〓 FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) FUJINON L 5cm/f2.8(L39)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産の
富士フイルム製標準レンズ・・・・、
『FUJINON L 5cm/f2.8 (L39)』です。
このモデルの扱い数は累計で僅か2本目ですが、前回初めて扱ったのはオーバーホール/修理 ご依頼分だったので、純粋にオーバーホール済でヤフオク! 出品するのは今回が初めてです。
特に敬遠しているワケではありませんが、このモデルが設計上「回転式ヘリコイド駆動方式」なので、使い勝手の良さを追求しようと考えるとなかなか微調整が面倒だったりします(笑)
つまり距離環を回すと「絞り環側まで一緒に回っていってしまう」ので、一般的なオールド レンズの使用方法である「距離環でピント合わせしてから絞り環操作でボケ味をイジる」操作を行うと、距離環側までその操作に合わせて回るのでピント位置がズレてしまうと言う使い 難さがあったりします。
従ってこのモデルの場合は使い方が逆転し「絞り値を決めてからピント合わせする」使い方になり、おそらく一度ピントを合わせて絞り具合をチェックしてから再びまたピントを合わせるという二度手間が必ず起きるかも知れませんね(泣)
よせば良いものを拘って、たった一人のご落札者様に対する使い勝手の良さを追求したが故に面倒なオーバーホール作業になってしまいました (組み直し回数が倍増する)(笑)
何をしたのかと言えば、一般的なオールドレンズ同様に「ピント合わせしてから絞り環操作をしたい!」と頑なに拘ったワケです(笑)
結果、出品に際しその仕上がり状態は「f4〜f16」の間で絞り値をイジるなら「ピント合わせしてからでもズレないトルクに調整した」仕上がりに至っており、まず以て市場でこのような仕上がりに設定されている個体は、ことこのモデルに関して言えばだいぶ少ないと思います(笑)
とは言っても市場に流通している古いグリースで重いトルク感に至ってしまった個体の話とは同一にならず「あくまでも楽なピント合わせの操作性を担保したままで、そのまま絞り環は 最後にイジりたい!」という頑固さです(笑)
しかし、残念ながら「開放f値:f2.8」と「最小絞り値:f22」の両端だけは「クリック感を 伴いつつ突き当て停止」するので、どうしても距離環側までそのタイミングで動いてしまい ピント位置がズレる懸念が高いです。その都度意識して絞り環操作するなら動きにくいですが却ってそれが面倒でしょう(泣)
そんなワケで絞り値の設定が「f4〜f16」という話になり、或いは最初から「開放のままで 使う」のも一手だと思います。ただ「f4〜f16」でピント位置がズレにくいトルク感に設定をしてあるだけで、たいていの撮影時には意識せずに使え「使い勝手の良さ」に直結すると考えています。
従って組み直し回数が倍増するのは致し方ないとして、今回のオーバーホールでは「経験値」がモノを言い(笑)、すんなりとトルク感の微調整が仕上がったので、なかなか気持ちの良い操作性に至っています(笑) 逆に言うなら「どんだけ絞りユニットや絞り環側の組み込みを軽く 仕上げられたのか」がまさに問われる話であり、それこそ当方の「DOH」効果が試される内容と言うワケです(笑)
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
富士フイルムが写真感材 (写真感光材料) 国産の為に会社を創設したのが1934年 (昭和9年) なので相当な老舗になるのですが、その当時既にいずれは光学製品やフィルムカメラまで含めた一貫製造メーカーに到達する事を描いていたようです。
そして実際に光学ガラスの精製に関し動き出すのは1939年からになり、当時光学硝子精製の実績がある国内企業は僅か2社しかなく、日本光学工業 (現Nikon) と小原光学硝子製造所のみだったとの事で、相当険しい道のりだったことが想像に難くありません。
また1939年に光学硝子精製の研究をスタートさせるも、その知識は皆無で最終的に4人の技師を大阪工業技術試験場に派遣し同技術試験場所長の高松亨博士に指導を仰ぎ、1940年 (昭和15年) ついに小田原工場内に硝子溶融施設の完成に漕ぎ着け、1940年度末には実証に耐え得る光学硝子 12種を精製するに至ったようです。さらに1941年には硝子プレス成型精製の研究も出かけ1944年に完成しているようですが、折からの太平洋戦争の進展に伴い軍需生産に転身せざるを得ず、相次ぐ軍部からの需要に応えるが如く第3次硝子溶融工場が完成したのは終戦直前の1945年7月末であり、それ以前に1944年時点で大日本帝国陸軍部造兵廠の要請に応え子会社化した榎本光学精機製造会社を傘下に収め、富士写真光機と改めるとともに、小田原工場の精密機械部門を大阪工場に移転するも、戦災などから終戦時には大宮工場を残して売却せざるを得ない状況にまで追いつめられていたようです。
然し、まさに戦後に輝かしい発展を遂げた「FUINONレンズ」の系統は、その源流を戦時中の小田原工場内光学硝子溶融るつぼの完成が起源だったとも言い替えられると認識しています。
(以上全て現富士フイルムの50年の歩みから一部引用)
これら当時の背景の中で当方が特にオモシロイと感銘を受けたのは、こと農業/食品に関する分野では東京試験場 (前身を東京商品陳列所) が開設され日本の発展に中心を担っていましたが一方工業に於いては大阪 (おおざか) 工業技術試験場だったことが分かりました。これは前身が明治維新以降 (明治23年以降) の列強世界各国からの商品陳列所としての任務を帯び創設された「大阪商品陳列所」であり、その後大正〜昭和にかけてその性格は単なる各国商品の展示に限定せず、さらにその構造研究や試験などまで含めて広義的に機能していたことからも相当興味が高くなります。
当時は何だかんだ言っても一番は「国民全てが食べて生きること」が最優先だったとしても、その次に富国強兵に適う産業工業分野の中心地を担ったのは東京ではなく大阪たったのですね!(泣) 何とも感慨深い想いです (ちなみに当方は神奈川県湘南地区出身)・・。
そして良し悪しは別として、光学硝子精製の発展に大きく寄与したのは他ならぬ大日本帝国 海軍と陸軍だったワケで、海軍の要請を一手に引き受けた現Nikonと同じように、陸軍の要請を担いその光学技術の発展に資する活躍をした中に、富士フイルムも含まれていたワケです。海軍/陸軍どちらにも航空隊が存在し航空撮影の必要性も高く光学硝子レンズの開発/設計は まさに軍部の要求にも適う話だったのでしょう (潜望鏡から測距儀/双眼鏡や照準機に至るまで多岐に渡る)。
その意味で捉えると、今現在の新型コロナウイルスの問題は、海外先進国の軍需研究施設からの発展と開発が一躍を担っていた事を勘案すれば、まさに「兵器研究の中から生物科学 (兵器) 研究の発展にも資する」と言う理論にある部分納得できます。特にワクチン分野で日本が大幅に出遅れていた話は今でこそよく目にする内容ですが、はたして「研究することと具現化して兵器にすること」は表裏一体との認識で良いのか否か、なかなか議論が必要な話だと今一度、今回のモデルをオーバーホールして、その背景を知るにつけ感慨深い想いがありました。
たかが趣味の世界のオールドレンズと言いますが・・なかなか奥が深く今現在の課題にも繋がると、当方にはいろいろ考えをめぐらす材料になっています。
そもそも何だかんだ言っても、今の世界中で光学精密機械の世界シェアを握ってしまったのは他ならぬニッポンなのですから、そのセンサー技術共々光学技術の核心的最先端技術は国策も合わせ、経済安全保障面に於いてもキッチリ守り抜かなければならないと意識新たにした次第です。事は医療のみならず宇宙技術にまで進んでいるので、たかが光学レンズの世界だと侮ったら50年後〜100年後に後悔するかも知れません!
然しながら、そんな中で当方がやっている話と言えば『転売屋/転売ヤー』たるモノ、たかが 知れているワケで(笑)、せいぜいどんなに頑張っても皆さんのロマンを僅かながらでも広められるか否かと言ったところで寸止めです (情けない)!(笑)
↑完全解体した時の内部構成パーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説は「FUJINON L 5cm/f2.8 (L39)」のページをご参照下さいませ。
ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。久しぶりに扱いましたが「回転式ヘリコイド駆動方式」で絞り環まで一緒に回っていってしまう動き方というのは、なかなかそのオーバーホールに際し難度が高かったりします (構造面の話ではなく微調整の話)。
↑このモデルは設計上 (構造上) 絞り羽根の「位置決めキー」が刺さる位置が固定なので (位置を変更/ズラせない)、ご覧のように開放f値「f2.8」にセットしても絞り羽根が僅かに顔出しします。従って円形ボケの一部は設定絞り値により角張った印象に至る事も当然ながらあり得ます (一方キレイな円形になる事ももちろんある)。
光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無ですが、残念ながら「後玉表面側に経年相応にカビ除去痕が複数残っている」ので、光源や逆光撮影時にはフレアの出現率が上がる懸念があります (場合によっては光線の入射角によりコントラスト低下を招きます)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
市場流通個体の状況をチェックすると、ハッキリ言って光学系の状態が必ずしも良い個体ばかりとは言えず、むしろ何かしら問題点を含んだ個体のほうが多いように感じるので、その意味では今回の個体は良いレベルを維持しています。
↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無ですが、前述のとおり後玉表面にLED光照射で浮かび上がるカビ除去痕が極薄いクモリを伴いつつ浮かび上がるので、シ〜ンによってはコントラスト低下などが起きると思います (但し画像編集ソフトで違和感なく加工できる範疇のレベル)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:12点、目立つ点キズ:9点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
(後玉表面にLED光照射で視認可能な極微細なカビ除去痕が複数あり/順光目視できず)
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い8mm長ヘアラインキズ数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内には大小の「気泡」が複数あり3回清掃しても除去できない為、拡大撮影で「気泡」との判定しています。
一部は一見すると極微細な「塵/埃」に見えますが「気泡」です(当時気泡は正常品として出荷をしていた為クレーム対象としません)。また「気泡」も点キズにカウントしているので本当の点キズは僅かしかありません。
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
・このモデルの設計上開放時に絞り羽根が僅かに顔出しする仕様なので完全開放になりません。
(絞りユニットの設計で必ず絞り羽根が僅かに飛び出すようキーの穴が切削されている為)従ってクレーム対象になりません。
・光源や逆光撮影時には後玉のカビ除去痕の影響からフレアの発生率が多少上がる懸念があります。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑10枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正十角形を維持」したまま閉じていくので最終的にキレイな円形絞りに到達しますが、もちろん途中は角張ったカタチで閉じます。
冒頭解説のとおり「絞り環側操作性を軽めに設定」したので各絞り値でのクリック感は軽めの印象に仕上げてあります。その結果、逆に距離環を回すトルク感のほうをワザと故意に極僅かに抵抗/負荷がかかるよう微調整しましたが、決してピント合わせ時の違和感に繋がる印象には至っていません。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽めと超軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・距離計連動ヘリコイド、及び無限遠位置の設定は当初バラす前の位置で組み上げています。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。
《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
① HAKUBA製MCレンズガード (新品)
② 本体『FUJINON L 5cm/f2.8 (L39)』
③ 汎用樹脂製ネジ込み式M39後キャップ (新品)
④ 汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮っています。なお冒頭解説のとおりこのオーバーホール後の実写時点でも「絞り環操作でピント位置がズレていないのが明白」です。
↑f値は「f8」に変わっています。背景にコントラストの低下が極僅かながら視認できますが後玉のカビ除去痕に附随する極薄いクモリのせいなのか「回折現象」なのかは不明なままです。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
↑f値「f11」です。背景のコントラストが多少改善したので、やはりコントラストの影響のようです (f8からさらに閉じているので改善する道理が通らないから)。要はダメはダメとしてちゃんと正直に明記しています。
↑f値「f16」になりました。さらに背景のコントラストが改善しているようにも見えるので、ちょっとよく分かりません。但しピント面のミニカーの解像度が低下し始めているのはまさに「回折現象」の影響です。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。ミニカーのピント面がだいぶ解像度低下しています (回折現象)。