◎ Schneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Curtagon 35mm/f2.8 zebra《前期型》(exakta)

前群の(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


当方にとって、今回のモデルSchneider-Kreuznach製広角レンズ『Curtagon 35mm/f2.8 zebra (exakta)』は『超高難度モデル』です。今まで7年間で9本手掛けていますが (今回が10本目)、一日で仕上げられた試しがありません(笑)

それは、当方の技術スキルが低いが故なのですが、今回の個体は今までに扱ったSchneider-Kreuznach製オールドレンズの中で一番大変な作業になってしまいました。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ①・円形ボケ②・玉ボケ①・玉ボケ②」で、下段左端に移って「ブル〜①・ブル〜②・発色性①・発色性②」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

旧西ドイツのSchneider-Kreuznach製オールドレンズには、巷で「シュナイダーブルー」と 言われる発色性の特徴があるようなのですが (よくネットの解説で目にします)、実は当方は どんなブル〜色を指すのかよく分かっていません(笑)

当方の写真スキルが皆無であること (写真センス全く無し) が影響しているのですが、昔勤めていた家具屋の専務 (社長夫人) に「雇ってしまったけど、貴方ってインテリアセンス全くダメね!」といつも言われていたくらいなので(笑)、芸術的センスが欠落しているようです。
インテリアセンスが欠落している家具屋の店員は致命的なので、熱弁していたらお客さん (奥さん) の目が点になっていたのを今でも覚えています(笑)

様々なSchneider-Kreuznach製オールドレンズに対する当方が感じる発色性の要素は、具体的なブル〜色の表現よりも「シアンに振れる」要素のほうを強く感じるので、例えば上のピックアップ写真では下段左端からの2枚で試しに「シュナイダーブルーなのかぁ〜?」くらいの気持ちで取りあげましたが、結局見ても「???」のままです(笑)
それよりもその隣 (下段右からの2枚) のほうが、当方にとってはSchneider-Kreuznach製らしく感じる発色性を表しているように見えます。つまり色の要素としてシアン側に偏る傾向があるので「グリーン色」などが鮮やかにスッキリと出てきます。それは結果として「ナチュラル派」と言えるほどに画全体をまとめているとも感じられるので「シュナイダーブルー」をいまだに知らないワケですョ(笑)

今回扱った個体はこのモデルの「前期型」にあたりますが、新たな発見をしました。今回バラしてふっと気がついたら、第4群のカタチがネット上でよく掲載されている構成図とは異なることに気がつきました。
ちなみに第1群 (前玉) は貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) なのを清掃時に確認しています。

だとすると当時の広告で掲載されている光学系構成図の第4群とは合致しません (左図)。おそらくネット上で案内されている光学系構成図の多くがこの広告から採ってきているのではないかと推測しますが、よ〜く見ると「ALPAモデル」です (マウントが違う)。

マウントが異なれば自ずとフランジバックも違うワケで、確かに一見するとシャッターボタン装備モデルの広角レンズですから外見が近似しているのですが、肝心なexakta版はシャッターボタンが左側に位置します。つまり、全くの別モデルなので光学系や内部構造も異なる可能性が高いと考えられます (もちろん過去未扱いモデル)。

こちらの写真 (右) は、今回オーバーホール/修理の工程途中で清掃の際に第4群を撮影しました。ご覧のようにどう見ても赤色矢印のカタチは「斜め状」であり、ネットの案内や前述の広告に載っている角張ったカタチとは違います。いずれにしても、この純粋な「前期型」モデルは初めての扱いになります。

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今回のオーバーホール/修理では当初バラす前のチェック時に以下のような問題点を確認しました。

  1. フィルター枠に複数の変形/凹み/修復箇所がある。
  2. フィルター枠の変形からレンズ銘板が外れない可能性が大きい。
  3. 距離環を回す際のトルクが非常に重くピント合わせができない。
  4. 距離環を回す際にトルクムラが多く非実用的な状況。
  5. 距離環指標値 (透明窓) の「∞」位置がズレている。
  6. 絞りレバーの操作も非常に重くトルクムラが多い。
  7. 最小絞り値にセットしても絞り羽根が最後まで閉じない (f8で停止)。
  8. ピント面の鋭さが今ひとつ足りないように感じる。

また、実際に完全解体したところ次のような問題点も出てきました。

  1. 過去に一度潤滑油が注入されており既に経年劣化から揮発している。
  2. マウント部内部は白色系グリースが塗布されており化学反応を起こし摩耗させている。
  3. 絞りユニットの絞り羽根開閉にムラがある。

・・こんな感じですが、これらの与件から相当ハードなオーバーホール/修理になることが作業前に予測できました。

↑こちらの写真は当初バラす前に撮影したフィルター枠の状況です。赤色矢印が過去の凹みや打痕などの変形箇所でグリーンの矢印が過去修復時に広がってしまった箇所です。
また、フィルター装着状態でお送り頂きましたが、フィルターの着脱時に引っ掛かりを感じ、回すとトルクムラがあります。

↑こちらも当初バラす前のチェック時に撮影した最小絞り値「f22」の閉じ具合です。絞りレバーをゆっくり操作して絞り羽根の開閉をチェックすると、上の写真の閉じ具合は「f8」で止まっており「f11〜f22」まで閉じません。

↑レンズ銘板を外さなければ光学系前群にアクセスできず絞りユニットも外せません。従ってまず先に鏡筒カバーを回して取り外すのですが、複数箇所で変形しているためなのか途中で 引っ掛かり止まってしまいます (外せない)。

附属のフィルターは引っ掛かり (トルクムラ) を感じるものの一応着脱可能ですが、鏡筒カバーが外れなければ一切作業が進まないので、仕方なく専用工具を使って鏡筒カバー (フィルター枠含む) の修復作業に入りました。

その後取り外したのが上のレンズ銘板です。赤色矢印の処に「イモネジ用の下穴」があるのですが、その左側が3mmほど削れてシルバーになっています。このことから過去メンテナンス時にこのモデルの解体手順を知らない人の手による作業だったことが判明します (イモネジを外さずにムリに回したから削れた)。

ちなみに「イモネジ」とはネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種ですが、Schneider-Kreuznach製オールドレンズで使われているイモネジのほとんどが「胡麻粒の5分の1」程度の微細なイモネジであり、且つ内部の99%全ての環 (リング/輪っか) にイモネジが締め付けられています。

従って、一般的なオールドレンズをバラす際には10個ほどパーツ入れがあれば用が足りますが今回のモデルは全部で25個のパーツ入れが必要です(笑)

↑こちらはバラしている途中で撮影した距離感内部の状態です。「砂」がチラホラあるので ジャリジャリした感じです。

↑ようやくヘリコイド部に到達してバラすことができました。ヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」が塗られていたので、おそらく生産時のままだと推測できます。しかし、問題なのはその後に「潤滑油」を流し込まれていることです (グリーンの矢印)。経年劣化に拠り潤滑油の揮発した油成分が真鍮材に浸透してしまい、非常に重いトルク感 (酷いトルクムラ) に陥っていたことが判明しました。

こうなると (潤滑油が使われていると) ヘリコイドネジ山の「磨き研磨」が相当大変です。何故ならば、ネジ山の「谷部分」は磨き研磨できないので、別の方法でトルクムラを改善することになるからです。

↑こちらはマウント部を解体して内部を撮影していますが、今度は「白色系グリース」が塗られていました。絞り羽根の開閉を制御している機構部を中心に塗られていたので、過去メンテナンス時には「絞り羽根の開閉異常」が発生していたことが判明します。しかし、既に摩耗してパーツが削れており白色系グリースは「濃いグレー状」に変質しています (摩耗粉が混ざるので濃いグレー色に変わる)。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。上の写真は全てのパーツを一旦洗浄後「磨き研磨」を施してから撮影していますから、真鍮製パーツは当初「焦茶色」だったのがキレイな黄金色に輝いています。これはキレイに輝かせるのが目的ではなく「表層面の平滑性を担保する」ことが目的です。それによって各部との連係が確実になり必要外のグリースを塗らずに済む、当方の「DOH」の一環です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

5枚の絞り羽根が実装されますから、上の写真のとおり5箇所に絞り羽根が刺さる「穴」が用意されています。

絞り羽根には、必ず「キー」と言う2本の金属製突起棒 (或いは穴だったりします) が打ち込まれており、片方が「位置決めキー」で絞り羽根が刺さる位置を確定する役目で、もう一方は「開閉キー」で絞り環操作に伴い絞り羽根の角度をコントロールして開閉する役目です。

↑上の写真「開閉環」が回ることで、絞り羽根の「開閉キー」が操作され絞り羽根の角度が変わって開閉します。ところがSchneider-Kreuznach製オールドレンズでは、ほとんどのモデルで「ベアリング」を使って開閉環を回す設計なので、ご覧のように「ベアリングが入る穴」が5個備わっています。開閉環はグリーンの矢印のように入りますが、単にベアリングで保持されているだけです。

これが厄介な話で、経年で赤サビなどがベアリングに出ていると、必然的に絞り羽根の開閉がスムーズではなくなるのでベアリングでさえも「磨き研磨」が必要になります。ところが小さいですし丸いですから相当厄介です (当方は嫌いな作業です)。今回の個体は3個のベアリングに赤サビが出ていたので、有難く磨かせて頂きました(笑)

↑5枚の絞り羽根が組み付けられ絞りユニットが完成します。

↑鏡筒を横方向から撮影しました。このような感じでベアリング (5個) を組み付けますが、1個ずつ入れていくと先に入れたベアリングがポロッと落ちます(笑) もちろん手は2つしか無いので5個を一斉に入れることができません。コツがあるのですがなかなか面倒です(笑)

↑絞り羽根を開いたり閉じたりする「開閉アーム」をセットしますが「捻りバネ」により「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が働いています (グリーンの矢印)。この「捻りバネ」が経年劣化で弱まると「絞り羽根の開閉異常」を来すので先ずはこの調整がネックになります。

↑後から組み付けることができないので、ここで先に光学系前群をセットしてしまいます。

↑同様光学系後群も組み付けます。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台 (真鍮製:左) とヘリコイド (メス側:右/真鍮製) ですが、ヘリコイド (メス側) は「空転ヘリコイド」と言って360度グルグルと回るヘリコイドです。

つまり「ネジ山が無い」ワケですが、問題なのは2つとも同じ材質の真鍮製です。従ってこのモデルの距離環を回す際のトルクを決めている重要な箇所が、この「空転ヘリコイド」なので、ここの調整がポイントになります。

↑こんな感じで「空転ヘリコイド (メス側)」がセットされますが、ここに白色系グリースを塗ると「擦れ感」のある操作性になってしまいます。当方では必ず空転ヘリコイドには生産時と同じ種別の「黄褐色系グリース」を塗るのでシットリ感のある操作性に仕上がります

↑同じく真鍮製のヘリコイド (オス側) を、無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
このモデルは「無限遠位置調整機能」を装備していますが、基台内部なので後から調整できません。後から無限遠位置を調整する際は空転ヘリコイドまでバラす必要があり厄介です。

直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に 変換する役目なので、空転ヘリコイドが回ることでヘリコイド (オス側) が直進動 (繰り出し/ 収納:グリーンの矢印) する仕組みですね。

なお、上の写真を撮影するまでに6時間が経過しています。はい、ハマりました(笑)

  1. 空転ヘリコイドを回してもトルクムラが酷い。
    (空転ヘリコイドだけなら大変スムーズに回る)
  2. 直進キーが経年劣化で極僅かに摩耗している。
  3. 潤滑油によりヘリコイドネジ山が神経質になっている。
    (経年の揮発油成分が浸透したため固着し易い状態)

変形してしまった「直進キー」はもう戻せないので、仕方なくヘリコイドのネジ込み位置を 1つ分ズラしました。

同時にヘリコイドネジ山を馴染ませるため当方が「地獄のストレッチ」と呼んでいる作業を 執り行いました。具体的には雑巾の硬搾りの要領で、空転ヘリコイド側と基台側をそれぞれ両手で保持し、そのまま半周分勢いよく回し、すぐに元に位置まで戻します。それを50回続けたら次の半周に移動し同じ作業を繰り返し、ヘリコイドの繰り出し/収納の両方実施します。
2時間ほどでネジ山が馴染んできたので、塗布するグリースの種別/粘性を変更しながら適正なグリースを調べます (7種類ある)。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、全ての構成パーツを取り外して当方による「磨き 研磨」が終わった状態です。過去メンテナンス時に塗られた白色系グリースの影響から一部が摩耗しており腐食/錆が出ています。

↑「カム」と捻りバネを組み付けます。このモデルのほとんどで経年劣化から「捻りバネ」が弱るのですが、今回の個体も残念ながら既に弱っています。下手に捻りバネを調整すると折れてしまうので改善できません (過去に折れている個体が2本あった)。
各絞り値に見合う位置で「絞り値キー」と言う「穴」が用意されており、ここにベアリングがカチカチと填ることでクリック感を実現しています。

↑「絞り羽根開閉幅制御環」が回ることで「なだらかなカーブ」の位置が移動し、それに沿って「カム」の角度が変化するので「開閉レバー」の移動量が変わって設定絞り値まで絞り羽根が閉じる仕組みです。従って「なだらかなカーブ」の麓部分が「開放側」で登りつめた頂上が「最小絞り値側」です (一般的なオールドレンズとは逆の設計)。

↑角度を変えて撮影しました。「開閉レバー」がグリーンの矢印のように勢いよく動くことで絞り羽根が瞬時に閉じる仕組みですね。
残念ながら、過去に塗布された白色系グリースのせいで (濃いグレー状になっていたので既に金属摩耗している) カムと開閉レバーが互いに水平状態を維持していません。

↑今回の個体はシャッターボタンの復帰が僅かに緩慢だったので、シャッターボタン機構部を完全解体して調整します。ちなみにシャッターボタンは「自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 」も兼ねています。

この方式のシャッターボタンが非常に厄介なのが上の解説で、2個のベアリングでスプリングをサンドイッチしたまま (グリーンの矢印)、赤色矢印の穴に入れ込み ()、さらに穴にベアリング+スプリングが圧縮されている状態を保持したまま金属棒をブルーの矢印の筒の中に 差し込みます ()。

これ、相当厄介な作業で(笑)、一度でできた試しがありません。今回は6回目でクリアです(笑)

ベアリングとスプリングを5回飛ばしたワケですが(笑)、その度に床を這いつくばっている始末で恥ずかしいです。バラす前にシャッターボタンの動きが緩慢だったので、全ての金属製パーツを「磨き研磨」し平滑に戻し、且つ特大スプリングの反発力を改善させて調整しました。

↑こんな感じで「ベアリング+スプリング」が封入されている金属棒を筒の中にセットします赤色のビニタイで止めているのは、金属棒が特大スプリングのチカラでスッ飛んでいくからで今回もロフテッド軌道で一発発射してしまいました(笑) 何と悲しいことにパソコン画面に当たりキズが付いてしまいました(泣) 弾道ミサイル、やっぱり怖いです!(怖)

この方式のシャッターボタンが自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を兼ねている構造は、何のことはなく「ベアリング」が引っ掛かることで切り替わる設計なワケです。なので、シャッターボタンのツマミを右回り/左回りいずれに回しても、ちゃんとA/Mの切替ができるワケで、なかなか賢い発想だったのではないかと感心してしまいます。しかし、何度作業しても ベアリングを飛ばすので勘弁してほしいです (見つけるのが本当に大変)。

↑ようやくシャッターボタン部が完成しました (1時間かかりました)。ちゃんと調整して反発力を取り戻したのでシャッターボタンも小気味良く反応します。

↑いろいろと大変だったので、これだけで酒の肴になっちゃいそうです・・(笑)

↑さて、ここからがさらに大変な作業です。上の写真はこのモデルが装備している「被写界深度インジケーター」の心臓であるギア部です。互いにグリーンの矢印のように動くことで歯車が回っています。ここにも白色系グリースが過去メンテナンス時にピッチリと塗られており「濃いグレー状」になっていました。残念ながらこの部分も歯車が水平を維持して回らなくなっています。

↑上の写真を撮影したのは、実は次の日でした。このインジケーターの動き (ひいてはギア部の動き) が滑らかではないのです。ここがスムーズに軽く動いてくれないと最終的に「絞りレバー」の操作が固くなってしまい絞り値の変更が苦痛になります。

しかし、スムーズに動かない原因を突きとめるにも、関係する部位はマウント部内部の各連動系・連係系パーツからしてチェックしなければイケマセン。アッチを動かしつつコッチの様子を見て、コッチの動きがこうならそっちはどうョ?!・・みたいなことを延々と続け、ようやく根本原因を掴みました。

原因は「歯車が水平を維持していない」ことでした。撓んだような動きで回るのが影響しインジケーターが途中で引っ掛かります (つまり絞りレバーは固い操作性に陥る)。既に歯車の軸が摩耗しているため水平に戻すことは不可能です。結局、ギア部の位置調整で改善する方策を考えついたのが2日目の本日だったワケです(笑)

↑絞りレバーとの連係パーツが上の写真「連係アーム」なのですが、以前このパーツが破断してしまい大変なことになりました (折れると絞り値の変更ができなくなりジャンク品に至る)。そもそもパーツの設計が拙いのです。赤色矢印のネジ穴がギリギリのサイズで空けられているので、そこから破断し易いと言えますし、グリーンの矢印のアーム部分は細いので固いからと言って強いチカラで絞りレバーを操作すると簡単に折れそうです。

↑鏡胴カバーになりますが、内側を「磨き研磨」してあります。

↑この内側に「絞りレバー」がセットされます。このツマミを横方向にスライドさせて動かすことで絞り値が変わります。

↑被写界深度インジケーター機構部が完成しているマウント部にヘリコイド筒をセットします。

↑「絞りレバー」のツマミ裏側にある「爪」が、前述の「連係アーム」を掴んで動かしている仕組み (グリーンの矢印) ですから、絞りレバーの操作が固いと致命的なのがご理解頂けると思います。

↑ここで先に被写界深度インジケーターのパネルをセットしてしまいます。

↑鏡胴カバー (絞りレバー) を組み付けますが、ここでインジケーター (赤色のバネル) の左右の開閉を調整しておきます。

↑距離環の「透明指標値板」を正しいポジションで組み付けます。当初バラす前のチェックでは、この「∞」刻印位置がズレていたのでキッチリ「Ι」マーカーに合わせてあります。

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もう既に2日目に入っているのにここで再びハマりました・・(泣)

絞りレバーを回して設定絞り値を変えても絞り羽根が正しく開閉しません。当初バラす前と同じ「f8」でストップしてしまい「f11〜f22」まで閉じません。

↑仕方なく鏡筒を取り外して「捻りバネ」の反発力 (赤色矢印) をチェックしたり、開閉アームの位置調整 (ブルーの矢印)、或いは開閉アームの移動量 (グリーンの矢印) など、凡そ考えられる原因箇所をすべて確認しますが、何をやっても改善できません (つまり鏡筒は正常と判断)。

↑ようやく「絞り羽根開閉異常」の犯人を確定しました。原因はマウント部内部の「開閉レバー」の移動量が一定ではないからでした。

つまり、過去メンテナンス時に塗られてしまった白色系グリースによる金属摩耗で開閉レバーの動きが水平を維持できなくなったからです。結果、適正な移動量にならず鏡筒の開閉アームを正しく操作できず絞り羽根の開閉異常に至ります (この原因を突きとめるのに2時間を要した)。

残念ながら、一度擦り減ってしまった金属を元の厚みに戻すことはできません。申し訳御座いません・・。

↑いよいよ最後の追い込みです (もうすぐ完成)・・と思いきや、ここで三度ハマりました。
ちょっと、もうイヤになってます・・(泣)

レンズ銘板をヘリコイド (オス側) にネジ込んで固定したのですが、何とかトルクムラが少なくなっていたヘリコイドの動きが突然固くなりました。

再びヘリコイドをバラした状態まで戻って試すと問題がありません。散々調べまくって2時間が過ぎた頃に判明しました。

↑レンズ銘板はヘリコイド (オス側) の内側にネジ込む固定方法なのですが、上の写真赤色矢印の場所から先まで完全にネジ込むとヘリコイドが固くなります。上の写真のように隙間が空いている状態ならば大変スムーズにヘリコイドは回ります。

つまり、ヘリコイドがスムーズに回らない (トルクムラが非常に多い) 根本的な原因は、レンズ銘板が極僅かですが変形しているのです。

おそらく、これは鏡筒カバー (フィルター枠) の変形と関連していると考えられます。過去に落下かぶつけたかで変形した時にレンズ銘板まで真円を維持しなくなってしまったのだと推測します。そもそもレンズ銘板が滑らかにネジ込めないので (途中で急に固くなる) 真円ではないことが判りました。

つまり、レンズ銘板をネジ込むことで真鍮製のヘリコイド (オス側) が極僅かに膨張するので、その結果ヘリコイドが固くなってしまうようです。

ここでやった改善処置は・・ひたすらにレンズ銘板のネジ山を2時間がかりで「磨き研磨」しました。もう手の握力も腕のチカラも限界に来ています。最後のチカラを振り絞って、ようやく納得できる状態まで改善できました。

この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後に鏡筒カバーと距離環をセットすれば完成です。

修理広告

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑こんな超ハードなオーバーホール/修理の作業になるとは全く予想していませんでした。
丸2日間がかりで地獄のストレッチまでやって、さらに最後の最後でハマりまくると言う・・もぅ何でもあり・・みたいな(笑)

やっと完成しました。やはり当方には「超高難度モデル」でしたね・・。
自らの技術スキルの低さを、これでもかと思い知らされた2日間でした。どうかこのブログをご覧頂いている皆様も、当方を買い被らぬよう切にお願い申し上げます。プロのカメラ店様や修理専門会社様よりも低い技術スキルですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。コーティング層の経年劣化もそれほど進行しておらず大変クリアです。

↑光学系後群もキレイな状態を維持しています。当初バラす前の実写チェックで「ピント面の甘さ」がありましたが、原因は光学系前群の締め付けが緩かっただめでキッチリ改善させています。

↑当初バラす前のチェック時に「f8」でストップしていた絞り羽根は最小絞り値「f22」まで ご覧のように閉じるように改善しました。

但し、シャッターボタンのスイッチが「自動 (●●の位置)」の時のみ正常に開閉します。スイッチを「手動 (●●の位置)」にセットした時、絞りレバーをスライドさせて「f8」以降はお手数ですが、必ず一度スイッチを半周回して「A/M切替」を実施してください。「M→A→M」することで絞り羽根が適正位置まで閉じます。

特にマウントアダプタ経由でのご使用時はこの操作が必須になります。マウント部内部「開閉レバー」が水平を維持していないのが原因なので、申し訳御座いませんが改善できません。
(スミマセン)

ここからは鏡胴の写真になります。一応当方による「磨きいれ」を施しましたし、ゼブラ柄などのクロームメッキ部分も「光沢研磨」済です。刻印指標値の一部が清掃時に褪色したため 当方にて「着色」しています。

↑塗布したヘリコイド・グリースは黄褐色系グリースの「粘性:軽め」を使いましたが、レンズ銘板の影響から「重め」のトルク感に至っており、同時にトルクムラも生じています。
これ以上レンズ銘板のネジ山を「磨き研磨」すると今度はレンズ銘板がガタつき固定できなくなるので改善できません。

当初の非常に硬いトルク感と比較するとだいぶ改善されており、ピント合わせができる実用のレベルには仕上がっていると思います。絞りレバーの操作も重いですが、やはり当初状態よりは改善できています (クリック感のみ当初と同程度)。クリック感をシッカリさせるとレバーが途中で止まるので当初の感触に再び戻しました (この時も再び解体して調整しています)。

↑開放時の被写界深度インジケーターの状態です (当初左側の赤色バネルがズレていた)。

↑最小絞り値「f22」時のインジケーターの状態です。均等にインジケーターが開閉するよう 仕上げています。

↑なお、距離環を回す際のトルクムラに影響しているレンズ銘板の変形問題から、レンズ銘板も鏡筒カバーもイモネジによる締め付け固定をやめました。理由はイモネジで締め付けると 途端にヘリコイドが固くなるからです。鏡筒カバー、或いはレンズ銘板の何処の変形が影響しているのか検査する機械設備が無いので見当着きません。

従って、鏡筒カバー (フィルター枠含む) とレンズ銘板は共に固着剤だけで固定しているため、もしもフィルターを外す場合はグリーンの矢印鏡筒カバー部分をシッカリ保持したままフィルターだけを回してください。保持せずにフィルターだけ回すと鏡筒カバーの固着剤が剥がれて一緒に回ってしまう可能性があります。

↑当レンズによる最短撮影距離35cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞りレバーをスライドさせてf値「f4」で撮影しています。

油さらにスライドさせてf値「f5.6」で撮りました。

↑f値「f8」になっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間お待たせしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。