◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biometar 80mm/f2.8 zebra(P6)

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旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaから1950年に中判フォーマットのペンタコンシックス(6×6判)用標準レンズとして初期型 (クロームメッキ・モデル) が登場しますが、今回のモデルは「中期型」にあたり1965年に登場しています。各モデル共にすべて当方では過去にオーバーホールの経験がありますが生産工場は「初期型」のクロームメッキ (シルバー鏡胴) のモデルに限っては3つの工場で内部の構成パーツが異なる設計で生産されていました (恐らくマウント別)。しかし「前期型」以降はCarl Zeiss Jena本体工場だけでの生産に変わっています。

ちなみに「Biometar」の発音はドイツ語では「ビオメター」で英語でも「ビオメター」です。しかしハンガリー語やロシア語になると「ビオメタール」になるので、どこで混在してしまったのか定かではありませんが市場では「ビオメタール」とも呼称されています。

【モデル・バリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

bm8028%e5%89%8d%e6%9c%9f初期型:1950年〜1958年
コーティング:モノコーティング
絞り羽根枚数:12枚 (最小絞り値:f16)
絞り方式:プリセット絞り機構装備
最短撮影距離:80cm
筐体:クロームメッキ (シルバー鏡胴)

bm8028%e5%89%8d%e6%9c%9f%e2%91%a1前期型−Ⅰ:1958年〜1963年
コーティング:モノコーティング
絞り羽根枚数:8枚 (最小絞り値:f22)
絞り方式:自動絞り
最短撮影距離:1m
筐体:クロームメッキ+Gutta Percha巻ローレット (滑り止め)

bm8028%e5%89%8d%e6%9c%9f%e2%91%a2前期型−Ⅱ:1962年〜1965年
コーティング:モノコーティング
絞り羽根枚数:8枚(最小絞り値:f22)
絞り方式:自動絞り
最短撮影距離:1m
筐体:ブラック+Gutta Percha巻ローレット (滑り止め)

bm8028%e4%b8%ad%e6%9c%9f中期型:1965年〜1970年
コーティング:モノコーティング
絞り羽根枚数:8枚(最小絞り値:f22)
絞り方式:自動絞り
最短撮影距離:1m
筐体:ブラック+ゼブラ柄ローレット (滑り止め)

bm8028%e5%be%8c%e6%9c%9f後期型:1971年〜1981年
コーティング:マルチコーティング
絞り羽根枚数:8枚(最小絞り値:f22)
絞り方式:自動絞り
最短撮影距離:1m
筐体:プラック

モデル・バリエーションの中で「前期型」で登場する距離環ローレット (滑り止め) に「Gutta Percha」を巻いたモデルがありますが「Gutta Percha」は「グッタペルカ」或いは「ガタパーチャ」と発音するマレーシア原産のアカテツ科の樹木から採取するゴム状の樹脂です。ゴム状の樹脂なので「ラバー製」と書いても良いのですが、そうすると弾力性が相応にある一般的なゴムと受け取られがちなので敢えて「ラバー製」とは表記しません。ゴム状でもプラスティック材に近い硬化してしまう樹脂なのでラバー製とは分けて考えたほうが分かり易いです。

bm80281027%e6%a7%8b%e6%88%90光学系は4群5枚のビオメター型ですがガウス型とトポゴン型の良質成分だけを掛け合わせたような設計でクセノター型も近似した思想で設計されています。なお、コーティングに関しては「初期型〜中期型」までがモノコーティングですが当方ではこれを「シングルコーティング」とは記載しません。そのように書いてしまうと「単層膜」のコーティング種別になってしまうので複層コーティングも含めた「モノコーティング」と表記しています。多層膜コーティングに関しては「マルチコーティング」になりますね・・混同してそのまま案内しているサイトが多いので要注意です。ご存知の方のサイトでは、ちゃんと「シングルコーティングとは呼ばないで下さい」と書かれていますね(笑)

オーバーホール/修理のご依頼は「ピントが甘い」「距離環のトルクが重い」と言う内容でした。届いた現物を確認すると、それ以外にも以下のような問題があるように感じます・・。

  • 光軸がズレている:風に流されているようなハロの表出
  • ピント面の合焦が「甘い」を通り越している状態 (合焦していない?)
  • ヘリコイド・グリースの経年劣化に拠るグリス切れ:距離環トルク重い
  • 絞り環のベアリング不適合:ガチガチとした印象のクリック感
  • プレビューボタンのガタつき

・・こんな感じです。オーバーホール/修理の工程では、これらの不具合箇所をひとつずつ改善させていきます。

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オーバーホールの工程に関しては中判サイズのオールドレンズは当方ではメインの扱いではないので今回は省きます。

bm8028z10271内部の構造は、この当時の同じゼブラ柄「Flektogon 35mm/f2.8」と同一の設計思想で作られています。従って鏡筒の格納方法から絞り羽根の制御方法に至るまでが同じなのですが絞り連動ピンの機構部だけは特殊です (ペンタコンシックス用なので)。絞り連動ピンと連係した「プレビューボタン」部分の内部機構部に連係の不具合が生じていたので改善させています (具体的にはマイクロ・スプリングの経年劣化)。

bm8028z10272光学系内は大変透明度が高い個体です。前玉外周附近に汚れ状に見えるカビが発生していたのでカビ除去を行っています。

まず当初バラす前の確認時ではハロの表出が少々酷いように感じました。原因は光学硝子レンズのコバ塗膜が消失していたからでハロの出方と共にコントラストの低下 (光学系内での内面反射) を招いていると判断します。特に第4群 (後玉) は油性マジックが過去のメンテナンス時に塗られており経年劣化の進行で既に消失していました。全ての群のコバ塗膜を再塗布しています。

bm8028z10279光学系後群も透明度が高いのですが第3群 (つまり後玉のひとつ手前) は相当量のカビ除去痕がコーティング層に残っています。過去のメンテナンス時にカビ除去を行ったようでカビ自体の発生は一切ありません。あくまでもコーティング層に浸食した「カビ除去痕」が残っているだけですのでコーティング層を光に反射させると菌糸状のカビ除去痕が浮かび上がります。写真への影響には一切至らないレベルですのでご安心下さいませ。

そして、問題だったのはこの光学系後群の第3群〜第4群です。まず第3群 (後玉のひとつ手前) は固定環が緩んだままで僅かに硝子レンズが浮いていた状態でした。それをシッカリと固定すれば当初の不具合であった「ピントが甘い」と言う現象が改善されると予測したのですが、結果はほんの僅かに改善されたかどうかと言う程度のレベルで終わってしまいました。

そこで再度バラして硝子レンズ格納筒の「磨き研磨」を施しました・・理由は第3群の硝子レンズがすんなりとレンズ格納筒に収まらないからです。経年の腐食で硝子レンズが入りにくくなっていたようです。まずはそれを改善した後に描写性能をチェックしましたが当初の「光軸ズレ」が改善されただけで (つまり風に流されているような印象の異常なハロの出現が改善されただけで) ピントが合ってるか否か分からない「甘いを通り越した状態」は一切改善できていません。

これにはさすがに困りました・・再びバラして暫くの時間「考察」してました。ピント面の印象は硝子レンズの位置ズレのように見えます。しかし、第1群 (前玉) も第2群も確実に格納筒に締め付け固定できています。すると問題なのはどうしても第3群〜第4群の「後群」だけと言う結論に達します。ちなみに光学系前群はひとつの格納筒しか存在せず、その中に第1群〜第2群までが収まってしまうので位置ズレが発生する (つまり第1群と第2群のとの間の距離が変わってしまう) 原因が存在しません。

問題の後群をよ〜く観察すると、先に第3群を格納筒に締め付け固定した後に上から「被せる」感じで最後の第4群 (後玉) がセットされます。第3群に関しては硝子レンズの格納筒自体は絞りユニットを含む「鏡筒」に削り出しで用意されているので位置ズレが発生する要素すら存在しません。すると・・最後に残るのは第4群の位置ズレだけです!

結果、第4群が入りすぎているために合焦点がズレていると判断し「シム」を自作しました。「シム」とは薄いリング (輪っか) で光学硝子レンズの位置調整をするスペーサーのような役目のパーツです。このシムを何度も自作しては組み上げて実写確認をして、再びバラしてシムを追加する・・気の遠くなるような地獄工程に突入しました(笑)

作業すること数時間 (10回以上バラして)・・見事にピントが合いました! やはり第4群 (後玉) の位置ズレだったようです。

bm8028z102738枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。当初の状態では絞り羽根の開口部 (入射光量) が最小絞り値「f16」にギリギリ足りていないように感じましたので調整し整合性をもたせています。

さて、当初バラす前の状態で絞り環の操作性に違和感を感じていました・・ご依頼では「絞り操作には異常無し」とのことでしたが、当方では「違和感あり」と判断しています。バラしてみると絞り環にセットされるベアリングがオリジナルのモノではありませんでした。Carl Zeiss Jena製オールドレンズの他のモデルで使われている同一径のベアリングではなく、このモデルは「大きい径の専用ベアリング」になります。しかし、絞り環に刺さっていたのは何か別のオールドレンズから転用した「筒」にマイクロ・スプリングを入れた上で小さなベアリングを差し込む変わった (見たことがない) 構造のベアリング「部」が入っていました。そもそも各絞り値でカチカチとクリック感を実現してる「絞り値キー」と言う「溝」の太さに、この小さなベアリングが合致していません (完全に溝の底までベアリングが到達してしまう小径ベアリングです)。それでガチガチとした違和感を感じるクリック感になっていたようです。

残念ながら当方には、この大口径のベアリングが無いので仕方なく転用している筒よりもわずかに大きめのベアリングを調達しました。それによって「絞り値キーの溝の底」に到達しない程度であれば絞り環操作時のクリック感が改善されるハズです。結果、とても小気味良い感触のクリック感に改善されました。しかしながら、ご依頼の内容とは逸脱した処置を施していますので、もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ。勝手に処置してしまい誠に申し訳御座いません。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感を感じる個体レベルですが当方による「磨き」をいれたので距離環のゼブラ柄ローレット (滑り止め) も当時の輝きに近いレベルまで艶めかしい光彩を放っています。

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bm8028z10277当初バラした時点で塗布されていたヘリコイド・グリースはオリジナルの「黄褐色系グリース」の上から「白色系グリース」を塗りたくっていました・・その白色系グリースも既に経年劣化から完全に揮発してしまいスカスカの状態になっています (数年経過か?)。オールドレンズをバラしていると、このようなことが多いのですが古いグリースを除去せずに上から新たにグリースを塗っています。質の異なるグリースを混在させるのはあまり好ましくありませんね・・。

塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を使いました。距離環を回すトルク感はワザと「重め」にしています・・このモデルはピントの山が掴みにくいので、それを考慮した結果です。もしもこの件についてもやはりご納得頂けないようであれば減額下さいませ。トルクは全域に渡って完璧に均一でピント合わせの際にはビミョ〜な調整が楽にできるシットリしたヘリコイド・グリースです。

bm8028z10278正直、ここまで何度もバラすハメに陥るとは全く予測していませんでしたが、何とか改善できたのではないかと思います。なお、第4群の位置ズレを正しているのでヘリコイドは当初のネジ込み位置では相当量のオーバーインフになってしまいます。その点も無限遠位置調整を施して適合させています。

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bm8028z102710-2上の写真 (2枚) は当レンズによる最短撮影距離1m附近での実写です。1枚目が開放「f2.8」での実写で2枚目がF値「f4」での撮影になります。当初バラす前の段階ではピント面は上の写真のような明確な状態ではなかったので改善されていると判断しています。また当初確認できていた「コントラストの低下」もコバ塗膜の再塗装により改善できていると考えます。なお、ハロの出現だけは、このモデルの描写特性のひとつでもあるので改善はできません (但し風に流される感じの出現は改善させています)。申し訳御座いません。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。別件の180mmも含め同梱してご返却申し上げます。