◎ Carl Zeiss Jena Tessar 50mm/f2.8 black《Gutta Percha》(M42)

あまりレンズに対しては直接関係のない事柄なのですが(笑) 最近ちょっと気になっているので解説だけしておきます。


この「Tessar 50mm/f2.8」のモデルに対する描写の評価を現す異名として「鷲の目」或いは「鷲の目テッサー」と言う表現が昔からされているのですが、最近「鷹の目」や「鷹の目テッサー」が特に多くなってきたように感じます(笑) それはそれで「鷲」だろうが「鷹」だろうが構わないのかも知れませんが、海外ディーラと英語でやり取りしているとちょっと日本国内でのこの表現が気になったりします。もちろん英語に堪能なワケではないので、昔のことですが英語圏のディーラに指摘されたのを思い出してのコトです・・。

「鋭い目」或いは「目つきの鋭い」と言う表現に「eagle eye」や「eagle-eye」と言いますが、「hawk eye」と「Hawk (鷹)」は使わないようです。特にこのテッサーに関しては異名的に「eagle eye」と言う表現をカメラ界ではしているのだと英語圏のディーラにクギ刺されたことがありました(笑) それで調べてみると、特に日本に於いては「鷲」も「鷹」も「タカ科の猛禽類」或いは「ワシタカ科猛禽類」の種別であって単に個体の「大きさ」によって全長が「90cm以上」を「鷲」、「50〜60cm」辺りを「鷹」と呼称しているだけのようです。これは英語圏でも具体的な成体の大きさはともかく似たように「大きさ」で呼称しているようですね(笑) 「何だよ・・」と言うコトですが(笑) Tessarについての異名としては「鷲の目テッサー」が正しいのでは・・と言う話でした。

製造番号から当レンズは1962年頃の生産個体のようですが、1960年代の後半になると距離環ローレットに「アルミ材削り出し部分をクロームメッキ仕上げ」した俗に言う「ゼブラ柄」ローレットが登場します。確かにそれまでのアルミ材削り出しクロームメッキ仕上げだった、いわゆるシルバー鏡胴の時代が長かっただけに、当時「最高級品」を謳っていた (1st Quality) ワケですからその高級感を意匠デザインにも取り入れるべきだと言う考えから距離環ローレットに拘って、ワザワザ硬質ゴム材を仕入て加工設備を整えてコストと時間を掛けたようですね。それはそれで「正」だったのでしょうが世界規模で当時流行ってしまったのは、意外にもその後の「ゼブラ柄」だったワケで少々拍子抜けでしょうか・・。単にアルミ材削り出し部分の加工を替えるだけで済んだワケですから、コストと時間を考えれば飛びつくに決まっています(笑) 結果としてこの「Gutta Percha」ローレットのモデルは非常に少ない生産数で消滅していったワケで・・ちょっとロマンを感じてしまいました。

「Gutta Percha」は「ガタパーチャ」或いは「グッタペルカ」と呼称されており、マレーシア原産のアカテツ科の樹木から採れる樹液を加工したゴム状の樹脂になります。「ゴム」と言うとすぐに伸縮性のあるゴムを連想される (輪ゴムなど) と思いますが、ローレットに採用されていたのは硬質系のゴム材です。カチカチに固まってしまいまるでプラスティックのようです。このGutta Perchaの品質レベルが当時はまだ完成の域に達していなかったので、経年劣化によりヒビ割れが入りボロボロになりハガレ落ちてしまいます。距離環ローレットですから撮影時には頻繁にチカラを入れて触る場所です。そこがボロボロに剥げ落ちるのでは困りますね。しかし当時は経年劣化などの検証設備もまた限られたレベルですから経年劣化の不具合を予測してローレットをゼブラ柄に変えたのではなく、あくまでも「当時流行ってしまった」のがその後の変更の理由のようですね。

当レンズは前オーナーによる「完全手動絞り (実絞り)」の加工が内部パーツに施された個体でしたその詳しい内容や当方が今後の使用を考慮してさらに手を加えた事柄などは、こちらの「オーバーホール中の写真」ページに掲載していますので、ご入札される方は必ずご覧下さいませ。

今となっては貴重になってしまった (個体の状態が良いので) 「Tessar 50mm/f2.8 Gutta Percha」モデルですが、前オーナーによっていじられていたにせよ、渾身の思いを込めて完全オーバーホールを執り行いました。実絞りではありますが、デジカメ一眼にマウントアダプタ経由装着するのを考えれば、むしろありがたく思われる方もいらっしゃるでしょう・・。実際仕上がってみると「残しておこうかな?」と一瞬心の中を不純なる動機が巡ったのを反省しつつ・・出品いたします。どうぞご検討下さいませ。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

この個体は残念ながら光学系前群のレンズ固定環が完全固着化しており、光学系前群のみ解体できていません

TE5028g(0113)11ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程写真になります。

まずは絞りユニットと光学系前群を収納する鏡筒です。

アルミ材削り出しのパーツですがメッキ仕上げが施されており、当時のCarl Zeiss Jenaは主に「薄紫色」の仕上がり色になっています。

TE5028g(0113)12実際に絞り羽根を1枚ずつ組み付け絞りユニットを完成させます。この時点で絞り羽根開閉域の当たりをつけておきます。

「Tessar 50mm/f2.8」の絞りユニットは、このモデル以前の銀色鏡胴 (アルミ材削り出しのクロームメッキ仕上げ) も含めこのモデルの時代までは絞りユニットの締め付け「固定環」を有していましたが、このモデルから後のゼブラ柄モデルから最後期モデルに至るまでは絞りユニット自体を「光学系前群」を使って締め付ける方式に内部構造を変えています。

結果「最短撮影距離50cm」からそれ以降のモデルでは「最短撮影距離35cm」に縮めているようですね。光学系構成の仕様変更は最後まで一度も見直されずに3群4枚のテッサー型を堅持しましたが、光学系内のレンズ自体の仕様は当然ながら変更されたものと考えられます。

TE5028g(0113)13鏡筒に絞り連動ユニット関係を組み付けます。

現在出品中の当レンズは、前オーナーによって内部がいじられており「完全手動絞り (実絞り)」でしか機能しないよう施されていました。

施された内容は「絞り連動ユニットの一部パーツ切削」「絞り連動ピンのカット」「絞り連動アームの非機能化」の3つです。

それはそれで「完全手動絞り」にして使うのは分からないでもありませんが、その仕上げ方が粗くあまり深く考えずにやってしまったようです。

切削加工面の状態を見ると、処置したばかりのようなので (経年の変色など無し) つまりは処置に失敗しての処分だったのでしょうか・・。

今後の将来的な不具合を避ける意味から再度手を加えています。

TE5028g(0113)14上の写真で横方向のマイクロバネが接続している絞り羽根開閉機構部が一部切削されていました。その部分はキレイに処置されていましたがムリなチカラを加えてしまったようで弱くなっていました。その部分を当方にて補強材を付け問題を回避しています。

次の写真は絞り環や距離環のための基台です。

TE5028g(0113)15距離環(ヘリコイド:メス側)をネジ込んで、無限遠域の当たりをつけておきます。

TE5028g(0113)16

鏡筒(ヘリコイド:オス側)を正しいポジションにネジ込みます。

鏡筒と距離環との境目の段差がキレイに整いました。

TE5028g(0113)17絞り環とマウント部を組み付けます。この時点で絞り羽根開閉域の確認を行い絞り環が正しく機能しているのかのチェックをしておきます。

TE5028g(0113)18この後は絞り連動ピンや絞り連動ユニットのアームなどを組み付けて調整します。

この個体は光学系前群が解体できませんでしたが、残念ながら前群内に「毛のような塵」が混入しており、また前玉外周部裏面にはカビも数点LED光照射でようやく視認できるレベルで確認できました。その塵を撮って掲載しています。カビは写真内には写りませんでした。ザワザワとボケて見えているのは前玉の拭きキズが光を受けてボケて写り込んでいます。

いずれも光学系内の状態は撮影した写真への影響は認められませんでしたので問題ありません。

TE5028g(0113)19ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

距離環のローレットにGutta Perchaの硬質ゴム材をエンボス加工で貼り付けたモデルで稀少です。この「稀少」と言う表現の意味がちゃんとありまして(笑)、生産されてから半世紀前後の時間が経過しているワケですからこの硬質ゴム部が経年劣化しポロポロと割れて剥がれて来ている (或いはヒビ割れしている) 個体が最近はさすがに多くなってきています。そのために海外オークションでも出品される個体数は激減しているようですね。

出品中の当レンズは、この硬質ゴム部の状態が大変よろしく「稀少」だなと感じたワケです。

TE5028g(0113)1

光学系前群は見る角度によってはこのようにキレイに見えますし、カビも写そうとしましたがやはり写らないです。

TE5028g(0113)2絞り羽根はキレイになり確実に機能しています。前述の説明通り前オーナーによる加工部位も補強剤を付けたことで問題なく機能するようになりました。バッチリです(笑)

TE5028g(0113)3ここからは鏡胴の写真です。距離環ローレットの硬質ゴムの状態が良く最近では珍しいですね。経年の使用感を僅かに感じる外観ですがキレイな状態を維持していると思います。

写真1枚目をご覧頂くと写っていますがこの個体は「プレビューボタン」を外しました

装備したままでもいいのですが、前述の補強剤を付けた部位に対する「負荷」が常に掛かる仕様なので、使わないボタンである以上前オーナーにより内部パーツもいじられていたので負荷を避ける意味から外しています。

本来プレビューボタンが存在していた位置は、写真では「細長い四角い隙間」として写っています。

TE5028g(0113)4 TE5028g(0113)5 TE5028g(0113)6 TE5028g(0113)7絞り羽根の開閉に関しては「完全手動絞り (実絞り)」のみの個体にはなりますが、デジカメ一眼にてご使用になるなら特に問題無い内容でもあり、実用性を考慮した完璧なオーバーホールを施しています。ご安心下さいませ。

TE5028g(0113)8光学系後群は清掃実施しキレイになっています。

光学系内はLED光照射によりようやく視認可能なレベルの拭きキズや汚れがありますが、それらは結果として写真への影響はありませんでした。

なお、前オーナーによる処置で短くカットされてしまっていた「絞り連動ピン」は全く機能していないので外しています。下の写真で「丸い穴」として写っている部分になります。

TE5028g(0113)9当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放による実写です。テッサーらしい描写ですね。

TE5028g(0113)10