◎ CARL ZEISS JENA (カールツァイス・イエナ) PRAKTICAR 20mm/f2.8 MC(PB)

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この2週間、毎日ひたすらに承っているオーバーホール/修理のオールドレンズを整備し続けています。他の方々も含めて、当初ご案内の返却予定より大幅に遅れており誠に申し訳御座いません。受付順に整備していきますので今暫くお待ち下さいませ。スミマセン。

レンズマウントが「PRAKTICA bayonet (プラクティカ・バヨネットマウント:PB)」なので、なかなかデジカメ一眼やミラーレス一眼に装着したくてもマウントアダプタが存在せずに何年間も憂き目をみていたマイナーなモデルです。しかしこの数年でカメラ側の進歩と共にマウントアダプタもようやく用意され本領発揮できる日が来ました・・是非ともこの素晴らしいモデルの描写性を愉しんで頂けたらと思います。

モデル銘の「PRAKTICAR」はネイティブなドイツ人の発音では「プラクティカー」であり、仮に英語で発音しても同じ「プラクティカー」です。それがどう言うワケか日本では昔から「プラクチカール」と呼ばれ、それこそロシア人やポルトガル人の発音になってしまっています (当方も以前米国人に貴方は本当はポルトガル人なのですか?とマジ顔で質問されましたが) (笑)

1983年にPENTACONから発売されたフィルムカメラ「B100」用の交換用レンズ群として用意された超広角レンズです。ネット上では真しやかに1979年に発売されたCarl Zeiss Jena製「MC FLEKTOGON 20mm/f2.8 (M42)」のマウント部をM42からPBマウントにすげ替えただけと解説されていますが実際に今回バラしてみると内部の構造は新たな設計で開発された全くの別モノです。同じPBマウントの標準レンズや広角レンズなどと同じ構造化が成されており鏡筒やマウント部などは、ほぼ共通に近いパーツ化の設計で作られているようです。

今回のオーバーホール/修理は「絞り羽根の開閉異常 (不安定)」と言う内容でしたが届いた個体を確認するとご指摘の症状の他に距離環もグリース切れを起こしており既にスカスカの状態に至っていました・・ヘリコイドのネジ山が咬んでしまう寸前の危険な状態です。不具合の「絞り羽根の開閉異常」に関しては当初バラす前の段階では絞り羽根の油染みが原因のようにも見えましたがレンズの角度を変えて絞り羽根の駆動をチェックすると動いたり動かなかったりと不安定です。仮に絞り羽根の油染みが原因なのだとすればレンズを保持している角度に関係なく似たような不具合が発生するハズなので、どうも別の原因のような気がしました。考えられるのはマウント部内部の絞り連動ピン機構部 (のマイクロ・スプリング) ですが、このモデルのマウント部内部は至って単純な構造なので (絞り連動ピンが88個のベアリングで回っているだけ) それが原因とも考えられません。ハッキリしないままバラし作業に入った次第です。

pr2028%e6%a7%8b%e6%88%90%e2%91%a2光学系は6群6枚のレトロフォーカス型で、それこそCarl Zeiss Jena製「MC FLEKTOGON 20mm/f2.8 (M42)」と非常に近似した構成です。最短撮影距離も同じ19cmなのですがバラしてみると鏡筒カバー (つまり光学系前群が収納される場所) の深さが全く異なっているので新設計による光学系だと推測しています・・実際バラしたところ光学硝子レンズを格納する格納筒のサイズも仕上げ方も違うので「MC FLEKTOGON 20mm/f2.8 (M42)」と同じ光学系ではありません。一般的には外観からしか判断できないのでバラしてみると、より明確になりますね・・。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

pr2028112911まずはこちらの写真です。上の写真は絞りユニット内に使われているパーツの一部 (絞り羽根が刺さる場所) を撮影していますが今回の不具合の原因箇所です。上の写真の赤色矢印で指し示している箇所に極僅かなのですが「削り/ササクレ」 が生じており、それが互いに擦れて抵抗となり絞り羽根の開閉を妨げていました。左側のパーツには「ササクレ」があり右側は「削れ/凹み」があります。ところが左側パーツのササクレは生産時の面取りが必要ないから処置されていなかったことなので直接的な原因にはなりません。不具合を誘発していたのは右側パーツの「凹み」です。過去のメンテナンス時に「叩き込み」をしたのか分かりませんが先が尖ったモノで打たれた凹みが数箇所有り、その結果めくれ上がった凸部が左側パーツのササクレと干渉し合い抵抗になっていたようです。従って過去メンテナンス時の処置が悪かったのではないかと思います。

pr2028112912すべて解体したパーツの全景写真です。ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ちなみに上の写真で中央に白紙があり光学硝子レンズを並べています。左端が第1群 (前玉) なのですがその右隣の第2群〜第3群のみ解体していません。これには理由があり第2群の固定環が遮光塗料で隙間無く着色されている状態なので生産後に一度も外されていないことになります。この状態のまま (第2群〜第3群が格納されたまま) この格納筒を振るとコトコトと微かな音がします。つまり第3群は第4群が後から締め付けられることで位置が確定する格納方法を採っているのでワザと外していないのです。これを外してしまうと第3群の位置がズレてしまい描写性能に支障を来します (具体的にはピント面がほんの僅かに甘くなる)。

pr2028112913こちらは絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が別に存在しており鏡筒とは一体型になっていません。

pr2028112914上の写真は絞りユニットを構成しているパーツを並べて撮影しました。ベース環に絞り羽根の「位置決め環」と「制御環」がセットで組み込んでから絞り羽根を組み付けて最後にメクラを被せる手順です。中央に写っている垂直状のパーツは「絞り羽根制御アーム」で絞り環と連係する際のアームであり「制御環」にネジ止め固定されます。

pr2028112915こんな感じで組み込むワケです・・この後に絞り羽根を組み付けていきます。

pr2028112916絞りユニットが完成した写真ですが上の解説のとおり赤色矢印が指し示している箇所の「内部で擦れ合っていた」ために絞り羽根の開閉が正しく行われていなかったのです。絞り羽根の油染みも影響していましたが不具合の直接的な原因ではありませんでしたしマウント部内部のマイクロ・スプリングも経年劣化で弱くなったりしていませんでした (現在も適正なチカラで絞り連動ピンを引っ張ってくれています)。

この状態でスルスルと絞り羽根が軽く動いてくれないと小さなマイクロ・スプリングのチカラだけでは正しく絞り羽根が開閉しなくなります。過去のメンテナンス時に何故叩き込みをしたのかは分かりませんが、今回の整備では当方にてササクレと凹み部分の両方を「研磨」し互いに干渉しないよう処置したので問題なく絞り羽根が開閉するようになりました。

pr20281129176枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットが完成し鏡筒にセットした状態です。なお、バラす前の確認では開放時に絞り羽根のお尻が顔を出している状態・・つまり完全に開放になりきっていない状態でしたので、今回の整備で絞り羽根の適正な開閉幅 (開口部/入射光量) に調整しています。過去メンテナンス時の調整では絞り羽根が閉じすぎている状態だったようです。

pr2028112918こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台になります。

pr2028112919距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

pr2028112920鏡筒カバー (フィルター枠を兼ねる) のヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

pr2028112921ヘリコイドのオスメスが正しい位置でネジ込まれたら鏡筒をセットします (それで浮いているような写真で写っています)。

pr2028112922こちらは絞り環のベース部分になります。

pr2028112923ベアリング+マイクロ・スプリングを組み込んでから絞り環をセットします。当初の状態でクリック感がガチガチした感触の印象だったので滑らかに、しかし確実にクリックされるよう調整しています。また多少絞り環の絞り値が越えている位置で停止していたので、それも調整しました。

pr2028112924マウント部に絞り環をセットした状態の写真です。PRAKTICA bayonet (PB) のマウント部は他のオールドレンズとは異なり「シャンパンゴールド」の気品を感じるメッキ塗色です。

pr2028112925基台にマウント部をセットしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

pr202811291絞り羽根の開閉異常を来していた不具合はキッチリ改善され正常な状態に戻りました。

pr202811292第1群 (前玉) に附着していた無数の点状汚れもほぼ全て除去できています。光学系内の透明度が大変高い個体ですがコーティング層の経年劣化に拠る極微細な点キズなどは、そのまま残っています。

pr202811299光学系後群もとてもキレイになりました。

pr2028112936枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り環絞り値と絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の整合性も執ってあります。

ここからは鏡胴の写真になります。当初より経年の使用感を感じさせない大変キレイな状態をキープした個体でしたが当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。

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pr202811297塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を使いましたので当初のスカスカ状態の軽さから比べると重くなっているように感じるかも知れませんがシットリした大変滑らかな操作性にしてあります・・もちろんピントの山が掴みにくいモデルですのでピント合わせ時には軽いチカラだけで微動するように調整済です。

なお、当初バラす前の実写確認では無限遠位置が相当なオーバーインフ状態で距離環指標値の6目盛分もズレていましたので、それも調整しています (但し当方で使っているマウントアダプタによる確認なのでマウントアダプタとの相性の問題もありますから今回の整備でも僅かにオーバーインフ状態で仕上げています)。

pr202811298距離環のラバー製ローレット (滑り止め) もプクプクした感触が残っているとても状態の良い個体です・・もちろんローレット (滑り止め) も清掃してあるので経年の手垢や汚れなども皆無で清潔ですよ。

ちなみに、鏡胴には「Made In German Democratic Republic」の刻印があるので、この個体は欧米諸国向けの輸出用として生産されていたことが判ります。「German Democratic Republic」は英語表記であり略記すると「GDR」の旧東ドイツを意味していますし「Deutsche Demokratische Republik」はドイツ語表記であり略記では「DDR」になり旧東ドイツ国内向けの製品であることを意味しています。しかし実際には旧東ドイツも旧西ドイツも当のドイツ人にしてみれば元は同じ一つのドイツなので裏ルートと言うワケではありませんが国境の検問所を通って、そのまま「DDR」製品が旧西ドイツ側に流され結果的に世界中にバラ蒔かれていたようです。従って「GDR」の輸出用製品の数は「DDR」製品よりも自ずと少ない量になります。

このモデルが登場したのは1983年なのですが、当時既にPENTACON (VEB:人民所有企業/人民公社) 自体は経営難から1981年時点でCarl Zeiss Jenaに買収され傘下に入っていました。従って今回のモデルはレンズ銘板が「CARL ZEISS JENA」の刻印なのでPENTACON銘で登場する1983年直前の極少数生産された個体ではないかと推測しています・・非常にキチョ〜な個体ですね。他のモデルはレンズ銘板が樹脂製 (プラスティック製) なのに対して今回の個体は金属製レンズ銘板を装着していますし、内部の構成パーツは全てが「パープル色」のメッキ塗色でありCarl Zeiss Jena本体工場で生産されていたことも判っていますから、おそらく初期生産ロットの中の個体ではないでしょうか・・ラッキーな個体を入手されましたね、羨ましい限りです。

pr20281129102当レンズによる最短撮影距離19cmでの開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトに合わせています。

pr2028112910-4そのままの画角で絞り環を回し絞り値を「f4」にして撮影しています。

pr2028112910-5-6絞り値は「f5.6」になりました。

pr2028112910-8F値「f8」で撮っています。

pr2028112910-11「f11」になります。

pr2028112910-16F値「f16」になりました。

pr2028112910-22最小絞り値「f22」で撮っています。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。