◎ YASHICA (ヤシカ) YASHICA LENS ML 35mm/f2.8《後期型》(C/Y)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはヤシカ製広角レンズ『YASHICA LENS ML 35mm/f2.8《後期型》(C/Y)』です。


YASHICA製交換レンズ群の「MLシリーズ」には富岡光学製モデルが多いのですが終盤期にはコシナ製も存在するようです。

YASHICAは長野県諏訪市で1949年に創業した八洲精機株式会社から始まり1953年に八洲光学精機を経て1958年にヤシカと改めた会社で、光学レンズの供給をしていた富岡光学を1968年に吸収したものの経営が破綻し、1975年から京セラの支援を受け1983年にはついに吸収されています。その関係からヤシカ製オールドレンズには富岡光学製モデルが非常に多く含まれています。

今回扱う広角レンズ『YASHICA LENS ML 35mm/f2.8《後期型》(C/Y)』は2015年以来なので実に3年ぶりにオーバーホール済でのヤフオク! 出品になります (オーバーホール/修理ご依頼分ではその間何本も扱っています)。特に敬遠しているモデルでもありませんが光学系の状態が良くない個体が非常に多く市場に出回っているのでなかなか手を出せませんし、そもそもYASHICAのブランドバリューが低いのでオーバーホール作業分を回収できないという問題点もあったりします。

現在海外オークションebayを見るとこのモデルは全滅状態で1本も出品されていませんが国内のヤフオク! には毎月必ずたくさん出品されています。海外でのYASHICAブランド評価は意外と高く、特にこのモデルは1万円〜2万円台で流通していますが国内は5千円前後と言う底値の状態のまま何年も続いています(笑) 海外では認められていても日本人から見れば残念ながら知名度は遙か下なのでしょう・・ブランド力ばかり気にする悲しい現実です。

先達の情熱と努力によって成し遂げられた工業技術立国ニッポンに甘んじ、良い物は良いとして客観的に研鑽する気概を忘れてしまった今の世で、今一度足元を見直して省みるべきではないでしょうか。国内のネット上解説を見ていてもCarl ZeissのDistagon 35mm/f2.8との描写性云々に関する記事が目を引きますが、何故にDistagonと比べたがるのか?(笑)

海外勢/国内勢の分け隔てなく描写性の良し悪しを客観的に見たいと願う当方にとっては何よりも歯がゆい思いしか残りませんね・・。

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1976年に発売されたC/Yマウント方式の交換レンズ群の中の一つです。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型 (1976年発売)

光学系構成:6群7枚 (レトロフォーカス型)
筐体外装意匠:銀枠飾り環あり



中期型 (不明)

光学系構成:6群7枚 (レトロフォーカス型)
筐体外装意匠:銀枠飾り環なし (完全黒色鏡胴)


後期型 (1982年発売)

光学系構成:5群6枚 (レトロフォーカス型)
筐体外装意匠:銀枠飾り環なし (完全黒色鏡胴)


光学系は当初発売の銀枠飾り環を配した「前期型」から「中期型」まで
6群7枚のレトロフォーカス型を採っていました。

しかし珍しいことに「後期型」では筐体サイズをそのままに光学系のみを5群6枚と大きく設計変更してきます。またコーティング層が放つ光彩にも一部に相違があり従来のパープルブルーのコーティング層に対しパーブルアンバーグリーンの光彩を放つタイプが極少数のみ存在します。

なお製造番号はいずれも「A13xxxxx」と「A13」で始まっており指向先メーカー別/モデル別として暗号付番していた富岡光学の方式を採っている個体しか市場に流れていないので、 このモデルにはコシナ製が存在しないとみています。

このモデルの市場に流れている個体 (特にヤフオク! ) を見ていると監視カメラ用に出荷されていた固体が数多く出回っています。

    

上の写真 (3枚) は今回出品する同型モデルのマウント面になりますが、左端が民生向けフィルムカメラ用出荷タイプ (今回出品の個体) であり中央/右端が監視カメラ用の出荷タイプになります。

相違点は「フィルムカメラのボディ側に開放f値を伝達する絞り値キーの有無」で判別し左端の今回出品個体にはキーが存在します (赤色矢印)。ところが監視カメラ用の個体は代わりにシリンダー (或いは太目の円柱) がセットされている場合 (中央/グリーンの矢印) のみならず右端のように外されている (ネジ2本だけ:ブルーの矢印) 場合もあります。さらに問題なのは「絞り連動レバーが欠落 (右端/オレンジ色)」している個体も流れているので要注意です (監視カメラではシャッターボタンに連動して絞り羽根を開閉させる必要が無いから)。

これら監視カメラ用のタイプはヤフオク! 出品で毎月流れており、監視カメラから取り外した個体であることを明記していないので必ずチェックが必要です (この数年で数百本がヤフオク! で処理されています)。監視カメラ用だからと言って光学系に何か違いがあるワケではありませんが、当方がバラした印象ではコーティング層の蒸着 (特に各群の裏面側) が民生用とは違うように感じますし、そもそも絞り羽根の開閉が行われないまま長年使われていた個体なので絞りユニットや絞り羽根のキーの劣化が相当だったりしますから、当方で調達する際は監視カメラ用はどんなに安くても除外です(笑)

逆に考えると、監視カメラ用に使われていたと言うことは「それだけ解像度が高くリアルな 表現性を有する」との評価に価するので、モデルとしての描写性能は非常に優れていると考えています。当方はあくまでもDistagonと比較するのではなく(笑)、製品としての実績のほうを重要視しますね。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ①・円形ボケ②・背景ボケ①・背景ボケ②」で、下段左端に移って「発色性・被写界深度・パースペクティブ・ゴースト」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

最短撮影距離30cmと寄れることも手伝いちょっとしたマクロレンズ的な撮影も楽しめますがボケ味も滑らかで違和感を感じません。富岡光学製オールドレンズらしい非常に繊細で細い エッジを伴うピント面にも拘わらずインパクトのある写真になりますが、残念ながらピントの山がとても掴みにくいモデルでピントの山もアッと言う間です。そのため実写を見ていても僅かにピンボケの写真が結構載っています(笑)

↑上の写真は当初バラし始めた時の撮影ですが塗布されている「固着剤」が赤色です。「固着剤」はネジや締め付け環などが経年で緩まないようにする目的で使う不溶性の固体化する薬剤ですが、各光学メーカーで独自の色合いのモノを採用しています。緑色/赤色/黒色/黄褐色など色合いの濃淡まで含めると様々ですが、富岡光学製オールドレンズに使われている固着剤の色は「赤色」と決まっています。

例えばレンズ銘板に「TOMIOKA」銘の刻印があるモデルやAUTO YASHINONシリーズなどをバラすと必ず「赤色固着剤」が塗布されており、過去メンテナンス時に他の色が使われていたりします (MINOLTAは緑色)。

↑バラしている最中に撮った写真ですが、こんな感じで「赤色の固着剤」を使っています。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造や構成パーツには一部にCarl Zeissモデルと近似した構造やパーツが使われています。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。焦点距離35mmの光学系ながら延長筒も用意せずに、よくこの大きさの鏡筒に光学系をまとめ上げました・・と富岡光学の光学設計技術を褒めたいのですが実はこの後に納得できない富岡光学製らしさが出てきます(笑)

↑このモデルが発売された当時 (1976年) を考えると、既に富岡光学は経営難からヤシカに吸収されていました (1968年に吸収合併)。にも拘わらず相変わらず「意味不明な設計」をしているのがこの絞りユニットの構造です。

絞り羽根が開閉する原理ですが、絞り羽根には「キー」と言う一般的には金属製の突起棒が 表裏に1本ずつ打ち込まれています (合計2本)。

位置決めキー
位置決め環」に刺さって絞り羽根の格納位置を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

絞り環を回すとことで「開閉環」が連動して回り、刺さっている「開閉キー」が移動するので「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

従って一般的なオールドレンズは「f値による入射光制御」方式を採っている為「位置決め環」側は本来固定なのが当たり前なのですが、何を思ったのかこのモデルは「位置決め環まで回ってしまう」設計です。つまり「開閉環」側は絞り環操作に連動して回る必要があるので (絞り羽根の開閉角度を変化させるため) 一緒に2つの環が回ってしまうワケです。

このような設計/構造で作られるオールドレンズはシネレンズに多く「t値による入射光制御」が挙げられます。

f値とは
f値は「明るさを表す数値」であり「F=f/Φ」で表され焦点距離(f)を有効口径(Φ)で割ると出てくる計算上の論理値です。「国際絞り (古いオールドレンズでは大陸絞り)」で0から始まり「0/1.4/2/2.8/4/5.6/8/11/16/22/32/・・・」と上がっていく√2倍の数値になります。
(大陸絞りは1.1/1.6/2.2/3.2/4.5/6.3/9/12.5/18/25/・・・と上がる)

t値とは
t値は光学系に入ってきた入射光から捉えた時の実際の明るさ (実絞り) を指し「透過率を表す数値」です。従って表面反射などで減ずる影響や光学系の構成枚数によっても異なった数値として出てきます。

この時、f値とt値とで絞りユニットの構造 (ひいては絞り羽根の開閉制御) が変わってきます。
f値の場合は論理値なので絞り羽根を固定した状態のまま開閉だけさせて入射光制御しますが、t値の場合は光学硝子レンズに合わせて具体的な可変幅を制御する必要が生じるので「絞り羽根の固定箇所まで可変」である必要性が出てきます。

従って一般的なf値を採用したオールドレンズでは絞り羽根は固定した状態で開閉だけさせる 方式を採っていますが、今回のモデルは両方回ってしまいます(笑) このモデルがt値まで装備していたら相当凄いコトになっていたかも知れませんね(笑)
いや、それでも「世界のTOMIOKA」になる前に消滅してしまいましたが (現在は京セラオプテックとして現存しています)・・。

話が長くなりましたが、上の写真で「位置決め環」も「開閉環」も共に回ってしまうので絞りユニットを固定できないためにワザワザ「締め付け環」を上から被せて絞り羽根が浮き上がらないように (外れないように) しています。

しかし、当然ながらこのモデルはf値だけです(笑)、何故にこのような工程数を増やしてしまう (人件費を食う) 設計にしてしまったのか???
フツ〜の当時の他社オールドレンズと同じように一方を固定すれば良かったものを、いったい何の目的があって両方回すのか・・???

↑絞りユニットを仕込んで完成した状態を撮りました。あれ? 絞り羽根が居ない?

↑完成した鏡筒をこのままひっくり返して撮影しました。自らオールドレンズのメンテナンスをしていらっしゃる方は、上の写真を見てすぐに気がつかれたでしょう (気がつかない人は オールドレンズのメンテナンスをしないほうが無難です)(笑)

開閉アーム
マウント面の絞り連動レバー操作に連動して一気に絞り羽根を開放状態にする役目のアーム

連係アーム
絞り環との連係で設定絞り値を伝達しているアーム

カム
「なだらかなカーブ」に突き当たることで具体的な絞り羽根の開閉角度を伝達する役目

こんな感じですが、何と「なだらかなカーブ」が一般的なオールドレンズとは逆なのです!(笑) フツ〜のオールドレンズでは「なだらかなカーブ」の麓が「最小絞り値側」になり登りつめた頂上が「開放側」なのです。

何でワザワザ逆に設計する必要があったのか??? 全く以て理解できません。実際は絞り環との連係箇所 (連係アームの場所) との位置関係から逆にしているのですが、ならばそもそも 連係経路 (連係方式) を変更した設計をすれば良いだけの話で、行き当たりばったり的な安直な設計変更をしているから絞りユニット側の環 (2つとも回ってしまう) の問題になります。

結果、工程数が増えて人件費が嵩み調整箇所まで増えるので適正検査時の出戻り率まで影響してきます。いったい何を考えている会社なのかと思ってしまいますョ、えットミオカ!(笑)

まずはここが「意味不明の設計をする会社」たる富岡光学の大きな特徴ですね・・(笑)

↑上の写真は前出の写真とは反対側を撮りました。絞りユニット内の2つの環 (リング/輪っか) は、それぞれ「絞り羽根が常に開こうとするチカラ」と「常に閉じようとするチカラ」の2種類の相反するチカラが及ぶ必要があります。そのためにスプリングが2本附随するワケですが前述の「なだらかなカーブ」が逆方向になったためにCONTAXマウントとしての絞り羽根制御方式上、絞り羽根を閉じないとイケマセンから結果的に2つの環が回らざるを得なかったワケです。

なので、鏡筒が完成した時点で「あれ? 絞り羽根閉じてないじゃん?!」と言うことになります(笑) つまり悪さしているのは「なだらかなカーブ」だったワケです。

なお、この鏡筒裏側に「なだらかなカーブ」を用意して制御系を一極集中的に配置してしまう設計思想も当時の富岡光学製オールドレンズに多く共通する要素のひとつです。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。光学系が長いので厚み (長さ/深さ) を持たせた設計です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑アルミ材削り出しのヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

アルミ合金材の間に真鍮製のヘリコイド (メス側) を挟んでいる理由は、同じ材によるネジ山の回転でカジリ付 (互いに咬み合って固着してしまう現象) を避ける目的なので、この当時の富岡光学ではまだアルミ合金材同士のネジ山切削技術が到達していなかったことになります。ところが当時の他社光学メーカーでは既にアルミ合金材同士でのヘリコイド (オスメス) を実現していましたから、要は富岡光学では工場の製産設備更新ができなかったことが窺えます。

それもそのハズで、1968年にヤシカに吸収された後、母体のヤシカまで倒産してしまい結局1983年には京セラに共倒れで吸収されます。しかしその京セラもついに2005年からカメラ事業の縮小を始め2007年には撤退してしまうので、結局転げ堕ちる下り坂が変わっただけの話で命運は既に尽きていたのでしょう・・ロマンが広がりますね。

↑完成した基台の裏側マウント側方向を撮りました。絞り環との連係環 (リング/輪っか) が介在しています。つまり鏡筒に配置されている「連係アーム」と絞り環との間に「さらにもう一つの連係環」を用意しているワケで(笑)、ここも意味不明の設計です。何で構成パーツを増やす方向にばかり設計するのでしょうか?(笑) ダイレクトに絞り環と「開閉アーム」を連係させる他社光学メーカーと同じ方式で設計すれば良いと思うのですが・・。

↑この解説が海外も含めて他社光学メーカーでは何処も採り入れなかった富岡光学独特の設計です(笑) この当時の富岡光学製オールドレンズでそのほとんどが鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を調整する仕組みを延々と続けていました。

従って鏡筒はヘリコイド (オス側) 内側にストンと落とし込んでから「締め付け環」でワザワザ締め付け固定します。つまり最後まで組み上げてから検査時点で絞り羽根の開閉幅が適正ではなかったら、ここまで戻ってイチイチ鏡筒を取り出して絞り羽根の開閉幅調整をやり直す設計です。

この当時他社光学メーカーで最も多い調整方法は、鏡筒自体、或いは絞りユニット自体の位置をダイレクトに微調整する方式 (つまりネジ止め固定方式) だったのでここまでバラす必要性が無く、工程数も合理化できて人件費も掛からず検査の影響も最低限で対応できます。要は富岡光学は旧態依然の「慣例に従う設計」をず〜ッと踏襲し続けていたと推測でき、いわゆる日本らしい会社の体質だったことが窺えます。こう言う部分が当方が「アンチ富岡光学」に走る由縁だったりします(笑)

↑この工程も「意味不明な設計」です。絞り環をセットした後にスプリング+ベアリングを絞り環側に組み込みますが、そのベアリングがカチカチとハマるクリック感を実現する「 (絞り値キー)」が、何と指標値環側に用意されているのです。

これが何で拙いのか?

指標値環がイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本による締め付け固定だからです。つまり全周何処にでも固定できてしまうワケで、絞り環の クリック感と刻印されている絞り値との合致をキッチリ行わなければイケマセン

この工程も「要調整箇所」になってしまったワケで、そのような設計をしているのが拙いのです。単に絞り環の裏側に溝を用意して基台側にベアリングを忍ばせればクリック感が簡単に (しかも調整の必要も無いまま) 実現できるのに、どうしてその発想ができないのか?!

この当時の富岡光学製オールドレンズに多く採用されている設計でもあります・・。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが既に当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。

↑セットされるのはたった一つ「絞り連動レバー」だけです。

↑完成したマウント部を基台に組み付けます。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑このモデルでは珍しいパープルアンバーにさらにグリーン色の光彩を放つ3色のコーティング層が蒸着されている個体「後期型」です。もちろん監視カメラ用ではない正規品ですから(笑)フィルムカメラに装着してもちゃんと開放f値が伝達されます。

いろいろ書きましたが(笑)、当方は確かに構造面から捉えれば「アンチ富岡光学派」ですが、オールドレンズの描写性として見ればこのモデルは素晴らしいモデルです。

今回のオーバーホールで特に感心したのは、このモデルのピントの山が大変掴みにくく、しかもアッと言う間なので必然的に距離環を回す時のトルクを意識的に「重め」のトルク感に仕上がるよう調整しました (軽すぎるとピントの山でなかなか停止しない)。しかし当初バラす前の実写確認でのピント面は「これでカメラのピーキングに反応するのかしら?」とちょっと疑心暗鬼に感じてしまうほどの鋭さが足りない印象でした。

それをちゃんと渾身込めて組み上げてあげたら「おぉ〜鋭いじゃん!」と声が出てしまった ほどにピント面が明確になりました。これならピーキングも大丈夫です!(笑)

そもそも過去メンテナンス時に光学系だけバラしていなかったので (つまり固着剤がそのまま残っていたので) ヘリコイドだけの整備で終わっていたようです。つまり当初の光学系締め付け具合からはこれ以上ピント面の改善はできないかも知れないと不安いっぱいで臨んだワケですが、何のことはなく肝心な鏡筒の格納位置が適正ではなかったことがピント面を甘くしていた原因でした。

だからこそ「意味不明な設計をする会社」たる富岡光学なので当方は「アンチ」なのです!

他社光学メーカー製のオールドレンズは光学系の格納がキッチリ成されれば適正なピント面をちゃんと構成してくれます。プラスして「トミオカは鏡筒の位置も調整してあげてねぇ〜」て、何それ?! ・・信じられませんョ(笑)

↑光学系内の透明度は相当なモノです・・残念ながら第1群 (前玉) の外周附近に、凡そ1/3の 面積に当たる領域がコーティング層の経年劣化に拠りLED光照射で極薄いクモリが浮かび上がります。しかし写真には一切影響しない領域なので気にする必要はありませんし、むしろこのモデルは光学系の状態が悪い個体ばかり市場に流れているので「今回の個体は良いレベル」と言えるほどです。

他の富岡光学製オールドレンズも共通する現象ですが、光学系硝子材成分に「酸化バリウム」が多いのか? カビの発生率が非常に高く感じますし、コーティング層の経年劣化に拠る薄いクモリも当たり前のように生じています。その意味では富岡光学製オールドレンズはそろそろ限界値 (製品寿命) に到達していると当方はみています

ましてや監視カメラ用の個体だったりすると、どんだけ長時間高温下で使われ続けていたのか (光学系への熱伝導を考慮した場合の話) と考えると、コーティング層の浮きが進行しているのも納得できてしまいます。監視カメラに使う以上、光学系の描写性能が優れていることの裏付けになるので喜ぶべき話なのですが、如何せん製品寿命からみると敬遠したくなってしまいますね、それが人情でしょう(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

硝子レンズを1枚ずつ清掃していた時は前玉外周の極薄いクモリをLED光照射では視認できたのですが、組み上げて拡大撮影すると全くその箇所を視認できません (つまりそんなレベル)。

↑光学系後群の透明度も素晴らしい状態を維持しています。残念ながら後玉表面側は経年相応のカビ除去痕がLED光照射では浮かび上がります。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:9点
後群内:15点、目立つ点キズ:9点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・前玉裏面の外周附近に面積で凡そ1/3程度の領域にコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリが生じています(硝子研磨しましたが除去できません)。写真には影響しないレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑絞り羽根の開閉も絞り環操作もクリック感もすべて確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが経年の使用感を僅かに感じるものの当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によっては「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・撮影時のピントの山が大変分かりにくいモデルのためワザと距離環を回す時のトルクを「重め」の粘性でグリースを選択しています。しかしピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動しシットリ感のある操作性を実現しています。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑明確なピント面を認識できるほどに鋭い合焦に至り、且つ距離環を回す際のトルク感も意識的に調整したのでピント合わせが楽になりました (軽いと言う意味ではない)。それは実際に この個体を使えば分かりますが、ピントの山が掴みにくくアッと言う間なので「あ〜こう言うことね」とすぐにご理解頂けると思います。自ら整備しているとこう言う小細工 (ごまかしではなく)(笑) ができるので、多少なりともフツ〜のメンテナンスよりは気を効かせたつもりになっています。

何処に拘ってメンテナンスするのかは仕上がりに現れるべきモノと考えるので、それをバカ みたいに時間ばかりかけてやっている当方は自らの技術スキルの高みに錯覚を抱いているだけでもあります (そんなオチです)(笑)

まぁ〜、Distagonには及ばない描写性らしいので(笑)、分かる人にしか分からないモデルなのでしょう。それでいいです。その人のためにオーバーホールしたのが今回の作業でしたから。
光学系の状態がハイリスクなモデルなので、また次回の扱いは数年後になるでしょうか(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮りました。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮影しています。

↑f値は「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。