◎ LEITZ WETZLAR (ライカ/ライツ) SUPER ANGULON 21mm/f3.4 silver(LM)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。今回は当方での扱いが初めてのモデルなので当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


今回はいつもオーバーホール/修理を承っている方からのご依頼でライカレンズの「DOH」を承りました。ライカレンズのことはよく知らないのですが、今回のモデルは1958年に発売された「SUPER ANGULON 21mm/f4」の後継モデルとして1963年に登場し1980年まで製産が続けられていたようです。製産元はSchneider-Kreuznachとのことです。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・背景ボケ①・背景ボケ②・背景ボケ③」で、下段左端に移って
「被写界深度・パースペクティブ①・パースペクティブ②・逆光」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

焦点距離21mmの超広角レンズですが、光学系の構成はレトロフォーカス型ではなく4群8枚の対象型 (ビオゴン型?)です。開放から鋭いピント面を構成し、周辺域の流れや歪みが少なく大変気持ちの良いパースペクティブ感のある描写が特徴でしょうか。

今回のご依頼は「光学系内の劣化、及びクモリ」とのことですが、バラす前のチェックで以下のような問題が確認できました。

  • 光学系内に汚れ (?)、クモリがある。
  • 実写確認ではFlickriverの実写ほどピント面の鋭さを感じられない。
  • 前玉と後玉外周部に茶色のリングが見え、一部に白っぽい箇所がある。
  • フィルター枠に1箇所凹みがある。

・・こんな感じです。

↑こちらは光学系前群の硝子レンズ格納筒 (真鍮製) をバラした時に撮影した写真です。

当初バラす前のチェックで前玉の外周部に「茶色のリング」が見えていましたが、その犯人は赤色矢印部分にある「赤サビ」でした。

↑こちらも光学系後群側の硝子レンズ格納筒ですが「赤サビ」の状況 (赤色矢印) は、こちらのほうが分かり易いでしょうか。

これらの硝子レンズ格納筒を清掃したところ「黒色反射防止塗膜」まで一緒に取れてしまいました。通常、生産時に焼き付け塗装されている黒色反射防止塗膜は清掃しただけで取れません。従って、過去メンテナンス時に塗られたのではないかと推測します。よ〜く観察すると、この「赤サビ」は格納筒の外回りにもポツポツと生じているのが分かり、至る処に発生しているようです。

↑当初バラす前は光学系内に白っぽく見える部分がありました。

↑こちらは光学系前群を取り外して撮影しています。赤色矢印の箇所のコバ着色が無いので格納筒側の「赤サビ」が見えており、且つ一部は白くなって見えていた部分だと推測します。

なお、第2群の貼り合わせレンズ (3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) には、グリーンの矢印の箇所に汚れ状のモノも確認できます。

↑こちらは光学系後群を撮影していますが、同様にコバ着色 (赤色矢印) されていません。

前述のように、硝子レンズ格納筒の内壁側を反射防止塗装 (黒色) するのは分かりますが、硝子レンズのコバ端がこのように無着色になっていると内面反射によるコントラストの低下を招く懸念があるのではないかと考えます。

念のため同型モデルの写真をネットオークションなどで確認すると、ちゃんと光学系内が真っ黒な個体がほとんどですが、似たように白っぽく見えている個体も僅かにありました。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部を解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割する構造です。

残念ながら、鏡胴「後部」側の「空転ヘリコイド」を固定している固定環の固着が酷く、溶剤を何度注入しても加熱処置しても全く外すことができませんでした。仕方なくヘリコイド解体を断念しました。申し訳御座いません。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

↑たったの4枚しかない絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルはご覧のように絞り羽根を閉じていくと「四角形」になります。

↑ここで絞り環をセットしますが、フィルター枠の1箇所が凹んでいるためにレンズ銘板も外すことができませんでした。

↑光学系前群を組み付けます。鏡胴「前部」はこれだけで完成ですので、この後は鏡胴「後部」ですが今回は解体できていないので、そのままセットするだけです。

↑鏡胴「後部」を正しい位置で組み込んでからマウント部の「LMマウント」をセットして、最後に光学系後群を組み付けます。無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑今回初めて扱ったモデル『SUPER ANGULON 21mm/f3.4 silver (LM)』です。レンズ銘板自体にフィルター枠が一体成形で用意されているために、外壁部分のアルミ合金材が凹んでいることから圧がかかっておりレンズ銘板を外すことができません。

当初バラす前のチェックでは、フィルター着脱は可能でしたが凹み箇所で引っ掛かリながら回る印象でした。専用工具を使ってスムーズにフィルター着脱できるように改善させています。

↑コバ着色を4群全てに施したので、当初白っぽく見えていた部分が無くなりました。

光学系内のクモリは全ての群に生じていましたが、特に第2群のクモリを清掃し除去したところ「汚れ状」の部分は除去できず残りました。残念ながら、これはバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) だと考えます。当方ではバルサム切れの処置は機械設備が無くできないので、そのまま組み込んでいます。申し訳御座いません。

↑光学系後群側もクモリが無くなり透明度が戻りました。

↑絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。当初バラす前の時点で絞り環操作に極僅かな抵抗を感じていましたが「磨き研磨」により小気味良いクリック感に改善できています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を感じない大変キレイな状態を維持しています。残念ながら鏡胴「後部」の解体ができなかったので「磨き研磨」及び筐体外装の「磨きいれ」ができていません。申し訳御座いません。

↑従って、ヘリコイドグリースも入れ替えできていませんが、当初より適度なトルクでしたので問題は無いと思います。

↑当初バラす前の実写チェックでピント面が甘いような印象があったのですが、原因は光学系後群内の第3群の締め付けが確実ではなかった (過去メンテナンス時の反射防止塗装が固まっており干渉していたために最後まで締め付けされていませんでした) ことと、さらに光学系後群の締め付け自体が最後まで入っていませんでした。

そのような問題があったので、普段はやらないのですが硝子レンズ格納筒の内壁側も溶剤で洗浄してから「磨き研磨」を施し、硝子レンズの固定時に引っ掛からないようにして光学系を組み込んだ次第です。結果、鋭いピント面が戻ったのですが、残念ながらバルサム切れの影響が描写に現れています。

申し訳御座いませんが、光学系第2群のみバルサム切れの処置ができる整備会社様に再度ご依頼頂くようお願い申し上げます。

↑当レンズに夜最短撮影距離40cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑氏ぼ゛りかんを回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値「f8」で撮影しています。

↑f値「f11」になっています。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間お待たせしてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。