解体新書:VALDAI (ジュピター・バルダイ光学機械工場) HELIOS-44-2 58mm/f2(M42)写真

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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『解体新書』はヤフオク! などで「オーバーホール済/整備済」などを謳って
出品しているオールドレンズをゲットし、当方で再び解体して内部の状況を
調査していく企画です。
(当方の技術スキル向上のために参考にさせて頂くことを目的としています)


オーバーホール/修理ご依頼分ですが『解体新書』コーナーでの掲載要請に
より「有料」で解説しています (ヤフオク! 出品商品ではありません)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回オーバーホール/修理を承ったのは、ご依頼者様がヤフオク! で落札されて手に入れた個体のオーバーホールになります。その時のヤフオク! 出品者は現在も出品を続けており、自らの手でオールドレンズを解体して整備済で出品する自称プロのフォトグラファーです。

特に今回扱いモデル「HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)」は、毎週必ず数本出品され、さらに毎週必ず落札されていくという超人気モデルであり、同時に高い信用/信頼のある出品者として評価されているようです。

今回のオーバーホール/修理にあたり承った内容は、以下の2点が中心です。

 距離環を回すトルクの「ヌルヌル感」が入手時より最近さらに酷くなってきた。
光学系の組み込みをキチンとしていないように感じる。

ヤフオク! 出品者の出品ページには、今でもちゃんと整備時の解体写真などが一緒に掲載されており整備済である事が歴然です。にも関わらず落札して手に入れた時からその軽いトルク感が気になっていらしたとの事 (さらに最近は特にヌルヌル感が増してきているように感じていらっしゃる/まだ整備後1年も経過していない)。

さらにその描写性については、ピント面のエッジに極僅かな「ブル〜フリンジ/パープルフリンジ」が憑き纏っている事をバラす前の実写チェックで視認しました (確認できたのはブル〜フリンジ)。且つこのモデルのワリに「少々甘い印象のピント面」である点も気になります。

距離環/絞り環などを操作する際の「トルク感」と言うのは人それぞれの感覚的な要素なので、ある人は「軽すぎる」と感じていても、その同じ個体を別の人が操作すると「ちょうど良い」と言うかも知れません。

しかし実際にその個体を使って「ピント合わせ」をしてみると、はたして合焦し易いかどうか (ピントが合う時のピントの山が掴み易いかどうか) が明確になってきます。それはもちろん
オールドレンズ個体別の (或いはモデル別の) ピントの山が分かり易いのかどうかという相違が光学系設計の違いで顕在するので一概にはそのまま比較できません。

それを勘案して (そのモデルの合焦時の特性を考慮して) ピント合わせする時、或いはピントの山の前後で距離環を微動させた時、トルクが重すぎるのか軽すぎるのか、それともちょうど良いのかの判断はピントが合う瞬間の動作として皆さんの印象は集約されてきます

このブログなどで表現している、当方がオーバーホール/修理の工程で判定しているトルク感「普通/軽め/重め」は、そのような客観的な印象により近づけた表現としてコトバを選んで使っています。

すると、今回の個体をバラす前の実写チェックで操作した印象は、確かに「軽すぎ」のトルク感であり、同時にピント合わせが終わって (合焦後に) 距離環から手を離した瞬間に、その指が離れる時のタイミングでピントの山が変わってしまいます。当方ではこのような状況の時を指して「トルクが軽すぎ」と判定しています。

逆に言えば、指が離れるタイミングでピント面の山が変化したりしない程度のトルク感なら「軽め」の判定で良いことになります。「普通」の場合はピント位置まで距離環を回す時に相応の抵抗/負荷/摩擦を感じる場合であり、一方「重め/重すぎ」はそれに加えてピント合わせ時の微動の状況が関わってきます。

このようにできるだけ客観的な判定を下して、このブログやヤフオク! 出品商品の評価を掲載していますが、それはピント合わせ時の状況を基に判断したトルク感を以て「客観的」と捉えているワケで、必ずしも保証がある話には成り得ませんね(笑)

逆に言えば当方で用意している11種類のヘリコイドグリースは「純正グリースではない」以上個体別のヘリコイド (オスメス) や、他の部位から影響を受ける「チカラの伝達経路」の問題が必ず憑き纏う話であり「一概に全ての個体で同じトルク感に仕上がらない」というのが大前提にもなります。

  ●               ● 

当方では「ロシアンレンズ」と呼んでいますが、第二次世界大戦前後の旧ソビエト連邦時代 (ソ連) から現在に至るまでに生産されていたオールドレンズ総称として使っています。

今回のモデル『VALDAI HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』は、モスクワの北西約400km程離れた位置にある、ノブゴロド州VALDAI (バルダイ) 市で1967年に創設された「JUPITER VALDAI OPTICAL PLANT (Юпитер Валдайский оптический завод)」日本語にすると「ジュピター・バルダイ光学機械工場」製産による個体で、製造年度は「1982年」になっています。

旧ソ連 (現ロシア) は社会主義体制国家でしたから、戦後1949年のCOMECONを基に旧東ドイツを初めとする東欧圏の技術と市場を手に入れ、中央集権型の計画経済体制 (統制型経済体制) を推し進めていました。私企業の概念を廃した国営企業 (旧東ドイツでは人民所有企業/VEB) の体系として、5カ年計画に則り全ての産業工業を国家一元管理していたようです。

よくネット上で頻繁に「人民公社」が使われていますが、同じ社会主義体制でも国によって企業の呼称や概念が違うので「人民公社」はどちらかと言うと中国のほうが当てはまる呼称ではないかと考えます (専門に研究していらっしゃる方の論文を読んで勉強しました)。

従ってロシアンレンズに於いては、ひとつのモデルを複数工場で並行生産しており、どの工場で生産されたモデルなのかを表すためにレンズ銘板に「生産工場を表すロゴマーク」を刻印しています。実際には光学系の設計だけがほぼ同一で、それ以外は各工場の設計に任されていたようなので、同じモデル銘でも異なるカタチのタイプが混在していますし、マウント別に違う工場で生産している場合もあるようです。

つまり今回のモデルのレンズ銘板に刻印されているロゴマークは「JUPITER (ЮПИТЕР)」日本語で「ジュピター (キリル文字発音でユピテル)」の頭文字「Ю」をモチーフにしたロゴマークになっていますが、巷では (特に英語圏で)「シシカバブ」マークとも呼ばれています。この「シシカバブ」は中東やミクロネシア圏などアジア全域で食べられている、いわゆる「串料理」を指すようです (確かにそんなふうに見える)。

JUPITER VALDA光学機械工場は、主に同じ旧ソ連時代のKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) からの指示により、当時の一眼レフ (フィルム) カメラ用オールドレンズ「Cyclops/Helios/
Mir/Jupiter (サイクロプス/ヘリオス/ミール/ジュピター)」など製産しており、1992年時点では2,700人の工員を従えた光学製品専業工場のポジショニングでした。

つまり旧ソ連時代には各工場は「工廠/専業工場」に分類され、工廠では軍用品や民生品を含む幅広い製品の開発/製産が行われていましたが、専業工場はそれぞれの分野に特化した開発/製産に絞られていたようです (前述の研究論文より)。例えば光学製品の専業工場だけではなく農業用トラクター専業工場や縫製専業工場もあったりするワケです。

このモデル「HELIOS-44シリーズ」のモデルバリエーションをまともに列挙しているサイトが少ないので、ここでまとめますが相当な数があります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

BTK1951年 (KMZ製) ※プロトタイプ
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:55cm
絞り値:f2.0〜f22 / 絞り羽根枚数:13枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:クロームメッキ仕上げ / 指標値:黒

HELIOS-441958年〜 (VALDAI製) ※量産型
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:13枚 / 8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:クロームメッキ仕上げ / 指標値:黒

HELIOS-44 zebra:1960年〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック & ゼブラ柄 / 指標値:白色

HELIOS-44-21960年代以降並行生産 (KMZ/VALDAI/MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

HELIOS-44M1970年代〜 (KMZ/VALDAI/MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

HELIOS-44-3 / MC HELIOS-44-31970年代〜 (MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:白色

MC HELIOS-44M-41980年代〜 (KMZ/VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

MC HELIOS-44M-51980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

MC HELIOS-44M-61980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

MC HELIOS-44M-71980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー

実際には、この他にもバリエーションがあるので生産工場やマウント種別まで含めると相当な種類が存在しています (とてもまとめる気持ちになりません)。

さらに、最近の変わり種として「創作レンズ」が出回っています・・。

←左の写真のモデルは、MC HELIOS-44M-4以降あたりのモデルを使った創作品のようです。
「Carl Zeiss Jena」銘を刻印し「Biotar」と銘打っています。

もちろん旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製ではありませんしBiotarでもありません。

←こちらのモデルも、HELIOS-44-2を使った創作品でしょうか。
同様「Carl Zeiss Jena」銘の「Biotar」をあしらっています。



←KMZ製のレンズ銘板まで登場しています。しかも「zeissのT*」刻印付です(笑) もちろん「T*」コーティングではありませんが・・。





←ゼブラ柄になるようアルミ材を削ってしまい、さらにクロームメッキを掛けているので大変キレイです。もちろん創作品ですね・・。



←こうなると何でもアリなのでしょう・・(笑)
真っ赤な筐体のモデルもあったりしますから、ここまで徹底してくると、それはそれで楽しいです。
すべてレンズ銘板を新規に作成して筐体に新たな文字も刻印し、さらに焼付塗装までしている徹底的な創作品です。


↑上記は、当時の旧ソ連時代にあったGOI光学研究所の設計諸元書から「
解像度」について
ピックアップした一覧です。

するとマルチコーティング化された「MCタイプ」で飛躍的に解像度が向上していますが、それ以前のモノコーティングモデルの中で「HELIOS-44-2」が意外と健闘していることが分かります。

  ●               ● 

今回扱う『VALDAI HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』は、巷ではインスタ映えするオールドレンズの代表格的な存在として認識されているようなので、少々数が多いですが実写をチェックしてみました。






上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から真円に近い大変キレイなシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと滲んでいく様をピックアップしています。本来光学系が典型的な4群6枚ダブルガウス型構成なので、収差の影響を受けてこのような真円に近い円形ボケの表出が苦手なハズなのですが、ちゃんと出せているのがオドロキです。

さすがに焦点距離が58mmの標準レンズ域ですから、シャボン玉ボケ自体はこぢんまりした大きさでしか出すことができません。

二段目
溶け始めた円形ボケはやがて収差の影響を受けて乱れ始めますが、素直に滑らかに滲んでいくかと思いきや、右の2枚のように特徴的なボケ方をします。右端2枚目は「リングボケ」が強調されていますし、一番右端は独特な「幻想的な世界」です。

しかし、この右端だけはオリジナルな状態で撮った写真ではなく、4群ある光学系のうち1枚〜2枚を反転させて入れ替えてしまった状態による撮影ですから、自ずとフツ〜の撮影に臨んでも収差だらけでまともな写真になることがありません。

三段目
さらに背景ボケには極端に収差の影響が出て乱れまくってきます。このモデルは決して二線ボケではないのですが、左端のような醜いボケ方になることもあり、それはそれで演出効果として使うこともできますね(笑) 最終的には右端のようにフツ〜な背景ボケにもちゃんと至ります。

四段目
さて、ここでピックアップした実写が当方が問題視している「このモデルの短所」です。明暗部の制御が中途半端で終わっているので、暗部だけがストンと堕ちてしまったり不安定です。逆に言えばダイナミックレンジが決して広くありません。

その結果、被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に到達しておらず「ノッペリした立体感のない平面的な写り」にしかなりません。つまり「空気感/距離感」を留めることができずにリアルな表現性が欠如してしまいます。

五段目
発色性は決してコッテリ系ではなく、むしろナチュラル的に偏らない安心感がありますが、やはり人物撮影でも人肌感の生々しさが表現しきれていません。

六段目
光源や逆光撮影時のゴーストを逆に演出効果として使うのも一つの手法ですね。

光学系は当初登場した1958年時点の設計諸元書からトレースした構成図が右図で、4群6枚の典型的なダブルガウス型構成です。

この光学系がどのタイミングで再設計されたのかは分かりませんが (バリエーション数が多すぎて調べる気持ちにならない)、今回扱う個体1982年時点では光学系が既に再設計されていました

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。

モデルのタイミングとしては最短撮影距離が変わっているワケでもなく (何ら仕様に変更が加えられていない時期なのに) 各群の厚みはもちろん曲率まで設計変更しています。特に第4群 (後玉) は、従前の両凸レンズ
から凸平レンズに変更しています。

当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

左写真は、当初バラす前の状態を撮影していますが、赤色ラインのとおり指標値環の基準「」マーカーとプリセット絞り環/絞り環側基準「」マーカーが一直線上に並んでいません。

このモデルは鏡胴が「前部/後部」二分割式なので、基本的に上下の
マーカー位置が一直線上に並ぶのが適正です。

バラし始めている途中で撮影した写真なのですが、鏡胴「後部」から
ヘリコイド (オスメス) とマウント部とに分割したところです。

ご覧のとおり「白色系グリース」がビッチリ相当な量で塗られています。実は、当初バラす前のチェック時点で、既にマウント部の一部に油染みが流れ出ていたので解体せずとも想像できていました(笑)

綿棒でヘリコイド (オス側) のネジ山を「たったの1周だけ」拭ったのが左写真です。ネジ山1周どころか全てのネジ山に塗布する量として
考えても多いくらいです・・(笑)

写真見れば一目瞭然ですが一部が「薄いグレー状」に変質しています (アルミ合金材の摩耗粉が混じっているから)。

こちらは今度は鏡胴「前部」を解体してプリセット絞り機構部を撮影しています。

赤色矢印で指し示したとおり、やはり相当な量のグリースがビッチリ塗られています。

左写真は、そのプリセット絞り機構部に塗られていたグリースから「僅か3cm程の領域」を拭っただけですが、今度は「黄褐色系グリース」を使っており、やはり相当な量です。

こちらは「黄褐色系グリース」なのでアルミ合金材を摩耗しないから色が変質しません。

左写真はそのプリセット絞り機構部に使われている構成パーツで、真鍮製の「プリセット絞り値キーの環 (リング/輪っか)」です。

経年で既に酸化/腐食/錆びしてしまい焦茶色に変質していますね。

こちらは光学系後群側の硝子レンズ格納筒を横方向から側面を撮影しました。

当方にはカタカナで「イイ」と刻印されているように見えます (笑)
何が良いのでしょうか?(笑)

実は、この『解体新書』コーナーでこの出品者が整備した個体を何本かオーバーホールしているのですが(笑)、基本的にグリースの塗布量が変化していません。

今まで「乳白色の白色系グリース」を使っていましたが、今回新たに「黄褐色系グリース」が登場しています。しかし、いずれも「粘性軽め」のグリースをチョイスしているので、確かに仕上がり状態のトルク感は「非常に軽い操作性」です。

しかし、ご依頼者様のご指摘によれば「ピント合わせし辛い/軽すぎる」なのであり、それは当方がバラす前に実際にチェックしてみると「ピント合わせ時にククッと微動するスリップ現象の発生」でもありました。

さらに今回の個体で問題だったのは、ピント合わせしている時に距離環を左右微動させると、そのたびに「画面が左右にブレる」のです。つまりピント合わせなどせずともすぐに予想が付きますが、距離環に左右方向で極僅かなガタつきが生じていました。

その影響からピント合わせ時に距離環を微動操作すると画面が左右に大きくブレるワケです。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ハッキリ言ってこのモデルを納得できる状態まで仕上げるのは相当厄介なので (当方の技術スキルが低いから) あまり関わりたくないモデルなのですが(笑)、今回は仕方ありません。

基本的な設計概念はKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) から引き継いでいるので、先日オーバーホールした「HELIOS 40-2 85mm/f1.5 (M42)」とも同じです。つまり鏡胴が「前部/後部」二分割式を採っており、且つヘリコイドの駆動方式にも一部に「空転ヘリコイド」をもっています。

その意味では「初心者向け」とも言えますが、逆に言えば拘って整備し始めると面倒くさいモデルだったりします (当方は面倒くさいからあまり扱いたくない)(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、前述のとおり鏡胴が二分割なのでヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」に配置されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑8枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。今回バラした時点で既に過去メンテナンス時にもちゃんと絞りユニットを完全解体していたことが判明しています。

それは各構成パーツを個別にチェックすれば「揮発油成分」が極僅かでも残っているかどうかが明確に分かるので、ごまかしようがありません。今回の個体はちゃんとバラして溶剤で洗浄されていました。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。ご覧のように筐体の長さからすると意外に小っちゃな鏡筒です。

↑「HELIOSシリーズ」である以上、手動絞り方式のモデルならば必ず絞りユニットの直前に「光学系前群用格納筒」が用意されているので、上の写真のとおり格納筒をセットします。

逆に言えば、手動絞り方式の「HELIOSシリーズ」はこの工程をミスると、途端に「甘い描写性」に堕ちます (何故なら光学系前群の光路長が適正ではなくなるから)。

そのことを知ってのことかちゃんと既に鏡筒にマーキングが刻まれています (当方がマーキングしたのではありません)。

・・と良い方向に考えたいのですが、実は全くそんな事はお構いなしで(笑)「単にイモネジの締め付け箇所が分かるようマーキングしただけ」なのがバラしていくとバレてしまいます。

原理原則」を熟知して作業しているのかどうかは、幾つかの工程を経ると自ずとバレバレになっていきます (辻褄が合うか否かが問題になるから)(笑)

↑こちらの写真は冒頭で撮影した真鍮製の「プリセット絞りキーの環 (リング/輪っか)」ですが、このモデルのプリセット絞り環を回すとカチカチとクリック感を伴うのは、ご覧のような「シリンダー (金属製の円柱)」が「プリセット絞り値キー (つまり)」にカチカチとハマるからであり、その時にクリック感を実現しているチカラは「板バネ」によります (スプリングではない)。

従って「磨き研磨」して経年の酸化/腐食/錆びを取り除いてあげるだけで「滑らかで小気味良いクリック感」を保つので、特にグリースを塗ったくる必要がありませんね(笑)

↑こんな感じで「プリセット絞り機構」がセットされます。既に「黄褐色系グリース」を塗った後なので、その塗布量の違いが分かると思います (当方は基本的にロシアンレンズ相手でも塗ったくりません)(笑)

要は使われている構成パーツのカタチと切削などをちゃんとチェックして、どうしてそのカタチなのか切削なのかを「観察と考察」すれば、自ずとグリースを塗るべき箇所とその塗布量が明白になります。

↑クリック感を実現するシリンダーを入れ込んでから板バネをセットします。

当初バラした直後の状態では、この鏡筒周りにもの凄い量の「黄褐色系グリース」がビッチリ塗られていましたが(笑)、ここに塗ったグリースのほとんどは意味を成していません。つまりこの上から被さる「絞り環用ベース環」との間には空間が存在するので、塗ったグリースはそっくりそのまま残っているだけになります。

ところが、その不必要なグリースは経年で揮発油成分が発生して絞りユニット内部に侵入してくる (最も近い箇所だから) ワケですから、何の為に整備したのか意味不明な話です(笑)

もちろん当方のオーバーホールではご覧のとおり鏡筒周りには一切グリースを塗りません (必要ないから)(笑)

こういう部位でさえも「観察と考察」が必要であり、何でもかんでもグリースを塗ったくれば良いと言う考え方自体が問題だと思いますが・・?(笑)

↑同様絞り環 (のベース環) をセットします。この「絞り環用ベース環」が「板バネ」と接触している状態になると動かなくなるよう設計されています。

↑それぞれ外装カバーをイモネジで締め付け固定して鏡胴「前部」が完成です (まだ光学系前後群は入っていない)。

すると、このモデルは絞り値が刻印されている側が「プリセット絞り環」であり、その直下のローレット (滑り止め) だけの環 (リング/輪っか) が「絞り環」です。

これを間違えて認識すると「プリセット絞り方式の操作性」を理解できません。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。後部側は至ってシンプルで、ヘリコイド (オスメス) とマウント部しかありません。

↑やはり手動絞り方式の「HELIOSシリーズ」である以上、ご覧のように「空転ヘリコイド」を採用した設計です。

空転ヘリコイド」なのでクルクルといつまでも回すことができるヘリコイド方式なワケですが、それは裏を返せば「面 vs 面の接触」になるので、必然的に表層面の平滑性が問われる話になります。

つまり、この工程で過去メンテナンス者が「原理原則」を熟知した整備者なのかどうかがバレバレになります(笑)

なお、上の写真で「シリンダーネジ」と言う円柱にネジ部が備わっているネジ種を案内していますが、グリーンの矢印で指し示した溝部分に刺さって、距離環の回転に伴い上下動しています。ここがポイントです。

シリンダーネジを拡大撮影しましたが、今回の個体は残念ながらこのシリンダーネジとマウント部内壁に用意されている「」とが一致していません。

シリンダーネジは「直進キー」ですし、マウント部内壁の溝は「直進キーガイド」になります。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

直進キーガイド
直進キーが距離環の回転に伴い直進動のチカラとして行ったり来たりする溝/スリット

すると溝の幅のほうが大きいのでシリンダーネジがカタカタしていますから、その分が当初バラす前の距離環のガタつきの原因になっています。つまり残念ながら、今回の個体はピント合わせ時に「画が左右にブレる」のを防ぐ手段がありません (経年で擦り減ってしまった金属は元に戻せないから/直進キー側が経年で擦り減ったと推測)。

申し訳御座いません・・。

↑実際にヘリコイド (オスメス) がネジ込まれるとこんな感じになり、同時に「直進キー」の位置も分かりますね。上の写真では既に「黄褐色系グリース」塗布済なので、如何に当方の使用量が少ないのかがお分かりではないでしょうか(笑)

ある程度スキルを有する人が見ればここで一目瞭然ですが、このモデルは距離環を回して最短撮影距離位置まで鏡筒を繰り出した時、上の写真の「直進キー」の縁に当たって停止していることになります。

実際に距離環を回している時はヘリコイド (メス側) が回転しながら突き当たるワケですが、その時「互いに面 vs 面の突き当たり」である点がポイントになります (回転しながら面と面が接触して停止するから/上の写真の状態がまさに最短撮影距離の位置)。

つまり、最短撮影距離位置ではグッと詰まった感じで距離環が突き当て停止しますが、一方無限遠位置「∞」ではカチンと音がして突き当て停止する、両端で異なる停止の仕方をするのが正常です (構造的な問題)。

従って手動絞り方式の「HELIOSシリーズ」距離環を回した時に、最短撮影距離位置と無限遠位置とで異なる操作感になるのは、決して当時の切削レベルの低さではなく「そういう設計概念で作られているから」に他なりません。

それをあたかもロシアンレンズの切削レベルの甘さを訴えて、操作性に対するクレームを回避するが如く「逃げ口上」とする手口がヤフオク! の出品ページなどを見ていても非常に多いですね(笑) モノは言いようで、そのように説明されると信じてしまう人が多いのでしょうが、ロシアンレンズもちゃんと適切な整備してあげればフツ〜のオールドレンズと同じように良い操作性で使えます。

↑距離環用のベース環をイモネジで締め付け固定します。もちろんこの時点で無限遠位置の微調整が終わっています。

冒頭のバラした直後の写真と比較すれば歴然ですが、当方のオーバーホールではヘリコイドグリースを塗ったくりません(笑) 逆に言うと、このブログのフォトグラファーは塗布するグリース量について間違った認識を持っていると推察します。

それは確かにロシアンレンズをバラすと、仮にオリジナルな「純正グリース (黄褐色系グリース)」が塗られていた場合、同じように相当な量のグリースがヘリコイド (オスメス)はもとより、プリセット絞り機構部、下手すれば鏡筒内部や絞りユニットにまで塗られています。

これにはちゃんと理由があり、ロシアは国土に氷点下40度以下にまで下がる極寒地帯を有するからです

日本で一般的に市場流通しているマイナス20度までしか耐えられない (つまり凍結してしまう) グリースを使ったら最後光学硝子レンズが破壊される」為であり、もちろんその時は金属凍結で一切距離環/絞り環は凍りついて動きません

それを防ぐ目的でロシアンレンズ内部には至る箇所に油成分の非常に強い「黄褐色系グリース」がビッチリ塗られているワケです。日本国内で使う分を考えれば鏡筒/絞りユニット内部にグリースを塗る必要性は低いですね (氷点下20度以下まで下がる山岳地などで使う場合は再整備が必要です)(笑)

従って、ロシアンレンズ内部に相当量のグリースを塗布する理由が「耐寒性の確保 (金属凍結/光学硝子破壊の回避)」とすれば、自ずと塗布量を調整するべきであり、同時に純正グリース塗布ありきの設計だとすれば、それは整備時に使うグリースの種別/粘性を考慮しなければイケマセン

そのような「観察と考察」を全く蔑ろにしたまま、バラした時と同じ量のグリースを平気で塗ったくっている整備は、まさに「グリースに頼った整備」としか言いようがありません(笑) まして「白色系グリース」を使うなど以ての外であり、ただでさえ「直進キーの設計上ガタつきが発生し易い構造」なのに、整備した事でむしろ悪循環の原因を用意しているようなもので意味不明な話です。

このような整備がまさしく「単にバラしてグリースを入れ替えただけ」であり、使用者の使い勝手や光路長の確保といった描写性の適正化など、一切蔑ろにしたままの「整備と言う名のもとのごまかし」としか言いようがありません。

少なくとも今回のご依頼者様がこの仕上がった個体を手に取って操作されれば、シッカリしたトルク感 (決してヌルヌルではない) と共に、その鋭いピント面にご納得頂けるでしょう (そのような確信を持って当方ではオーバーホール/修理の調整を行っています)。

↑やはり筐体カバーをイモネジで締め付け固定します。この後は完成している鏡胴「前部」をセットして光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑正直、納得できる状態まで拘って仕上げようとすると飛んでもなく面倒くさいモデルなので(笑)、あまり関わりたくありません。冒頭の自称プロのフォトグラファーは毎週何本もこのモデルを整備しているので、本当に恐れ入ってしまいます。このモデルの整備数は現在既に250本を優に超していますから、確かにプロと自称できるワケですね (当方は8年経ってもいまだにプロには追いつけていないレベルに留まっている)(笑)

情けないと言うか、恥ずかしいくらいですョね・・?(笑)

左写真は別の個体から転用した (過去にオーバーホールした時の) 写真ですが、このモデルは光学系の貼り合わせレンズが「コバ端着色」されていません (赤色矢印)。

するとご覧のように光学系内に白っぽく光る部分が表れてしまい「迷光」の一因になっています。

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群

コバ端
光学硝子レンズの切削断面部分 (側面など)。

迷光
光学系内で必要外の反射により適正な入射光に対して悪影響を及ぼす乱れた反射光

左写真は第2群と第3群の貼り合わせレンズを並べて撮影していますが、既にこの時点で光学硝子の内側に「白っぽい白線のような領域」が見えています。

光学系内に入ってきた入射光がこの領域で反射してしまい「迷光」になってしまうと、最終的な写真への影響として「コントラスト低下/解像度不足」を促す要因として嫌われる方が非常に多いワケです。

この「白っぽい白線部分」の正体は赤色矢印で指し示した硝子レンズのコバ端ですね。

それ故、整備者の中には整備時にこのコバ端を「反射防止塗料」で黒く塗ってしまう人が多いワケです。

それ自体は有難い話だと受け取られることが多いのですが、実はその所為により問題が発生します。

当然ながら各光学硝子レンズ群は格納筒の中に格納されて「締付環」で締め付け固定されるワケですが、その時の「光路長確保が適正かどうか」が問われる話になります。

つまりコバ端に「黒色反射防止塗料」を塗ってしまうことで増えた「極微細な厚みの変化」がどのように影響するのかをちゃんとチェックして整備を終わらせたのかどうかが問われます。

ひと言で言ってしまえば「光軸確認 (偏心含む)」ができているのか否かですね。

実は、冒頭の自称プロのフォトグラファーが出品している出品ページに掲載されている写真で、仕上がったオールドレンズによる実写が載っていたりします。するとそのピント面付近に「ブル〜フリンジ/パープルフリンジ」が憑き纏っていたりします (等倍まで拡大すると見えてしまう)(笑)

今回の個体も当初バラす前の実写チェックでその「フリンジ」が極僅かですが確認できていました。つまり「光軸確認 (偏心含む)」をちゃんと実施したのかどうかが問われます。

ちなみに、このような光学硝子レンズのコバ端処理について、製産時点で「反射防止メッキ塗膜処理」をしているなら整備時に洗浄した時「溶剤で溶けない」と言えます。逆に言えば、溶剤で溶けたらそれは「マットな黒色水性 (顔料) 塗料」が塗られていると判定できます。

すると、その過去メンテナンス時に塗布された「マットな黒色水性塗料」の成分が経年で光学系内に揮発して「極薄いクモリ」となってコーティング層に付着していることがままあります (つい最近のオーバーホール/修理でもその現象が光学系内に生じていた)。

はたして製産時点で施されていなかった処置を敢えて施す必要があるのかというジレンマの中でのたうち回っていますね(笑) もっと言えば、光学メーカーでは「迷光はつきもの」と認識されているようなので、光学系の設計時に問題視するのはどの程度の「迷光」が影響しているのからしいです。究極的にはそもそも絞り羽根でさえも「メタリックグレー」が多いワケで(笑)マットで真っ黒な絞り羽根を見た記憶がありません(笑)

はたしてその絞り羽根で反射してしまった「迷光」はどうすれば良いのでしょうか?(笑)

なお、余談ですが、つい最近アメリカのマサチューセッツ工科大学らの研究チームによって「光吸収率99.9995%」と言う超吸収力をもつ素材が開発されました。これにより航空宇宙分野である期待がかけられています。それは「宇宙望遠鏡の鏡筒内で発生する迷光処理に期待がある」との話なのですが、まさにここに「迷光迷信」が存在するのではないでしょうか?

つまり宇宙望遠鏡などと言う非常に精度を要求される光学製品の鏡筒内部で発生した「迷光」に対して問われる話であり、一般的なオールドレンズ内部の鏡筒で発生している「迷光」などのレベルでは、光学メーカーが暗黙の了承としているのも至極納得できてしまう話だと感じました。

それでも「見てくれの安心」として「光学系内が真っ黒」に拘る人が後を絶ちませんね(笑)

↑いろいろ解説しましたが、今回の個体は上の写真のとおり「コバ端着色」した上で、もちろん「光軸確認 (偏心含む)」が終わっているので、このブログの最後に載せている実写を見ればご確認頂けます。

これは必ずしもこのモデルで「コバ端着色」を確実に実施できる話ではありません。個体によっては光路長に影響を来す場合があるので、ケースバイケースになります (今回は簡易検査具でチェックしても問題が出ていなかったから)。要は個体別に何処まで拘って追求するのかに
なります。

↑ご依頼内容としては「光学系内はキレイな状態」とのご指摘でしたが、当方が清掃すると「もっとキレイになる」ワケです(笑) 数点だけ経年のCO2溶解に伴う非常に微細な点キズが残っていますが、当初よりだいぶスカッとクリアになりました。

↑8枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環ともども確実に駆動しています。

プリセット絞り環のクリック感は当初より僅かですが小気味良く軽めに仕上げました (但しシリンダーがハマる方式なので劇的に軽い操作性には改善できません)。絞り環側の操作性をもう少し「重いトルクを与える」ほうが本当は良いと感じたのですが、残念ながら一番「重め」のグリースを塗ってもたいして改善しませんでした (スカスカに感じるから)。

これがこのモデルの難しさでもありますね・・。
申し訳御座いません・・。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性重め軽め」を使い分けて塗っています。当初バラす前の状態から比べると「故意にワザとトルクを与えている」仕上がりにしています。

それは冒頭で解説のとおり「ピント合わせ時の操作性」を最優先して距離環を回す時のトルクに配慮しました。現状「全域に渡って均一なトルク感」で「普通」人により「重め」のトルク感に仕上げています。

距離環を回していると「ネジ山が擦れる感触がある」のですが、これは「黄褐色系グリース」の性質なので改善できません (つまりヘリコイドのネジ山の状態に左右される性質だから)。

バラす前のトルク感と比べると「無機質な軽すぎ」から「シッカリしたトルクを感じつつもピント合わせ時は軽い操作で微動できる (スリップしない)」に変わっています。もちろん当方の特徴たる「シットリ感漂うトルク感」にも至っています。

↑残念ながら、前述のように「直進キー」或いは「直進キーガイド」の経年摩耗でガタつきが一切改善できていません。

この分、或いは距離環を回すトルク感も含め、もしもご納得頂けなければご請求金額よりご納得頂ける分の金額を「減額申請」にてご申告の上、減額下さいませ。
申し訳御座いません・・。

なお、当初バラす前の状態で基準「」マーカーと「」がズレていたのが、当方オーバーホール後にはちゃんと一直線上に並んでいますが、実はズレが生じていると言うことはイコール「光路長確保が適正になっていない」ことになります (何故なら鏡胴前部が適正な位置まで入ったのかどうかが問題になるから/鏡胴前部には光学系前後群を伴う鏡筒が入っているから)。それは当時の設計諸元書で多くの光学メーカーが許容誤差値を「±0.02mm」としているからで、その許容値を超過した光路長の過不足は「そのままピント面の鋭さに影響してくる」とも言えます

まさにそれこそが、今回ご依頼者様が気にされていた「光学系がシッカリ入っていないのでは?」という疑念として感じられていたのかも知れませんね。

また、それら距離環のガタつきやマーカー位置ズレなどがヤフオク! 出品時の出品ページにちゃんと記載されていたのかどうかが気になります。何故なら、今現在の出品ページを見ても距離環を回すトルク感については「スムーズで問題なし」のひと言で済ませていますし(笑)、
ましてや距離環の操作性に対して「現代レンズに比べオールドレンズ時代の切削加工の甘さが主な要因」などと「逃げ口上」まで合わせて明記しているくらいなので、プロともなると自信に裏打ちされている証拠なのかとも勘ぐりたくなります(笑)

今回の個体で言えば、製造番号から「1982年製」なのは明白ですし、1980年代ともなれば当時の旧ソ連でさえ製産工場の機械設備はNC旋盤機が更新され、アルミ合金材の切削技術は1950年代から比較にならないほど向上しています (東芝機械ココム違反事件で露呈)。もちろん今回の個体をバラしてみれば一目瞭然で、いったいヘリコイド (オスメス) ネジ山の何処に切削に甘さがあるのか教えてほしいくらいです。

ヘリコイド (オスメス) のネジ山切削レベルと、ネジ山以外の部位でバリ (切削後の微細な凹凸) が残っていたりするのは、単にバリ取り処理 (つまり面取り工程) 配慮の話であり、そこにはバリ取りを細かく実施する必要が無いと言う概念が当時の旧ソ連の工場にはあったのかも知れません。然しそれは決して切削の甘さに結びつく話ではないワケで、それをあたかも切削レベルが低いとひと言で済ませてしまうのは乱暴すぎると考えます。このような表現一つにも「観察と考察」が蔑ろにされている点が浮かび上がります。

距離環の操作性に対する問題は、たった一つ「使用グリースの種別と粘性、そして塗布量が適合していないだけ」です。

・・とは言っても、それをご理解頂けるのは今回のご依頼者様お一人だけで(笑)、きっと仕上がったオールドレンズを手に取って操作して頂ければ、当初ご依頼される前の状況からどれだけ変わったのかお分かり頂けると思います。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑余談ですが、ここからは「プリセット絞り機構の操作方法」を解説します。

最小絞り値「f16」が開放f値「f2」で逆の考え方になっている。希望f値に
セットするとその最大値が絞り値になる仕組み。

上の解説はブログのフォトグラファーがヤフオク! 出品ページで案内している説明ですが、何を言っているのか全く分かりません(笑)

まず、絞り値が刻印されている環 (リング/輪っか) が「プリセット絞り環」になり、その直下のローレット (滑り止め) が刻まれている環 (リング/輪っか) が「絞り環」です。

鏡胴指標値環の「」マーカーに絞り環の基準「」マーカーが合致している (グリーンの矢印) 状態が、絞り羽根が「完全開放」です。「絞り環」は常にブルーの矢印②方向に回すことで「絞り羽根が閉じる」仕組みです (ブルーの矢印②はこの次の写真で示しています)。

これをシッカリと覚えます。

上の写真では一番最初の状態として「開放f値f2」にセットされている事を前提とします (赤色矢印)。ここで希望する設定絞り値まで「プリセット絞り環」をカチカチとクリック感を伴いながらブルーの矢印①方向に回します。

↑例として今回は「設定絞り値f5.6」とします。鏡胴指標値環基準「」マーカーの位置でカチカチとハマッてセットしたところです (赤色矢印)。

するとこの時、直下の「絞り環」側にはまた手を付けていませんから、基準「」マーカーも鏡胴指標値環基準「」マーカーに合致したままです (グリーンの矢印)。

つまり「絞り羽根は開放状態を維持したまま」と言えますね。実際チェックすればちゃんと絞り羽根が「完全開放」しています(笑)

そこで、距離環を回してピント合わせを行います。合焦したらカメラボディ側のシャッターボタン押し下げ前に「絞り環をブルーの矢印②方向に回して絞り羽根を閉じる」操作をします。

単純に「絞り環が突き当て停止する位置まで回せば良い」だけです。最後まで「絞り環」を回してカチンと突き当て停止すると、ちゃんと「設定絞り値f5.6」まで絞り羽根が閉じています。

シャッターボタンを押し込んで撮影を終わらせます。

↑撮影が終わったらプリセット絞りの設定を元に戻します。前の操作で「絞り環が突き当て停止するまで回っている」ので (グリーンの矢印)、今度はその逆の方向ブルーの矢印③に向かって「やはり突き当て停止するまで回す」と、絞り羽根が「完全開放に戻る」ワケですね。

実際に操作すると当初撮影前に「プリセット絞り値をf5.6にセットした」ので (赤色矢印)、ブルーの矢印③方向に「絞り環を回すと基準「」マーカー位置でカチンと突き当て停止」します。

↑上の写真は「絞り環」を戻した状態です。ちゃんとグリーンの矢印のとおり当初の「設定絞り値f5.6」位置に合致して「絞り環が停止」します。

そこで最後に「プリセット絞り環」をブルー矢印④方向にカチカチとクリック感を伴って回していけば、絞り羽根が「完全開放を維持したまま」プリセット絞り値だけが開放f値「f2」に戻せるワケです。

何も難しい説明になりませんし、ましてや「写真を撮る動作」と非常に自然にオールドレンズ側の仕組みが適合していますね?(笑)

↑一番最初の状態と同じですが、開放f値「f2」にプリセット絞り値をセットし (赤色矢印)、且つ絞り羽根も「完全開放したまま」の状態です (グリーンの矢印)。

要は撮影する時の動作とオールドレンズ側内部の機構部の動きとが「観察と考察」で合致していないから、プロのフォトグラファーのくせにワケの分からない説明になってしまいます(笑)

何ひとつ逆の考え方になっていません (撮影時の動きに見合う操作方法で決して逆の操作をしていないから)。

ちなみに、ロシアンレンズで一つだけ注意するとすれば、オーバーホール工程で解説したとおり「板バネに絞り環が接触しているとプリセット絞り環が動かない」点だけです。

つまり「プリセット絞り環を操作する際は必ず絞り環をブルーの矢印③方向に回しておく (絞り羽根が開く方向に回しておく)」ことが前提です (但し開放状態から動かす時だけはその制限に縛られない/すぐにプリセット絞り環側を動かせる)。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑プリセット絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しました。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れていますね。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

逆に言えば、最小絞り値「f16」までコントラスト低下も解像度不足にも堕ちず、もちろんピント面近辺でのフリンジ発生も無く (偏心も含め光軸確認済なので当たり前) ご覧のような鋭いピント面で写真を残せます。

これだけ拘ってオーバーホールしても、当方がヤフオク! 出品すると二束三文な価格でしか落札されないので(笑)、如何に「信用/信頼が皆無」なのかを物語っていると受け取りました。
そういうわけで今ではロシアンレンズのヤフオク! 出品を敬遠しています (作業対価分回収できず赤字で終わるから)。

拘って作業をしたのかどうかよりも、重要なのは「プロという称号」なのだと最近は肝に銘じて余計な出品はしないようにしています (要は身の程を知りなさいと言う事です/世の中厳しいですね)(笑)

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。