◎ MINOLTA (ミノルタ) MC W,ROKKOR-HH 35mm/f1.8(MD)

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RO3518(0425)レンズ銘板

minolta-logo(old2)今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。

1968年に登場した「MC ROKKOR」シリーズが初代になり、その後1978年に「MD ROKKOR」へとモデルチェンジしますが、光学系に関しては「6群8枚構成レトロフォーカス型」から変わっていません。しかし、MDシリーズに変わる際に光学硝子レンズの攻勢に手が加えられ大きく変わっています。

「MC ROKKOR」シリーズでは第1群の前玉が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) で第2群は単レンズでしたが「MD ROKKOR」では第1群の貼り合わせレンズを単レンズにすると同時に第2群を貼り合わせレンズに変更しています。また後群に関しては「MD ROKKOR」では光路長を短縮化して大口径に変更することにより筐体サイズのコンパクト化に成功しています。

ちなみに今回のオーバーホール/修理ご依頼分「MC W,ROKKOR-HH 35mm/f1.8」に関しては第2群の単レンズが大きなガラスの塊になっており、同時に「アクロマチックコーティング (AC)」が表裏共に施されているため唯一「淡い緑色」の光彩を放っています。MCタイプなので他の群の光学硝子レンズには「パープル色」に輝くマルチコーティングが施されています。

この第2群の「アクロマチックコーティング (AC)」がミノルタ独自の「柔らかな画造り」を醸し出している由縁であり、このコーティング技術はLeicaレンズにも受け継がれています (Leicaレンズではアンバー系の輝き)。

このモデルは開放f値「f1.8」から大変鋭いピント面を構成するカリカリの描写性を持っており、最短撮影距離は30cmと並の部類ですが筐体が長く大口径なので実際にはレンズの先端15cm附近まで被写体に寄れることになります。周辺域まで含めて隅々まで収差の非常に少ない、且つ歪曲も僅かなとても端正な描写性能を発揮してくれる素晴らしいモデルですね。

RO3518(0425)仕様

RO3518(0425)レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

RO3518(0425)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

RO3518(0425)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

RO3518(0425)136枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

RO3518(0425)14こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

RO3518(0425)15真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

この基台や真鍮製のヘリコイド (メス側) などは、写真ではとてもキレイに光り輝いていますが、当初バラして清掃しただけの状態では表層面のメッキ加工が経年に拠り既に腐食しており輝いていません。真鍮材は少々濃いめの茶色に変色していますし、アルミ材削り出しによる基台も真っ白でシルバーの感じには輝いていません。当方にて「磨き研磨」を施したので美しく輝いていますが、キレイにするために「磨き研磨」を処置したのではありません。

最近、この「磨き研磨」を嫌う方がいらっしゃいますが「磨き研磨」をしない場合はグリースを塗布して「平滑性」を確保しなければならなくなり (構成パーツの表層面が腐食に拠り摩擦を生じている為)、結果将来的に再びレンズ内に揮発油成分を廻らせてしまう原因の一つになってしまいます。

従って、基本的に当方で行うオーバーホール/修理では「磨き研磨」は必ず実施する作業になっています。中にはご指示によりヘリコイドのみ磨き研磨を施さない場合もありますが、他の構成パーツはすべて磨いています。全く一切「磨き研磨」を行わない作業は原則的にお受け致しません。そのようなご要望がある方は当方ではなく他の整備会社様をご利用下さいませ。どの整備会社様にご依頼されても「磨き研磨」などは処置しないハズですからご要望通りになると思います。

今回ご依頼の方はすべて当方にご一任頂きましたので、通常のオーバーホール作業を実施しています。

RO3518(0425)16ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

このヘリコイド (オス側) は相応にネジ山の距離が長く (深く) ネジ山数が多いので、ヘリコイド・グリースを塗布したトルク感としては少々「重め」の印象になってしまうと思います・・。

RO3518(0425)17こちらはマウント部内部を撮影していますが、既に内部の連動系・連係系パーツを外しており、それらパーツが接触する箇所を全て当方にて「磨き研磨」しています。

RO3518(0425)18マウントの爪を固定する固定ネジ (4本) がマウント部内部で「隠しネジ」になっているので、ここで先にマウントの爪を固定してしまいます (後からの取付ができません)。

RO3518(0425)19そして先に絞り環を組み付けてしまいます。これには理由があり「絞り連動ピン」との連係パーツの都合から絞り環を後から組み付けることができない仕組みだからです。

RO3518(0425)20外していた連動系・連係系の各パーツを組み付けます。当初バラした状態では、このマウント部の内部にまでグリースが塗られていましたが、上の写真のように当方の整備では一切グリースを塗っていません。グリースを塗らずとも各連動系・連係系パーツの動きは平滑性が担保されており大変滑らかに、そして確実な動作が確保できているからです・・余計なグリースを塗ることはしません。

大抵の過去のメンテナンスではこのマウント部内部にグリースが塗られていることが多いのですが、この部分はすぐに鏡筒が位置しており絞りユニットへの揮発油成分侵入の原因になり兼ねません。「絞り羽根の油染み」のその「揮発油」はこのマウント部から来ているワケです。

RO3518(0425)21完成したマウント部を基台にセットします。その際もやはり「隠しネジ」が4本あるのでここでセットしなければ後から基台を取り付けることができません。

RO3518(0425)22梨地仕上げの絞り環用「メクラ環」を組み付けて絞り環が固定されます。

RO3518(0425)23光学系前後群を組み付けてから距離環を仮止めして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

RO3518(0425)1大口径の35mm広角レンズですが、レトロフォーカス型の光学系ながらもいきなり第1群に貼り合わせレンズを配置した6群8枚の贅沢な構成になっており、描写性能に拘った設計であることが分かります・・。

RO3518(0425)2当初光学系内は多少汚れや薄いクモリが生じていましたが、清掃により透明度がアップしました。経年の極微細な点キズやヘアラインキズ、或いは拭きキズの類は相応に残っています (清掃では除去できません)。

RO3518(0425)9後群の透明度も高い部類でしょうか・・。

RO3518(0425)3絞り羽根のキレイになり確実に駆動しています。当初バラした直後では絞りユニットの外周にヒタヒタと液化した揮発油成分が附着していました。絞り羽根に油染みがないとしてもこのような状態です・・この揮発油成分の一部が光学系に飛んでしまい薄いクモリを生じていたようです。

ここからは鏡胴の写真になります。筐体の外装もすべて軽く「磨き」をいれたので、落ち着いた美しさの仕上がりになっています。

RO3518(0425)4

RO3518(0425)5

RO3518(0425)6

RO3518(0425)7使用したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度+軽め」の2種類を使い分けて塗っています。これは距離環を回すトルク感が少々重く仕上がってしまったので「軽め」をヘリコイド (オス側) に使って調整していますが、それでも相応に「重め」の印象です。すべて「軽め」を塗ってしまうとすぐにスリップ現象が起きてしまうので「中程度」と使い分けている次第です。

RO3518(0425)8オーバーホールが終わって実写確認などをしましたが、さすが鋭いピント面を持っており開放からいきなりカリカリの描写です・・凄いですね。特に問題も無くオーバーホールが滞りなく完了しています。

RO3518(0425)10当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。

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この他の同時にご依頼頂いたモデル「MC W,ROKKOR 35mm/f2.8」や「MD ROKKOR 50mm/f1.4」など、共に問題なくオーバーホールが終わっています。35mmのほうはやはり少々重めのトルク感に仕上がっていますが50mmのほうは軽めです (広角レンズは2本共にシッカリしたピント合わせであり、標準レンズは逆にピントの山が掴み易いため軽めに調整しています)。