◎ Carl Zeiss (カールツァイス) CONTAREX版 Planar 50mm/f2(CRX)

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今回の掲載は、オーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関するご依頼者様や一般の方々へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いため今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


当方がまだ小学生だった頃、和室のタンスの上に白黒テレビが置かれていた時代、父がウィスキー片手によく聴いていたスイングジャズを、最近ミョ〜に聴きたくなります・・(笑)
中学生の頃にはパンタロンのジーパンを履き(笑)、かぐや姫や拓郎などフォークソングにハマっていた世代ですが、自分の原点はまだ生まれていなかった1950年代なのかも知れません。流行り廃りよりも、小さい頃から聞かされ続けていた音楽が最近懐かしいですね(笑)

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遙か遠く太平洋を越えて、アメリカはボストンからいつもオーバーホール/修理を承るのですが、今回はまとめてご依頼頂いた案件をご案内します。昨日オーバーホールが完了したCarl Zeiss Jena製広角レンズ「Flektogon 35mm/f2.8 zebra (M42)」もその一つだったのですが、本日は旧西ドイツのCarl Zeiss製標準レンズ『CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)』になります。

1月に心が折れてしまい、オーバーホール/修理の受付を中止してしまった時に、この方から 何度も心温まるメッセージを頂きました。しかも、当方の性格を見越した提案まで頂き、何とお礼を申し上げてよいのか感謝の言葉もありません。ありがとう御座いました!

今回CONTAREX版Planar 50mm/f2の作業を承りましたが、何と当方の手元に一度に3本のPlanarとSonnar (1本) が揃いました。今回のオーバーホール/修理は、いわゆる「ニコイチ」の作業になるのでドナーになるPlanarが1本含まれていますが、実はこの方からオドロキの ご提案を頂き今回のオーバーホール/修理承りに至った次第です。

そのご提案とは、以前同じくアメリカはワシントンDCから遙々オーバーホール/修理を承った「CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)」があったのですが (また別の方です)、その時の
個体は絞り羽根が1枚切れており、当方で貼り付けて修復しました。その時にアップした当方ブログをご覧頂き、是非ともその切れている絞り羽根も交換してほしいと言うご要望でした。

どう言うご縁なのか、不思議とお二人ともアメリカ在住ながらも(笑)、遙々海を越えて当方にオーバーホール/修理をご依頼頂き、しかも面識のないお二人にも拘わらずその取りもつ縁が『CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)』と言うのは、何とも奇遇です。
今回のご提案を頂いたボストン在住の方は、まさに『想い遣り民族』たる日本人の鏡のような方でいらっしゃると、お問い合わせの際にいたく感激したのを覚えています。

そのような感動的な想いから、この場を借りてワシントンDCの方に成り代わり感謝の気持ちとお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとう御座います!

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・立体感・距離感・被写界深度」で、下段左端に移って「質感・リアル感・発色性・逆光耐性」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

先ず、今回ボストンの方にいろいろとご教授頂きましたが、当方はこのモデルPlanar 50mm
/f2のことをほとんど知りません。その理由は2つあり、1つは資金面で高価なモデルなので 調達できない問題があります (生活するので精一杯)(笑)。2つ目は、ネット検索してもコシナ製モデルばかりがヒットするので拒否反応から普段興味関心がありませんでした。

今回作業をするにあたり、CONTAREX版の実写を今までにチェックしていなかったことに気がつき、Flickriverで確認してみました。すると、実写がパラパラと表示された途端、画面から目を離せなくなってしまいました。とても上のピックアップ写真だけでは足りないくらいです。

実は、当方は現行モデルを含むコシナ製レンズの描写性が好きではありません。しかし、今回は再確認のためコシナ製のPlanar (ZMタイプ) などもFlickriverでチェックしてみました。当方がコシナ製オールドレンズで嫌っている「冷たい印象」は、そこまで強く感じないまでも今回のCONTAREX版の実写を見た時の衝撃は、やはりありません。

暫くの時間見比べていましたが、どうやらコシナ製モデルの写真は「情報量が多すぎる=雰囲気を殺している」と考えました。この当方が言う処の「雰囲気」とは「質感表現能力」であり「立体感」であり、そして「リアル感」だったりします。

情報量の多さ (緻密さ) ならば圧倒的にコシナ製モデルのほうが上を行くのですが、どんなに パキッと写っていても、そこに「風」や「匂い」「音」など五感に訴える要素を感じません。CONTAREX版Planarの写真は、確かにコシナ製モデルと比べると「甘い描写性」なのかも知れませんが、然し当方が最も拘る「雰囲気」は充分伝わってきます。写真センスが皆無なのが当方なので(笑)、偉そうな評価は言えませんが、そんなふうに感じた次第です。

ピックアップ写真、上段左端1枚目には見つめられている視線を感じますし、2枚目の鉄扉はあまりにも立体的です。3枚目の距離感は現場に居るような気持ちにもなります。下段左端1枚目はパキパキの写真ではありませんが、それでも被写体の材質感や素材感を写し込んでいると感じますし、2枚目のリアルさにはオドロキました。3枚目はまさに自らの目で見ている街中の (自然な) 発色性ではないでしょうか。下手にナチュラルではなく、もちろん色合いの誇張感もありません。あるがままの自然でス〜ッと入ってくる感じが安心感に繋がります (見る気持ちになる)。

冒頭のお話ではありませんが、最近パキパキの描写よりも何処か「柔らかな」描写に惹かれると言うか、余裕を持って見られる写真のほうが安心できるように感じられます。クッキリハッキリの写真には反応しなくなってきました・・歳ですね(笑)

実は、これらの要素はライカ製オールドレンズには以前から感じ得ていましたが、今回新たにCONTAREX版Planarのファンになってしまった次第です(笑)

光学系はネット上で検索すると4群6枚のダブルガウス型で解説している サイトばかりがヒットします (右図)。しかし、この光学系は1959年発売の初期型モデルのみに限定した光学系の設計だったようです。

今回ご依頼頂いたボストンの方からその初期型モデルの写真をお送り頂きました (ありがとう御座います!)。
最短撮影距離が12インチ (30cm) で、重量は304gとのことなので相当な重さです (左写真)。

しかし、以前オーバーホールした「CONTAREX版Planar 50mm/f2」は5群6枚のビオター/クセノター型光学系構成でした (右図)。ワザと誇張的に表現したイメージ図です。
第3群が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) ではなく分割した1枚ずつ (後群:合計3枚) になっていました。

ところが、今回同時にご依頼頂いた「黒鏡胴」の光学系をバラしてみたところ、何と光学系前群の第1群〜第2群の仕様が違っていました (右図)。
光学系後群側は「白鏡胴」と同一のように見えるのですが、前群の硝子 レンズコバ部分 (硝子レンズの外周部分) の厚みが異なります。

以上から『CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)』では、1959年発売の最短撮影距離30cm「初期型 (4群6枚)」と黒鏡胴が追加登場した「中期型 (5群6枚)」そして最後に最短撮影距離38cmに変わりフラッシュマチック「ブリッツ」装備の黒鏡胴モデル「後期型 (5群6枚)」の3種類が存在することがご依頼者様からのご案内で分かりました。

このような情報はネット上を探しても全く見つからなかったので、このような機会に恵まれたことを本当に感謝しています。ありがとう御座います!

↑ご覧のように3本のPlanar 50mm/f2とSonnar 85mm/f2の合計4本が揃うという、当方にとっては夢のような話です(笑)

今回のご依頼は、ドナーレンズから必要構成パーツを取り出し「ニコイチ」の作業と同時に、ワシントンDCの方の個体と絞り羽根を入れ替える作業が同時進行です。

① パーツを移植するためのドナーレンズ
② ワシントンDCの方の絞り羽根を入れ替える個体
③ ニコイチで経年劣化が酷い前玉を入れ替える個体
④ニコイチで錆びているマウント部を入れ替える個体

・・こんな感じです。

ちなみに、②が以前オーバーホール/修理した「CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)」になり、今回のタイミングに合わせて再びワシントンDCより遙々お送り頂きました (ご面倒お掛けしました!)。

↑Planar 50mm/f2は、3本すべてで同じだったのですが、まずバラす際に「距離環用締め付け環」の固着が酷く全く外れません (②のみ以前処置済)。固着剤を全周に渡り注入しているので溶剤を流し込んでもビクともしません。仕方なく加熱処置を施してようやく外せました。

また「鏡筒固定環」は筐体外装と同じアルミ合金材なので、しかも肉厚が薄くネジ山数が少ないためネジ込みを注意しないとアッと言う間に咬んでしまい使いモノにならなくなります。
つまり、バラす時ではなく組み戻す際に非常に神経を遣います。しかも、ネジ山がなかなか 咬み合わないので数十回やり直してようやく締め付けできるような感じです (ひたすらに根気勝負)。

手順としては「鏡筒固定環」をネジ込んで鏡筒を締め付け固定 (ブルーの矢印:①) してから、最後に「距離環用締め付け環」をネジ込んで距離感を固定 (オレンジ色矢印:②) するのですがこちらもなかなかネジ山が咬み合いません。この2つの環 (リング/輪っか) を締め付けるだけの作業で1時間近くかかるので頭に来ます(笑)

このモデルの構造的な問題として、鏡筒がフリーになっているので「鏡筒固定環」でキッチリ締め付けないと、フィルムカメラやマウントアダプタに装着した際にズレてしまい絞り羽根の開閉異常を来しますし、最悪絞り羽根同士が咬んでしまいます。組立工程での苦労話は「CONTAREX版Planar 50mm/f2 (CRX)」のほうで解説しています。

↑さて出てきました。今回新たに発見した「白鏡胴」と「黒鏡胴」の光学系の相違を示す写真です。

光学系の第1群 (つまり前玉) と第2群 (貼り合わせレンズ) の肉厚が互いに異なるので、必然的にレンズ銘板を兼ねる「固定環」の設計/仕様が全く違います (赤色矢印)。

↑こちらは「白鏡胴」の前玉固定環ですが硝子レンズの押さえ部分が「平坦」です (赤色矢印)。

↑こちらは「黒鏡胴」のほうの前玉固定環ですが、ご覧のように硝子レンズの押さえ部分が「突出」しています (赤色矢印)。

↑同様に第2群の貼り合わせレンズについても、固定環の硝子レンズ押さえ部分の形状/設計が異なっています (赤色矢印)。

↑ちょっと分かりにくい写真ですが (写真下手クソなのでスミマセン)、上の写真は前玉の肉厚が異なるのを撮影しています (グリーンのライン)。硝子レンズの厚みだけではなく、必然的に曲率も屈折率も異なると考えられます。

これらの事実から「白鏡胴」と「黒鏡胴」とでは光学系前群の設計が途中で変更されている (曲率/屈折率が違う) ことになります。但し、光学系後群 (第3群〜第5群) までは共に同一の ように見えますから、光学系前群の入射光収束時 (つまり構成で言う3枚目) では同じ条件に 落ち着いていると推測できます。

何を言いたいのか? 光学系前群だけを入れ替えれば「ニコイチ」ができそうな気持ちになるのですが、実は上の写真のとおり固定環がそれぞれ違う設計/仕様なので、硝子レンズに対する「圧」の掛かり方が変わってしまい、入れ替えると好ましくありません (下手すれば使っているうちに割れる)。

第一、そもそも鏡筒のネジ切り箇所がビミョ〜に異なるので、光学系前群だけを入れ替えることもできません。つまり鏡筒を丸ごと交換しない限り適正な描写性能に達しないと考えられますが、すると距離環指標値の整合性も絞り羽根の開閉もズレてくると思います。
つまり「白鏡胴」と「白鏡胴」或いは「黒鏡胴同士」のように同じモデルでの入替しかできないと思います。

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結果、今回のご依頼では以下のような結果になりました。

① ドナーレンズより絞り羽根とマウント部を移植した後、再び組み上げました。
② 切れていた絞り羽根をドナーレンズより転用して入れ替えました。
③ 残念ながら前述の設計/仕様の相違から前玉の入替は不可能でした。光学系清掃後戻しています。
④ マウント部の爪をドナーレンズより転用して入れ替えました。

大変長い期間お待たせしたにも拘わらず、このような結果になりご期待に応えられず本当に申し訳御座いません。

唯一、ワシントンDCの方の絞り羽根が入れ替えできたのが、せめてもの救いです。もちろんSonnar 85mm/f2のほうもマウント部の入替は完了しています。今回のご依頼、誠にありがとう御座いました。