◎ OLYMPUS (オリンパス) OM-SYSTEM ZUIKO AUTO-MACRO 90mm/f2(OM)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、OLYMPUSのフィルムカメラ「OM-4」が発売された1984年に、その交換レンズ群の仲間入りを果たした中望遠マクロレンズ『ZUIKO AUTO-MACRO 90mm/f2 (OM)』です。このモデルも前回同様、当方がOLYMPUS製オールドレンズの中で、あまり手を付けたくないモデルとして考えている中の一つです。理由は、ダブルヘリコイド方式であることとフローティング機構を装備していることの2点です。

光学系は9群9枚の構成ですが、光学系前群内に特殊分散ED硝子と異常分散硝子を配した、徹底的に色収差を含む諸収差の改善を追求したアポクロマートレンズであり、同時に光学系後群にフローティング機構を装備してきた銘玉の一つです。
光学系内の構成は、「前群:3枚」「中群:3枚」「後群:3枚」合計9枚の配置になっているワケですが、ダブルヘリコイド方式とフローティング機構を装備しているので、それぞれの群が個別に駆動しているとイメージしたほうが分かり易いです。
そして、「前群:昇降式」「中群:直進式」「後群:フローティング式」なワケですが、ダブルヘリコイド方式は前群と中群に対して作用しています。ダブルヘリコイドの駆動に伴い、それと連動してフローティング機構が働いて光路長の軸線上で光学系後群だけが「横方向」に移動しています・・つまり、光学系後群は光学硝子レンズ格納筒が僅かに回転していたとしても (つまり横方向への移動)、光路長の軸線上として捉えれば直進位置が極僅かに可変しているだけと言う考え方 (つまりフローティング機構) ですね。

この時、フローティング機構の光学系後群の位置は、∞から最短撮影距離までの中で、繰り出し途中 (或いは収納途中) だとしても繰り出し (或いは収納)→収納 (或いは繰り出し) 位置へと可変していることがあります。つまりダブルヘリコイド側の動きに必ずしも一致した動作をしていないワケですが、これを理解できていないとフローティング機構を装備しているオールドレンズはバラしても正しく組み上げることができません。

実際にバラしてみると、内部には過去のメンテナンス痕跡があったのですが「トラップ」が仕掛けられていました・・そのトラップにハマり、何と3日掛かりの超絶な作業を強いられることになりました(泣) 今回のご依頼は「光学系内のカビ除去」と「距離環を回す際のトルク改善」です・・。

  • 光学系内のカビ発生原因:
    ヘリコイド・グリースには「白色系グリース」が塗布されており、その揮発油成分が光学系内に僅かに廻っていたのだと推測しますが、カビの発生と言えるほど本格的なカビは生じていませんでした。それよりも、第3群の外周附近に4mm長のキズ (当初は気がつかず) があり、コーティング層のヘアラインキズ状に見える極細線なハガレも数本あるようです。
  • 距離環を回す際のトルク改善:
    当初バラす前のチェックでは「僅かに重め」の印象でしたが、それはヘリコイドに塗られていた「白色系グリース」の影響だと思います。おそらく「粘性:中程度」の白色系グリースを塗布したのだと推察しますが、一部は経年劣化から僅かに液化が進行していました。
    それよりも問題だったのは、無限遠位置「∞」の僅か手前、距離環距離指標値「10m」位置からほんの僅かに詰まった印象で∞に到達して停止している違和感です (ほんの僅かに詰まった感じ)。これが内部に仕掛けられていた「トラップ」から来る結果だと気がつくのに相当な時間がかかってしまいました。

↑上の写真は、バラした直後に撮影した写真で、フローティング機構部を拡大撮影しています。フローティング機構内にセットされている光学系後群の硝子レンズ格納筒とキー (ポリキャップ+円柱シリンダーネジ) に白色系グリースが塗られています。

上の写真では分かりにくいのですが、実は光学系後群の硝子レンズ格納筒の外壁部分には「梨地仕上げ」が施されています (微細な凹凸のあるメッキ加工仕上げ)。逆に、それ以外の鏡筒〜昇降筒やフローティング筒などは、すべて表層面が平滑なメッキ加工が施されています (つまりツルツル状態)。これは何を意味するのか??? 光学系後群の外壁部分に「梨地仕上げ」が施されていると言うことは、この部分に経年に拠る「揮発油成分」が附着するのを防いでいることに他なりません・・梨地仕上げにして設計した意図は「油分の排除」なワケです。しかし、そこに過去のメンテナンス時には「白色系グリース」を塗ってしまいました。

どうして「梨地仕上げ」が「油分の排除」を目的としているのかと言うと、表層面に微細な凹凸を用意して揮発油成分の流動性を防いでいるワケであり、それは光学硝子レンズ格納筒の内部 (つまり硝子レンズが入る内側部分) を見れば、大抵のオールドレンズでマットな梨地仕上げが施されているので理解できると思います。過去のメンテナンス時には、そこに敢えてグリースを塗ってしまったワケですから、いわゆる「グリースに頼った整備」と言えます (硝子レンズ格納筒の内部にグリースを塗る人は居ませんョね?)。従って「原理原則」から外れた作業で過去のメンテナンスが施されていたことになりますが、意外にもフローティング機構を装備しているにも拘わらずグリースが塗られていることは非常に多いのが現実です。しかも、今回の個体には「白色系グリース」が塗られていましたから、それほど昔のお話ではありません (生産当時の1980年〜1990年代は黄褐色系グリースがほとんどなので)。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。マクロレンズなので環 (リング/輪っか) が多いのと同時に鏡筒の繰り出し量が多いことから「アーム」がとても多く使われています (長いアームで5本)。

↑上の写真は鏡筒を撮影していますが、残念ながら、光学系第2群の固着が酷く、外すことができませんでした。従って、絞りユニットも含めて鏡筒内部を解体できていませんが、ラッキ〜なことに絞り羽根への揮発油成分附着は免れていたようで大変キレイな状態を維持していました。

↑鏡筒が内部に格納される「昇降筒」を撮っています。縦方向に切り込みが用意されており、鏡筒が縦方向にスライドしていく・・つまり昇降筒と言うことになります。

ここで、すぐにピンと来た人は、相当なスキルを有する方です。ワザワザ昇降筒にせずとも、フツ〜にヘリコイド (オスメス) を使って鏡筒を繰り出し/収納すれば良いのに、どうして昇降筒なのでしょうか??? 答えは、ヘリコイド (オスメス) にした場合、繰り出し量が多いとヘリコイドのネジ山数が増える (つまり距離環の回転数が増大する) か、逆にネジ山数を減らして急角度でネジ切りしなければ繰り出し量が増やせません。当然ながらヘリコイドのネジ切り (オスメス) 分の厚みが必要になってくるので筐体外径が大型化してきます。さらに問題なのは、当モデルが「マクロレンズ」だからです。マクロレンズともなればピント面の境界は大変狭いので、ヘリコイドのネジ山を急角度にしてイキナシ繰り出してしまったら (収納したら) ピント合わせが面倒で仕方ありません。

今回のモデル「90mmマクロ」が基準になっているのか、或いは前回オーバーホールした「100mm/f2」を参考にしているのかは不明ですが、OLYMPUSの設計意図として、この昇降筒を採用してきたことから筐体サイズを「コンパクト化」したかったことが窺われます。それは、光学系前群を不必要に大口径化せずに曲率を可能な限り追求して小さめの口径で設計してきたことからも察しが付きます。そして、OLYMPUSの当時のフィルムカメラがコンパクトに造られていたことにも一因していると考えられます。当時、これら交換レンズ群のボディとして一番最初に発売されていたモデルは「OM-4」ですから、そのボディとのバランス性からも交換レンズ群を無意味に大型化したくなかったが為に、ワザワザ昇降筒を採用してきた設計思想が伝わってきますね。

↑まず先に鏡筒に光学系中群を組み付けてしまいます (後からセットできません)。フローティング筒と同様に、光学系前群〜絞りユニット〜中群まで、すべてが「梨地仕上げ」です (鏡筒の外壁がツルツルの平滑仕上げなのもご覧頂けると思います)。フツ〜は、そこ (光学系内) にワザワザグリースを塗りませんョね(笑) 前出のフローティング筒にグリースを塗ること自体が、如何に理に適っていないかご理解頂けると思います。

↑ダブルヘリコイド方式の各ヘリコイド群とフローティング筒に昇降筒を並べて撮影しました。

↑実際に鏡筒を昇降筒に組み込みつつ、且つ同時に内ヘリコイド (オス側) にセットします・・ちょうど鏡筒と昇降筒で内ヘリコイド (オス側) をサンドイッチするようなイメージです。

↑セットが終わるとこんな感じになります・・鏡筒は昇降筒内を直進動としてスライドしていくワケですが、その際に長い距離の切り込み部分に入っているのがキー「ポリキャップ+円柱型シリンダーネジ」です。この部分も、ワザワザ金属製ではない「ポリエステル」を使っていますから材質を替えることで平滑性を担保していることが理解できます (しかし、実際には過去のメンテナンス時に、この部分にも白色系グリースが塗られていました)。つまりグリースなどは一切塗らずに組み上げていきます。

↑フローティング筒を組み入れてキー「ポリキャップ+円柱型シリンダーネジ」をセットします (グリース塗布せず)。上の写真のフローティング筒に用意されている「切り欠き部分」のカタチを見れば、途中で一度極僅かに光路長の軸線上で反対方向に動いているのが理解できると思います (繰り出し途中に光路長を減じる動き/或いは収納時に光路長を広げてしまう動き)。

↑内ヘリコイド (メス側:フィルター枠を兼ねる) をネジ込みます。

↑さらに外ヘリコイド (オス側) を組み付けます。

↑外ヘリコイド (メス側:指標値環を兼ねる) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑当方による「磨き研磨」が終わった絞り環です。

↑鏡筒から出ている「爪」に咬み合う「絞り羽根開閉幅制御アーム」と、マウント側に飛び出る「伝達アーム」を絞り環に組み付けます。

↑このモデルには、他にもアーム環 (リング/輪っか) が2本余計に備わっています (絞り環に重ねて撮影しました)。
一般的なオールドレンズで必要となるアームは、全部で2本です。

  • 絞り羽根開閉アーム:
    マウント面の絞り連動レバーの動きに伴い絞り羽根を勢いよく開閉するアーム
  • 絞り羽根開閉幅制御アーム:
    絞り環の操作に連動して絞り羽根の角度 (開閉幅/開口部/入射光量) を制御するアーム

・・にも拘わらず、このモデルには2本余計なアームが存在しています (上の写真でアーム環と指し示しているアーム)。

↑こちらは「絞り羽根開閉アーム」と「フローティング機構ガイド」の2つを有する制御基台です。「フローティング機構ガイド」は、その名のとおりフローティング筒をヘリコイドの動作に連動して位置を可変させている制御用のガイドで、ここにフローティング筒から飛び出ているキー「ポリキャップ+円柱型シリンダーネジ」が刺さります。

↑前出の様々な余分な「アーム (環)」をすべてセットします。各アーム環の間には、やはりポリエステル製の環 (リング/輪っか) が挟まり、同時にその中にベアリング (6個) が入り平滑性を確保しています。

さて、今回の個体に仕掛けられていた過去のメンテナンス時に於ける「トラップ」です。

↑冒頭で解説していた当初バラした直後の同じ部位の写真ですが、ポリ環が挟まっている順番が違っています。今回の個体は当方が初めて扱うモデルでしたので、パッと見ただけで、この当初の状態が「適正ではない」とは気がつきませんでした。このポリ環の順番の相違で問題が生じることに気がついたのは・・何と作業開始後3日目のことでした(泣)

↑3日目にしてようやく撮影できた(笑)「外ヘリコイド (指標値環を兼ねる)」です。無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

最初の1日目はフツ〜にオーバーホールの作業をしてました・・が、しかし、距離環を組み付けて無限遠位置「∞」まで回すと詰まった感触を感じます。それでバラして再び原因を調べていたのが2日目。組み直すこと数十回 (おそらく20回以上)・・内ヘリコイドをバラして組み直したり、外ヘリコイドを組み直したりしましたが、原因が掴めません。そして、3日目になってようやく前出のアーム環の積み重ね順序の違いに気がつきました。従って、3日目も丸一日がかりでアーム環とポリ環の順番の相違による無限遠位置「∞」の状態を何度も何度も組み直して調べた次第です。

↑制御基台を組み付けて「フローティングガイド」と「絞り羽根開閉アーム」を咬み合わせます。この状態で絞り環操作に従い絞り羽根の開閉が適正であることを確認しておきます。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、当方による「磨き研磨」を既に終わらせている状態で撮影しています。過去のメンテナンス時には、今回の個体はグリースが塗られていなかったのでサビなどは生じていませんでした。

↑外していた各連動系・連係系パーツも「磨き研磨」を施して、やはりグリースなどは一切塗らずに組み付けます。

↑完成したマウント部をセットして、この後は距離環を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後に前玉の飾り環をセットすればいよいよ完成です。

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ここからはオーバーホールが終わったオールドレンズの写真になります。

↑特殊分散ED硝子と異常分散硝子を配した「アポクロマートレンズ」である『ZUIKO AUTO-MACRO 90mm/f2 (OM)』です。

↑光学系内の透明度が非常に高くなりました。光学系第2群の外周附近に3mm長のキズと第1群 (前玉) と第2群の裏面に付いているコーティング層のヘアラインキズ状のハガレが数本ありますが、ご覧のように光に透過させてもコーティング層のハガレなので視認できません・・光に反射させると剥がれている箇所が細線としてヘアラインキズ状に見えます (写真には一切影響しません)。

↑光学系後群も大変キレイになりました。

↑今回の個体は絞りユニットを解体していませんが、絞り羽根もキレイな状態をキープしています。

ここかすらは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:軽め」の黄褐色系グリースを使いました。当初の「僅かに重く感じるトルク感」と比べると、数段軽く仕上がった印象でしょうか・・これ以上軽くすることは、ダブルヘリコイド+フローティング機構装備なのでできません。申し訳御座いません。もしも、ご納得頂けないようであれば、ご請求額より必要額分を減額下さいませ

↑予想に反して3日間もかかってしまい、正直諦めようかと何度も考えたほどに超絶的な作業に陥ってしまいましたが、無事に完璧なオーバーホールが完了しました。無限遠位置は当初の位置で調整しています (極僅かにオーバーインフ状態)。もちろん、「∞」刻印附近での詰まった感じは解消され「カツン」と小気味良い音とたててシッカリと停止してくれます。最短撮影距離「40cm」の位置で距離環の回転を折り返す際には「アーム環」の重なりが変わるので (それぞれのアームを受ける爪に極僅かなマチがあるので、その音がします)、その際の音が微かにしますが将来的に問題になることはありませんから、そのままお使い下さいませ。

↑当レンズによる開放による実写です。1枚目はスタジオの被写体全体が入るところまで離れて撮った写真で、2枚目が実際の最短撮影距離40cmでの実写です。いずれも、ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影した写真です。

↑さらに絞り環を回してF値「f4」で撮りました。

↑F値「f5.6」での写真です。

↑設定絞り値はF値「f8」になりました。

↑F値「f11」です。

↑F値「f16」になります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。