◎ VOMZ (ヴォログダ光学機械工場) ГЕЛИОС (HELIOS)−77M−4 50mm/f1.8(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、ロシアのVOMZ (ヴォログダ光学機械工場) で生産されていた標準レンズ『HELIOS-77M-4 50mm/f1.8 (M42)』です。
ヴォログダ光学機械工場では、他にも広角レンズの「Mir-1B 37mm/f2.8」や中望遠レンズの「JUPITER-21M 200mm/f4」などが生産されていますが、それらオールドレンズのレンズ銘板には左上のロゴマークではなく右のロゴが刻印されています。1991年の旧ソビエト連邦崩壊前に生産されていたオールドレンズのレンズ銘板には、右のロゴマークが刻印されているようです。ちなみに、VOMZは現在も生産を続けておりスコープやプロ向けのレンズ群などを出荷しているようです (ロシア語のキリル文字ではVOMZはВОМЗです)。
今回のご依頼内容は以下の (1) になりますが、他にも (2) 以降の症状を現物で確認しました。
(1) 絞り羽根が「f1.8から半段分」及び「f11〜f16」で動かない症状。
(2) 距離環が∞刻印を越えた位置で停止する。
(3) 距離環を回す際のトルクにスリップ現象発生。
(4) マウント面絞り連動ピン押し込み時の絞り羽根の反応が緩慢。
これらの症状を一つずつ改善すべくオーバーホールしたワケですが、8時間では終わらず16時間を要してしまいました。しかし驚くことに、このHELIOSを毎月20本以上も整備してヤフオク! に出品しているプロのフォトグラファー「sdfpn0808」さんがいらっしゃいます。出品されたほとんどがアッと言う間に落札されていく人気の高さで、丸1日かがりでも1本すら仕上げられない当方の低い技術スキルでは到底適いません(笑) ロシアンレンズならこの出品者から手に入れるのがベストでしょう。今回のオーバーホールで、当方がどんな処に手こずったのか以下のオーバーホール工程でご案内していきます。
光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型ですが、マルチコーティングの効果も相まり、非常に鋭いピント面を構成します。ダブルガウス型特有の描写性のみならず、キレイな玉ボケやリングボケ、或いはシ〜ンによってはシャボン玉ボケまで表出させられるのが大変魅力です。誇張的な発色性に偏らず、被写体色に近いナチュラルな印象の中にもマイルド感漂うロシアンレンズの特徴もシッカリ踏襲しており、なかなか使い出のあるモデルのようです。
Flickriverにてこのモデルの実写を検索したので、興味がある方はご覧下さいませ。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。外見上は一見すると同じHELIOSの「44Mシリーズ」とソックリなのですが、内部の構造は少々異なります (そもそも生産工場が異なる)。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。
↑まず最初の難関が絞りユニットです。絞り羽根を開閉させる機構には上の写真の通り「6個の鋼球ボール」が使われていましたが、この鋼球ボールを単に入れ込んでいくと絞り羽根の開閉は正しく機能しません(笑) このような鋼球ボールを使った絞りユニットの場合にはコツが必要であり、当方は取り敢えず難なくクリアできます(笑)
今回の個体は、この絞りユニット内部にまで経年の揮発油成分がヒタヒタと入り込んでおり、上の真鍮製のリングを腐食させていました (鋼球ボールの一部にもサビ発生)。「磨き研磨」を施し大変滑らかに制御環が回るよう戻していますが、絞りユニットに鋼球ボールが組み込まれているロシアンレンズは、最低限絞りユニットがスルスルと回転するよう仕上げなければ「絞り羽根の開閉異常」を来します (理由は後ほど出てきます)。
↑絞りユニットが完成するとこんな感じになりますが、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の調整はどのように行うのか? 「原理原則」が理解できていれば容易に察しが付くのですが、意外と死角になっていたりします。今回の個体の絞り羽根開閉に不具合が生じていた原因も、実は過去メンテナンス時に於ける調整ミスでした。
↑実際に完成した絞りユニットを鏡筒に組み込むとこんな感じになります。
↑この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。非常にシンプルで、絞り羽根を開いたり閉じたりする「絞り羽根開閉アーム」1本だけが飛び出ているだけです。
↑こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。この基台には他のHELIOSとは異なり「制限キー」と言うパーツが用意されていました。
「制限キー」は距離環が無限遠位置や最短撮影距離の位置で「カチン」と突き当たって停止する際に必要な、ストッパーのような役目のパーツです。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
当初バラす前のチェックで、距離環を回した時にトルクが軽いのですが、ピント合わせをするとスリップ現象 (ククッと微動する) を確認しました。古いヘリコイド・グリースの経年劣化が進行しているのかと思いきや、バラしてみるとヘリコイドのネジ山には「潤滑油」が塗られていました (なんとグリースは既に消滅していた)。このまま使い続ければ1〜2年でヘリコイドが固着して固まってしまい外せなくなっていたでしょう (つまり製品寿命)。
↑こちらの写真は「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツです (基台の両サイドに1本ずつ固定)。それぞれ固定ネジ2本を使って締め付け固定するようになっていますが、よ〜く観察すると、右側の直進キーは板状の真鍮材に対して、もう一方の左側はスリットが入った銅製です。いったいどうして材質を変えているのでしょうか?
↑直進キーを基台にセットしました。距離環を回したチカラは、この直進キーが垂直状にヘリコイド (オス側) に刺さっていることから、そのチカラはそのまま直進動のチカラに変換され伝わっていきます (つまり鏡筒が直進動する)。直進キーの一方に銅材を使ってスリットを入れた理由は、その直進キーで距離環を回す時のトルクムラを相殺させる役目を担っていますが、そもそも直進キーの固定に関してはコツが必要であり、単にネジで締め付けただけでは、まずトルクムラは解消しません(笑)
↑2番目の難関です。一般的なオールドレンズに於ける直進キーでは、固定用ネジは「ネジ穴」にネジ込んで締め付け固定する設計が一般的ですが、このロシアンレンズではネジ穴ではなく「コの字型」の窪みに固定ネジを締め付け固定する設計でした。これはいったいどんな問題が起きるのか?
固定ネジを締め付ける際に直進キーが外側に逃げるチカラが働いてしまうのです・・つまりネジを締め付けていくと直進キーは外れようとします。その外れようとするチカラは、そのままヘリコイドのトルク感に負荷/抵抗として影響してしまうので、この方式の直進キーでは「トルクムラ」或いは「重いトルク感」に仕上がる確率が高くなります。従って、単純にネジを締め付けてしまうとトルクムラを生じますから「潤滑油で軽くしたい」ことになりますね(笑) 凡そ過去メンテナンス時の状況が蘇ってきます(笑)
↑ヘリコイド (オスメス) のトルク感調整が完了したので、ここで距離環を仮止めします。距離環には「制限壁」と言う壁が用意されており、その壁の一方が「制限キー」に突き当たることで距離環が停止します。上の写真では無限遠位置の「∞」刻印で突き当たって停止している状態を撮っています。距離環を回して最短撮影距離側まで行くと、今度は「制限壁」の反対側がやはり「制限キー」に突き当たって停止します・・最短撮影距離位置ですね。
↑こちらの写真はマウント部ですが、固定用のネジ穴が用意されています。マウント部を基台にセットして、この穴に固定ネジで締め付け固定すればOKです。
↑基台側にマウント部をセットして固定ネジで締め付け固定した状態です。ところが、距離環を回して「カチン」と音がして停止すると上の写真のように基準「Ι」マーカーの位置から「∞」刻印がズレて止まります。フツ〜「∞」の中心に「Ι」マーカーが合致するのが一般的です。
当初バラす前のチェック時に、これはどうもおかしいと考え、実はこのモデルのネット上の写真を20本ほどチェックしてみました。すると18本の写真で今回の個体と同じように「∞」刻印がズレて停止していたのです。つまり、設計ミスなのか何なのか不明ですが、生産時からこのようになっているようです。
しかし、当方からすると、どう考えてもこれは気持ち良くありません(笑) と言うのも、実はこのモデルの距離環は固定位置調整ができる「無限遠位置調整機能」を装備していたからです。距離環の固定位置を変えて無限遠位置をピタリと合わせられるようになっているにも拘わらず「制限キーの停止位置はズレている」と言うのは、どう考えても納得がいきません。何故ならば「制限壁」が距離環側に備わっているので、必ず「カチン」と制限キーに突き当たらない限り距離環が止まらないからです (つまり無限遠位置調整機能が無意味と言う設計?)。どうしてこんになことになっているのか皆目見当が付きません。
↑念のために、キチッと「∞」刻印が基準「Ι」マーカーにピタリと合致した位置で、ワザとマウント部を外してみました。するとご覧のように距離環は (制限壁は) 制限キーの2mmほど手前で停止していました (つまり制限キーにカチンと突き当たらない)。逆に制限キーに突き当ててカチンと停止させたら、∞刻印はズレた位置と言うワケです。
↑今回のご依頼内容にはありませんでしたが、どう考えても気持ち悪いので改修を施し、ピタリと∞刻印の中心位置で基準「Ι」マーカーと合致させました。従って、市場に出回っている多くの同型モデルと比較して、今回の個体だけは距離環がカチンと鳴る所で∞マークはキレイに合致しています。
しかし、そうは言っても、ご依頼内容には一切無い作業を当方が勝手に施してしまったワケですから、もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額分を減額下さいませ。申し訳御座いません。
↑この連係環が絞り環と接続することで設定絞り値が絞り羽根まで伝達されます。原理はそうなのですが、ここがまた厄介な箇所です。
↑上の写真はマウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれることで連動している「絞り連動ピン連係アーム」の機構部をバラしたところです。特に問題が無ければ、バラさずにそのまま組み付ければOKなのですが、当初バラす前のチェック時に、絞り連動ピン押し込み時の絞り羽根開閉が緩慢な症状が出ていました。その原因箇所がこの部分になるためバラした次第です。
↑この「絞り連動ピン連係アーム」には鏡筒の後から飛び出ている「絞り羽根開閉アーム」を掴む「爪」があり、またアームの途中には「なだらかなカーブ」が用意されています。このなだらかなカーブに前出の「絞り環連係環」が突き当たることで、具体的な設定絞り値まで絞り羽根を閉じさせる「角度が決定」します。「なだらかなカーブ」の一方が最小絞り値側になり、反対側が開放側になります。
↑このような感じで絞り連動ピンの連係機構部がマウント部に組み込まれます。
今回のご依頼 (1) の絞り羽根が「開放〜半段分」と「f11〜f16」で動かないと言う現象の原因は、この「なだらかなカーブ」部分と、さらには絞りユニットの調整が正しく成されていなかったことの2つが互いに影響し合って発生していた不具合です。
また同時に、マウント面の絞り連動ピン押し込み時に絞り羽根の動きが緩慢であることも、この絞り連動ピン連係機構部に附随する「捻りバネ」が問題でした。
従って、絞りユニットを再びバラして絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を調整し直し、こちらの「なだらかなカーブ」部分も調整を行いつつ、内部の捻りバネの強さも変えつつ、再び組み上げて各部の動きを確認し、ダメならばまたバラして3箇所の再調整・・これをひたすらに数時間繰り返した次第です(笑) 2時間くらいすると、いったい自分は何をやっているのか分からなくなってきます(笑)
実は、このような作業をしていること自体が、当方の技術スキルが低い「証」でもありますね(笑) 1カ月間に20本以上もHELIOSを仕上げてしまう冒頭の出品者さんは、こんなに時間を掛けずに仕上げられているワケで、全く以て恐れ入ります、敵いません、歯が立ちません(笑) HELIOSのオーバーホールをするたびに、自らの技術スキルの低さを思い知らされるワケで、正直な話、HELIOSは好きではありません(笑)
なお、最初のほうの工程で、絞りユニットがスルスルと軽く滑らかに回るようにする必要があるのは、このマウント部内部にある「絞り連動ピン連係機構部」に附随する「捻りバネ」が弱いからです。設計上の問題と言うよりも、材質的な問題だと考えます。ロシアンレンズで使われているほとんどの「捻りバネ」は経年劣化でだいぶ弱くなりますから、最低限絞りユニット側は抵抗/負荷を「皆無」の状態に仕上げなければイケマセン。
↑マウント面には「絞り連動ピン」しか存在しませんから、まるで蓋のようなモノです。
↑ようやく、らしくなってきました。この後は光学系前後群を組み付けます。
↑どう言うワケか、HELIOSは貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) のコバ端が着色されておらず、上の写真のように白っぽく見えてしまいます (赤色矢印)。光学系内の内面反射によるコントラストなどへの影響はどうなのか?・・と言う疑念も湧きますが、確たる影響度合いは写真を観ても分かりません。他にもコバ着色の浮きが出ている箇所もあり白くなっています。
↑貼り合わせレンズの内部に白線が見えますが、実はコバ端部分 (赤色矢印) が着色されていないのです。これらを着色して組み込み、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。冒頭の問題点 (1) 〜 (4) まで、すべて改善が終わっています。
↑光学系内の透明度は非常に高いのですが、前後玉には経年の拭きキズや擦りキズが僅かに散見します。前述のコバ端着色も、ほぼ黒っぽくなったでしょうか・・あくまでも「心の健康」程度の話ですから、もしもご納得頂けないようであれば、こちらもご請求額より減額下さいませ。申し訳御座いません。
↑こちらの写真は絞り環を開放から半段分回した時の絞り羽根の状態を撮っていますが、写真が下手クソでよく分かりませんね。覗き込んで絞り環を回して頂ければご確認頂けると思います。
↑上の写真 (2枚) は、最小絞り値側まで絞り環を回した時の絞り羽根の状態で、「f11」と「f16」を撮っています。ちゃんと絞り羽根が閉じるようになりました。
↑光学系後群内は経年の極微細な点キズが残っていますから、一見すると塵や埃が入っているように見えてしまいます (清掃でも除去できませんでした)。
ここからは鏡胴の写真になりますが、当方による「磨きいれ」を筐体外装に施しので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。
↑塗布したヘリコイド・グリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:軽め」を塗っています。距離環を回す際のトルクは全域に渡り「完璧に均一」になり、トルク感は「普通」です。当初のスリップ現象も改善できていると思います。
↑キレイに∞マークの中心でカチンと鳴って距離環が停止するようになっています (もちろん最短撮影距離位置もカチンと鳴って停止します)。絞り羽根の開閉も開放「f1.8」から順番に確認済で、確実に最小絞り値「f16」まで徐々に開閉しています。
↑なお、サンプルで調べた20本全てで同一でしたが、レンズ銘板と前玉固定環との間に隙間が空いている設計のようです。実は、前玉固定環の次に光学系前群の固定環が存在するため、そこにレンズ銘板が当たるため隙間が空いてしまいます。どうしてそのような設計なのかちょっと見当が付きません。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
今回このモデルをオーバーホールしていて、ひとつ気がついたことがあります。製造番号から1991年生産の個体ですが、内部構成パーツの切削レベルが飛躍的に向上しています。そもそも、ロシアンレンズで1950年代〜1960年代と、1970年代〜1980年代では、内部の構成パーツの切削レベルが違います。1950年代〜1960年代では切削後の面取りは酷い状態ですし、切削精度自体が良くないのですが、1970年代からは改善されています。
そこで、いろいろと調べてみると、旧ソ連時代の特に1970年代前半あたりから産業機械の輸入実績が上がっていきます。特に1980年代に入るとNC旋盤の輸入が増大しているのが分かりました。有名な事件では「東芝機械ココム違反事件」がありますね。1987年に日本で発生した、外国為替及び外国貿易法の違反事件ですが、共産圏 (とりわけ旧ソ連) への産業機械輸出事件になります。この事件では旧ソ連の潜水艦技術が進歩したため、当時のアメリカに重大な懸念を与えたと言うことでも注目された事件だったようです。
事件はともかく、実際の旧ソ連産業機械輸入実績を年代別で追っていくと、特にNC旋盤とその専用システム (ソフト) の輸入に関しては1980年代に入ると日本からの輸出が大幅に増大していました。その恩恵が、今回の個体でも切削レベルとして確認できた次第ですが、まさしく日本製オールドレンズと同格の切削レベルに到達していました。従って、必然的に当時までの日本製オールドレンズを模倣した (悪く言えばパクリ) 内部構造に設計変更している箇所が多く見られたワケですが、如何せん細かい部位の設計思想そのモノがダメなので、機械は最新でも設計は進歩していなかったことが伺えます。
その意味では、日本製や旧東西ドイツ製オールドレンズに倣い、オーバーホール工程での調整も1980年代以降のロシアンレンズならば、同じスタンスで取り掛かることができますが、1970年代以前のロシアンレンズではどうにもなりません・・と、生産技術レベルの話で自らの技術スキルの低さをごまかそうと言う魂胆ですね(笑)
このような日本製NC旋盤の導入による切削精度の向上を現在の製品で知るならば、皆さんに一番分かり易いのはデジカメ一眼やミラーレス一眼で使うオールドレンズ用の「マウントアダプタ」です。現在市場に流通しているほとんどが中国製ですが、その製造メーカーには日本製のNC旋盤が輸出されています。切削精度が高く製品材質管理面でもハイレベルです。この点、ロシアンレンズをバラしていると、1980年代後半辺りからロシアンレンズでも切削精度は飛躍的にレベルアップしているのですが、如何せん製品材質の均質性は酷いままです。
つまり、ここが中国製の製品との大きな相違点になり、特に日本のメーカーによる支援や技術提携などが進んだ中国では、切削技術のみならず製品材質管理面まで水準を上げられたことが現在のMADE IN CHINAの品質を導いてきた一因だったのではないでしょうか。それは、偏に日本国内で流通させるためにこそ中国製品の品質向上を狙ったものであり、一方の旧ソ連時代の製品を日本国内で流通させる必要性は、当時からして低かったが故の結果が現れていると、ロシアンレンズのオーバーホール工程の中から考えさせられました。
今回の個体は1991年生産ですが、内部構成パーツの切削精度が向上したものの、そのアルミ合金材の品質面や内外パーツのメッキ加工レベルなど、凡そ旧態依然のままなのが現実です (これらの事柄は磨き研磨工程で他国製オールドレンズとの相違が明白です)。例えば、生産年度が2000年代のロシアンレンズでさえ、筐体外装のメッキ加工レベルは低い当時のままであり (薄く弱い)、且つアルミ合金材の均質性は酷いままです (空洞が空いていたりするのをよく見かける) から、仮に共産圏で生産されたオールドレンズに優劣を敢えて付けるのだとすれば、ロシアンレンズは残念ながら旧東ドイツ製オールドレンズに比べて「切削技術/材質管理面/設計面」のすべてに於いて不利な立場と言わざるを得ません。
しかし、オモシロイのは、描写性に関しては一つのロシアンレンズとしての味を確立し得ているワケで、光学系設計も含めて拘る箇所と拘らない箇所が明確に分かれていると言う、一種の国民性のようなものを感じたりします(笑) 結果オーライの世界で造られているオールドレンズ・・それがロシアンレンズなのでしょうか。
↑当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。