◎ ISCO – GÖTTINGEN (イスコ・ゲッチンゲン) WESTROMAT 50mm/f1.9 zebra《前期型》(M42)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いため今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

ISCO-GÖTTINGEN社はSchneider-Kreuznach社の出資による完全子会社になりますが民生光学製品の設計や生産を目的として創設されたのではなく当時のドイツ軍部の要請から政府指示で分社化されました。会社創設の真の狙いは第二次世界大戦中のドイツ空軍爆撃機に装備する高性能な爆撃照準器や航空撮影器に使用する高性能なレンズの生産が当初の目的だったようです。

今回オーバーホール/修理する個体はこのモデルの「前期型」にあたりゼブラ柄鏡胴の意匠になりますが登場したのは1960年のようです。

後期型:1964年〜

筐体材質:エンジニアリング・プラスティック製
レリーズ (穴):無し
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ):有 (リング状に変更)

光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型です。ISCO-GÖTTINGEN製標準レンズには前回整備した「WESTROCOLOR 50mm/f1.9」があるのですが、今回のモデルは廉価版の格付で登場しており1964年からは上の写真のようなプラスティック製の筐体に変わってしまいました・・同じプラスティック製でもENNA製「ENNALYT」のシリーズに比べると格段造りは精密で誤差も少ないです。描写性も廉価版の格付としての性格が色濃く出ているようです。

今回のオーバーホール/修理は「絞り羽根が開放になりにくい」「距離環のトルクが重い」「筐体にガタつきが多い」と言うご依頼内容です。整備するためにバラそうとしたのですが・・。

マウントに締め付けられているイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 1本を外しても絞り環カバーが全く外れません。普通ISCO-GÖTTINGENのオールドレンズはこの状態で絞り環カバーがクルクル回って外せるのです。幾つかの専用工具を持っているのですがどれを使っても全く歯が立ちません。残念ながら完全解体による整備はできないようです・・申し訳御座いません。

もうひとつの確認事項として「ピン押しタイプ」のマウントアダプタに装着してどうなのか・・があります。

実はISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズの場合特に「M42」マウントのモデルは絞り連動ピンの位置が一般的な「M42」マウントのオールドレンズと比較してズレているのです。

上の写真はご依頼者からお送り頂いた「ピン押しタイプ」のマウントアダプタですが、絞り連動ピンの位置が内側にズレています・・結果、全くピン押しの状態になっていません。

こちらの写真は当方所有のマウントアダプタに装着した状態を撮っていますが、やはり絞り連動ピンの位置が内側に来るのでピン押しの状態になりません。これらの写真はいずれも整備を始める前の段階 (つまり届いたままの状態) で撮っています。

上の写真はバラせる部分を一部解体して絞り羽根を取り出した写真ですが、ご覧のように6枚の絞り羽根のうち1枚に「カム」が付いています。絞り羽根自体がカムに直接打ち込まれて固定されているので外すことはできません。

ISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズの場合はほとんどのモデルでこのような絞り羽根の制御方法を採っており、結果として絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) のカタチが歪になります。6枚並んだ絞り羽根の1枚を強制的に動かして開閉をする考え方なのですが、だいぶムリな設計ですね。

 

DOHヘッダー

 

ここからは整備が完了したオールドレンズの写真になります。

当初バラす際にレンズ銘板が固着していたのでだいぶチカラを入れて回したためにカニ目溝に痕が残っています。固着剤が全週に渡って塗られていたのですがレンズ銘板が外れなければ前のほうからも解体できず何もできないことになってしまいます。

光学系内は第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) にバルサムの汚れが少しあります (経年劣化でバルサムがはみ出てきた分)。清掃でだいぶキレイになったと思います。バラした際に第2群の貼り合わせレンズ部がコトコトと鳴っていました。過去のメンテナンス時に固定環が僅かに締め付けが足りていないまま固着剤で止めてしまったようです。従って最初の試写時点で僅かに画像が甘く感じていた原因はこれだったと思います。

光学系後群もキレイになり光学系内の透明度はだいぶ高くなりました。

絞り羽根もバラしたのでキレイになり確実に駆動しています。当初絞り羽根の駆動が不安定だった原因は前述の光学系第2群の締め付け不足です。最後までキチンと締め付けられていないまま固着させてしまったので固定環がその分ほんの僅かに出っ張っていました。結果、その突出分が絞りユニットの枠に当たっており絞り羽根の駆動を邪魔していたようです。

光学系第2群の固定環をキッチリ締め付けて格納したら絞りユニットは問題なく駆動しています・・このモデルは絞りユニットの固定を光学系前群に代用させているので、そのような問題が生じていたのです。

ここからは鏡胴の写真です。

塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を塗りました。距離環を回すトルクは滑らかになり「普通」程度の仕上がりになっています。マウント側を解体することができなかったので基台とマウント部との固定が緩んでいると思います・・それが原因で筐体にガタつきが生じているのですが、今回もマウント部をバラしていないので改善できていません。完全に絞り環カバーが固着していてどうにもなりません。申し訳御座いません。

普通にご使用頂けるよう適正な状態には整備が完了しています (ガタつきは残っています)。絞り環の操作性も軽く仕上げています。

なお、絞り連動ピンの問題ですが以下解説していきます。

上の写真 (2枚) は、同送頂いたマウントアダプタを装着する際の絞り連動ピンの状態を撮っています。1枚目がスイッチを「自動」位置で装着した場合で絞り連動ピンは出たままになってしまうので機能しません (押し込めません) し絞り羽根も異常な動作になります。2枚目はマウントアダプタを装着する前に一度「手動」にしてからマウントアダプタを装着しスイッチを「自動」に切り替えると、そのまま絞り羽根は正常駆動するようになります。

本来「ピン押しタイプ」のマウントアダプタなのですから絞り連動ピンは押し込まれた状態になり「手動」時と同じようにマニュアル操作で絞り羽根が駆動できなければイケマセン。その状態に近い状態が2枚目の写真ですが、いちいち「手動」にしてからマウントアダプタをネジ込まなければダメです。

こちらの写真は絞り連動ピンを横方向から撮った写真ですが、このように丸まっているカタチなのが問題を起こしています。この丸み分がマウントアダプタの縁部分を通過する原因なので機構部の調整でどうにかできるワケでもありませんし全くの設計上の問題ですから仕方ありません (当方の責任ではありません)。

ISCO-GÖTTINGEN製オールドレンズの設計ミスなのか、或いは当時のフィルムカメラ「EDIXA」側との問題なのか不明ですが上の写真の部分を測ってみると明確になります。絞り連動ピンの端からマウントのネジ山 (反対側) までの距離を測ります。

こちらの写真は例として一般のM42マウントモデルに「EBC FUJINON 55mm/f1.8 (M42)」を並べています。同じように絞り連動ピンの端から反対側のマウントネジ山端までの距離を測ります。

すると左側①のWESTROMATは「39mm」の寸法になりますが一般的なM42マウントモデル②のEBC FUJINONでは「40.5mm」です・・つまり「1.5mm」もWESTROMATのほうが内側に絞り連動ピンが位置していることになります。

これが今回の「ピン押しタイプ」マウントアダプタとの関係で起きる不具合の問題ですので当方の整備結果による問題ではありません。ちなみに、WESTROMATをご使用になる際は「手動」にセットしてマウントアダプタに装着して頂ければ問題なく絞り羽根は正常駆動します。

以上、整備内容のご報告と確認するようご指示頂いた分の結果報告とさせて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。