◎ A.Schacht Ulm Donau (シャハト) Travegar 100mm/f3.3 R [zebra](M42)

Schacht-Logo今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ。この掲載はご依頼者様へのご案内も兼ねています。

当時、戦後の旧東西ドイツは国をキレイな2分割した国境ラインで引いておらず、一部には東西ドイツが入り乱れていた地域がありました。そのため、Schachtは創業当時こそ旧東ドイツの地域 (München) でしたが、すぐに移転したために旧西ドイツの光学メーカーになります。特に有名処では「ベルリン (Berlin)」がありますが、敗戦時の戦勝国「アメリカ・イギリス・フランス」と「旧ソ連」によって国が分割されると同時に「ベルリン」に関しても分割統治に拘ったために、旧東ドイツの中にポツンと位置していた旧西ドイツ側の統括地域を「壁」で囲って包囲したのが「ベルリンの壁」です。従って国境地域でも同様に東西ドイツが入り乱れて隣接していた場所があったようです。

今回のご依頼「A.Schacht Ulm Travegar 100mm/f3.3 R (zebra)」は中望遠のモデルで、当初は「光学系のみの清掃」を承りました。しかし途中からご指示が代わり、新たに完全なオーバーホールに変更になったため、二度バラすハメになりました(笑) このモデルの当方での扱いは、今回が初めてになります。


ここからの掲載は最初のご依頼内容であった「光学系のみの清掃」で作業を実施した際の写真です。

TR1033(0115)11当初のお預かり時点での光学系前群の前玉方向から拡大撮影した写真です。順光目視では上の写真のように微細な点キズが見受けられる程度ですが、光に翳すと光学系内は相当に汚れた状態でした。

TR1033(0115)12

TR1033(0115)13

TR1033(0115)14上の写真 (3枚) はライトボックスにレンズを置いた状態で撮影しています。1枚目は前玉の状態を撮影しています。順光目視での状態とそれほど変わりはないのですが、このままの位置でピントを光学系内部に移動すると2枚目の写真になります。第2群の全面に渡って微細なプツプツとした点が無数にあります。さらにその部分を拡大撮影したのが3枚目です。

TR1033(0115)15当初は光学系のみの清掃だったので、このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するモデルですから「前部」を外し光学レンズだけを取り出した写真です。

TR1033(0115)16絞り羽根の端部分に「筋」が見えますが、軽く拭いてみても除去できず、昔の油染みによる「痕」のようです (現状油染みにはなっていません)。

TR1033(0115)17

TR1033(0115)18上の写真 (2枚) は光学系前群を清掃した後の写真です。1枚目は前玉側を撮っており、2枚目は第2群の周辺部にあるコーティングの劣化に拠るキズを拡大撮影しています。

TR1033(0115)19こちらは後群 (後玉) です。極微細な点キズはありますがカビも無くキレイな状態です。


ここで新たなご指示が来てしまったので、再度バラしての完全なオーバーホール作業に移行しています。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

TR1033(0115)21ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。既に光学系は清掃が終わっているので、上の写真には含んでいません。

TR1033(0115)22絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。既に当方による「磨き研磨」が終わっています。

TR1033(0115)2316枚もある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させました。当初より油染みなどありませんでしたが、過去の油染みの「痕 (短い筋)」だけは清掃しても除去できていません。

TR1033(0115)24この状態で鏡筒を立てて撮影しました。ここからプリセット絞り機構部や絞り環の組み付けに入ります。

TR1033(0115)25まずは絞り羽根の開閉幅を制御する「制御環」をセットします。当初バラす前の段階で、ガタつきも多いのですが絞り環操作に僅かな負荷が掛かっている印象を受けました。そのため「磨き研磨」を念入りに実施した次第です。

TR1033(0115)26プリセット絞り機構部を先にセットします。「」刻印の位置はマウント部の基準「Ι」マーカーと一致しています。

TR1033(0115)27絞り環をセットします。絞り環操作には「クリック感」があるのですが、ぎこちない感じの印象だったのですが滑らかに、且つ確実な操作性に改善されています。当初からあった「ガタつき」は、残念ながらこのモデルのパーツ仕様のようで、改善ができませんでした。但し、ガタつきの程度は僅かに減っていると思います・・。

TR1033(0115)28光学系前後群を組み付けます。

TR1033(0115)30光学系後群はこんな感じです。光学系は3群3枚の典型的なトリプレット型ですから、非常に簡素な構成です。しかし、トリプレット型の描写性能は諸収差はともかくとしても鋭いピント面を構成しますから、硝子レンズの枚数が少ないからと言って侮れません。

TR1033(0115)29これで鏡胴「前部」が完成しました。この後は鏡胴「後部」の作業に移ります。

ちなみに、ネットの解説などを見ると、この鏡胴「前部」だけを取り外して (反時計回りの方向に強く回すと外れる) ベローズに装着してマクロ撮影も愉しめるとのこと。

TR1033(0115)31指標値環なのですが、ヘリコイド (メス側) が切ってあると同時にマウント部が組み付く基台の役目も担っています。

TR1033(0115)32ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があり、さらに「無限遠位置調整機能」も装備していませんからキッチリとアタリをつけないと最後にまたバラすハメに陥ります。

既にヘリコイドのネジ山は当方にて「磨き研磨」を処置しています。この個体も過去のメンテナンス痕跡がありますが、それは日本国内ではなく海外でのメンテナンスだったことが判明しています (マーキングの仕方で判ります)。むろんヘリコイド・グリースも白色系グリースではないので、ヘリコイドのネジ山の摩耗も進んでいません。当方の磨き研磨も最低限に留めています。

TR1033(0115)33こちらはマウント部になります。このモデルは他にも「exakta」マウントのモデルがありますから、マウント部だけを替えられる仕様で生産されています。

TR1033(0115)34距離環の駆動範囲を決める「制限キー」の役目を担う「筒」をセットします。制限キーの左右の位置で、それぞれ「無限遠位置」と「最短撮影距離の位置」を決定しています。距離環の出っ張りがこのキーの左右に当たることで駆動が停止する仕組みですね・・。

TR1033(0115)35マウント部を基台にセットします。当然ながら、指標値の位置が真上に来るように適合させています。

TR1033(0115)36距離環をセットしました。距離環自体は「イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 」で固定されているので、無限遠位置を変えようと思えば変えられないことはありません。しかし、ヘリコイド (オス側) の繰り出し量は調整できませんから、ピタリと距離環の位置と合致するとは限りません。従って「無限遠位置調整機能」が無いと言うことになります。

修理広告 代行広告 予約広告

 

ここからはオーバーホール作業が完了したオーバーホールの写真になります。

TR1033(0115)1日本国内では滅多に出回らず、海外オークションでもそれほど多いモデルではありません。焦点距離「135mm」や広角側の「35mm」あたりならば出回っているようですが、この「100mm」は貴重です。

TR1033(0115)2第2群 (中玉) の全面に渡るブツブツした汚れ状のモノは、キレイに除去できましたが、前玉と後玉のコーティング劣化に伴う汚れやムラ、或いはコーティングのハガレなどは改善が当方ではできません。ガラス研磨設備やコーティングの再蒸着設備のあるプロのカメラ店様や修理専門会社様にご依頼されるのが良いかと思います。現状、順光目視の状態では大変クリアな状態になりました。

TR1033(0115)3絞り環操作もプリセット絞り環の操作も、共に小気味良く駆動できるようになっています。但し、僅かにある「ガタつき」だけは改善のしようがありませんので (ガタつきが生じないよう締め付けると絞り環が回らなくなる) ご容赦下さいませ・・スミマセン。

ここからは鏡胴の写真になります。お許しを頂いたので「外装面」の「光沢研磨」を施しました。

TR1033(0115)4

TR1033(0115)5

TR1033(0115)6

TR1033(0115)7ゼブラ柄のアルミ材削り出し部分も研磨により艶めかしい光沢を放っています。鏡胴のブラック部分は、本来光沢塗装されているのだとばかり思っていましたが、磨いてみてもそれほど光沢感は増しませんでした。しかし、経年の汚れはキレイに除去できたと思います。

ヘリコイドに塗布したグリースは「粘性:重め」を塗っていますが、ヘリコイドのネジ山の状態が良かったのでとても滑らかで均一なトルク感を維持しています。当初の距離環駆動のトルク感よりは、僅かに「軽く」なっています。

TR1033(0115)8マウントが「M42」ですから、本当に貴重な個体なのではないでしょうか・・素晴らしいオールドレンズです。

TR1033(0115)9オーバーホール作業も可能な限り「オリジナルの状態」を残していますので、当方で勝手に処置した部分は御座いません。その他特にご報告することも御座いません。

TR1033(0115)10当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。なお、無限遠位置は当初の実写確認でも適合していたので、その位置で組み立てています (当方で位置を変更などはしていません)。その他、なるべく「オリジナルの状態」を残すよう注意しながら作業しています。