◎ Ernst Ludwig (エルンスト・ルードヴィッヒ) Meritar 50mm/f2.9 V《前期型》(exakta)

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昔も今も、巷では「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と酷評の嵐の中をジッと耐え凌ぎ、ひたすらに底辺で生き抜いている可哀想な境遇の標準レンズです。ある意味オールドレンズの中の「深海魚」の如く(笑)、ひっそりと目立たずに長き歳月を重ねるだけの存在なのかも知れません。

ところが最近の温暖化の影響なのか異変が起き(笑)、このモデルの海外オークションでの流通価格帯が1万円台にまで届いています。当方がオーバーホールを始めた8年前は僅か1,000円台という市場価格でしたからオドロキの変わりようです (それでも売れなかったのですが)。

近年のこの価格高騰の原因は非常に明確です。一つはカメラボディ側の進化により、ミラーレス一眼の性能が上がると同時に価格が下がってきた背景がありますが、最大の原因はもっと本質的な話です。

それは「インスタ映え」すると再評価された事が原因だと当方は考えています。

しかしハッキリ言ってこのモデルの描写特性はまさに製産されていた当時でさえ低評価でした。それはそもそも一眼レフ (フィルム) カメラのセットレンズとして、取り敢えず供給されていただけのあくまでも「廉価版モデル」の格付だったからです。

当時の旧東ドイツの状況を考えると、一眼レフ (フィルム) カメラのセットレンズと言えども
何だかんだ言ってやはりCarl Zeiss Jenaの独壇場だったと考えられます。戦前こそ大判規格でCarl Zeiss Jenaに肩を並べていたMeyer-Optik Görlitzにはもはやその勢いも無く、さらに弱小のErnst Ludwigにしてみれば、Carl Zeiss Jenaに追いつく事すらできなかったMeyer-Optik Görlitz
との協業でしか販路を確保できなかった (生き残れなかった) 経緯からも、必然的にMeyer-Optik Görlitzよりもさらに下の格付「単なる廉価版モデル」としての供給しか余地が無かったと容易に推測できます。

そんな中でどうしてこのモデルが再評価されていったのかを見ていきたいと思います。

なお今回扱う個体は「exaktaマウント」ですが、例えばこのモデルで最も人着が高い「後期型」のゼブラ柄になると、距離環とプリセット絞り環/絞り環の配置が逆転してしまい使い辛くなります (プリセット絞り機構でなければ使い辛いとは感じない)。

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旧東ドイツはDresden (ドレスデン) 近郊のLausa町で、戦前の1924年に十数人の従業員と共に眼鏡用硝子レンズ会社「Optisches Werk Ernst Ludwig」(後に光学顕微鏡用レンズも含む) として創業したのがスタートになります。戦時中は軍用光学製品も手掛けていたようですが、戦後は民生用135ミリ判フィルムカメラ用レンズの市場に参入します。

Ernst Ludwig社は当初6×6判レンズなどを手掛けていましたが、1939年に戦前ドイツの「Kamera-Werkstätten Guthe & Thorsch」社から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Praktiflex」用セットレンズとして発売した「Anastigmat Victar 5cm/f2.9 (M40)」で
マーケットに参入しています (M40スクリューマウント)。しかし時を同じくして第二次世界大戦に突入してしまい、商品の開発/製産は戦後まで滞ってしまいます。

戦後になるとすぐ1945年にレンズ銘板から「Anastigmat」を省いた「Victar 5cm/f2.9」を発売し、マウントもM42スクリューマウントに変更しています。

その後1951年には光学系に3群3枚のトリプレット型を採用した「Peronar 5cm/f2.9 V (M42)」を発売し、Meyer-Optik Görlitzとの協業によりIhagee Dresdenが発売する一眼レフ (フィルム) カメラ「EXA/EXAKTA」シリーズのセット用レンズとして供給がスタートし最盛期を迎えます。

今回扱うモデル「Meritar」はその後に登場したモデルですが、先に登場していた「Peronar」と全く同一の筐体/設計のままモデル銘だけを変えて併売していたようです。しかし、この「前期型」を気に入って探そうとしても市場に出回っているのは「中期型後期型」が圧倒的に多いので、意外と品薄品です。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

Anastigmat Victar 5cm/f2.9前期型 (1939年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:ノンコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印が有

Victar 5cm/f2.9後期型 (1945年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:シングルコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印無し

Peronar 50mm/f2.9 V (1951年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:V刻印有

Meritar 50mm/f2.9 V前期型 (発売年度不明/1951年発売?)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:無し (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有
筐体:Peronar 50mm/f2.9と同一
製造番号:〜100xxxx以下

MERITAR 50mm/f2.9 V中期型−I (1956年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有
筐体:新設計の筐体デザイン
製造番号:100xxxx〜120xxxx

Meritar 50mm/f2.9 V中期型−II
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有無が混在
筐体:新設計の筐体デザイン
製造番号:120xxxx〜145xxxx

Meritar 50mm/f2.9後期型 (1963年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印
筐体:絞り環と距離環逆転配置ゼブラ柄
製造番号:146xxxx

会社の屋台骨となるような中心的存在の光学設計技師を確保していなかったのか、発売されたモデルは焦点距離:50mm (開放f値:f2.9) をメインに据えた展開に終始し、他の焦点距離の製品はそれほど売れていなかったようです。結局、Ihagee Dresden の「EXA/EXAKTA」の
セットレンズ化により販路を急拡大しましたが、同時にそれら一眼レフ (フィルム) カメラ衰退に伴い経営難に陥り、ついに1972年にはVEB PENTACONに吸収され消滅していきます。

なお「Victar 50mm/f2.9」は「Victor (勝利者)」ではなく「Victar」です。

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光学系は3群3枚のトリプレット型構成で、先代「Victar」の3群4枚アナスティグマート型構成から発展した、当時の標準レンズとしては最先端の光学設計とも言えます (3群4枚テッサー型が主流になる前の時代)。

しかしMeyer-Optik Görlitzとの協業によりマイヤーのモノコーティング」を蒸着しながらも光学設計の追求が足りなかったのか (或いは格となる光学設計者が居なかったのか)、ピント面の解像度不足とアウトフォーカス部の収差改善が進まないままに最後のモデルまで続いてしまいました。

逆に考えれば「廉価版モデル」の格付たるセットレンズが辿る運命だったのか、次期モデルに繋ぐ光学設計に着目せずに筐体設計やデザインばかりに資金を費やしてしまった事が、経営難に拍車を掛ける結果に至ってしまいました。

詰まるところ、このモデルが「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と揶揄されるのは、まさにそれら戦略面での失敗を物語っているようにも見えますね。




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からキレイな真円のシャボン玉ボケが破綻して輪郭が崩れて円形ボケへと滲んでいく様をピックアップしています。前述のとおり当時は「廉価版」の格付だったとしても、光学系は一丁前に「3群3枚のトリプレット型」構成ですから、当然ながらシャボン玉ボケを表出させることができます。このシャボン玉ボケで有名な (代表的な) Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズと比較すると、さすがにシャボン玉ボケのエッジ (輪郭) の繊細感と美しさの表現性には差があります。

しかしその「見えすぎないリアル感」と言うのは、実は人の目で見た時の感覚に似ているのかも知れません。そのように感じたのが右端の写真で、3群4枚のテッサー型と比較して鋭さが誇張されない3枚玉トリプレット型の良さを、上手く活かした写真ではないかと思います。

二段目
背景の円形ボケはさらに滲みながら曖昧に溶けていきますが、この曖昧な感じで溶けていく印象はこのモデルにとってはむしろ得意かも知れません。

三段目
背景に収差ボケを伴いながら乱れた滲み方もしますが、結局このモデルの光学系設計の影響からその乱れ方まで曖昧さがあるので、それが却って誇張感無く感じられます。やがてトロトロボケへと移り変わり、ピント面のソフトな印象と共に昨今の「インスタ映え」の写真に至ります。

四段目
おそらく光のピークコントロールが完全に制御し切れていない光学設計なのだと思いますが、明暗部のコントラスト表現が苦手なのでダイナミックレンジのメリハリ感が強い (明暗の差が大きい) シ〜ンになると少々違和感を伴う1枚に仕上がってしまいます。逆光には滅法弱く(笑)、ある意味素晴らしいゴースト表現を楽しめます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は至ってシンプルで構成パーツ点数も少なめですから、パッと見で「初心者向け」と思い込んでしまいますが、実はこのモデルは「高難易度モデル」です(笑)

その最大の理由は、ヘリコイド (オスメス) の制御概念が一般的なオールドレンズとは真逆である事と、何よりも光路長確保を必須とする設計なので組み上がった状態で鋭いピント面を確保できる保証が無いからです (つまり単に組み上げても鋭いピント面には至らない)。確かに光学系は3群3枚のトリプレット型構成なので、僅か3枚の光学硝子レンズの話ですが、各群で光路長確保が必要なのでそう簡単には調整が仕上がりません。

さらに今回の個体は「前期型」なので、ある意味最大限にこのモデルバリエーションの中では「難易度が高い」モデルとも言えます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割設計なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」側に配置されます。しかしそれも一般的な二分割設計とは異なるので、やはり原理原則」を理解している整備者でない限り適切に組み上げられません

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

ご覧のとおり閉じていく絞り羽根は「何処まで行っても正五角形のまま」なので(笑)、もちろん開放f値の「f2.9」の時は完全解放しますが、絞り値を少しずつ絞っていった時の円形ボケ表出は、この角張った閉じ具合のまま写っていることになります。つまり絞り羽根の閉じるカタチだけで全てが決まるワケでもなく、重要なのはやはり光学系の設計なのだと考えます (例えば今ドキのデジタルなレンズでも角張った閉じた方をしていながら実際はちゃんと円形ボケを表現できていたりするから)。

その意味で、このモデルは「真円の円形絞りが命」派の方々に対する「挑戦モデル」のような位置付けになります(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。光学系の第1群 (前玉) の外径が「僅か⌀19.95mm」しかありませんから、ご覧のとおり大変小さな鏡筒です。

3群3枚のトリプレット型なので、第1群 (前玉) 〜第2群が上の写真グリーンのライン上側にセットされ、且つ第3群 (つまり後玉) がグリーンのライン下側に組み込まれます (つまりグリーンのラインの位置が絞りユニットの意味)。

その「絞りユニット」が位置する箇所には1箇所「スリット (切り欠き)」が用意されており (グリーンの矢印)、そこに「開閉環」から飛び出てくる「開閉アーム」が現れて絞り環と連係します。

実は、上の写真でグリーンのラインを示したのはそれを解説する為ではありません。つまりこの写真をパッと見てすぐに気がつかない整備者は、このモデルを適切に組み上げられない整備者と言えます。鏡筒の外側には上から下までネジ切りされているのですが、グリーンのラインを挟んでそのネジ山の意味が違います (それを明示する為に上の写真を撮影した)。

詳しく解説しませんが(笑)、ご覧のとおり光学系の前後群両方がネジ込み式であると同時に、鏡筒までネジ込み式である事の意味が分からない人は、このモデルをバラさないほうが良いでしょう。

↑まずは先に「絞り環」をセットします。そうですね、鏡筒上側にネジ山はこの「絞り環用」なのですが、何処までネジ込めば良いのかがポイントになります (何故なら開閉アームとの連係箇所の長さが3.5mmもある点に気がつかないとイケナイ:上の写真左端のスリット/切り欠き部分/グリーンの矢印)。

↑ヘリコイド (オス側) を鏡筒にセットしたところです (赤色矢印)。結局、上の写真のとおり鏡筒がネジ込み式でセットされ、且つ同時に光学系の前後群も共にネジ込み式で組み込まれる設計ですから「いったいどの位置で光学系をセットすれば良いのか」が最大の難関になります。

ある意味、このモデルのピント面が「甘いピント面」に堕ちている個体が非常に多いのは、実はこの「原理原則」を理解していない過去整備者の仕業だったりします。ちなみに、今回の個体も当初バラす前の実写確認で「甘いピント面」でした(笑)

↑鏡胴「前部」にヘリコイド (オス側) をセットし終えたので、ここから鏡胴「後部」の工程に移ります。マウント部ですが指標値を兼ねています。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

さて、ここの工程が2つ目の難関です。このモデルのヘリコイド (オスメス) は、一般的なオールドレンズのヘリコイド (オスメス) の設計とは異なり「ヘリコイドの繰り出しで無限遠位置に至り格納で最短撮影距離位置になる」点に気がつかなければイケマセン。

つまり一般的なオールドレンズとは真逆のヘリコイド駆動と言う話です(笑)

↑上の図は一般的なオールドレンズの鏡筒とヘリコイドの繰り出し/収納との関係を示した図ですが、被写体 (ブルーの矢印) に対してヘリコイドが収納されて、同時に鏡筒も収納した時が「無限遠位置」にあたります (グリーンの矢印)。

同様、逆に「最短撮影距離位置」まで距離環を回して繰り出した時は「鏡筒も最も飛び出ている状態 (グリーンの矢印)」であり、いずれにしてもヘリコイド (オスメス) の駆動は「鏡筒の直進動に対して比例した動き方」をしています。

このモデルはその逆の動き方をするので「ヘリコイドを繰り出すと鏡筒が引っ込む」ワケですね(笑)

すると「無限遠位置」の時ヘリコイドは何処まで繰り出していれば無限遠合焦するのか、或いは「最短撮影距離位置」の時のヘリコイドは何処まで格納していれば良いのか、それが「原理原則」になります (一般的なオールドレンズは無限遠位置でヘリコイドが最も格納しているだけで良いから)。

↑鏡筒がセットされているヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で4箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この後は光学系前後群を格納してから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

しかし、その光学系の格納位置を決めるのが前述の解説のとおり最大の難関と言う話です(笑)

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。このモデルをオーバーホールして、且つ「ちゃんと鋭いピント面を出す」事ができる整備者は、実は多くないと考えます (何故なら今回の個体も甘いピント面で平気で組み上げられていたから)(笑)

確かにこのモデルが売られていた時代には「廉価版」の格付であり、今もなお「駄目玉/幽霊玉/迷玉」なのでしょうが(笑)、そうは言っても今回のようにちゃんとオーバーホール/修理に出して「本来あるべき状態にしたい」と考えられるご依頼者様がいらっしゃる事に、当方は安堵すると共に非常に喜ばしく感じています。

何故なら、たかが数千円〜1万円以下にしか市場価値が認められていないようなオールドレンズにも、今回のようにコストを掛けて使いたいと願う気持ちがある、そのオールドレンズに対する「愛情と情熱と熱意」に、ひたすらに当方は脱帽です

今こそ「駄目玉/幽霊玉/迷玉」の汚名返上として、来たる春〜秋へと活躍の場を与えられん事を切に願うばかりです・・(涙)

↑光学系内はコーティング層の経年劣化が進行しており、全ての群にLED光照射で視認できる「非常に薄い微かなクモリ」が見つけようとすれば何とか発見できるレベルで残っています (従って写真には一切影響しません)。おそらくこの個体としては、今回のオーバーホールが光学系の状態を維持する最後のチャンスだったのではないかと考えますから、本当に嬉しい限りです(涙)

↑カビも発生していましたが全て完全除去できているのでカビ除去痕も残っていません。極僅かに微細な「気泡」が複数ありますが、ハッと見で光学系内を覗き込むと「微細な塵/」に見えてしまいます (しかし気泡です)。

気泡
光学硝子材精製時に一定の時間適切な高温度帯を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。

絞り環」操作は敢えてトルクを与えて少々硬めの印象に仕上げました。理由はこのモデルのピントの山が大変掴みにくいので、距離環操作のほうを「軽め」に仕上げたかったからです。

このモデルのヘリコイド (オスメス) 駆動は「直進式繰り出し/収納」なので、実際は「絞り環操作は距離環から完全独立」しており、何らピント面に影響を与えません (つまりピント合わせ後に絞り環操作しても距離環が微動する事が一切無い)。

しかし筐体デザインを見れば一目瞭然ですが「絞り環を掴んだのか距離環を掴んだのかが分かりにくい」意匠なので(笑)、敢えて「絞り環側のトルクを重めに仕上げる事で掴んだ時の区別を分かり易くしている」仕上げ方です。

もしもこの点に関しご納得頂けない場合は、大変お手数ですが「減額申請」にてご申告の上、ご納得頂ける分の金額をご請求額より減額下さいませ減額の最大値は「ご請求額まで (つまり無償扱い)」とし、当方による弁償などは対応できません

申し訳御座いません・・。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。ご覧のとおり筐体外装は全てに渡ってピッカピカに磨き上げていますが(笑)「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度軽め」を使い分けて塗っています。前述のとおりこのモデルのピントの山が分かりにくい特性なので、それを考慮して距離環を回すトルクは「普通」人により「軽め」に仕上げています (ピント位置の前後に微動する際に軽く感じるよう配慮)。距離環を回す際のトルクは「完璧に全域に渡って均一」です。

一方「絞り環」側は前述のとおりワザと (故意に)「重め」のトルク感で仕上げていますから、この距離環のトルクと合わせてご納得頂けない場合は減額下さいませ。

申し訳御座いません・・。

なお、この「減額申請」について別の方から以下のような問い合わせを頂きましたが、この場を借りてご案内しておきます。

貴方のブログを見ているとよく「減額申請」が出ているが、自分が行う整備に自信が無いなら何処かでもっとちゃんとした正しい技術を身につけたほうが
良いのではありませんか。いつまでも経験や勘と手の感覚だけに頼った曖昧な整備を続けていると、いずれ取り返しの付かない事になると思います。

・・まさしく仰るとおりでして、反論の余地もありません(涙)

減額申請」をお願い申し上げているのは、当方が「プロではない」からです。プロのカメラ店様修理専門会社様のように確かな裏付けが無いままにオーバーホール作業を行っており、その整合性 (信用/信頼が無い部分との整合性) を執る為に「減額申請」をご案内しています。

決して自分が行った整備作業に自信が無いワケではないのですが、然しその「低い技術スキル」は明白であり、プロのカメラ店様修理専門会社様と比較してせめて料金面だけでもご納得頂く為に「減額申請」をご用意しています。

また仰るとおりプロに師事して正しい正統な技術スキルを身につけるべき事は重々承知して
いますが、如何せん年齢的にもうその時間がありません。申し訳御座いません・・。

いろいろご不快な思いをさせてしまい誠に申し訳御座いません・・。

いずれ近いうちに引退しますので、それまでどうかご容赦頂きたく切にお願い申し上げます。
引退の際にはこのブログも消滅するので、決してご不快な思いをさせないと思います・・。
(※ここの部分のご案内は今回のご依頼者様に対する返事ではなく一般向けと言うか問い合わせしてきた人向けです)

↑今回の個体は当初バラす前の実写チェックに於いて「無限遠が足りていないアンダーインフ状態」に陥っていました。また近距離での実写チェックでも「甘いピント面」のままだったので「過去メンテナンス時に光路長確保できていない」と判定しました。

ご依頼内容の「光学系のクモリ除去と絞り羽根の油染み清掃」は完璧に処置が終わっており、光学系内のクモリは前述のとおりLED光照射時に一生懸命探してみて下さいませ(笑)

過去メンテナンス者は残念ながら「原理原則」を理解しておらず、ヘリコイド (オスメス) の組み込み位置ミスを犯しており、且つ光学系前後群の格納位置と鏡筒の格納位置までミスっていたので、最終的なアンダーインフ状態に陥りピントまで甘くなっていたワケです(笑)

以下のオーバーホール完了後の実写をご覧頂き、どんだけこのモデル (たかが3枚玉のトリプレット如き) が鋭いピント面を出してくるのか、多少でも見直して頂く一助になれば、まさにそれだけで当方の役目は終わりです(笑)

ちなみに以下実写で多少黄ばんだ写りに見えるのは、当方の仕上げ方の問題 (技術スキル) のせいではなく(笑)、ブルシアンブル〜に光彩を放つモノコーティングV」のせいであり、この当時のオールドレンズの特徴でもあります (どちらかと言うと暖色寄りに写る)。

無限遠位置 (当初バラす前の位置から適切に調整/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離80cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

開放撮影時にはご覧のようにピント面に僅かなハロを伴うので、是非ともそれを活かして撮影して頂けるとこのモデルも喜んでくれると思います(笑)

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。極僅かですが「回折現象」が表れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。