◎ PENTACON (ペンタコン) PENTACON electric 50mm/f1.8 Multi Coating《中期型》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツPENTACON製標準レンズ『PENTACON erectric 50mm/f1. 8 Multi Coating《中期型》(M42)』です。


このモデルは経年劣化から「絞り羽根の開閉異常」がある個体が市場には出回っていたりしますが、単なる絞り羽根の油染みでは一切改善できない「設計上の問題点」を含んでいます。さらに、光学系の経年劣化に拠る薄いクモリが生じている個体も多く、清掃でも改善しない個体も多数あり、とてもリスキーなモデルの一つです。

今回出品するモデル『PENTACON erectric 50mm/f1. 8 Multi Coating《中期型》(M42)』の純然たる原型モデルは、実は同じ旧東ドイツの老舗光学メーカーMeyer-Optik Görlitz (マイヤーオプティック・ゲルリッツ) から1961年に発売された標準レンズ「Oreston 50mm/f1.8 zebra」になります。少々お話が反れてしまうのですが、これを理解するには当時の時代背景を理解していないと見えてきません・・持っていらっしゃるオールドレンズを、さらに趣深く知る (ロマンに思いを馳せる) 上で何かの足しになればと思います (長い解説です/加筆あり)。

実は、当方も7年前までは第二次世界大戦後の旧東西ドイツとベルリンのことを正確に認識していなかったのですが、旧西ドイツのSttutgart (シュトゥットガルト) 在住の知人 (ドイツ人) からいろいろと教えられ再認識できました。旧ドイツは敗戦時に旧ソ連軍と連合軍によって占領され国が二つに分断されました。ソ連軍が占領管轄統治したのがドイツ民主共和国 (旧東ドイツ) であり (右図ピンク色)、連合国側であるアメリカ・イギリス・フランスが分割占領管轄統治した国がドイツ連邦共和国 (旧西ドイツ) になります (ブルー色)。

ところが、ベルリンは旧東ドイツ側に位置しており (上図の緑色の矢印)、旧東ドイツの首都になりました。一方旧西ドイツの首都はボンになるので、もちろん旧西ドイツ側なのですが、ベルリン自体も連合国側とソ連とによって分割統治することが決まり後に「ベルリンの壁」が登場します。当方もそうなのですが、意外と「ベルリンの壁」がグルリとベルリンを覆っていたかのように認識している人が多いのではないでしょうか・・。

実際にはベルリンも2つに分断されており連合国側の管轄地であった「西ベルリン」側が「有刺鉄線と壁」によってグルリと囲まれていたのです。それもそのハズでベルリンが旧東ドイツの中に位置していたことから囲まれていたのは西ベルリンだったと言うワケです。そもそも「ベルリンの壁」が建設されたのは戦後すぐではなく1961年であり、東西ドイツの経済格差がより顕著になってきたことから旧東ドイツから旧西ドイツ側への逃亡者が多くなり敷設された壁だったようです (初期の頃は有刺鉄線のみ)。ちなみに、西ベルリンもアメリカ・イギリス・フランスの3カ国による分割統治になります。

なお、有刺鉄線による鉄条網は20m〜30mの奥行きがあり、一定の距離を保って監視所や国境検問所が配置され兵士が常勤していたそうですから、日本人にはなかなか想像できない光景だったことでしょう・・。ドイツ人の知人も言ってましたが、そもそもドイツ人にしてみれば東も西も無く「ひとつのドイツ」の認識が当たり前だったワケで、長きに渡り占領統治されていた違和感はいつまでも残っていたそうです。同じ敗戦国でも日本は僅か8年足らずですぐに主権回復し占領統治を免れたワケですから、戦後45年間も分断され続けていたドイツの人々の思いは、なかなか日本人には理解できないのかも知れません。ましてや、アメリカのみに占領統治されていた日本とは異なりドイツは4カ国による分割統治だったワケで、陸続きで歴史的にも近隣国との様々な覇権に対応してきたことを考えると、そもそも海を隔てて独立国家として再生できた日本は地勢的にも歴史面からも幸せな境遇だったのでしょう。

旧東ドイツは社会主義体制の国家ですから私企業の概念が存在せず、すべての企業は国に従属した「人民所有企業/人民公社 (VEB)」でした・・人民公社と言う呼称は、どちらかと言うと中国の方が当てはまりますが、旧東ドイツのVEBは「人民所有企業」と言う認識が研究者の間ではあるようです。そのことが光学メーカーに於いても分かりにくい要素のひとつになっているのですが、旧東ドイツは戦後すぐに「5カ年計画」に基づく産業の立て直しに入ります。国家産業体系の中で様々な産業分野が準備されスタートしますがオールドレンズは「光学精密機械VEB」と言う体系に属し、第4次5カ年計画の頃になって初めて「とりまとめ役企業 (VEB)」としてCarl Zeiss Jenaの名称が国家体系図に現れます (それまではどの企業名も明記されておらず各光学メーカーは並列的な立場)・・ちょうど1960年代に入る頃になりますが、その当時Carl Zeiss Jenaは「光学精密機械VEB」と言う巨大なコンビナート (企業連合体) の筆頭企業に登りつめていたことになります。従ってこの1960年〜1965年 (第4次5カ年計画) という時期が必然的に光学メーカーの分野でも重要な時期になってきます。

ここでの重要なポイントは、社会主義体制の国家では「私企業」の概念が無いので、各企業 (VEB) の利益はすべて国家に吸い上げられていくようなイメージであり、必然的に上位格のVEBを経由していくことになります。そこで、この国家産業体系に於ける「体系図」は単なる繋がりを意味するのではなく、各企業 (VEB) が配下になっていたことを意味し、第4次5カ年計画の前までは各企業 (VEB) を管轄省庁直下の「並列格」として取り扱っていたことが研究者により調査されています。研究によると、その弊害により第3次5カ年計画までの目標が思うように進まず、東西ドイツの経済格差をより深刻化させてしまったと言う流れのようです。従って、第4次5カ年計画の国家産業体系図に初めて「とりまとめ役VEB」が各産業分野で出現したワケですが、それは取りも直さず配下のVEBを従えた筆頭企業 (VEB) を意味し、統括指揮権も含めて配下の様々なVEBをコントロールする権限が与えられたと考えられているようです。

そこで「光学精密機械VEB」に照準を合わせると、とりまとめ役VEBはCarl Zeiss Jena一社のみになっているワケですが、何とその直下には「PENTACON」が配置されていました。そして、さらにPENTACONから様々な光学VEBに系図が分かれていくようなイメージになりますが「ベルリンの壁」崩壊事件直前の第8次5カ年計画 (つまり旧東ドイツとしての最終計画) の国家産業体系図には「Carl Zeiss Jena」がとりまとめ役VEBとして名を連ねていたものの、直下は「コンビナート」と言う巨大なVEB集団になっており、肝心な「PENTACON」の名前は体系図から既に消えていました。

この背景が見えてくるとモデルの変遷が理解し易くなります。今回のモデルの原型である「Oreston 50mm/f1.8」はMeyer-Optik Görlitz製標準レンズになりますが、元々敗戦時に運悪く「軍需産業VEB」に組み入れられてしまったMeyer-Optik Görlitzは、その後Carl Zeiss Jenaに自社工場を売却することで「光学精密機械VEB」への編入を実現させています。ここがMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの動きを知る上でのポイントになってきます。

工場をCarl Zeiss Jenaに抑えられてしまったMeyer-Optik GörlitzはCarl Zeiss Jenaの直下企業であるPENTACONへの商品供給に迫られていきます (当時PENTACONはフィルムカメラ生産を主体としていた専業VEBだった)。これが結果的に「Oreston 50mm/f1.8 zebra」が原型モデルとなる運命を切り開いていったように考えますが、後に筐体意匠はそのままにPENTACON銘のレンズ銘板にすげ替えただけのモデルが登場してくるワケですね。

やがて、Meyer-Optik Görlitzは1960年代はじめからPENTACONへの吸収合併に追い込まれ続け、ついには1968年にPENTACONに吸収され消滅していきます。その後1980年にはPENTACONさえもCarl Zeiss Jenaに吸収合併 (配下の格付から傘下/グループに変更されている) しているので実質的に「ベルリンの壁」が崩壊した1989年時点での光学メーカーと言えば有名処ではCarl Zeiss Jenaしか残っていなかったことになります。

ここで、ご兄弟の方々と東西ドイツに跨がって分かれてしまったと言う知人からオールドレンズのお仕事に関する貴重なお話も得ることができました。当時旧東ドイツでは様々な産業製品に関して旧東ベルリンでの輸出入集中管理を旧西ドイツ側に強いていたようなのです。従って、巨大な鉄道集積場所が旧西ベルリン側に用意されていたとのお話で、東西ドイツの国境での検閲や検問に分散させてしまうのではなく、旧東ベルリンでの輸出入管理によってのみ産業製品を国外へ輸出認可していたらしいです。結果、オールドレンズの世界では西欧圏向けへの輸出製品である個体には英語表記の「G.D.R. (German Democratic Republic)」が刻印され輸出数自体を国が直接管理 (抑制) 輸出していましたが、その裏で東欧圏向け輸出品であるドイツ語表記の「DDR (Deutsche Demokratische Republik)」刻印製品が多く流されていたようです。結果的に旧東ドイツから東欧圏を経て西欧側にも流れ、むしろ「G.D.R.」刻印の個体のほうが少なかったことになります・・つまりは、当時の旧東ドイツでは、とても国の管理体制の中だけで商売していても、なかなか生きていけない状況だったために闇ルートならぬ裏ルートを確立していったとのお話でした。「G.D.R.」刻印の個体数が意外にも市場にはあまり出回っていない理由が垣間見えたような気がします・・。

長々と話てしまいましたが、これらの時代背景が見えてくると、Carl Zeiss JenaとPENTACONとの関係、或いはMeyer-Optik Görlitzを含めた複数の光学企業 (VEB) の立ち位置なども理解でき、同時に各社のオールドレンズが時代の流れと共に消滅しながらも、その技術と設計思想が様々な企業に吸収され受け継がれていった背景なども見えてくるのではないでしょうか・・それが、まさしく今ドキのデジタルなレンズには無い、オールドレンズを愉しむ上での魅力のひとつ/ロマンになっているのではないかと考えています。

ORESTON 50mm/f1.8 zebra(Meyer-Optik Görlitz製)
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

前期型1961年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (細かいストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

後期型
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

PENTACON auto 50mm/f1.8(PENTACON製)

前期型−I1969年発売
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:ゼブラ柄 (大柄なストライプ) レンズ銘板入り替えのみ
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ (右回転)

前期型−II
コーティング:モノコーティング
プレビューボタン:有
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :無
筐体の意匠:黒色鏡胴に変更 (ゼブラ廃止)
絞り羽根形状:Meyer-Optikのカタチ

中期型−I1971年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MC (赤色刻印)
絞り羽根形状:新形状に設計変更 (PENTACONのカタチ/左回転)

中期型−II
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (赤色刻印)
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

中期型−III
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING(赤色刻印)
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−I
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−II1975年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環) 廃止
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−III
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

AUTO REVUENON 50mm/f1.8(PENTACON製/OEM)
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

後期型−I
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環)
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

後期型−II1975年発売
コーティング:マルチコーティング
プレビューボタン:無
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
筐体の意匠:銀枠飾り環 (距離環) 廃止
レンズ銘板:MULTI COATING (白色刻印) プラスティック製
絞り羽根形状:PENTACONのカタチ/左回転

 

上記モデルバリエーションを分かり易くする為に冒頭で当時の時代背景を解説しました。上のモデルバリエーションでを附記したPENTACON銘「前期型−I (1969年発売)」は、実際にはMeyer-Optik Görlitz製モデルのレンズ銘板だけをPENTACON銘に入れ替えて出荷していたワケですが、それを検証してみました。

左は1969年にPENTACONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA L」の取扱説明書の抜粋ですが、オプション交換レンズ群はMeyer-Optik Görlitz製とCarl Zeiss Jena製モデルだけで占められています。

さらに同じ1969年の後期に追加で発売された「PRAKTICA LLC」取扱説明書から、同じように交換レンズ群一覧を抜粋しました。Meyer-Optik Görlitz製のモデル銘が消滅してPENTACON製とCarl Zeiss Jena製モデルのみに変わっています。

Meyer-Optik GörlitzがPENTACONに吸収合併したタイミングが1968年なので、その時点で既に製産していた個体がそのままMeyer-Optik Görlitz銘でフィルムカメラにセットされ、吸収合併後の新たな製造出荷分よりPENTACON銘にモデル銘がチェンジしたという話もこれで検証できます。

また上のモデルバリエーション中印で示したタイプは、実際にはモデルバリエーションではなく「市場動向をみて都度製産していたelectricモデル」です。つまり製造番号で捉えると、それぞれの「中期型ーIII」或いは「後期型ーIII」の中で混在してしまうので、純然たるバリエーションの相違として捉えてしまうと時期を跨ぐ説明ができません。
(electricモデルはマウント面に電気接点端子を装備したタイプ)

そしてこのモデルにはOEMで出荷されていたモデルがありRevue社に「AUTO REVUENON 50mm/f1.8」として後期型の時期にOEM生産しています・・純粋にプラスティック製のレンズ銘板をすげ替えただけの相違です。また「PRAKTICAR 50mm/f1.8 MC (PBマウント)」とも筐体やマウント部の設計は異なりますが光学系も含め内部構造や構成パーツの一部は同一です。

光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型でその描写性もまさしくダブルガウス型の特徴を現していますが発色性は少々個性があり日本製レンズの「FUJINON」シリーズなどに見られる元気の良い発色性とは異なります。どちらかと言うとドイツ製オールドレンズらしい渋い発色で骨太なピント面のエッジとも相まりより誇張された印象を受けます。当方の認識では素晴らしいモデルの一つなのですが、日本ではあまり高く評価されていないように感じます・・Flickriverの実写を検索しましたので興味がある方はご覧下さいませ。

実は、このモデルも最近市場の価格が上がる傾向になっているのですが、Meyer-Optik Görlitz製標準レンズで廉価版の格付である「Domiplan 50mm/f2.8」、或いは日本製のオールドレンズでFUJICA (現:富士フィルム) 製の同じく廉価版標準レンズ「FUJINON 55mm/f2.2」、栗林写真工業の標準レンズ「C.C. Petri Orikkor 50mm/f2」などに共通する、大変キレイな「シャボン玉ボケ」まで表出している写真があります・・これは、まさしくMeyer-Optik Görlitzからの源流の流れを感じずにはいらないのですが (玉ボケやリングボケなどは多くのオールドレンズで表出できますが、シャボン玉ボケを出せるオールドレンズだけは限られてきます)、近年の特にミラーレス一眼に於けるオールドレンズの愉しみ方が、またひとつ増えてきているのではないかと考えています。

特に「シャボン玉ボケ」に関してはMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズと同格レベルの大変細く繊細なエッジでありながらも、シッカリとした輪郭を維持しているとても美しい「シャボン玉ボケ」を表出します。この円形状のボケ味について、当方では次のような認識でコトバを分けて表現しています。

  • シャボン玉ボケ:
    真円状で且つエッジが非常に繊細で細く明確な輪郭を伴うまさにシャボン玉のような美しいボケ方
  • リングボケ:
    ほぼ真円に近い円形状でエッジが明確ながらもキレイではない (骨太だったり角張っていたり) ボケ方
  • 玉ボケ:
    円形状のボケが均等に中心部まで滲んでしまっているノッペリした (イルミネーションの円形ボケのような) ボケ方

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。当方でPENTACON製の標準レンズを扱うのは (リスキーであることから) 珍しいのですが、さらにその中でも今回の「中期型」は7年間でたったの4本であり (今回5本目)、非常に珍しいです。そもそも「中期型」自体が生産数が少ないのか (すぐに後期型に変わったのか) 市場での流通量は「後期型」よりも少なめです。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。アルミ材削り出しですが、ヘリコイドのネジ山切削レベルは日本製オールドレンズに比べると、だいぶ格下です (つまり大雑把)。しかし、旧西ドイツ側の光学メーカーから発売されていたオールドレンズでも似たような切削レベルのモデルは数多く存在しますから、決して旧東ドイツ側のオールドレンズだけが粗雑な (大雑把な) 技術レベルであったワケでは決してありませんし、もちろん当時の日本製オールドレンズにもあります・・要は「設計思想」如何によると考えています (差別はやめましょう)。

↑上の写真は絞りユニット内に実装される「絞り羽根開閉幅制御環」を撮っていますが、実はこのパーツがこのモデルに於ける「絞り羽根開閉異常」の根本原因になっている「問題のある設計」なのです。絞り環やマウント面に位置している絞り連動ピンとの連係動作で絞り羽根を開いたり閉じたりしているのが「絞り羽根開閉幅制御環」なのですが、その制御する際に頻繁にチカラが伝達されている場所「絞り羽根開閉アーム」の設計が拙いのです。

「絞り羽根開閉アーム」は金属製の棒状なのですが、何と「絞り羽根開閉幅制御環」に用意された「穴」に、それこそ単純に打ち込まれただけと言う非常に簡素な設計になっています (グリーンの矢印)。このことが影響して経年使用に於いて絞り羽根の油染みが原因であるにも拘わらず清掃せずにムリなチカラで絞り環を回そうとして、結果的にこの「絞り羽根開閉アーム」を根元からグラ付かせてしまう結果に陥ります。まだ、アームがネジ込んであるならば対処の方策もあると言うものですが、打ち込まれている場合にはどうにもなりません。

そして、最近特に多くなってきたのがデジカメ一眼やミラーレス一眼に「ピン押しタイプ」のマウントアダプタ経由装着使用する機会の増大です。この結果、マウント面の絞り連動ピンが常時押し込まれている状態になるのですが、このモデルのマウント面内部「絞り連動ピン機構部」はフィルムカメラによるシャッターボタン押し下げ時の (瞬間的な) チカラの伝達しか考慮されていません。従って、例えば距離環のトルクが重いからと言ってムリに回し続けていると、そのチカラが絞り連動ピン機構部から最終的に上の写真の「絞り羽根開閉アーム」にまで伝わってしまい、同じようにアームの付け根からグラつく原因に陥ります。

いずれの場合でも、既にグラついてしまったアームは「穴」が広がって摩耗してしまっているためにどうにも改善処置を施せません・・つまりイキナシ製品寿命と言う結果に至ります。当方でも何本もオーバーホール/修理のご依頼をお受けしていますが、修復できている個体数は非常に少ないです。

↑6枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。今回の個体は前述の「絞り羽根開閉アーム」がシッカリ固定されている状態をキープしているので完璧に正常駆動しています・・グラついていると最小絞り値「f16」の時の絞り羽根の開口部が「f8〜f11」程度まで広がったままになります (つまり絞り羽根の開閉異常)。しかし、内部では正しく「絞り羽根開閉アーム」を動かしているワケで、グラついている分のマチで絞り羽根の開閉が相殺されてしまい、結果的に「f8以上に絞れない」などと言う現象に陥ってしまいます。ネット上の解説などを見ていると、これを「絞り羽根の油染みが原因」と案内していることがありますが (このモデルに関してのお話)、そう判定するには早計すぎます。

↑この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。ご覧のように「絞り羽根開閉アーム」が鏡筒裏側から長く飛び出ています。このアーム (金属棒) をマウント内部の絞り連動ピン機構部に附随する「爪」が掴んでダイレクトに左右に (勢いよく) 振っているので、必然的に絞り連動ピンから伝達されたチカラが最終的にアームの付け根に集中してくるワケです。

↑こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑同様に鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この時に「直進キー」なる距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目の金属製パーツを組み込んで、鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が繰り出されたり収納したりの直進動をするよう調整するワケですが、何とこのモデルにはたったの1本しか「直進キー」が存在しないので、調整できる範囲もだいぶ限られてしまいます。しかも、この直進キーは絞り環を回す際のクリック感を実現している「ベアリング+コイルばね」の格納も兼務しているので、非常に神経質な箇所です。

↑距離環を仮止めしておきます。

↑この状態で再びひっくり返しました。次は絞り環をセットしていきます。

↑「ベアリング+スプリング」を組み付けてから絞り環をセットします。絞り環の内側には、絞り羽根を開いたり閉じたりする際の「絞り羽根の角度」を決めている「制御板 (絞り羽根開閉幅制御板)」が用意されています。さらに、その制御板の出っ張りが左右に用意された「柱」に突き当たることで、絞り環の操作範囲を限定させています (f1.8〜f16までの操作域)。

右側の柱が「開放側」になり左側が「最小絞り値側」です。上の写真では制御板が右側まで来ているので「開放F値:1.8」で突き当たって絞り環が停止している状態を撮影しています。この制御板に用意されている「なだらかなカーブ」部分に、マウント部内部にある金属棒が当たることで、絞り羽根の角度が決定されて絞り羽根が閉じたり開いたりしています。そして重要なのは、このモデルの場合、この制御板の位置が一切調整できないと言うことです・・つまり、開放側「f1.8」と最小絞り値側の「f16」では、ピタリと位置とクリック感が一致しているのですが、その途中の各絞り値 (2.8/4/5.6/11) では、クリック感と指標値が一致しておらず (指標値の中心にならず) クリック感とはチグハグな印象を受けます。以前、これでクレームを付けてきた人が居ますが、この問題に関しては設上の仕様なので一切調整できません (従ってクレーム対象としません)。

↑後からでは組み付けることができないので、ここで先に光学系後群を組み込んでしまいます。まさしくMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズからの設計思想を、そのまま受け継いでいる部分なのですが、光学系後群の固定方法はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本による締め付け固定であり、光学系後群自体は単に置くだけのセット方法です。

従って、このイモネジ3本の締め付け調整が上手くできていないと「描写性能の低下」を招きます・・具体的には、光学系後群を格納箇所に置くと、約1mm弱の「マチ (隙間)」があることが判ります。その範囲内で3方向からイモネジの締め付け具合で固定位置を調整していきます。ズレが生じていた場合は、最悪「光軸ズレ」にも至りますが、ほとんどの場合で「色滲み」が発生するのでチェックですぐに判ります。いくらMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの設計思想を受け継ぐとは言っても、負の遺産を引き継いでしまったと言わざるを得ません。時々描写性能が低下した個体に出くわすのは、たいていの場合、これが原因です。当方は個人なので光軸を検査する機械設備がありませんが、簡易版の検査具を使っているので光軸ズレや絞り値との整合性は確認済です。

↑マウント部を組み付けて、この後は光学系前群を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすればいよいよ完成です。なお、マウント面に電気接点端子を装備していますが、絞り環に附随するパーツが一つ無いので機能していないと思います (絞り値を伝達する銅板パーツが折れて欠落しています)。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場では底値で流通していますが、当方の評価は高く、特にシャボン玉ボケの表出が可能なオールドレンズとなると貴重ではないかと考えています。シャボン玉ボケに興味関心が無い方には、何とも視界に入ってこないモデルかも知れませんが、さすがに今ドキのカメラボディ側フィルター処理でもシャボン玉ボケだけは表現できません・・まさしくオールドレンズの愉しみのひとつ (幻想的な写真の愉しみ方) ではないでしょうか。

↑光学系内の透明度はピカイチレベルであり、LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極微細な薄いクモリすら「皆無」です。残念ながら前玉側にカビ除去痕が数点残っていますが写真には一切影響しません。

↑上の写真 (6枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜3枚目までは極微細な点キズを撮っています。4枚目は前玉表面の極微細な短い拭きキズを撮りました (中央付近に1本あり)。5枚目〜6枚目は第2群コーティング層の経年劣化に伴う「コーティングムラ状」に見える部分をワザと光に反射させて誇張的に撮影しました。5枚目がコーティングムラ状に見えている部分 (中央上方の白っぽい部分) を撮っていますが、同じ位置を光に反射させずに撮ると (6枚目) ご覧のように無色透明です (つまり曇っているワケではありません)。もちろん、生産時にはコーティング層にムラなどは生じるワケが無いのですが、経年の使用に於いて劣化が進み、或いはカビの発生などによってコーティング層が影響を受けることが考えられます。

時々、拭きムラが残っていると言うクレームで返品してくる人が居ますが、当方での光学系内清掃工程は必ず「3回」実施しています・・1回目:カビ除去、2回目:汚れ除去:3回目:油分除去/仕上げです。さらに、最終的に前玉 (或いは光学系後群の場合には後玉) を固定した段階で「必ず光に反射させてコーティング層の拭き残し/劣化状況」をチェックしています。従って、拭き残しが存在することは、とても希ですがコーティング層の劣化自体は清掃などでは改善させることが一切できません・・一旦硝子研磨してからコーティング層の再蒸着をしない限りキレイになりません。

以前に、出品用に調達したオールドレンズを修理専門会社様に依頼して、光学系内の硝子研磨を行い (キズの除去) とコーティング層を再蒸着してもらったことがあります。確かにキズはキレイに消えてしまい、それこそまるで新品のようになって戻ってきたのですが、コーティング層に関しては当時と同じコーティング層を蒸着することは当然できません (資料が残っているか否か、或いは残っていても同じ成分を使って蒸着できるか否か)。さすがにコーティング層だけは弱い蒸着しかできなかったようで、塵やホコリが少々酷かったので清掃したところアッサリと再蒸着したコーティング層が消えてしまいました(笑)・・何のために依頼したのか(泣) 自ら招いたことなので諦めましたが、考えてみると当時の機械設備やコーティング層の成分、或いは蒸着回数とコーティング順序などが異なるので、生産時と同じ状態に戻ることは無いと納得できました。その意味では「無いよりはマシ」程度の心の健康のためと言う結論に至りましたが、生産されてから数十年を経たコーティング層の経年劣化を・・どう捉えるか・・ですね。

↑今回の個体は光学系後群のほうが状態がさらに良いです (前群の状態も良いのですが、さらに良いと言う意味)。

↑上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。撮るべき極微細な点キズが微細すぎて写りませんでした・・。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:14点、目立つ点キズ:9点
後群内:8点、目立つ点キズ:4点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズ有り)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・汚れ/クモリ (LED光照射/カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度は非常に高い個体です
・光学系内にはコーティング層を反射させると拭き残しのように見える箇所が一部ありますが、清掃でも除去できなかったコーティング層の経年劣化に伴う非常に薄いムラですのでクレーム対象としません。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑フッ素加工がされている6枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環操作も含め確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな状態をキープした個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装にも施したので、とても落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環の各指標値とクリック感の関係は開放側と最小絞り値側で確実に一致していますが、その間のクリック感位置は指標値刻印の中心にはなっていません。これは内部でに整機能を装備していないので改善しようがありません (クレーム対象としません)。
・距離環を回す際に一部領域でヘリコイドが擦れる感触がありますが将来的に問題になることはありません。
・電気接点端子がマウント面にありますが内部のパーツが一部無いので機能しません。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズに共通する特異なボケ、特に「シャボン玉ボケ」と共に骨太なエッジを伴う印象的な画造りが対極的で、これはこれでMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズとはひと味も二味も異なる、ある意味正統進化形の結果と捉えることができる写りで大変魅力的なモデルです・・もっと評価してあげたいと考えています。市場価格が底値状態なので(笑)、正直、オーバーホールしても工賃を回収できないギリギリの線なのですが、そうは言っても整備済で出回っていることはほとんど無いので、お探しの方に是非ともお渡ししたいですね・・是非是非ご活用頂き再評価してほしいと祈りを込めて!

↑当レンズによる最短撮影距離33cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。実測値では被写体 (手前側ヘッドライト) からフィルター枠直前までが僅か「23cm」でしたから諸元値 (33cm) どおりと言うことになります。

↑絞り環を回して設定絞り値F値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f4」で撮りました。

↑F値は「f5.6」になっています。

↑F値「f8」で撮っています。

↑F値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。