使して延ばしたとしても同じ描写性能には至りません。つまりネット上では今回のモデルの光学系が原型モデルと同一で単にヘリコイドを延伸しただけと案内されていますが、それは単なる思い込みです (そんな簡単な話ではない)。
何故なら同一光学系を実装したままでは各焦点距離でのピント面以外の諸収差改善は難しいからです。準マクロレンズなのだとしてもモデル銘に「MACRO」を謳う以上、光学系の再設計が成されておりマルチコーティング化の必要性にも至ったのだと容易に考えられます (マルチコーティング化により解像度の向上のみならず諸収差の改善にも寄与するから)。

その意味でこの当時一時的に流行った (日本の光学メーカーが挙って流行らせようとした) 最短撮影距離を短縮化させて疑似的なマクロレンズとして設計した準マクロレンズは、当時の光学メーカーにとっては新たな領域、或いは低価格志向化への流れを変化される期待値をも含んで編み出された戦略だったように感じます。

従って短縮化された時の光学性能の違い (モデル本来の諸元値を満たさないこと) を承知ならば今ならヘリコイドアダプタなどを使って最短撮影距離を短縮化させて使うのもまた異なる写真を愉しめるオールドレンズ使いとしての醍醐味を味わうことに繋がります。

まさに今回のモデルがその相違 (単に最短撮影距離を短くしただけではないこと) を知らしめてくれる一助となったことをここに申し添えておきたいと思います。その意味で当方にとって非常に新鮮味が大きい発見だったのが2016年のオーバーホール/修理ご依頼だったのを懐かしく思い出しますね・・。

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PORST (ポルスト)」はレンズやフィルムカメラなど光学製品に対するブランド銘で、会社は1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって旧ドイツのバイエルン州ニュルンベルク市で創業した「PHOTO PORST」であり光学製品専門の通信販売会社です。
PORSTは旧東ドイツの会社だとよく間違われていますがそもそもバイエルン州は東西ドイツ分断時期に於いてアメリカ統治領だったので、旧西ドイツになり別に存在する「Porst市」とは違います。

ブランド銘としては当初1930年〜1950年代にかけては、自身の名前の頭文字を採って「HAPO」ブランドを展開していました。その後「PORST」になりますが、自社での開発や製造を一切せずにすべての商品を光学メーカーのOEM供給に頼っていた通販専門会社 (商社) になります。1996年にはベルギーの投資会社に買収されますが2002年に倒産しPixelnetを経てRingfotoに商標権が移譲されました。

今回出品モデル『COLOR REFLEX MCM 55mm/f1.7 F  MULTI COATED LENS  MACRO
《富岡光学製》
(M42)』を語る時、必ず出てくるのが焦点距離「50mm」のスイスALPA製AUTO-MACROやKern AARAU製MACRO-SWITARなどです。

 本家の純然たるモデルのほうではなく最後期に「MADE IN JAPAN」で登場してきたモデルのほうですね(笑)

AUTO-ALPA MACROやMACRO-SWITARなどの各モデルからすれば「まがいモノ」なのですが(笑)、逆に考えれば日本の光学メーカーに頼らざるを得ないほど逼迫した状況だったとも言えます。

そうは言ってもさすがにこれらのモデルが海外オークションebayで70万円もの価格を付けて流れているのを見ると笑ってしまいます(笑) 表沙汰CHINONからのOEM供給モデルなのですがどうも調べると当時のCHINONでは内製できるほどの工場設備と光学技術がまだ完成していなかったようなので (8mmの衰退により工場設備更新の余裕は既にない) コシナ製ではないかと踏んでいます。もちろんこれらのモデルは決して富岡光学製ではありません (内部構造と構成パーツの相違から断言できます)

するとこれらモデルの準マクロ域での描写性能に関して酷評を得ているのも納得できます。開放f値が同じ「f1.7」ですが被写界深度は今回のモデルよりもさらに狭く諸収差の改善が成されないままマルチコーティング化だけで発売されています。当時の富岡光学とコシナを比較した時、現在のコシナと同じレベルの光学技術には一切至っておらず当時は富岡光学には全く適わないレベルだったとみています。

CH5017(0315)1当方では2016年にオーバーホール/修理ご依頼分で扱っておりCHINON製準マクロレンズ「CHINON 50mm/f1.7 MACRO multi coated (M42)」があります。焦点距離「50mm」なので最短撮影距離は27cmに短縮化されており1/3倍撮影が可能な準マクロレンズです。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「シャボン玉ボケ・リングボケ・背景ボケ①・背景ボケ②」で、下段左端に移って「被写界深度・マクロ域・発色性・ゴースト」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

これらのピックアップ写真を見ると一目瞭然ですが描写性能が異なりALPAやKern AARAUの「モドキ」とは全く異質なのがお分かり頂けると思います。むしろこちらのモデルのほうが端正な光学性能をちゃんと成しているようにさえ見えてしまいます・・。

光学系は原型モデルと同じ5群6枚拡張ダブルガウス型構成で富岡光学製オールドレンズとしての描写特性をちゃんと備えています。被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に長けており被写界深度が狭いながらもちゃんと鋭いピント面を構成し繊細なエッジを伴いながらもコントラストを確保した正統派的な画造りなのがよく分かります。

それは撮影している最中から感じられることであり、ピント合わせしている時のピントの山の掴み方が前述の「モドキ」とは明らかに異なるので (ピントの山が分かり易い) 特に最短撮影距離28cmの時を比べれば単に原型モデルの光学系をそのまま実装してきたのではないことが歴然です。


↑こちらの写真は当初バラし始めた時に撮影しましたが、ご覧のように「白色系グリース」がビッチビチの状態です(笑) バラす前のチェックでは距離環を回した時のトルク感は白色系グリース独特の感触だったので既にバラす前から分かっていましたが塗布された過去メンテナンスの時期は1年〜数年内と推察できます。

↑ところが綿棒でヘリコイドのネジ山部分を拭うとこのように「濃いグレー状」になっている箇所が既に発生しています。これはヘリコイドのアルミ合金材のネジ山が摩耗してしまった「摩耗粉」が混じっているから真っ白ではないワケです。過去メンテナンス時期からまだそれ程時間が経っていないと言えるのは、ほとんどの白色系グリースが真っ白のままだからです。

↑さらにご覧のように絞りユニットの格納箇所には相当な量の揮発油成分が既に廻ってしまい、実際今回の個体はバラす前のチェック時点では「絞り羽根が開放のまま一切閉じない開閉異常の個体」だったワケです。これほどキレイに絞り羽根のカタチで揮発油成分がヒタヒタと附着している個体も珍しいですね(笑)

このモデルは最短撮影距離「28cm」の準マクロレンズですから鏡筒の繰り出し量が多く、内部のヘリコイド部は「ダブルヘリコイド方式」です。つまり「内ヘリコイドと外ヘリコイド」の2つのヘリコイドセットが互いに連係し合ってグリグリと迫り出てくるワケですが、それを見越して粘性が軽い白色系グリースを過去メンテナンス時に塗布しているので必然的に揮発油成分が発生するタイミングが早まる次第です。しかもそのような構造なので過去メンテナンス者は相当な技術スキルを有するワケでドシロウト整備では決してありません。

塗布した白色系グリースがまだ真っ白なまま (一部には濃いグレー状箇所あり) なのにこれほどの揮発油成分が発生することに「どうして懸念を抱かないのか?」平気でメンテナンスしていることに本当に腹立たしさを覚えます。一体僅か1年〜数年で絞り羽根が粘着化して固着してしまうような整備の何処にメリットがあるのでしょうか?(怒)

↑そして当方の怒りが頂点に達した極めつけが上の写真です。今回の個体は海外オークションebayでドイツから輸入したのですが、バラしてみれば光学系後群に「スミヌリ不良」等と鉛筆書きされています。つまりドイツに渡ったのはつい最近だったワケで出品者が最近手に入れたが好みではなかったと記載していたのも距離環を回すトルク感から何となく察しが着きます。日本の整備会社で整備された個体がドイツに渡って再び帰国したと言う経緯だったようです。

スミヌリ不良」とのことなのでてっきり光学系硝子レンズのコバ端着色を指しているのかと考えましたが、硝子レンズをチェックしてみても最近着色した形跡がありませんしそもそも製産時キレイに処置されています。はたしていったい何処の墨塗りなのでしょうか?

調べたら何のことはなく「絞り環の内側」が黒色着色されていました。さすがにこれにはオドロキました。絞り環の内側は外には一切露出しませんし、そもそもグリースが塗られる箇所なので黒色着色する意味が分かりません(笑) いったい何の目的で塗らなければイケナイのか皆目見当着きません。おかげで着色されている黒色塗料を溶剤で落とす作業が生じてしまいエライ目にあいました (容易に溶けないくらい本格的に着色している)。逆に言えば製産時には必ず「焼付塗装」しているので溶剤如きで塗膜が溶けたりしません (だから後に着色したとすぐに判明する)。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。それこそ至る処に白色系グリースが塗布されており、使っているネジ類の全てにまで固着剤がビッチリ付けられていて完璧に整備会社の仕業であり、しかも相当年季が入った整備者です。いまだにこんな整備を続けているとは本当に哀しい現実です。当方でさえ1年〜4年経過した自らオーバーホールした個体を回収してチェックしているのにそんなことはしないのでしょうか?

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

↑原型モデルと全く同一仕様の絞り羽根6枚を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。ご覧のように鏡筒の両サイドに「直進キー」がセットされます (赤色矢印)。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツでありこんな小さな直進キーを使っているのが意外です。

今回の個体はバラしたところ過去メンテナンス時に直進キー (2本) の片方が逆付けされており (向きがある) 適正ではありませんでした。おそらく「∞」位置まで距離環を回した時に直進キーの端が当たっていたと推察できるので、その結果絞り環操作に何かしら影響が出て「黒色着色」したようです。「不良」と言うコトバを使う意味が分かりません。自分の整備ミスなのに何処が不良なのか?

ヤフオク! の有名な出品者の掲載文を見ていても「単焦点のオールドレンズは構造が簡単だから過去に必ず整備されている」などと言い切っていますが、自分でメンテナンスしない人間ほどそのような表現をします(笑) 確かにズームレンズや今ドキのデジタルなレンズと比べれば比較にもならないほど簡単な構造ですが、だからと言って整備できることとはイコールの話にはなりません。

使われているパーツやネジに至るまでちゃんと「観察と考察」をしているのか否かがこう言う場合に問われるのであって、一見すると対象型のように見える直進キーもよ〜く観察すればネジ止め箇所に相違があることに気がつきます。もっと言えばどうして「皿ネジ」なのかまで理解できていなければ本当に適正な整備などできません。自ら整備したことがない人間に限ってメンテナンス作業そのモノを貶めた言い方をします。

↑ヘリコイドは「ダブルヘリコイド方式」なので上の解説のとおり「内外ヘリコイド」が互いに連係し合って鏡筒の繰り出し/収納をしています。もちろんそれぞれのヘリコイドネジ山には正しいネジ込み位置は一つしか存在しないので全てのネジ込みがピタリと一致しない限り適正な無限遠位置に至りません。

もっと言えば、最後までネジ込むと切削時の誤差相殺が困難になる為に必ず僅かなマチが用意されています。つまり各ヘリコイドのネジ込み位置は最後までネジ込まない前提でネジ込むことを考慮しつつ適正なポジショニングでセットする必要があるワケで、ダブルヘリコイド方式の難度は相応に高くなります。さらに距離環を回した時のチカラの伝達によって繰り出し/収納が成されるワケですから必然的にトルクが重くなればマクロレンズと言えども使いにくくて仕方ありません(笑) 軽い操作性で仕上げようするなら自ずと相当な技術スキルが要求されるのがダブルヘリコイド方式の常です。

↑ここの設計から今回のモデルの筐体サイズが「内外のダブルヘリコイド方式」を採ったことで横方向に膨れてしまった為に、それをできるだけ増やしたくなかったことが判明します。無限遠位置の調整機能を距離環側に付加せずここでやっているからです。逆に言えば無限遠位置の調整をしたければここまでバラさなければイケナイので相当面倒な構造です。

制限環」と言うのは距離環が回る範囲を決めているパーツなのでこの「制限環」の位置調整することで無限遠位置を最終的にコントロールしています。

↑基準ヘリコイドと外ヘリコイドを組み付けて距離環用ベース環までセットしたところです (まだ内ヘリコイドが入っていません)。

↑内ヘリコイドがセットされて初めて内外ヘリコイドの2つが適正な無限遠位置でネジ込まれたことになります。当初バラした時は前述の「制限環」位置が極僅かにズレていたので工場出荷時の位置で再調整しました。つまり過去メンテナンス者は「原理原則」が完璧に理解できていない人だと言えます(笑)

↑こちらはマウント部内部の写真ですが各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。経年の揮発油成分のせいで一部パーツに赤サビが出ていました。

↑外していた各連動系・連係系パーツも「磨き研磨」を施してセットします。上の写真 (2枚) は、鏡筒内の絞りユニットに連結する「開閉アーム」がズズ〜ッと伸びていく様を撮影しました (グリーンの矢印)。

つまりマウント面の絞り連動ピンの押し込み動作に連係してその「絞り連動ピンが押し込まれた量の分だけ開閉アームが移動する」且つそのチカラがそのまま抵抗/負荷/摩擦なく伝達される必要があるワケで、このグリーンの矢印の「筒状アームの滑らかさ」が大変重要であることに気がつかなければイケマセン (もちろん軸まで含めて磨き研磨しています)。

↑完成したマウント部をセットします。

↑この状態で距離環が回るとご覧のように赤色矢印の「開閉アーム」が伸びているのが分かりますね。結局、過去メンテナンス時にはどうやら「絞り羽根の開閉異常」が発生していて、それを改善させる為にいろいろ処置したのが判りますが、今回のオーバーホールでは何ら処置せずとも製産時の組み立て手順のまま難なく組み上げが進んでいます。要は異常が発生していた場合の「原因究明」がシッカリできていないからで何処かのパーツをイジることで単にごまかして「常套手段」で済ませていた過去メンテナンスだったのが一目瞭然です(笑) おそらくこの年季が入っている整備者はず〜ッと同じような整備を続けているのでしょう。整備と言う行為に対して根本からして間違っています。

↑今回のオーバーホールでは製産時点と同じ種別である「黄褐色系グリース粘性軽め」を塗布して組み上げましたから、極僅かにチカラだけでズズ〜ッと上の写真のようにヘリコイドが延伸していきます (グリーンの矢印)。当初のビッチビチに塗られていた白色系グリースの量からすれば如何に微量なのかがお分かり頂けるのではないでしょうか(笑)

この前当方のファンの方からご質問頂きましたが、当方のオーバーホール工程写真でヘリコイドを写している場合は全てグリースを塗布した状態で撮っています。グリースを塗らずにヘリコイド (オスメス) をネジ込むと下手すれば「ネジ山のカジリ付」に至るので恐ろしいことになります (カジリ付いたらもう外れない)。

何が言いたいのか? 塗布しているヘリコイドグリースの量は本当に微量なのですが、それでも1年〜4年の時間経過で揮発油成分も発生せずちゃんと当初オーバーホールした時のまま粘性を維持していることを確認済だからです。5年〜7年経過分はまだ回収できていませんが4年経過の個体で全く揮発油成分が生じていないので5〜6年経っても問題無いと推測しています (一応グリース調達時に専門会社の人に10年くらい維持できる種別と粘性を聞いているので)。その際白色系グリースではアルミ合金材に対応できない場合もあると聞いているので、どうして流行ってしまったのか不思議でなりません。

↑無限遠位置が適正にセットできたので (光学硝子レンズを一度入れ込んでチェックしている) 指標値環を組み付けてしまいます。

↑ベアリングを組み付けてから絞り環をセットします。

↑自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の「スイッチ環」をセットします。

↑最後にマウント面の「飾り環」を横方向からイモネジ (3本) で締め付け固定します (赤色矢印)。M42マウントのモデルでこのようにイモネジ (3本) を使って「横方向からの締め付け固定」を採り続けていた会社が富岡光学になり他社光学メーカーには存在しませんから今回のモデルが「富岡光学製と言える証」でもあります。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けます。距離環を固定する場所はイモネジ固定なのでいくらでも変更できるので下手するとここで無限遠位置を調整できると考えてしまいますが、実は前出の「制限環」の固定位置が変わらないので距離環の位置をズラしても「∞」刻印位置がズレるだけで調整にはなりません。「観察と考察」をキッチリ行うことで内部構造から見た組み立て工程と手順、プラス調整箇所とその具体的な調整度合いまでが判明するワケです。

↑上の写真は光学系前群側を撮っていますが、ご覧のように一部が切削されており「開閉アーム」を避けているのが判りますから相当苦心した設計だったのではないでしょうか・・。逆に言えば光学性能を妥協せず最優先で考えていたことの「」でもありますね。

この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑探し始めてから2年の時間はちょっと長すぎたですねぇ〜(笑)

富岡光学製オールドレンズは残念ながら光学硝子材の成分の問題からカビの発生率が高く、同時にコーティング層の経年劣化もそろそろ限界に到達している為に極薄いクモリなどが生じている固体が多く調達には神経を遣います。

特に今回のモデルは原型モデル同様「無限遠位置の時に後玉が出っ張る」ため後玉中心付近に当てキズが付いていることが多いのでその心配もあります。

今回の個体はハッキリ言って「これでもかと言うくらい光学系内の状態が良い」個体であり2年探した甲斐があったと言うものです(笑)

↑光学系内に経年劣化に拠る極微細な点キズは複数残っていますが恐ろしいほど透明度が高い状態を維持した個体です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も極微細な点キズなどはありますが透明度はオドロキの状態です。もちろん後玉中心付近に当てキズもありません (上の写真の白っぽいのは撮影時のミニスタジオの影です)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:5点
後群内:18点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり (後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑過去メンテナンス時に発生していたであろう絞り羽根の開閉異常も全く無く(笑)、今回のオーバーホールがキッチリ仕上がっているので確実な動作で絞り羽根が開閉しています。もちろん自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の設定もA/Mいずれでも適正ですからフィルムカメラでも問題無くご使用頂けます。マウントアダプタ経由装着時とフィルムカメラ使用時の両方で絞り羽根の挙動など確認済です。

ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります (僅かなゴリゴリ感)。
・絞り環操作は確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作が

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

ハッキリ言って期待どおりの仕上がりです。距離環を回すトルク感はシットリ感漂う操作性で準マクロレンズとしてのトルク感に充分応えられる「操作し易い軽さ」に仕上がりました。

それは開放f値「f1.7」と言う驚異的な明るさを活用して最短撮影距離「28cm」で思う存分近接撮影して頂くことを考えれば必須条件であり、特にピントの山がアッと言う間であることから「軽すぎは却って使い辛い」ことにもなります。その辺の「本当に使う時のトルク感」を充分考慮して黄褐色系グリースの粘性を考えましたから当初バラす前の白色系グリース (粘性:軽め) のトルク感と比べたらウソのような違いです(笑)

そう言いながら、実は仕上がった今回の出品個体の距離環を何度も回してそのシットリした操作感を愉しんでしまいました(笑) 当方にとってはそれ程の期待値そのままの仕上がりです!

以下の実写をご覧頂ければ一目瞭然ですが、ALPAやKern AARAUの「モドキ」と比べてピント面の鋭さと諸収差の少なさがよ〜く分かります。海外オークションebayでは「モドキ」が70万円の価格付けで出ていますから目の玉飛び出そうですョ(笑) むしろこちらのモデルのほうが端正な写りに見えるので80万円にしても良いくらいですかね?(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離28cm (1枚目) での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。2枚目は少々離れた位置から撮影した開放実写です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。2枚目は離れた位置で撮りました。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮っています。

↑f値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。