◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Planar 50mm/f1.8 SL(QBM)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。
ご依頼者様のご要望により有料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


今回オーバーホール/修理を承ったモデルは旧西ドイツのRollei社から1970年に発売されたフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」用のセットレンズとして用意された標準レンズ『Carl Zeiss Planar 50mm/
f1.8 SL
(QBM)』です。

マウント種別がRolleiの独自マウント「QBM (Quick Bayonet Mount)」になりますが後にはM42マウントも登場しています。

このモデルがCarl Zeiss銘を冠していながらRolleiのフィルムカメラにセットされていた当時の背景は少々複雑です。

【当時の背景について】
● Voigtländer (フォクトレンダー):

1756年にオーストリアのウィーンで創業したVoigtländer社は、その後1849年にドイツのニーダーザクセン州Braunschweig (ブラウンシュバイク) に移転し工場を拡張しています。戦後イギリス統治領となった旧西ドイツのブラウンシュバイク市でフィルムカメラなど光学製品の生産を始めますが、日本製光学製品の台頭により業績は振るわず1969年にはZeiss Ikon (ツァイスイコン) に吸収されています。しかし、1971年にはZeiss Ikonもフィルムカメラから撤退したため1972年にはブラウンシュバイク工場の操業が停止しました。その後、商標権はRolleiに譲渡されています。

● Rollei (ローライ):

1920年にドイツのハンブルクで創業したRollei社はフィルムカメラの生産を主として、旧西ドイツのCarl ZeissやSchneider Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社からレンズの供給を受けていました。1970年にフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」を発売しCarl Zeiss製標準レンズの「Planar 50mm/f1.8 (QBM)」などをセット用レンズとしていましたが、1972年に生産工場が操業停止したため、Voigtländer社の商標権譲渡も含め自社のシンガポール工場へと生産を移管しています。その結果、1974年に発売されたのがVoigtländer製フィルムカメラ「VSL1」から始まるシリーズ (〜VSL3) で「QBM」の他「M42」マウントのタイプも併売されていました。

時代背景と共に各光学メーカーのポジショニングを踏まえるとこのような流れになりますが、今回のモデル『Carl Zeiss Planar 50mm/f1.8 SL (QBM)』として捉えると・・、

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Planar 50mm/f1.8」からの展開として掲載しています。

前期型

レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
コーティング:パーブルアンバー

PL5018中期中期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:アンバー

PL5018後期後期型

レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー

CU5018COLOR-ULTRON 50mm/f1.8」

レンズ銘板刻印:Voigtländer
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー

・・こんな感じであり、今回扱ったモデルは「前期型」たる大変貴重な旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で生産出荷された固体に なります (右写真は1962年当時のブラウンシュヴァイク工場)。

光学系は6群7枚のウルトロン型になり、元祖Carl Zeiss製「Ultron
50mm/f1.8 (俗に言う凹ウルトロン)」とは光学系構成が近似しており、
第1群 (前玉) の凹みがより平坦に変更された設計 (平坦に近い平凸レンズ) になっています。

Carl Zeiss「Ultron 50mm/f1.8」

俗に「凹みウルトロン」と呼ばれているCarl Zeiss製「Ultron 50mm/f1.8」の構成図です。同じ6群7枚ですが前玉が凹レンズになっています。

その描写性能は折紙付きで開放からエッジを明確に出してくる非常に鋭いピント面を構成しながらも破綻のない緩やかな階調表現を有する銘玉です。

IFBAGON 50mm/f1.8 (M42)

フィルムカメラ「IFBAFLEX」用セットレンズとしても供給されていたM42マウントのモデルが存在しますが、出荷数が非常に少なく市場に出回る率も珍しいでしょうか。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
「後期型」などを排除する検索をかけたので少々実写が少ないですが「SLタイプ」にてピックアップしています。
上段左端から「背景ボケ①・背景ボケ②・背景ボケ③・ピント面エッジ」で、下段左端に移って「質感・発色性①・発色性②・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

このモデルは操作してみると分かりますが、ピント面の山がアッと言う間なのでほんの一瞬に大変鋭いピント面を構成します。ピント面のエッジが繊細ながらも非常に明確に際立って出てくるのでカッチリした印象を受けます。発色性はドイツ製オールドレンズらしい少々色乗りの良い誇張感を伴うので好き嫌いが分かれる要素にもなり得ます。

しかし、Planar銘を冠している以上銘玉とモデルではないかと評価しています。基本的に当方はこのモデルの意匠デザインが大好きなので、それこそ常時調達に気を配っているほどです。ちょっと極端な例ですが、当時第二次大戦中の軍服を見ていても他国が実質剛健的な要素を 重視していたのに比してドイツ軍のそれはさすがドイツと感銘を受けるほどに洗練された意匠デザインを併せ持っていましたから、このモデルにもドイツ的な品格を感じ得ます。

今回のオーバーホール/修理は「正常品」として承ったのですが、届いた固体をバラす前に チェックすると以下のような問題点が出てきました。

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すとグリースの経年劣化に伴う液化進行をそのトルクに感じる。
装着状態に拠って「絞り羽根の開閉異常」が発生する。
 自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 設定によっても「絞り羽根開閉異常」発生。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時に白色系グリース塗布し既に液化進行。
 絞りユニット内開閉環の「開閉アーム」が変形。
内部で使われているバネ類の経年劣化。
過去メンテナンス時に同様の問題を抱えており故意に処置している。

・・こんな感じです。これらの問題点はご依頼者様からご案内頂いていなかった要素であり、当方の事前チェックで判明した内容ばかりです。結果、予想に反して丸ッと2日掛かりでの
オーバーホールになってしまいました(笑)

↑まずは決定的な写真を掲載します。上の写真は当初バラす前に「絞り羽根開閉異常」が発生している原因の一つを確認するために「光学系後群」だけを取り外して撮影しました。

写真が下手クソなので (スミマセン) 分かりにくいですが赤色ライン垂線に対して板状パーツが垂直を維持しておらず極僅かに傾いています。

具体的に発生していた不具合は「絞り羽根の開閉異常」であり以下になります。

(a) フィルムカメラ (SL35) 装着時プレビューボタンで適正な開閉にならない。
(b) フィルムカメラ装着時スイッチ「A」のみシャッターボタン押し下げでは適正な開閉。
(c) マウントアダプタ装着時「A/M」スイッチに関係無く開閉が正しくない。
(d) オールドレンズ単体時スイッチ「A」のみ適正に絞り羽根開閉。
(e) 距離環∞〜最短撮影距離位置で上記絞り羽根開閉異常の内容が都度異なる。

そして全ての「絞り羽根の開閉異常」は「f5.6 (或いはf8) 以降閉じない」と言う現象に尽きます。実はこのモデルは同類の不具合が頻繁に発生しており「f11以降停止」と言う場合が多かったりするので、残念ながら今回の個体はどちらかと言うと重症な部類です。

↑バラし始めた途中で撮影した写真ですがヘリコイド (オスメス) を撮りました。ご覧のとおり過去メンテナンス時には「白色系グリース」が塗られ既に経年劣化が進行し、且つアルミ合金材ヘリコイドネジ山の「摩耗粉」が濃いグレー状に附着しています。この状態で当初バラす前のチェックでは大変滑らかに距離環が回りご依頼者様も程良く感じていらっしゃったほどですから(笑)、なかなか分からないものですね (後に掲載する写真と比較すると明確です)・・。

↑ヘリコイド (オス側) だけを拡大撮影しました。赤ライン垂線に対して板状パーツが傾いているのがお分かり頂けると思います。

このように傾いていることは今までに数多く整備した同型モデル (いずれも絞り羽根開閉異常) で同様の状態ですから、特に今回の個体だけに発生している問題ではありません。然し、問題なのはこの傾きが「自然にそうなった」のか「故意にそう処置したのか」なのです。その判定如何では今回のオーバーホールで施す改善処置がガラッと変わってくるからです。

  ●                 

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ハッキリ言ってこのモデルのオーバーホールは (単なる整備ではなく) ほとんどの整備会社で断られているので、必然的に当方にご依頼が流れてくる確率がアップします(笑)

↑その際たる理由が上の写真で絞りユニット内部で使われている絞り羽根をダイレクトに動かしている「開閉環」の設計です。ご覧のとおり1枚の板金を単にプレッシングして2本のアームを用意しただけと言う安直な設計が問題なのです。

上の写真は既に当方の手で僅かに傾いていた「開閉アーム (長いほう)」を正しく「垂直状態」に戻したのを撮影しており、ワザと反対側の「制御アーム (短いほう)」と重なるように (垂直なのが分かるように) 撮影しています。

特にこの長いほう「開閉アーム」が僅かでも曲がると絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) が変化してしまい正しい絞り値まで絞り羽根が閉じてくれません。今回の症状がまさしくそれに当てはまりますが、実はそんな簡単なお話ではなく非常に複雑な要素を含んだ不具合です

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑前述の「開閉環」を組み込んで6枚の絞り羽根もセットし絞りユニットを完成させます。

先ずは上の写真の絞り羽根をご覧下さいませ。1枚に相当なサビ痕が残っています。残念ながらこの個体は過去の相当な期間油染みが生じたまま放置されており、その際に発生してしまった赤サビが相応に残っていました。上の写真で絞り羽根の汚れのように写っている箇所は実はその「赤サビ痕」であり除去できません。特にこのモデルは絞り羽根に微細な凹凸が備わっているので研磨して磨くことができません。

そして、この状態で本来ならばスルスルと無抵抗に近い状態で絞り羽根が開閉しなければイケマセンが、残念ながら今回の個体は極僅かに抵抗を感じます。絞りユニットを組み込む際に いろいろ調べた結果、その原因は前述の「開閉アーム」が曲がってしまった際に起因することが判りましたが、平坦度を検査する機械設備が無いのでせいぜい平らなテーブル面に置いて 触ってチェックするぐらいしか当方ではできません。その状態でもほんの微かにカタカタするので平坦ではないのが判りますがどの箇所が平坦ではないのかまで突きとめられません。申し訳御座いません・・。

↑既に当方にて「開閉アーム」を垂直状態に戻してあるのでご覧のようにキレイに真っ直ぐ伸びています。鏡筒の外壁にはヘリコイド (オス側) が切削されています。ご覧のとおりジルバ〜色なのが正しいワケで(笑)、冒頭写真のように濃いグレー状なワケではありません。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。見えにくい写真ですが非常に細かなネジ山が用意されています。

↑同様大変細かいネジ山のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑この状態でヘリコイド (メス側) をネジ込んだままひっくり返して撮りました。実は赤色矢印のとおりこのモデルはヘリコイド (メス側) が基台内部を貫通してしまう設計を採っているので実際にどの位置が「無限遠位置」なのかを判定できません。当方は既に数多くの個体を扱っているので大凡の位置を把握しており難なくセットできます(笑)

然しそれは単なる無限遠位置の問題だけではなく、このモデルではこの後で出てくる絞り羽根の開閉調整に至っても「無限遠位置の確定」が適正だったのかが問われるので「原理原則」を理解しないまま整備を進めると飛んでもないことに陥ります。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

上の写真赤色矢印をご覧頂ければ一目瞭然ですが、ヘリコイド (メス側) が基台を貫通するのに対して鏡筒 (ヘリコイド:オス側) はフィルター枠の締め付けネジが備わっている関係で一方向からしかネジ込めません。つまりヘリコイド (メス側) の停止位置をミスると致命的な調整ミスに至ります。

↑この状態でひっくり返して撮影しました。鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の裏側にはご覧のとおり「制御系」がギッシリ詰まっています。

直進キーガイド
直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが距離環を回した際にスライドして行く場所。この「直進キーガイド」もマチがあるので要調節箇所です。

開閉アーム
絞り環操作に従い絞り羽根をダイレクトに開閉させている「開閉環」から伸びているアーム。

制御アーム
絞り環で設定した絞り値で絞り羽根の開閉が停止するよう制御しているアーム。

絞り環連係爪
絞り環と実際に連係して (咬み合って) 設定絞り値を伝達している箇所。

制御環
真鍮製の途中に用意された「なだらかなカーブ」部分で具体的な絞り羽根開閉量を決める環。

カム
なだらかなカーブにカムが突き当たることで具体的な絞り羽根の開閉量が決定し伝達される。

さて、ここでのポイントが前述のヘリコイド (メス側) が基台を貫通してしまう要素 (無限遠位置の適正な停止位置) と密接に関係している部分です。

鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は回りますしヘリコイド (メス側) も回ってしまいます。さらに直進キーガイドがネジ止め固定されているものの「制御環」の位置は確定していません (スルスルと何処までも360度回せる)。

これが「原理原則」を理解しているか否かの問題です。カムが「なだらかなカーブ」の何処に突き当たるのが適正なのかを知らない限り、このモデルは正しい絞り羽根の開閉幅 (開口部/ 入射光量) で組み上げることができません。この問題が過去メンテナンス時に理解されていたのか否かになります。

↑そして今回丸ッと2日掛かりのオーバーホール作業が必要になってしまった原因が上の写真です。この「前期型」ブラウンシュヴァイク工場生産個体には「棒ばね」が2本備わっています。逆に言うとRolleiのシンガポール工場に移管されてから生産された個体には、この「棒ばね」が省かれています。

2本存在する理由は「開閉アーム用制御アーム用」だからです。「棒ばね」なのでバネが真っ直ぐに戻ろうと反発するチカラを利用しているバネ種ですが「絞り羽根を常に開こうとするチカラ」として用意されています。ここがポイントです。

↑絞り環をセットしたところです。ご覧のように「制御環の連係爪」に絞り環の連係アームが刺さっています。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが既に当方にて「磨き研磨」を終わらせています。

↑「直進キー」と「絞り連動ピン連係機構部」を組み付けます。絞り連動ピン連係機構部には「操作アーム」が飛び出ており、絞りユニットから伸びている長いほうの「開閉アーム」を 直接操作して絞り羽根を開閉する仕組みです。

↑完成したマウント部をセットしたところです。実は、このマウント部をセットする際に以下の5点を同時に調整しながら一気に被せます。

(1) 直進キーと直進キーガイドの咬み合わせ
(2) 操作アームと開閉アームの咬み合わせ
(3) なだらかなカーブとカムの位置合わせ
(4) マウント部組み付け箇所の位置合わせ
(5) もちろん無限遠位置合わせ (ヘリコイドオスメスの位置合わせ)

これだけの位置調整をキッチリ行いつつガツンとマウント部を一気に被せる作業がこの工程なので、どれか一つがズレていれば被せることができません(笑)

↑ここでようやく「絞り連動ピン」をセットできます。マウントの「」に絞り連動ピン用の穴が用意されているので、爪を固定して初めて絞り連動ピンも正しい位置で固定されます。

後のRolleiシンガポール工場での生産個体ではこの点が問題になったようで改善のために一部設計変更しています。

↑ちょっと分かりにくい写真ですが、マウントの爪にある絞り連動ピンとその内部を撮影しました。

上の写真ブルーの矢印のとおり「絞り連動ピン」が押し込まれると () その押し込まれた量の分だけ「操作アーム」が移動して ()「開閉アーム」を動かします ()。この時この「前期型」ブラウンシュヴァイク工場製個体で問題になるのがグリーンの矢印で指し示した「棒ばねのチカラ ()」であり反対方向 (絞り羽根を常に開こうとするチカラ) が架かっています。

これが今回のオーバーホールで問題になった点です。気がつかれたでしょうか・・???

冒頭写真をご覧頂くと分かりますが、当初バラす前の状態で既に「開閉アーム」が曲がっていた方向が「逆方向」なのですョ!

上の写真で加わっているチカラ (操作アーム) は絞り連動ピンの押し込みに伴い右方向に向かっていますからの時に「開閉アーム」が自然に曲がるべき方向は逆なのがご理解頂けると思います。

つまり「過去メンテナンス時に故意に開閉アームを曲げた」ことがここで判明します。

↑開閉アームが曲がってしまった理由が判明したので、ようやく改善処置に取りかかれます。「操作アーム」がある「絞り連動ピン連係機構部」だけを取り外して撮影しました。

操作アーム」は絞り連動ピンの押し込み動作でブルーの矢印 () の方向にチカラが加わりますが、その時グリーンの矢印 () の方向にチカラを与える「スプリング」が存在するのです。このチカラは「常に絞り羽根を閉じようとするチカラ」です。何と絞り連動ピンの押し込む チカラにブラスしてさらに増大させている設計なのです。

↑実際にその機構部を組み込むと上の写真になります。絞り連動ピンが押し込まれる (ブルーの矢印①) とその押し込んだ量の分だけ「操作アーム」が動きます () が、その時同時にスプリングのチカラ (グリーンの矢印③) も架かっているワケですね。

つまり「前期型」ブラウンシュヴァイク工場生産個体は「棒ばね (2本)」と「スプリング」との2つのチカラを適正にコントロールして調整しなければ「絞り羽根の開閉異常」に至る設計と言えます。

↑さらに厄介なのが上の写真 (2枚) です。1枚目が距離環が無限遠位置の時「操作アーム」は 開閉アームの付け根部分に位置していますが (写真では見えない位置)、距離環を回して最短 撮影距離まで到達すると2枚目の写真のとおり「開閉アームの先端部分」に操作アームが来ます。絞り連動ピンの押し込み動作 () で「操作アーム」が開閉アームを動かす () 瞬間です。

このことから過去メンテナンス時にも同じ不具合が発生しており「開閉アーム」を故意に反対方向に曲げて最短撮影距離位置で絞り羽根が適正に閉じるよう処置していたことが判った次第です。

ところが、おそらくフィルムカメラに装着されたままだったのか自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) が「M (手動)」設定のままだったのか、長期間その状態のまま保管され続けていたのが今回の個体だと推察します。

その結果スプリング側が経年で弱ってしまったのです。従って2本も用意されている「棒ばね」のチカラで開こうとするチカラのほうが強いので最小絞り値まで閉じずに「f5.6 (或いはf8)」で停止してしまいそれ以降閉じない現象に至っていました。

この原因を掴んだのが1日目で、2日目はその改善に要しました・・それで丸ッと2日掛かりと言う次第です。ことは簡単に話ではなく棒バネのチカラを弱くするワケにもいかず、かと言ってスプリング側を強くする方策も好ましくありません (カットして短くする方法しか無いから元に戻せなくなる)。

互いのバネ種相互のチカラ作用ですから後戻りできなくなると致命的な結末に至ります。それで過去メンテナンス時には簡単な方法として「開閉アームを故意に曲げた」ワケです。

修理広告 DOHヘッダー 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑丸一日2日目を費やして棒ばねとスプリングと戯れ、然しそれは距離環の駆動位置 (∞〜最短撮影距離位置) との関わりもあり、アッチを調整すればコッチがダメみたいな同道巡りをさんざん続けてようやく完成したのが上の写真で、既に2日目の深夜に至っていました(笑)

無事にフィルムカメラ「SL35」に装着しようがマウントアダプタにセットしようが正しく絞り羽根が開閉します。もちろんフィルムカメラでのプレビューボタンでも適正動作しますしスイッチ「A/M切替」でも問題ありません!

正直、今回はヤバい (ダメかも) と思ったくらいでしたが(笑)、時間ばかり掛ければ何とかなると言う意味不明な拘りがあるが故、成し遂げられたように考えます。具体的な処置に沿って作業していないところが当方の技術スキルの低さ故であり、どうかこのブログをご覧頂いている皆様も当方の技術スキルはその程度なのだと重々ご承知置き下さいませ(笑)

オーバーホール/修理を承ってもキッチリ最後まで改善できないことのほうが多いのが現実だったりします (リピーターの方が多い/数十人なのはほとんど1〜3年来の同じ方ばかりですので新規の方は1カ月間に数人程度/一桁台です)・・(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い個体なのですが、一部の群に経年の揮発油成分のこびりつきが酷く溶剤でなかなか除去できない箇所がありました。

↑後群側も含めこびりつきを除去しましたが極微細な点キズなどはそのまま残っていますが ピント面の鋭さは少し良くなったように思います。

↑絞り羽根の開閉は冒頭の問題点 (a) 〜 (e) まで5点についてすべて完全に改善できました。
逆に言うとこれ以上改善のしようがないのでご勘弁下さいませ (この個体は今回で最後にしたいです)。将来的に何か不具合が発生する要素は無いのですが、また経年で整備しなければイケナイ時はもぅ当方は居ないと思うので・・(笑)

筐体も経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな状態を維持した個体ですが、当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんクロームメッキ部分も「光沢研磨」したので当時のような大変艶めかしい眩い光彩を再び放っています。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース粘性:軽め」を塗りましたが仕上がった距離環を回すトルク感は「重め」です。理由はそもそもピントの山がアッと言う間なので軽すぎては却って使いにくいこともありますが、ヘリコイドのネジ山が大変細かいので (ネジ山数も多いので) これ以上軽く仕上げることができません。もちろん白色系グリースを塗ればまた違うのでしょうが、あんましネジ山を摩耗したくない気持ちが強かったりします・・申し訳
御座いません。

↑一応当方としては「マイベストな仕上がり」ですが、ご納得頂けない要素に関してはどうぞご請求額より必要額分減額下さいませ。本会員様は「減額申請」にてご申告頂けます。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。絞り羽根の開閉はどのような状況でご使用頂いても正しく機能するよう改善しました。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値「f5.6」になっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。当初バラす前の状態ではこの絞り値まで絞り羽根が閉じていなかったので如何でしょうか?

↑最小絞り値「f16」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。大変長い期間お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。