解体新書:Carl Zeiss Jena DDR (カールツァイス・イエナ) Flektogon 35mm/f2.8 zebra(M42)写真

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます


今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの
Carl Zeiss Jena DDR製広角レンズ『Flektogon 35mm/f2.8 zebra (M42)』です。


今月最後のヤフオク! 出品になりますが、今回は『解体新書』企画として扱いました。
『解体新書』はヤフオク! 内で「オーバーホール済/整備済」などを謳って出品されている
オールドレンズをゲットし、当方で再び解体して内部の状況を調査していく企画です。
(当方の技術スキル向上のために参考にさせて頂くことを目的としています)

  ●                 

今回の個体は4月末に「分解清掃済み・撮影チェック済み」と謳って出品され落札されたオールドレンズです。整備されてから僅か3カ月半の時間が経過しているワケですが、内部はどのような整備が施されているのでしょうか?

このヤフオク! 出品者は自称「写真家 (フリーランス)」で2016年から自らオールドレンズを
バラして整備済で出品していらっしゃいます。プロのフォトグラファーですから必然的にヤフオク! 出品ページに掲載されている実写 (造花の写真) なども素晴らしい写真ばかりです。毎週15本前後のオールドレンズを出品し10本前後がその週のうちに落札されると言う超人気ぶりであり、高い信用/信頼を得ている方です。

写真家とのことですが、どう言うワケかフィルムカメラを今まで使ったことが無かったようで(笑)、最近はフィルムカメラによるオールドレンズの写りにハマッていらっしゃるようです。コントラストを浅く採ってくるライトト〜ンの描写がお好きなようで以下のモデルを毎週必ず出品していらっしゃいます。

・Flektogon 35mm/f2.8 zebra
・Pancolar 50mm/f1.8 zebra
・Primotar E 50mm/f3.5
・JUPITER-9 85mm/f2
・JUPITER-8 50mm/f2
・HELIOS-44-2 58mm/f2
・INDUSTAR-61 L/Z MC 50mm/f2.8

前回の『解体新書』でも同じ出品者のオールドレンズを扱いました (INDUSTAR-61 L/Z MC 50mm/f2.8) が、今回バラしてみると多量に塗布していたヘリコイドグリースはだいぶ少なく変わったようです(笑)

  ●                 

先ずは毎度のことですが、このモデルのことをご存知ない方や初めて当方ブログをご覧頂いた方の為にこのモデルの基本的な背景などを解説していきます。

旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaでは広角域のオールドレンズに「Flektogon (フレクトゴン)」と言う呼称を附していました。そもそも当時、1950年まではフィルムカメラの一眼レフ用広角レンズがまだ存在せず、標準レンズなどに使われていた光学系を広角域までギリギリ引っ張ってきた設計が主流でした。

しかし、1950年にフランス屈指の光学メーカーP.Angenieux Paris社から本格的な広角域の光学設計として5群6枚のレトロフォーカス型光学系を
新設計し実装してきた「世界初の広角レンズ」が発売されます (右図)。
(モデル銘:RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5)

この「レトロフォーカス」と言う光学系名称が、コトバとして間違ったニュアンスで受け取られてしまい、如何にもオールドレンズらしい「甘いピントの描写」の如く言われることがあります (ネット上でもそのように解説しているサイトがある) が、それは全くの思い込みであり
レトロ (後退) フォーカス (焦点)」が正しい意味なので、古めいた意味を連想する「レトロ」とは全く別の意味で使われています。

Carl Zeiss Jenaでは遅れること2年後の1952年に、ようやく同じ5群6枚のレトロフォーカス型光学系を採用した広角レンズを発売したのが、そもそも今回出品するモデル「Flektogon 35mm/f2.8」のスタート地点になります。

ここで右図の2つの光学系構成図を比べると、Angenieuxのほうは光学系後群側 (後玉) に貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を配置していますが、Flektogonのほうは光学系前群側 (中玉) に貼り合わせレンズをセットした設計です。

このことから、Carl Zeiss Jenaの設計ではピント面の解像度向上にフォーカスした光学設計を優先してきたことが窺えます。もちろん、Angenieuxのほうでも実際のピント面は鋭いのですが (決して甘い描写ではない)、それを上回るピント面の鋭さを追求してきたことになります。

ここでオモシロイのは、この2つのモデルに於ける開放f値の相違です。Angenieuxのf値「f2.5」に対してFlektogonの開放f値は「f2.8」でした。2年遅れで発売しながらも開放f値をさらに高速化 (明るく) してこなかったのは何故なのでしょうか?

それは、後の1972年にCarl Zeiss Jenaから登場する後継モデル・・
・・「MC Flektogon 35mm/f2.4」の発売でハッキリしてきます。

おそらく、Angenieuxに先を越されて広角域の新たな光学設計「レトロフォーカス型」を開発されたことが相当悔しかったのではないかと考えています。ムリに開放f値を競わずにAngenieuxよりもさらに解像度を向上させた広角レンズを市場投入すべく決戦を挑んだのではないでしょうか。しかし、開放f値が下回っていることに相当な苛立ちを感じていたのか、f値「f2.4」モデルを後継として用意してきたところに、Carl Zeiss Jenaの何らかの焦燥感を感じてしまいます。

つまり開放f値の高速化と同時にピント面の鋭さだけに留まらず、マルチコーティング化による様々な収差の改善でもAngenieuxモデルを超越させることがようやく実現できたと言う流れなのかも知れません。ところが、当初のf値「f2.8」の登場から「f2.4」までをワンクールとして捉えると、実はCarl Zeiss Jenaの戦略として最高峰の焦点距離35mm広角レンズの市場投入までが、既に1952年時点で思い描かれていたのかも知れません (まるでリベンジ計画)(笑)

このように考えてしまった理由は、実は「MC Flektogon 35mm/f2.4」の最短撮影距離を従前の18cmから20cmに後退 (改悪) させてしまったことに着目したからです。そこまでしてAngenieuxと同じ開放f値「f2.5」で発売せず「f2.4」と言う当時も今も中途半端に感じるf値で設計してきたところに、前の戦争ではありませんがフランス vs ドイツの何らかの凌ぎ合いが見え隠れして (と言うよりCarl Zeiss Jenaの一方的な意地なのか)、オールドレンズはロマンが広がるのでオモシロイですね(笑)

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型-I:1953年発売
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:14枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:35cm

前期型-II:1953年〜1960年
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:12枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:35cm

前期型-III:1953年〜1960年
f値:f2.8〜f16
絞り羽根枚数:9枚
プリセット絞り機構:あり
筐体外装:アルミ合金材シルバー鏡胴
最短撮影距離:36cm

中期型-I:1961年発売
f値:f2.8〜f22 (見なし開放f値/実質f4)
絞り羽根枚数:5枚
プリセット絞り機構:なし
筐体外装:Gutta Percha巻き
最短撮影距離:18cm

中期型-II:1965年発売
f値:f2.8〜f22 (見なし開放f値/実質f4)
絞り羽根枚数:5枚
プリセット絞り機構:なし
筐体外装:ゼブラ柄鏡胴
最短撮影距離:18cm

後期型:1975年発売
f値:f2.4〜f22
絞り羽根枚数:6枚
コーティング:マルチコーティング
筐体外装:黒色鏡胴
最短撮影距離:20cm

なお、このモデルバリエーションの中で一番最初に登場したシルバー鏡胴には「zeissのT」刻印をレンズ銘板に伴う「前期型-I」が極少数存在し、且つそのモデルだけが「14枚絞り」を実装しており、もちろん最短撮影距離も「35cm」なので、その後数多く出回った同じシルバー鏡胴の「36cm (絞り羽根9枚)」とは異なります (右写真はその14枚絞り)。

さらに「後期型」には1975年の発売時点で登場したタイプだけが「最短撮影距離19cm/最小絞り値:f16」と仕様が異なる設計ですが、その後のタイプも実際にはもっと多くのバリエーションに分かれます。

ちなみに最後の「黒色鏡胴」は、製造番号のシリアル値がMAX値に到達してしまったことからリセットされて「1,000番台」からリスタートしていますから、オークションなどで謳われている「希少な1,000番台の初期型」などと言うのはウソです(笑)

上のモデルバリエーションで「Gutta Percha」とは「グッタペルカ (ガタパーチャ)」と読み、アカテツ科の樹木から採れる樹液で生成したゴム状の樹脂材ですが、ゴムと言っても現在の プラスティック材のような固さに硬化してしまうゴム材なので伸縮性はほとんどありません。
この後、1970年代に入るとモデルチェンジが行われ、従来のモノコーティングからマルチコーティング化され、且つ光学系の新設計に伴い開放F値がさらに明るくなった「MC Flektogon 35mm/f2.4」へと変遷していきますが、当モデルも併売され続けていたようです。

また、製造番号とモデルバリエーションの発売年度とを照らし合わせると、1961年発売の「Gutta Perchaモデル」当時はまさに「ベルリンの壁敷設」時期に当たり、その後のゼブラ柄〜黒色鏡胴への変遷時期には旧東ドイツから旧西ドイツへの逃亡者が増大していた、つまり景況が悪い不景気時代に入っていた事が覗えます (だから複数工場での並行生産がムリで既に多くの工場をCarl Zeiss Jenaが吸収していた時期とも言える)。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「リングボケ・円形ボケ・背景ボケ・トロトロボケ」で、下段左端に移って
「質感表現能力・被写界深度・パースペクティブ・ゴースト」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

開放f値の影響と被写界深度の狭さからシャボン玉ボケの表出は難しくせいぜいリングボケ〜玉ボケ辺り止まりでしょうか。ピント面のエッジが意外にも太目に出てくるのでコントラストとも相まりインパクトの強い印象の画を造ります。発色性はCarl Zeiss Jena製モデルの中にあってどちらかと言うと大人しめでしょうか。この当時のモデルは最短撮影距離が18cmなので「なんちゃってマクロ」的な撮影にも向き使い出のあるモデルです。

↑上の写真は1枚目がバラす前の外観で、2枚目が当方のオーバーホール後 (つまり出品商品) になります。当初バラす前の時点では3カ月半前に整備されているものの筐体外装は経年のカビ (が根を下ろした) 状態のままでした(笑)

当方は昔家具屋に勤めていたので職人から「磨き」に関して教え込まれています。オールド
レンズの筐体外装は焼き付け塗装されていますが、経年使用で手の油脂成分などを糧にして
塗膜面にカビが根を下ろしているのが、光に反射させると「斑模様」となって視認できます。

ヤフオク! の一部出品者でも無水アルコールで「除菌」しているなどと豪語していますが(笑)、とんでもない。そんなもので除菌などできません。この出品者は分解して洗浄時に除菌していると平気で言ってますがベンジンで洗浄したからと言って一切除菌などできていません。
笑ってしまいますね(笑) 特に根を下ろしているカビなどは洗剤などで洗浄してもそう簡単に除去できません。

別にそのままでも支障ないのですが(笑)、さすがに手垢 (によるカビ) だと気持ち悪がられる方もいらっしゃるので当方では筐体外装を必ず「磨きいれ」しています。

↑前回『解体新書』でも隙間から揮発油成分が滲み出ていたのですが、前回は多量のグリースが塗布されていたのが根本原因でした。今回バラす前に先ずは筐体外装をチェックしてみるとやはり油染じみが数箇所見えます(笑)

油じみよりも問題だったのは距離環を回した時に「トルクムラが生じている」点でした。当初出品された当時 (4月末) の出品ページでは「分解清掃後、グリスの塗り直しを施工、問題なくスムーズに動きます」と掲載されています。

整備することを「施工」と言うのだから恐れ入ってしまいますが(笑)、当方は単に手の感触と勘に頼った作業しかできないので (設計/諸元書など持ってないので) あくまでも技術スキルが低い個人レベル止まりです(笑)

この出品者のFlektogonは直近3カ月間で何と14本も落札されており、その平均落札単価は「33,400円」と言う高額なのでオドロキです。当方が出品しても「29,500円」でも残っているくらいですから(笑)

しかしそうは言ってもこのトルクムラは頂けません。距離環を回してみるとどうもグリースの粘性が軽すぎるようでヘリコイドのネジ山の抵抗/負荷/摩擦をそのまま受けているように感じます。特に最短撮影距離18cmまで鏡筒を繰り出した時、反転して無限遠位置方向に回そうとすると引っ掛かって動かなくなることが時々ありました (5回中2回動かない)。これは明らかにトルク調整をミスっています・・。

↑さらに問題だったのが (手に入れてから判明したのが) 上の写真なのですが光学系第2群の 締め付け環が一度外されています。製産時はこの第2群締め付け環は遮光塗料で完全着色されるので上の写真のような銀色の削れ箇所があったりしません。

これがどうして問題なのかと言うと、このモデルは第2群の位置で描写性を左右しているようでここを外してしまうとピント面が甘く堕ちてしまうことが多いのです。そこで実際にバラす前に実写してみるとカメラボディ側ピーキングに反応するかどうかギリギリのピント面だったのです。

↑上の写真は1枚目が当初バラす前の実写チェック (開放の撮影) で2枚目がオーバーホール完了後の開放撮影です。同じ条件で撮影できていませんがピント面のヘッドライト (手前側) の鋭さは1枚目の時ピントの山が掴み切れていない感じでした (オーバーホール後はピントの山が明確に分かる)。このような画に堕ちるのは大抵の場合「光路長不足/超過」です (画の周辺部も流れている)。

実際バラしてみるとこの出品者特有の問題から光学系のピント面に影響が出ていることが判りました。

↑実際にバラして始めた途中で撮影しています。ヘリコイド (オスメス) ですが前回に比べると塗布するグリース量がだいぶ減りました(笑)

↑しかし塗られているグリースを指に取りグリグリしてみると明らかに「粘性が軽すぎ」なのと、どうもグリース種別が違うようです。過去に塗られていた白色系グリースまで一部残ったままですから完全に洗浄もできていません (右端の白い部分)。

↑さらにバラしていきます。するとどうやら「トルクムラ」の原因箇所が判ったようです。

距離環を回した時に「直進キー」と言うパーツが刺さって上下にスライドする (グリーンの矢印) ワケですが「直進キーガイド」の片側が削られていました。今回の個体をバラしたところ内部の構成パーツはすべて100%清掃しただけの状態だったので (つまり経年の腐食や酸化はそのまま残っている状態) 上の写真の2箇所ブルーの矢印部分を見ると腐食/酸化が生じていないので「最近削ったことが一目瞭然」です。

つまりこのことから4月末の整備では既に距離環を回した時にトルクムラが発生していた個体だったことが判明します。それを改善させようとするのに「常套手段として抵抗/負荷/摩擦の箇所を削ってしまえ」と考えたのでしょう(笑)

そもそも製産時点でこのように削られていなかったワケですから、それを削ったり曲げたり 変形させているのは過去整備の所為ばかりです。結論から言えば、この出品者は「オールド レンズの原理原則を全く理解していない」と言わざるを得ません。その理由は以下のオーバーホール工程で解説していきますが、もうこの出品者からは次の3本目はお腹いっぱいと言ったところでしょうか・・(笑)

この出品者によると今回の個体が出品された4月末時点ではこのモデルは30本目の整備らしいです (今現在ヤフオク! に出品されている個体は44本目)。当方が7年間で扱った本数も同じ44本です。質問欄には「修理はしませんか?」とありますが将来的にも修理はしないと返答しています。確かに「原理原則」を理解していないのだとすると修理するにも自ずと限界がありますから無理もありません。

原理原則」とはオールドレンズそのものの構造と、その構成パーツに対する様々な角度からの考察によって「本来の適正であるべき組み付け方法や調整」を導き出すものですから、それが理解できなければ正しい組付けにはなりません。逆に言えば「原理原則」が理解できていればどんなオールドレンズでも (例え初めての扱いでも) 先ず無難なく適正な調整ができます。
その時に影響してくるのは経年の摩耗や腐食などの劣化なので、それを踏まえて如何に改善させるかは「常套手段」など使わずとも別の方策があると言うものです (常套手段によって製品寿命はむしろ短くなってしまうから)。それが当方が2,000本以上オーバーホールして導き出した結論です。単にその場凌ぎで仕上げる整備なのか、或いは製品寿命を長らえる「延命処置」たるオーバーホールなのか・・それが分かれ目だと考えます。

限られたオールドレンズ資産をムダにしないよう社会貢献しているらしいですが(笑)、
はたしてこの整備レベルでどうなのかしら?
単にバラして組み戻すだけなら誰でもできると思いますが・・?
「カメラライフの提供を一番の価値として売り手買い手のコストパフォーマンスの良い状態を目指した整備」と言い切っていますが(笑)、今回の個体の距離環を回すトルクはとてもカメラライフを楽しむレベルではなかったと思います。それ故落札者も僅か3カ月で手放す気持ちになったのではないでしょうか・・
ニコイチによる記念品のようなものを作ることは考えていないと言う以前に、整備するなら
まずは適正な調整を施したオールドレンズをちゃんと出品して頂きたいと思いますがね。
(できないなら整備しないほうが良いと言う意味)(笑)
少なくとも当方はちゃんとオーバーホール後の状況を逐一細かく案内して出品しています。
トルクムラが残ったのならそのように出品ページにも案内するべきだと思います・・
この出品者の出品ページを見ていると何だかんだ逃げ口上を言って「売り切りしている」のが丸見えです(笑)

  ●                 

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみたところ一部に「常套手段」を施し (削りを入れていた) グリース粘性も安直に「軽ければ良い」と考えていることが判りました。結果「スリップ現象」が発生してしまい距離環の位置 (ヘリコイドの位置) によってはトルクムラを生じる原因に至っていました。

性格的に当方はとてもこれを「スムーズです」の一言では片付けられませんが、さすが人気がある人だとクレームが来ないのでしょう。信用/信頼が無い当方がやったら一発でアウトですね(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この時点でスルスルと無抵抗のまま絞り羽根が開閉しないとダメです。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。光学系がレトロフォーカス型なので光路長確保から奥が深いワケです。

↑制御系パーツを組み付けます。「制御環」は絞り環と連係して設定絞り値に従い絞りユニットを制御している環 (リング/輪っか) です。「」が用意されておりその溝部分を絞り環から飛び出ている「連係アーム」が行ったり来たりすることで絞り羽根の開閉を微調整しています。

ここでこのモデルの特徴が明確になるワケですが、溝が「斜め状」に用意されています。一番下が「開放f値:f2.8」の場所で上が「f4」の時の位置です。つまりこのモデルは「見なし開放f値」と言う概念を採り入れたモデルなので、距離環が無限遠位置「∞」の時だけ「f2.8」になるよう設計されています。距離環を回して鏡筒を繰り出していくと (光学系が繰り出されると) f値は自動的に「f4」まで落ちてしまいます。

これが冒頭の解説で当方が「Carl Zeiss Jenaは何がなんでもf2.8にしたかった」と考えた根拠です。よくズームレンズでも言われますョね? 「f2.8〜f4」なのか「f2.8通し」なのか。このモデルは単焦点レンズですから開放f値が移動するワケがありません。従って「見なし開放f値」と言うことになります。

実はこの出品者はこの部位の調整もミスっており、それは結果的に絞り環操作にも現れていたので当方はバラす前の時点で既に改善方法を思いついていました(笑)

↑こちらは距離環 (ヘリコイド:メス側) ですが、ご覧のとおりゼブラ柄部分を外しています。この部分を外さずに整備していたようで「」が少し混入していたのでキレイにしました (距離環を回した時最短撮影距離附近でジャリジャリした感触になっていたから)(笑)

↑ヘリコイド (オスメス) を組み付けた状態を撮っています。鏡筒カバーの内部にヘリコイド (オス側) が配置されており、ヘリコイド (メス側) のネジ山を鏡筒カバーが行ったり来たりすることで内部に組み込まれる鏡筒が前後動している仕組みです (ブルーの矢印)。ヘリコイド (メス側) の距離が長いので (グリーンの矢印) 必然的に塗布する「ヘリコイドグリースの種別と粘性」をミスると一発でトルクムラや重たいトルク感になってしまいます。

↑基台を無限遠位置のアタリを付けた正しい場所までネジ込んで「直進キー」をセットします。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツですからここの調整如何でもやはりトルクムラが生じます。

↑実際に両サイドの「直進キー」をセットして距離環を回すとこんな感じで鏡筒カバーが繰り出されていきます (ブルーの矢印)。この時最短撮影距離位置まで距離環を回すと上の写真のように「直進キーの頭部分」だけ引っ掛かっている状態になります (グリーンの矢印) から、ここがこのモデルで最もトルクムラが生じ易い位置になります。

つまり技術スキルが試される箇所が「直進キーの調整」ひいては「トルク調整」と言えます。

↑ようやく完成している鏡筒をセットできます。「開閉アーム」が操作される (グリーンの矢印) と鏡筒内部に刺さっている「アーム」が左右に首振り運動して設定絞り値まで絞り羽根を開閉します (ブルーの矢印)。

↑当初バラす前に絞り環操作してみるとガチガチした感触の動きをしていました。その原因は前述の鏡筒に配置されている制御系パーツの調整ミスですが、そもそもこのモデルはベアリングではなく上の写真のような「棒状ピン」でカチカチとクリック感を実現していることをスッカリ忘れている証拠です(笑)

↑絞り環から飛び出ている「連係アーム」が前述の「」に刺さって具体的な設定絞り値を伝達していきます。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが構成パーツを取り払って当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しました。

↑個別にやはり「磨き研磨」を施した「絞り連動ピン」を組み付けます。実は当初バラす前のチェック時点でフィルムカメラに装着してチェックしてみると絞り羽根の動きが確実に連動していないことがありました。それで「ウン?」と思って絞り連動ピンもピッカピカに磨いた次第です(笑)

たかが絞り連動ピンですが、ちゃんとバラしてからチェックしてみると棒状部分は腐食/酸化したままでした(笑)

↑完成したマウント部をセットしてプレビューレバー環 (リング/輪っか) を組み付けます。マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれた量の分だけプレビューレバー環が移動して () 設定絞り値まで絞り羽根が閉じます。同じようにプレビューレバーを押し込んでもの動作をしますから自動的にマウント面の絞り連動ピンは引っ込みます (つまり連動している)。

↑4月末の整備時に光学系第2群の締め付け環を外されてしまったので(泣)、仕方なく当方にて適正なピント面を構成する位置で第2群を固定しました。ちゃんと遮光塗膜でビッチビチに塗ったくりました(笑) そうすることで次回の整備者が気がついてここを外さずに光学系の清掃をしてくれるからです。

つまり「原理原則」さえ理解していれば外して良い箇所とダメな場所は一目瞭然なのです。

この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

修理広告 DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑バッチリ距離環に生じていた「トルクムラ」が解消できました!(笑) 何で3カ月半前に整備されたばかりなのに、その尻ぬぐいを当方がしなければイケナイのか?!・・ですョ!(怒)

結局削られてしまった「直進キーガイド」部分は削られた金属を元に戻すことはできないので(笑)、他の方法でトルクムラを改善させました。しかしそれは簡単な作業ではないので何度組み直したことか・・それで頭に来ているワケです(笑)
(とは言っても改修/改造を施したワケではありません)

↑光学系内の透明度は非常に高い状態を維持しています。後群側に点キズが少々多めですしカビ除去痕も残っていますがLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。

不思議だったのは、3カ月半前に光学系を清掃しているハズなのに後玉の外周には菌糸状のカビがまだ残っていました (3カ月で再び生える?)。おそらく市販薬剤を使ってカビ除去しているのではないかと推察します。それでは完全に取り切れないですからねぇ〜(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も点キズは多めですが透明度はすごい状態です。ちゃんと菌糸状のカビも除去したので菌糸状のカビ除去痕は残りましたがもう生えてきません(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:15点、目立つ点キズ:6点
後群内:18点、目立つ点キズ:11点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり (後群内)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
但しカビ除去痕のみLED光照射時に極薄いクモリを伴い視認できます(後玉表面)。
・後群側に目立つ微細な点キズが4点ほどあります。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑当初バラす前のチェックでは絞り羽根が最小絞り値側で少々閉じすぎていたので適正状態にセットしました (簡易検査具で調べて調整しました)。

ここからは鏡胴の写真ですが経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。筐体外装は当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。アルミ材削り出しゼブラ柄部分も「光沢研磨」したので当時のような眩いほどに艶めかしい光彩を放っています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していくと時々キーンと言う金属音が微かに聞こえてくることがありますが内部のパーツが鳴っているだけですので将来的に問題発生原因にはなりません(おそらくスプリングの鳴きだと推察します)。どこがどのような状況時で鳴るのか内部が見えないので確認のしようがなく改善できません(クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑今回の『解体新書』も結局前回に引き続き尻ぬぐいになってしまいましたが(笑)、完璧な状態まで改善できました。

これが本来のこのモデルの仕上がりでしょうか・・そう言えるレベルです。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑上の写真は1枚目が無限遠位置での開放f値「f2.8」で、2枚目は距離環を回して最短撮影距離位置まで繰り出した時の開放f値「f4」に勝手に移動していることを撮影しました。これをムリなチカラで「f2.8」に戻したりすると内部パーツ (連係アーム) が破断するので絶対やらないでください。薄い真鍮材の板ッペラなので曲がるだけではなく折れます (折れたら最後製品寿命)(怖)

↑当レンズによる最短撮影距離18cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

最短撮影距離位置では「f4」にしかならないので実際の撮影距離はf値「f2.8」をギリギリ維持している60cmくらいです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。