◎ EASTMAN KODAK (イーストマン・コダック) EKTRA EKTAR 35mm/f3.3(ektar)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

実は、今回のモデルもとても楽しみにしていたモデルのひとつです。大変貴重な『EKTRA EKTAR 35mm/f3.3 (EK)』のオーバーホール/修理ご依頼を賜りました。当方では初めての整備になりますが、この場を借りてご依頼者様にお礼申し上げます。このような機会を与えて頂き本当に感謝しています。

1941年1月にアメリカはニューヨーク州ロチェスターに本拠地を置くEASTMAN KODAK (イーストマン・コダック) 社より発売された、レンジファインダー (フィルム) カメラ「EKTRA (エクトラ)」用の交換レンズ群の中のひとつです。マウントがEKTRAマウントなのでデジカメ一眼やミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着したいと考えると、現状三晃精機さんのマウントアダプタしか手に入りません。三晃精機さんのEKTRA用マウントアダプタも幾つかバージョンがあるのですが、今回のオーバーホールに際しご依頼者様からお借りしたマウントアダプタは大変完成度が高い製品でした・・EKTRA→LM変換のマウントアダプタになります。

光学系は3群5枚のヘリアー型です。今回、完全解体のためにバラそうとしたのですが、光学系の径が大変小さく当方にある専用工具では対応できない大きさでした。従って、光学系は前後群のみ解体しているので (個別のガラスレンズを確認していないので) 右図は一般的なテッサー型構成図を持ってきました。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。光学系の他、絞りユニット部分も同様に径が小さいために専用工具が入らず解体できませんでした・・しかし、絞り羽根は良い状態を維持していたので油染みも生じていません。

↑解体できなかった絞りユニット (鏡筒) を撮影していますが、上の写真は後玉側から撮ったものです。前玉より後玉のほうが光学硝子レンズの径が極僅かですが大きくなっているようです (従って冒頭の構成図は一般的なタイプなので異なります)。

↑鏡筒を立てて撮影しましたが、既に絞り環を組み付けてあります。だいぶ長い (深い) 絞り環ですが光学系が小型なので絞り環自体も小さいサイズです。上の写真の解説のとおり、絞り環の中腹には「絞りキー」と言うネジがネジ込まれて、中の絞りユニットに刺さっています・・従って、絞り環を回すことで絞り羽根が開いたり閉じたりする仕組みです。ところが、この「絞りキー」かせネジ込まれる位置の調整ができないので後々、問題が出てきます (後ほど解説しています)。

↑やはり、後玉側から撮影していますが光学系前後群を組み付けた状態で撮っています。このモデルは鏡胴が「本体」と「鏡筒」との二分割になっており、鏡筒がスッポリと取り出せる構造になっています。従って、この鏡筒を取り出して改造レンズを作って販売していらっしゃる会社さんもあるようですね。当方は、基本的にオリジナルの状態を故意にイジって改造レンズにしてしまうことに違和感を感じているので、改造レンズを作ってヤフオク! に出品する気持ちは全くありませんが、ジャンク品のオールドレンズを改造レンズとして再び蘇らせて有効活用するのは意義があると考えてはいます。

鏡筒周りは、これで完成したので、この後は本体の組み立てに移ります。

↑EKTRA EKTARのシリーズはすべてのモデルで同一ですが、カメラボディ側に装着する際にネジ込む「マウント固定環」と「空転ヘリコイド」との構成になっています。上の写真グリーンの矢印の順番で組み上げていきます。

ご依頼のひとつに「ヘリコイドが重い」とありましたが、その原因の一因がこの基台と空転ヘリコイドとの関係です。今回バラしたところ、この個体は生産されてから一度もメンテナンスされていないことが判明しました・・塗布されていた古いグリースは純正のグリースで「淡い緑色」でした。古いグリースを除去して新しいグリースに入れ替えただけでは、この部位は滑らかには動いてくれません・・理由は、この部位の構成パーツが真鍮製だからです。従って、当方では必ず「磨き研磨」を施して新しいグリースを塗布しています。

距離環やマウント部を組み付けるための基台に対して空転ヘリコイドがセットされますが「空転」と言うくらいですから大変滑らかに回ってくれなければこの後にネジ込まれるヘリコイド (オスメス) のトルクに大きく影響してしまいます。EKTRA EKTARのシリーズは、どのモデルでも必ず、この「空転ヘリコイド」を滑らかにしなければ最終的な距離環を回すトルクは軽くなりません。空転ヘリコイドの裏側には必ずカメラボディ側と咬みあうためのギアが用意されているので (そのために空転する必要があります)、構造上ヘリコイド (オスメス) とも連係していく設計になっています。

従って、EKTRA EKTARシリーズのメンテナンスに於いては、この空転ヘリコイド部分の仕上がりが最終的な距離環のトルクを決定していく重要な部位になります。今までに何本もEKTRA EKTARシリーズをバラしましたが、大抵の場合過去にメンテナンスされている個体はヘリコイド (オスメス) 側ばかりにグリースが塗られており (下手すれば潤滑油が注入されてしまう)、こちらの「空転ヘリコイド」側は意外にも放置されており生産時のグリースのままだったりします。すべては「観察と考察」によって、いったい何のために用意されているのかをシッカリと考えながらメンテナンスしていくことが肝要です。

↑組み上がった基台部分に指標値環 (ヘリコイド:メス側) をセットします。指標値環自体はアルミ材削り出しパーツなのですが、指標値環 (ヘリコイド:メス側) を固定する「締め付けネジ (固定ネジ)」が入る受け側は真鍮製ですから、ほんの僅かでも位置がズレていると固定ネジが入りません (基台側にネジが入る穴が用意されているため)。ところが、この指標値環 (ヘリコイド:メス側) をネジ込んでいっても何処でその固定ネジが入るのかが (受け側のネジ穴が小さいために) 全く見えませんから感覚だけで作業していくことになり毎回難儀します(笑) EKTRA EKTARシリーズは、どのモデルでも内部の構成パーツは大変造りが良く精度も高いのですが、細かい位置合わせなどが逆に大雑把で国民性の違いなのでしょうか・・(笑) 生産した後のメンテナンスのことまで考えられていないように感じます。しかし、またそこが「アメリカっぽい」と言う印象に繋がっているワケで・・オールドレンズは不思議です。

↑こちらの写真は真鍮製のシッカリした造りのヘリコイド (オス側) です。1本溝が用意されていて「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ (四角いナット) がスライドするガイドになっています。距離環を回すと直進キーのよってチカラが変換されて鏡筒が繰り出されたり収納したりするワケですね。

EKTRA EKTARシリーズで問題になるのが、このヘリコイド (オスメス) です。ネジ山の溝が大変深いので相当な抵抗が発生します・・それを滑らかにしているのが純正グリースなので、ロシアンレンズ同様純正グリースを使う前提での設計と考えて整備に臨んだほうが良いですね。当然ながら純正グリースなどはありませんから「磨き研磨」により滑らかに駆動するよう改善していきます。

↑指標値環 (ヘリコイド:メス側) にヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で8箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。無限遠位置のアタリ付けが終わったら直進キー (四角いナット) をセットします。

↑ようやく距離環を組み付けられます。この後は完成している鏡筒をネジ込んでいき、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行えば完成です。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑「MADE IN U.S.A. BY EASTMAN KODAK CO. ROCHETER N.Y.」が何とも誇らしげです。今回の個体は1946年生産であることが判明していますから、戦後間もない貴重な個体です。

↑光学系内の状態が大変良いので透明度もピカイチです。光学系後群内に1箇所だけカビ除去痕があるだけでLED光照射でも薄いクモリすらありません・・素晴らしいです。

↑広角レンズながら3群4枚のテッサー型を採ってきたところも素晴らしいですね・・その描写性はインパクがある驚異的な描写性です。上の写真はお借りした三晃精機さんのLMマウントアダプタを装着しています。

↑絞りユニットが解体できませんでしたが絞り羽根には油染みも生じておらず大変良かったです。8枚の絞り羽根も確実に駆動しています。

前述の絞り環の中腹に位置している「絞りキー」のネジが問題になっているのですが、絞り環自体はとても深い長さがあるにも拘わらず、距離環から突出している絞り環の部分はとても少なく (浅く)、正直絞り環操作が大変やり辛い状態です。「絞りキー」の位置調整ができれば、もっと絞り環を飛び出させて摘み易くできるのですが「絞りキー」の取り付け位置が決まっているので、どうにもなりません。少しは調整ができるかも知れないと考えて3回ほどバラし直したのですが、いずれも同じ結果です。従って、絞り環操作は3本の指の爪で摘んで回すような操作性ですから、とてもやりにくいです (絞り環の突出量が浅いので大変重い操作性に感じるため)。

例えば、この絞り環に「被せ式のフード」などを装着してしまえば、絞り環自体は大変スルスルと軽く動くようにしてあるので楽に絞り環操作ができるようになります。おそらく純正の専用被せ式フードがあるのだと思いますが、なかなか入手できないと思います・・絞り環の外径⌀27.5mm/内径⌀25.5mmなので、具体的には「⌀28mm径の被せ式フード」があれば何でも良いと思います。もしも発見されたら是非入手下さいませ。絞り環の操作性が格段に上がります・・このブログページ最後の実写では、当方にあるゴム環を絞り環に被せて各絞り値で楽々と撮影しています。

ここからは鏡胴の写真になります。元々大変キレイな状態を維持していた個体ですが、当方による「磨き」をいれ、且つ「光沢研磨」も施したので当時の美しい輝きが復活していると思います。

↑塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」を塗っています。距離環を回すトルクは、それはそれは大変滑らかになりトルク感も程良いシットリ感が伴う操作性に仕上がっていると思います・・まさしく「磨き研磨」の効能ですね(笑) なお、ご指示がありました「近接撮影用ツマミの無効化」も処置しています。改造/改修を施したのではなく、いつでもオリジナルの状態に戻せるよう配慮した処置を施していますから、距離環は最短撮影距離30cm〜∞まで停止することなく滑らかに回すことができます。

↑また、マウントの固定環も滑らかにネジ込めるよう「磨き研磨」を施してあるので当初よりは (僅かですが) 軽くなっていると思います。従って、問題なのは絞り環の操作性だけですから是非とも被せ式フードをご用意下さいませ。それさえあれば文句の付けようがない逸品となります (⌀28mm径の被せ式フードで僅かに被せ部分を曲げて⌀27.5mm径に合わせて下さい)。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してF値「f5.6」による撮影です。

↑F値は「f8」になりました。

↑F値「f11」になります。

↑F値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

↑基本的に当方はマウントアダプタの整備はしておりませんが、ご要望があったので今回は特別に作業しました。ヘリコイドを装備したマウントアダプタなのですがヘリコイドを回すと軽すぎるために重いトルク感に仕上げるため一旦バラしました。そうは言っても大変シンプルなヘリコイドのネジ山なので (ネジ山の距離が浅いので) ヘリコイド・グリースを「粘性:重め」にて塗布しましたが、当初よりは重くなったかなと言う程度であり、完璧に重いトルク感にはなっていません。これ以上重くはできませんので、申し訳御座いません。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。