◎ YASHICA (ヤシカ) YASHICA LENS ML 50mm/f2(C/Y)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはヤシカ製標準レンズ『YASHICA LENS ML 50mm/f2 (C/Y)』です。


YASHICA製交換レンズ群の「MLシリーズ」には富岡光学製モデルが多いのですが終盤期にはコシナ製も存在するようです。

ネット上で今回出品するモデルの発売時期を調べても詳細は不明なのですが1979年にヤシカから発売されたフィルムカメラ「FX-3 (black)
/FX-7 (silver)」の取扱説明書には交換レンズ群一覧に当モデルの記載がありました (一世代前のFX-2の取扱説明書には掲載無し)。このことから少なくとも前年の1978年には登場していた可能性があるとみています。

また日本国内は未発売でしたがアメリカのみに限定した「YASHICA LENS DX 50mm/f2 (C/Y)」も販売していたようです (レンズ銘板を すげ替えただけの相違)。


筐体外装はフィルター枠部分とマウント部だけが金属製で他はすべてエンジニアリング・プラスティック製という廉価版モデルですが、バラしてみると内部は金属製パーツばかりで光学硝子レンズの格納筒だけがエンジニアリング・プラスティック製であり、廉価版と言えども徹底的に低コスト化させたモデルでもなかったようです。

他の「MLシリーズ」には富岡光学製モデルが多いのですが今回のモデルが富岡光学製だという確かな根拠が見つかりません。ただ登場時期 (1978年) と内部構造の一部には富岡光学製OEMモデルに共通した設計思想が窺えるので富岡光学製の可能性は高いとみています。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ①・円形ボケ②・背景ボケ・ピント面」で、下段左端に移って「質感・リアル感・発色性①・発色性②」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型ですが、シャボン玉ボケまで には至らずリングボケも苦手のようでせいぜい玉ボケ辺りまででしょうか。しかもグルグルボケも苦手なようで明確に表出している写真を見つけられずダブルガウス型光学系にしては珍しい特性です。

ところがエッジが骨太に出てくるのでカリカリに鋭いピント面がその特徴的なボケ味と相まり非常にインパクトのあるリアル感を醸し出しています。上のピックアップ写真下段左端1枚目の陶器の質感表現などは相当なもので、且つ2枚目の女性のリアル感にはこのモデルが廉価版だと言うことを忘れてしまうほどです。発色性はナチュラル派と思いきや、原色にはちゃんと反応するのでそれも手伝い個性的でリアルな表現性を強調しているように感じます。外見からは想像もできないなかなか侮れないモデルではないでしょうか。

今回初めて扱ってみましたが、実は以前から調達のタイミングを見計らっていました。しかし光学系の状態が良くない個体ばかりが流通しており今回初めてカビが発生していない個体として入手しましたが、届いた個体にはカビが生じていました。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部を解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

光学系は硝子レンズ格納筒がエンジニアリング・プラスティック製のためにモールド一体成形になっておりバラすことができません。従って第1群 (前玉) 〜絞りユニット〜第3群までがバラせないので清掃できたのは第4群の後玉だけです。

↑ご覧のように第1群 (前玉) はエンジニアリング・プラスティック材によるモールド一体成形であり外せません。前玉外周に菌糸状のカビが発生しているのですが、残念ながら裏面側なので清掃できません。

↑後玉のみ金属製締め付け環だった為取り外して清掃できました (カビ除去痕は残っている)。

↑金属製の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) に対してご覧のようにエンジニアリング・プラスティック材のモールド一体成形で光学硝子レンズ格納筒が作られておりキッチリネジ込まれていて全く外せません。金属製であれば「加熱処置」により外せるのですが、エンジニアリング・プラス ティック製ともなれば加熱しただけで溶けてしまいます (溶解温度が不明なので加熱できない/溶剤も使えず処置無し)。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑指標値環をセットします。このアルミ合金材の基台にエンジニアリング・プラスティック製の指標値環をセットする方式を好んで使っていたのは当時富岡光学製オールドレンズに多く見られる方式です (他のMLシリーズやCarl Zeissブランド品に多い)。

↑やはりエンジニアリング・プラスティック製の距離環を仮止めします。

↑この状態でひっくり返して撮影しました。鏡筒周りに「制御環」が配置され、用意されている「なだらかなカーブ」にカムが突き当たることで絞り羽根の開閉角度を決める方式を好んで採っていたのも富岡光学製オールドレンズに多く見られる設計思想です。

しかしこのモデルは「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが「ハス状」に配置されています。普通この当時のオールドレンズでは一般的に直径線上に配置されるので珍しいのですが、実は反対側に絞り羽根の「開閉アーム」が位置しているため敢えて直進キーをズラして配置しているワケです。

さらにその直進キーも筐体全高が薄いので小さく設計することができず、結局使える有効面積を最大限に活用した設計としてこのような配置になっているワケです (筐体全高が嵩んでいれば厚みを採れるので直進キーの固定箇所を距離環側方向にズラして設計できる)。つまりパンケーキはムリにしても可能な限り製品全高を薄く抑えたかったことがこれらの設計から推測することができます。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。

↑このような感じで「絞り値キー」と言うベアリングがカチカチとハマる「」が用意された環 (リング/輪っか) をセットして完成させます。

↑エンジニアリング・プラスティック製の絞り環を組み込みます。「ベアリング+スプリング」が絞り環側にセットされるのに対して、前述の「絞り値キー (溝)」がマウント部内部に用意される方式を採っているのも他の富岡光学製モデルたる「MLシリーズ」と同一です。

例えば基台に横方向から穴を開けて (ちょうど絞り環絞り値の裏辺り) 裏側に板バネをセットし表側 (つまり絞り環が被さる面) にベアリングを忍ばせれば、スプリングを組み込むよりも基台の肉厚が必要ならずにそのまま絞り環のクリック感が実現します (絞り環裏面に溝を用意して基台と絞り環でベアリングを挟むやり方)。他社光学メーカーで多用されているベアリングに よるクリック実現方式ですが、どう言うワケか富岡光学ではワザワザ別の部位 (今回のモデルではマウント部内側) に絞り値キーの「」を用意して、絞り環とは別の箇所に設計しているモデルが多いのです。

別に富岡光学の好き勝手に設計すれば良い話ですが(笑)、当時富岡光学も吸収した母体側の ヤシカ自体も共に経営難に喘いでいる時期であり最終的にはヤシカまで倒産してしまい京セラに吸収されました。

何を言いたいのか?

皆さんよく製品に係るコストを削減することを考えた時に「製造原価/材料費の削減」をいの一番に思い付きますが、オールドレンズの場合実は材料費の削減などしてもたかが知れています。理由は筐体のほとんどの構成パーツが今も昔もNC旋盤によるアルミ合金材削り出し加工で用意されているため材料費削減効果はほぼ期待できません。

それよりも効果的なコスト削減手段は「製造工程の簡素化/合理化」そしてそれはそのまま「組み立て工程数の削減=人件費削減」に繋がります。工場での稼働時間に係る維持費などの問題もたいしてコストに影響していません。特にオールドレンズは当時も今も100%完全自動化で組み上げられる商品でもありませんから人の手が介在するとなれば、それはイコール人件費の抑制が最も効果絶大と言えるのではないでしょうか。

そう考えた時、当時の富岡光学がやっていた「部位別に一貫性のない設計思想」は結果的に 工程数を増やし調整箇所を多くする大きな要因に至っており、それは当時の他社光学メーカーが合理化を狙った設計により工程数削減へとチェンジしていた流れとは真逆の話です(笑)

富岡光学に勤めていたワケでもない当方がそのような話をできる根拠は、実はバラして構成 パーツのひとつひとつをシッカリ「観察と考察」することで、絞りユニットを含む鏡筒〜光学系〜ヘリコイド部〜マウント部〜制御系と「〜」で結んだ部分の設計思想が連係されていないことを知っているからです。

仮にここの工程で説明するなら、マウント部内部にベアリングがカチカチとハマる「溝」を用意していますが、ベアリングが絞り環側にセットされてしまうために「クリックの位置合わせ工程」が発生してしまい、それを調整する必要性からワザワザマウント部内部に銅板で「溝の環 (リング/輪っか)」を設計しています (調整する必要性からマウント部内部に直接溝を用意できない)。

つまり調整の工程数が増えるばかりかパーツ点数も増え組み立て工程も同時に増加しているのが「制御系の設計」と「マウント部の設計」との連係状態です。いったいここにどのような 設計思想の一貫性があると言えるでしょうか?(笑)

当方の考察は、富岡光学では「部位別にチームが分かれており独自に設計権限をもっていた」とみています。従って一つの部位の設計が完成しても、それに合わせて連係する別の部位の チームは余計なパーツを設計せざるを得ず、それが最終的な組み立て工程の増大に繋がり企業利益を圧迫し続けていたと考えています。
(実際富岡光学は1980年代に入りようやく合理化を踏まえた設計に変更してくるが時既に遅し)

当方では富岡光学製オールドレンズを今まで数多くバラした経験から、このような考察と結論に至り富岡光学を「意味不明の設計をする会社」と認識しています(笑) その意味で内部構造面から見た時、当方は「アンチ富岡光学派」とも言えます (何でもかんでも富岡光学製と決めつけている富岡狂ではない)(笑)

なお余談ですが、このモデルの製造番号先頭3桁「A13xxxxx」の「A13」は富岡光学製の オールドレンズにみられる暗号で指向先メーカー/モデル別に付番されています (従って純然 たるシリアル値は5桁)。

↑完成したマウント部をセットします。

結局内部構造や構成パーツから見て「富岡光学製」だと言い切れる確かな根拠は一つも存在せず単なる状況証拠だけの積み上げによる推測止まりです。ところが意外なところで富岡光学製の臭いが強くなります(笑)

固着剤」と言うネジや構成パーツをシッカリと固定する役目の薬剤は各光学メーカーで独自の色合いのモノを採用しています。緑色/赤色/黒色/黄褐色など色合いの濃淡まで含めると様々ですが、富岡光学製オールドレンズに使われている固着剤の色は「赤色」と決まっています。今回のモデルに使われていたのも「赤色の固着剤」でした。つまり富岡光学製とみてまず間違いないと考えられます (TOMIOKA銘が附随するオールドレンズやヤシノンなどにも使われている)。

この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑エンジニアリング・プラスティック製のチープ感漂う廉価版だからと決してバカにできない優れた描写性能を誇る『YASHICA LENS ML 50mm/f2 (C/Y)』です。

↑光学系内の透明度は高いのですが残念ながら前玉外周に「菌糸状のカビ」が発生しています (モールド一体成形のため除去できません)。カビの発生率が高いモデルなので注意深く調達したつもりでしたが、なかなか写真だけでは判断できませんね。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側にも後玉にカビが発生していましたが後玉は金属製の締め付け環だったために外すことができたので清掃完了しカビ除去痕だけが残っています (カビ除去痕はLED光照射では極薄いクモリとして浮かび上がります)。

なお、マウント面にフィルムカメラ側への「絞り値伝達キー」と言う爪がセットされている 個体なのでヤフオク! で数多く流通している「監視カメラ用個体」ではありません(笑)
(監視カメラ用の個体はこの場所に円柱/シリンダー状のパーツが飛び出ています)

監視カメラ用個体」との相違は光学系のコーティング層蒸着成分が異なり放つ光彩の色合いが違っています (おそらく厳密な色再現性よりもコントラストを優先したコーティング層の 成分配合に変更されている)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:あり (前玉外周)
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です (LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)。
・前玉外周に菌糸状カビが複数あります。後玉表面にカビ除去痕が複数残っておりLED光照射では極薄いクモリとして浮かび上がりますが写真に影響しないレベルです。
・光学系のほとんどがモールド一体成形のため清掃できません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑写真では前玉表面外周に菌糸状のカビが生じているように見えますが裏面です。絞り羽根には油染みなく開閉も確実です。

ここからは鏡胴の写真になりますが筐体外装のほとんどがエンジニアリング・プラスティック製なのでとてもキレイな状態を維持しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によっては「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・距離環距離指標値の「0.7〜1.5m」辺りでトルクが多少重く感じます。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑まぁ、市場に流れている個体に比べれば光学系の状態は大変良い部類に入りますが (何しろ透明度が高い) カビ発生が気になる方はご落札されないほうが良いでしょう (心の健康面から)。その意味で今後当方での扱いもリスクが高くなるので調達が難しいモデルになります。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFF。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」になっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。