◎ Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) Domiplan 50mm/f2.8 zebra《前期型−III》(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツの
Meyer-Optik Görlitz製標準レンズ・・、
『Domiplan 50mm/f2.8 zebra《前期型−III》(M42)』です。
前回完璧なオーバーホール済でヤフオク! 出品してから、ちょうど1年が経ってしまいました。当たり外れが多いモデルなので、なかなか手を出せません。
前回もその前も、2016年からこのモデルを出品する際はマウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれても「完全開放」するよう調整を施してオーバーホールしていました (毎回即決価格
:29,500円)。今回も同様マウントアダプタ経由装着しても (もちろんフィルムカメラに装着しても) 設定絞り値「f2.8」の時は「完全開放」するよう調整を施しましたが、今回は最小絞り値側「f22」もキッチリ適合させて調整を施しました (いつもはギリギリの状態で仕上げており明記して出品)。
絞り環が「f2.8」の時、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると、このモデルは絞り羽根が顔出しして左写真のようになります。この状態で設計上ちゃんと開放f値「f2.8」を執るよう製産されているワケですが、これを「完全開放」まで広げた場合、その分絞り羽根の開閉がズレるので「最小絞り値f22の時に広がったままになる」ワケです。
ドイツからヤフオク! 出品している出品者の中で、この当時は全てこのモデルは完全開放していたと言っている人が居ますが、それは内部の設計を知らないままあてずっぽで言っているだけです (バラして整備したことがないから)(笑)
このモデルは絞りユニット内部の設計上、絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整機能が付加されているので、 メンテナンス者が完全開放側に微調整していれば、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれても完全開放したままになります。しかし、それは絞りユニット内部の調整幅を最大限までズラしているからであり、本来の工場出荷時点では「中庸を採っていた」ハズです (何故なら最大限の位置に必ずセットする必要があるならそもそも微調整機能を考量した設計にする必要性自体が無い)。
当方は必ず設計者の意図を汲み取ろうと「観察と考察」をするので、微調整機能が用意されている以上調整する可能性に配慮していたハズですから、自ずと「中庸位置」を含めた設計を採るハズです (そうしないと片側だけに偏った微調整機能しか備えないことになってしまう/一般的にそのような微調整機能を設計しても意味が無い)。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
Meyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) は、戦前の旧ドイツで1896年に創業した Hugo Meyer & Co., (フーゴ・マイヤー) が前身にあたる老舗の光学メーカーです。戦前は大判サイズの光学製品で、当時のCarl Zeiss Jenaに肩を並べるポジションまで登りつめますが、敗戦後に旧東ドイツに含まれ悲劇の運命を辿ることになります。
第二次世界大戦後にドイツは連合国によって東西に分断され、旧東ドイツは当時のソ連 (ソビエト連邦) によって占領統治されました。但し首都のベルリンが旧東ドイツ領内に含まれてしまう為に、そのベルリンさえも東西に分割統治されたので「ベルリンの壁」はベルリン内の旧西ドイツ側統治領域のみを囲うように敷設されていました (東西ドイツの国境やベルリン全域を覆っていた壁ではない)。「ベルリンの壁」は1961年に壁として再敷設工事が完了していますが、戦後当初〜1960年までは有刺鉄線や柵だけだったりしました。
当時のソ連は共産主義体制国家だったので、占領統治した旧東ドイツも共産主義体制のもとソ連と共に5カ年計画に基づく産業工業の再建をスタートします。共産主義体制では「私企業」の概念が存在せず、全ての企業は国に従属した国家管理体制がソ連での基本でありで、ソ連では「国営企業」旧東ドイツでは「人民所有企業 (VEB)」と呼称されました。
ちなみにネット上でよく語られている「人民公社」は、同じ共産主義体制でも中国に当てはまる概念と呼称なので、当時の旧東ドイツの企業を指して「人民公社」と表現するのは、専門の先生方の解説書を読むと適切ではないと指摘しています (当時のソ連や旧東ドイツで公社と言う概念/呼称は一切存在していない:単なるコトバの表現の相違ではなく企業に対する概念/思想がそれぞれ異なるから混同してはいけない)。
敗戦時に生き残っていた主だった光学メーカーはCarl Zeiss Jenaも含め「光学精密機械VEB」に組織されましたが、運の悪いことにMeyer-Optik Görlitzだけが「軍用機械工業VEB」に編入されてしまいました。この時点で他社光学メーカーから遅れをとったワケですが、1948年に自社工場をCarl Zeiss Jenaに売却してしまうと言う最終手段で念願の「光学精密機械VEB」に編入を果たしています。
しかし自社工場をCarl Zeiss Jenaの管理下に置いてしまったことが後の命運を違える結果に繋がります。5カ年計画に基づき組織体系は幾度となく改編されますが、1960〜1965年の第4次5カ年計画でCarl Zeiss Jenaが「光学精密機械VEB」の筆頭格 (配下のVEBとりまとめ役) として産業工業管理体系図に初めて個別名称が登場します。つまり全ての光学メーカーがCarl Zeiss Jenaの配下に統合されたことを意味し、さらにCarl Zeiss Jenaの直下にはPENTACONが名を連ねることになりました (その他にも幾つかの光学機器VEBが配下に名を連ねるがMeyer-Optik Görlitzはさらにその下の格付)。その後の第6次5カ年計画ではコンビナート制が導入され1980年代に入るとCarl Zeiss Jenaは4万4千人もの従業員を従えた超巨大企業にまで肥大化していました。1989年の「ベルリンの壁崩壊事件」を契機に東西ドイツの分断は終焉を迎え1990年の東西ドイツ再統一に至ります。
この中で、Meyer-Optik Görlitzは工場の管理稼働によりPENTACONへのレンズ供給をCarl Zeiss Jenaから強いられますが、続く経営難を乗り切る事ができずついに1968年PENTACONに吸収合併し消滅します。ちなみにPENTACONは光学メーカーと言うよりもフィルムカメラのメーカーと認識したほうが良さそうです (光学製品は配下のVEB開発に頼っていたから)。
これら当時の時代背景を知ることで、Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズがシルバー鏡胴からゼブラ柄へと変遷し、最後のゼブラ柄から黒色鏡胴へと移るタイミングでPENTACON銘をレンズ銘板に刻印してきた理由も納得できると思います。1950年代初頭から様々な光学メーカーが吸収合併をして消えていく中、Meyer-Optik Görlitzが最後まで抵抗を続けていたのも戦前にCarl Zeiss Jenaと肩を並べていた栄光を追い続けていたからなのかも知れませんね・・ロマンはとめどなく広がります。
なお余談ですが、いつも懇意にしているギリシャのディーラから聞いた話で、当時の東西ドイツは一つの国が敗戦で分断され戦勝国に分割統治されていただけなので、国際法上は国家ではありませんでした (あくまでも戦前のドイツの状態が一つの国家)。従って、例えばオールドレンズに絞って調べると東西ドイツ、特にベルリン地域では簡易査証だけで人の往来や製品の輸出ができていたようです。すると東欧圏諸国にとっては (特に当時のソ連や旧東ドイツ) 正規に輸出するよりも旧東ドイツ (特にベルリン) を通過して西欧圏へ輸出したほうが手っ取り早く楽だったようです。特にCarl Zeiss Jenaのように輸出制限 (西欧圏への輸出数自体が制限されていた) が課せられていると、表上その制限内で輸出しつつも (例:C.Z.Jena銘やモデル銘の頭文字表記のみの場合など) 実際はベルリンを通過して裏取引で流していたのが現実だったようですね(笑) 従って現在の市場流通を見ていても、当時の旧東ドイツを表すドイツ語の表記 (DDR) 個体のほうが遙かに多くで回っているのも納得できると言うものです。
・DDR:Deutsche Demokratische Republikのドイ語表記
・GDR:German Democratic Republicのラテン語/英語表記
このCarl Zeiss Jena製オールドレンズの輸出制限やモデル銘表記問題 (例:TessarはTのみBiotarもBのみなど) は、当時旧西ドイツ側Zeiss Optonが商標権を主張して旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaに対して課していた制限であり、堪えきれなくなったCarl Zeiss Jenaが1953年に「商標権提訴」してしまいました。1971年にようやく結審しましたが1973年にはCarl Zeiss Jenaの敗訴が確定しています。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
1960年に発売された当モデル『Domiplan 50mm/f2.8 zebra』は、当時上位格に存在していた「Oretson 50mm/f1.8 zebra」の廉価版モデルとして用意されました。系譜上は祖先に「Trioplan 50mm/f2.9 V」からの流れを持ちますが、当時シルバー鏡胴のTrioplanは上位格モデルだったので、Meyer-Optik Görlitzの戦略上の後継機種として捉えるとOrestonのほうに繋がっています (従ってDomiplanはあくまでも突然変異の廉価版モデル)。
ちなみに、中望遠レンズの「Trioplan N 100mm/f2.8 zebra」がありますが、こちらも「Trioplan 100mm/f2.8 V」とはダイレクトには繋がっていません。何故なら、中望遠は最終的に「Orestor 100mm/f2.8 zebra」へと集約していったので、N付Trioplanもやはり廉価版モデルでしかありません。それはバラしてみれば一目瞭然で、今回のモデルDomiplanと同じ設計概念 (機構部概念) で作られていたからです。
【モデル・バリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
初期型:1960年発売
製造番号:31xxxxx〜
製造番号刻印位置:レンズ銘板
ローレット:ゼブラ柄
指標値刻印色:赤色/白色
フィルター枠径:⌀40.5mm
レンズ銘板材質:金属製
前期−Ⅰ型
製造番号:32xxxxx〜
製造番号刻印位置:レンズ銘板
ローレット:ゼブラ柄
指標値刻印色:赤色/白色
フィルター枠径:⌀49mm
レンズ銘板材質:金属製
前期−Ⅱ型
製造番号:40xxxxx〜
製造番号刻印位置:レンズ銘板
ローレット:ゼブラ柄
指標値刻印色:赤色/白色
フィルター枠径:⌀49mm
レンズ銘板材質:プラスティック製
前期−Ⅲ型
製造番号:42xxxxx〜
製造番号刻印位置:鏡胴
ローレット:ゼブラ柄
指標値刻印色:赤色/白色
フィルター枠径:⌀49mm
レンズ銘板材質:プラスティック製
後期−Ⅰ型
製造番号:93xxxxx〜
製造番号刻印位置:鏡胴
ローレット:黒色
指標値刻印色:赤色/白色
フィルター枠径:⌀49mm
レンズ銘板材質:プラスティック製
後期−Ⅱ型:〜1990年
製造番号:103xxxxx〜終了
製造番号刻印位置:鏡胴
ローレットレ:黒色
指標値刻印色:緑色/白色
フィルター枠径:⌀49mm
レンズ銘板材質:プラスティック製
上記モデルバリエーションの中で、黒色鏡胴モデルは一部に「Pentaflex-Color 50mm/f2.8」と言うレンズ銘板モデルが顕在します。これがまさしく冒頭で解説したMeyer-Optik Görlitz変遷の中でPENTACONに吸収されて消滅していく直前のモデルで、レンズ銘板をすげ替えただけの同一品です (Meyer-Optik Görlitz銘の個体も同時に存在している)。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
まず最初に、当方での円形ボケ定義をご紹介しておきます。
【当方で表現してる円形ボケ】
● シャボン玉ボケ
真円、且つエッジが非常に繊細で明確な輪郭を伴うまさにシャボン玉のような美しいボケ方
● リングボケ
ほぼ真円に近い円形状でエッジが明確ながらもキレイではない (骨太だったり角張っていたり) のボケ方
● 玉ボケ
円形状のボケが均等に中心部まで滲んでしまっているノッペリした (イルミネーションの円形ボケのようなイメージ) のボケ方
◉ 一段目
シャボン玉ボケだけを集め、左端から徐々にエッジが滲み始めていく様をピックアップしています。
◉ 二段目
さらに破綻してリングボケから玉ボケ→円形ボケへと変わっていく様を集めています。
◉ 三段目
今度は収差ボケを集めてみました。ざわついた印象 (左端) やグルグルボケのような滲み方、或いは得体の知れないボケ味や幻想的な滲み方です。これらのボケ味はまさに当モデルが廉価版だからこそ残った収差の影響ではないかと考えています。
◉ 四段目
さらにトロトロに滲みますが後ボケや前ボケを効果的に使っています。さらにピント面のエッジに優しくハロが憑き纏う様や水彩画のような印象などです。
◉ 五段目
左端はピント面が存在しないオモシロイ写真です。ピント面の誇張感や被写界深度、光源撮影です。
光学系は「Trioplan 50mm/f2.9 V」から継承され続けた3群3枚のトリプレット型ですが、もちろん再設計されています。Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズの特徴たるシャボン玉ボケについて、この3群3枚トリプレット型光学系と直結した解説をしているサイトが多いですが、こちらでご案内した「Primotar E 50mm/f3.5」の3群4枚テッサー型構成でもキレイなシャボン玉ボケが表出しています。
今でこそシャボン玉ボケで大騒ぎしていますが、当時世間ではあくまでも収差の範疇を超えなかったので全く注目されていませんでした。従ってMeyer-Optik Görlitzでは何か別の目的で光学系を設計し「その副産物」としてシャボン玉ボケが表出していたのではないかと当方は考えています。
また今回扱うDomiplanは、上記ピックアップ写真のように様々なボケ味を堪能できる、決して廉価版だからとバカにできないほどの素晴らしいオールドレンズです。特にシャボン玉ボケのエッジ (輪郭) の繊細感は中望遠のTrioplan 100mmシリーズに引けを取らないほどです (決して同一ではない)。また収差ボケの素晴らしさも特筆に値すると当方では評価しています (ピックアップ三段目)。
これら様々なボケ味の引出の多さから、まさに昨今SNSで人気を博しており、素晴らしいモデルだと思いますね。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造や構成パーツ点数が少なめなので、一見すると初心者向けですが飛んでもありません(笑)
絞りユニット・絞り連動ピンからのチカラ伝達経路・距離環のトルク、そして最も重要な光学系の光軸など、各部位の調整が非常に神経質な設計なので「原理原則」に則り (光軸は検査しながら) 作業を進めなければ納得できる状態には仕上がりません。
↑絞りユニットや光学系前群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オスメス) が独立しているので別に存在します。上の写真は鏡筒を前玉側方向から撮影しています。
一般的なオールドレンズでは鏡筒は光学系の「前後群」を格納するモデルが多いのですが、Domiplanは「前群だけ」です。
↑こちらは後玉側方向から鏡筒を撮影しましたが、既に絞りユニットを組み付けた状態で撮っています。
つまり絞り羽根は「後玉側方向からセットされる」変わった設計です (一般的なオールドレンズは前玉側からセットするモデルが多い)。またDomiplanは一般的なオールドレンズの絞りユニットとは設計が異なり、絞り羽根の制御方法が特殊です。
マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると「その押し込んだ量の分だけ」チカラが伝達されて「開閉アーム」が押し込まれます (ブルーの矢印①)。すると「開閉アーム」の先端部分が絞りユニット内の「開閉環」1箇所だけに刺さっており、チカラの伝達分だけ回るので (②) 絞り羽根の角度が変わって設定絞り値まで閉じます。
Domiplanで絞り羽根の開閉異常が多い原因は、この絞りユニットの設計の拙さです。「開閉アーム」がプレッシングで打ち込まれただけの金属製突起棒にしてしまった為に、経年使用でアームが変形した時、垂直を維持しなくなった分だけ絞り羽根の開閉動作がズレてしまいます (つまり開放時の絞り羽根顔出しや最小絞り値まで閉じないなどの異常が発生する)。
垂直に打ち込まれた金属棒を横方向からチカラを加えて駆動させる考え方が拙いワケですね (ブルーの矢印①)。この設計時の配慮の無さが、実はそのままPENTACON製標準レンズへと受け継がれてしまい「PENTACON auto 50mm/f1.8」にも同じ概念が採用されている為、残念ながらPENTACON製標準レンズも絞り羽根の開閉異常が非常に多いモデルの一つです。
↑絞りユニットに絞り羽根を組み付けて、その上から「後玉格納筒」を被せて締め付け固定します (グリーンの矢印)。ところがこの時、絞り羽根が絞りユニットからハミ出たままになるので、それを調整しつつ被せないと絞り羽根を傷めてしまいます (ブルーの矢印)。ブルーのラインで示した分の絞り羽根がハミ出ているワケです。
↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑こんな感じで鏡筒がヘリコイド (オス側) に組み込まれます (後玉格納筒は被せていない)。
「開閉アーム」が内側方向に向かって押し込まれると (ブルーの矢印①) と、その押し込まれた量の分だけ各絞り羽根が一斉に閉じ始めます (②)。従ってマウント面の「絞り連動ピン」の押し込み量が適正ではないと、結果的に絞り羽根の閉じ具合まで影響を受けます。同様に絞り環を回した時に設定絞り値が決まるので、その時に絞り羽根を閉じる角度が決定されるワケですから「開閉アーム」との関係も重要です。
↑「後玉格納筒」を被せて締め付けた状態を撮りました。鏡筒の外側に「開閉アーム」が飛び出ているのが分かると思います。このアームを横方向から押し込むことで絞りユニット内部の「開閉環」が (そのチカラの分だけ) 動いて絞り羽根が閉じる仕組みです。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが「絞り連動ピン」や他の構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。
今時のデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する場合、マウント面の「絞り連動ピン」を強制的に最後まで押し込んでしまう「ピン押し底面」を有するマウントアダプタを使います。
↑外していた各構成パーツも「磨き研磨」を施して組み付けます。
マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「絞り連動ピン連係アーム」が上下動します (②)。すると同時に連係して「操作カム」まで上下動する (③) ので、この「操作カム」が前述の絞りユニットから飛び出ている「開閉アーム」を押し込みます。
つまり絞り連動ピンの「垂直方向のチカラをカムの横方向のチカラに変換する役目」なのがこの機構部の目的です。
↑「直進キー」にスプリングを差し込んでから (両サイドにあり) マウント部を被せますが、その際以下項目を同時チェックしながらセットしなければ適切な状態に組み上げられません。
① 直進キーにスプリングをセット (両サイド)
② 直進キーと直進キーガイドを位置合わせ
③ 開閉アームとマウント部内部操作カムを噛み合わせ
④ スプリングを押し込みつつマウント部を被せる
↑マウント部を被せ終わった状態を撮っています。「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「絞り連動ピン連係アーム」が上下動する (②) ので内部の「操作カム」が「開閉アーム」を押し込んで、絞りユニット内部の「開閉環」が回るので絞り羽根が設定絞り値まで閉じます。
このようにマウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれた際のチカラが、そのまま伝達されて最終的に絞り羽根を動かすチカラへと変換されていきます。従って、そのチカラの伝達経路に於ける各構成パーツを介在した時の、経年による酸化/腐食/錆びなどから抵抗/負荷/摩擦が生じチカラが消失していくので、具体的な「絞り羽根開閉異常」として症状が現れます。
例えばフィルムカメラに装着した時に絞り連動ピン押し込み後の絞り羽根の戻りが緩慢な場合、或いはマウントアダプタ経由装着した時に絞り羽根が最小絞り値「f22」までちゃんと順に閉じない、などが当てはまります。
↑この後は絞り環に鋼球ボール+スプリングをセットして組み込んでから光学系前後群を組み付けて、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑1年ぶりになってしまいましたが完璧なオーバーホールが完了しています。
一応、当方所有の3種類のマウントアダプタ (日本製x1/中国製x2) で絞り羽根の開閉状況をチェック済です。何故そのようなチェックをするのかと言えば、オーバーホール工程での解説のとおり「絞り連動ピン」が押し込まれた時のチカラの分だけ伝達される為に、マウントアダプタに用意されている「ピン押し底面の深さの相違」の影響を大きく受けるからです。
「絞り連動ピン」の押し込みが足りなければ (深さが深すぎると) 絞り羽根が設定絞り値まで閉じきりませんし、逆に深さが浅すぎても (押し込みが強すぎても) やはり最小絞り値「f22」まで閉じきってくれません (マウント部内部の絞り連動ピン連係アームに捻りバネが附随しており余分なチカラを相殺してしまうから)。
特に今回はマウントアダプタ経由装着時 (絞り連動ピンが最後まで押し込まれている状態) でも「完全開放」するよう調整していますから、その分「最小絞り値側も調整」した次第です (各絞り値で整合性を執らせた)。もちろんフィルムカメラ装時も同じ条件でお使い頂けます。
↑光学系内の透明度が非常に高く、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。光学系内には非常に微細な「気泡」が複数ありますが、一見すると「塵/埃」に見えてしまいます (もちろん清掃時に除去もできない)。
この当時の光学メーカーは、光学硝子材精製時に一定の時間規定の高温を維持し続けた「証」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。
↑1つ前の「完全開放」写真は、ご覧のようにマウントアダプタを装着した状態で撮影しているので、オリジナルの調整の場合は絞り羽根が顔出しして (角張った状態で) 開放f値「f2.8」に至るのが普通です。今回出品個体はもちろんフィルムカメラに装着しても「完全開放」で撮影できます。なお「完全開放」時の絞り値を簡易検査具で調べたところ「ほぼf2.6」辺りの結果なので、たいして明るくなっているワケではありません。しかしそうは言っても設定絞り値「f2.8〜f4」辺りでの特に円形ボケの表出が角張りにくくなるので (粗くなりにくくなるので) 効果は絶大です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群 (後玉だけですが) もLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。
後玉は左写真のようにイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定されるので (赤色矢印)、甘いピント面になってしまったり偏心 (偏った収差の表れ) が生じますが、簡易検査具でキッチリ検査しつつ調整済です (光軸ズレ/偏心含めありません)。
例えば、Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズを整備済でヤフオク! 出品しているのを見るとイモネジ3本で締め付け固定している後玉だけは外さずに (バラす前の状態のまま) そのまま清掃していると明記していることがありますが、それはハッキリ言ってナンセンスです。
何故なら、その他の光学系 (特に前群側) を外して清掃した以上、再び格納筒にセットした時の締め付け (固定) 具合でビミョ〜に光路長が変化するので、1つでも光学系を外して清掃したら「必ず後群側もバラして再調整する」するのが当たり前です。そしてその調整の際には簡易検査具などを使ってキッチリ光軸確認 (偏心含む) するのは当然な成り行きでしょう。実写で判断しようにも細かい収差の表れはなかなか目だけでは光学系の設計上の問題なのか判定できません (当方はそのように考えますね)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:11点
後群内:18点、目立つ点キズ:15点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環との連係動作も確実です。
前述のとおり開放f値「f2.8」設定時、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれていても「完全開放」するよう調整したので、逆に最小絞り値「f22」側で絞り羽根が広がったままにズレてしまいます。ご覧のとおり適切な開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) に調整してセットしました。
ヤフオク! などで整備済で同じように「完全開放」に調整して出品している掲載写真と比較すれば、最小絞り値「f22」の閉じ具合の相違をご理解頂けると思います。もちろん他の絞り値も簡易検査具で検査して絞り環刻印絞り値との整合性を確認済です (実写確認だけでの判定ではありません)。その意味でオリジナルの絞り値のまま開放時のみ「完全開放」になったと言えるので、当方オーバーホールでは初の調整作業になります。
鏡胴は経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな状態を維持した個体ですが、当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。筐体は僅かに光沢感のあるブラックなので再現し、且つゼブラ柄も「光沢研磨」したので当時のような艶めかしい光彩を放っています。もちろん「エイジング処理済」なので、すぐに酸化/腐食してきたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作時のクリック感も確実で軽い操作性で回せますがシッカリした感触です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・マウントアダプタ経由装着する際はマウント面の「絞り連動ピン」を強制的に押し込む「ピン押し底面」が備わっているタイプを使いますが、その底面の深さがマウントアダプタによってバラバラなのでモノによっては距離環を回す際トルク感が重く感じたりトルクムラを生じる場合もあります。「マウントアダプタとの相性問題」の為クレーム対象としません。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑ネット上を見ると、このDomiplanのシャボン玉ボケの質が中望遠モデル「Trioplan 100mm
/f2.8」と同一と謳っていることがありますが、実際は焦点距離の相違があるので (標準レンズと中望遠との相違) 同じ3群3枚のトリプレット型だとしても光学設計が異なるので同じ質になるハズがありません (言葉の綾に惑わされてはイケナイ)。
またTrioplan (中望遠) のほうはシャボン玉ボケのエッジが繊細で非常に細く出てくるので、その境界 (輪郭) が紙一重的な印象に表出します。一方Domiplanをヘリコイドアダプタ (マウントアダプタに繰り出し/収納機能が附加されたタイプ) に装着すれば、さらに同質のシャボン玉ボケになると案内している場合もありますが、それも適切な表現ではありません。
ヘリコイドアダプタで繰り出した場合、最短撮影距離75cmを超過して近接した撮影になるので、当モデル本来の光学性能を逸脱します。すると輪郭が明確だったシャボン玉ボケはエッジ部分と内部が共に滲んでいくので「リングボケ/玉ボケ」へと変質していきます。最短撮影距離75cm付近でのシャボン玉ボケ表出と同一のまま近接撮影ができるワケがありません (そこまで考慮した光学設計ではないから)。
「シャボン玉ボケ/リングボケ/玉ボケ」などの円形ボケについて、何でもかんでもシャボン玉ボケ (バブルボケ) と括ってしまうとそのビミョ〜な表出の相違が的確に捉えられずに、期待した写真 (キレイなシャボン玉ボケ) が撮れないと何度も挑戦することになりますね(笑)
ヘリコイドアダプタによる強制的な近接撮影は、撮像素子の相違によるフランジバックの違いなどとも同一の話ではないので、ヤフオク! などで売りたいが為に不適切な表現 (謳い文句) で出品するのはどうかと思います。
ヘリコイドアダプタに装着した場合の描写性の変化は、何もDomiplanに限った話ではなく、全てのオールドレンズに当てはまる光学系の話ですから、同一のまま近接撮影ができると思い込むと期待ハズレな場合もありますし、逆に予想を超えた収差の影響が出て思いがけない1枚になるかも知れません。要は理解して使うのかどうかだと思います。
何度も言いますが (よくお問い合わせ頂くので)、ヘリコイドアダプタを使って最短撮影距離以上に鏡筒を繰り出した時の描写性は、使わない場合の写りと同一にはなり得ません。光学設計上対処していない収差 (色ズレも含む) が現れるのは必然であり、それを承知の上で使うべき道具です。同様のお話で、オーバーホール/修理に於いてヘリコイドアダプタでの繰り出しまで見越した (対応した) 光学系の調整を施すことは「不可能」です (そもそも光学系が設計段階で想定していないから当たり前の話)。最近、ヘリコイドアダプタが流行っているので、当方のオーバーホール/修理でご依頼される方が多くなってきていますが、できることとできないことがあります(笑)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
↑当レンズによる最短撮影距離75cm付近での「完全開放」での実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。
↑f値「f16」です。そろそろ「回折現象」の影響が極僅かですが出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。